特許第5959645号(P5959645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5959645メタクリル酸を高沸点相および水相から再生する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959645
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】メタクリル酸を高沸点相および水相から再生する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/48 20060101AFI20160719BHJP
   C07C 57/07 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C07C51/48
   C07C57/07
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-530069(P2014-530069)
(86)(22)【出願日】2011年9月16日
(65)【公表番号】特表2014-532040(P2014-532040A)
(43)【公表日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】CN2011079775
(87)【国際公開番号】WO2013037135
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390009128
【氏名又は名称】エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング シェーファー
(72)【発明者】
【氏名】トアステン バルドゥーフ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ペーター
【審査官】 瀬下 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−153242(JP,A)
【文献】 特表2001−514643(JP,A)
【文献】 米国特許第06051736(US,A)
【文献】 特開2002−128728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/48
C07C 57/07
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
a)メタクリル酸へのC4化合物の不均一触媒作用気相酸化からの高沸点相を準備する工程、
b)メタクリル酸へのC4化合物の不均一触媒作用気相酸化からの、有利に有機的に負荷された水相を準備する工程、
c)a)に記載の高沸点相とb)に記載の水相とを3:4〜4:3の比で混合し、任意に、その後に続いてろ過または遠心分離する工程、
d)抽出媒体をc)からの混合物に添加する工程、
e)d)からの多重相混合物を少なくとも1つのミキサーセトラー抽出法にかける工程、
f)最後のミキサーセトラー抽出法からの有機相をC4プロセスに再循環させて戻す工程
を含む、メタクリル酸へのC4化合物の不均一触媒作用気相酸化における高沸点相および水性相からのメタクリル酸の再生方法であって、その際、a)に記載の高沸点相及びb)に記載の水相を準備するために使用した抽出媒体、及びd)の抽出媒体は、アルカンおよび芳香族炭化水素から選択される同一の溶媒である、前記方法
【請求項2】
前記高沸点相は、メタクリル酸を少なくとも30質量%含有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
高沸点相対水相の比は、10:1〜1:10である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
高沸点相/水相対抽出媒体の比は、10:1〜1:10である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ミキサーセトラー抽出法を10〜60℃の温度で実施する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ミキサーセトラー抽出法を連続的に実施する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸を高沸点相および水相から再生する方法に関する。
【0002】
