(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸性リン酸エステル、酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種は、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンとアミン塩を形成した状態で配合される請求項4記載の潤滑油。
チオリン酸ジエステル及び/又はチオリン酸ジエステルのアミン塩に由来するリン成分の含有量が、前記潤滑油の質量を100%としたときに、0.010%以上である請求項6記載の潤滑油。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第一の潤滑油)
本発明の潤滑油である第一の潤滑油は、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル(
化9),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する
化9のR
4が水素の亜リン酸モノエステル(
化10)の少なくとも一方を有するものから選ばれ、炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル
(上記化7)と、炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン
(上記化8)と、を有する。
【化9】
【化10】
【0031】
第一の潤滑油に配合される亜リン酸ジエステル及び亜リン酸モノエステルは、
後述の第二の潤滑油における脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と同様に機能し、同様の効果を発揮する。つまり、亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルは、潤滑油に添加されると摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる。具体的には、摩擦式差動制限装置に用いられたときに、摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能すると考えられる。
【0032】
なお、亜リン酸ジエステルにおいて、炭素数18〜20の
飽和もしくは不飽和の炭化水素基(
化7のR
3,R
4で示される炭化水素基)の炭素数,亜リン酸モノエステルにおいて、炭素数18〜20の
飽和もしくは不飽和の炭化水素基(
化10のR
5で示される炭化水素基)の炭素数が11以下となると、固体接触を防止するのに有効な吸着膜厚さを確保できない。また、炭化水素基の炭素数が21以上になると極性が小さくなり摩擦面への吸着性が低下する。
【0033】
第一の潤滑油において、潤滑油の質量を100%としたときに、亜リン酸ジエステル,亜リン酸モノエステル,亜リン酸ジエステルと亜リン酸モノエステルの合計,のいずれかが1.0〜5.0%で含まれることが好ましい。亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルの添加量が1.0〜5.0mass%となることで、潤滑油が用いられる摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる効果をより発揮する。
【0034】
なお、亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルの添加量が1.0mass%未満では耐久性だけでなく所望のμ−v特性が得られなくなる。添加量が5.0mass%を超えると、吸着膜形成が過度となり化学摩耗を生じたり、添加剤成分が潤滑油から析出するという問題が発生するようになる。より好ましい添加量は、1.5〜4.0mass%である。
【0035】
亜リン酸ジエステル,亜リン酸モノエステルの
飽和もしくは不飽和の炭化水素基は、炭素数が18〜20の炭化水素基であり、炭素数が18の不飽和炭化水素基であることが好ましい。第一の潤滑油において、FM剤として添加される添加剤の炭化水素基は、炭素数
18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基であればよいが、炭素数が18の不飽和炭化水素基であることでより添加の効果を発揮することができる。さらに、不飽和炭化水素基となることで、潤滑油中により大量の添加剤を溶解させることができ、耐久性が向上する。飽和炭化水素基は、アルケニル基であることが好ましい。炭素数が18の不飽和炭化水素基は、オレイル基であることがより好ましい。
第一の潤滑油では、炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンを含有する。脂肪族アミンは、潤滑油に添加されると摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる。具体的には、摩擦式差動制限装置に用いられたときに、摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能すると考えられる。
なお、脂肪族アミンにおいて、飽和もしくは不飽和の炭化水素基(
化8中のR
1で示される炭化水素基)の炭素数が11以下となると、固体接触を防止するのに有効な吸着膜厚さを確保できなくなる。炭化水素基の炭素数が21以上になると極性が小さくなり摩擦面への吸着性が低下する。
第一の潤滑油において、潤滑油の質量を100%としたときに、脂肪族アミンが1.0〜5.0%で含まれることが好ましく、第一の潤滑油では1.5〜5.0%で含まれる。脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物の添加量が1.0〜5.0mass%となることで、潤滑油が用いられる摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる効果をより発揮する。
なお、脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物の添加量が1.0mass%未満では耐久性だけでなく所望のμ−v特性が得られなくなる。添加量が5.0mass%を超えると、吸着膜形成が過度となり化学摩耗を生じたり、添加剤成分が潤滑油から析出するという問題が発生するようになる。より好ましい添加量は、1.5〜4.0mass%であり、さらに好ましくは3.0mass%である。なお、これらの含有割合の数値は、一般的な誤差を含む。
脂肪族アミンの飽和もしくは不飽和の炭化水素基は、炭素数が18の不飽和炭化水素基であることが好ましい。第一の潤滑油において、FM剤として添加される添加剤の炭化水素基は、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基であればよいが、炭素数が18の不飽和炭化水素基であることでより添加の効果を発揮することができる。さらに、不飽和炭化水素基となることで、潤滑油中により大量の添加剤を溶解させることができ、耐久性が向上する。飽和炭化水素基は、アルケニル基であることが好ましい。炭素数が18の不飽和炭化水素基は、オレイル基であることがより好ましい。
【0036】
潤滑油の質量を100%としたときに、リン成分の含有量が、0.20≦P≦0.50%となるように、酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種を有することが好ましい。
【0037】
酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種は、摩擦式差動制限装置のデファレンシャルギヤに用いられる場合に、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止することができる。
【0038】
リン成分の含有量が、0.20mass%未満では、十分な摩耗防止性と焼付き防止性が確保できない。また、0.50mass%を超えると、極圧剤による反応性が過剰となり、化学摩耗あるいは腐食摩耗を生じるという問題が発生するようになる。より好ましい含有量は、0.20〜0.40mass%である。
なお、酸性リンエステル、酸性チオリン酸エステルは、モノエステル、ジエステルおよびトリエステル、あるいはこれらのエステルの混合物であってもよい。
【0039】
酸性リン酸エステル、酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種は、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンとアミン塩を形成した状態で配合されることが好ましい。酸性リン酸エステル、酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種が、アミン塩を形成することで、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。
【0040】
なお、リン系極圧剤成分として、脂肪族アミンとアミン塩を形成させるためには、OH基を有する酸性リンエステルあるいは酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種を配合することが好ましい。
第一の潤滑油は、従来の潤滑油と同様に、基油と、基油に配合した添加剤と、から構成することができる。
【0041】
そして、第一の潤滑油は、基油として炭化水素油を有し、光路長0.05mm±0.005mmの液体用固定セルを用いた赤外分光分析による潤滑油の赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピーク吸光度が1.5以下となっていることが
好ましく、第一の潤滑油では、1.2以下となる。
【0042】
基油は、非エステル系の基油(炭化水素油)
である。基油にエステル成分が多く含まれるほど、極性基を有する添加剤(FM剤)の吸着が阻害される。すなわち、基油には、エステル成分が少ない方がより好ましい。そして、赤外分光分析(FT−IR)における赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピークは、エステル成分に対応するピークを示す。つまり、潤滑油のFT−IRにおいて1740±20cm
−1のピーク吸光度が小さいほど、基油に含まれるエステル成分が少なくなることを示す。
【0043】
第一の潤滑油は、
31P−核磁気共鳴分析において、57±2ppmのピークが示されることが好ましい。
31P−核磁気共鳴分析(NMR)において、57ppm付近にはチオリン酸ジエステルに帰属されるピークが検出される。すなわち、NMRにおいて57±2ppmのピークが示される潤滑油は、チオリン酸ジエステルを含有する。チオリン酸ジエステルを含有する潤滑油は、摩擦式駆動力伝達装置において、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。すなわち、NMRにおいて57±2ppmのピークが示されることで、摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。
【0044】
チオリン酸ジエステル及び/又はチオリン酸ジエステルのアミン塩に由来するリン成分の含有量が、潤滑油の質量を100%としたときに、0.010%以上であることが好ましい。リン成分の含有量が0.010%未満では、リン成分の含有量が少なすぎて、添加の効果が十分に発揮されなくなる。
チオリン酸ジエステルは
化11に、チオリン酸ジエステルのアミン塩は
化12に示した化合物であることが好ましい。
【0047】
(第二の潤滑油)
参考発明の潤滑油である第二の潤滑油は、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(
化13),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物(
化14)の少なくとも一方を有する。
【化13】
【化14】
【0048】
第二の潤滑油に配合される上記の
化13で示される脂肪族アミン、
化14で示される脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物は、潤滑油に添加されると摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる。具体的には、摩擦式差動制限装置に用いられたときに、摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能すると考えられる。
【0049】
なお、脂肪族アミンおよび脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物において、飽和もしくは不飽和の炭化水素基(
化13,14中のR
1,R
2で示される炭化水素基)の炭素数が11以下となると、固体接触を防止するのに有効な吸着膜厚さを確保できなくなる。炭化水素基の炭素数が21以上になると極性が小さくなり摩擦面への吸着性が低下する。
【0050】
また、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物は,
化14に示したように、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加量(x+y)が1〜3の範囲となっている。付加量が3を超えると、極性が高くなり、基油への溶解性が不足するため潤滑油中から分離し易くなるという問題が発生する。
【0051】
