(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959638
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】舌部のないワイヤスレッドインサートを着脱するための工具、その製造方法、並びにこの工具の連行ブレードを手作業で交換する方法
(51)【国際特許分類】
B25B 27/14 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
B25B27/14 C
【請求項の数】27
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-519483(P2014-519483)
(86)(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公表番号】特表2014-520678(P2014-520678A)
(43)【公表日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】EP2012062141
(87)【国際公開番号】WO2013007498
(87)【国際公開日】20130117
【審査請求日】2014年5月15日
(31)【優先権主張番号】102011051846.0
(32)【優先日】2011年7月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505156341
【氏名又は名称】ボルホフ・フェルビンダンクシュテヒニーク・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテン・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】トンメス,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】キルフヘッカー,ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】マルクスコルス,アンドレアス
【審査官】
大山 健
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−001359(JP,A)
【文献】
特開2012−101296(JP,A)
【文献】
特開昭60−191774(JP,A)
【文献】
米国特許第6000114(US,A)
【文献】
欧州特許出願公開第0153267(EP,A2)
【文献】
欧州特許出願公開第0153266(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を着脱するための工具(1)であって、
a. 駆動部(12)及び受け部(14)を有するスピンドル本体(10)であって、受け部(14)は、ワイヤスレッドインサート(D)を螺合するためのネジ山(16)若しくはワイヤスレッドインサート(D)を受けるためのネジ山のない表面を有している、スピンドル本体(10)と、
b.受け部(14)の軸方向凹所(30)内に配置される連行ブレード(20)であって、ワイヤスレッドインサート(D)が係合できるように、係合位置にバネ(24)によって半径方向に弾性的に載置される、連行ブレード(20)とを備え、
c.連行ブレード(20)は、連行ブレード(20)とスピンドル本体(10)との間の締結連結部(28、32、28’、32’、29、33、29’、33’)によって、軸方向凹所(30)内で締結・交換可能であり、締結連結部(28、32、28’、32’、29、33、29’、33’)は、手作業で着脱可能なロック接続若しくはプラグ接続として設計されており、
d.連行ブレード(20)は、凹状締結形状部(33’)若しくは凸状締結形状部(33)を有し、該締結形状部(33、33’)は、適切に設計されたスピンドル本体(10)の載置形状部(29’、29)と凹所(30)内で協働する、
舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を着脱するための工具(1)。
【請求項2】
舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を着脱するための工具(1)であって、
a.駆動部(12)及び受け部(14)を有するスピンドル本体(10)であって、受け部(14)は、ワイヤスレッドインサート(D)を螺合するためのネジ山(16)若しくはワイヤスレッドインサート(D)を受けるためのネジ山のない表面を有しているスピンドル本体(10)と、
b.受け部(14)の軸方向凹所(30)内に配置される連行ブレード(20)であって、ワイヤスレッドインサート(D)が係合できるように、係合位置にバネ(24)によって半径方向に弾性的に載置される連行ブレード(20)とを備え、
c.連行ブレード(20)は、バネ(24)と共に1ピースとして設計されていて、連行ブレード(20)とスピンドル本体(10)との間の締結連結部(28、32、28’、32’、29、33、29’、33’)によって、軸方向凹所(30)内で手作業で締結及び交換可能であり、
d.連行ブレード(20)が、凹状締結形状部(33’)若しくは凸状締結形状部(33)を有し、該締結形状部は、適切に設計されたスピンドル本体(10)の載置形状部(29’、29)と凹所(30)内で協働する、
舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を着脱するための工具(1)。
【請求項3】
連行ブレード(20)の締結形状部(33、33’)が、ピン様付属部(33)若しくはリング状開口部(33’)であり、載置形状部(29、29’)が、受け用窪み(29)若しくは軸方向に延在する突起(29’)である、請求項1又は2に記載の工具(1)。
【請求項4】
連行ブレード(20)が、締結連結部(28、32、28’、32’、29、33、29’、33’)のためのロック形状部(28、28’)を片側に有し、これにより、連行ブレード(20)を軸方向凹所(30)内に取外し可能にロックすることができる、請求項1又は2に記載の工具(1)。