メタクリル酸(MAA)は、幅広くさまざまな用途において使用されている。メタクリル酸の商業的生産は、とりわけ、イソブチレン、t−ブタノール、メタクロレインまたはイソブチルアルデヒドの不均一触媒作用気相酸化によって行なわれる。こうして得られた、ガス状反応相は、冷却および凝縮によりメタクリル酸水溶液に変換され、任意に、低沸点物質、例えばアセトアルデヒド、アセトン、酢酸、アクロレインおよびメタクロレインから分離され、次に、メタクリル酸を適切な抽出剤、例えば短鎖状炭化水素を用いて抽出および分離するために、溶剤抽出塔内に導入される。分離されたメタクリル酸は、純粋なメタクリル酸を得るために、例えば蒸留により後精製され、高沸点不純物、例えば安息香酸、マレイン酸およびテレフタル酸を分離する。当該公知方法は、例えば欧州特許第0710643号明細書、米国特許第4618709号明細書、米国特許第4956493号明細書、欧州特許第386117号明細書および米国特許第5248819号明細書中に記載されている。
【0003】
当該公知方法は、大量の廃水をさまざまなプロセス工程で発生させ、そのうち最大量は、急冷相からのメタクリル酸の抽出後に残留する水相の形である。水は、主に、添加された水蒸気または水から気相酸化工程中に到達し、かつ急冷剤としての水の使用により冷却および凝縮工程に到達することに加えて、酸化反応それ自体からも生じる。この廃水は、著量の有機化合物を含有し、かつ少なくとも部分的に前記有機化合物を除去するための後処理なしでは再使用され得ないかまたは安全に廃棄され得ない。当該有機化合物は、一般に、有機抽出剤中への不完全な抽出のせいで、望ましい生成物、例えばメタクリル酸、ならびに商業的な価値も有する、酸化工程の他の副生成物、例えばアクリル酸、酢酸およびプロピオン酸を含む。前記廃水中の有機含量は、必要とされる重要な希釈、かなりの時間および極めて大型の処理施設なしでは、水処理法、例えば生物学的処理、例えば活性汚泥法と相容性であるためには一般に高すぎ、そのため、商業的なメタクリル酸生産においては、廃水は、例えば米国特許第4618709号明細書の記載と同様に、しばしば燃焼される。しかし、廃水を燃焼させることは、環境的にも経済的にも不利であり、高いエネルギー入力を必要とし、環境への放出前に後処理を必要としうる放出をまねき、ならびに廃水中に存在する、潜在的に価値のある有機化合物の損失ならびに水自体の損失をまねく。
【0004】
したがって、廃水中に存在する有機化合物を少なくとも部分的に回収することができることは、有利であろう。また、少なくとも多少の水自体を、当該の水自体が生物学的処理に施される、および/または環境内に排出されるのに十分に低い有機含量で回収するか、または当該水が、例えば工業的プロセス水として、もしくはメタクリル酸/メチルメタクリレート製造プロセス自体において再使用されうるのに十分な純度で回収することは、有利なことであろう。中国特許第1903738号明細書には、アクリル酸の製造からの廃水を精製しかつアクリル酸、トルエンおよび酢酸を回収するための、膜分離器、その後に続く精留塔の使用が提案されている。膜ろ過の欠点は、一般に大量の水−しばしば廃水自体が使用される−がフィルターを通過しない成分を洗い流すのに必要とされることである。さらに、増大された濃度の有機化合物を有する、前記の洗い流された水自体が、後処理されなければならないかまたは燃焼されなければならない。
【0005】
さらに、さまざまなプロセス工程、殊に一般に、水性急冷相からのメタクリル酸の抽出に続く抽出剤からのメタクリル酸の蒸留分離は、留出物としてのメタクリル酸相、および依然として著量のメタクリル酸を含む、ときどき底部相とも呼称される残留物として、蒸留残留物として、または廃油としての高沸点相を形成する。少なくとも多少の前記メタクリル酸を高沸点相から回収しうることは、有利であろう。さまざまな方法が当該高沸点相の処理のために示唆された。
【0006】
欧州特許第1043302号明細書には、アクリル酸またはメタクリル酸の製造からの廃油を溶剤で処理し、廃油の重合および/または廃油中の沈殿物の発生を阻止することが提案されている。米国特許第2005/0054874号明細書には、アクリル酸またはメタクリル酸の合成において、個々の工程から排出された、重い高沸点成分を当該高沸点成分のアクリル酸含量またはメタクリル酸含量によって分級し、かつ当該高沸点成分を他の工業的プロセスからの高沸点相と組み合わせることによって処理し、その結果、当該高沸点成分を固体の沈澱なしに貯蔵しうることが開示されている。しかし、前記刊行物のいずれにも、メタクリル酸を廃油から回収することは、教示されていない。
【0007】