第二の潤滑油において、潤滑油の質量を100%としたときに、脂肪族アミン,脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物,脂肪族アミンと脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物の合計,のいずれかが1.0〜5.0%で含まれることが好ましい。脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物の添加量が1.0〜5.0mass%となることで、潤滑油が用いられる摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる効果をより発揮する。
【0052】
なお、脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物の添加量が1.0mass%未満では耐久性だけでなく所望のμ−v特性が得られなくなる。添加量が5.0mass%を超えると、吸着膜形成が過度となり化学摩耗を生じたり、添加剤成分が潤滑油から析出するという問題が発生するようになる。より好ましい添加量は、1.5〜4.0mass%である。
【0053】
脂肪族アミン,脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物の炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基は、炭素数が18の不飽和炭化水素基であることが好ましい。
第二の潤滑油において、FM剤として添加される添加剤の炭化水素基は、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基であればよいが、炭素数が18の不飽和炭化水素基であることでより添加の効果を発揮することができる。さらに、不飽和炭化水素基となることで、潤滑油中により大量の添加剤を溶解させることができ、耐久性が向上する。飽和炭化水素基は、アルケニル基であることが好ましい。炭素数が18の不飽和炭化水素基は、オレイル基であることがより好ましい。
【0054】
潤滑油の質量を100%としたときに、リン成分の含有量が、0.20≦P≦0.50%となるように、酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種を有することが好ましい。
【0055】
酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種は、摩擦式差動制限装置のデファレンシャルギヤに用いられる場合に、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止することができる。
【0056】
リン成分の含有量が、0.20mass%未満では、十分な摩耗防止性と焼付き防止性が確保できない。また、0.50mass%を超えると、極圧剤による反応性が過剰となり、化学摩耗あるいは腐食摩耗を生じるという問題が発生するようになる。より好ましい含有量は、0.20〜0.40mass%である。
なお、酸性リンエステル、酸性チオリン酸エステルは、モノエステル、ジエステルおよびトリエステル、あるいはこれらのエステルの混合物であってもよい。
【0057】
酸性リン酸エステル、酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種は、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンとアミン塩を形成した状態で配合されることが好ましい。酸性リン酸エステル、酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種が、アミン塩を形成することで、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。なお、酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種がアミン塩を形成する炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンは、上記の
化7に記載の脂肪族アミンであることが好ましい。
【0058】
なお、リン系極圧剤成分として、脂肪族アミンとアミン塩を形成させるためには、OH基を有する酸性リンエステルあるいは酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種を配合することが好ましい。
第二の潤滑油は、従来の潤滑油と同様に、基油と、基油に配合した添加剤と、から構成することができる。
【0059】
そして、
第二の潤滑油は、基油として炭化水素油を有し、光路長0.05mm±0.005mmの液体用固定セルを用いた赤外分光分析による潤滑油の赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピーク吸光度が1.5以下となっていることが好ましい。
【0060】
基油は、非エステル系の基油(炭化水素油)であることが好ましい。基油にエステル成分が多く含まれるほど、極性基を有する添加剤(FM剤)の吸着が阻害される。すなわち、基油には、エステル成分が少ない方がより好ましい。そして、赤外分光分析(FT−IR)における赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピークは、エステル成分に対応するピークを示す。つまり、潤滑油のFT−IRにおいて1740±20cm
−1のピーク吸光度が小さいほど、基油に含まれるエステル成分が少なくなることを示す。
【0061】
第二の潤滑油は、
31P−核磁気共鳴分析において、57±2ppmのピークが示されることが好ましい。
31P−核磁気共鳴分析(NMR)において、57ppm付近にはチオリン酸ジエステルに帰属されるピークが検出される。すなわち、NMRにおいて57±2ppmのピークが示される潤滑油は、チオリン酸ジエステルを含有する。チオリン酸ジエステルを含有する潤滑油は、摩擦式駆動力伝達装置において、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。すなわち、NMRにおいて57±2ppmのピークが示されることで、摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。
【0062】
チオリン酸ジエステル及び/又はチオリン酸ジエステルのアミン塩に由来するリン成分の含有量が、潤滑油の質量を100%としたときに、0.010%以上であることが好ましい。リン成分の含有量が0.010%未満では、リン成分の含有量が少なすぎて、添加の効果が十分に発揮されなくなる。
チオリン酸ジエステルは上記
化11に、チオリン酸ジエステルのアミン塩は上記
化12に示した化合物であることが好ましい。
【0063】
(第三の潤滑油)
参考発明の潤滑油である第三の潤滑油は、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記
化13),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物(上記
化14)の少なくとも一方と、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル(化9),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する上記化9のR
4が水素の亜リン酸モノエステル(化10)の少なくとも一方と、を有する。
【0064】
第三の潤滑油は、上記の第一の潤滑油及び第二の潤滑油のそれぞれにおいて配合されている添加剤を同時に有している。この結果、上記の二つの発明における効果を同時に発揮できる。すなわち、脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルの両者が、潤滑油に添加されると摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる。具体的には、摩擦式差動制限装置に用いられたときに、摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能すると考えられる。
【0065】
なお、脂肪族アミンおよび脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物において、飽和もしくは不飽和の炭化水素基(
化13,14中のR
1,R
2で示される炭化水素基)の炭素数が11以下となると、固体接触を防止するのに有効な吸着膜厚さ確保できなくなる。炭化水素基の炭素数が21以上になると極性が小さくなり摩擦面への吸着性が低下する。
【0066】
また、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物は,
化14に示したように、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加量(x+y)が1〜3の範囲となっている。付加量が3を超えると、極性が高くなり、基油への溶解性が不足するため潤滑油中から分離し易くなるという問題が発生する。
【0067】
また、亜リン酸ジエステルにおいて、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基(
化9のR
3,R
4で示される炭化水素基)の炭素数,亜リン酸モノエステルにおいて、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基(
化10のR
5で示される炭化水素基)の炭素数が11以下となると、固体接触を防止するのに有効な吸着膜厚さ確保できない。また、炭化水素基の炭素数が21以上になると極性が小さくなり摩擦面への吸着性が低下する。
【0068】
第三の潤滑油において、潤滑油の質量を100%としたときに、脂肪族アミン,脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物,脂肪族アミンと脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物の合計,のいずれかが1.0〜5.0%で含まれ、亜リン酸ジエステル,亜リン酸モノエステル,亜リン酸ジエステルと亜リン酸モノエステルの合計,のいずれかが、潤滑油の質量を100%としたときに、1.0〜5.0%で含まれることが好ましい。脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物の添加量が1.0〜5.0mass%となり、かつ亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルの添加量が1.0〜5.0mass%となることで、潤滑油が用いられる摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる効果をより発揮する。
【0069】
なお、脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物及び亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルのそれぞれの添加量が1.0mass%未満では耐久性だけでなく所望のμ−v特性を得る効果が少なくなる。それぞれの添加量が5.0mass%を超えると、吸着膜形成が過度となり化学摩耗を生じたり、添加剤成分が潤滑油から析出するという問題が発生するようになる。より好ましい添加量は、脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物及び亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルのそれぞれの添加量が1.5〜4.0mass%である。
【0070】
亜リン酸ジエステル,亜リン酸モノエステルの炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基は、炭素数が18の不飽和炭化水素基であることが好ましい。
第三の潤滑油において、FM剤として添加される添加剤の炭化水素基は、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基であればよいが、炭素数が18の不飽和炭化水素基であることでより添加の効果を発揮することができる。さらに、不飽和炭化水素基となることで、潤滑油中により大量の添加剤を溶解させることができ、耐久性が向上する。飽和炭化水素基は、アルケニル基であることが好ましい。炭素数が18の不飽和炭化水素基は、オレイル基であることがより好ましい。
【0071】
潤滑油の質量を100%としたときに、リン成分の含有量が、0.20≦P≦0.50%となるように、酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種を有することが好ましい。
【0072】
酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種は、摩擦式差動制限装置のデファレンシャルギヤに用いられる場合に、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止することができる。
【0073】
リン成分の含有量が、0.20mass%未満では、十分な摩耗防止性と焼付き防止性が確保できない。また、0.50mass%を超えると、極圧剤による反応性が過剰となり、化学摩耗あるいは腐食摩耗を生じるという問題が発生するようになる。より好ましい含有量は、0.20〜0.40mass%である。
なお、酸性リンエステル、酸性チオリン酸エステルは、モノエステル、ジエステルおよびトリエステル、あるいはこれらのエステルの混合物であってもよい。
【0074】