【請求項5】
ロック形状部(28、28’)が、弾性且つ凸状であり、若しくは弾性且つ凹状であり、ロック形状部(28、28’)と相補的な形状のカウンターベアリング(32、32’)と軸方向凹所(30)で協働する、請求項4に記載の工具(1)。
【請求項6】
カウンターベアリング(32、32’、40、42)が、軸方向凹所(30)内でスピンドル本体(10)に一体的に設計されている、若しくは軸方向凹所(30)内に締結されている、請求項5に記載の工具(1)。
【請求項7】
軸方向凹所(30)が、圧入アダプター(40)、若しくは受け部(14)の長手軸に対して横断方向に延在するピン(42)を有し、そこに連行ブレード(20)が締結可能である、請求項1又は2に記載の工具(1)。
【請求項8】
軸方向凹所(30)が孔であり、該孔内において、溝付き支持スリーブ(50)が、連行ブレード(20)を締結するために、溝(52)に対して横断方向に延在するピン(42)で締結される、請求項1又は2に記載の工具(1)。
【請求項9】
連行ブレード(20)が、バネ24と組合せてU字形に設計され、U字の少なくとも一方の脚が連行ブレード(20)で形成され、U字の別の脚がバネ(24)で形成される、請求項1又は2に記載の工具(1)。
【請求項10】
バネ(24)が、半径方向外方に突出する突起(26)を軸方向端部に有し、該突起(26)は、連行ブレード(20)のブレード突部(22)上方で、バネ(24)の長手方向に延在している、請求項9に記載の工具(1)。
【請求項11】
連行ブレード(20)及びバネ(24)が一体構造をなしている、請求項9に記載の工具(1)。
【請求項12】
工具(1)の連行ブレード(20)であって、該工具(1)によって、舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を着脱可能であり、該連行ブレード(20)は、ブレード突部(22)を有し、
締結形状部(28、28’、33、33’)を有し、該締結形状部によって、工具(1)内で連行ブレードを手作業で締結及び交換可能であり、締結形状部(28、28’、33、33’)は、ロック形状部(28、28’)、又はプラグ接続部の凸状締結形状部(33)若しくは凹状締結形状部(33’)として設計され、手作業で着脱可能であり、該凹状締結形状部(33‘)若しくは凸状締結形状部(33)は、適切に設計されたスピンドル本体(10)の載置形状部(29’、29)と凹所(30)内で協働する、工具(1)の連行ブレード(20)。
【請求項13】
バネ(24)と共に1ピースとして設計され、工具(1)内の係合位置に弾性的に載置可能である、請求項12に記載の工具(1)の連行ブレード(20)。
【請求項14】
連行ブレード(20)の凸状締結形状部(33、33’)が、ピン様付属部(33)若しくはリング状開口部(33’)である、請求項12に記載の連行ブレード(20)。
【請求項15】
前記ロック形状部(28、28’;33、33’)が、弾性的且つ凸状に設計されるか、若しくは弾性的且つ凹状に設計される、請求項12に記載の連行ブレード。
【請求項16】
前記ロック形状部(28、28’;33、33’)が、U字型(28)若しくはO字型(28’)に設計される、請求項15に記載の連行ブレード。
【請求項17】
バネ(24)と組合わせてU字形に設計され、U字の少なくとも一方の脚が連行ブレード(20)で形成され、U字の別の脚がバネ(24)で形成される、請求項12〜16のいずれか1項に記載の連行ブレード(20)。
【請求項18】
前記バネ(24)が、半径方向外方に突出する突起(26)を軸方向端部に有し、該突起(26)は、連行ブレード(20)のブレード突部(22)を越えてバネ(24)の長手方向に延在している、請求項17に記載の連行ブレード(20)。
【請求項19】
連行ブレード(20)及びバネ(24)が一体構造をなしている、請求項17又は18に記載の連行ブレード(20)。
【請求項20】
前記ロック形状部(28,28’)がU字型(28)若しくはO字型(28’)である、請求項5に記載の工具(1)。
【請求項21】
舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を着脱するための工具(1)の製造方法であって、該方法は、
a.駆動部(12)と、ネジ山(16)を有する受け部(14)とを備えるスピンドル本体(10)を製造する工程(S1)と、
b.軸方向凹所(30)を受け部(14)内に形成する工程(S2)と、
c.凸状若しくは凹状締結形状部(28,28’、33、33’)を有する連行ブレード(20)を製造する工程(S3)と、
d.締結連結部(32、32’;40、42)によって、連行ブレード(20)を手作業で着脱可能に軸方向凹所(30)内に連結する工程(S4)であって、該締結連結部(28、32;28’、32’;29、33;29’、33’)は、手作業で着脱可能なロック接続若しくはプラグ接続として設計されている、工程(S4)とを含み、
e.前記連行ブレード(20)は、凹状締結形状部(33’)若しくは凸状締結形状部(33)を有し、該凹状締結形状部(33’)若しくは凸状締結形状部(33)は、適切に設計されたスピンドル本体(10)の載置形状部(29、29‘)と凹所(30)内で協働する、舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を取付け若しくは取外しするための工具(1)の製造方法。
【請求項22】
連行ブレード(20)を、バネ(24)と組合わせて一体的U字型構造体として製造する工程(S3)を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記工程(S3)が、連行ブレード(20)を放電加工によって製造する工程である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
凸状U字型ロック形状部(28)若しくは凹状O字型ロック形状部(28’)を、連行ブレード(20)に形成する、請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