本発明の目的は、一般に、従来技術の方法の欠点を可能なかぎり克服することである。
【0008】
さらなる目的は、メタクリル酸および/またはメチルメタクリレートの製造プロセスの全収量を高沸点相からのメタクリル酸の回収によって増大させることである。
【0009】
本発明の別の対象は、有機化合物での前記廃水の汚染を可能なかぎり減少させることにより、水をプロセス廃水から回収することであり、その結果、当該水は、任意に生物学的プロセスまたは他のタイプの精製プロセスの後に、再使用されうるか、生物学的精製法に施されうるか、または環境に排出されうる。
【0010】
プロセス工程:
a)メタクリル酸へのC4化合物の不均一触媒作用気相酸化から高沸点相を準備する工程、
b)メタクリル酸へのC4化合物の不均一触媒作用気相酸化から、有利に有機的に負荷された廃水を準備する工程、
c)成分a)とb)とを混合し、任意に、その後に続いてろ過または遠心分離する工程、
d)抽出媒体をc)からの混合物に添加する工程、
e)d)からの多重相混合物を少なくとも1つのミキサーセトラー抽出法にかける工程、
f)最後のミキサーセトラー抽出法からの有機相をC4プロセスに再循環させる工程
を含む、高沸点相および水性相からのメタクリル酸の再生方法は、上記目的の達成に貢献する。
【0011】
本発明による方法のC4化合物は、有利に、イソブチレン、t−ブチルアルコール、イソブチルアルデヒドおよびメタクロレイン、またはこれらの2つ以上の混合物から選択されたC4化合物である。本発明の好ましい視点において、C4化合物は、メチルt−ブチルエーテル(MTBE)またはエチルt−ブチルエーテル(ETBE)の分解に由来する。
【0012】
本発明による方法の気相酸化は、有利に、少なくとも1つの酸化触媒の存在下で行なわれる。C4化合物がイソブチレンまたはt−ブチルアルコールである場合、メタクリル酸を含む気相を得るための気相酸化は、1工程で行なうことができ、それによって本記載内容における1工程は、メタクロレインへの初期酸化およびメタクリル酸への後酸化が大体において同じ反応領域内で少なくとも1つの触媒の存在下で行なわれることを意味することが考慮されている。それとは別に、気相酸化は、1工程を上回る工程で、有利に2工程で、好ましくは互いに別々の2つ以上の反応領域内で行なうことができ、それによって、2個以上の触媒が有利に存在し、その際にそれぞれの触媒は、有利に、互いに触媒が別の反応領域内に存在する。2工程の気相酸化において、第1の工程は、有利にメタクロレインへのC4化合物の少なくとも部分的な酸化であり、その後に続いてメタクリル酸へのメタクロレインの少なくとも部分的な酸化である。したがって、例えば、第1の反応工程において、有利にメタクロレインへの少なくとも1つのC4化合物の酸化に適した少なくとも1つの触媒が存在し、および第2の反応工程において、メタクリル酸へのメタクロレインの酸化に適した少なくとも1つの触媒が存在する。
【0013】
気相触媒作用酸化に適した反応条件は、例えば約250℃〜約450℃、有利に約250℃〜約390℃の温度および約1atm.〜約5atm.の圧力である。空間速度は、毎時約100から約6000へ(NTP)、有利に毎時約500から約3000へ変わることができる。メタクロレインおよび/またはメタクリル酸へのC4供給原料、例えばイソブチレンの酸化、例えば気相触媒作用酸化、ならびにそのための触媒は、文献においてよく知られており、例えば米国特許第5248819号明細書、米国特許第5231226号明細書、米国特許第5276178号明細書、米国特許第6596901号明細書、米国特許第4652673号明細書、米国特許第6498270号明細書、米国特許第5198579号明細書、米国特許第5583084号明細書からよく知られている。
【0014】
メタクロレインおよび/またはメタクリル酸へのイソブチレンまたはt−ブタノールの酸化に適した、特に好ましい触媒および方法は、欧州特許第0267556号明細書中に記載されており、およびメタクリル酸へのメタクロレインの酸化に適した、特に好ましい触媒および方法は、欧州特許第0376117号明細書中に記載されている。その際に、前記刊行物中の記載は、参照による開示目的のために、本明細書に援用され、かつ本発明の開示の一部分をなす。
【0015】
本発明による方法におけるメタクリル酸へのメタクロレインの気相酸化は、有利に、約250〜約350℃およびそれ以下の温度で約1〜約3atm.の圧力で、および約800〜約1800Nl/l/hの容量負荷で行なわれる。
【0016】
