特許第5959468号(P5959468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959468
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】インクジェット記録用紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20160719BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20160719BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20160719BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20160719BHJP
   D21H 19/58 20060101ALI20160719BHJP
   D21H 21/16 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   B41M5/00 B
   D21H27/00 Z
   D21H19/58
   D21H21/16
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-83207(P2013-83207)
(22)【出願日】2013年4月11日
(65)【公開番号】特開2014-205269(P2014-205269A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越紀州製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】恩田 有里子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 喜仁
(72)【発明者】
【氏名】目黒 章久
(72)【発明者】
【氏名】西浦 雅志
(72)【発明者】
【氏名】太田 好彦
(72)【発明者】
【氏名】沓名 稔
【審査官】 宮澤 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−277701(JP,A)
【文献】 特開2007−076213(JP,A)
【文献】 国際公開第03/039881(WO,A1)
【文献】 特開平06−305237(JP,A)
【文献】 特開平08−025800(JP,A)
【文献】 特開2001−071635(JP,A)
【文献】 特開2002−240424(JP,A)
【文献】 特開2003−108007(JP,A)
【文献】 特開2004−276519(JP,A)
【文献】 特開2005−280341(JP,A)
【文献】 特開2010−226188(JP,A)
【文献】 特開2010−228304(JP,A)
【文献】 特開2010−234677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41M 5/50
B41M 5/52
D21H 19/58
D21H 21/16
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の少なくとも片面に、顔料とスチレンブタジエンラテックスを主成分とするインク受容層を設け乾燥させた後に直接カレンダー処理することを含み、該インク受容層に水溶性離型剤を含有し、
前記顔料としてシリカ、アルミナ、およびベーマイトが使用されないことを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項2】
基紙の少なくとも片面に、顔料とスチレンブタジエンラテックスを主成分とするインク受容層を設け乾燥させた後に直接カレンダー処理することを含み、該インク受容層に水溶性離型剤を含有し、
前記顔料としてカオリン、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アクリル、スチレン、エチレン、塩化ビニル、ナイロンから少なくとも一種以上選ばれることを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項3】
前記顔料として炭酸カルシウム、カオリン、タルクから少なくとも一種以上選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性離型剤が水溶性の高級脂肪酸塩またはその誘導体を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項5】
前記インク受容層に、更に水分散性の離型剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用紙に関する。更に詳しくは、一般的な印刷用塗工紙と同様の風合いを有したインクジェット記録用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの液滴を微細なノズルから記録紙上に吐出し、付着させることによってドットを形成して記録を行う方式である。近年、インクジェットプリンター、インク、更に記録媒体等の技術的進歩によって、記録の高速化、音の軽減化、印字品質の高い画像の形成が容易となってきており、多方面で使われている。特に、商業印刷等の分野においては、デジタル情報を製版することなく高速に印刷し、小ロット多品種、可変情報印刷を扱うことが可能なため、オンデマンド印刷において導入されつつある。最近では、装置の高速化や高精細化に著しい進歩が見られることによる用途の拡大に伴い、一般的な印刷用塗工紙(例えばオフセット印刷用紙)と同様の風合いを有する塗工紙にもインクジェット適性を付与する要望が強くなってきている。
【0003】
しかし、一般的な印刷用塗工紙をインクジェット印刷方式で印刷する場合、特に、銀塩写真と同様の解像度と再現性を求められる場合など、一般的な印刷用塗工紙はインクジェット用インクに対する吸収性や乾燥性が著しく劣るため、印字画質が不良となるといった問題がある。
【0004】
