特許第5959663号(P5959663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5959663レーザーマーキングされたポリマー工作物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959663
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】レーザーマーキングされたポリマー工作物
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/26 20060101AFI20160719BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20160719BHJP
   B23K 26/18 20060101ALI20160719BHJP
   B23K 26/57 20140101ALI20160719BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   B41M5/26 S
   B23K26/00 B
   B23K26/18
   B23K26/57
   B23K26/00 N
   B60J1/00 G
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-541586(P2014-541586)
(86)(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公表番号】特表2015-500749(P2015-500749A)
(43)【公表日】2015年1月8日
(86)【国際出願番号】EP2012069994
(87)【国際公開番号】WO2013072142
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2014年7月10日
(31)【優先権主張番号】11189471.3
(32)【優先日】2011年11月17日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512212885
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
【氏名又は名称原語表記】Saint−Gobain Glass France
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー シュピンドラー
【審査官】 宮澤 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−273832(JP,A)
【文献】 特開2002−321944(JP,A)
【文献】 特開2004−050213(JP,A)
【文献】 特開2004−323252(JP,A)
【文献】 特開2005−324997(JP,A)
【文献】 特開2006−256307(JP,A)
【文献】 特開2008−230140(JP,A)
【文献】 特開2009−142885(JP,A)
【文献】 特開2010−169967(JP,A)
【文献】 特開2011−001260(JP,A)
【文献】 特開2011−016304(JP,A)
【文献】 特表2008−514433(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/019194(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/023102(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/101063(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/054077(WO,A2)
【文献】 特表2002−532379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/26
B23K 26/00
B23K 26/18
B23K 26/57
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーマーキングされたポリマー工作物(1)であって、少なくとも:
・透明な構成材(2)、および
・少なくとも1つの着色剤を含んでいる、透明な構成材(2)の少なくとも1つの領域に設けられた不透明な構成材(3)
を含んでいて、
ここで、マーク(4)が、少なくとも1つの、出力が1W〜50Wであるレーザー(5)によって、透明な構成材(2)を通して、透明な構成材(2)に面した不透明な構成材(3)の表面に導入されている、およびマーク(4)が、不透明な構成材(3)の明色化部であり、
不透明な構成材(3)が、ポリカーボネート及びポリエチレンテレフタレートを含む、前記ポリマー工作物。
【請求項2】
透明な構成材(2)の厚みが、1mm〜20mmである、請求項1に記載の工作物(1)。
【請求項3】
