(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1スナップ部材(10、50)の周側壁(12、52)の上端(12b)は第1係合部(13、53)の上端(13c)よりも上方に位置する請求項1のスナップボタン。
前記第1スナップ部材(50)は、第1底部(51)に、周方向に隣り合う二つの切開部(55)間の非切開部(51c)を含み、各非切開部(51c)にリブ(57)を設けた請求項1又は2のスナップボタン。
前記第2スナップ部材(20)の第2係合部(22)の内側膨張部(22b)における半径方向の寸法は、第1スナップ部材(10、50)の第1係合部(13、13f、53)の外側膨張部(13b、53b)における半径方向の寸法よりも大きい請求項1のスナップボタン。
【背景技術】
【0002】
一対の雄スナップと雌スナップを係合及び脱係合させるスナップボタンは、衣類、鞄類等の合わせ目に広く使用されている。雄スナップは係合突起を備え、雌スナップには、雄スナップの係合突起を着脱させる凹部が設けられる。係合突起の突出側端部は外径が若干拡大され(以下「拡径部」という。)、他方、凹部の開放側端部は、内径が、係合突起の拡径部の外径よりもわずかに小さくなるように縮小される(以下「縮径部」という。)。雄スナップと雌スナップを係合させる場合、雄スナップの係合突起の拡径部が雌スナップの凹部の縮径部を乗り越える時に、係合突起の拡径部及び/又は凹部の縮径部が一時的に半径方向に弾性変形し、拡径部が縮径部を乗り越えると、拡径部及び/又は縮径部が復元し、雄スナップと雌スナップの結合が完了する。雌スナップと雌スナップの係合状態において、これが離脱抵抗となって、雄スナップと雌スナップの安易な離脱が防止される。
【0003】
金属製のスナップボタンでは、樹脂製のものに比べ弾性変形性能が小さいため、上述した係合突起の拡径部の外径と凹部の縮径部の内径との差を大きく設定できない。そのため、上記離脱抵抗が小さくなって、雄スナップの係合突起が雌スナップの凹部から抜け易くなり得る。これを補うため、従来から、雌スナップの凹部に別個のバネ部材が付加され、雄スナップの係合突起の拡径部をバネ部材により弾性的に保持している。しかしながら、バネ部材を使用する雌スナップでは、製造が複雑でコストアップを招くのみならず、近年求められている部品の軽量化のニーズにも反する。
【0004】
バネ部材を用いずに金属製の雌スナップの凹部の弾性変形性能を高める技術として、実開昭50−3704号公報には、凹部を規定する環状部に複数のスリットを入れて周方向に分割して成る雌スナップが開示される。しかしながら、そのような雌スナップでは、雄スナップと結合した状態で、雌スナップと雄スナップに生地を介して両者を水平方向逆向きに引っ張る力(横引き力)が作用した場合、雌スナップの分割された環状部が変形し易いため、雄スナップと雌スナップが離脱し易く、また、雌スナップの環状部が弾性変形可能な範囲を超えて塑性変形するおそれもある。また、雌スナップに雄スナップを係合させる際に、雌スナップの凹部に対し雄スナップの係合突起の位置をある程度正確に合わせる必要があり、雌スナップと雄スナップの係合操作が面倒であった。更に、雌スナップの環状部のスリットに衣服等が引っ掛かったり、使用者の皮膚等が傷付けられるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、別個のバネ部材を用いることなく弾性変形性能を高めることができ、軽量化のニーズに応えることができる金属製のスナップボタンを提供することにある。また、本発明の目的は、横引き力に対し容易には離脱せず、係合操作が容易で、衣服等が引っ掛かったり、使用者の皮膚等が傷付けられことのない金属製のスナップボタンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るスナップボタンによれば、第1スナップ部材と、第1スナップ部材と係合及び脱係合可能な第2スナップ部材とからなるスナップボタンであって、第1スナップ部材は、一枚の金属(銅合金、アルミニウム合金等)製の板から形成され、円板状の第1底部と、第1底部の周縁から立ち上がる、周方向に連続する周側壁と、周側壁よりも半径方向内側において、第1底部を切開して第1底部から立ち上げた、周方向に複数の第1係合部とを含み、各第1係合部は、その上端側に、半径方向外側に膨らむ外側膨張部を有し、第2スナップ部材は、円形の第2底部と、第2底部から立ち上がる、周方向に連続する第2係合部とを含み、第2係合部は、その上端側に、半径方向内側に膨らむ内側膨張部を有し、第1スナップ部材及び第2スナップ部材が同心状にある際、前記外側膨張部の半径方向外側端は、前記内側膨張部の半径方向内側端よりも半径方向外側に位置し、第2スナップ部材の第2係合部を第1スナップ部材の周側壁の内側と第1係合部の外側との間で、周側壁に沿って形成される環状空間に挿入することにより、第1スナップ部材と第2スナップ部材が係合するスナップボタンが提供される。