上記理由として、一般用塗工紙の製造工程では光沢感や平滑性を付与するためカレンダー処理を行なうが、カレンダー処理ではロール汚れ(ダスティング)が発生しやすく、ダスティングの抑制ために塗工層に離型剤を使用することが挙げられる。一般的に使用される離型剤は撥水性を有するため、離型剤の撥水作用によってインクジェット用インクの吸収性が低下し、しいてはインクの乾燥性が劣り、印字画質の低下に繋がる。
【0005】
一方、従来のインクジェット記録用紙のインク受容層においては、アルミナ、シリカ、ベーマイト等の顔料を主成分とし、塗工層の細孔容積を大きくしたものを用いることによってインク吸収性を付与し、印字画質を高めることでインク吸収性の問題を解消してきた。しかし、これらのインクジェット記録用紙は、風合いが一般的な印刷塗工用紙に比べ劣り、さらにアルミナ、シリカ等は高価であることから、オンデマンド印刷のような商業用印刷分野には適さない。
【0006】
従来のインクジェット記録用紙においては、インク吸水性の向上を図るために、インクジェット記録用紙の塗工層に、特定の範囲の吸油量を有する炭酸カルシウムを使用する印刷用紙(例えば、特許文献1を参照)や、特定の範囲の粒子径を有するカオリンクレーを使用する印刷用紙(例えば、特許文献2を参照)等が開示されているが、いずれもインク吸収性が不十分で、良好な印字画質が得られていない。すなわち、これらの技術は一般的な印刷用塗工紙と同様の風合いをインクジェット記録用紙に持たせることを目的としたものであるが、一方ではインク吸水性・インク乾燥性が劣ってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−238612
【特許文献2】特開2004−082464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、一般的な印刷用塗工紙と同様の風合いを有し、インク吸収性の優れたインクジェット記録用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、一般的な印刷用塗工紙と同様の風合いを有するインクジェット記録用紙においてそのインク吸水性・インク乾燥性が劣る原因として、製造工程中におけるカレンダー処理のダスティングを抑制するために使用する離型剤に問題があることを見出した。また、本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、顔料とスチレンブタジエンラテックスを主成分としたインク受容層に水溶性離型剤を含有させることで上記課題を解決することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、一般的な印刷用塗工紙と同様の風合いを有し、インク吸収性に優れたインクジェット記録用紙を提供することができる。さらに、本発明では従来の一般用塗工紙と同様の製造効率で安価なインクジェット記録用紙を提供することが可能なため、本発明の用紙は、特にオンデマンド印刷など商業的印刷分野で使用されるインクジェット記録用紙として最適である。
【0011】
即ち、本発明に係るインクジェット記録用紙は、基紙の少なくとも片面に、顔料とスチレンブダジエンラテックスを主成分としたインク受容層が設けられており、かつ、該インク受容層に水溶性離型剤を含有する。このような構成とすることで、カレンダー処理におけるダスティング防止効果に優れており、さらに吸収性の優れたインクジェット記録用紙を得ることができる。
【0012】
また、本発明に係るインクジェット記録用紙においては、前記水溶性離型剤が高級脂肪
酸塩を含有することが好ましい。より優れたダスティング効果とインク吸収性を維持する
ことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0014】
<支持体>
本発明に係るインクジェット記録用紙の基紙を構成する原料パルプとしては、化学パルプとして、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)やNBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)、機械パルプとしてGP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナリーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)、木材パルプとして、DIP(脱インキパルプ)など、さらに非木材パルプとしてケナフ、バガス、竹、コットンなどがある。これらは単独、または任意の割合で混用することができる。また、本発明の目的と効果を損なわない範囲において、合成繊維を更に配合することができる。環境負荷の少ないECF(Elemental Chlorine Free)パルプ又はTCF(Totally Chlorine Free)パルプ等の塩素フリーパルプの使用が望ましい。
【0015】
また、本発明に係る基紙を構成するパルプは、インクジェット記録用紙として適切な叩解度を有する紙料とすることが好ましい。適切な叩解度としては、例えば、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、350〜650mlCSFである。
【0016】
本発明に関わる基紙に使用する填料としては、例えば重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、合成シリカ、アルミナ、タルク、焼成カオリンクレー、カオリンクレー、ベントナイト、ゼオライト、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の公知の填料を使用することが可能である。紙中の填料含有量は、パルプの乾燥質量100質量部に対して、2〜20質量部であることが好ましい。より好ましくは、4〜15質量部である。2部以下の場合、不透明度及び白色度が低下し、効果が得られない。20質量部を超えた場合、紙の強度が低下し、印刷や加工時における負荷に耐えられず、使用することが困難である。
【0017】