不透明な構成材(3)の厚みが、0.5mm〜10mmである、請求項1または2に記載の工作物(1)。
【請求項4】
不透明な構成材(3)が少なくとも1つの黒色顔料を含んでいる、請求項1からまでのいずれか1項に記載の工作物(1)。
【請求項5】
不透明な構成材(3)が、ポリマー工作物(1)の周縁領域において、1cm〜10cmの幅で取り囲んで、透明な構成材(2)の上に配置されている、請求項1からまでのいずれか1項に記載の工作物(1)。
【請求項6】
マーク(4)が、少なくとも文字、数字、幾何形状、シンボルおよび/またはピクトグラムを含んでいる、請求項1からまでのいずれか1項に記載の工作物(1)。
【請求項7】
マーク(4)が、少なくとも1つの均一に明色の領域として不透明な構成材(3)の上に現れている、請求項1からまでのいずれか1項に記載の工作物(1)。
【請求項8】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の工作物(1)であって、その上に少なくとも1種のポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートおよび/またはポリウレタンを含む保護被膜が配置されている前記工作物。
【請求項9】
レーザーマーキングされたポリマー工作物(1)の製造方法であって、
a)透明な構成材(2)と、少なくとも1つの着色剤を含んでいる不透明な構成材(3)とを多成分射出成形により接合してポリマー工作物(1)にし、
b)不透明な構成材(3)を、透明な構成材(2)を通して少なくとも1つの、出力が1W〜50Wであるレーザー(5)で照射し、ここで、マーク(4)が不透明な構成材(3)に導入される、およびマーク(4)が不透明な構成材(3)の明色化部であり、
ここで、不透明な構成材(3)が、ポリカーボネート及びポリエチレンテレフタレートを含む、前記方法。
【請求項10】
マーク(4)が、レーザー(5)の照射の移動により不透明な構成材(3)に導入される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
レーザー(5)の照射が、透明な構成材(2)と不透明な構成材(3)との界面に焦点が合わせられる、請求項または10に記載の方法。
【請求項12】
レーザー(5)の発光波長が、600nm〜3000nmである、請求項から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
レーザー(5)が、パルス状で動作されて、パルス持続時間が、5ns〜300nsである、請求項から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
レーザー(5)が、パルス状で動作されて、パルス繰り返し周波数が、20kHz〜150kHzである、請求項から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1からまでのいずれか1項に記載のレーザーマーキングされたポリマー工作物(1)の、陸上、空中または水上での交通用の移動手段のガラス板としての、またはガラス板の構成部材としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキングされたポリマー工作物、その製造方法およびその使用に関する。
【0002】
自動車用のプラスチックガラス板は、典型的に多成分射出成形法で製造される。通常、このようなガラス板の周縁領域においては、濃く着色された、多くの場合黒色の、不透明な構成材が透明な構成材の上に設けられる。この不透明な構成材の領域において、前記ガラス板は、観測者には見えずに車両車体と接合、例えば貼り付けられていてよい。
【0003】
マークまたは標記により、例えば、メーカーコード、認証印、製造日または光学効果をガラス板の上に設けることができる。プラスチックガラス板をマーキングするための種々の方法が公知である。ガラス板の射出成形では、マークは、ネガティブまたはポジティブのレリーフとして、ガラス板の表面に導入することができる。ただし、ここで、画像鮮鋭度、コントラスト、最小文字サイズおよび詳細度は制限される。さらに、このレリーフにより、ガラス板の塗装では周縁部の塗装流れ欠陥が生じることがある。
【0004】
それとは別に、マークは、レリーフとして射出成形後にガラス板に刻印する、または切込む(einfraesen)ことができる。ここでも、マーキング後のガラス板の塗装において、流れ欠陥が生じることがある。ガラス板の塗装後にレリーフを設けることは、塗装層を損なわせる。
【0005】
プラスチックガラス板のレーザーマーキング法も公知である。マークは、ここで、レーザー照射の結果としてガラス板の表面領域の暗色化(Verdunkelung)に起因するものである。このマークは、ここでも機械的および化学的な損傷ならびにUV照射から保護されない。レーザーマーキング後のガラス板の塗装では、流れ欠陥が生じることがある。ガラス板の塗装後にマークを設けることは、塗装層を損なわせる。前記暗色化は、別の公知の方法によりプラスチックガラス板の内部でも作ることができる。この暗色化されたマークは、ガラス板の周縁領域の不透明な構成材の背景の前では認識できないため、このマークは、ガラス板の透明な可視領域に設けられる必要があり、ここで、このマークは邪魔に目立つことがある。
