(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959655
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ガラスから成る円柱状部材を延伸により製造する方法
(51)【国際特許分類】
C03B 23/047 20060101AFI20160719BHJP
C03B 37/012 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
C03B23/047
C03B37/012 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-537559(P2014-537559)
(86)(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公表番号】特表2014-532610(P2014-532610A)
(43)【公表日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】EP2012070538
(87)【国際公開番号】WO2013060606
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年7月23日
(31)【優先権主張番号】102011116806.4
(32)【優先日】2011年10月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(73)【特許権者】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ベアナート
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト ハイン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ボークダーン
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ガンツ
【審査官】
山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−124335(JP,A)
【文献】
米国特許第06098428(US,A)
【文献】
特開2001−019457(JP,A)
【文献】
特開2005−106766(JP,A)
【文献】
特開2000−233938(JP,A)
【文献】
特開昭63−195139(JP,A)
【文献】
特開平03−037129(JP,A)
【文献】
特開2010−248033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00−35/26
37/00−37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度閉ループ制御回路を含む複数の閉ループ制御回路を備えたプロセス制御を用いて、ガラスから成る円柱状部材を円柱状プリフォーム(4)の延伸により製造する方法であって、
前記円柱状プリフォーム(4)を、一方の端部を先頭に加熱ゾーン温度Tofenの加熱ゾーン(3)へ送り速度Vfで供給し、該加熱ゾーン(3)内で部分的に軟化させ、
括れ部(11)を生じさせながら、軟化領域から引き出し速度Vsで引き出し軸(2)の方向に、延伸部材(12)を連続的に引き出し、該延伸部材(12)から該部材の長さをカットして、前記ガラスから成る円柱状部材を形成する方法において、
前記温度閉ループ制御回路内で以下のステップを実行する、すなわち、
円柱状プリフォーム表面の上方の測定位置(E1)における第1の温度値Tobenを持続的に測定するステップと、
前記上方の測定位置(E1)から前記引き出し軸(2)の方向で離間された下方の測定位置(E2)における第2の温度値Tuntenを持続的に測定するステップと、ただし前記上方と下方の測定位置間に、前記括れ部(11)または該括れ部(11)の少なくとも一部分が延在し、
前記第1の温度値Tobenと前記第2の温度値Tuntenの測定位置(E1,E2)間の領域における前記円柱状プリフォーム(4)の温度分布を計算し、前記第1および第2の温度値をモデル入力パラメータとして用い、アルゴリズム的モデル(24)に基づき、モデリングされた変形温度Tmodellを求めるステップと、
前記モデリングされた変形温度Tmodellを、前記温度閉ループ制御回路の制御量として用い、前記加熱ゾーン温度Tofenを、前記温度閉ループ制御回路の操作量として用いるステップと、
