特許第5959520号(P5959520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959520
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ナノころ潤滑
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20160719BHJP
   C10M 105/14 20060101ALN20160719BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20160719BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20160719BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20160719BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20160719BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20160719BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20160719BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M105/14
   !C10M107/34
   !C10M125/02
   C10N20:06 Z
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:02
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-526600(P2013-526600)
(86)(22)【出願日】2010年9月3日
(65)【公表番号】特表2013-538274(P2013-538274A)
(43)【公表日】2013年10月10日
(86)【国際出願番号】JP2010065671
(87)【国際公開番号】WO2012029191
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2013年8月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502255047
【氏名又は名称】株式会社ナノ炭素研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】593184189
【氏名又は名称】森 誠之
(74)【代理人】
【識別番号】100128794
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 庸悟
(72)【発明者】
【氏名】大沢映二
(72)【発明者】
【氏名】森 誠之
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第09/128258(WO,A1)
【文献】 特開2008−179738(JP,A)
【文献】 特開2005−097375(JP,A)
【文献】 国際公開第07/088649(WO,A1)
【文献】 HU ZHIMENG,The Tribological Characteristics of Nano-scale Diamond in Polyoxyethylene Glycol,RUNHUA YU MIFENG,2005年 9月,no. 5,pages 7 - 10, 13
【文献】 A. KRUGER ET AL.,Unusually tight aggregation in detonation nanodiamond: Identification and disintegration,CARBON,2005年 7月,vol. 43, no. ISS.8,pages 1722 - 1730
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の物からなる潤滑システムの組成物であって、偏在性、球形、単分散性、高硬度・高強度、入手容易、健康リスクとならない、という6つの要件を満たすナノのサイズのころであるナノころと、該ナノころの粒子を単一粒子のコロイド状態に分散させる流体または流体混合物で、使用後の潤滑組成物の洗浄と処理を容易にするために水と任意の割合で混じることで構成され、
前記ナノころが、爆轟法ナノダイヤモンドの一次粒子または5nmの略称バッキーダイヤモンド(5nBD)と呼ばれるものであって、該爆轟法ナノダイヤモンドの凝集体がビーズミリングによって解砕されたものであることを特徴とするナノころ潤滑システムの組成物。
【請求項2】
ナノころの分散剤である流体が、エチレングリコール、ポリオキシエチレン、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレン、グリセリン及びそれらの誘導体を含む多価アルコールであることを特徴とする請求項1記載のナノころ潤滑システムの組成物。
【請求項3】
一般的に従来の潤滑油に使用される添加剤が添加されていることを特徴とする請求項2に記載のナノころ潤滑システムの組成物
【請求項4】
高沸点溶剤にナノころのコロイド水溶液を混合し、ロータリーエバポレーターを用いて水を60−80℃、60ヘクトパスカル以下の真空下で蒸留するという直接溶媒交換反応のプロセスをコロイド溶液の媒体変更に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノころ潤滑システムの組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トライボロジーの基本問題すなわち、機械において動く固体間に発生する摩擦の性質と摩擦を低減する方法、あるいは潤滑に関するものである。地球上および宇宙のすべての固体の運動は実際問題として摩擦を生じ、その動きは潤滑によって制御されているので、本発明は、機械の運動を含む産業活動のあらゆる側面に関連している。
【背景技術】
【0002】
産業界のすべての分野における固体部分が関連する相対的なせん断運動において長年、圧倒的多量に用いられている潤滑油は、地球規模での環境の急速な破壊に関係するいくつかの重大な欠陥を持っていることが、近年認識されている。この問題は、廃棄潤滑油の処分において、金属粒子が多量の二酸化炭素と一緒に小さな粒子の形で酸化物として大気中に放出されるため、将来燃焼できなくなるだろうという形で明白化している。廃潤滑油の量は、世界で毎年10Mtに達すると推定されている(非特許文献1)。
【0003】
処理問題は油に固有の欠陥、つまり潤滑における境界条件下(非特許文献2)での油薄膜の機械的弱点による。ボーデン(非特許文献3)による摩擦の融合理論によれば、動く固体が直接その微細な凹凸で互いに触れると、摩擦過程により接触―融解―結合プロセスを繰り返す。したがって理想的な潤滑システムは、その初期の段階で、凹凸での相対運動における表面間の直接の接触を避けるために信頼性の高いメカニズムを持っていることが不可欠です。油の薄膜は表面上の凹凸が境界条件の下で近づきすぎると容易に破壊するので顕微鏡的スケールの接触を防止するのには全く無力である。この点で、潤滑用に油を使用するのは最初から間違いであった。
【0004】
オイルレス固体潤滑、スペーサー潤滑および他の多くの改良が考案され、テストされ、そのうちのいくつかは特定の目的のためにかなりの成功(非特許文献4)をおさめたが、それらのどれも低コスト、一般的な適用性、容易な取り扱いと安全性の面で潤滑油と競うことができなかったとされている。このような理由から潤滑技術の最近の動向は、潤滑油に、より多くの新しい添加剤を実装してきた。添加物の使用は、多くの場合、摩擦係数の増加につながり、常に0.2から0.3までの平凡な範囲の値になっている。
エネルギーの消費量は工業の発展途上国で急速に増加し、石油はより高価格になるという新たな問題が生じた。現時点では過去の価格水準を回復する見込みは当面ない。したがって、現在のレベルよりもはるかに小さい摩擦係数の潤滑システムが非常に望まれる。
このような状況下で、我々は、移動固体部分の間の破壊的な直接接触を避け、高い環境適合性を持ち、非常に低い摩擦係数を達成する新しい流体潤滑システムを見つける必要があることは明らかである。従来の潤滑油は、蛍光灯とガソリン燃料のような最後の必要悪の一つとみなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】“Ultra-DispersedNanocarbon and Method for Preparing the Same”, Kataoka, F; Osawa, E.; Fujino,T.; Takahashi, M.; Idehara, O.; Terajima, A.; Inoue, Y.; Yokota, S.; Kawasaki,K. USP 7,300,958. Patent Issue Date Nov. 27, 2007. Patent Appl. No.10/847,453. May 17, 2004. Priority Claimed by JapanesePatent Appl.No. 2003-141618 (May 20, 2003).