【0006】
レーザーマーキングを暗色化部としてポリマー工作物に導入することができる方法は、例えば、DE19944372A1、WO2010019194A1、DE19732306A1およびWO2010054077A2から公知である。
【0007】
特に前記工作物に導入されるレーザー感受性材料が使用されるレーザーマーキング方法も、例えば、DE102009028937A1およびWO2010023102A1から公知である。ただし、レーザー感受性材料の必要性により、前記工作物の製造は、この場合困難になる。
【0008】
本発明の課題は、マーキングされたポリマー工作物ならびにその製造方法を提供することであり、ここで、先行技術による欠点は回避される。
【0009】
本発明の課題は、本発明によれば、独立請求項1に記載のレーザーマーキングされたポリマー工作物により解決される。好ましい実施態様は、従属請求項から読み取れる。
【0010】
本発明によりレーザーマーキングされたポリマー工作物は、少なくとも以下の特徴:
・透明な構成材、および
・この透明な構成材の少なくとも1つの領域に設けられた不透明な構成材、
を含んでいて、マークは、少なくとも1つのレーザーによって、前記透明な構成材を通して、この透明な構成材に面した前記不透明な構成材の表面に導入されている。
【0011】
本発明によるレーザーマーキングされたポリマー工作物の利点は、このポリマー工作物の内部でマークを位置決めすることにある。それにより、このマークは、機械的および化学的な損傷、ならびにその他の環境影響から保護される。さらに、このマークは、前記ポリマー工作物がマーキング後に塗膜で被覆される場合、流れ欠陥をもたらさない。さらに、このマークは、前記ポリマー工作物の不透明な構成材の領域に配置されている。本発明によるポリマー構成材が、例えば、車両のガラス板である場合、透明な可視領域は、このマークによって妨げられない。
【0012】
本発明の課題は、さらに本発明によれば、レーザーマーキングされたポリマー工作物の製造方法により解決され、ここで:
a)透明な構成材と不透明な構成材とを、多成分射出成形により接合してポリマー工作物にし、
b)前記不透明な構成材を、前記透明な構成材を通して少なくとも1つのレーザーで照射し、ここで、マークは、前記不透明な構成材に導入される。
【0013】
前記不透明な構成材は、着色剤を含んでいる。前記マークは、この不透明な構成材の局所的な脱色である。
【0014】
前記ポリマー構成材の寸法は、広範囲に変化してよく、その結果、個々の場合の必要条件に卓越して適合できる。前記ポリマー工作物の面積は、例えば1cm2〜3m2であってよい。好ましくは、前記ポリマー工作物は、車両ならびに建設および建築分野におけるガラス板に通常である100cm2〜2.5m2の面積を有している。
【0015】
前記ポリマー工作物は、本発明によれば、少なくとも透明な構成材および不透明な構成材を含んでいて、この不透明な構成材は、少なくとも前記透明な構成材の領域に配置されている。前記ポリマー構成材は、多成分射出成形により製造されるのが好ましく、まず、透明な構成材が射出成形されて、引き続き、不透明な構成材がこの透明な構成材の少なくとも1つの領域に設けられる。根本的に、まず不透明な構成材が射出成形されて、引き続き、透明な構成材が射出成形されても当然よい。前記ポリマー工作物は、例えば、透明なポリマー構成材を含んでいる車両用ガラス板であり、ここで、周辺領域を取り囲んで、不透明なポリマー構成材が前記透明なポリマー構成材の上に配置されている。この不透明な構成材の幅は、ここで、例えば1cm〜10cmである。このようにして、この不透明な構成材は、枠を形成している。
【0016】
前記ポリマー工作物は、好ましくは平らである、または空間の1つの方向に、もしくは複数の方向に軽度に、もしくは強く曲げられている。
【0017】
前記ポリマー工作物の透明な構成材は、少なくともポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、スチレンアクリロニトリル(SAN)、アクリルエステルスチレンアクリロニトリル(ASA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン−ポリカーボネート(ABS/PC)および/またはこれらのコポリマーまたは誘導体を含んでいる。
【0018】
前記ポリマー工作物の透明な構成材は、特に好ましくはポリカーボネート(PC)および/またはポリメチルメタクリレート(PMMA)を含んでいる。これは、前記ポリマー工作物の透明性、加工性、強度、耐候性および化学耐性に関して特に有利である。
【0019】
透明とは、本発明の範囲において、観察者が前記構成材を透かして見ることができ、観察者から見てこの構成材の後方にある物体を認識できることを意味する。前記透明な構成材は、無色であってよい。この透明な構成材は、着色されていてもよく、または色調が与えられていてもよい。前記透明な構成材の可視スペクトル範囲の透過率は、例えば50%より大、もしくは50%に等しく、または70%より大、もしくは70%に等しい。