を実行することを特徴とする、
ガラスから成る円柱状部材を形成する方法。
【請求項2】
前記アルゴリズム的モデル(24)を延伸中に較正可能であり、該較正において、前記第1の温度値と前記第2の温度値の測定位置(E1,E2)でモデリングされた温度値T′oben,T′untenと、測定された前記温度値Toben,Tuntenとの偏差を持続的に捕捉し、測定された前記温度値を、前記変形温度Tmodellを決定するための新たな較正値として用いる、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記円柱状プリフォーム(4)を延伸前または延伸時、場合によっては生じる可能性のある欠陥について測定し、欠陥それぞれの軸線方向の位置を、前記アルゴリズム的モデル(24)へ入力パラメータとして伝達し、
前記円柱状プリフォーム(4)の延伸時、前記加熱ゾーン(3)に対し相対的な前記欠陥のポジションと、該欠陥のポジションに依存して前記加熱ゾーン(3)内の温度に及ぼされる該欠陥の作用とを考慮する、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
端面側で溶接部(9)を介して上方の円柱状ガラス部材(10)と溶接された円柱状プリフォーム(4)を使用し、
前記溶接部(9)の軸線方向位置を、前記アルゴリズム的モデル(24)へ入力パラメータとして伝達し、
前記円柱状プリフォーム(4)の延伸時、前記加熱ゾーン(3)に対し相対的な前記溶接部(9)のポジションと、該溶接部(9)のポジションに依存して前記加熱ゾーン(3)内の温度に及ぼされる該溶接部(9)の作用とを考慮する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記延伸は、定常フェーズと、該定常フェーズに続く最終フェーズとを含み、前記定常フェーズ中は、前記加熱ゾーン(3)内の温度に及ぼされる溶接部(9)の作用を無視する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記モデル(24)を、前記第1の温度値Tobenと前記第2の温度値Tuntenの測定位置(E1,E2)間の領域における前記円柱状プリフォーム(4)の一次元の温度分布を計算させるように設計する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記引き出し速度Vsと前記送り速度Vfを、前記アルゴリズム的モデル(24)の入力パラメータとして用いる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記変形温度Tmodellを、有限要素法による微分方程式の解に基づき計算する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度閉ループ制御回路を含む複数の閉ループ制御回路を備えたプロセス制御を用いて、ガラスから成る円柱状部材を円柱状プリフォームの延伸により製造する方法に関する。この場合、円柱状プリフォームを、一方の端部を先頭に加熱ゾーン温度T
ofenの加熱ゾーンへ送り速度V
fで供給し、この加熱ゾーン内で部分的に軟化させ、括れ部を生じさせながら、軟化領域から引き出し速度V
sで引き出し軸の方向に延伸部材を連続的に引き出し、この延伸部材からその長さをカットして、ガラスから成る円柱状部材を形成する。
【0002】
この種の引き出しプロセスは、たとえば管、ロッド、中空ファイバ、中実ファイバなどの製造に用いられるが、このような製造においては、円柱状プリフォームの変形の度合いが大きくなってしまうことも多々あり、できるかぎり寸法精度の高い部材を形成することが基本的な課題である。簡単な閉ループ制御を用いたプロセス制御の場合、たとえば延伸部材の直径が閉ループ制御量として用いられ、部材の引き出し速度が操作量として用いられる。ただし、部材の寸法精度に対する要求が高い場合には、入れ子構造とされた複数の閉ループ制御回路を用いて、かなり複雑な閉ループ制御プロセスを行う必要がある。
【0003】
殊に、直径の閉ループ制御に関して高い精度を達成するには、いわゆる「ネックダウン部」ないしは「括れ部」の領域において、ほぼ一定の粘度とするのが不可欠である。
【0004】
背景技術