酸化剤として、一般に酸素は、例えば空気の形で使用されるか、或いは純粋な酸素の形で、または反応条件下で不活性である、少なくとも1つのガス、例えば窒素、一酸化炭素および二酸化炭素の少なくとも1つで希釈された酸素の形で使用され、それによって空気は、酸化剤として好ましく、および窒素および/または二酸化炭素は、希釈ガスとして好ましい。二酸化炭素が希釈ガスとして使用される場合は、これは、有利に、燃焼、有利に反応ガスおよび/または副生成物の触媒燃焼または熱的燃焼から再循環された二酸化炭素である。本発明による方法の気相酸化に掛けられるガスは、好ましくは、一般に水蒸気の形で存在する水も含む。酸素、不活性ガスまたはガスおよび水は、反応相中に導入されうるかまたは気相反応前もしくは気相反応中、または気相反応前および気相反応中にC4化合物と組み合わされうる。
【0017】
本発明による2工程の気相酸化において、C4化合物:O2:H2O:不活性ガスの第1の工程における好ましい体積比は、一般に1:0.5〜5:1〜20:3〜30、有利に1:1〜3:2〜10:7〜20である。メタクロレイン:O2:H2O:不活性ガスの第2の工程における体積比は、有利に1:1〜5:2〜20:3〜30、有利に1:1〜4:3〜10:7〜18である。
【0018】
次の工程において、メタクリル酸を含む気相は、冷却され、凝縮され−通常、急冷として知られている−、凝縮物を粗製メタクリル酸含有水溶液の形で得る。凝縮は、当業者に公知の任意の手段によって行なうことができ、かつ例えばメタクリル酸を含む気相をその成分の少なくとも1つの露点未満、殊に水およびメタクリル酸の少なくとも1つの露点未満に冷却することが適切であると思われる。冷却の適切な方法、例えば少なくとも1個の熱交換器による冷却、または急冷による冷却、例えば液体、例えば水、水性組成物または有機溶剤、例えば芳香族炭化水素もしくは脂肪族炭化水素またはこれらの少なくとも2つの混合物から選択された有機溶剤での気相の噴霧による冷却は、当業者に公知であり、それによって好ましい有機溶剤、例えばヘプタン、トルエンまたはキシレンは、急冷条件下で比較的低い蒸気圧を有し、それによって水は、本発明による急冷液体として好ましく、および急冷工程自体において形成された凝縮物の少なくとも一部分は、よりいっそう好ましい。適切な急冷法は、例えばドイツ連邦共和国特許第2136396号明細書、欧州特許第297445号明細書、欧州特許第297788号明細書、特開平01−193240号公報、特開平01−242547号公報、特開平01−006233号公報、米国特許第2001/0007043号明細書、米国特許第6596901号明細書、米国特許第4956493号明細書、米国特許第4618709号明細書、米国特許第5248819号明細書から当業者に公知であり、その際にアクリル酸およびメタクリル酸の急冷に関連する前記刊行物の開示内容は、本明細書に援用され、かつ本発明の開示の一部分をなす。本発明によれば、前記気相は、40〜80℃の温度に冷却され、かつ急冷工程からの水および/または凝縮物で洗浄され、メタクリル酸を含有する水溶液が得られ、当該水溶液は、変動する量の不純物、例えば酢酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、アクリル酸およびギ酸、ならびにアルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、ケトンおよび単数の未反応のC4化合物または複数の未反応のC4化合物を含有していてもよい。前記不純物ならびに水は、メタクリル酸の高度な純度を得るために、メタクリル酸から可能なかぎり最大限分離される必要がある。
【0019】
粗製メタクリル酸含有水溶液からの少なくとも一部分のメタクリル酸の抽出は、その後のプロセス工程において、有機抽出剤、例えば少なくとも1つの有機溶剤、有利に水相と有機相が形成されうる程度に、大体において水と不混和性である少なくとも1つの有機溶剤を用いて行なわれる。このプロセス工程は、水相と有機相との互いの分離も含んでいる。好ましい有機溶剤は、メタクリル酸の沸点とは異なる沸点を有し、有利には、メタクリル酸の沸点よりも低い。好ましくは、有機抽出剤は、大気圧で測定された161℃よりも低い沸点を有する。さらに、有機抽出剤は、原理的にメタクリル酸から、例えば蒸留によって、有利に少なくとも部分的に、好ましくは本発明による方法の次の工程においてかなりの程度まで分離されることができ、有利には、純粋なメタクリル酸よりも高いレベルで蒸留装置内で低沸点物として少なくとも一部分が除去される。