紙料中には、前記パルプ、填料以外にも内添サイズ剤、湿潤紙力増強剤などの内添紙力増強剤、硫酸バンド、歩留まり向上剤、ピッチコントロール剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料などの各種抄紙用薬品を適宜用いることができる。各紙料の調製方法、配合、各抄紙薬品の添加方法については、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されない。
【0018】
本発明に係る基紙を抄紙する方法は、特に限定されるものではなく、前記紙料を用いて円網抄紙機、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの公知の抄紙機を適用して抄造することが可能である。
【0019】
上記抄紙方法で得られた基紙には、インク受容層用塗工液の基紙への過度の浸透を抑えるために表面サイズ液を塗布することが可能である。表面サイズ液としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、澱粉などの公知の水溶性高分子などがある。
【0020】
本発明に係る体基紙の坪量は、特に限定されるものではないが、通常30〜300g/mである。
【0021】
<インク受容層>
本発明に係るインクジェット記録用紙は、インク吸収性を満足させる観点から、上記方法で得られた紙支持体の片面または両面に少なくとも1層以上のインク受容層を設けることが好ましい。インク受容層は、顔料とバインダーとを主成分とする。
【0022】
インク受容層に用いる顔料としては、一般的な印刷用紙に使用される公知の顔料を1種以上含むものであり、例えば、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の有機高分子微粒子、又はアクリル、スチレン、エチレン、塩化ビニル、ナイロンなどの有機顔料が挙げられる。中でも、炭酸カルシウム、カオリン、タルクから選ばれる少なくとも1種を使用すると、一般的な印刷用塗工紙と同様の風合いをより得られるので好ましい。また、本発明においては、高価なアルミナ、シリカ、ベーマイト等の顔料は使用しないことが好ましい。
【0023】
インク受容層に用いるバインダーとしては、塗工層強度を一般的な印刷用紙と同様のものとするために、スチレンブタジエンラテックスを使用することが必要である。スチレンブタジエンラテックスは安価なため、製造コストの観点からも好ましい。さらに、目的に応じて、例えばポリビニルアルコール(シラノール変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールなども含む)、ポリビニルアセタール、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、大豆タンパク、ポリエチレンイミド系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリアクリル酸又はその共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリルアミド系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、尿素樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス類、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス類などの一般的な印刷用紙に使用される公知のバインダーを併用して用いることができる。特に、インク受容層の塗工層強度及び製造コストの観点から、一般的な印刷用塗工紙で用いられるスチレンブタジエンラテックスと澱粉との併用が好ましい。
【0024】
インク受容層に配合するバインダーの配合量は、記録媒体の印字適性、インク受容層の強度、塗料液性を考慮して決定される。通常、顔料100質量部に対し3〜60質量部の範囲で添加すればよい。好ましくは、5〜50質量部程度の範囲で添加する。3質量部未満であると、塗工層強度が低下する場合がある。60質量部を超えると、インク吸収性が低下する場合がある。また、インク受容層に配合するスチレンブタジエンラテックスの配合量は、顔料100質量部に対し3〜30質量部が好ましい。3質量部未満では塗工層強度が低下する場合があり、30質量部を超えるとインク吸収性が低下する場合がある。
【0025】
さらに本発明においては、一般的な印刷用塗工紙と同様の風合いを得るために、基紙にインク受容層を設けた後にスーパーカレンダー、マシンカレンダー、ソフトカレンダーなど公知のカレンダー装置によりカレンダー処理することによって、光沢を付与する必要がある。
【0026】
しかし、カレンダー処理装置のロール表面は比較的汚れやすく、カレンダー装置におけるロールの加温温度などのカレンダー処理条件によっては、インク受容層によるロール汚れ(ダスティング)が発生しやすくなる。ロール汚れが発生すると、光沢を付与することが困難となり、一般的な印刷用塗工紙と同様の風合いが得られない。さらに、インク受容層の表面においても欠点が発生するため、インク吸水性が低下し、優れた印字画像が得られない。
【0027】
カレンダー装置のロール汚れは、インク受容層中に離型剤を含有させることで防ぐことが可能である。公知の離型剤の種類として、高級脂肪酸エステルや高級脂肪酸アミド等の高級脂肪酸塩の誘導体系、金属石鹸系、炭化水素系がある。炭化水素系では、ポリエチレンエマルジョン、流動パラフィン、パラフィンワックス等が挙げられる。また、金属石鹸の中でも、代表的なステアリン酸塩は、優れた汚れ防止効果を有し、かつ安価であるため、ステアリン酸カルシウムの水分散物、ステアリン酸アンモニウムの水分散物は、広く使用される。
【0028】
しかし、前述した一般的な離型剤は、水に不溶で撥水性を有するため、水溶性の離型剤よりもインク吸収性に劣る。従って、カレンダー装置のロール汚れを防止すると共に、インク吸収性付与のために、本発明においては、少なくとも1種以上の水溶性離型剤をインク受容層に含有させる必要がある。水溶性であれば離型剤の種類は問わない。インク受容層における水溶性離型剤の含有量は、顔料100質量部に対して、例えば0.003〜6.0質量部であり、0.005〜5.0質量部、さらに0.01〜5.0質量部であることが好ましい。0.01質量部未満の場合はカレンダー装置のロールにダスティングが生じる恐れがあり、5.0質量部を超える場合は白紙光沢度が低下する恐れがある。