【0020】
不透明とは、本発明の範囲において、観察者が前記構成材を透かして見ることができないことを意味する。この不透明な構成材の可視スペクトル範囲の透過率は、つまり明らかに低下していて、例えば20%未満または20%に等しく、10%未満または10%に等しく、5%未満または5%に等しく、特に約0%である。
【0021】
前記透明な構成材は、1mm〜20mm、特に好ましくは3mm〜10mmの層厚みを有しているのが好ましい。
【0022】
前記ポリマー工作物の不透明な構成材は、少なくともポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、スチレンアクリロニトリル(SAN)、アクリルエステルスチレンアクリロニトリル(ASA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン−ポリカーボネート(ABS/PC)および/またはこれらのコポリマーまたは混合物を含んでいるのが好ましく、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリメチルメタクリレート(PMMA)を含んでいるのが特に好ましい。
【0023】
前記ポリマー工作物の不透明な構成材は、さらに少なくとも1つの着色剤を含んでいる。この着色剤により、前記構成材の不透過性が達成される。この着色剤は、無機および/もしくは有機の染料ならびに/または顔料を含んでいてよい。この着色剤は、有色または無色であってよい。好適な着色剤は、当業者に公知であり、例えば、British Society of Dyers and ColouristsおよびAmerican Association of Textile Chemists and ColoristsのColour Indexで調べることができる。好ましくは、黒色顔料、例えば、カーボンブラック(Carbon Black)、アニリンブラック、骨炭、黒色酸化鉄、スピネル黒および/またはグラファイトが着色剤として使用される。これにより、黒色の不透明な構成材が得られる。
【0024】
前記不透明な構成材は、0.5mm〜10mm、特に好ましくは1mm〜7mmの層厚みを有しているのが好ましい。
【0025】
前記マークは、本発明によれば、レーザーを用いて設けられる。レーザーの照射は、前記不透明な構成材に面した前記透明な構成材の表面を通して前記ポリマー工作物に入る。レーザーの照射は、有利な実施態様では、光学部材、例えばレンズまたは対物レンズを用いて、前記透明な構成材と不透明な構成材との界面に焦点が合わせられる。焦点を合わせる前記光学部材の焦点距離は、好ましくは10mm〜300mmである。それによって、特に優れた結果が得られる。前記光学部材のより小さい焦点距離は、マーキング工程の間のポリマー工作物と光学部材との間に過度に小さい作動距離を必要とする。より大きい焦点距離は、レーザー焦点の過度に大きい拡がりをもたらし、それにより、マーキング法の解像力および焦点における電力密度が制限される。
【0026】
レーザーと、前記焦点を合わせる光学部材の間で、レーザーの照射は、少なくとも1つの光ファイバー、例えばガラス繊維により通すことができる。さらなる光学部材がレーザーのビーム通路に配置されていてもよい。
【0027】
有利な実施態様では、前記マークは、レーザーの照射の移動により、前記透明な構成材に面した前記不透明な構成材の表面に導入される。レーザーの照射は、透明な構成材と不透明な構成材との界面の領域において不透明な構成材の明色化をもたらすことが判明した。この明色化は、前記透明な構成材を通して明らかにマークとして認識できるものである。このマークは、少なくとも1つの均一に明色の領域として前記不透明な構成材の上に現れているのが好ましい。
【0028】
本発明によるポリマー工作物のレーザーマーキングのためには、前記透明な構成材にレーザー光を通すこと、つまりレーザーの照射の少なくとも一部を、前記透明な構成材を通して透過させることが当然必要である。前記透明な構成材を透過した、レーザーの照射の割合は、例えば50%より大、または50%に等しく、好ましくは70%より大、または70%に等しく、特に好ましくは80%より大、または80%に等しく、殊に好ましくは90%より大、または90%に等しい。
【0029】
前記マークは、任意の形態、例えば、二次元の幾何形状、ピクトグラム、企業または商品のシンボル、文字および/もしくは数字としての標記、またはこれらの組み合わせを有してよい。このマークにより、前記ポリマー工作物は、例えば、メーカーコード、認証印、製造日または光学効果を備えることができる。
【0030】
レーザーの照射の移動は、可動式の構成部材に連結されている、少なくとも1つのミラーによって行われるのが好ましい。この可動式の構成部材により、前記ミラーは2つの方向、好ましくは2つの相対する直角の方向、特に好ましくは水平と垂直に傾斜させることができる。レーザーの照射の移動は、それぞれ1つの可動式の構成部材と連結している複数のミラーにより行うこともできる。例えば、レーザーの照射の移動は、2つのミラーにより行うことができ、ここで、1つのミラーは水平方向に、別のミラーは垂直方向に傾斜させることができる。前記ポリマー工作物は、レーザーマーキングの間、構成部材保持器に固定されているのが好ましい。