軸方向凹所(30)を放電加工し、カウンターベアリング(32、32’;40、42)を軸方向凹所(30)内に放電加工若しくは圧入する、請求項21〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
受け部(14)を軸方向に穿孔する工程(S2a)と、穿孔された孔内へ横断ピン(42)を有する支持スリーブ(50)を挿入して軸方向凹所(30)を形成する工程(S2b)とをさらに含む、請求項21〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を着脱するための工具(1)内の連行ブレード(20)を手作業で交換する方法であって、該工具は、駆動部(12)及び受け部(14)を有するスピンドル本体(10)であって、受け部(14)は、ワイヤスレッドインサート(D)を螺合するためのネジ山(16)を有しているスピンドル本体と、受け部(14)の軸方向凹所(30)内に配置される連行ブレード(20)であって、ワイヤスレッドインサート(D)が係合できるように係合位置にバネ(24)によって半径方向に弾性的に載置される連行ブレードとを備え、前記方法は、
a.連行ブレード(20)を手でつかむ工程(I)と、
b.軸方向凹所(30)から連行ブレード(20)を引き抜く工程(II)であって、該連行ブレード(20)は、凹状締結形状部(33’)若しくは凸状締結形状部(33)を有し、該締結形状部(33、33’)は、適切に設計されたスピンドル本体(10)の載置形状部(29’、29)と凹所(30)内で協働する、引き抜く工程(II)と、
c.軸方向凹所内に別の連行ブレード(20)を手作業で挿入し(III)、締結する(IV)工程とを含む、舌部のないワイヤスレッドインサート(D)を着脱するための工具(1)内の連行ブレード(20)を手作業で交換する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舌部のないワイヤスレッドインサートを着脱するための工具、その製造方法、並びにこの工具の連行ブレードを手作業で交換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤスレッドインサートを着脱するための様々な工具が従来から知られている。このような工具は通常、駆動部と、ワイヤスレッドインサートに螺合するためのネジ山を設けた受け部とを有するスピンドル本体を備えている。このスピンドル本体内部には、連行ブレードが配置されている。この連行ブレードは、中央に枢動の中心を有する細長い構造を呈している。この中央の枢動中心は、連行ブレードの締結点でもあることが多く、スピンドル本体にリベット留めされたピンによって形成される。ワイヤスレッドインサート内に係合するブレード凸部が、連行ブレードの一端に配置される。連行ブレードの他端にはバネが配置され、ブレード凸部が、バネ付勢によりワイヤスレッドインサート内の係合位置へと予備付勢されるようになっている。
【0003】
このような工具は、EP 0 153 266、EP 0 153 267、EP 0 615 818に記載されている。
【0004】
同様の工具がEP 1 838 499にも記載されている。スピンドル本体内に配置された連行ブレードは、ここでもバネ付勢により予備付勢されている。連行ブレードの動作はナイフエッジベアリングを介して行われるので、スピンドル本体内に連行ブレードをピンによってリベット留めする必要がない。
【0005】
上述の従来技術の工具では、このブレード構造のため、工具全体が比較的長くなっている。よってワイヤスレッドインサートの取付け及び取外しにある程度の作業スペースが必要となるが、これは設置状況によっては不便である。また、ワイヤスレッドインサートの着脱サイクルを所定回数繰り返すと、連行ブレード、特にブレード凸部が摩耗してしまう。よって、工具を使用し続けることができるようにするためには、連行ブレードの交換が必要となる。連行ブレードの締結のためには、別の工具を使用して中央のピンを取り外さなければならないため、この連行ブレードの交換は複雑である。連行ブレードを中央ピンで締結しないと、スピンドル本体を開けて連行ブレードを取り外すために工具が必要となる。その後新たな連行ブレードをピンで取付けるには、工具を使用して比較的長時間かけないとできないので、貴重な工具操作時間が失われてしまうことになる。
【0006】
さらなる構造的不利益は、連行ブレードのブレード凸部をワイヤスレッドインサート内の係合位置へと予備付勢するバネの配置によっても生じる。このバネは、連行ブレードの取外し及び/又は取付け中に紛失してしまうことがあり、また再配置が必要であるため、少なくとも取付けの妨げとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許公開第0153266号
【特許文献2】欧州特許公開第0153267号
【特許文献3】欧州特許公開第0615818号
【特許文献4】欧州特許公開第1838499号
【特許文献5】米国特許公報第6000114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、新たな作業サイクルのために僅かな保守努力で調節可能な、舌部のないワイヤスレッドインサートを着脱するための工具並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、独立請求項1又は2に記載の工具、請求項14に記載の連行ブレード、独立請求項21に記載の当該工具の製造方法、並びに独立請求項27に記載の連行ブレードを手作業で交換する方法によって解決される。本発明の有利な設計は、以下の明細書、添付図面、及び従属請求項からわかる。
【0010】
舌部のないワイヤスレッドインサートを着脱するための本発明の工具は、以下の特徴を有する。駆動部と受け部とを有するスピンドル本体であって、受け部が、ワイヤスレッドインサートを螺合するためのネジ山、若しくは該インサートを受けるためのネジ山のない表面を有しているスピンドル本体と、受け部の軸方向凹所内に配置される連行ブレードであって、ワイヤスレッドインサート(D)が係合できるように、係合位置にバネによって半径方向に弾性的に載置される連行ブレードとを備え、連行ブレードとスピンドル本体との間の締結連結部により、連行ブレードは軸方向凹所に手作業で締結・交換可能である。