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lubricants and their environmental impact, Betton, C. I. in Chemistryand technology of lubricants, Mortier, R. M. et al. (Eds), SpringerScience+Business Media, B. V.,2010, 3rd edition, Chapt. 15, p.435-459.
【非特許文献2】Fundamentals offluid film lubrication, Hamrock, B. J.; Schmidt, S.R.; Jacobson, B. O., Marcel Dekker Inc., New York, 2004, p.728.
【非特許文献3】The friction and lubrication of solids, Bowden,F. P.; Tabor, D. Oxford University Press, Oxford, First published in 1950, p.366.
【非特許文献4】Principles of Tribology, Halling, J.,MacMillan, Hants, UK, 1975, p. 415.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
我々は動いている固体表面における凹凸の先端間の初期の接触を避ける唯一の現実的な方法は、スペーサーを使用することだと考えている。グリースに埋め込まれたボールベアリングがスペーサー潤滑の最古の先駆者に見えるかもしれない。しかし、スチールまたはセラミックボールは移動する表面と直接接触すると摩耗や傷を生成するので、これを防ぐためにボールを接触点に保つ必要があり、特殊な密閉容器に入れられている。したがって、そのようなシステムは、私たちの現在のニーズにはあわず、これを用いることは論外である。ボールベアリングシステムの利点は、摩擦が通常1%未満で、摩擦が主に転がりにより構成されているということである。
【0008】
興味深い開発が、実際には一桁ナノ磁性体で球状の粒子からなる、いわゆる磁気流体(非特許文献5)の導入において見られ、強磁性表面のためのスペーサーとして適用されている。磁性スペーサーは常に完全に金属表面をカバーし、それ故に彼らは境界条件ではいつでも利用できる。これは、ボールベアリングの潤滑の優れた拡張版だが、強磁性金属にのみ適用可能で高価です。また高負荷時や侵食条件下での磁性ナノ粒子の耐久性と安定性は疑問です。
非特許文献5: Magnetic
fluids; engineering applications, Berkovskii, B.
M.; Medvedev, V. F.; Krakov, M. S., Oxford University Press, New York, 1993, p.
256.
【0009】
明らかに上記の2つのスペーサー潤滑の例は、上記の私たちの3つの主要な目的を満たしていない。私たちは新しい潤滑システムを考案するという目標を達成するためにスペーサーが満たすべき要件を箇条書きにしてみた:
(1)ユビキタス性。境界条件の下で初期の真の接触部位に十分な数のスペーサーが存在する必要がある。スペーサーまたはスペーサーの流体の高濃度分散が必要とされる。
(2)真球性。これは、低摩擦係数を達成するためのスペーサー潤滑に不可欠な性質です。スペーサーの真球度が十分に高い場合は、摩擦は転がり摩擦だけで構成される。
(3)分散性。 C60が発見されたときに本発明と非常に近い考え方が多くの人々によって提唱された。しかし、C60の粒子は、例えばエンジンオイルに添加しても、何の効果もなかった。その理由は、C60がその活性表面を介して非常に凝集性が高く、流体中で非常に硬く大きな凝集体を形成するためです。したがって、我々のスペーサーの重要な条件は、流体中でスペーサーが安定な分散体を形成することであり、スペーサー機能中に凝集しないことである。
(4)硬性と強度。全体の負荷が初期接触で凹凸の限られた先端に集中しているので、スペーサーは最高の硬度と強度を持っている必要があるが、それでも潤滑表面に損傷を与えないように、また液体媒体に可溶でなくてはならない。後者の目的のために、最善策は、ソフトな層でスペーサーの表面を覆うことです。
(5)入手容易性。スペーサー潤滑の2つの構成物、スペーサーと分散媒、は潤滑油と同等あるいはそれよりも低いコストでどこでも容易に入手可能でなければならない。
(6)健康リスク。フラーレンやカーボンナノチューブなどのナノ粒子は健康リスクに強い懸念があるため、スペーサー粒子の健康リスクは、一般的なアプリケーションを考えるとき、大きな社会的関心事となるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
我々は、いくつかの液体中で一桁ナノダイヤモンド粒子の希薄なコロイド溶液は、驚くほど低摩擦係数を示すことをここに開示する(図1)。この結果は、コロイド溶液中の一桁ナノ粒子の個数密度が高いため、境界条件が満たされるたびに、それらがユビキタススペーサーとして作用すると解釈される(非特許文献6、7)。一桁ナノダイヤモンド結晶は、この目的のためにその他のすべての要件を備えている(非特許文献8)。それは、我々が唯一の潤滑流体として長期にわたり使用してきた油の使用を、最終的に除くことができるようになるかもしれないことを示している。
非特許文献6: Design of Nanodiamond Based Drug Delivery Patch for Cancer
Therapeutics and Imaging Applications, Liu, W. K. et
al., in Ho, D. Ed. Nanodiamonds: Applications in Biology and Nanoscale
Medicine, Chapter 12, Springer Science+Business Media, Inc., Norwell, MA.,
2010, p. 249-284.