酸性リン酸エステル、酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種は、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンとアミン塩を形成した状態で配合されることが好ましい。酸性リン酸エステル、酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種が、アミン塩を形成することで、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。なお、酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種がアミン塩を形成する炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンは、上記の
化13に記載の脂肪族アミンであることが好ましい。
【0075】
なお、リン系極圧剤成分として、脂肪族アミンとアミン塩を形成させるためには、OH基を有する酸性リンエステルあるいは酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種を配合することが好ましい。
第三の潤滑油は、従来の潤滑油と同様に、基油と、基油に配合した添加剤と、から構成することができる。
【0076】
そして、
第三の潤滑油は、基油として炭化水素油を有し、光路長0.05mm±0.005mmの液体用固定セルを用いた赤外分光分析による潤滑油の赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピーク吸光度が1.5以下となっていることが好ましい。
【0077】
基油は、非エステル系の基油(炭化水素油)であることが好ましい。基油にエステル成分が多く含まれるほど、極性基を有する添加剤(FM剤)の吸着が阻害される。すなわち、基油には、エステル成分が少ない方がより好ましい。そして、赤外分光分析(FT−IR)における赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピークは、エステル成分に対応するピークを示す。つまり、潤滑油のFT−IRにおいて1740±20cm
−1のピーク吸光度が小さいほど、基油に含まれるエステル成分が少なくなることを示す。
【0078】
第三の潤滑油は、
31P−核磁気共鳴分析において、57±2ppmのピークが示されることが好ましい。
31P−核磁気共鳴分析(NMR)において、57ppm付近にはチオリン酸ジエステルに帰属されるピークが検出される。すなわち、NMRにおいて57±2ppmのピークが示される潤滑油は、チオリン酸ジエステルを含有する。チオリン酸ジエステルを含有する潤滑油は、摩擦式駆動力伝達装置において、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。すなわち、NMRにおいて57±2ppmのピークが示されることで、摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。
【0079】
チオリン酸ジエステル及び/又はチオリン酸ジエステルのアミン塩に由来するリン成分の含有量が、潤滑油の質量を100%としたときに、0.010%以上であることが好ましい。リン成分の含有量が0.010%未満では、リン成分の含有量が少なすぎて、添加の効果が十分に発揮されなくなる。
チオリン酸ジエステルは上記
化11に、チオリン酸ジエステルのアミン塩は上記
化12に示した化合物であることが好ましい。
【0080】
(第四の潤滑油)
参考発明の潤滑油である第四の潤滑油は、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記
化13)と、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル(上記化9),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸モノエステル(上記化10)の少なくとも一方と、を有することを特徴とする。
【0081】
第四の潤滑油は、上記の第二の潤滑油において配合可能な添加剤である脂肪族アミンと、
第三の潤滑油
において配合されている添加剤
のうち亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルを同時に有している。この結果、上記の二つの発明における効果を同時に発揮できる。すなわち、脂肪族アミン及び/又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸モノエステルの両者が、潤滑油に添加されると摩擦式差動制限装置においてμ−v特性を正勾配化させる。具体的には、摩擦式差動制限装置に用いられたときに、摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能すると考えられる。
【0082】
なお、脂肪族アミンおよび脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物において、飽和もしくは不飽和の炭化水素基(
化13中のR
1で示される炭化水素基)の炭素数が11以下となると、固体接触を防止するのに有効な吸着膜厚さ確保できなくなる。炭化水素基の炭素数が21以上になると極性が小さくなり摩擦面への吸着性が低下する。
【0083】
第四の潤滑油において、亜リン酸ジエステル(下記
化15)及び/又は亜リン酸モノエステル(下記
化16)は、脂肪族アミンとアミン塩を形成した状態で配合されることが好ましい。このアミン塩は、油溶性であり、潤滑油の基油に均一に溶解(分散)する。つまり、層分離や析出が生じることなく、潤滑油の基油に均一に溶解(分散)することで、摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する効果を発揮できる。
【0086】
(第五の潤滑油)
参考発明の潤滑油である第五の潤滑油は、
31P−核磁気共鳴分析において、57±2ppmのピークが示されることを特徴とする。
31P−核磁気共鳴分析(NMR)において、57ppm付近にはチオリン酸ジエステルに帰属されるピークが検出される。すなわち、NMRにおいて57±2ppmのピークが示される潤滑油は、チオリン酸ジエステルを含有する。チオリン酸ジエステルを含有する潤滑油は、摩擦式駆動力伝達装置において、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。すなわち、NMRにおいて57±2ppmのピークが示されることで、摩耗と焼付きを防止しながら、μ−v特性を正勾配方向に改善することの効果をより発揮できる。
【0087】
チオリン酸ジエステル及び/又はチオリン酸ジエステルのアミン塩に由来するリン成分の含有量が、潤滑油の質量を100%としたときに、0.010%以上であることが好ましい。リン成分の含有量が0.010%未満では、リン成分の含有量が少なすぎて、添加の効果が十分に発揮されなくなる。
チオリン酸ジエステルのアミン塩は上記化9に、チオリン酸ジエステルのアミン塩は上記
化16に示した化合物であることが好ましい。
【0088】
潤滑油の質量を100%としたときに、リン成分の含有量が、0.20≦P≦0.50%となるように、酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種を有することが好ましい。
【0089】
酸性リン酸エステル,酸性チオリン酸エステルの少なくとも1種は、摩擦式差動制限装置のデファレンシャルギヤに用いられる場合に、ギヤ歯車部の摩耗と焼付きを防止することができる。
【0090】
リン成分の含有量が、0.20mass%未満では、十分な摩耗防止性と焼付き防止性が確保できない。また、0.50mass%を超えると、極圧剤による反応性が過剰となり、化学摩耗あるいは腐食摩耗を生じるという問題が発生するようになる。より好ましい含有量は、0.20〜0.40mass%である。
なお、酸性リンエステル、酸性チオリン酸エステルは、モノエステル、ジエステルおよびトリエステル、あるいはこれらのエステルの混合物であってもよい。
【0091】
第五の潤滑油は、基油として炭化水素油を有し、光路長0.05mm±0.005mmの液体用固定セルを用いた赤外分光分析による潤滑油の赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピーク吸光度が1.5以下となっていることが好ましい。
【0092】
第五の潤滑油は、上記の各潤滑油において説明したように、基油が、非エステル系の基油(炭化水素油)である。基油にエステル成分が多く含まれるほど、極性基を有する添加剤(FM剤)の吸着が阻害される。すなわち、基油には、エステル成分が少ない方がより好ましい。そして、赤外分光分析(FT−IR)における赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピークは、エステル成分に対応するピークを示す。つまり、潤滑油のFT−IRにおいて1740±20cm
−1のピーク吸光度が小さいほど、基油に含まれるエステル成分が少なくなることを示す。
【0093】
(第一の摩擦部材)
本発明の摩擦部材である第一の摩擦部材は、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、
炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル(上記
化7)
と、炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記化8)と、を有する該潤滑油が介在する。
潤滑油の質量を100%としたときに、1.5〜5.0%で含まれる、炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記
化8)と、炭化水素油よりなる基油と、を有し、光路長0.05mm±0.005mmの液体用固定セルを用いた赤外分光分析による潤滑油の赤外スペクトルでの波数1740±20cm
−1のピーク吸光度が1.2以下となっている潤滑油が介在することを特徴とする。
【0094】
すなわち、
第一の摩擦部材は、上記の
第一の潤滑油が介在する。
第一の摩擦部材は、上記したように、摩擦式駆動力伝達装置に用いられたときに摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する添加剤を有する潤滑油を用いていることから、摩擦部材のμ−v特性が正勾配方向に改善され、摩擦時の静粛性が確保できるようになっている。
【0095】
第一の摩擦部材において、摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面には、ダイヤモンドライクカーボン膜が形成されていることが好ましい。摩擦部材においては、摺動条件が厳しくなると(高面圧や高温下で摺動すると)、摺動面が摩耗するようになる。この摺動面にダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を形成することで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。さらに、DLC膜は、相手材に対する攻撃性が低いため、潤滑油の劣化のスピードを鈍化させることができる。
【0096】
ここで、摺動面に形成されるDLC膜は、従来公知のDLC膜と同様にして形成することができる。また、膜厚についても、摩擦部材の摺動条件により、適宜決定できる。
【0097】
第一の摩擦部材において、摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面には、タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜が形成され、他方の摺動面は、窒化処理が施されていることが好ましい。また、他方の摺動面には、鉄系金属により形成され、その表面に窒化処理が施されていることが好ましい。
【0098】
上記のDLC膜のときと同様に、一方の摺動面にタングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜(WC/C膜)を形成することで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。このWC/C膜は、タングステンカーバイドがリッチな層と、ダイヤモンドライクカーボンがリッチな層とが積層した構成を有しており、両層が繰り返し積層した構成となることで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0099】
また、他方の摺動面には、窒化処理が施されることで、表面に窒化被膜が形成される。窒化被膜は、高い硬度を有しており、WC/C膜が形成された摩擦部材からの被攻撃性に対して摩耗が発生することが抑えられる。
【0100】
なお、上記したDLC膜及びWC/C膜は、摩擦部材の表面への形成方法が限定されるものではなく、従来公知の方法により形成できる。また、各膜の膜厚についても、特に限定されるものではなく、摩擦部材の使用条件により適宜設定できる。
【0101】
摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面は、鉄系金属により形成され、他方の摺動面は、窒化処理が施されていることが好ましい。すなわち、本発明の摩擦部材において、上記の潤滑油は、DLC膜やWC/C膜が形成されていない状態であっても、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0102】
(第二の摩擦部材)
参考発明の摩擦部材である第二の摩擦部材は、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記
化13),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物(上記
