(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
正極活物質の破砕が起こると、破砕部分において電子伝導が切断されるため、正極合剤層の抵抗が増加し、電池の放電性能が低下する。正極活物質の破砕は、主に正極作製時のプレス工程、あるいは、充放電に伴う粒子の膨張、収縮により発生することから、充放電サイクルの進行とともに、破砕された粒子が増加するために、充放電サイクル特性が低下することとなる。そこで、本発明の様に、非水電解質二次電池用正極活物質を、前記活物質粒子を含有する電極を40kN/cm
2の圧力で加圧プレスした場合において、前記活物質粒子の破砕率が40%以下であるものとすることにより、活物質粒子の破砕が抑制され、サイクル特性が向上する。
この破砕率の値は、後述する実施例の結果にも示されているように、加圧プレスの圧力に応じて変化する。充放電サイクル特性をすぐれたものとするためには、加圧プレス圧力30kN/cm
2では破砕率35%以下、20kN/cm
2では破砕率30%以下であることが好ましい。
【0020】
なお、活物質粒子における破砕率については、後述する実施例に記載の確認方法により、プレス後の正極のSEM観察を行ったときに、正極合剤層に存在する活物質粒子のうち、前記活物質粒子が破砕され、正極活物質合成時の粒子形状を維持していないもの、即ち、活物質粒子が複数の破片に分かれているもの、あるいは、活物質粒子に入った亀裂またはひび割れにより、粒子中心部が露出している粒子を指すものである。
40kN/cm
2の圧力によりプレスを行った後の正極において、活物質粒子の破砕率が40%を超える正極では、後述の比較例1に示すように、電池の充放電サイクル特性が低下する。
ここで、本発明における粒子とは、二次粒子、あるいは、より高次の粒子を指すものである。
【0021】
さらに、正極活物質粒子を含有する電極を20、40kN/cm
2の各圧力で加圧プレスした場合における、前記活物質粒子の破砕率の差((40kN/cm
2加圧プレス時破砕率)−(20kN/cm
2加圧プレス時破砕率))が10%以下であるものとすることにより、活物質粒子の破砕が抑制され、充放電サイクル特性が向上する。この値が小さいほど粒子が割れにくく充放電サイクル特性がすぐれたものとなることを意味する。充放電サイクル特性を特に優れたものとするためには、この値が8%以下であることが好ましい。
【0022】
また、前記活物質粒子の粒度分布測定により得られた10%累積質量粒子径をD
10a、前記活物質粒子を6.4kN/cm
2の圧力で加圧プレスした後の粒度分布測定により得られた10%累積質量粒子径をD
10bとしたとき、それらの比率(D
10b/D
10a)は、プレスや充放電に伴う体積変化等による粒子の割れやすさを表す指標となる。この比率が1に近いほど粒子が割れにくく、逆に1より値が小さくなるほど粒子が割れやすいことを意味する。正極活物質粒子が割れにくく、破砕されにくいほど充放電サイクル特性をすぐれたものとすることができるため、この比率は1に近い方が好ましい。この観点から、D
10b/D
10aは0.82以上が好ましく、より好ましくは0.90以上であり、特に0.95以上とすることが好ましい。
なお、活物質粒子の粒度分布の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0023】
リチウム遷移金属複合酸化物の組成式Li
1+αMe
1−αO
2において(1+α)/(1−α)で表される遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meが、1.00〜1.60の場合、正極活物質の放電容量を大きくすることができるので好ましい。
【0024】
さらに、Li/Meが、1.25〜1.60の場合、正極活物質の放電容量をより大きくすることができるので好ましい。特に、Li/Meを1.25〜1.43とすることで、正極活物質の放電容量が大きく、かつ、初期充放電効率が優れたものとなるため好ましい。
【0025】
前記リチウム遷移金属複合酸化物に含有される遷移金属元素を構成するCo、Ni及びMn等の元素の比率は、求められる特性に応じて任意に選択することができる。
【0026】
放電容量が大きく、初期充放電効率が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという点で、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、0.02〜0.23が好ましく、0.04〜0.21がより好ましく、0.06〜0.17が最も好ましい。
【0027】
また、放電容量が大きく、初期充放電効率が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという点で、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは0.63〜0.72が好ましく、0.65〜0.71がより好ましい。
【0028】