分離された有機抽出剤またはその一部分は、任意に少なくとも1つの冷却工程および/または精製工程の後に、プロセスに返送されうる。この工程のために好ましい有機溶剤は、殊に、アルカンおよび芳香族炭化水素、有利にアルキル芳香族炭化水素から選択され、それによってC6〜C8炭化水素から選択された、少なくとも1つの有機溶剤が好ましく、それによればヘプタン、トルエンおよびキシレンが特に好ましく、およびヘプタン、有利にn−ヘプタンが最も好ましい。抽出および分離のプロセス工程は、当業者に公知でありかつ適切であると思われる任意の手段によって、有利に向流抽出として、例えば溶剤抽出塔、不規則充填物もしくは規則充填物を有するパルス式塔、回転抽出器、洗浄塔、相分離器、または有機溶剤での水相の抽出および水相からの有機相の分離に適した他の装置を用いて実施されることができる。メタクリル酸水溶液中に含有された、メタクリル酸の少なくとも一部分が有機相中に抽出されることは、本発明によれば、好ましい。
【0020】
こうして、次の2つの相が得られる:メタクリル酸を含む粗製有機相と、気相酸化反応中に形成される任意の有機化合物、例えば急冷工程において得られた粗製水相に関連した上記化合物、ならびに未反応のC4化合物および水相中に残留した、任意のメタクリル酸を含む第1の水相。この水相は、プロセス工程b)において規定された、有利に有機的に負荷された廃水を構成する。
【0021】
次の工程において、メタクリル酸を含む粗製有機相は、当該粗製有機相中に構成された、メタクリル酸の少なくとも一部分を有機溶剤から分離するための、分離プロセス、有利に熱的分離プロセスに掛けられる。熱的分離が使用される場合には、これは、有利に蒸留であり、それによって、メタクリル酸またはメタクリル酸富有相は、抽出溶剤よりも低いレベルの蒸留塔で除去されるが、有機溶剤は、有利に塔頂生成物として除去されるかまたは蒸留塔の上方レベルで除去される。前記塔内の塔底生成物、その際に「塔底生成物」の用語は、単数または複数のメタクリル酸相が捕集される、単数または複数のレベルよりも低いレベルの蒸留塔で捕集される任意の相も含むものとし、は、本発明のプロセス工程a)による高沸点相として考慮される。この塔底生成物は、一般に、メタクリル酸よりも高い沸点を有する成分、ならびにポリマー材料を、変動量のメタクリル酸と一緒に含有し、それによって、メタクリル酸の量は、高沸点相の全質量の約95質量%または十分にそれ以上にまで、または少なくとも30質量%に到達しうる。例えば、分別塔または精留塔を使用することも可能であり、その結果、メタクリル酸よりも高い沸点を有する不純物は、塔底生成物中に残留し、およびより高い純度のメタクリル酸は、塔底生成物のレベルよりも高い塔のレベルで除去されうる。この場合、塔底生成物のメタクリル酸含量(高沸点相)は、簡単な蒸留塔を用いるよりも低い含量であることができる。
【0022】
前記高沸点相は、当該高沸点相の全質量に対して、メタクリル酸を約95質量%まで、有利に約60質量%〜約95質量%、より有利に約65質量%〜約90質量%、さらにより有利に約70質量%〜約85質量%含有することができ、この場合残りの質量の高沸点相は、メタクリル酸の沸点よりも高い沸点を有する成分(「高沸点物」)、例えば高沸点の酸、例えばシトラコン酸、マレイン酸、テレフタル酸、トリメリット酸および類似物、アセトアルデヒド、例えばp−トルアルデヒドおよびベンズアルデヒド、ポリマー材料、殊にメタクリル酸のポリマー、ならびに重合抑制剤、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、ベンゾフェノチアジンから構成されている。
【0023】
本発明のプロセス工程c)において、本発明のプロセス工程a)により得られた高沸点相の少なくとも一部分、有利に少なくとも50質量%、より有利に少なくとも60質量%、さらにより有利に少なくとも70質量%、なおより有利に少なくとも80質量%、十分により有利に少なくとも90質量%、さらに十分により有利に少なくとも95質量%、まださらにより有利に全てが本発明のプロセス工程b)により得られた第1の水相に導入される。高沸点相対第1の水相の比は、1:10〜10:1、有利に2:5〜5:2、より有利に3:4〜4:3、最も有利に1:1の範囲であることができる。こうして、高沸点相は、第1の水相と一緒に処理されることができ、および高沸点相中に含まれたメタクリル酸の少なくとも一部分は、回収されうる。少量の沈殿物は、第1の水相と高沸点相とを組み合わせた際に生じることができ、その結果、任意の固-液分離、例えばろ過または遠心分離は、必要に応じて、例えば沈殿物の量が1つ以上のさらなるプロセス工程に不利な影響を及ぼすのに十分であるかまたは1つ以上の液相をさらなるプロセス工程に導く前に、殊にパイプを通る液相の輸送を妨害するのに十分であるならば、実施されることができる。