このことを達成する目的で、特開平03−037129による光ファイバ製造方法によれば、ネックダウン部の温度をできるかぎり一定に保持することが提案されている。この場合、ガラスプリフォームが上方からリング状の加熱電気炉へ送り込まれ、そこにおいて軟化され、ネックダウン部を形成しながら軟化領域から光ファイバが引き出される。そしてファイバは線径測定装置を通過し、これによってファイバ線径が連続的に測定される。このファイバ引き出し装置には、ファイバ引張力測定装置が設けられている。ファイバ線径と引張力の測定値は、閉ループ制御ユニットへ供給される。ここで引張力は、ネックダウン部におけるガラス温度に対する尺度として用いられ、加熱電気炉の温度を閉ループ制御するために利用される。
【0005】
加熱炉の温度は通常、対応する温度制御装置の変化に合わせて迅速に応答する。ガラスの小さい熱伝導性とその熱容量とに起因して、加熱炉の温度変化は(ネックダウン部の質量にも左右されるが)、ガラスの粘度に作用するとはいえ、大きい遅延を伴ってようやく作用する。これに付随して測定無駄時間が発生することから、公知の閉ループ制御法は緩慢であり、オーバーシュート気味になる。
【0006】
DE 195 369 60 A1により公知の線引き装置は、プロセスに測定無駄時間が内在するというこのような欠点を回避するものである。この文献によれば、現実の製品に近いモデルを使用し、括れ部の領域で直径を測定することにより、予期される最終製品直径値についての予想をシミュレートし、無駄時間のないこの計算値を、直径の閉ループ制御のための制御値として利用する。
【0007】
これに加え、括れ部の温度が高温計によって測定され、カスケード制御システムにおいてこの温度が主被制御変数として用いられ、加熱炉の温度が補助被制御変数として用いられる。このようにすることで、加熱炉の温度がきわめて一定になるよう閉ループ制御するために短い積分時間をもつ制御対象が得られる一方、括れ部の領域で粘度調整に用いることのできる長い積分時間をもつ制御対象が得られる。
【0008】
最終製品直径予測のためのモデルともに、括れ部の領域における直径と温度の測定に基づき行われる公知の閉ループ制御プロセスによって、延伸プロセスの定常フェーズにおいて、線引きされた部材の寸法精度が高度な要求をも満たすものとなる。
【0009】
括れ部の領域では、表面温度と位置の依存性が強くなる。しかも括れ部は、加熱ゾーン内で移動する可能性がある。括れ部の領域における表面温度を局所的に測定しても、括れ部の領域におけるガラスの平均粘度に関してほとんど意味をもたない単一の温度値が得られるだけである。
【0010】
したがって、加熱ゾーンにおいて著しい温度変動をもたらすようなプロセスパラメータの変化が生じた場合には特に、問題が生じることになる。このような事態は実践においては、たとえば引き出される円柱状プリフォームが不安定なとき、あるいはプロセス終了時に引き起こされるおそれがある。
【0011】
発明が解決しようとする課題
公知の方法におけるプロセスモデルベースの閉ループ制御コンセプトを用いても、部材の直径変動を完全には排除できない。
【0012】
したがって本発明の課題は、公知の方法のプロセス閉ループ制御を改善し、延伸プロセス中、温度に作用を及ぼす欠陥ないしは障害が発生しても、高い寸法精度で延伸部材を引き出せるようにすることである。
【0013】
発明の概要
本発明によればこの課題は、冒頭で述べた形式のものから出発し、温度閉ループ制御回路において以下の措置をとるようにしたことによって解決される。すなわち、
−円柱状プリフォーム表面の上方の測定位置における第1の温度値T
obenを持続的に測定する。
−上方の測定位置から引き出し軸の方向で離間された下方の測定位置における第2の温度値T
untenを持続的に測定する。ただし上方と下方の測定位置間に、括れ部または少なくともその一部分が延在する。
−第1の温度値T
obenと第2の温度値T
untenの測定位置間の領域における円柱状プリフォームの温度分布を計算し、第1の温度値T
obenと第2の温度値T
untenをモデル入力パラメータとして用い、アルゴリズム的モデルに基づき、モデリングされた変形温度T
modellを求める。
−モデリングされた変形温度T
modellを、温度閉ループ制御回路の制御量として用い、加熱ゾーン温度T
ofenを、温度閉ループ制御回路の操作量として用いる。
【0014】
温度閉ループ制御回路の目的は、本願では「括れ部」と称する変形ゾーンにおけるガラスの粘度を、延伸プロセス中、できるかぎり一定に保持することである。ここで「括れ部」あるいは「変形ゾーン」とは、円柱状プリフォームが塑性変形を受ける軟化領域のことである。
【0015】
冒頭で述べた従来技術とは異なり、本発明による温度閉ループ制御によれば、括れ部の領域においてガラス表面温度が一個所だけで局所的に測定されるのではなく、引き出し軸方向で互いに間隔のおかれた複数の測定位置で2つの温度が測定されるのである。