本発明に係る正極活物質の粒子のアスペクト比(長径/短径)は2以下であることが好ましい。この様にほぼ球形の粒子とすることにより、粒子の破砕が起こりにくくなるので、充放電サイクル特性が向上する。
【0029】
本発明に係る正極活物質に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物は、本質的に、金属元素としてLi、Co、Ni及びMnを含む複合酸化物であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、少量のNa、K、Mg、Ca等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、Fe、Cu等の3d遷移金属に代表されるような遷移金属、Si、Zn、In等の金属を含有することを排除するものではない。
【0030】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO
2構造を有している。合成後(充放電を行う前)の上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群P3
112あるいはR3−mに帰属される。このうち、空間群P3
112に帰属されるものには、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=21°付近に超格子ピーク(Li[Li
1/3Mn
2/3]O
2型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ところが、一度でも充電を行い、結晶中のLiが脱離すると結晶の対称性が変化することにより、上記超格子ピークが消滅して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3−mに帰属されるようになる。ここで、P3
112は、R3−mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3−mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P3
112モデルが採用される。なお、「R3−m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
【0031】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、六方晶の空間群P3
112あるいはR3−mのいずれかに帰属され、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=18.6°±1°の回折ピークの半値幅が0.20°〜0.27°又は/及び、2θ=44.1°±1°の回折ピークの半値幅が0.26°〜0.39°であることが好ましい。こうすることにより、正極活物質の放電容量を大きくすることが可能となる。なお、2θ=18.6°±1°の回折ピークは、空間群P3
112及びR3−mではミラー指数hklにおける(003)面に、2θ=44.1°±1°の回折ピークは、空間群P3
112では(114)面、空間群R3−mでは(104)面にそれぞれ指数付けされる。
【0032】
本発明に係る正極活物質は、放電性能が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという点で、レーザー回折・散乱法により測定した二次粒子の平均粒子径が30μm以下の粉体であることが好ましい。特に、二次粒子の平均粒子径を20μm以下とすることにより、電極の圧縮加工性、電極の塗工性、放電特性が向上するのでより好ましい。また、二次粒子の平均粒子径を0.1μm以上とすることにより、正極における電解液の酸化分解を抑制できるので非水電解質二次電池を長寿命とすることができるため好ましい。特に、二次粒子の平均粒子径を5μm以上にすることにより、電極の圧縮加工性、電極の塗工性、放電特性が向上するのでより好ましい。
【0033】
本発明に係る正極活物質の流動法窒素ガス吸着法によるBET比表面積は正極の高率充放電特性を向上させるために大きい方が良く、1m
2/g以上が好ましい。より好ましくは5m
2/g以上である。一方、比表面積が大きすぎると非水電解質二次電池の寿命の低下に繋がるので、50m
2/g以下が好ましい。より好ましくは30m
2/g以下である。
【0034】
次に、本発明に係る非水電解質二次電池用活物質を製造する方法について説明する。
本発明に係る非水電解質二次電池用活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を、目的とする活物質(リチウム遷移金属複合酸化物)の組成通りに含有するように原料を調整し、最終的にこの原料を焼成すること、によって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0035】