【0011】
本発明の工具は、ワイヤスレッドインサートを着脱するために使用する連行ブレードの構造及び取扱いが、先行技術のものとは異なる。この連行ブレードは、スピンドル本体に取り付け後、従来技術のものとは異なり、工具なしで交換することができる。従来技術の工具の場合、ブレードを保持しているピンを外すために、例えばポンチやハンマーが必要となるが、本発明の連行ブレードは、作業者の指や指の爪、若しくはボールペンを使って外すことができる。工具や、複雑で時間のかかる作業工程は必要ない。このように工具なしで交換できるのは、締結連結部によって連行ブレードがスピンドル本体内に締結されていることによるものである。この締結連結部は手作業で着脱可能であるので、連行ブレードをスピンドル本体からいつでも取り外すことができ、新たな連行ブレードと交換することができる。このような連行ブレードの構造及びそのスピンドル本体内への締結により、上述の工具の保守努力は、従来技術のものに比べて大幅に軽減されるが、同時に、ワイヤスレッドインサートを着脱するための工具の通常の機能性を維持することができる。
【0012】
好ましい実施態様によれば、連行ブレードは、凹状若しくは凸状の締結形状部を有し、この締結形状部は、適切に設計されたスピンドル本体の載置形状部と凹所内で協働する。この実施態様において、連行ブレードは、凸状締結形状部として軸方向に延在する付属部を有し、この付属部は、スピンドル本体の凹所内で適切な開口に係合する。よってこの適切な開口は、スピンドル本体に設けた凹状に設計された載置形状部をなす。これとは反対に、凹所に対向する側の連行ブレードの端部に、凹状締結形状部として開口を設け、スピンドル本体の凹所内でそこにピン様の付属部を嵌めることができるようにすることも考えられる。この場合、スピンドル本体のこのピン様の付属部は、スピンドル本体の凸状載置形状部をなす。
【0013】
また本発明は、舌部のないワイヤスレッドインサートを着脱するための工具であって、以下の特徴を有する。駆動部及び受け部を有するスピンドル本体であって、受け部は、ワイヤスレッドインサートを螺合するためのネジ山若しくはワイヤスレッドインサートを受けるためのネジ山のない表面を有しているスピンドル本体と、受け部の軸方向凹所内に配置される連行ブレードであって、ワイヤスレッドインサートが係合できるように、係合位置にバネによって半径方向に弾性的に載置される連行ブレードとを備え、連行ブレードは、バネと共に1ピースとして設計されている。
【0014】
本発明の工具は、特に、ワイヤスレッドインサートを着脱するのに使用する連行ブレードの特別な形状を特徴とする。この連行ブレードも、手作業で交換可能であり、従来技術では必要とされる工具が不要である。この連行ブレードは、これを予備付勢するバネと共に一体構造をなすことを特徴とする。この構成により、工具の個々の部品の数を減らすことができ、よって取付けの際の労力及び保守努力を低減することができる。上述の工具と同様、この連行ブレードとスピンドル本体との組合わせは、互いに適合された締結連結部を特徴とする。従って、連行ブレードは、凹状若しくは凸状の締結形状部を有し、この連結形状部は、適切に設計されたスピンドル本体の載置形状部と凹所内で協働する。また、以下に状際に説明するように、締結連結部をロック接続部とすることも好ましい。さらに別の変更例では、バネと共に1ピースとして設計された連行ブレードは、従来技術で一般的に知られているように、スピンドル本体の凹所内に永久的に設置することもできる。
【0015】
スピンドル本体と連行ブレードとの間に上述の締結連結部を確立するために、連行ブレードは、好ましくは片側にロック形状部を有し、これにより連行ブレードは軸方向凹所内に脱着可能にロック可能である。このロック形状部は、ある実施態様では弾性的且つ凸状、特にU字型に設計され、別の実施態様では弾性的且つ凹状、特にO字型に設計されており、それぞれ、ロック形状部と相補的な形状とされた、スピンドル本体の軸方向凹所に設けたカウンターベアリングと協働する。
【0016】
本発明の上記ロック接続部を確立するために、連行ブレードのロック形状部は、スピンドル本体に設けた対応するカウンターベアリングと協働する。ロック形状部がU字型に設計されている場合には、連行ブレードをスピンドル本体に取付ける際に、相補的形状のカウンターベアリングを包み込む。また、カウンターベアリングとして設計された凹部内に着脱可能に取り付けられるように、ロック形状部をO字型に設計することも考えられる。
【0017】
スピンドル本体の別の実施態様では、カウンターベアリングは、スピンドル本体の軸方向凹所内に一体的に形成されるか、若しくは軸方向凹所内に別個の部品として締結される。スピンドル本体内にカウンターベアリングを一体的に形成するには、例えば放電加工によって形成することができる。別の方法として、対応するカウンターベアリングを圧入して、軸方向凹所内に嵌合により保持し、連行ブレードをロックすることができる対応する保持部を形成することもできる。圧入アダプター以外にも、軸方向凹所内において、受け部の長手軸に対して横断方向に延在するピンを設けることも好ましい。連行ブレードは、このアダプターにも、この横断ピンにも、締結若しくはロックすることができる。
【0018】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、スピンドル本体の軸方向凹所は、孔を穿孔し、溝付き支持スリーブに、この溝に対して横断方向に延在する、連行ブレードを締結するためのピン設けたものを、この孔内に締結することによって、設けることができる。この構成、つまりピンを有する支持スリーブをスピンドル本体の孔に圧入する構成により、軸方向凹所及びカウンターベアリングを形成するための複雑な放電加工工程を行わずに済む。よって本発明の工具の製造に必要な製造コストや時間を削減することができる。