【0016】
上から下へと引き出される垂直引き出し法の場合、第1の温度値のための上方の測定位置は、上方の括れ部領域よりも上にあり、あるいは上方の括れ部領域内にあり、たとえば加熱炉の上端にある。第2の温度値のための下方の測定位置は、下方の括れ部領域内にあり、あるいは下方の括れ部領域よりも下にあり、たとえば加熱炉の下端にある。温度測定は「持続的に」行われ、つまり連続的または断続的に行われ、断続的な測定の場合には、相前後する測定のタイムインターバルを短く選定すればするほど、閉ループ制御の精度が高くなる。
【0017】
測定される温度値は、アルゴリズム的モデルのための入力値であり、このモデルは、円柱状プリフォームについて現実に近い一次元、二次元または三次元の温度分布をシミュレートし、しかもこれは少なくとも、第1の温度値T
obenと第2の温度値T
untenのための測定位置の間に実際に存在する領域について行われる。このようにして求められた温度分布の積分値または平均値として、モデリングされた変形温度T
modellが得られ、これは変形領域におけるガラスの平均温度ないしは平均粘度を表すものである。
【0018】
この点においては、モデリングされた変形温度T
modellは、冒頭で述べた従来技術において括れ部の平均粘度を求めるための引張力と似たような意味合いをもっている。ただしそのような引張力とは異なり、モデリングされた変形温度T
modellは、実際の目下の温度測定値に基づくものであり、これによって変化を早期に考慮することができ、しかも第1の温度または第2の温度の温度変化として通報されるとただちに考慮することができ、そのような温度変化によって、括れ部における平均粘度の目立った変動として影響が及ぼされる前に、考慮することができる。
【0019】
この点についてはアルゴリズム的モデルも寄与し得るものであり、これはこのモデルが、殊に延伸プロセスにおいて実際に頻繁に発生するパラメータ変化に対し、現実に近いシミュレーションと予想制御応答を有することによって可能となる。
【0020】
したがって、モデリングされた変形温度T
modellを温度閉ループ制御回路の制御量として利用すれば、僅かな積分時間で予測制御が得られることになる。ここでは操作量として、加熱ゾーン温度T
ofenまたはこの温度と相関可能なパラメータたとえば加熱ゾーンを加熱するための加熱電流などが用いられる。
【0021】
アルゴリズム的モデルは、少なくとも第1の温度と第2の温度のための測定位置の間で温度分布をシミュレートすることから、実際の温度測定値を個々の測定位置においてモデリングされた温度値と比較するようにして、定常的な補償調整を行うことができる。この点に関してこのモデルは、延伸プロセス中に整合を行うために適している。
【0022】
この点に関して好適であると判明したのは、アルゴリズム的モデルが延伸中に較正可能なことであり、この較正によれば、第1の温度値T
obenと第2の温度値T
obenの測定位置においてモデリングした温度値T′
oben,T′
obenと、測定された温度値T
oben,T
obenとの偏差が持続的に捕捉され、測定された温度値T
oben,T
obenが、変形温度T
modellを求めるための新たな較正値として用いられる。
【0023】
つまりアルゴリズム的モデルは、現実の状況に応じて絶えず追従較正される。
【0024】
既述のように本発明による方法は、上方と下方の測定位置において温度測定が行われることから、プロセス進行中の障害が早期に識別されるように構成されており、これによって予測制御が可能となる。
【0025】
この点に関して、以下のようにすることでいっそう改善される。すなわち、円柱状プリフォームが延伸前または延伸時、場合によっては生じる可能性のある欠陥ないしは障害個所について測定され、欠陥それぞれの軸線方向の位置が、アルゴリズム的モデルへ入力パラメータとして伝達され、円柱状プリフォームの延伸時、加熱ゾーンに対し相対的な欠陥のポジションと、この欠陥のポジションに依存して加熱ゾーン内の温度に及ぼされるこの欠陥の作用とが考慮される。
【0026】
このような欠陥ないしは障害個所はたとえば、円柱状プリフォームの幾何学的形状における非安定性あるいは化学的組成の変化として現れる。この場合、モデルによって、加熱ゾーン殊に括れ部において温度に及ぼされる欠陥の予測される作用が、定性的に識別される。詳細な作用は延伸プロセス中にオンラインで求められ、温度閉ループ制御装置と関連させ、この作用ならびに目下の欠陥ポジションに依存して、欠陥があるにもかかわらずT