非特許文献7: Chemistry of Single-Nano Diamond Particles, Osawa, E. in Wudl, F.; Nagase, S.; Akasaka, K. Eds., Chemistry
of Nanocarbons, John Wiley & Sons, Oxford, 2010, Chapt. 17, p. 413-432.
非特許文献8: Monodisperse Single-Nano Diamond Particulates, Osawa, E., Pure & Appl. Chem., 80, 1365-1379 (2008)
【0011】
ナノころ潤滑の最も普通でない一見予想しにくい特徴は、境界条件下で初期の真の接触点でスペーサーのユビキタス利用が可能になることです。この特徴は、本発明の中心的な事項なので、ナノテクノロジーで見落とされていた原理(非特許文献6、7)に由来する背景を、最初に説明しましょう。
【0012】
本発明で使用するスペーサー粒子は、我々が最近再発見した爆轟法ナノダイヤモンド一次粒子(図2)(非特許文献9)です。本説明を通して、私たちはこれを5nmのバッキーダイヤモンド(5nBD)(非特許文献10)という名前によって呼ぶ。
5nBD粒子のサイズの測定値はほんの4.7 nmです。それほど小さく軽いのでほんのわずかの重量でも天文学的数字の5nBDの粒子が含まれることになる(図2)。例えば、その1%水溶液のコロイド溶液1μlは、1011(1000億)個の5nBD粒子が含まれています!また、5nBDはスペーサーに必要な他のすべての性質を持っている: 地球上で最も硬い物質、準球形の形状(後記参照)、安定したコロイド(図2)となり、調整が容易(非特許文献7)、そのほか(以下参照)などです。
非特許文献9: Unusually tight aggregation in detonation nanodiamond identification
and disintegration, Krueger, A.; Kataoka, F.; Ozawa, M.; Aleksenskii, A.; Vul’,
A. Ya; Fujino, Y.; Suzuki, A.; Osawa, E., Carbon 43,
1722-1730 (2005).
非特許文献10: Ultradispersity of diamond at the nanoscale, Raty, J.-Y., Galli,
G., Nature Mater. 2, 792-795 (2003).
【0013】
粒子数効果(非特許文献6、7)が、実際の状況でどのように機能するかを説明しましょう。一対の金属板が1パーセント5nBDコロイド水溶液中で互いに動いており、互いに近づきすぎているとする(図3(1))。最近接の凹凸間の直線距離が5nBDの水和有効半径7nm(図2)の限界距離以下になると、スペーサーが金属板を感じ始める(図3(2))。我々は両方の凹凸が直径1mmの円形の先端を持っていると仮定するなら、316個の5nBD粒子がマイクロ空間S×hに単一粒子層を形成することが単純な計算でわかる(図3(2) ')。この凹凸先端の想定直径は、報告されている最少の真の接触点が26mm(NPL3)であるという事実を考慮すると、摩擦の初期段階に相当すると考えられる。我々は、凹凸の先端間に閉じ込められた300個のナノころという図が合理的であると考え、このような多数のスペーサーは金属板のさらなるアプローチを止めるには十分であろうと考える。
【0014】
そこで締め付けられた300個の 5nBDスペーサーは、自分自身を回転させだす(図3(2) ')。すると、前の瞬間まで閉じつつあった凹凸のペアが離れ出す(図3(2)→(3))。このようにして、金属板間のすべての真の接触点はユビキタスナノころの回転運動により、その初期の段階で繰り返し接触点は反発し、スペーサーが分散したままで、負荷下で準球形の形状を維持する限り、本当の摩擦過程は起こらない。
【0015】
以上は物語があまりにも調子よく語られているように見えるかもしれない。確かにそうだ。したがって、1パーセント5nBD水性コロイドがサファイアボール(2mmφ)/
Siウェーハシステムに対して超潤滑を示したとき(μ= 0.005から0.01)(実験例3)私たちは本当に驚いた。純水は、同一条件(図1)の下で0.086のμ値を示した。明らかに、このような低摩擦係数は摩擦従来の融合機構(非特許文献3)が消失し、摩擦の主な原因がナノころの回転に変化していることを示している。
【0016】
以上の説明は、5nBDスペーサーが球形または少なくとも準球形に成形されていることを示唆している。実際に我々は、ダイヤモンドに予想される八面体またはその頂点を切り捨てた形のように見えない5nBDのTEM像(非特許文献8、9、11)に長い間当惑していたが、今我々は、画像が実際にはビーズミリング(非特許文献12)の結果として結晶の稜が削られた準球形形状になっていることを理解した(図4)。これとは別に我々は最近、地下深部から地表への上昇過程の間に天然ダイヤモンドでは八面体から多くの多面的な準球形形状になる幾何学的変換経路があることを明らかにした(非特許文献13)。同様な形態学的変化が5nBD粒子を製造するビーズミリング中に発生して準球形ができている可能性がある。
5nBD粒子の形状のより正確な写真を取るべきであるという問題はまだ残っているものの、5nBDにおける研磨された表面形態という認識は、ナノころの超潤滑を解釈する上で重要な役割を果たした。
非特許文献11: Preparation and behaviors of brownish clear nanodiamond colloids,
Ozawa, M.; Inakuma, M.; Takahashi, M.; Kataoka, F.; Krueger, A.; Osawa, E. Adv.