【0019】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、バネと組合わせた連行ブレードはU字型に設計され、U字の少なくとも一方の脚が連行ブレードによって形成され、他方の脚がバネによって形成される。この構造的設計により、バネ付き連行ブレードが、一方では確実にコンパクトでスペース効率の良い構造となる。また、バネが連行ブレードに接続されているため、連行ブレードを着脱する際にバネが紛失することを確実になくすことができる。これに関して、連行ブレード及びバネが一体構造をなすことが好ましい。連行ブレード及びバネを互いに平行に配置することにより、さらに設置スペース効率を良くすることができる。従来技術では、バネと連行ブレードとが離れて配置されていることにより、工具が長くなっているが、本明細書に開示するコンパクトでU字型構造の連行ブレード及びバネでは、従来技術よりも工具の長さを短くすることができる。
【0020】
本発明の工具のさらに別の構造的設計によれば、バネの軸方向端部には、半径方向外方に突出する突起が設けられ、この突起は、バネの長手方向に、連行ブレードのブレード凸部を越えて延在する。この別の構成により、連行ブレードをスピンドル本体内に確実に適切に整列して取付けることができる。このため、バネの半径方向外方に突出する突起は、連行ブレードがスピンドル本体内に誤った状態で取付けられるのを防ぐことができる。このように、誤った状態で取付けられた連行ブレードを取外すという時間のかかる作業を防ぐことができるので、本発明の工具の保守努力を軽減することができる。
【0021】
さらに本発明によれば、舌部のないワイヤスレッドインサートを着脱するための工具の製造方法が開示され、この方法は、駆動部と、ネジ山を有する受け部とを備えるスピンドル本体を製造する工程と、軸方向凹所を、好ましくは片側に半径方向窓をもって、受け部内に形成する工程と、連行ブレードを製造する工程と、締結連結部によって連行ブレードを手作業で着脱可能に軸方向凹所内に連結する工程とを含む。
【0022】
上述の工具を製造するには、連行ブレードをスピンドル本体内に着脱可能にロックすることが重要である。このために、連行ブレードには、締結形状部、好ましくはロック形状部が構造的に設けられ、この締結形状部は、スピンドル本体の軸方向凹所内に設けた相補的形状のカウンターベアリングと協働する。この構造によれば、工具を使用せずに連行ブレードを軸方向凹所から取外すことができ、新たな連行ブレードを着脱可能に軸方向凹所内に取付ける、特にロックすることができる。さらに、バネと組合わせた連行ブレードを、U字形一体構造として、製造、特に放電加工することで、上述の工具の製造を容易にすることが好ましい。このような構造体の製造により、工具を確実にコンパクトな構造とすることができ、また連行ブレードをワイヤスレッドインサートの方へ予備付勢するバネを取付けるための追加の工程が不要となる。このような構成により、バネが連行ブレードに永久的に連結されているため、連行ブレードを取外す際にバネを紛失することも確実になくなる。
【0023】
本発明の製造方法のさらなる工程によれば、凸状のU字型ロック形状部、若しくは凹状のO字型ロック形状部を、好ましくは連行ブレード上に形成する。さらに、本発明の製造方法のさらなる実施態様によれば、軸方向凹所を放電加工し、また軸方向凹所内のカウンターベアリングを放電加工若しくは圧入する。
【0024】
別の設計として、スピンドル本体を軸方向に穿孔し、設けた孔内に、横断ピンを有する支持スリーブを挿入することも好ましい。横断ピンを有する支持スリーブは、挿入すると、バネ及び凸状のU字型ロック形状部を有する連行ブレードを着脱可能にロックすることができるカウンターベアリングを備える軸方向凹所をなす。
【0025】
本発明はさらに、舌部のないワイヤスレッドインサートを着脱するための工具内の連行ブレードを手作業で交換する方法を開示し、この工具は、駆動部及び受け部を有するスピンドル本体であって、受け部は、ワイヤスレッドインサートを螺合するためのネジ山を有しているスピンドル本体と、受け部の軸方向凹所内に配置される連行ブレードであって、ワイヤスレッドインサートが係合できるように係合位置にバネによって半径方向に弾性的に載置される連行ブレードとを備えるという構造的特徴を有し、この方法は、軸方向凹所内の連行ブレードを手でつかむ工程と、軸方向凹所から連行ブレードを引き抜く工程と、軸方向凹所内に別の連行ブレードを手作業で挿入し、締結する、好ましくはロックする工程とを含む。
【0026】
連行ブレードを手作業で交換するこの方法の利点は、例えば摩耗したり欠陥がある連行ブレードをスピンドル本体から取外して、新しい連行ブレードと交換するために、工具を必要としないことにある。これは、手作業によって着脱可能な締結形状部若しくはロック形状部によって、連行ブレードが軸方向凹所内の相補的形状とされたカウンターベアリングに締結される構造により可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の工具の第一の好ましい実施態様を示す。
【
図2】
図2は、本発明の工具の第二の好ましい実施態様を示す。
【
図3】
図3は、本発明の工具の第三の好ましい実施態様を示す。
【
図4】
図4は、本発明の連行ブレードの好ましい実施態様を示す。
【
図5】
図5は、本発明の連行ブレードの別の好ましい実施態様を示す。
【
図8】
図8は、工具に連行ブレードを取付ける際の概略図である。
【
図9】
図9は、工具に取付けた連行ブレードの好ましい実施態様の概略図である。
【
図10】
図10は、バネを有する本発明の連行ブレードの好ましい実施態様を示す。
【
図11】
図11は、バネを有する連行ブレードの別の好ましい実施態様を取付け状態で示す概略図である。
【
図13】
図13は、バネを有する本発明の連行ブレードの好ましい実施態様の斜視図である。
【
図14】
図14は、本発明の工具の別の好ましい実施態様を示す。
【
図16】
図16は、本発明の工具の別の好ましい実施態様を示す。
【
図18】
図18は、本発明の工具の別の好ましい実施態様の斜視断面図である。
【
図20】
図20は、本発明の好ましいバネ構造の概略拡大断面図である。
【
図21】