【0008】
本発明では、第1スナップ部材(下記の実施形態において「雌スナップ」と称される)の周側壁と第1係合部との間の環状空間に第2スナップ部材(下記の実施形態において「雄スナップ」と称される)の第2係合部を出し入れすることにより、第1スナップ部材と第2スナップ部材の係合及び脱係合が行われる。第1係合部は、周方向に不連続の複数の部分であるため、周方向に連続する周側壁及び第2係合部に比べ、半径方向に撓み易い。そのため、第1係合部と第2係合部の着脱が容易である。係合状態の第1スナップ部材と第2スナップ部材に横引き力が作用した場合、環状空間における第2係合部の水平変位を周側壁が制限するため、第1係合部が弾性変形可能な範囲を超えて塑性変形するような事態を防ぐことができる。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記第1スナップ部材の周側壁は、その上端側に、半径方向内側に湾曲する湾曲部を有する。周側壁の湾曲部は、第2スナップ部材の第2係合部を環状空間に案内する役割を果たすことができ、また、使用者の皮膚等を傷付けることもない。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記第1スナップ部材の周側壁の上端は第1係合部の上端よりも上方に位置する。この場合、第2スナップ部材の第2係合部が周側壁と第1係合部との間に嵌り易くなる。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記第1スナップ部材は、第1底部に、各第1係合部に対応する切開部と、周方向に隣り合う二つの切開部間の非切開部とを含み、各非切開部にリブを設けている。このように非切開部にリブを設けることにより、切開部によって強度が低下した第1スナップの部材の第1底部を補強することができる。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記第2スナップ部材の第2係合部の内側膨張部における半径方向の寸法は、第1スナップ部材の第1係合部の外側膨張部における半径方向の寸法よりも大きい。この場合、第1スナップ部材と第2スナップ部材間の係合、脱係合が円滑に行えるとともに、第2係合部が第1スナップ部材の環状空間内に円滑に挿入できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るスナップボタンでは、第1スナップ部材の第1底部を切開して立ち上げた周方向に複数の第1係合部が、周方向に不連続の複数の部分であるため、周方向に連続する周側壁及び第2係合部に比べ、半径方向に撓み易い。そのため、別個のボタン部材を使用することなく、第1係合部の弾性変形性能を高めることができ、コストアップを招くことなく軽量化のニーズに応えることができる。また、係合状態の第1スナップ部材と第2スナップ部材に横引き力が作用した場合、環状空間における第2係合部の水平変位を周側壁が制限するため、第2係合部が環状空間から抜け難く、また、第1係合部が弾性変形可能な範囲を超えて塑性変形するような事態を防ぐことができる。
【0014】
また、第1スナップ部材の周側壁の上端側に半径方向内側に湾曲する湾曲部を設けることにより、第2スナップ部材の第2係合部が周側部の一部が湾曲部の表面を滑って第1スナップ部材の環状空間に案内され易くなる。更に、第1スナップ部材の周側壁の上端を第2係合部の上端よりも高くすることにより、第2スナップ部材の第2係合部が周側壁と第1係合部との間に嵌り易くなり、これによっても第2スナップ部材の第2係合部の環状空間への案内が助長される。更に、周側壁の、半径方向内側に湾曲する湾曲部は、衣服、皮膚等を傷付けることはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るスナップボタンの第1スナップ部材である雌スナップを示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係るスナップボタンの第2スナップ部材である雄スナップを示す平面図である。