化14)の少なくとも一方を有する該潤滑油が介在する。
【0103】
すなわち、
第二の摩擦部材は、上記の
第二の潤滑油が介在する。
第二の摩擦部材は、上記したように、摩擦式駆動力伝達装置に用いられたときに摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する添加剤を有する潤滑油を用いていることから、摩擦部材のμ−v特性が正勾配方向に改善され、摩擦時の静粛性が確保できるようになっている。
【0104】
第二の摩擦部材において、摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面には、ダイヤモンドライクカーボン膜が形成されていることが好ましい。摩擦部材においては、摺動条件が厳しくなると(高面圧や高温下で摺動すると)、摺動面が摩耗するようになる。この摺動面にダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を形成することで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。さらに、DLC膜は、相手材に対する攻撃性が低いため、潤滑油の劣化のスピードを鈍化させることができる。
【0105】
ここで、摺動面に形成されるDLC膜は、従来公知のDLC膜と同様にして形成することができる。また、膜厚についても、摩擦部材の摺動条件により、適宜決定できる。
【0106】
第二の摩擦部材において、摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面には、タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜が形成され、他方の摺動面は、窒化処理が施されていることが好ましい。また、他方の摺動面には、鉄系金属により形成され、その表面に窒化処理が施されていることが好ましい。
【0107】
上記のDLC膜のときと同様に、一方の摺動面にタングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜(WC/C膜)を形成することで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。このWC/C膜は、タングステンカーバイドがリッチな層と、ダイヤモンドライクカーボンがリッチな層とが積層した構成を有しており、両層が繰り返し積層した構成となることで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0108】
また、他方の摺動面には、窒化処理が施されることで、表面に窒化被膜が形成される。窒化被膜は、高い硬度を有しており、WC/C膜が形成された摩擦部材からの被攻撃性に対して摩耗が発生することが抑えられる。
【0109】
なお、上記したDLC膜及びWC/C膜は、摩擦部材の表面への形成方法が限定されるものではなく、従来公知の方法により形成できる。また、各膜の膜厚についても、特に限定されるものではなく、摩擦部材の使用条件により適宜設定できる。
【0110】
摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面は、鉄系金属により形成され、他方の摺動面は、窒化処理が施されていることが好ましい。すなわち、
第二の摩擦部材において、上記の潤滑油は、DLC膜やWC/C膜が形成されていない状態であっても、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0111】
(第三の摩擦部材)
参考発明の摩擦部材である第三の摩擦部材は、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記
化13),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物(上記
化14)の少なくとも一方と、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル(上記化9),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸モノエステル(上記化10)の少なくとも一方と、を有する潤滑油が介在する。
【0112】
すなわち、
第三の摩擦部材は、上記の第三の潤滑油が介在する。
第三の摩擦部材は、上記したように、摩擦式駆動力伝達装置に用いられたときに摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する添加剤を有する潤滑油を用いていることから、摩擦部材のμ−v特性が正勾配方向に改善され、摩擦時の静粛性が確保できるようになっている。
【0113】
第三の摩擦部材において、摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面には、ダイヤモンドライクカーボン膜が形成されていることが好ましい。摩擦部材においては、摺動条件が厳しくなると(高面圧や高温下で摺動すると)、摺動面が摩耗するようになる。この摺動面にダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を形成することで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。さらに、DLC膜は、相手材に対する攻撃性が低いため、潤滑油の劣化のスピードを鈍化させることができる。
【0114】
ここで、摺動面に形成されるDLC膜は、従来公知のDLC膜と同様にして形成することができる。また、膜厚についても、摩擦部材の摺動条件により、適宜決定できる。
【0115】
第三の摩擦部材において、摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面には、タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜が形成され、他方の摺動面は、窒化処理が施されていることが好ましい。また、他方の摺動面には、鉄系金属により形成され、その表面に窒化処理が施されていることが好ましい。
【0116】
上記のDLC膜のときと同様に、一方の摺動面にタングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜(WC/C膜)を形成することで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。このWC/C膜は、タングステンカーバイドがリッチな層と、ダイヤモンドライクカーボンがリッチな層とが積層した構成を有しており、両層が繰り返し積層した構成となることで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0117】
また、他方の摺動面には、窒化処理が施されることで、表面に窒化被膜が形成される。窒化被膜は、高い硬度を有しており、WC/C膜が形成された摩擦部材からの被攻撃性に対して摩耗が発生することが抑えられる。
【0118】
なお、上記したDLC膜及びWC/C膜は、摩擦部材の表面への形成方法が限定されるものではなく、従来公知の方法により形成できる。また、各膜の膜厚についても、特に限定されるものではなく、摩擦部材の使用条件により適宜設定できる。
【0119】
摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面は、鉄系金属により形成され、他方の摺動面は、窒化処理が施されていることが好ましい。すなわち、
第三の摩擦部材において、上記の潤滑油は、DLC膜やWC/C膜が形成されていない状態であっても、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0120】
(第四の摩擦部材)
参考発明の摩擦部材である第四の摩擦部材は、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、
31P−核磁気共鳴分析において、57±2ppmのピークが示される潤滑油が介在することを特徴とする。
【0121】
すなわち、
第四の摩擦部材は、上記の第五の潤滑油が介在する。
第四の摩擦部材は、上記したように、摩擦式駆動力伝達装置に用いられたときに摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する添加剤を有する潤滑油を用いていることから、摩擦部材のμ−v特性が正勾配方向に改善され、摩擦時の静粛性が確保できるようになっている。
【0122】
第四の摩擦部材において、摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面には、ダイヤモンドライクカーボン膜が形成されていることが好ましい。摩擦部材においては、摺動条件が厳しくなると(高面圧や高温下で摺動すると)、摺動面が摩耗するようになる。この摺動面にダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を形成することで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。さらに、DLC膜は、相手材に対する攻撃性が低いため、潤滑油の劣化のスピードを鈍化させることができる。
【0123】
ここで、摺動面に形成されるDLC膜は、従来公知のDLC膜と同様にして形成することができる。また、膜厚についても、摩擦部材の摺動条件により、適宜決定できる。
【0124】
第四の摩擦部材において、摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面には、タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜が形成され、他方の摺動面は、窒化処理が施されていることが好ましい。また、他方の摺動面には、鉄系金属により形成され、その表面に窒化処理が施されていることが好ましい。
【0125】
上記のDLC膜のときと同様に、一方の摺動面にタングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜(WC/C膜)を形成することで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。このWC/C膜は、タングステンカーバイドがリッチな層と、ダイヤモンドライクカーボンがリッチな層とが積層した構成を有しており、両層が繰り返し積層した構成となることで、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0126】
また、他方の摺動面には、窒化処理が施されることで、表面に窒化被膜が形成される。窒化被膜は、高い硬度を有しており、WC/C膜が形成された摩擦部材からの被攻撃性に対して摩耗が発生することが抑えられる。
【0127】
なお、上記したDLC膜及びWC/C膜は、摩擦部材の表面への形成方法が限定されるものではなく、従来公知の方法により形成できる。また、各膜の膜厚についても、特に限定されるものではなく、摩擦部材の使用条件により適宜設定できる。
【0128】
摺動する1対の摩擦部材のうち、いずれか一方の摺動面は、鉄系金属により形成され、他方の摺動面は、窒化処理が施されていることが好ましい。すなわち、
第四の摩擦部材において、上記の潤滑油は、DLC膜やWC/C膜が形成されていない状態であっても、摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0129】
(第一の差動制限機能付きディファレンシャル)
本発明の差動制限機能付ディファレンシャルである第一の歯車式の差動制限機能付ディファレンシャルは、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、
炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル(上記
化7),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸モノエステル(上記化10)
の少なくとも一方を有するものから選ばれ、炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル(上記化7)と、炭素数18〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記化8)と、を有する潤滑油が介在する。
【0130】
すなわち、
第一の差動制限機能付ディファレンシャルは、上記の
第一の潤滑油が介在する。
第一の差動制限機能付ディファレンシャルは、上記したように、摩擦式駆動力伝達装置に用いられたときに摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する添加剤を有する潤滑油を用いていることから、摩擦部材のμ−v特性が正勾配方向に改善され、摩擦時の静粛性が確保できるようになっている。
【0131】
第一の歯車式の差動制限機能付ディファレンシャルは、複数のプラネタリギヤと、複数のプラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つプラネタリギヤを介して差動回転可能な1対のギヤと、を備えた駆動力伝達装置であって、プラネタリギヤとプラネタリキャリヤの摺動面に、潤滑油が介在する。
【0132】
すなわち、
第一の差動制限機能付ディファレンシャルは、プラネタリギヤによりトルクを分配するディファレンシャルであって、プラネタリギヤとプラネタリキャリヤの間の摺動面には、高い面圧が加わっている。このような過酷な条件においても、上記の潤滑油を摺動面に介在させることで、μ−v特性を正勾配方向に改善でき、静粛性を確保できるようになった。
【0133】
(第二の差動制限機能付きディファレンシャル)