図21は、スピンドル本体の凹所内へ、締結輪郭によって連行ブレードを締結する好ましい実施態様を示す。
【
図22】
図22は、スピンドル本体の凹所内へ、締結輪郭によって連行ブレードを締結する別の好ましい実施態様を示す。
【
図23】
図23は、本発明の工具の好ましい製造方法を示すフローチャートである。
【
図24】
図24は、本発明の工具内への連行ブレードの好ましい取付け及び取外しを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の好ましい実施態様を、添付図面を参照してより詳細に説明する。
【0029】
図1〜
図3に一例として示す工具1は、部品(図示せず)に設けたネジ付き穴に、舌部のないワイヤスレッドインサートDを着脱する役割を果たす。このようなワイヤスレッドインサートD並びにこれをネジ付き穴内へねじ込む方法は公知であるので、詳細には説明しない。
【0030】
本発明の工具1は、スピンドル本体10、カウンタースリーブKを有する深さ規制スリーブT、ネジ山16若しくはネジ山のないピン状の表面(図示せず)を有する受け部14、及びブレード凸部22を有する連行ブレード20からなる。
図3に示すように、本発明の工具1は、深さ規制スリーブT及びカウンタースリーブKなしでも使用することができる。以下に、ネジ山16を設けた受け部14を有する例として、工具1について説明する。この説明は、ワイヤスレッドインサートが好ましくはクランプされる、ネジ山のないピン状の表面(図示せず)を有する受け部14についても同様に当てはまる。
【0031】
図1〜
図3からわかるように、スピンドル本体10は、左から右へ見ていくと、駆動部12、中間部、受け部14からなっている。駆動部
12は駆動用外形、例えば六角形であり、スピンドル本体10を回転させるための駆動装置(図示せず)に接続可能である。
【0032】
深さ規制スリーブTの位置は、受け部14のネジ山16上で自由に調節可能であり、カウンタースリーブKによって固定される。
【0033】
受け部14は軸方向凹所30を有し、この中に連行ブレード20が配置される。軸方向凹所30は、受け部14の軸方向に延在している。好ましくは細長い穴状に設計される。軸方向凹所30は、受け部14に隣接するスピンドル本体10の前面にも開口している(
図2及び
図18参照)。軸方向凹所30は、スピンドル本体10の上述した前面に隣接する窓34の領域で、スピンドル本体10に対して半径方向に開口している。窓34は、好ましくは、連行ブレード20のブレード凸部22が、窓34を通ってワイヤスレッドインサートDに係合若しくは当接できるように、充分長く設計されている。窓34とは反対側の軸方向凹所30の半径方向外側壁は、閉じた設計となっている。
【0034】
連行ブレード20の構造に基づいて、以下により詳細に説明するように、工具1の長さはどのように設定してもよく、最小限とすることもできる。連行ブレード20は、既知の連行ブレードと比較して長さが約半分なので、駆動部12及びネジ切り部14に必要な寸法によって工具1の長さを決定できる。このように、様々な設置条件や顧客ニーズに合わせて、工具1の長さをどのようにでも調節することができる。
【0035】
連行ブレード20は上述のブレード凸部22を備え、このブレード凸部は半径方向窓34を通してワイヤスレッドインサートDに係合する。ブレード凸部22の形状は、既に知られているとおり様々に設計可能であり、ここでは詳細には説明しない。
【0036】
好ましい実施態様の
図4、
図5、
図10、及び
図13が示すように、連行ブレード20は、ブレード凸部22に加えて、ロック形状部28、28’を備える。このロック形状部28、28’、並びに軸方向凹所30内に設けられたこれと相補的な形状であるカウンターベアリング32、32’とによって、連行ブレード20は、手作業で着脱可能なロック接続を介して軸方向凹所30内にロックされる。ある実施態様では、ロック形状部28は、ピン状のカウンターベアリング32と積極的接続を構成するように、弾性的且つ凸状、好ましくはU字型に設計される(
図4、
図6、
図8、
図9、
図10、
図14、
図15、
図16、
図18参照)。カウンターベアリング32は、軸方向凹所30の駆動部12側の軸方向端部に隣接して若しくはその近辺に設計される。
【0037】
ある実施態様では、カウンターベアリング32は、スピンドル本体10の軸方向に延在する上記舌部32からなる。別の実施態様では、カウンターベアリング32を有するアダプター40を軸方向凹所30内に圧入し、接着若しくは他の方法で固定することによって、ピン状のカウンターベアリング32が形成される(
図14及び
図15参照)。
【0038】
U字形のロック形状部28を、軸方向凹所30を通って受け部14の長手軸に対して横断方向に延在するピン42に着脱可能にロックすることも好ましい(
図16、
図17、
図18参照)。ピン42は、例えばリベット留め、接着、若しくは他の方法で、スピンドル本体10内に固定されている。
【0039】
図18及び
図19に示す別の好ましい実施態様では、ピン42は、支持スリーブ50内にその長手方向に対して横断方向に配置される。
図18からわかるように、受け部
14は、スピンドル本体10の前面から軸方向に穿孔してある。設けた孔内へ、長手方向に延在する溝52を有する支持スリーブ50を締結、好ましくは圧入若しくは接着する。この溝52は、支持スリーブ50を、平行に対向する二本の脚部に分割している。支持スリーブ50は、軸方向前面で閉じており、その近傍に穴54が設けられる。穴54内には、支持スリーブ50及び溝52の長手方向に対して横断方向にピン42が配置される。
【0040】
上述した実施態様の構造的変更例では、ピン42を支持スリーブ50内に締結し、支持スリーブ50を上記孔内に固定配置する。よって、ピン42のためを以って受け部14内に孔を設ける必要がなくなる。
【0041】
別の構造的変更例では、ピン42を、受け部14の半径方向外方壁並びに支持スリーブ50を貫通させて締結する。
【0042】
ピン42を備えた支持スリーブ50を使用することには、穿孔、旋削、フライス加工及び接着、若しくは圧入等の簡単な加工工程によって、軸方向凹所30を形成することができるという利点がある。当然ながら、受け部14を放電加工することにより軸方向凹所30を形成することも好ましい。