目的とする組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を作製するための方法として、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくい。このため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。本発明に係る非水電解質二次電池用活物質を製造するにあたり、前記「固相法」と前記「共沈法」のいずれを選択するかについては限定されるものではない。しかしながら、「固相法」を選択した場合には、放電容量の大きな正極活物質を製造することは極めて困難である。「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である点で好ましい。
【0036】
共沈法で前駆体を合成する場合、スラリーを反応槽から抜き取りながら反応を行う連続式(オーバーフロー式)や、スラリーを定期的に濾過したり、沈殿させたりして固形分を分離し、反応槽のスラリーに固形分を戻すバッチ式(濃縮式)や、反応終了までスラリー等の抜き取りを行わない完全バッチ式等、幾つかの方式がある。
【0037】
連続式や、完全バッチ式では常に粒子の発生と粒子の成長が同時に起こるため、粒度分布が広くなりがちである。一方でバッチ式は、固形分をスラリー中に戻すため、反応初期以外に粒子の発生は起こり難く、粒度分布が狭くなる傾向がある。正極活物質としては、粉体の取り扱いやすさ、電極作製の容易さ等から粒度分布が狭い方が好ましく、この観点から共沈前駆体の作製をバッチ式で行う方が好ましい。
【0038】
共沈法においては、反応槽中のアルカリ性を保った水溶液に、槽内を攪拌しながら前記共沈前駆体の原料水溶液を滴下供給して共沈前駆体を得ることができる。
【0039】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本発明の組成範囲においては、Mn比率をCo,Ni比率に比べて高くすることが好ましいので、水溶液中の溶存酸素を除去することが重要である。溶存酸素を除去する方法としては、反応槽の水溶液に酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO
2)等を用いることができる。なかでも、後述する実施例のように、共沈炭酸塩前駆体を作製する場合には、酸素を含まないガスとして二酸化炭素を採用すると、炭酸塩がより生成しやすい環境が与えられるため、好ましい。
【0040】
溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、7.5〜11とすることができる。また、タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を高めることができ、高率放電特性を向上させることができるので好ましい。
【0041】
前記共沈前駆体は、MnとNi及びCoとが均一に分布した化合物であることが好ましい。前駆体は炭酸塩、水酸化物、クエン酸塩等の元素が均一に分布した難溶性塩であれば良いが、炭酸塩を採用することで、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の柔軟性が高くなるので、本発明による効果を高めることができるために好ましい。さらに、リチウム遷移金属複合酸化物の放電特性が向上するために好ましい。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0042】
前記共沈前駆体の作製に用いる原料としては、アルカリ水溶液と沈殿反応を形成するものであればどのような形態のものでも使用することができるが、好ましくは溶解度の高い金属塩を用いるとよい。
【0043】
前記共沈前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0044】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、CoやNiと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下スピードについては、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、例えば反応槽の大きさが10Lの場合、20ml/min以下が好ましく、15ml/min以下とすることがより好ましい。後述する比較例に示されるように、30ml/minという速い速度では、得られる共沈前駆体のCo、Ni、Mnの元素分布が不均一となるために、合成後のリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造が不安定になる場合がある。
【0045】
共沈前駆体の合成時の攪拌条件は、合成後の正極活物質の密度に影響を及ぼす。
攪拌時の周速が速くなると、高密度な前駆体粒子になりやすいが、粒子同士が強く衝突するため、粒子径は大きく成長し難く、磨耗によって微粉も発生しやすい。このため合成後の正極活物質粒子の二次粒子内部は高密度だが二次粒子径が大きくなり難く、微粉も多いため、正極活物質としては、低密度になりやすい。