参考発明の差動制限機能付ディファレンシャルである第二の歯車式の差動制限機能付ディファレンシャルは、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記
化13),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物(上記
化14)の少なくとも一方を有する潤滑油が介在する。
【0134】
すなわち、
第二の差動制限機能付ディファレンシャルは、上記の
第二の潤滑油が介在する。本発明の差動制限機能付ディファレンシャルは、上記したように、摩擦式駆動力伝達装置に用いられたときに摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する添加剤を有する潤滑油を用いていることから、摩擦部材のμ−v特性が正勾配方向に改善され、摩擦時の静粛性が確保できるようになっている。
【0135】
第二の歯車式の差動制限機能付ディファレンシャルは、複数のプラネタリギヤと、複数のプラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つプラネタリギヤを介して差動回転可能な1対のギヤと、を備えた駆動力伝達装置であって、プラネタリギヤとプラネタリキャリヤの摺動面に、潤滑油が介在する。
【0136】
すなわち、
第二の差動制限機能付ディファレンシャルは、プラネタリギヤによりトルクを分配するディファレンシャルであって、プラネタリギヤとプラネタリキャリヤの間の摺動面には、高い面圧が加わっている。このような過酷な条件においても、上記の潤滑油を摺動面に介在させることで、μ−v特性を正勾配方向に改善でき、静粛性を確保できるようになった。
【0137】
(第三の差動制限機能付きディファレンシャル)
参考発明の差動制限機能付ディファレンシャルである第三の歯車式の差動制限機能付ディファレンシャルは、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン(上記
化13),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物(上記
化14)の少なくとも一方と、炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステル(上記化9),炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸モノエステル(上記化10)の少なくとも一方と、を有する潤滑油が介在する。
【0138】
すなわち、
第三の差動制限機能付ディファレンシャルは、上記の第三の潤滑油が介在する。
第三の差動制限機能付ディファレンシャルは、上記したように、摩擦式駆動力伝達装置に用いられたときに摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する添加剤を有する潤滑油を用いていることから、摩擦部材のμ−v特性が正勾配方向に改善され、摩擦時の静粛性が確保できるようになっている。
【0139】
歯車式の差動制限機能付ディファレンシャルは、複数のプラネタリギヤと、複数のプラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な1対のギヤと、を備えた駆動力伝達装置であって、プラネタリギヤとプラネタリキャリヤの摺動面に、潤滑油が介在することが好ましい。
【0140】
(第四の差動制限機能付きディファレンシャル)
参考発明の差動制限機能付ディファレンシャルである第四の歯車式の差動制限機能付ディファレンシャルは、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、
31P−核磁気共鳴分析において、57±2ppmのピークが示される潤滑油が介在する。
【0141】
第四の差動制限機能付ディファレンシャルは、摩擦式駆動力伝達装置に用いられる潤滑油であって、チオリン酸ジエステル(上記
化11),チオリン酸ジエステルのアミン塩(上記
化12)の少なくとも一方に由来するリン成分の含有量が、該潤滑油の質量を100%としたときに、0.010%以上で有する該潤滑油が介在することを特徴とする歯車式の差動制限機能付ディファレンシャル。
【0142】
すなわち、
第四の差動制限機能付ディファレンシャルは、上記の潤滑油が介在する。本発明の差動制限機能付ディファレンシャルは、上記したように、摩擦式駆動力伝達装置に用いられたときに摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する添加剤を有する潤滑油を用いていることから、摩擦部材のμ−v特性が正勾配方向に改善され、摩擦時の静粛性が確保できるようになっている。
【0143】
歯車式の差動制限機能付ディファレンシャルは、複数のプラネタリギヤと、複数のプラネタリギヤを自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤと、プラネタリキャリヤと同軸に配置され且つ前記プラネタリギヤを介して差動回転可能な1対のギヤと、を備えた駆動力伝達装置であって、プラネタリギヤとプラネタリキャリヤの摺動面に、潤滑油が介在することが好ましい。
【0144】
(第一〜第四の差動制限機能付ディファレンシャル)
上記した第一〜第四の差動制限機能付ディファレンシャルは、具体的には、
図1に示した構成の差動制限機能付センターデファレンシャルとすることができる。
図1に示した差動制限機能付センターデファレンシャル1は、略円筒状をなすハウジング2を有している。そして、このハウジング2内には、リングギヤ3と、リングギヤ3の内側に同軸配置されたサンギヤ4と、これらリングギヤ3及びサンギヤ4に噛合する複数のプラネタリギヤ5と、各プラネタリギヤ5を自転可能且つ公転可能に支承するプラネタリキャリヤ6とからなる遊星歯車機構7が収容されている。
【0145】
図1〜3に示したように、プラネタリキャリヤ6は、回転自在にサンギヤ4と同軸(
図1中右側)に並置された軸部10と、各プラネタリギヤ5を回転自在に支承する支持部11とを備えてなる。軸部10は、中空状に形成されるとともに、その外周には径方向外側に延びるフランジ部12が形成されている。そして、支持部11は、このフランジ部12から軸方向に延設されることにより、リングギヤ3とサンギヤ4との間に同軸配置されている。
【0146】
支持部11は、略円筒状に形成されるとともに、軸方向に延びる複数の収容穴13を有している。なお、これら各収容穴13は、支持部11の周方向に沿って等間隔に形成されている。これら各収容穴13は、断面円形状に形成されており、その内径は、各プラネタリギヤ5の外径と略等しく設定されている。また、各収容穴13の内径は、支持部11の径方向の厚みよりも大きく設定されており、これにより、各収容穴13の壁面13aには、支持部11の外周及び内周にそれぞれ開口する二つの開口部15a,15bが形成されている。そして、各プラネタリギヤ5は、これら各収容穴13に収容されることにより、その歯先面5aを各収容穴13の壁面13aに摺接しつつ回転自在に支承されるとともに、径方向両側に形成された各開口部15a,15bを介してリングギヤ3及びサンギヤ4に噛合されている。なお、差動制限機能付センターデファレンシャル1では、各プラネタリギヤ5には、ヘリカルギヤが採用されている。
【0147】
また、
図1に示すように、リングギヤ3には、出力部材16が連結されている。出力部材16は、プラネタリキャリヤ6の軸部10と同軸に並置された軸部17を有しており、軸部17は、プラネタリキャリヤ6の軸部10と同様、中空状に形成されている。この軸部17のプラネタリキャリヤ6側の端部には、プラネタリキャリヤ6の軸部10の径方向外側を包囲するように同軸配置された大径部18が接続されており、大径部18の先端には、径方向外側に延びるフランジ部19が形成されている。そして、出力部材16は、このフランジ部19が、リングギヤ3の軸方向端部に連結されることにより、同リングギヤ3と一体回転するように構成されている。
【0148】
ハウジング2は、出力部材16の大径部18に連結されることにより出力部材16及びリングギヤ3と一体回転するように構成されている。また、プラネタリキャリヤ6は、その軸部10と出力部材16の大径部18との間に介在された軸受(ニードルベアリング)20により、出力部材16及びリングギヤ3に対して相対回転可能に支承されている。更に、サンギヤ4は、中空状に形成されるとともに、その一方の端部がプラネタリキャリヤ6の軸部10の一方の端部に回転自在に外嵌されている。そして、これにより、サンギヤ4は、プラネタリキャリヤ6に対して相対回転可能に支承されている。
【0149】
サンギヤ4、プラネタリキャリヤ6の軸部10、及び出力部材16の軸部17には、それぞれ、その内周にスプライン嵌合部4a,10a,17aが形成されている。そして、差動制限機能付センターデファレンシャル1では、プラネタリキャリヤ6の軸部10aに形成されたスプライン嵌合部10aが、駆動トルクの入力部、サンギヤ4のスプライン嵌合部4a及び出力部材16の軸部17に形成されたスプライン嵌合部17aが、それぞれ第1及び第2の出力部となっている。
【0150】
即ち、プラネタリキャリヤ6に入力された駆動トルクは、同プラネタリキャリヤ6に支承された各プラネタリギヤ5の自転及び公転により、その差動を許容しつつ、所定の配分比で該各プラネタリギヤ5に噛合されたサンギヤ4及びリングギヤ3(出力部材16)へと伝達される。なお、差動制限機能付センターデファレンシャル1は、四輪駆動車のセンターデフとして構成されており、第1の出力部としてのサンギヤ4には前輪側の駆動軸が連結され、第2の出力部としての出力部材16には後輪側の駆動軸が連結される。そして、車両の駆動系にトルク反力が生じた場合には、その噛合する各ギヤ間の回転反力に基づくスラスト力、及びその摺接する摺動面間、即ち各プラネタリギヤ5の歯先面5a及びプラネタリキャリヤ6側の摺接面(各収容穴13の壁面13a)間の摩擦力に基づいて、その差動を制限する構成となっている。
【0151】
また、摺接面である各収容穴13の壁面13aには、窒化処理(イオン窒化、ガス軟窒化等)が施される一方、各プラネタリギヤ5の歯先面5aには、タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボンの多層薄膜処理を施すことが好ましい。
【0152】
この
図1〜3で示した差動制限機能付センターデファレンシャル1においては、プラネタリギヤ5とハウジング2との間だけでなく、各ギヤ間及び各ギヤとハウジングとの間(に配されるワッシャとの間)も摺動面となる。つまり、これらの摺動面においても、窒化処理膜(イオン窒化膜、ガス軟窒化膜等),タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボン膜が形成されることが好ましい。
【実施例】
【0153】
以下、具体的な実施例を用いて本発明を説明する。
(潤滑油の調製)
本発明の実施例として、潤滑油(試料油A〜W)を調製した。
試料油Aは、
化17で示した炭素数18の不飽和炭化水素基(オレイル基)を有する脂肪族アミンであるオレイルアミン(ライオン製,商品名:アーミン OD)が3.0mass%に、
化18で示した亜リン酸ジエステルであるジオレイルハイドロゲンフォスファイト(城北化学製,商品名:JP−218−OR)が1.52 mass%になるように、基とした市販のギヤ油(デファレンシャルギヤオイル,粘度グレード:75W−85,以下、試料油F)に配合して調製した。なお、オレイルアミン及びジオレイルハイドロゲンフォスファイトの割合は、調製された潤滑油の質量を100%としたときの質量割合である(以下、同様)。
【0154】
【化17】
【0155】
【化18】
【0156】
また、試料油Bは、
化19に示した炭素数18の不飽和炭化水素基(オレイル基)を有する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物であり、かつx+yが2である(具体的にはx,yがいずれも1)ポリオキシエチレンオレイルアミン(ライオン製,商品名:エソミン O/12)が3.0mass%に、
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
【0157】
【化19】
【0158】
試料油Cは、上記の
化19に示した炭素数18の不飽和炭化水素基(オレイル基)を有するアミンのエチレンオキサイド付加物であり、かつx+yが10であるポリオキシエチレンオレイルアミン(ライオン製,商品名:エソミン O/20)が3.0mass%に、
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
【0159】
試料油Dは、試料油Fと、市販のギヤ油(ハイポイドギヤオイルLSD,粘度グレード:85W−90,以下、試料油G)と、を質量比で50:50の割合で混合した油に、上記の
化18で示したオレイルアミンを3.0mass%、上記の
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトを1.52 mass%の割合となるよう配合して調製した。
【0160】
試料油Eは、上記の
化17で示したオレイルアミンが3.0mass%、上記の
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように、試料油Gに配合して調製した。
試料油Hは、市販のギヤ油(デファレンシャルギヤオイル,粘度グレード:75W−85)である。
【0161】
試料油Iおよび試料油Jは、上記の
化17で示したオレイルアミンが0.1 mass%(試料油I),1.0mass%(試料油J)に、上記の
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイト1.52mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