【0043】
さらに別の実施態様によれば、ロック形状部28’は、開口部を有するカウンターベアリング32’内に着脱可能にロックされるよう、凹状の設計とする。ロック形状部28’は、好ましくは
図11〜
図13に示すようなO字型である。
図11〜
図13からわかるように、ロック形状部28’は、対向する二つの弾性脚部を形成するように、中央空隙を有する。また、ロック形状部28’をダイアモンド形に形成し、それに合わせてカウンターベアリング32’の形状を調整して、着脱可能にロックできるようにすることも考えられる。
【0044】
本発明の様々な好ましい実施態様によれば、連行ブレード20は、バネ24付きでもバネ24なしの設計でもよい。バネ24の有無にかかわらず、連行ブレード20は、上述の通り、軸方向凹所30内に着脱可能にロックすることができる。
図4及び
図5に、凸状ロック形状部28か凹状ロック形状部28’をそれぞれ有するバネ24なしの連行ブレード20を示す。
図6及び
図7に示すように取付け状態では、連行ブレード20は、軸方向凹所30内に着脱可能にロックされている。軸方向凹所30内にはバネ24が配置されており、ブレード凸部22が窓34から外へ突出するように、ワイヤスレッドインサートD内の係合位置へと予備付勢している。このバネ24は、好ましくは凹所30の内側壁若しくは連行ブレード20に、バネ24と内側壁の間若しくはバネ24と連行ブレード20との間の少なくとも一つの接触点において、固定されている。
【0045】
図8〜
図16及び
図18に示す別の好ましい実施態様によれば、バネ24と連行ブレード20とで一体構造を成している。この一体構造は好ましくはU字形に設計されており、連行ブレード20がU字の一方の脚部を形成し、バネ24がU字の対向する脚部を成している。またこの一体構造では、ブレード凸部22が窓34から外へ突出するように、ブレード凸部22を有する連行ブレード20を、ワイヤスレッドインサートD上の係合位置へと、バネ24が予備付勢している(上記参照)。好ましい実施態様によれば、連行ブレード20とバネ24との一体構造はワイヤ放電加工されているので、設置スペースが小さくて済む。
【0046】
図10、
図13、及び
図18に示す拡大図からわかるように、バネ24を形成するU字の一方の脚部は、その軸方向端部に突起26を有する。この突起26は、好ましくはスピンドル本体10に対して内方に突出する、若しくはブレード凸部22の方向に延在する。連行ブレード20とバネ24との一体構造を取付けた状態では、半径方向内方に突出する突起26は、ブレード凸部22に半径方向に機械的応力がかかっている間、確実にこの突起26に支承されるようにする。半径方向内方に突出する突起26は、ブレード凸部22がワイヤスレッドインサートDを解放するのに十分なだけ半径方向内方に撓曲するよう、充分大きく設計される。これにより、撓曲する連行ブレード20にかかる機械的応力が最小限となる。半径方向内方に突出する突起26は同時に、汚れが入り込むのを抑えるために、軸方向凹所30の前面開口を可能な限り閉じることに寄与する。
【0047】
突起26の別の好ましい実施態様では、半径方向外方、若しくはブレード凸部22とは逆方向、且つバネ24の長手方向に延在する。突起26の長手方向長さは、連行ブレード20の長手方向に対するブレード突部22の軸方向長さよりも長い。さらに、突起26の長手方向長さは、受け部14に対する窓34の軸方向長さよりも長いことが好ましい(
図13及び
図20参照)。受け部14の軸方向凹所30は、窓34の領域において、一側面にのみ半径方向に開口している。連行ブレード20とバネ24との一体構造を誤った方向に挿入して、ブレード突部22が窓34の側に配置されない場合には、一体構造が軸方向凹所30内に間違って取付けられかねない。このような事態を防止するためには、突起26を、上述のように半径方向外方且つ軸方向に突出させる。また、半径方向外方に突出する突起26が窓34内に配置されるように一体構造を挿入すると、突起26の長手方向長さのために、一体構造を取り付けることができない。取付けのためには、半径方向内方に突出する突起26にブレード突部22の裏面が支承されるまで、連行ブレード20及びバネ24を云わば互いに向かって動かす。この位置において、半径方向外方に突出する突起26は、一体構造の半径方向長さが軸方向凹所30の内側開口を超えるのに充分外方に突出する。受け部14の軸方向における一体構造の別の取付けは、
図20に示すように、窓34の駆動部12側端部によってブロックされる。このように突起26は、連行ブレード20とバネ24との一体構造を、確実に適切な向きで取付けることができるようにする。
【0048】
前述の通り、工具1において、連行ブレード20は、スピンドル本体10の凹所30内にロック接続によって締結される。締結連結部29、33によって、連行ブレード20をスピンドル本体1の凹所30内部に締結することも好ましい。この締結連結部29、33は、連行ブレード20とスピンドル本体10とのロック接続を行うものではなく、一方では、従来から知られているスピンドル本体10と連行ブレード20との間の連結部(図示せず)と理解すべきものである。つまり、締結連結部によって、連行ブレード20がスピンドル本体10の凹所30内に、工具によって取り付けられる。そのため連行ブレード20には、例えば凹所30内へと突出する端部に、閉じた小穴が設けられており、スピンドル本体10内に延在するピンによって連行ブレードを凹所30内にロックできるようになっている。このピン、よって連行ブレード20も、工具(図示せず)によって着脱可能である。
【0049】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、この締結連結部は、連行ブレード20とスピンドル本体10との間のプラグ接続である。この場合の連行ブレード20は、例えば
図21に示すように、
凹状の締結形状部33を有する。この