【0024】
さらに、組み合わされた相a)とb)は、プロセス工程d)における抽出媒体としての適切な有機溶剤と組み合わされ、かつ第1のミキサーセトラー抽出法である本発明によるプロセス工程e)に導入される。このプロセス工程d)のための好ましい有機溶剤は、殊に、アルカンおよび芳香族炭化水素、有利にアルキル芳香族炭化水素から選択され、それによってC6〜C8炭化水素から選択された、少なくとも1つの有機溶剤は、好ましくは、その際にヘプタン、トルエンおよびキシレンは、特に好ましく、およびヘプタン、有利にn−ヘプタンは、最も好ましい。組み合わせた高沸点相/水相(供給原料)対抽出媒体の比は、1:10〜10:1、有利に2:5〜5:2、より有利に3:4〜4:3、最も有利に1:1の範囲であることができる。
【0025】
ミキサーセトラー法は、当業者に公知である。ミキサーセトラーは、一般に1つの工程または一連の幾つかの工程からなり、この場合それぞれの工程は、攪拌容器と沈降容器とから構成されている。さまざまな装置は、例えば相の並流、向流または交差流を可能にする。ほぼ100%の段効率を達成することができ、ミキサーセトラーは、荷重の変動に対してほとんど不感度である。逆混合は、それぞれの工程における完全な相分離のために完全に回避されうる。結果として、一般に、スケールアップにおける移行問題はない。有利な効率は、大きな処理量であってもほとんど完全に保持されている。任意の数の分離工程を形成することができ、および処理量が制限されるとは思われない。複数の例は、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Wiley−VCH,Weinheim,第B3巻,第6章,"Liquid−Liquid Extraction"中に記載されている。任意に、一連の幾つかのミキサーセトラー法があってよく、本発明の好ましい実施態様において、インラインでの3個のミキサーセトラー装置が存在し、最も好ましくは、2個のミキサーセトラー装置が存在する。本発明によれば、ミキサーセトラー抽出法が連続的に実施されることは、好ましい。
【0026】
最後のミキサーセトラーユニットの後で、有機相は、本発明のプロセス工程f)により、上記の溶剤−メタクリル酸分離塔の1つに再循環されて戻され,他方で、水相は、廃水処理プラントまたは熱酸化装置に装入される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実験設備を示す系統図。
図2】本発明によるプロセス工程c)〜e)の例を示す系統図。
【0028】
しかし、本発明は、なんらこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0029】

例1〜6を図1による装置中で実施した。高沸点相と水相の異なる割合を組み合わせ、かつろ紙に通過させた。ろ液を連続的ミキサーセトラー設備への供給原料として使用した。この供給原料を熱交換器WT−100中で予熱し、抽出媒体としての様々な量のn−ヘプタン(結果の表参照)と混合し、かつ静的ミキサー(R−310)に通過させた。前記ミキサー(R−320)内で、高沸点相/水相とn−ヘプタンとの強力な混合を達成し、他方で、セトラー(B−330)内で前記相を分離する。平衡が達成された際に、分析用試料をポイントQ1〜Q3で抽出し、Q4〜Q6での試験の最後に抽出する。この連続的な試験の構成は、1つの分離工程だけを実現させるので、それぞれの試験を、次の抽出工程のために十分な供給原料を捕集するのに十分な長さ(約16時間)で実施した。ミキサーセトラー設備を、もっぱら交差流モードで運転した。
【0030】
【表1】
【0031】
MAA分配係数は、水相の割合が増加すると増大し、ヘプタンの割合が増加する影響は、無視しても構わない。MAA収量の最善の増加は、工程1と工程2の間で観察される。
【符号の説明】
【0032】
B−100/B−200 容器、 HS 高沸点相、 WW 廃水、第1の水相、 P−100/P−200 ポンプ、 WT−100 熱交換器、 R−310 静的ミキサー、 R−320 攪拌型ミキサー、 B−330 セトラー、 B−410/B−420 容器、 WI−410/W−420 ウェイトスケール、 T1360/T1380 C4プロセス内での溶剤回収塔、 Q1〜Q10 試料採取ポイント、 TO 熱酸化装置
図1
図2