【0162】
試料油Kおよび試料油Lは、上記の
化17で示したオレイルアミンが3.0mass%に、上記の
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが0.1 mass%(試料油K),1.0mass%(試料油L)になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
試料油Mは、上記の
化17で示したオレイルアミンが3.0mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
試料油Nは、上記の
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトを1.52mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
【0163】
試料油Oは、調製後の試料油における窒素含有量が試料油Aと同一となるように、
化20で示した炭素数6の飽和炭化水素基を有する脂肪族アミンであるヘキシルアミン(東京化成製,試薬名:ヘキシルアミン)が1.14mass%に、
化18で示したジオレイルイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
【0164】
【化20】
【0165】
試料油Pは、調製後の試料油における窒素含有量が試料油Aと同一となるように、
化21で示した炭素数12の飽和炭化水素基を有する脂肪族アミンであるドデシルアミン(ライオン製,商品名:アーミン 12D)が2.08mass%に、
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
【0166】
【化21】
【0167】
試料油Qは、
化17で示したオレイルアミンが3.0mass%に、調製後の試料油におけるリン含有量が試料油Aと同一となるように
化22で示した炭素数2の飽和炭化水素基を有する亜リン酸ジエステルであるジエチルハイドロゲンフォスファイト(城北化学製,商品名:JP−202)が0.35mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
【0168】
【化22】
【0169】
試料油Rは、
化17で示したオレイルアミンが3.0mass%に、調製後の試料油におけるリン含有量が試料油Aと同一となるように
化23で示した炭素数12の飽和炭化水素基を有する亜リン酸ジエステルであるジラウリルハイドロゲンフォスファイト(城北化学製,商品名:JP−213−D)が1.16 mass%になるように、基とした試料油Fに配合して調製した。
【0170】
【化23】
【0171】
試料油Sは、市販のグループIIIの水素化精製鉱物油である非エステル系の炭化水素系ベースオイル(SK Lubricants Co. Ltd.製,商品名:YUBASE 4)である。
試料油Tは、市販のジエステル系ベースオイル(花王製,商品名:ビニタイザー 50)である。
【0172】
試料油Uは、
化17で示したオレイルアミンが3.0mass%に、
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように、基とした試料油Sに配合して調製した。
【0173】
試料油Vは、
化17で示したオレイルアミンが3.0mass%に、
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように、基とした試料油Tに配合して調製した。
試料油Wは、試料油Vと試料油Uとを、それぞれ10mass%と90mass%の割合となるように混合して調製した。
【0174】
試料油A〜Wの組成を表1〜4に示した。また、各試料油に、リン酸エステル,チオリン酸エステル,アミン塩が含有しているか否か、を分析し、表1〜4に合わせて示した。さらに、各試料油に含まれるリン成分の含有量及び基油の種類も分析し、その結果を表に合わせて示した。
【0175】
【表1】
【0176】
【表2】
【0177】
【表3】
【0178】
【表4】
【0179】
(潤滑油の均一混合性)
試料油A〜E,I〜R,U〜Wを、調製した後に、室温で1週間以上静置した。静置後、各試料油を目視で観察した。
【0180】
試験した試料油のうち試料油C以外の各試料油においては、層分離や析出物は確認できず、均一な混合状態が保たれていることが確認できた。すなわち、いずれの試料油においても、添加されたFM剤が基油に均一に溶解(分散)している。このことは、層分離や析出が生じることなく基油に均一に溶解(分散)することで、摩擦面の表面に位置して固体接触を防止するように機能する効果を発揮できる。
【0181】
これに対し、上記の
化19に示した炭素数18の不飽和炭化水素基を有するアミンのエチレンオキサイド付加物でかつx+yが10であるポリオキシエチレンオレイルアミンを配合した試料油Cは、調製後に室温にて12時間以上静置した状態において層分離が認められ,均一な混合性が保たれなかった。
【0182】
このことに関して、炭素数18の不飽和炭化水素基を有する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物配合油において、上記したように、
化19に示したx+yが2であるポリオキシエチレンオレイルアミンを配合した試料油Bは均一な混合状態が保たれていることが確認できた。
【0183】
したがって、配合する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物において、x+yが大きくなると基油への溶解性が低下する。すなわち、配合する脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物において、x+yが2±1程度とすることが好ましいことがわかる。
(リン酸エステルおよびチオリン酸エステルの分析)
【0184】
試料油F,G,H,N,M,A,Eについて、
31P−核磁気共鳴分析(Nuclear Magnetic Resonance:以下、NMRと略記)を実施した。分析装置としては、日本電子社製 ECA−500を用い、プロトンデカップリング条件でシングルパルス測定を行った。測定溶媒には、CDCl
3(重クロロホルム)を用いた。ケミカルシフトの値は、PO
4を基準(0ppm)とした。
【0185】
測定された試料油F,G,Hの
31P−NMRスペクトルを
図4(a)〜(c)に示した。
図4(a),(c)によると、酸性リン酸エステルに帰属される−13ppm付近および−5ppm付近のピーク、チオリン酸エステルに帰属される55ppm付近のピーク、ならびにジチオリン酸エステルに帰属される93ppm付近のピークが検出されている。また、
図4(b)によると、酸性リン酸エステルに帰属される−13ppm付近および−5ppm付近のピーク、及びジチオリン酸エステルに帰属される93ppm付近のピークが検出されている。
【0186】
このことから、試料油Fに添加剤を添加してなる試料油A,B,D,I〜R、ならびに試料油Gに添加剤を添加してなる試料油Eには、リン酸エステル類およびチオリン酸エステル類を含有していると判断される。
【0187】
次に、試料油N,M,A,E,Hの
31P−NMRスペクトルを
図5,6に示した。
図5(a)には参照用として試料油Fの、(b)には試料油Nの、(c)には試料油Mの、(d)には試料油Aの、NMRスペクトルをそれぞれ示した。
図6(a)には参照用として試料油Gの、(b)には試料油Eの、(c)には試料油Hの、NMRスペクトルをそれぞれ示した。
【0188】
図5,6からは、添加剤として亜リン酸ジエステルを配合した試料油N,試料油Aおよび試料油EのNMRスペクトルには、57ppm付近にチオリン酸ジエステルに帰属されるピーク(図中に■印を付記したピーク)が確認できる。
【0189】
特に、添加剤としてオレイルアミンとジオレイルハイドロゲンフォスファイトの両者を配合した試料油A(
図5(d))および試料油E(
図6(b))では、チオリン酸ジエステル(図中■印部)のピーク強度が大きくなっていることが確認できる。
【0190】
対して、参照用として示した試料油F(
図5(a))及び試料油G(
図6(a))のNMRスペクトルからは、57ppm付近にはチオリン酸ジエステルに帰属される明瞭なピークは確認できない。
【0191】
図5,6のNMRスペクトルにおいて、57±2ppm位置に現れるチオリン酸ジエステルに帰属されるピーク面積がピーク総面積に占める割合を求めた。更に、これらの57±2ppm位置に現れるピーク面積割合と各試料油におけるリン含有量によって、試料油におけるチオリン酸ジエステルの含有量をリン含有量換算値として求め、各スペクトルに追記した。
【0192】
図5,6に示されたように、試料油F,試料油Mおよび試料油Gはチオリン酸ジエステルを含有していない。また、試料油Nでは、チオリン酸ジエステルを含有しているものの、その含有量が0.009mass%Pと少なくなっている。一方、試料油Aおよび試料油Eは、チオリン酸ジエステルの含有量が0.06mass%P以上と多くなっていることが分かる。
【0193】
(アミン塩形成の分析)
試料油A,B,E,F,G,J,L,P,R,S,Uについて、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)分析を実施した。分析装置として、Thermo Nicolet社製のAvatar360を用い、光路長0.10mm、液体用KBr固定セルを用いて、積算回数32回でIRスペクトル測定を行った。また、添加剤単品のIRスペクトル測定も、同装置で一回反射型ATR法を用いて実施した。
【0194】
炭化水素基が異なる各種の脂肪族アミンと炭化水素基が異なる各種の亜リン酸ジエステルとを組み合わせて試料油Fに配合した試料油P,R,J,L,AのIRスペクトルと、試料油FのIRスペクトルと、の差(差スペクトル)を
図7〜11に示した。これらの差スペクトルでは、試料油Aの試料油Fに対する増加成分に起因するピークが、プラス側の吸光度として現れる。
【0195】
また、脂肪族アミンであるオレイルアミンと、亜リン酸ジエステルであるジオレイルハイドロゲンフォスファイトとを組み合わせて試料油Gに配合した試料油Eと、試料油Gとの差スペクトルを
図12に示した。
【0196】
図7〜12のいずれの図(差スペクトル)においても、波数2900cm
−1付近にブロードなピークの存在が認められた。比較のために、オレイルアミン単品およびジオレイルハイドロゲンフォスファイト単品のIRスペクトルを、それぞれ
図13,14に示した。いずれの添加剤のスペクトルにおいても、2900cm
−1付近のブロードなピークは認められなかった。
【0197】
図7〜12に示された差スペクトルにおける波数2900cm
−1付近のブロードなピークは、アミン塩に起因すると推察される。したがって、
図4〜6のNMR分析から同定した試料油F,G,試料油Fに添加剤を添加してなる試料油P,R,M,L,Aならびに、試料油Gに添加剤を添加してなる試料油Eに含まれるリン酸エステル類とチオリン酸エステル類は、それぞれ酸性リン酸エステルあるいは酸性チオリン酸エステルであると考えられ、試料油P,R,J,L,A,Eでは酸性リン酸エステルあるいは酸性チオリン酸エステルのオレイルアミン塩が形成されていると考えられる。
【0198】
同様に、アミン系添加剤としてポリオキシエチレンオレイルアミンを配合した試料油Bと、その基として用いた試料油Fとの差スペクトルを
図15に示す。ポリオキシエチレンオレイルアミン単品のIRスペクトルを
図16に示す。
図15においては、2900cm
−1付近のブロードなピークは認められなかった。
【0199】
また、オレイルアミンと、亜リン酸ジエステルとしてジオレイルハイドロゲンフォスファイトと、を組み合わせて試料油Sに配合した試料油Uと、試料油Sとの差スペクトルを
図17に示した。
図17においても、波数2900cm
−1付近にブロードなピークの存在が確認でき、試料油Uでもアミン塩が形成されていると判断される。
【0200】
さらに、オレイルアミンと、亜リン酸ジエステルとしてジオレイルハイドロゲンフォスファイトと、を組み合わせて試料油Tに配合した試料油Vと、試料油Tとの差スペクトルを
図18に示した。
【0201】
図18においても、波数2900cm
−1付近にブロードなピークの存在が確認でき、ジエステル系ベースオイルを用いた試料油Vでもアミン塩が形成されていると判断される。
【0202】
(酸性リン酸エステルアミン塩の分析)
モデル試料油aとして、上記の
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように、炭化水素系ベースオイルの試料油Sに配合したものを調製した。
【0203】
モデル試料油a、オレイルアミンが3.0mass%に、上記の
化18で示したジオレイルハイドロゲンフォスファイトが1.52mass%になるように試料油Sに配合した試料油Uについて、上記と同様の方法でNMR分析を実施した。モデル試料油aおよび試料油UのNMRスペクトルを、
図19,20に示した。
図19からは、図中に△印を付記した7ppm付近に、亜リン酸ジエステルであるジオレイルハイドロゲンフォスファイトに由来するピークが確認できた。
【0204】
一方、
図20のNMRスペクトルからは、亜リン酸ジエステルに由来する7ppm付近のピークのみならず、図中に▲印を付記した4ppm付近および◇印を付記した0ppm付近に明瞭なピークが検出されている。これらのピークは、亜リン酸モノエステル(▲)および酸性リン酸エステル(◇)に帰属される。特に、各ピークの強度を比較すると、酸性リン酸エステル成分(◇)が最も多くなっていることが確認できた。ここで、試料油Uについては、上記のFT−IR分析の差スペクトル(
図17)により、アミン塩が形成していることが確認された。