Mater. 19, 1201-1206 (2007).
非特許文献12: Self-assembly in nanodiamond agglutinates. Barnard, A., J.
Mater. Chem. 18, 4038-4041 (2008).
非特許文献13: Morphological Transformation
Pathways Map of Diamond Crystals. Osawa, E.; Barnard, A. S.; Chang,
L. Y.; Matsubara, S.; Nakagawa, H.; Sato, I., Manuscript in preparation.
【0017】
ナノころ潤滑方式の検証の過程で得られた5nBD水溶液の著しく低い摩擦に5nBDの以下の特徴が寄与しているように見える。第一に、SCC DFTB計算(非特許文献14)、ラマン共鳴の強いGバンド(非特許文献9)、およびX線回折の相対強度(非特許文献15、図2)等によると、ナノダイヤモンド結晶の{111}面上の表面のダイヤモンド数層の相転移によって欠陥を持つ数層のグラフェン片が形成されると信じられている。これらのグラフェン様の小片は、Siとサファイア表面の両方に対して固体潤滑剤として役立っていると考えられる。
非特許文献14: Crystallinity and surface electrostatics of diamond nanoparticles,
Barnard, A.; Sternberg, M., J. Mater. Chem. 17, 4811-4819 (2007).
非特許文献15: New prospects and frontiers of nanodiamond clusters., Baidakova,
M.; Vul’, A., J. Phys. D: Appl. Phys. 40, 6300-6311 (2007).
【0018】
第二に、ナノダイヤモンド結晶表面上に異常に強く結合している水和は、溶媒水分子と{111}面に存在する高い負の静電荷の間の強い水素結合形成の結果として解釈され(非特許文献16)、また、5nBDヒドロゲル中の不凍水(非特許文献17、18、図2)の示差走査熱量計での観察に基づいている。柔らかい水和殻は、スペーサーとしての機能によるせん断応力を減少させるだけでなく、転がり摩擦をも低減する。
非特許文献16: Consequences of strong and diverse electrostatic potential field on
the surface of detonation nanodiamond particles, Osawa, E.; Ho, D.;
Huang, H.; Korobov, M. V.; Rozhkova, N. N., Diam. Rel. Mater. 18,
904-909 (2009).
非特許文献17: Nanophase of
water in nanodiamond gel, Korobov M. V., Avramenko N. V.; Bogachev, A. G.;
Rozhkova N. N.; Osawa E., J. Phys. Chem. C. 111, 7330-7334 (2007).
非特許文献18: Aggregate structure of single-nano buckydiamond in gel and
dried powder by differential scanning calorimetry and nitrogen adsorption,
Korobov, M. V.; Batuk, M. M.; Avramenko, N. V.; Ivanova, N. I.; Rozhkova, N.
N.; Osawa, E. Diam. Rel. Mater. 19, 665-671 (2010).
【0019】
私たちは、許容可能なμの値、例えば、0.02以下になるのに必要な可能な限り低い濃度又はスペーサーの最小数を知りたい。水性潤滑剤で5nBD濃度を低減すると比較的速くμは増加し、5nBD 0.3%の濃度で0.015にまで増加した(図1)。このμの増加は、低濃度では接触面からスペーサーが離脱することが加速されるためであろうと考えた。このスペーサーの損失は、分散媒体の粘度を増加させることによって防止することができる。しかし、粘度が高すぎると流体潤滑剤の動きに粘性抵抗が増え、したがってmも増す。したがって、高粘性の分散媒体は避けなければならない。
【0020】
このような理由から、我々は次の媒体としてエチレングリコール(EG)を選択した。
EGは5nBDに対してかなり良好な親和性を有しており、直接の溶媒置換法(実施例1)で3.5%まで非常に安定したコロイド溶液を与えた。
【0021】
予想通り5nBD/EGコロイドは0.1%の濃度でも非常に満足な0.01という摩擦係数を示した(図1)。EGは水よりも16倍以上の粘度であるが、水と同等の摩擦係数を示した。それ故、EG自体はスペーサーが存在しない場合でも、いくらかの潤滑効果を持っている。低コストであり、急性毒性が皆無で、取り扱いが容易で、透明性、無着色性、水との任意の割合での混和性を考慮すると、EGは汎用流体媒体の有力候補になる。
【0022】
粘度の重要性は流体媒体としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた場合にさらに明確に実証された。
DMSOは水と同程度の粘度を持っており、5nBDが存在しない場合0.095の摩擦係数を示した。それゆえ、その潤滑性は、水と同等と判断することができる。 0.1%の5nBDをDMSOに溶解した場合、得られるコロイドは許容できる摩擦係数0.023となったが(図1)、この値はEGに2倍劣っていた。おそらくSiウェーファーとサファイアボールが擦れる瞬間にスペーサーのいくらかが接触面の外に漏れたためであろう。DMSOは10%以上5nBDを溶解し、水やほとんどすべての他の溶媒と混ざるため、5nBD(非特許文献11)の最もよく知られる溶剤(実際には分散剤)として認識されていることに留意すべきである。したがって、5nBDの非常に高い個数密度が必要になった場合は、DMSOは便利な溶媒になる。