逆に、攪拌時の周速が遅いと低密度な粒子になりやすいが、粒子同士が強く衝突しないため、粒子径は大きく成長し易い。このため合成後の正極活物質粒子の二次粒子径は大きくなり易いが、二次粒子内部は低密度なので粉体としては、低密度になりやすい。
【0046】
ここで述べる周速とは、前駆体合成装置に備えられている、系内のスラリーを攪拌する攪拌羽の外周部分の速さであって、
周速[m/s]=1秒当たりの攪拌回転数[rps]×攪拌羽の直径[m]×円周率
で現される。例えば、
10[rps]×0.1[m]×π=3.14[m/s]
となる。
【0047】
本発明者等は、高密度な大粒子を得るために速い周速で撹拌して核となる高密度な小粒子をつくり、その後、遅い周速で撹拌して粒子を成長させて、高密度な大粒子を作る方法を見出した。しかし、この方法で合成した粒子は、早い周速で撹拌して合成した核の部分と遅い周速で撹拌して後から成長させた部分とで密度が異なるため、焼成後、二次粒子内部に同心円状の隙間が発生し、電極のプレス時や充放電による粒子の膨張収縮に伴い、粒子が破砕されやすくなり、電池特性が低下し易くなることがわかった。
【0048】
従って、これらの前駆体の製造条件を適したものとすることも本発明の重要な要素である。反応の進行に伴ってスラリー濃度が増大するバッチ式では、攪拌の周速を一定範囲内に制御し、スラリー濃度を一定濃度以下に維持することで、速い周速を採用しても、高密度で大きな二次粒子径を有し、さらに電極のプレス時や充放電による粒子の膨張収縮に伴い、粒子が破砕されにくい正極活物質を合成することが可能となる。
【0049】
上記のような、撹拌の周速あるいはスラリー濃度の制御は、条件によっては、二次粒子内部に同心円状の隙間を発生させる場合がある。この場合、電極のプレス時や充放電による粒子の膨張収縮に伴い、粒子が破砕されやすくなる要因の一つとなっていることも考えられる。従って、本発明においては、撹拌の周速あるいはスラリー濃度を、粒子が破砕されにくくなるような条件に制御することが好ましい。
【0050】
スラリー濃度は、薄すぎると供給した金属原料溶液が粒子成長に使われずに、新しく粒子となって沈殿してしまい、濃すぎると前述のように粒子同士が衝突する確立が上昇し過ぎて粒子が磨耗することで、微粉末が生成しやすくなるとともに、十分な粒子成長が行われなくなる。よって、共沈前駆体の合成中は、スラリー濃度を一定の範囲内に維持する必要がある。スラリー濃度は、100〜900g/Lであることが好ましく、より好ましくは150〜800g/L、更により好ましくは200〜600g/Lである。
【0051】
スラリー濃度の調節方法は、反応槽からスラリーや固形分を排出し、イオン交換水や純水等を加えても良いし、反応槽にイオン交換水や純水等を加えても良いし、反応槽のスラリーをイオン交換水や純水等と共により大きな反応槽に移動させても良い。好ましくは、反応槽のスラリーをイオン交換水や純水等と共により大きな反応槽に移動させる方法である。
【0052】
攪拌の周速は、遅すぎると粒子の密度が低くなり、速すぎると粒子同士が強い力で衝突して磨耗することで、粒子が成長し難くなり、微粉も発生するため好ましくない。攪拌の周速は、2〜10m/sであることが好ましく、より好ましくは2〜7m/s、更により好ましくは2.5〜6m/sである。
【0053】
共沈前駆体の合成中は、攪拌の周速を一定範囲内に制御し、大きく変化させないことが重要である。攪拌の周速を一定とすることで、粒子内の密度の差が小さく、電極のプレス時や充放電による粒子の膨張収縮によって破砕されにくい粒子を得ることができる。
【0054】
粒子を均一な球状粒子として成長させるためには、原料水溶液の滴下終了後も攪拌を継続することが好ましい。原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、好ましい攪拌継続時間は、制御するpHによって異なる。例えばpHを8.3〜9.0に制御した場合には、攪拌継続時間は14〜25hが好ましく、pHを7.6〜8.2に制御した場合には、攪拌継続時間は21〜3hが好ましい。
【0055】
本発明に係る非水電解質二次電池用活物質は前記共沈前駆体を常法によって乾燥、粉砕した粉末とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。
【0056】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li
1/3Mn
2/3]O
2型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向がある。このような分相が多く含まれすぎると、活物質の可逆容量の減少を導くので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが好ましい。活物質の酸素放出温度は、本発明に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0057】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本発明においては、焼成温度は少なくとも700℃以上とすることが好ましい。十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