【0205】
以上の結果から、オレイルアミンとジオレイルハイドロゲンフォスファイトとを配合した試料油Uでは、
化13,14に示した構造の酸性リン酸エステルのアミン塩が形成されていると判断される。
【0206】
更に、上記した調製油の均一性の観察結果において試料油Uに層分離や析出物は認められず均一な混合状態が保たれていることから、生成された酸性リン酸エステルのアミン塩は油溶性であることが確認できた。
【0207】
(エステル系基油成分の分析)
試料油A,B,D,E,F,G,U,V,Wについて、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)分析を実施した。
【0208】
分析装置として、Thermo Nicolet社製のAvatar360を用い、光路長0.05mmの液体用KBr固定セルを用いて、積算回数32回でIRスペクトル測定を行った。
【0209】
測定されたIRスペクトルを、それぞれ
図21〜29に示した。また、比較のために、同一条件で、市販のグループIIIの水素化精製鉱物油である非エステル系の炭化水素系ベースオイル(試料油S)および市販のジエステル系ベースオイル(試料油T)についても、IRスペクトルを測定した。それぞれのスペクトルを
図30〜31に示した。
【0210】
各図に示した試料油A,B,D,F,V,Wのスペクトルには、波数1740cm
−1付近ならびに1170cm
−1付近にエステル構造に起因するピークが確認できる。1740cm
−1付近のピーク強度に着目すると、いずれの試料油においても吸光度で1.0を超えている。すなわち、試料油の組成全体に占めるエステル成分の割合が多いと判断でき、これらのピークは添加剤ではなく主に基油成分に由来すると考えられる。
【0211】
また、
図21,22,25,28,31に示した試料油A,B,F,V,Tでは、1740cm
−1付近のピーク強度が吸光度で1.5を超えており,エステル基油成分が特に多くなっていることが分かる。一方、
図23,29に示した試料油D,Wでは、1740cm
−1付近のピーク強度が吸光度は1.5以下となっている。なお、
図26,24,27に示した試料油G,E,UのIRスペクトルでは、
図30に示した非エステル系の炭化水素系ベースオイルのIRスペクトルと同様に、波数1740cm
−1付近ならびに1170cm
−1付近にエステル構造に起因するピークは認められなかった。
【0212】
以上の結果から、試料油A,B,D,F,V,T,Wには、表1〜4に記載したように、基油成分としてエステル系基油を含んでいると判断できる。ただし、これらのうち、試料油Dおよび試料油Wは比較的エステル系基油成分は少ないといえる。一方、試料油G,試料油Gを基油とした試料油E、ならびに試料油Uでは、炭化水素系基油が主体であると判断できる。
【0213】
(評価)
各試料油の評価として、摩擦特性の評価を行った。
【0214】
(評価方法及び評価結果)
摩擦試験は、高千穂精機株式会社製リングオンブロック型摩擦試験装置を用いて行われた。この試験装置は、
図32(a)に示したように、ブロックに荷重を付加し、リング側を回転させて、ブロックとリングを摩擦(摺動)させる摩擦試験を行う。潤滑油は、リング下部が浸され状態で回転することで、かき上げられ、摩擦面に潤滑油が供給される。
【0215】
ブロックおよびリングのイラストおよび寸法を
図32(b)〜(c)に示す。リング材は、SCM420を浸炭処理したものに、厚さが約3μmのWC/C膜(タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボンの多層薄膜処理)が形成されている。ブロック材は、FCD600をプラズマ窒化したものが用いられた。リング材の表面粗さは、10点平均粗さRzJIS(JIS B 0601:2001)で7〜10μm、ブロック材の表面粗さは10点平均粗さRzJISで3〜5μmに加工された。
【0216】
摩擦試験は、油温が常温(30℃)で行われた。また、慣らしパターンを2回繰り返した後に、性能測定パターンを施すことで試験した。慣らしパターンおよび性能測定パターンを
図33及び
図34にそれぞれ示した。慣らし負荷は0.76kJとした。すべり速度は、ステップ状に増加⇒減速させた。また、μ―v特性(=摩擦係数のすべり速度依存性)の評価面圧は、312MPa、すべり速度は、回転減速側の0.024m/sおよび0.185m/sにて摩擦係数の依存性を評価した。
【0217】
図35には、試料油E,Fのμ−v特性を示した。
図35に示したμ−v特性からμ−v勾配を求め、評価に用いた。なお、μ−v勾配は、[(すべり速度0.185m/s時のμ)/(すべり速度0.024m/s時のμ)]により求めた。このμ−v勾配が正もしくは正に近い方が耐振性が高いことを示す。
【0218】
図35からは、試料油Eが、従来油(市販油,基油)である試料油Fと比較して、μ−v特性が正勾配傾向(=良好)となっていることが確認できる。このことから、試料油Eにおいては、耐振動性に優れることが確認できた。
【0219】
つづいて、上記の摩擦試験機において、リング材をSCMB21を浸炭処理した後に浸硫処理を施したものと、ブロック材をFCD600を軟窒化したものとを用いて摩擦試験を行い、μ−v勾配を測定した。試験条件は、上記の通りであり、μ−v勾配の測定結果を
図36に示した。なお、
図36には、
図35において測定されたμ−v勾配も合わせて示した。
【0220】
図36に示したように、摺動部材がWC/C膜−窒化処理被膜だけでなく、鉄系基材−窒化処理被膜においても、試料油E,Fを介在させることでμ−v特性を改善することができたことが確認できた。特に、摺動部材がWC/C膜−窒化処理被膜の場合に、μ−v特性を大きく改善できた。
【0221】
同様に、試料油A,F,O,Pのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図37に示した。
図37において、μ−v特性の勾配(μ−v勾配)が0.995未満は△,0.995以上1.000未満は○,1.000以上は◎として、評価した。
【0222】
試料油A,O,Pは、試料油Fに脂肪族アミンを添加した潤滑油であり、それぞれ脂肪族アミンの炭化水素基の構造(炭化水素基の炭素数)が異なる潤滑油である。そして、
図37には、炭素数が12以上の試料油A,Pでμ−v勾配が0.995以上で○となり、炭素数が18の試料油Aでμ−v勾配が1.000以上で◎となることがわかった。つまり、炭素数18の試料油Aがμ−v勾配に優れたものとなっていることがわかった。
【0223】
次に、試料油A,B,Fのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図38に示した。
試料油A,Bは、試料油Fに脂肪族アミン又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物を添加した潤滑油であり、添加剤の構造が異なる潤滑油である。そして、
図38では、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物(ポリオキシエチレンオレイルアミン)を添加した試料油Bでμ−v勾配が0.995以上で○となり、脂肪族アミン(オレイルアミン)を添加した試料油Aでμ−v勾配が1.000以上で◎となることがわかった。つまり、添加剤としては、脂肪族アミンであっても、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物であっても、μ−v勾配が改善されることがわかった。
【0224】
つづいて、試料油A,B,J,Nのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図39に示した。
各試料油は、試料油Fに脂肪族アミン又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物を添加した潤滑油であり、添加剤の配合割合が異なる潤滑油である。そして、
図39には、脂肪族アミン(オレイルアミン)の配合量が1.00%の試料油Jでμ−v勾配が0.995以上で○となり、配合割合が3.00%の試料油Aでμ−v勾配が1.000以上で◎となることがわかった。つまり、添加剤としては、脂肪族アミンの配合割合が増加するほど、μ−v勾配が改善されることがわかった。
【0225】
そして、試料油A,M,Q,Rのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図40に示した。
各試料油は、試料油Mに不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油であり、添加剤の炭化水素基の炭素数が異なる潤滑油である。そして、
図40には、亜リン酸ジエステルの炭化水素基の炭素数が12以上の試料油A,Rでμ−v勾配が0.995以上で○となり、炭素数が18の試料油Aでμ−v勾配が1.000以上で◎となることがわかった。つまり、炭素数18の試料油Aがμ−v勾配に優れたものとなっていることがわかった。
【0226】
試料油A,M,Lのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図41に示した。
各試料油は、試料油Mに亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油であり、添加剤の配合割合が異なる潤滑油である。そして、
図41には、亜リン酸ジエステルの配合量が1.00%の試料油Lでμ−v勾配が0.995以上で○となり、配合割合が1.52%の試料油Aでμ−v勾配が1.000以上で◎となることがわかった。つまり、添加剤としては、亜リン酸ジエステルの配合割合が増加するほど、μ−v勾配が改善されることがわかった。
【0227】
試料油A,Fのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図42に示した。
試料油Aは、エステル系を含む潤滑油である試料油Fに脂肪族アミン及び亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油である。そして、
図42には、この試料油Aでμ−v勾配が1.000以上で◎となることがわかった。
【0228】
試料油G,Eのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図43に示した。
試料油Eは、非エステル系の潤滑油である試料油Gに脂肪族アミン及び亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油である。そして、
図43には、この試料油Eでμ−v勾配が1.000以上で◎となることがわかった。
【0229】
試料油S,U及び試料油Sに
化12の亜リン酸ジエステルを1.52mass%となるように配合した試料油(試料油S+亜リン酸ジエステル),試料油Sに
化11の脂肪族アミンを3.00mass%となるように配合した試料油(試料油S+脂肪族アミン)のμ−v勾配を測定し、測定結果を
図44に示した。
【0230】
試料油U,S+亜リン酸ジエステル,S+脂肪族アミンは、鉱物油である試料油Sに脂肪族アミン及び/又は亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油である。そして、
図44には、鉱物油に脂肪族アミン,亜リン酸ジエステルを単独で配合した潤滑油でμ−v勾配が0.995以上で○となり、両添加剤を同時に配合した試料油Uでμ−v勾配が1.000以上で◎となることがわかった。
【0231】
試料油T,Vのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図45に示した。
試料油Vは、エステル系の潤滑油である試料油Tに脂肪族アミン及び亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油である。そして、
図45には、この試料油Vでμ−v勾配が0.995以上で○となることがわかった。
【0232】
つまり、
図42〜45から、基油がエステル系であっても、非エステル系であっても、添加剤としては、脂肪族アミンと亜リン酸ジエステルとを同時に配合することで、μ−v勾配が大幅に改善されることがわかった。
【0233】
試料油F,J,L,P,Rのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図46に示した。
各試料油(試料油A,J,L,P,R)は、試料油Fに脂肪族アミン及び亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油であり、両添加剤がアミン塩を形成している潤滑油である。そして、
図46には、基油としての試料油Fに対して、脂肪族アミンと亜リン酸ジエステルとがアミン塩を形成した状態で配合された試料油において、μ−v勾配が改善されることがわかった。
【0234】
また、試料油S,Uのμ−v勾配を測定し、観察した(
図44参照)。試料油Uは、試料油Sに脂肪族アミン及び亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油であり、両添加剤がアミン塩を形成している潤滑油である。そして、基油としての試料油Sに対して、脂肪族アミンと亜リン酸ジエステルとがアミン塩を形成した状態で配合された試料油Uにおいて、μ−v勾配が改善されることがわかった。
【0235】
試料油A,D,Eのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図47に示した。
試料油Aは、試料油Fを基油としており、試料油Eは、試料油Gを基油としている。そして、試料油Dは、試料油Fと試料油Gを混合した基油を用いている。そして、