【0029】
本発明で使用する水溶性離型剤としては、水溶性の高級脂肪酸塩またはその誘導体を含有することが好ましい。水溶性の高級脂肪酸塩またはその塩誘導体は、離型効果に優れているため、少量の添加でロール汚れを防ぐことができ、白紙光沢度の維持、コストダウンという観点からも好ましい。特に、高級脂肪酸塩がナトリウム塩、カリウム塩の場合、水に溶けやすい性状となるため、より好ましい。具体的な水溶性の高級脂肪酸塩としては、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム等が挙げられる。また、具体的な高級脂肪酸塩の誘導体としては、ヒマシ油硫酸化油ナトリウム塩が挙げられる。インク受容層における高級脂肪酸塩またはその誘導体の含有量は、顔料100質量部に対して、例えば0.003〜6.0質量部であり、0.005〜5.0質量部であることが好ましい。より好ましくは0.01〜3.0質量部であり、更に好ましくは0.5〜1.5質量部である。0.005質量部未満の場合はカレンダー装置のロールにダスティングが生じる恐れがあり、5.0質量部を超える場合は白紙光沢度が低下する恐れがある。
【0030】
また、本発明においては、水溶性離型剤と、水に不溶である水分散性の離型剤とを併用しても構わない。前述の通り、水に不溶である水分散性の離型剤は撥水性を有するため、インク吸水性を阻害するおそれがあるが、カレンダー装置のロール汚れの防止には水溶性離型剤よりも高い効果を発揮する。従って、所望するカレンダー装置のロール汚れの防止と、インク吸収性付与のバランスによって水溶性離型剤と水分散性離型剤とを併用してもよい。併用する場合、インク受容層における水に不溶である水分散性の離型剤の含有量は、顔量100質量部に対して、0.01〜3.0質量部であることが好ましい。より好ましくは0.05〜2.0質量部であり、更に好ましくは0.1〜1.5質量部であり、0.5〜1.0質量部である。また、水溶性離型剤と水分散性離型剤との配合比率は、特に限定するものではないが、水溶性離型剤:水分散性離型剤=10:1〜1:100であることが好ましい。水に不溶である水分散性の離型剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アンモニウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸カルシウム、リシノール酸亜鉛、オレイン酸カルシウム、オレイン酸バリウム、パルチミン酸カルシウムなどの水に不溶な高級脂肪酸塩を、分散乳化剤を用いて乳化し、水分散体としたものが挙げられる。スルホ化、エステル化等の誘導体化処理をしたものを用いても良い。これらは1種を単独で使用するか、又は2種以上を併用しても良い。これらの中でもステアリン酸カルシウムが効果、コスト面で好ましい。
【0031】
<塗工方式>
前記インク受容層を塗工する方式としては、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーターなどの公知の塗工機を用いる。塗工量は、特に限定されないが、固形分換算で基紙の片面あたり3〜40g/mとすることが好ましい。より好ましくは、5〜30g/mである。3g/m未満では、インク吸収性が劣る場合があり、40g/mを超えると、コストが上がるために不経済である。また、インク受容層を形成する塗工液を2回以上塗工して、インク受容層を2層以上で構成することも可能である。
【0032】
塗工後の乾燥方式としては、本発明においては特に限定されないが、熱風乾燥、赤外乾燥、ドラム乾燥などが挙げられる。
【0033】
インク受容層は、基紙の片面だけでなく、両面に設けてもよい。両面印刷用紙とすることができる。また、インク受容層の下層に1層以上の下塗り層を設けても良い。
【実施例】
【0034】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。
【0035】
(実施例1)
<基紙の作製>
カナディアンスタンダードフリーネス410mlcsfの広葉樹晒クラフトパルプ100部に対し、軽質炭酸カルシウム(TP―121、奥多摩工業社製)を15部、カチオン化澱粉0.3部、中性ロジンサイズ剤(CC167、星光PMC社製)0.05部となるように添加して紙料とした。この紙料を用いて、長網多筒式抄紙機で坪量90g/mの基紙を作製した。作製した基紙はゲートロールコーターによって、酸化澱粉水溶液を両面で乾燥塗布量3.0g/mとなるように塗布した。
【0036】
<インク受容層用塗工液の調製>
カオリン(ウルトラホワイト90、エンゲルハード社製)55部、重質炭酸カルシウム(カービラックス、イメリス社製)45部に分散剤(アロンT−50、東亜合成社製)0.1部を添加し、加水した後にコーレス分散機によって水分散し、顔料スラリーとした。この顔料スラリーに、バインダーとしてリン酸エステル化澱粉(MS4600、日本食品化工社製)3部、スチレンブラジエンラテックス(JSR0695、JSR社製)13部、蛍光増白剤(ケイコールBULC、日本曹達社製)0.2部、水溶性離型剤としてオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)1.5部を添加して加水し、固形濃度45%のインク受容層用塗工液を調製した。
【0037】
<インクジェット記録用紙の作製>
上記で得られたインク受容層用塗工液を基紙の両面に、ブレードコーターで片面あたり乾燥塗布量が10g/mとなるように塗工し、乾燥後にカレンダー処理を行ない、坪量110g/mのインクジェット記録用紙を作製した。
【0038】
(実施例2)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤を、オレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)1.5部から、オレイン酸ナトリウム(SS−40N、花王社製)1.5部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0039】