modellが一定に保持されるよう、適合した制御応答が形成される。
【0027】
これに関連して、以下のようにするのも有効であると判明した。すなわち、端面側で溶接部を介して上方の円柱状ガラス部材と溶接された円柱状プリフォームを使用し、溶接部の軸線方向位置を、アルゴリズム的モデルへ入力パラメータとして伝達し、円柱状プリフォームの延伸時、加熱ゾーンに対し相対的な溶接部のポジションと、この溶接部のポジションに依存して加熱ゾーン内の温度に及ぼされる溶接部の作用とを考慮するのである。
【0028】
この場合、上方のガラス部材は、端面側の溶接部を介して円柱状プリフォームと溶接されている。たとえばこの上方のガラス部材は、あとで延伸される別の円柱状プリフォームであるか、または円柱状プリフォームのために溶接された保持部材である。これに関連して言及すると、上述の溶接部が加熱ゾーンに接近したとき、延伸プロセスにおいてプロセス進行中に繰り返し発生する欠陥あるいは不安定性が問題となる。溶接部に起因して熱が滞留し、加熱ゾーンにおいて温度に目立った影響が及ぼされる。モデルにおいては、これを熱源とみなすことができる。ここで判明したのは、変形領域における温度が上昇すると、それに応じて粘度が減少することである。これによってガラスは薄く液体状になっていき、質量流量が高まることになる。
【0029】
アルゴリズム的モデルによって溶接部が欠陥として識別され、これは上方の測定位置で前もって行われた温度測定における温度上昇に基づいて識別される一方、有利な方法によれば、溶接部の軸線方向位置に関する入力データによっても識別される。円柱状プリフォームと溶接部の軸線方向位置を、延伸プロセス開始前に測定すれば、それらの入力データをモデルに事前に入力することができる。別の選択肢として、あるいはこのことに加えて、アルゴリズム的モデルが入力データを延伸プロセス中に「オンライン」で、上方の温度測定位置よりも前に組み込まれた溶接部のための捕捉装置から得ることができる。
【0030】
この場合もモデルは、加熱ゾーンにおいて温度に及ぼされる溶接部の予測される作用と、変形領域に及ぼされる理論的な作用とを、定性的に識別する。温度T
modellを目標値に保持するために、詳細な作用が延伸プロセス中にオンラインで求められ、温度閉ループ制御装置と関連させ、この作用と目下の溶接部のポジションとに依存して、適合した制御応答が形成される。
【0031】
このためプロセス進行中の不規則性、殊に延伸プロセスの最終フェーズの不規則性を克服するために、アルゴリズム的モデルが有利であると判明した。目立った変動の予期されない延伸プロセスの定常フェーズ中は、アルゴリズム的モデルをベースとする温度閉ループ制御をスイッチオフ状態にしておくか、または低減された状態にしておくことができる。この点に関して、以下のようにするのが有利である。すなわち延伸には、定常フェーズと、この定常フェーズに続く最終フェーズとが含まれるが、定常フェーズ中は、加熱ゾーン内の温度に及ぼされる溶接部の作用を無視するのである。
【0032】
高速なアルゴリズムという点で有効であると判明したのは、第1の温度値T
obenと第2の温度値T
untenの測定位置間の領域における円柱状プリフォームの一次元の温度分布を計算させるように、モデルを設計することである。
【0033】
変形温度T
modellを計算するための期間は、モデリングされる温度分布を求めるための計算の複雑さの程度に左右される。考慮すべきデータ量が少なくなればなるほど、複雑さの程度が小さくなる。円柱状のプリフォーム部材の場合、殊に回転対称である円柱状のプリフォーム部材の場合、対称という条件ゆえに、引き出し軸に沿った一次元の温度分布の考察が可能となり、つまりはモデリングのためのデータ量と計算時間を著しく低減することができる。ここで「一次元の温度分布」という用語が意味するのは単に、高さのポジションに依存する温度分布ということである。
【0034】
さらに有利であると判明したのは、引き出し速度V
sと送り速度V
fを、アルゴリズム的モデルの入力パラメータとして用いることである。
【0035】
本発明による方法によれば下方の測定位置は、括れ部の下方領域またはその下にある。括れ部の温度が同じであれば、延伸部材を高速で引き出した場合には低速で引き出したときよりも、この測定位置ではガラスの温度が高くなる。したがって、括れ部領域の温度が変化していないにもかかわらず、引き出し速度が高められたことだけで、その温度が高くなったように見せかける作用が生じる。このような見せかけの作用の不都合な影響を回避する目的で、モデルは引き出し速度V