【
図6】
図6は、雄スナップと雌スナップの結合前の同心対向配置状態を示す断面説明図である。
【
図7】
図7は、雄スナップと雌スナップを結合した状態を示す断面説明図である。
【
図8】
図8は、雌スナップに対し雄スナップが斜めに係合しようとしている状態を示す断面説明図である。
【
図9】
図9は、雌スナップと雄スナップに横引き力が作用して、雄側係合部が水平変位した状態を破断して示す部分断面説明図である。
【
図13】周側壁と雌側係合部が同じ高さである雌スナップの変形例を示す
図3と同様の破断部分拡大図である。
【
図14】
図14は、雄スナップ部材(第2スナップ部材)の変形例を示す平面図である。
【
図15】
図14の雄スナップ部材を生地に取り付け状態の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るスナップボタンの好適な実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るスナップボタンを構成する第1スナップ部材である雌スナップ10の平面図である。
図2は
図1のA−A線矢視断面図である。雌スナップ10は、一枚の金属製の板から絞り加工等して形成されるもので、円板状の底部11と、底部11の周縁から立ち上がり、かつ周方向(雌スナップ10の軸線に対する周方向)に連続する円環状の周側壁12と、周側壁12よりも半径方向(雌スナップ10に対する半径方向)内側において底部11から立ち上がり、かつ周方向に等角度間隔で一例として五つ設けられた雌側係合部13とを備える。底部11の中央には、雌スナップ10を生地1(
図6等参照)に取り付ける際に、取付部材30のポスト部32(
図6等参照)を受け入れるための円形の孔部14が設けられる。また、底部11における周側壁12と雌側係合部13との間の領域(以下「底部外側領域」という。)11aには、各雌側係合部13を形成するために底部11を切開した略矩形の切開部15が周方向に五つ設けられる。底部外側領域11aにおける周方向に隣り合う二つの切開部15の間それぞれには、扇形状の非切開部11cが残る。各非切開部11cは、底部11における雌側係合部13よりも半径方向内側の領域(以下「底部中央領域」という。)11bと周側壁12(の下端)とを連結する。底部中央流域11bは底部外側領域11aよりもわずかに下方(雌スナップ10の上下方向は
図2に基づく)に突出し、底部中央流域11bの半径方向外側端部は、底部外側領域11aへと上方かつ半径方向外側に若干傾斜して接続する。雌側係合部13の半径方向における位置は、詳しくは後述するが、第2スナップ部材である雄スナップ20の雄側係合部22(
図4等参照)との係合及び脱係合が可能となる位置に設定される。周側壁12は、その下端すなわち底部11との境界から上方へと半径方向外側に向かって若干傾斜しつつ直線状(非湾曲状)に延びた後、周側壁12の上端側において半径方向内側にC字状に湾曲する(以下、この湾曲した部分を「湾曲部12a」という。)。参照番号12bは、周側壁12の頂端(上端)であり、参照番号12cは湾曲部12aの半径方向内側端を示す。
【0017】
雌側係合部13は、
図3に拡大して示すように、底部11(底部中央領域11bの半径方向外側端)から上方へと、雌スナップ10の軸線に平行に延びる係合基部13aと、係合基部13aの上端から上方へと半径方向外側に膨らんだ後、半径方向内側へとC字状に折り返されて、雌側係合部13の上部を形成する外側膨張部13bとを有する。外側膨張部13bは雌側係合部13の頂端(上端)13cを含む。参照番号13dは、外側膨張部13bの半径方向外側端を示す。雌側係合部13の頂端13cの位置は、周側壁12の頂端12bの位置よりも若干低くなるように設計される。周方向に不連続に設けられている雌側係合部13は、周方向に連続している周側壁12に比べ、半径方向内外に撓み易い。雌スナップ10には、周側壁12と雄側係合部22との間の底部外側領域11a上に、上方に開放する環状空間16が存在し、この環状空間16に雄スナップ20の雄側係合部22(