また、発明者らは、本発明活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することで750℃までの温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、それ以上の温度で合成することでほとんどひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が2%以下、かつ結晶子サイズが50nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)及びLi/Me比組成を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは30nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。即ち、焼成温度を上記した活物質の酸素放出温度にできるだけ近付けるように選択することにより、はじめて、可逆容量が顕著に大きい活物質を得ることができる。
【0058】
上記のように、好ましい焼成温度は、活物質の酸素放出温度により異なるから、一概に焼成温度の好ましい範囲を設定することは難しいが、本発明においては、組成比率Li/Meが1.00〜1.60であるから、放電容量を充分なものとするために、焼成温度を800〜1000℃とすることが好ましく、さらにいえば、組成比率Li/Meが1.50を下回る場合には800〜900℃付近が好ましい。組成比率Li/Meが1.25〜1.425の場合には、800〜900℃付近が好ましく、850〜900℃とすることがより好ましい。
【0059】
焼成工程を経て得られるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子形状及び粒子径は、焼成前の前駆体の粒子形状及び粒子径がほぼ維持されるが、常温から焼成温度までの昇温速度は、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶粒子の成長程度に影響を与える。よって、昇温速度は、200℃/h以下が好ましく、100℃/h以下がより好ましい。
【0060】
粉体を所定の形状で得るため、粉砕機や分級機を用いることができる。粉砕には、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル等を用いることができる。粉砕時には水、あるいはアルコール、ヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いても良い。分級方法としては、特に限定はなく、必要に応じて篩や風力分級機などを乾式、或いは湿式にて用いることができる。
【0061】
本発明に係る正極活物質において、二次粒子内に空隙が存在しても良い。空隙が存在することにより、活物質粒子と電解液との有効接触表面積が大きくなるため、正極活物質の高率充放電特性が向上する。前記空隙を有する正極活物質は、上記の共沈法によるリチウム遷移金属複合酸化物の合成において、前駆体を炭酸塩とすることで生成しやすくなる。この場合、主に正極活物質の二次粒子の中心部に亀裂状の空隙が存在している場合がある。粒子断面のSEM観察では、この粒子内部の空隙が粒子外部まで貫通している様子は見られない。
【0062】
本発明に係る正極活物質を含む正極は、正極活物質と導電材料及び結着剤を混練して合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
また、本発明に係る正極活物質と導電材料等の他の粉末と混合する場合、正極活物質粒子が物理的に破砕しない程度に混合することが好ましい。例えば、プラネタリーミキサー、ジェットミル、フィルミクス(プライミクス社製)等で混合すると活物質粒子の破砕を抑制できるので好ましい。
【0063】
本発明に係る活物質は、正極電位が4.5V(vs.Li/Li
+)付近に至って充放電が可能である。しかしながら、使用する非水電解質の種類によっては、充電時の正極電位が高すぎると、非水電解質が酸化分解され電池性能の低下を引き起こす虞がある。したがって、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li
+)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量が得られる非水電解質二次電池が求められる場合がある。本発明に係る正極活物質の中でも、Li/Meが1.25〜1.60となるものを用いると、初回充電時において4.5V(vs.Li/Li