EGと他の溶媒との混合溶媒も興味深いものになるであろう。
【0023】
他の有機溶媒での5nBDのコロイド溶液も興味深いものだが、今のところいくつかの溶媒しか5nBDに実用的な親和性を示していない。ポリビニルアルコールを含む多価アルコール類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン及びそれらのエステルまたはエーテルのようなポリオキシエチレン類、プロピレングリコール、1,4
‐ ブタンジオールのようなポリアルキレングリコール類は、数%の濃度まで5nBDの安定したコロイドを与える。多価アルコール類は粘性流体から高融点固体までの広い範囲をカバーしているので、ナノころ潤滑の原理をグリースおよびワックスに展開するのに適している。
【0024】
この発明過程において、この分野でよく行われる5nBDの乾燥凝集粉末を分散溶媒に分散させる方法ではなく、水性コロイドから直接溶媒交換反応(DSER)により多価アルコールおよび他の高沸点溶剤で十分に分散したコロイドが合成できることを私たちは発見した。DSERの成功は、主に2つの要因によるものである。要因の一つは、コロイド溶液の高い熱安定性である。他の要因は、水と多価アルコールの両方が5nBDに親和性の高い良溶媒であり、5nBDの表面上の溶媒和殻中で両溶媒の高速交換が可能であるという事実である。
【0025】
以上のまとめとして、私たちは再度、我々の新しい潤滑システムにおけるスペーサーのために必要な6要件を確認し、これまでの悪名高き潤滑油を置き換えることを目指すことにする。
【0026】
(1)ユビキタス性。この条件は、最初手ごわいように見えたが、ナノ粒子に固有の粒子数効果により迅速に解決した(非特許文献6、7)。実際の問題として、私たちの考えるスペーサー潤滑は粒子数効果が必要なので、ナノ粒子でのみ動作する。おそらく粒子数効果が重要な役割を果たしている他の多くの現象も生じるだろう。
【0027】
ナノころが有効に機能するにはどの程度粒子が小さい必要があるのだろうか。スペーサーのサイズの上限は、動く物体の相対運動での表面の平滑性、σαに依存する。:ナノころの直径Dが表面のσαよりも大きい場合は、ナノころは中空の領域で擦られ物体の表面に傷を付けることになる。
Dがσαより小さい場合、ナノころは凹凸の下に隠されたままで傷を付けないだろう。したがって5nBDを用いるナノころ潤滑は5nm未満のσαを有する高度に研磨された表面では作動しないだろう。
【0028】
(2)真球性。この要件は(1)に似ているが、5nBDが最初はこの条件を満たすだろうとは私たちは思わなかった。ナノころ潤滑のこととは別のこととして、私たちは小さな天然ダイヤモンド結晶中にかなりの数のほぼ球状だが、多くの面を持つ表面形態を発見し、地下150〜300キロからダイヤモンドが地表に登るような過酷な環境下で生き残るために、準球形が最善の形態であると推測した。我々はビーズミリングによる爆轟法ナノダイヤモンド結晶凝集体の解砕時にも同様にナノダイヤモンドに過酷な条件がかかっているものと想定している(非特許文献13)。
【0029】
(3)分散性。この要件も、予期せぬ方法で満たされた。我々が最初に水でビーズミリングによって爆轟法ナノダイヤモンドの凝集体を解砕することに成功したときは、黒色で沈殿のない均一な溶液を得た。我々は、大変に驚き、ダイヤモンドを水に溶解させることができるのか疑問に思った。我々は5nBDゲルのDSCの非凍結ピークに気づいたとき、この問題は解消した(非特許文献17、18)。その後、私たちは、5nBD粒子がそのユニークな幾何学的および電子的構造により自発的に分極して結晶面上に高い静電場を生成することに気づいた。水素結合する水のような溶媒やアルコールおよび双極性非プロトン性溶媒のいくつかは強く5nBDの表面の負の静電荷と相互作用する(非特許文献12、13、14)。厳密に言うと、我々が持っているものは真の溶液ではなく、コロイドだが、我々には5nmの粒子を見ることはできないので、コロイドが真の溶液のように見える。いくつかの溶媒中での5nBDの高い "溶解性"は、本発明を構成する大きな利点の一つです。
【0030】
(4)硬さと強さ。ダイヤモンドのこれらの典型的な特性は5nBDがスペーサーとして選ばれたときに有利に働くことが十分予想される。しかし、ダイヤモンドは、{111}面の方向に沿って容易に劈開することが知られている。これらの劈開面は黒鉛微小片で覆われていると考えられるので、劈開は平面に沿って力を繰り返し及ぼした後にのみ起こると考えられ、私たちのナノころ潤滑システムにおける5nBD粒子は非常に過剰に存在するので、我々はスペーサー挙動に影響がでるほどに劈開が頻繁には起こらないだろうと考える。
【0031】
(5)入手容易性。 5nBDの原料は、最も汎用な爆発物で軍で過剰生産された爆発物であるComposition Bが保管期限切れになった物である。世界に平和が広まり将来武器の開発や生産競争が終結し爆薬原料の入荷が停止しても、我々は、他の合成法、例えばグラファイトのレーザーアブレーションなどの方法が合成法として見つかるだろうと信じている。少なくとも今から半世紀の間、我々は軍事国から十分な原料供給を受けることができるだろう。
【0032】
(6)健康リスク。ダイヤモンドは化学反応性がないため毒性が無い。細胞毒性がないことはよく研究され、確認されている(非特許文献19−21)。
非特許文献19: Differential biocompatibility of carbon nanotubes and nanodiamonds, Schrand,
A. M.; Dai, L.; Schlager, J. J.; Hussain, S. M.; Osawa, E., Diam. Rel.
Mater. 16, 2118-2123 (2007).