図4等参照)が出し入れされて、雄スナップ20との着脱が行われる。
【0018】
図4は、本発明の一実施形態に係るスナップボタンを構成する第2スナップ部材である雄スナップ20の平面図である。
図5は
図4のB−B線矢視断面図である。雄スナップ20も、雌スナップ10と同様に一枚の金属板から絞り加工等して形成されるもので、略円板状の底部21と、底部21の周縁から立ち上がる、周方向に連続する円環状の雄側係合部22とを備える。底部21の中央には、雄スナップ20を生地2(
図6等参照)に取り付ける際に、取付部材40のポスト部42(
図6等参照)を受け入れるための円形の孔部23が設けられる。底部21は、孔部23の周囲の、水平(雄スナップ20の軸線に垂直な任意の面をいう)に沿う底部中央部21aと、底部中央部21aよりも若干上方(雄スナップ20の上下方向は
図5に基づく)にて、雄側係合部22の下端から半径方向内側に水平に延びる底部外側端部21bと、底部中央部21a(の半径方向外側端)と底部外側端部21b(の半径方向内側端)とを、前者から後者へと上方かつ半径方向外側に傾斜して連結する底部傾斜部21cとを含む。雄側係合部22は、その下端すなわち底部21(底部外側端部21b)との境界から上方へと半径方向外側に向かって若干傾斜しつつ直線状(非湾曲状)に延びる係合基部22aと、係合基部22aの上端から半径方向内側へとC字状に湾曲して半径方向内側に膨らむ内側膨張部22bとを有する。内側膨張部22bは雄側係合部22の頂端(上端)22cを含む。参照番号22dは、内側膨張部22bの半径方向内側端を示し、また、参照番号22eは、雄側係合部22において半径方向外側に最も突出する半径方向外側端(雄側係合部22の半径方向外側に向く面における係合基部22aと内側膨張部22bの境界に一致)を示す。
【0019】
図6は、上述した雌スナップ10及び雄スナップ20を取付部材30及び40により生地1及び2にそれぞれ取り付けた状態を、結合前の雌スナップ10及び雄スナップ20を同心状に対向配置して示す断面説明図である。雌スナップ10用の取付部材30は、周知の部品であるため詳述はしないが、略円板状のベース部31と、ベース部31から突出するポスト部32とを備える。ポスト部32は、
図6等において加締められて変形した状態で示される。雌スナップ10を生地1に取り付ける場合、図示しないプレス装置の下方ダイに取付部材30を載置し、上方ダイに雌スナップ10を保持させ、取付部材30と雌スナップ10との間に生地1を配した後、上方ダイを降下させる。これにより、取付部材30のポスト部32が生地1を上方に貫通し、次いで雌スナップ10の孔部14を通った後、上方ダイにより雌スナップ10の底部11上に加締められる。これにより、雌スナップ10が生地1に固定される。雄スナップ20用の取付部材40も周知の部品であり、略円板状のベース部41と、ベース部41から突出するポスト部42(
図6等において変形した状態で示される)とを備える。雄スナップ20の生地2への取り付けは、上述した雌スナップ10の生地1への取り付けと同様に、生地2を貫通し次いで雄スナップ20の孔部23に通した取付部材40のポスト部42を加締めることによって行われる。
【0020】
図6に示す雄スナップ20と雌スナップ10の結合前の同心配置状態で、雌側係合部13の外側膨張部13bの半径方向外側端13dは、雄側係合部22の内側膨張部22bの半径方向内側端22dよりもわずかに半径方向外側にあり、かつ半径方向外側端13dは、半径方向外側端22eの半径方向内側にある。内側膨張部22bの半径方向内側端22dは、雌側係合部13の係合基部13aの半径方向外側面とほぼ同じ半径方向位置にある。また、雄側係合部22の半径方向外側端22eは、雌スナップ10の周側壁12の湾曲部12aの半径方向内側端12cよりも若干半径方向内側にある。そして、雄スナップ20の雄側係合部22の内側膨張部22bにおける半径方向の寸法(半径方向内側端22dと半径方向外側端22eとの間の寸法)は、雌スナップ10の雌側係合部13の外側膨張部13bにおける半径方向の寸法(外側膨張部13bの半径方向外側端13dと外側膨張部13bの半径方向内側端13eとの間の寸法)よりも大きい。このため、雌スナップ10と雄スナップ20間の係合、脱係合が円滑に行えるとともに、雄側係合部22が雌スナップ10の周側壁12と雌側係合部13間の環状空間16内に円滑に挿入できる。
【0021】