凹状の締結形状部33は、連行ブレード及びスピンドル本体10の軸方向長手方向に延在するように、軸方向付属部若しくはピン様に設計されている。締結形状部33は、連行ブレード20を枢動若しくは弾性運動させることができるように、好ましくはボールジョイント様に設計されている。また、連行ブレード20の弾性運動が、連行ブレード20の弾性材料特性によってのみ可能となるように、締結形状部33をピン様の形状とすることも好ましい。連行ブレード20の
凹状締結形状部33は、スピンドル本体10の凹所30内に設けた相補的形状の凹状締結形状部29内に係合する。最もシンプルな設計としては、凹部30の凹状締結形状部29は、
凹状締結形状部33を受入れるための窪みをなす。スピンドル本体10と連行ブレード20との間のこの締結連結部の特別な設計が、既に上述した連行ブレード20とスピンドル本体10との間のロック接続部28、32である。
【0050】
連行ブレード20とスピンドル本体10との間の締結連結部29’、33’のさらに好ましい実施態様によれば、連行ブレード20は
凸状の締結形状部33’を有する。この
凸状締結形状部33’を
図22に概略的に示す。この
凸状締結形状部33’は、スピンドル本体10の
凹状締結形状部29’を受入れられるような形状となっている。スピンドル本体10の
凹状締結形状部29’は、例えばピン様の付属部、軸方向突起等の構造体によって形成され、凹所30内で連行ブレード20の方向にスピンドル本体10の軸方向に延在する。連行ブレード20の
凸状締結形状部33’は、これと互換性を持つように設計される。
図22に示すように、
凸状締結形状部33’の好ましい一実施態様は、U字形状部であり、これで
凹状締結形状部29’を取り囲む。また
凸状締結形状部33’をリング状構造体によって形成することも考えられ、その囲まれたリング表面は、連行ブレード20の長手軸に対して直角に配置される。この配置により、
凹状締結形状部29’はリング状締結形状部33’内に受け入れられる。
【0051】
上述のロック形状部28、28’、32、32’について、
図21及び
図22に示す凹状/凸状締結形状部として実施することも好ましい。よって、好ましい実施態様は、アダプター40又はピン42を用いて、スピンドル本体10の凹所30内に
図22の連行ブレード20をロックすることにもある。
【0052】
本発明はまた、上述の工具1の好ましい製造方法も開示するものである。この製造方法の一実施態様を、図
23のフローチャートによって示す。第一の工程S1では、駆動部12と、ネジ山16を有する受け部14とを備えるスピンドル本体10を製造する。この工程には公知の製造方法を用いるので、ここでは詳細に説明する必要はない。
【0053】
第二の工程S2では、軸方向凹所30を、片側に半径方向窓34をもって、受け部14内に形成する。好ましい実施態様によれば、軸方向凹所30は放電加工によって形成される。別の製造法では、カウンターベアリング32、32’も軸方向凹所30内に放電加工によって設ける。カウンターベアリング32、32’をアダプター(上記参照)として別個に作成し、これを圧入、接着、その他の方法で軸方向凹所30内に締結することも好ましい。
【0054】
さらに別の好ましい製造方法によれば、工程S2aにおいて受け部14を軸方向に穿孔する。次いで、設けた孔内へ、上述した支持スリーブ50をピン42と共に挿入し、支持スリーブ50の溝52が軸方向凹所30を形成するようにする。また、設けた孔内へ支持スリーブ50を挿入した後に、ピン42を挿入してもよい。この場合ピン42は、支持スリーブ50の穴54だけでなく、受け部14の孔も通っている。
【0055】
次の工程S3では、連行ブレード20を、締結連結部
33、33’若しくはロック形状部28、28’と共に製造する。締結連結部
33、33’若しくはロック形状部28、28’を有する連行ブレード20を製造するための他の製造方法も利用可能であるが、締結連結部
33、33’若しくはロック形状部28、28’を有する連行ブレード20は、好ましくはワイヤ放電加工により製造する。製造工程のさらに別の好ましい実施態様によれば、連行ブレード20をバネ24と組合わせて一体構造として製造する。上述の設計では、この一体構造は好ましくはU字形に設計される。ロック形状部28、28’若しくは締結連結部
33、33’を有する連行ブレード20、又は連行ブレード20とバネ24とからなる一体構造の製造中に、凸状締結部
33若しくはロック形状部28、特にU字形ロック形状部、又は凹状締結部
33’若しくはロック形状部28’、特にO字形ロック形状部が、連行ブレード20に好ましく設けられる(工程S3)。
【0056】
最後に、連行ブレード20の締結形状部29、29’若しくはロック形状部28、28’の、対応するカウンターベアリング32、32’
;29、29‘への連結を、工程S4において軸方向凹所30内で行う。カウンターベアリングは、上記で詳述したように、舌部32、対応する窪み32’、舌部32を有するアダプター40、軸方向付属部33、若しくはピン42によって形成する。連行ブレード20と、若しくは連行ブレード20の一体構造との間になされた連結は、手作業で着脱可能である。
【0057】
本発明はまた、上述の工具1内の連行ブレード20を手作業で交換する方法の好ましい実施態様を、図
24のフローチャートに基づいて開示する。連行ブレード20が、単独若しくはバネ24と組合わせた一体構造として、締結形状部
33、33’若しくはロック形状部28、28’を伴って設計されているかいないかにかかわらず、連行ブレード20の軸方向凹所30内への手作業による係合を、第一の工程Iで行う。第二の工程IIにおいて、連行ブレード20、若しくは連行ブレード20とバネ24との一体構造を、軸方向凹所30から引き抜く。次いで第三の工程IIIにおいて、新たな連行ブレード20、若しくは連行ブレード20とバネ24との新たな一体構造を、手作業で軸方向凹所30内へ挿入し、工程IVにおいてそこに締結若しくはロックする。この連行ブレード20の交換工程には工具は不要であり、短時間で行うことができる。従来技術の工具では、ブレードを保持しているピンを取外すために、例えばパンチやハンマーが必要であるが、本発明の連行ブレードは、作業者の指や指の爪、若しくはペンを使って取外すことができる。工具も複雑で時間のかかる作業工程も不要である。