(実施例3)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤を、オレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)1.5部から、ミリスチン酸ナトリウム(昭和化学社製)1.5部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0040】
(実施例4)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤であるオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)の添加量を0.01部とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0041】
(実施例5)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤であるオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)の添加量を3.0部とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0042】
(実施例6)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤であるオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)の添加量を0.8部とし、更にステアリン酸カルシウムの水分散液(LB−131、東邦化学工業社製)を0.5部添加した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0043】
(実施例7)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤であるオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)の添加量を0.005部とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0044】
(実施例8)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤であるオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)の添加量を5.0部とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0045】
(実施例9)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤であるオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)の添加量を0.005部とし、更にステアリン酸カルシウムの水分散液(LB−131、東邦化学工業社製)を0.5部添加した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0046】
(実施例10)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤であるオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)の添加量を1.0部とし、更にステアリン酸カルシウムの水分散液(LB−131、東邦化学工業社製)を0.1部添加した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0047】
(比較例1)
インク受容層用塗工液の調製において、水溶性離型剤であるオレイン酸カリウム(OSソープ、花王社製)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0048】
(比較例2)
実施例1において、インク受容層にオレイン酸カリウムを添加せず、ステアリン酸カルシウムを2.5部添加したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。
【0049】
各実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用紙について、次の試験を実施した。結果を表1及び2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(1)ダスティング評価
ダスティング評価を以下のように目視で評価した。
◎:カレンダー処理装置のロール表面に汚れが全くなく、実用できる。
○:カレンダー処理装置のロール表面に僅かな汚れが発生するが、実用できる。
△:カレンダー処理装置のロール表面に汚れが発生し、実用不可。
×:カレンダー処理装置のロール表面に汚れが著しく発生し、実用不可。
【0053】
(2)白紙光沢
75度白紙光沢度計を用いて、JIS−P8142に準じ測定した。数値が高い程、光沢感に優れていて好ましい
【0054】
(3)ベタ印刷部のムラ
以下のインクジェットプリンターを用いて、ベタ印刷を行い、印字部のムラ程度を以下のように目視で評価した。
プリンターA:CM8060 ColorMFP(ヒューレットパッカード社製)
プリンターB:PX−G5300(セイコーエプソン社製)
◎:印字ムラが全くなく、実用できる。
○:印字ムラが僅かに発生するが、実用できる。
△:印字ムラが発生し、実用不可。
×:印字ムラが著しく発生し、実用不可。
【0055】
表1、2から明らかなように、実施例1〜10で得られたインクジェット記録用紙は一般的な印刷塗工紙の風合い有しつつ、インクジェットプリンターの印字にも優れている。
【0056】
比較例1で得られたインクジェット記録用紙は、インク受容層が水溶性離型剤を含有していないため、カレンダー装置のロール汚れが生じた。比較例2で得られたインクジェット記録用紙は、インク受容層が高級脂肪酸塩を含有するが、水溶性離型剤を含有しないため、印字ムラと光沢感に劣った。