+)付近に出現する、充電電気量に対して比較的平坦な電位変化を示す領域(プラトー電位)以上の正極電位まで充電を行うことにより、その後の電池の使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li
+)より低くなるような、例えば、4.4V(vs.Li/Li
+)以下や4.3V(vs.Li/Li
+)以下となるような充電方法を採用しても、約200mAh/g以上という従来の正極活物質の容量を超える放電電気量を取り出すことが可能である。
【0064】
本発明に係る正極活物質が、高い放電容量を備えたものとするためには、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素が層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分に存在する割合が小さいものであることが好ましい。これは、焼成工程に供する前駆体において、Co,Ni,Mnといった遷移金属元素が十分に均一に分布していること、及び、活物質試料の結晶化を促すための適切な焼成工程の条件を選択することによって達成できる。焼成工程に供する前駆体中の遷移金属の分布が均一でない場合、十分な放電容量が得られないものとなる。この理由については必ずしも明らかではないが、焼成工程に供する前駆体中の遷移金属の分布が均一でない場合、得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分、即ちリチウムサイトに遷移金属元素の一部が存在するものとなる、いわゆるカチオンミキシングが起こることに由来するものと本発明者らは推察している。同様の推察は焼成工程における結晶化過程においても適用でき、活物質試料の結晶化が不十分であると層状岩塩型結晶構造におけるカチオンミキシングが起こりやすくなる。
本発明に係る正極活物質において、Li/Meが1.25〜1.60となるものでは、前記遷移金属元素の分布の均一性が高いものは、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、空間群P3
112に帰属され、ミラー指数hklにおける(003)面と(114)面の回折ピークの強度比が大きいものとなる傾向がある。本発明において、(003)面と(114)面の回折ピークの強度比は、I
(003)/I
(114)≧1.20であることが好ましい。また、充放電を行った後の放電末期状態においては、エックス線回折図上、空間群R3−mに帰属され、ミラー指数hklにおける(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が、I
(003)/I
(104)>1であることが好ましい。前駆体の合成条件や合成手順が不適切である場合、前記ピーク強度比はより小さい値となり、しばしば1未満の値となる。
ここで、CuKα管球を用いたエックス線については、例えば以下の要領で実施することが可能である。
本発明に係る正極活物質について、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて、線源はCuKα、加速電圧及び電流はそれぞれ30kV及び15mAとする粉末エックス線回折測定を行う。得られた、エックス線回折データについて、前記エックス線回折装置の付属ソフトである「PDXL」を用いて、エックス線回折図上2θ=18.6±1°及び2θ=44.1±1°に存在する回折ピークについて強度比を決定する。
【0065】
本願明細書に記載した合成条件及び合成手順を採用することにより、上記のような高性能の正極活物質を得ることができる。とりわけ、充電上限電位を4.5V(vs.Li/Li
+)より低く設定した場合、例えば4.4V(vs.Li/Li
+)や4.3V(vs.Li/Li
+)といった充電上限電位を設定した場合でも高い放電容量を得ることができる非水電解質二次電池用正極活物質とすることができる。
【0066】
(実施例1)
前駆体の合成反応を行う装置は、濾過濃縮装置を備えており、反応中に系内のスラリー容積を一定範囲に保つように、定期的に濾液のみを系外に排出して固形分は反応槽に滞留させることができる装置を用いた(前述のバッチ式)。攪拌翼の直径は10cmで行った。
硫酸マンガン5水和物と硫酸ニッケル6水和物と硫酸コバルト7水和物をCo、Ni、Mnの各元素が12.5:19.9:67.6の比率となるようイオン交換水に溶解させ混合水溶液を作製した。その際に、その合計濃度が2mol/lとなるようにした。次に、10リットルの反応槽に8Lのイオン交換水を準備し、湯浴を用いて45℃に保ち、1.2NのNa
2CO
3と4Nのアンモニア水を滴下することでpHを8.5に調整した。その際に、滴下するNa
2CO
3とNH
3をmol比で5:1となるようにした。その状態で二酸化炭素ガスを30minバブリングさせ、溶液内の溶存酸素を十分取り除いた。反応槽内を周速5m/sで攪拌させ、先程の硫酸塩の混合水溶液を10ml/minのスピードで滴下した。その間、湯浴を用いて温度を一定に保ち、1.2NのNa
2CO