雌スナップ10と雄スナップ20の係合は、
図6の状態から雄スナップ20の雄側係合部22を、雌スナップ10の周側壁12と雌側係合部13間の環状空間16に挿入することによって行われる。
図7は、雌スナップ10と雄スナップ20が係合した状態(以下「スナップ係合状態」ともいう。)を示す断面説明図である。雄スナップ20の雄側係合部22を雌スナップ10の環状空間16に挿入(ここでは挿入方向を下方とする)する際、まず、雄側係合部22の内側膨張部22bが雌側係合部13の外側膨張部13bに接触して、各雌側係合部13を半径方向内側に撓ませる。なお、周方向に不連続な雌側係合部13は、周方向に連続する雄側係合部22に比べて半径方向内外に撓み易い。次いで、雄側係合部22の内側膨張部22bが雌側係合部13の外側膨張部13bを下方へと乗り越えて雌スナップ10の環状空間16に入り込むと、外側膨張部13bが半径方向外側に復帰し、雄スナップ20と雌スナップ10の係合動作が完了する。スナップ係合状態において、雄側係合部22が環状空間16から抜けようとしても、雄側係合部22の内側膨張部22bが雌側係合部13の外側膨張部13bに引っ掛かり、これが離脱抵抗となって、両スナップ10、20間の安易な離脱(脱係合)が防止される。この離脱抵抗を上回る力で雄側係合部22を環状空間16から抜き取ることにより、雌スナップ10と雄スナップ20の脱係合が行われ、この時も、雄側係合部22の内側膨張部22bが雌側係合部23の外側膨張部13bを半径方向内側に一時的に撓ませる。雌スナップ10の周側壁12の底部11からの高さは、雄スナップ20の雄側係合部22の底部21からの高さよりも高いことで、
図7に示すように、係合状態において、雄側係合部22が雌スナップ10に収容される。横引き力が加わった際に、雌スナップ10および雄スナップ20の生地1、2が近接させることができるため、モーメントの力を発生しにくい。
【0022】
雌スナップ10では、周側壁12が雄スナップ20の雄側係合部22よりも大径であり、また、周側壁12の湾曲部12aが半径方向内側に湾曲しているため、雌スナップ10の環状空間16に雄スナップ20の雄側係合部22を差し込む際に、雌スナップ10に対する雄スナップ20の位置や配向を正確に合わせる必要はない。以下にその例を述べる。
図8は、雌スナップ10に対し雄スナップ20を斜めに(非同心状に)係合させようとしている状態を示す。衣類等に取り付けられた雄スナップ20と雌スナップ10の係合は、通常、
図8に示すように斜めに行われる。この際、雄スナップ20の雄側係合部22の一部が雌スナップ10の周側壁12の湾曲部12aに単に接すれば、雄側係合部22の全体が湾曲部12aの表面を滑るようにして環状空間16に案内される(ガイド機能)。更に、雌側係合部13の高さ(頂端13cの位置)が周側壁12の高さ(頂端12bの位置)よりも若干低く設定されているため、雄側係合部22の一部が、周側壁12の湾曲部12aと、これより低い雌側係合部13の外側膨張部13bとの間に嵌り易く、これによっても上記ガイド機能が助長される。そのため、雌スナップ10と雄スナップ20の係合操作を正確な位置合わせ等を要することなく、容易かつ円滑に行うことができる。更にまた、雌スナップ10のスナップ周側壁12の湾曲部12a及び雌側係合部13の外側膨張部13b、並びに雄スナップ20の内側膨張部22bが湾曲しているため、衣服等が引っ掛かったり、使用者の皮膚等を傷付けるようなことはない。
【0023】
スナップ係合状態において、生地1、2を介して雌スナップ10と雄スナップ20をそれぞれ水平方向逆向きに引っ張る、いわゆる横引き力が働いた場合、雌スナップ10の軸線に対し雄スナップ20の軸線がほぼ平行にずれ、
図9に拡大して示すように、環状空間16内において雄スナップ20の雄側係合部22が水平方向に変位する。この時、
図19に示される雌側係合部13とは直径方向ほぼ反対側の雌側係合部13は、図示はしないが、雄側係合部22によって半径方向内側に撓まされる。上記水平変位した雄側係合部22(
図9参照)は、周方向に連続して撓み難い周側壁12に突き当たって、それ以上の水平変位が制限される。この周側壁12による雄側係合部22の水平変位の制限は、雌側係合部13が弾性変形可能な範囲とされる。そのため、雄側係合部13が塑性変形するようなことはない。また、図示しない上記直径方向ほぼ反対側では、雄側係合部22が雌側係合部13を押圧して、前者の内側膨張部22bと後者の外側膨張部13bとが互いに引っ掛かって離脱抵抗となる。そのため、横引き力が働いても、雄スナップ20は雌スナップ10から容易には離脱しない。