【0031】
それとは別に、レーザーの照射は固定式であってよく、前記ポリマー工作物は、マーキング工程の間、動かされてよい。
【0032】
レーザーの照射は、200mm/s〜5000mm/sの速度で、前記透明な構成材と不透明な構成材との界面にわたって移動するのが好ましい。それによって、特に優れた結果が得られる。
【0033】
レーザーとして、固体レーザー、例えばNd:YAGレーザー、Nd:Cr:YAGレーザー、Nd:Ce:YAGレーザーまたはYb:YAGレーザーが使用されるのが好ましい。活性媒体として例えばイッテルビウムをドープしたガラスファイバーを用いるファイバーレーザーが使用されるのが特に好ましい。これは、レーザー照射のビーム品質に関して特に有利である。レーザーの発光波長は、好ましくは600nm〜3000nm、特に好ましくは900nm〜1500nm、例えば、約1064nmである。それによって、特に優れた結果が得られる。
【0034】
しかし、本発明によれば、別のレーザー、例えばガスレーザー、例えばCO2レーザーが使用されてもよい。
【0035】
レーザーは、連続波運転で使用されてよい。このレーザーは、パルス状に動作されるのが好ましい。これは、ポリマー基材中の高い電力密度に関して特に有利である。パルス周波数は、好ましくは1kHz〜500kHz、特に好ましくは20kHz〜150kHzである。パルス長は、好ましくは5ns〜300ns、特に好ましくは50ns〜150nsである。これは、レーザーマーキングでのレーザーの電力密度に関して特に有利である。
【0036】
レーザーの照射の出力は、好ましくは1W〜50W、特に好ましくは15W〜35Wである。これは、前記ポリマー基材の効率のよいマーキングに関して特に有利である。
【0037】
本発明の有利な実施態様では、保護被膜が前記ポリマー工作物に設けられる。ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートおよび/またはポリウレタンをベースにする熱硬化性またはUV硬化性の塗装系が使用されるのが好ましい。この保護被膜は、1μm〜50μm、特に好ましくは2μm〜25μmの層厚みを有するのが好ましい。特別な利点は、この保護被膜による、前記ポリマー工作物の耐引掻性および耐候性ならびに化学耐性にある。
【0038】
前記保護被膜は、色を与える化合物および顔料、UVブロック剤、保存料ならびに耐引掻性を高めるための成分、例えばナノ粒子を含んでいてもよい。
【0039】
前記保護被膜は、例えば、浸漬法、流し塗り法、または噴霧法により前記ポリマー工作物に設けることができる。この保護被膜は、設けられた後に、温度および/またはUV光をあてることにより硬化させるのが好ましい。射出成形による前記ポリマー工作物の製造では、この保護被膜は、インモールドコーティング(In Mould Coating)法により設けることもできる。
【0040】
保護被膜として好適な生成物は、例えば、Momentive社により製造されるAS4000、AS4700、PHC587の別形、またはUVHC300である。
【0041】
前記保護被膜は、複数の層を含んでいてもよく、前記ポリマー工作物上に接着促進層を、この接着促進層上に塗装層を含んでいるのが好ましい。この接着促進層は、例えばアクリレートを含んでいてよく、0.4μm〜5μmの層厚みを有していてよい。前記塗装層は、例えばポリシロキサンを含んでいてよく、1μm〜15μmの層厚みを有していてよい。この接着促進層は、設けられた後、前記塗装層が設けられる前に乾燥されるのが好ましい。
【0042】
前記保護被膜は、本発明による前記ポリマー工作物のレーザーマーキング後に設けられるのが好ましい。前記マークは、前記ポリマー工作物の内部に配置されているため、レーザーマーキング後に前記保護被膜を設ける場合、保護被膜および/またはマークの流れ欠陥もしくはその他の不都合な損傷は生じない。
【0043】
前記レーザーマーキングされたポリマー工作物は、陸上、空中または水上での交通用の移動手段のガラス板として、またはガラス板の構成部材として使用されるのが好ましく、特に、自動車のリアガラス、フロントガラス、サイドガラスおよび/またはルーフガラスとして使用されるのが好ましい。このレーザーマーキングされたポリマー工作物は、窓ガラス板として使用されてよいが、室内部品、例えばスイッチまたは検出装置として使用されてもよい。
【0044】
本発明を図面および実施例をもとにより詳しく説明する。図面は、図解であって縮尺どおりではない。図面は、本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明によるレーザーマーキングされたポリマー工作物の実施態様の平面図
図2図1に記載の本発明によるレーザーマーキングされたポリマー工作物のA−A’に沿う断面図
図2a図2の部分Zの拡大図