sと、下方の測定位置まで引き出された延伸部材において引き出し速度に付随して生じる冷却を捕捉し、さらには送り速度V
fも捕捉するのである。
【0036】
有利には変形温度T
modellの計算は、有限要素法による微分方程式の解に基づき行われる。この場合、括れ部が有限の個数の小さい要素に分割され、それらの要素が有限の個数のパラメータによって記述される。
【0037】
次に、実施例および図面に基づき本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明による方法を実施するための引き出し装置を示す側面図
【
図2】本発明による無駄時間のない温度閉ループ制御の構造を示す図
【0039】
発明を実施するための形態
図1による引き出し装置には抵抗加熱炉が含まれており、これは実質的に垂直方向に配向されたグラファイトから成る加熱管1から成り、この加熱管1は水平方向の断面で環状の加熱空間3を取り囲んでいる。加熱管1の上方開口端部から中に向かって石英ガラスの中空円柱体4が入り込んでおり、この中空円柱体4の長手軸5は加熱管1の中心軸2と同軸に配向されている。
【0040】
上方の測定平面E1の高さ(加熱管1の上端)のところに高温計6が配置されており、これによって中空円柱体1の表面温度T
obenが測定される。下方の測定平面E2の高さ(加熱管1の下端)のところに高温計7が配置されており、これによって延伸された中空円柱体1の表面温度T
untenが測定される。高温計6,7の温度測定値ならびに高温計16により測定された加熱管1の温度T
Ofenが、それぞれコンピュータ8へ供給される。
【0041】
中空円柱体4の上端は、溶接部9を介して石英ガラス保持管10と接続されており、これによって石英ガラスを水平方向および垂直方向に移動させることができる。中空円柱体4は加熱空間3において軟化され、括れ部11を形成しながら、軟化された領域から石英ガラス管12が垂直方向に下方に引き出される。その際、石英ガラス管12は摺動接触リング13を介して案内され、このリングは同時に、石英ガラス管12の外周に沿って回転可能な壁厚測定装置14のためのガイドレールの役割も果たす。やはりコンピュータ8と接続されている壁厚測定装置14によって、引き出しプロセス中、引き出された石英ガラス管12の壁厚プロフィルが記録され、このプロフィルがコンピュータ8によって、直径Dおよび壁厚Wと関連づけて評価される。
【0042】
引き出しユニット15により石英ガラス管引き出し速度V
sが捕捉され、コンピュータ8を介して調整される。
【0043】
制御技術的に解決すべき問題点は、できるかぎり現実に近いモデルを用いることにより、変形温度T
Modellについて信頼できる値を推定することである。本発明による解決手段によれば、上方の温度センサの高さE1から下方の温度センサの高さE2に至るまで、中空円柱体について空間的に分散された一次元の温度モデルを実装し、延伸プロセスにおいてオンラインで同時進行させるのである。この場合、高さE1とE2のところで測定された中空円柱体4もしくは引き出された管状延伸部材12の温度値が、たとえば加熱炉温度、送り速度、引き出し速度、中空円柱体4および引き出された管12の壁厚といった通常のモデル入力パラメータと同様に、入力パラメータとしてモデルへ供給される。
【0044】
コンピュータ8は、プロセス閉ループ制御中央装置の一部分であり、これには互いに入れ子構造でつながれた複数の閉ループ制御回路が設けられていて、そのうちの1つが温度閉ループ制御回路である。次に、その構造ならびに機能について、
図2を参照しながら詳しく説明する。
【0045】
閉ループ制御回路の基本構成部分として挙げられるのは、PI制御器21と、ファジィPID制御器22と、最終要素モデル24である。PI制御器21は、加熱炉温度T
Ofenを閉ループ制御する。ファジィPID制御器22は、引き出された管状延伸部材12の直径Dおよび壁厚Wを閉ループ制御し、さらに操作量すなわち引き出し速度V
sおよび円柱体4を加熱炉3へ送る送り速度V
fと、管内部圧力Pを設定する。そして最終要素モデル22(以下ではFEMモデルとも称する)によって、平面E1と平面E2との間の変形ゾーンにおける一次元の空間的な温度分布がモデリングされ、そこからこの温度分布について半径方向で積分された平均モデリング温度T
modellが求められる。ここで変形ゾーンは、実質的に括れ部11の領域に対応する。
図2では、引き出し装置全体が参照符号23とともにシンボリックに描かれている。
【0046】
FEMモデル24のための入力パラメータは、加熱炉3のところと石英ガラス円柱体4のところで測定された温度値T