図47には、試料油Aよりも試料油D,Eのμ−v勾配が高く、試料油Eが最もμ−v勾配が高くなっていることが確認できた。
【0236】
つづいて、試料油U,V,Wのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図48に示した。
試料油Vは、試料油Tを基油としており、試料油Uは、試料油Sを基油としている。そして、試料油Wは、試料油Vと試料油Uを混合した試料油であり、試料油Sと試料油Tとの混合油を基油としている。そして、
図48には、試料油Vよりも試料油U,Wのμ−v勾配が高く、試料油Uが最もμ−v勾配が高くなっていることが確認できた。
上記の
図47〜48から、基油からエステル成分を排除することで、μ−v勾配が改善されることがわかった。
【0237】
試料油A,F,E,Gのμ−v勾配を測定し、測定結果を
図49〜50に示した。
試料油Aは、試料油Fに亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油であり、試料油Eは、試料油Gに亜リン酸ジエステルを添加した潤滑油である。そして、
図49〜50には、チオリン酸ジエステルを含有した試料油A,Eは、チオリン酸ジエステルを含有しないベースオイル(試料油F,G)よりもμ−v勾配が高くなることがわかった。つまり、添加剤としては、チオリン酸ジエステルを含有することで、μ−v勾配が改善されることがわかった。
【0238】
上記の摩擦試験機において、慣らしパターンを、押付力294N(309MPa),すべり速度160rpm(0.293m/s)で30minとして、試料油U,Vのμ―v特性(μ−v勾配)の測定を行った。なお、性能測定パターンは、上記の摩擦試験と同様であった。μ−v勾配の測定結果を
図51に示した。
【0239】
図51に示したように、エステル系基油を排除した鉱物油を用いてなる試料油Uは、基油がエステル系基油100%での試料油Vに対して、μ−v勾配が改善されることがわかった。特に、試料油Uは、エステル系基油を排除することで、μ−v勾配が正勾配となっていることが確認できる。
【0240】
次に、上記のμ−v勾配の測定を行った摩擦試験機の試験後のブロックの摺動面を、TOF−SIMS分析で分析した。TOF−SIMS分析の分析結果を
図52に示した。
図52には、C−,CH−,O−,OH−,C2H−の和を基準とした、亜リン酸ジエステル由来のリン系有機反応皮膜(C36H70O4P/T)の相対強度を示した。
【0241】
図52によると、リン系有機反応皮膜成分は、鉱物油系の基油を用いている試料油Uに多いことが確認できた。すなわち、亜リン酸ジエステルが多くブロックの摺動面に吸着していることが確認できた。
【0242】
つづいて、上記の試験後のブロックの摺動面を、TOF−SIMS分析で分析した。TOF−SIMS分析の分析結果を
図53に示した。
図53には、Fe+を基準とした、エステル系基油由来の反応皮膜(C27H53O2Fe/Fe)の相対強度を示した。
【0243】
図53によると、試料油Vにおいてエステル系基油由来の皮膜成分が多いことが確認できた。すなわち、エステル系基油に由来の皮膜成分が、潤滑油中の添加剤(FM剤)の吸着を阻害している原因となっていると推定できる。なお、試料油Uでも、相対強度が確認できるが、これはノイズであると考えられる。
さらに、上記の試験後のブロックの摺動面を、XPS分析で分析した。分析結果を
図54に示した。
【0244】
図54によると、試料油Uは、試料油Vと比較して、アミン結合に由来するピークが高くなっていることが確認できる。すなわち、試料油Uは、試料油Vよりも、アミン系の添加剤(FM剤)が多く吸着していると考えられる。
【0245】
つぎに、
図55に、初期状態における、各試料油のμ−v特性を示した。初期においては、試料油A,B,D,Eは、従来油(市販油,基油)である試料油F,Hと比較して、μ−v特性が正勾配傾向(=良好)となっていることが確認できる。特に、試料油A,D,Eにおいては、μ−v特性が正勾配となっている(耐振動性に優れる)ことが確認できた。
【0246】
図56には、110℃、300hの熱負荷を与えた状態における、試料油A,B,D,E,F,Hの試料油のμ−v特性を示した。なお、熱負荷の温度(110℃)は、実際の車両に搭載された時に、差動制限機能付センターデファレンシャルの潤滑油がエンジンから受ける熱と摩擦による自己発熱により、さらされる上限近くの温度である。耐久後においては、試料油A,B,D,Eは、従来油である試料油Hと比較して、μ−v特性が正勾配傾向(=良好)にあることが確認できた。特に、試料油Eにおいては、正勾配を熱負荷300h後においても維持する(耐振動性に優れる)ことが確認できた。
【0247】
図57には、上記の熱負荷におけるμ―v勾配の経時変化を示した。縦軸のμ―v勾配は、高回転域の摩擦係数を低回転域の摩擦係数で除した値であり、この値が1以上であれば、μ―v勾配は正勾配となり、耐振性に優れていることを示す。
図57から、試料油A,B,D,Eは、試料油Hよりも、熱負荷後のμ―v勾配の落ち込みが小さくなっている(正勾配傾向となっている)。さらに、試料油D,Eは、試料油Hと比較して、μ−v特性の耐久性に優れ、特に試料油Eは300hフルードに熱劣化110℃を与えても、μ−v正勾配を維持しており、耐振動性に優れていることが確認できる。
【0248】
また、試料油Eにおいては、フルードの熱劣化に対するμ―v勾配の低下度合いが小さいことがわかる。これは、基油に極性基を有するエステル系油を配合しないために、FM剤が有効に摩擦面に吸着し、FM剤が劣化減少しても、摩擦面にFM剤が十分に吸着機能するためと考えられる。
【0249】
上記の表1〜4に示したように、試料油A〜B,D〜E,I〜P,R,U〜Wは、炭素数12〜18の不飽和の炭化水素基を有する脂肪族アミン又は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物、炭素数12〜18の飽和又は不飽和の炭化水素基を有する亜リン酸ジエステルを配合している。これらの添加剤は、摩擦面に有機吸着膜を形成することが一般的に知られている。これらの有機吸着膜は、固体接触と油膜形成部とが混在する混合潤滑状態において、平均油膜厚さが減少して固体接触の占める割合が増大する低すべり速度条件において摩擦係数を小さくでき、μ−v特性を正勾配化する方向に作用すると考えられる。なお、吸着膜の形成状態は添加剤の吸着と脱離とのバランスによって決まるため、摩擦面における吸着膜の形成状態によってμ−v特性が異なる。
【0250】
本発明の試料油と従来油(市販の潤滑油)を用いた場合に関して、推察される吸着膜形成状態の差異とμ−v特性との関係を
図58〜59に模式的に示す。炭化水素基を有する脂肪族アミンおよび亜リン酸ジエステルが適量存在する本発明の試料油を用いた場合には、
図58(a)に示したように、摩擦面に緻密で強固な有機吸着膜を形成でき、低すべり速度域での固体接触を防止できる。この場合には、
図58(b)に示すように、μ−v特性は正勾配傾向になると考えられる。
【0251】
一方、市販の潤滑油のように、潤滑油中に有効な添加剤成分が存在しない場合には、
図59(a)に示したように、摩擦面に強固な吸着膜が形成されず、低すべり速度条件における固体接触を防止できなくなる。このような場合には、
図59(b)に示すように、μ−v特性は負勾配傾向となると考えられる。
【0252】
このような理由から、特定の添加剤を配合した本発明の各試料油は、良好なμ−v特性が得られたと考えられる。そして、本発明の各試料油は、摩擦式差動制限装置において優れた静粛性を確保できると判断される。
【0253】
また、μ−v特性を正勾配化するには、試料油Dおよび試料油Eのように、潤滑油中におけるエステル系基油の割合を少なくし、炭化水素系基油を主体とすることが有効であることも確認できた。
【0254】
このことは、添加剤の吸着に関しては、他の潤滑油成分の吸着と競争関係となることが考えられる。つまり、分子内に2基のエステル結合を有するジエステル、もしくはポリオールエステルのような極性を有する基油成分は、高い吸着性を有し、有効な添加剤の吸着を阻害すると考えられる。すなわち、添加剤(アルケニル基を有するアミンおよび亜リン酸ジエステル)を多く配合しても、基油にエステル系基油を用いた場合には、摩擦面における十分な吸着膜形成の形成が行われにくくなると考えられる。
【0255】
また、本発明の各試料油のように、添加剤を(1mass%以上の割合で)配合させることで、長期にわたって良好なμ−v特性(あるいは良好な静粛性)を維持することができた。このことは、潤滑油中の添加剤は、使用に伴って酸化,熱劣化あるいは摩擦面への吸着等を生じて変質あるいは消耗する。これらの変質,消耗によって、潤滑油中の有効添加剤成分量が不足してくると、摩擦面に緻密で強固な吸着膜を形成できなくなる。このことに対して、各試料油のように、添加剤を(1mass%以上の割合で)配合させることで、長期間使用後においても添加剤の有効配合量を確保できるようになり、長期にわたって良好なμ−v特性(あるいは良好な静粛性)を維持することができる。
【0256】
上記したように、本発明の各試料油は、摩擦部材、特に鉄系金属×鉄系金属ないし鉄系金属×硬質被膜の摺動部間において、高い静粛性を確保(μ−v正勾配化)することのできることが確認できた。
【0257】
そして、本発明の潤滑油に相当する試料油は、μ−v特性を正勾配化することができることから、特に、
図1〜3にその構成を示した差動制限機能付ディファレンシャルに用いることで、そのディファレンシャルを搭載した車両において、高い静粛性を確保(μ−v正勾配化)することができる効果を発揮する。
【0258】
(その他の形態)
本発明の各試料油は、
図1〜3にその構成を示した差動制限機能付ディファレンシャルだけでなく、
図60,61〜62のそれぞれに構成を示した差動制限機能付ディファレンシャルに適用しても良い。
【0259】
(第一のその他の形態)
図60に示した差動制限機能付ディファレンシャル8は、1対の駆動軸81、82の一方または他方を中心として回転可能であるハウジング80を有している。ウォームギヤまたはヘリカルギヤとして形成されたサイドギヤ83、84は、二つの駆動軸の内側の端部にそれぞれ結合されている。ハウジング80、1対の駆動軸およびサイドギヤ83、84は、共通軸線を中心として回転可能である。
【0260】
結合歯車85,86,87,88は、二つのサイドギヤ83、84をハウジング80に関して逆方向へ等しい量だけ回転するように作用的に連結する。結合歯車85〜88の各々は、別々の歯車列を形成し、それぞれ二つのサイドギヤ83、84を相互に連結する。ハウジング80は台座を有しており、この台座の間には、対をなす結合歯車をサイドギヤを中心として両方向に等角度離れて設置するための窓が形成されている。結合歯車は、ジャーナルピン850によりそれぞれの軸線を中心として回転するように、窓内に保持されている。ジャーナルピン850は、台座に形成された孔に挿入支持されている。
【0261】
各結合歯車85〜88は、ウォームホイルとして形成された中間歯車部851(図においては、歯車85のみ符号を記載、他の歯車86〜88も同様の構成)と、スパーギヤとして形成された二つの端末歯車部852とを有している。結合歯車85の中間歯車部851は、一方のサイドギヤ83の歯と噛み合う歯を有している。同結合歯車の端末歯車部852は、他の結合歯車86の対応する歯車部の歯と噛み合う歯を有している。他の結合歯車86の中間歯車部861は、他方のサイドギヤ84の歯と噛み合う歯を有している。
【0262】
本形態においては、結合歯車85〜88とサイドギヤ83,84との間、1対の駆動軸81,82の間及び各駆動軸81,82とハウジング80との間(にもうけられたワッシャ)、結合歯車85〜88の軸方向の端面とハウジング80との間、結合歯車85〜88のジャーナルピン850とハウジング80との間、が摺動面を形成する。
【0263】
本形態においても、結合歯車85〜88が摺接する摺接面である各窓の壁面には、窒化処理(イオン窒化、ガス軟窒化等)が施される一方、各結合歯車85〜88の表面には、タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボンの多層薄膜処理を施すことが好ましい。
【0264】
(第二のその他の形態)
図61〜62に示した差動制限機能付ディファレンシャル9は、ハウジング90の内部に、遊星ウオームギヤ機構91が支持されており、このウオームギヤ機構91は1対の駆動軸92,93をハウジング90に関して反対方向に回転し得るように相互に連結している。歯車機構91は、各駆動軸92,93に連結された1対のサイドギヤ920,930と、復数対のエレメントギヤ94〜97とを有している。各エレメントギヤ94は、一方のサイドギヤ920と噛み合う部分940と、互いに噛み合う部分941とを有している。
【0265】
サイドギヤ85,86は、共通の回転軸に対し同一の揆れ角で同一方向(例えば、右方向または左方向)に傾斜した歯を有している。各推力は、ハウジング90から駆動軸92,93に伝達されるトルクに応じて発生する。
【0266】
本形態においては、エレメントギヤ94〜97とハウジング90との間、1対の駆動軸92,93の間及び各駆動軸92,93とハウジング90との間(にもうけられたワッシャ)、エレメントギヤ94〜97の軸方向の端面とハウジング90との間、エレメントギヤ94〜97とサイドギヤ920,930との間、が摺動面を形成する。
【0267】
本形態においても、エレメントギヤ94〜97が摺接するハウジング90の壁面には、窒化処理(イオン窒化、ガス軟窒化等)が施される一方、各エレメントギヤ94〜97の歯先面には、タングステンカーバイド/ダイヤモンドライクカーボンの多層薄膜処理を施すことが好ましい。
【0268】
上記のそれぞれの変形形態においても、摺接面の間に、上記の各試料油を介在させることで、高い静粛性を確保(μ−v正勾配化)することができる効果を発揮した。