3を断続的に滴下することでpHを一定に保った。このとき、定期的にスラリーを系外に排出し、排出したスラリーと同容積のイオン交換水を加え、スラリー濃度を600g/l以下に保ちながら60時間滴下反応を行い、その後、1時間攪拌を継続した。
【0067】
次に、吸引ろ過により共沈生成物を取り出し、空気雰囲気中、常圧下、オーブンで100℃にて乾燥させた。乾燥後、粒径を揃えるように、直径約120mmφの乳鉢で数分間粉砕し、炭酸塩前駆体を得た。
【0068】
無水炭酸リチウム粉末(Li
2CO
3)を、金属元素(Ni+Mn+Co)に対するLi量がモル比でLi/(Ni+Mn+Co)=1.40となるように秤量し、混合して混合粉体を得た。
【0069】
次に、混合粉体を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉に入れ空気雰囲気中、常圧下900℃で12h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、取り出し、乳鉢を用いて粒径を揃える程度に粉砕した。
【0070】
得られた活物質は、組成がLi
1.166Co
0.105Ni
0.166Mn
0.563O
2で、D50%が12.7μmであった。
【0071】
(実施例2)
実施例1と同じ装置を用い、硫酸マンガン5水和物と硫酸ニッケル6水和物と硫酸コバルト7水和物をCo、Ni、Mnの各元素が12.5:19.9:67.6の比率となるようイオン交換水に溶解させ混合水溶液を作製した。その際に、その合計濃度が2mol/lとなるようにした。次に、10リットルの反応槽に8Lのイオン交換水を準備し、湯浴を用いて45℃に保ち、1.2NのNa
2CO
3と4Nのアンモニア水を滴下することでpHを8.0に調整した。その際に、滴下するNa
2CO
3とNH
3をmol比で5:1となるようにした。その状態で窒素ガスを30minバブリングさせ、溶液内の溶存酸素を十分取り除いた。反応槽内を周速4m/sで攪拌させ、先程の硫酸塩の混合水溶液を10ml/minのスピードで滴下した。その間、湯浴を用いて温度を一定に保ち、1.2NのNa
2CO
3を断続的に滴下することでpHを一定に保った。このとき、定期的にスラリーを系外に排出し、排出したスラリーと同容積のイオン交換水を加え、スラリー濃度を400g/l以下に保ちながら90時間滴下反応を行い、その後、1.5時間攪拌を継続した。
【0072】
次に、吸引ろ過により共沈生成物を取り出し、空気雰囲気中、常圧下、オーブンで100℃にて乾燥させた。乾燥後、粒径を揃えるように、直径約120mmφの乳鉢で数分間粉砕し、炭酸塩前駆体を得た。
【0073】
無水炭酸リチウム粉末(Li
2CO
3)を、金属元素(Ni+Mn+Co)に対するLi量がモル比でLi/(Ni+Mn+Co)=1.40となるように秤量し、混合して混合粉体を得た。
【0074】
次に、混合粉体を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉に入れ空気雰囲気中、常圧下900℃で12h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、取り出し、乳鉢を用いて粒径を揃える程度に粉砕した。
【0075】
得られた活物質は、組成がLi
1.166Co
0.105Ni
0.166Mn
0.563O
2で、D50%が19.6μmであった。
【0076】
(比較例1)
実施例1と同じ装置を用い、硫酸マンガン5水和物と硫酸ニッケル6水和物と硫酸コバルト7水和物をCo、Ni、Mnの各元素が12.5:19.9:67.6の比率となるようイオン交換水に溶解させ混合水溶液を作製した。その際に、その合計濃度が2mol/lとなるようにした。次に、10リットルの反応槽に8Lのイオン交換水を準備し、湯浴を用いて45℃に保ち、1.2NのNa
2CO
3と4Nのアンモニア水を滴下することでpHを8.5に調整した。その際に、滴下するNa
2CO
3とNH
3をmol比で5:1となるようにした。その状態で窒素ガスを30minバブリングさせ、溶液内の溶存酸素を十分取り除いた。反応槽内を周速5m/sで攪拌させ、先程の硫酸塩の混合水溶液を10ml/minのスピードで滴下した。その間、湯浴を用いて温度を一定に保ち、1.2NのNa
2CO
3を断続的に滴下することでpHを一定に保った。滴下反応開始20時間後に周速を1.5m/sに落として滴下反応を継続し、さらに65時間反応を行い、その後、1時間攪拌を継続した。反応途中では濾液のみの排出で、スラリーの排出を行わないので最終的に濃度は1136g/lとなった。
【0077】
次に、吸引ろ過により共沈生成物を取り出し、空気雰囲気中、常圧下、オーブンで100℃にて乾燥させた。乾燥後、粒径を揃えるように、直径約120mmφの乳鉢で数分間粉砕し、炭酸塩前駆体を得た。
【0078】
無水炭酸リチウム粉末(Li
2CO
3)を、金属元素(Ni+Mn+Co)に対するLi量がモル比でLi/(Ni+Mn+Co)=1.40となるように秤量し、混合して混合粉体を得た。
【0079】