【0024】
図10は、雌スナップの変形例を示す平面図であり、
図11は
図10のC−C線矢視断面図である。雌スナップ50は、一枚の金属製の板から絞り加工等して形成されるもので、円板状の底部51と、底部51の周縁から立ち上がり、かつ周方向に連続する円環状の周側壁52と、周側壁52よりも半径方向内側において底部41から立ち上がり、かつ周方向に等角度間隔で一例として六つ設けられた雌側係合部53とを備える。各雌側係合部53の周方向に占める角度範囲(以下、単に「周方向範囲」という。)は、雌スナップ10の各雌側係合部13の周方向範囲よりも大きく、そのため、周方向に隣り合う二つの雌側係合部53間の間隔がスリットのように狭い。底部51の中央には円形の孔部54が設けられる。周側壁52は、雌スナップ10の周側壁12と実質的に同じであり、湾曲部52aを有する。また、雌側係合部53の、外側膨張部53bを含む縦断面形状は、雌スナップ10の雌側係合部13と実質的に同じである。底部51における周側壁52と雌側係合部53との間の底部外側領域51aには、各雌側係合部53を形成するために底部51を切開した扇形状の切開部55が周方向に六つ設けられる。各切開部55の周方向範囲も、
図1に平面図で示す雌スナップ10の各切開部15の周方向範囲よりも大きい。そのため、底部外側領域51aにおける周方向に隣り合う二つの切開部55間にそれぞれ残る非切開部51cの周方向範囲は、雌スナップ10の非切開部11cに比べかなり狭い。そのため、雌スナップ50では、底部51の強度が不足するおそれがある。これを補うため、底部51の各非切開部51cに対応する部分に上方に凸となるリブ57が設けられており、これが、
図10のC−C線断面図である
図12に示される。各リブ57は、各非切開部51cの周方向中央において半径方向に沿って延びるように設けられ、各リブ57の半径方向外側端は周側壁52に近接し、半径方向内側端は底部中央領域51bに入り込む。
【0025】
以上に述べた雌スナップ10、50は、雌側係合部13、53の高さが周側壁12、52の高さよりも低い例であるが、
図13に拡大して示すように、雌側係合部13fの高さは周側壁12(便宜的に雌スナップ10の周側壁12と同じ参照番号を用いる)と同じ高さであってもよい。
【0026】
図14及び15は、第2スナップ部材である雄スナップの変形例である雄スナップ60を示す平面図、及び雄スナップ60を生地2aに取り付けた状態を示す断面説明図である。雄スナップ60は、一枚の金属板から形成され、略円板状で水平に沿う底部61と、底部61から立ち上がる、周方向に連続する円環状で二重板構造の雄側係合部62とを備える。底部61の中央には、雄スナップ60を生地2aに取り付ける際に、取付部材40aのベース部41aから突出するポスト部42aを受け入れるための円形の孔部63が設けられる。底部61は、雄側係合部62から半径方向内側の底部中央部61aと、雄側係合部62から半径方向外側の底部外側端部61bとに区分される。雄側係合部62は、底部中央部61aの半径方向外側端から上方にほぼ垂直に延びた後、半径方向内側に膨らんで内側膨張部62bを成す半径方向内側板部62aと、底部外側端部61bの半径方向内側端から上方にほぼ垂直に延びる半径方向外側板部62cとを含み、半径方向内側板部62aと半径方向外側板部62cは、雄側係合部62の上端部で連結する。雄スナップ60は、上述した雄スナップ20と同様に雌スナップ10と係合及び脱係合可能である。雄スナップ60の内側膨張部62bの半径方向内側端62dは、雌スナップ10の周側壁12の湾曲部12aの半径方向内側端12cよりも若干半径方向内側にある。また、雄スナップ60の雄側係合部62の内側膨張部62bにおける半径方向の寸法(半径方向内側端62dと半径方向外側板部62cの外側面との間の水平に沿う寸法)は、雌スナップ10の雌側係合部13の外側膨張部13bにおける半径方向の寸法よりも大きい。
【0027】
また、以上の雌スナップ10、50は、別個のバネ部材を使用することなく一枚の金属板から形成可能であるため、軽量化を実現することができる。なお、以上の実施形態は単なる例示であり、特許請求の範囲及びその均等の範囲内で変更等が可能である。