非特許文献20: Are diamond nanoparticles cytotoxic?, Schrand, A. M.; Huang,
H.; Carlson, C.; Schlager, J. J.; Osawa, E.; Hussain, S. M.; Dai, L., J.
Phys. Chem. B. 111, 2-7 (2007).
非特許文献21: Cytotoxicity and genotoxity of carbon nanomaterials, Schrand,
A. M.; Johnson, J.; Dai, L.; Hussain, S. M.; Schlager, J. J.; Zhu, L.; Hong,
Y.; Osawa, E., in Safety of Nanoparticles: From Manufacturing to Medical
Applications, Webster, T. J. (Ed.), Springer Science+Business Media, New
York, 2008, Chapter 8, p. 159-188.
【0033】
結論として、我々はナノテクノロジーのおかげでナノころ潤滑のための理想的な材料として5nBD粒子を使用することが可能になったと考える。ナノテクノロジーの知識がなければ、ナノころ潤滑の考え方は生まれなかっただろう。結果として我々はここで、クリーンで実用的で効率の高い潤滑の新しいコンセプトを持った。これは近い将来には潤滑油を置き換えるであろうと信じている。
【発明の効果】
【0034】
図1に示すように、 5nBDのナノころ潤滑における低摩擦係数は目覚ましいものであり、一般的にμ<0.01の超潤滑を示す。超潤滑の効果は潤滑システムにおいて実質発熱が無くなるという形で見られる。
ナノころ潤滑においては移動面の接触が厳密に排除されるので、どんな金属粒子も生じない。潤滑システムは長期間汚染されずに使用できる。これは、閉じた潤滑システムが実現可能となり水のような低沸点流体が潤滑液として使用することができることを意味する。
【0035】
超潤滑の最も有益な効果は、当然のことながら、エネルギー効率の増加である。自動車の場合には、例えば、金属部品のすべり接触における燃料消費が減少し、排気ガス中のCO排出量の減少につながる。経済と環境の両方においてナノころ潤滑の一般的な効果は素晴らしいものになる。
一桁ナノダイヤモンド潤滑により、唯一の潤滑流体としてあまりにも長く君臨してきた潤滑油の使用を、我々が今後廃止することができる可能性がある。
発明の概要は、以下の詳細な説明を添付図面と共に読むとさらによく理解できる。本発明を説明するために本発明の例示的な表現として、図面には具体的な例が示されているが、本発明は開示された特定の方法、組成、およびデバイスに限定されない。また、図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではない。図面には以下のようなことが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】潤滑流体に爆轟法ナノダイヤモンドの一次粒子である5nBDの少量を分散させた時のサファイア/Siウェハでの摩擦係数に対する効果。
図2】5nBDのナノころ潤滑に関連する諸特性の表。表の下には複雑な表面構造が断面および3Dモデルで示されている。左側は球状のシームレスモデルであり、右側が切頂八面体ホーリーバッキーモデルである。
図3】境界条件において互いに剪断運動をしている表面の凹凸間の初期の直接接触における断面のスナップショット。この際、潤滑流体の薄膜は二つの表面を接触させずにいる(1)。面間距離が7nmの臨界距離まで低下してくると(2)、凸凹の間に挟まれて擦られ始めたナノころは凸凹の先端を感じ始める。5nBDの濃度が0.1〜1%の範囲である場合には、微細な空間で擦られる5nBD数は30〜300個である。分散液が適切な粘度を有し、スペーサーが真球に起因する回転を始めた場合は、これらの粒子は、この空間に滞在する。したがって(3)に示すように、上下から凸凹先端への衝突は回避され、適切な距離が表面の間に回復されることになる。多くの場合スペーサーが表面の粗さよりも小さく、この場合は、凸凹の変形や融合に繋がる真の接触は発生しない。
図4】5nBD粒子のTEM像。 スケールバーにより5nBD粒子の大きさが認識できる。これらは鋭利な稜を持つ多面体というよりは準球形の多面に擦れたダイヤモンド結晶粒子のように見える。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、この開示の一部を構成する添付の図面及び実施例に関連している以下の詳細な説明を参照することによってより容易に理解することができる。この発明は、ここに述べられている特定の装置、方法、条件またはパラメータに限定されないことを理解すべきであり、本明細書で使用する用語は数例として、特定の実施形態を説明するためのものであり、請求項に係る発明に限定することを意図したものではない。また、添付の請求項の範囲を含む明細書で使用される単数形や複数形の言葉はそれが数の上でその表記通りに限定されるものではなくまた、文脈が明確に他を指示しない限り特定の数値への言及は少なくともその特定の値を含む。そうでなくて、値の範囲が表現されている場合は、別の実施形態が1つの特定の値および/またはから他の特定の値を含む。同様に、値が“約”のような先行詞を使用することにより近似値として表現されるとき、その特定の値が別の実施形態をも指すと理解される。すべての範囲は包含的で組み合わせて使用される。
【0038】
これをわかりやすくすると、本明細書の中で別々の実施形態において記載される本発明の複数の特徴は、単一の実施形態に組み合わせて使用することができる。逆に、簡単にするために単一の実施形態で説明されている本発明の複数の特徴は、組み合わせて別々にまたは任意のサブコンビネーションで提供することができる。さらに、範囲で記載された値は、その範囲内の各個と全ての値を含む。
【0039】
5nBDコロイド溶液の調製。 水中でのビーズミリングによる爆轟法ナノダイヤモンドの凝集体の一次粒子(5nBD)への最初の解砕は2002年に、日本の(株)ナノ炭素研究所で行われた。これはナノテクノロジーでの記念すべきブレークスルーの一つである(特許文献1)。ナノ炭素コロイドは、KraetschmerによるC60の単離成功後早くも1990年代に様々な有機溶媒にC60を溶解することによって調製された。すべての点で、C60は大きな有機分子のように振る舞った。しかし、5nBD粒子のコロイド溶液は異なる挙動である。:5nBDは水に8%までの濃度で、暗い黒色で滑らかで安定したゾルを与える!明らかに我々は最初の典型的なナノコロイドを得た。5nBDコロイドのこれら及びその後の奇妙な行動は、私たちを当惑させていたが、時間と共に多くの挙動は理解されるようになった。
【0040】
特許文献1: “Ultra-Dispersed Nanocarbon and Method for Preparing the Same”,
Kataoka, F; Osawa, E.; Fujino, T.; Takahashi, M.; Idehara, O.; Terajima, A.;
Inoue, Y.; Yokota, S.; Kawasaki, K. USP 7,300,958. Patent Issue Date Nov.