oben,T
unten,T
ofenと、管直径Dおよび管壁厚Wの目下の測定値と、送り速度V
fおよび引き出し速度V
sである。さらにFEMモデル24には事前に、中空円柱体4のもとの長さに関する情報も入力される。そのようにしてモデル24は、積分された送り速度データに基づき、加熱管1に対する溶接部9の目下のポジションを把握する。
【0047】
これらの入力データからFEMモデル24は、モデリングされた温度T
modellに対する目下の実際値を計算する。この値は閉ループ制御量として用いられ、PI制御器21へ転送され、PI制御器21はこの値と現在の目標値T
modell,0とに基づき、加熱炉温度が上昇したのか低下したのかを表す。新たに設定された温度値T
ofen,sollも、同様にFEMモデルへ伝達される。
【0048】
次に、石英ガラス管を製造するための本発明による垂直引き出し法を実施するための実施例について、
図1および
図2を参照しながら詳しく説明する。
【0049】
プロセス閉ループ制御装置(コンピュータ8)に、以下のパラメータが入力される:速度測定装置により測定される引き出し速度、壁厚測定装置14により測定される管外径D、管壁厚W、高温計16により測定される加熱管1の温度T
ofen、ならびに(同様に図示されていない)圧力測定装置により求められた管内圧P。プロセス閉ループ制御装置8は、圧力ガス弁、加熱炉の温度制御器21、ならびに引き出しおよび送りのための制御器22を制御する。
【0050】
変形ゾーンにおけるモデリングされた温度T
modellについて、上述の入力データからFEMモデルによって計算された目標値が、加熱炉温度制御器21へ与えられ、これは加熱炉温度T
ofenの設定時に考慮される。
【0051】
石英ガラス円柱体4は、加熱炉3へ一定の送り速度V
zで供給され、その際、加熱炉3の温度は最初は約2200℃に設定される。加熱炉の温度制御のための閉ループ制御量として、FEMモデル24により求められたモデリングされた温度T
modellが用いられ、これはたとえば事前に1800℃付近に設定される。
【0052】
したがってプロセス閉ループ制御の閉ループ制御量として、管状延伸部材12の外径Dと、変形ゾーン11におけるモデリングされた温度T
modellが用いられる。操作量として、外径に対してはガラス圧力が用いられ、変形ゾーン11におけるモデリングされた温度T
modellに対しては表面温度T
ofenが用いられる。
【0053】
次に、変形ゾーン11におけるモデリングされた温度T
modellの参照値ないしは制御量に向けた閉ループ制御について説明する。
【0054】
測定位置E1およびE2において、中空シリンダ4の表面温度T
obenと、引き出された管状延伸部材12の表面温度T
untenが測定される。これらのデータはFEMモデル24へ伝達され、FEMモデル24は最初に測定値(T
oben,T
unten)とモデル値(T′
oben,T′
unten)との偏差から、モデルを較正する。ついで較正されたモデルを用いて変形温度T
modellが計算され、制御器21へ伝送される。制御器21は目標値T
modell,0に対する偏差に応じて、加熱炉温度に対する目標値T
ofen,0を整合する。
【0055】
この閉ループ制御は定常動作中は遮断しておくことができ、その際、定常フェーズの終了は、たとえば中空円柱体4の長さが最小残留長を下回ったことによって表される。本発明は、殊に以下のような非定常フェーズにおいて有効であると実証された。すなわちこの非定常フェーズは、加熱炉3に上方から近づく溶接部9が付加的な放射源としてはたらき、これによって加熱空間3とともに温度上昇が引き起こされることによって生じる。FEMモデルは、中空円柱体の送り動作とともに「いっしょに進行する」一次元の空間的な温度分布を、目下の変形ゾーンに関してシミュレートするものであるので、測定位置E1における温度変化が早期に識別され、温度上昇に対抗して作用が及ぼされる。このために役立つのは、FEMモデルが入力パラメータとして溶接部9の位置も含むことである。
【0056】
このようにして延伸プロセスの最終フェーズが、測定平面E1における温度上昇と、中空円柱体4の幾何学的データの事前入力とによって識別され、これは加熱炉温度の低減を介して補償することができる。その結果、変形ゾーンにおける温度プロフィルの安定性が高まり、ひいてはダイナミックな変形特性の安定特性が高まる。本発明によれば管状延伸部材12の寸法精度に関する再現可能な安定化を、延伸プロセスの非定常最終フェーズにおいても実現することができ、これは従来は不可能なことであった。