図3】レーザーマーキングの間の、図1に記載の本発明によるポリマー工作物のA−A’に沿う断面図
図4】本発明による方法の詳細なフローチャート
【0046】
図1および図2は、それぞれ本発明によるポリマー工作物1の詳細を示している。この工作物は、乗用自動車のサイドガラスであり、長さ30cm、幅28cmを有している。ポリマー工作物1は、透明な構成材2を含んでいる。ポリマー工作物1の周縁領域には、不透明な構成材3が、4cmの幅で取り囲んで、透明な構成材2の上に配置されている。図1は、不透明な構成材3に面した透明な構成材2の表面の平面図を示している。不透明な構成材3は、この平面図では、透明な構成材2を通して認識できる。ポリマー工作物1を、多成分射出成形により製造した。透明な構成材2は、厚み4mmを有していて、ポリカーボネート(PC)を含んでいる。不透明な構成材3は、厚み2mmを有している。不透明な構成材3は、無機物充填されたポリカーボネート(PC)―ポリエチレンテレフタレート(PET)混合物を含んでいる。不透明な構成材3の射出成形のための出発材料は、Teijin Chemicals Ltd.社により提供された(Panlite Y−0346 Colour No.TG6654)。不透明な構成材3の領域では、ポリマー工作物1は透明ではない。それゆえ、このサイドガラスは、不透明な構成材3の領域において、観察者に見えずに車両車体に接合されていてよい、例えば、貼り付けられていてよく、ここで、不透明の構成材3は、車両の内部空間に向いて配置されているのが好ましい。
【0047】
不透明な構成材3の少なくとも1つの領域に、マーク4が配置されている。マーク4は、透明な構成材2と不透明な構成材3との界面で、本発明によれば、不透明な構成材3に導入されている。マーク4は、明色化された領域として、不透明な構成材3の表面上で実現されている。マーク4は、便宜上、白抜きの円として示されている。マーク4は、実際は、例えばメーカーのシンボル、商品のシンボル、メーカーコード、製造日、および/または認証印を含んでよい。
【0048】
透明な構成材2と不透明な構成材3との界面での、前記ポリマー工作物1の内部におけるマーク4の本発明による配置により、マーク4は、有利に、環境影響、例えば機械的な損傷から保護される。さらに、マーク4は、前記ポリマー工作物1の図示されていない被膜、例えば、保護塗装をレーザーマーキング後に設ける場合、塗装流れ欠陥をもたらさない。
【0049】
図2aは、図2において円で印を付けられた部分Zの拡大図を示している。透明な構成材2の領域、不透明な構成材3の領域、ならびに透明な構成材2に面した不透明な構成材3の表面に導入されたマーク4が見られる。
【0050】
図3は、本発明によるレーザーマーキングの間の、図1のポリマー工作物のA−A’断面図を示している。レーザー5の照射は、不透明な構成材3に面した透明な構成材2の表面を通してポリマー工作物1に入る。レーザー5の照射は、対物レンズ6を用いて、ポリマー工作物1の透明な構成材2と不透明な構成材3との界面に焦点が合わせられている。対物レンズ6の焦点距離は、160mmである。レーザー5は、活性媒体としてイッテルビウムをドープした、長さ2mのガラスファイバーを備えるダイオード励起されたファイバーレーザーである。レーザー5の発光波長は、1063nmである。レーザー5は、パルス持続時間110ns、およびパルス繰り返し周波数60kHzでパルス状に動作される。レーザー5のビーム通路には、ミラー7が配置されている。ミラー7の移動により、レーザー5の照射の焦点は、ポリマー工作物1の透明な構成材2と不透明な構成材3との界面にわたって移動させることができる。
【0051】
レーザー5の照射は、わずかなミリセカンドの範囲の作用継続時間(Einwirkdauer)後にすでに、不透明な構成材3の表面上に明らかな明色化をもたらす。それゆえ、ポリマー工作物1の透明な構成材2と不透明な構成材3との界面にわたって、焦点を合わせたレーザー5の照射を移動させることにより、マーク4、例えば、メーカーのシンボル、メーカーコード、製造日または認証印を連続的に設けることができる。
【0052】
図4は、本発明による、レーザーマーキングされたポリマー工作物1の製造方法を例示的に示している。
【0053】
図1に記載の本発明によりレーザーマーキングされたポリマー工作物1の試験試料を、本発明による方法によって作った。レーザーマーキングは、レーザー5、ミラー7および対物レンズ6を含む、FOBA社のレーザーマーキングシステムDP20Fを使用して実施した。マーク4は、文字、数字および幾何形状を含んでいる。すべての試験試料において、マーク4は、明瞭に認識できた。マーク4の最小のマーキング厚みは、約0.1mmであった。
【0054】
ポリマー工作物1の表面を変化させずに、ポリマー工作物1のマーク4を容易かつ確実な方法で提供できることは、当業者には予期しないことであり、驚くべきことであった。
【符号の説明】
【0055】
(1) ポリマー工作物
(2) 透明な構成材
(3) 不透明な構成材
(4) マーク
(5) レーザー
(6) 対物レンズ
(7) 傾斜可能なミラー
A−A’ 交線
Z ポリマー工作物1の部分
図1
図2
図2a
図3
図4