27, 2007. Patent Appl. No. 10/847,453. May 17, 2004. Priority
Claimed by JapanesePatent Appl. No. 2003-141618 (May 20, 2003).
【0041】
5nBD製品のもっとも便利で人気のある形は水性コロイドである。水性5nBDコロイドを生成する第一世代のビーズミリング手順の詳細は、別の場所で公開されている。そして我々はまもなく第二世代の手順を開示する予定である。本発明は、粘性のある有機溶媒中での5nBDコロイド溶液に関するもので、我々はこれを、水性コロイドの直接溶媒交換反応(DSER)によって得るという、便利な製造法を開示する。この反応において、5nBDの水性コロイドは、ケルダール蒸発フラスコに入れられており、これを従来のロータリーエバポレーターに取り付ける。温和な条件下で水の蒸発を開始した後、EGのような溶媒をゆっくりと連続的に真空を破ることなく、薄いPPのパイプとバルブを介して蒸発フラスコ中に導入する。水の計算量が留出するまで蒸発した水をメスフラスコに回収する。
EGは197.3℃の沸点を持つので、このショートパス蒸留は迅速に溶媒交換を行い、うまくいくと水の0.5%未満を含有する多価アルコール溶媒中で5nBDのきれいなコロイドが得られる。濃度、粒径分布、粘度、pH、およびζ電位は、既知の方法を用いて測定した。例を以下に示す。
【0042】
希薄溶液における5nBDの粒度決定に関する注。我々は最近、コロイド溶液の希釈時に5nBDが凝集することに気づいた。希釈凝集の原因は完全には理解できないが、凝集は水性コロイドの数個の粒子を含む程度に起こっていることがわかっている。凝集物は数時間超音速洗浄浴中に浸漬することによって、再分散することはできなかった。強力な超音波プロセッサを照射した後にのみ再分散ができた。
【0043】
5nBDコロイド溶液の性質。ナノころ潤滑のコロイド溶液は希薄であり、通常は0.1%未満なので、外観及び潤滑剤の特性は、ほぼ純粋な溶媒のものである:安定した、非可燃性、純粋、ほぼ無色の、軽く、滑らかで、透明、任意の割合で水と混和し、無毒である。したがって、摩擦による熱の発生がなく、溶媒の熱劣化が起きない。その結果、潤滑剤は、長い時間クリーンなままで、5nBD粒子はよく分散し、沈殿することは決してない。
ナノころ潤滑剤の取り扱いは、潤滑油に比べて、簡単かつ快適です。こぼれた滴は速やかに流水で洗い流すことができる。比較的高粘度なので、引火性はない。
【0044】
ナノころ潤滑における摩擦係数の測定。動摩擦係数は、半球状のサファイア製で直径1−2mmのスライダーと、1×1cmのシリコンウェハを基盤として、10−40mNの負荷、10Hzの周波数、1.5ミリメートルの振幅により線形逆数摩擦マイクロテスター(光洋精密機器、三鷹、東京、タイプKH−851製)で測定した。摩擦力は高感度トランスデューサーでモニターした。
シリコン板は振動装置上に設置し、コロイド溶液で覆われている。
【0045】
材料。5nBD粒子は広州番禺Guangda電気機器有限公司(広州、中国)から購入した爆轟法ナノダイヤモンドの凝集体を(株)ナノ炭素研究所(上田、日本)で解砕することによって製造した。製造手順、特性、幾何学的構造ならびに電子構造と性質は他で公開されている(非特許文献6−8)。立方晶ダイヤモンドの一次粒子単結晶の平均粒径は4.7±0.7nmである。ダイヤモンド炭素の含有量は内部標準(NaF)によって校正したX線回折強度の測定によると、現在の製品では92wt%である。品質保証グレードのEG及び他の化学物質を購入して使用した。カールフィッシャー法によって、EGの含水率は0.12±0.03%と決定された(下記参照)。
【0046】
方法。有機溶媒中でのコロイド5nBDの含水率は、787 KF Titrino カールフィッシャー装置に806交換ユニットと703滴定スタンド及びMetrodata VESUV ソフトウェアを組み合わせて、主に多価アルコール中で測定した。これらの装置はすべてスイスのメトローム社製である。
【実施例1】
【0047】
5nBDの3.5%EGコロイドの調製
300ミリリットルのケルダールフラスコに5nBDの5.27パーセント水性コロイド100mlを入れ、これにEG50ミリリットルをゆっくりと磁気攪拌、窒素気流下のもと30分間で滴下漏斗から滴下した。この際沈殿は生じなかった。フラスコをロータリーエバポレーター(ヤマト RE440)に装着し、水を3時間の間に40ヘクトパスカル、60℃で蒸留した。この間に100ミリリットルのEGを、真空を破ることなく、バルブ制御の入口から2回に分けて添加した。107ミリリットルの留出物を回収した。残留黒色コロイドの一部をとり、カールフィッシャー滴定により0.49±0.02%の含水率を得た。 DLS分析は4.8±0.5ナノメートル(100.00体積%)の平均粒子分布を明らかにした。出発物の水性コロイドも4.8±0.5ナノメートル(100.00体積%)の分布を示したので、EGコロイドは、溶媒交換の際に粒径分布を維持することがわかった。このようにして調製したEGコロイドの色は深い鮮明な黒で、少なくとも3ヶ月間、目に見えるものは沈殿しない。乾燥5nBD粒子(凝集体)をEGに再溶解するときには3日間、強烈な超音波処理やその間頻繁にマグネチックスターラーや手で攪拌操作をしたが、製品はやや濁っていた。また、この際可能な最大濃度は約2%であ
【実施例2】
【0048】
5nBDの5%DMSOコロイドの調製
2リットルのケルダールフラスコにまず5nBDの5.80%水性コロイドを800ミリリットル入れ、フラスコをロータリーエバポレーターに取り付けて480ミリリットルの水を60℃、50ヘクトパスカルにおいて1時間かけて留去した。さらに同じ母液の親水性コロイド300ミリリットルと新鮮なDMSO200ミリリットルを、真空を破ることなく、バルブ制御の入口から蒸発フラスコに入れ、水の蒸発を継続した。次の1時間の間に、水を絶えず蒸留しながらDMSO合計1リットルを同様にバルブ入口から蒸発フラスコに導入した。
DMSOの添加が完了した後、徐々にフラスコの温度を上げるとともに圧力を減少させながら、最終的には70℃、35 ヘクトパスカルになるようにしつつ、さらに3時間水の留去を継続した。この時間の終わりに、水は合計1060ミリリットル回収した。したがって、水の回収率は96%に達した。
蒸発フラスコに残っていたDMSOコロイドの一部を取ってDLS分析したところ、5nBDの粒径は、使用した最初の水性コロイドよりも有意に大きく5.8±0.7nm(100.00体積%)であることが判明した(実験例1を参照)。そこで、この粗製DMSOコロイドに、ソノトロードH22(先端径22ミリメートル、音響パワー密度85 W/cm)を装着した超音波プロセッサUP-400S(400W、24kHz)(いずれもドイツDr. Hielscher GmbH、 Teltow, Germany)を使用して、1時間約300ml
/分の速度でペリスタポンプによりコロイド溶液を循環させながら,強力な超音波を照射した。これにより、粒径が4.4±0.3nm(100.00体積%)の許容範囲に減少した。 5nBDの濃度は、簡単な乾燥法により6.71w/v%であることが決定された。最後に得られたコロイドは、実験例1と同様の外見で、迷光下、室温で貯蔵して少なくとも3ヶ月間、沈殿は生成しなかった。
【実施例3】
【0049】
水中の摩擦係数μの決定
5nBDの水性コロイドの濃度を5.0から0.1パーセントに調整したのち、摩擦測定装置の往復運動するサファイアスライダーとシリコン板との間の経路に沿って注入し、振動下で動的μを測定した。純水のμ値、約0.086に比べて、1%の5nBDを含有する水は0.005から0.01程度の驚くほど小さいμ値を示した。この超潤滑は少なくとも500分間保持され、十分な個数のスペーサーが使用されていることを示した。その後、我々は濃度を増加させるとさらに良い潤滑につながるだろうと考えた。しかし、5%のコロイドは、1%を凌駕せず、既に個数影響の観点から言うと、1%の濃度で粒子は必要な個数を満たしていることが示唆された。希釈により、μ値は、ある濃度範囲中では超潤滑レベルになったが、0.3%から増加し始めそれ以下では増加した。この増加は、水の粘度が低すぎることに起因するものと解釈された(上記参照)。
【実施例4】
【0050】
EG中の摩擦係数の決定
5nBDで使用できる溶剤の種類は限られるので、水以外の他の溶剤に対する選択は限られていた。その中でもEGおよびその類似体(ポリオキシエチレン)は最も有望に見えた。予想されるように、5nBDのEGコロイドは0.1%レベルで超潤滑性を示した。
【実施例5】
【0051】
DMSO中の摩擦係数の決定
DMSOは、正確には決定していないがおそらくその飽和濃度は10%を超えるであろうと思われ、この点で他の溶媒より群を抜いて、また水よりも幾分良く、5nBDの最良の溶媒である。おそらくこの高い溶媒和能力のために、DMSO中では0.1%濃度で5nBDは非常に低いμの値を維持した。しかし、DMSOは、低粘度が問題である。
【0052】
引用文献のリスト
特許文献
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【符号の説明】
【0053】
5nBD 5nmのバッキーダイヤモンド
D 直径
DLS 動的光散乱
DMSO ジメチルスルホキシド
DSC 示差走査熱量測定
DSER 直接溶媒交換反応
EG エチレングリコール
PP ポリプロピレン
SCC DFTB 自己無撞着電荷密度汎関数タイトバインディング
σα 表面の凸凹の最高点と最低点の間の高さ距離の観点から見た表面粗さ
図1
図2
図3
図4