次に、混合粉体を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉に入れ空気雰囲気中、常圧下900℃で12h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、取り出し、乳鉢を用いて粒径を揃える程度に粉砕した。
【0080】
得られた活物質は、組成がLi
1.166Co
0.105Ni
0.166Mn
0.563O
2で、D50%が18.1μmであった。
【0081】
(プレス試験)
上記の様にして作製した正極活物質について、プレス試験に供した。
正極活物質のプレス試験はプレス試験機(理研機器社製 P−18)と試料挿入口が半径10.0mmの円形であるペレット成形機とを使用しておこなった。このプレス試験機は受圧面積28.74cm
2の平板プレスと油圧ジャッキとからなり、平板プレス直下に上記ペレット成形機を設置して油圧ジャッキで目標の圧力まで加圧する方式である。今回の試験では、ペレット成形機内に活物質6.0gを投入し、6.4kN/cm
2まで加圧することによりプレス試験を実施した。
【0082】
(粒度分布測定)
実施例及び比較例のそれぞれの正極活物質のプレス前後の粒度分布測定を、次の条件及び手順に沿って粒度分布測定を行った。測定装置には日機装社製Microtrac(型番:MT3000)を用いた。前記測定装置は、光学台、試料供給部及び制御ソフトを搭載したコンピューターを備えており、光学台にはレーザー光透過窓を有する湿式セルが設置される。測定原理は、測定対象試料が分散溶媒中に分散している分散液が循環している湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料からの散乱光分布を粒度分布に変換する方式である。前記分散液は試料供給部に蓄えられ、ポンプによって湿式セルに循環供給される。前記試料供給部は、常に超音波振動が加えられている。今回の測定では、分散溶媒として水を用いた。又、測定制御ソフトにはMicrotrac DHS for Win98(MT3000)を使用した。前記測定装置に設定入力する「物質情報」については、溶媒の「屈折率」として1.33を設定し、「透明度」として「透過(TRANSPARENT)」を選択し、「球形粒子」として「非球形」を選択した。試料の測定に先立ち、「Set Zero」操作を行う。「Set zero」操作は、粒子からの散乱光以外の外乱要素(ガラス、ガラス壁面の汚れ、ガラス凹凸など)が後の測定に与える影響を差し引くための操作であり、試料供給部に分散溶媒である水のみを入れ、湿式セルに分散溶媒である水のみが循環している状態でバックグラウンド操作を行い、バックグラウンドデータをコンピューターに記憶させる。続いて「Sample LD (Sample Loading)」操作を行う。Sample LD操作は、測定時に湿式セルに循環供給される分散液中の試料濃度を最適化するための操作であり、測定制御ソフトの指示に従って試料供給部に測定対象試料を手動で最適量に達するまで投入する操作である。続いて、「測定」ボタンを押すことで測定操作が行われる。前記測定操作を2回繰り返し、その平均値として測定結果がコンピューターから出力される。測定結果は、粒度分布ヒストグラム、並びに、D
10は、二次粒子の粒度分布における累積体積が10%となる粒度)として取得される。プレス前の正極活物質について測定されたD
10の値を「D
10a粒子径(μm)」として、プレス後の正極活物質について測定されたD
10の値を「D
10b粒子径(μm)」として、表1に示す。また、「D
10a粒子径(μm)」に対する「D
10b粒子径(μm)」の比率を算出し、「D
10b/D
10a」として表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
(アスペクト比の測定)
実施例及び比較例のそれぞれの正極活物質のアスペクト比(長径/短径)は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した幾つかの視野で、600個の粒子を任意に選び、長径と短径の測定を行い、その平均値を算出した。
実施例1、2、比較例1の正極活物質について、アスペクト比は、それぞれ、1.13、1.21、1.34であった。
【0085】
(非水電解質二次電池の作製)
実施例1、2及び比較例1のそれぞれのリチウム遷移金属複合酸化物を非水電解質二次電池用正極活物質として用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を作製し、電池特性を評価した。
【0086】
(角形リチウム二次電池の作製)
図1は、本実施例に用いた角形リチウム二次電池の概略断面図である。この角形リチウム二次電池1は、アルミ箔集電体に正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極板3と、銅箔集電体に負極活物質を含有する負極合剤層を有する負極板4とがセパレータ5を介して巻回された扁平巻状電極群2と、電解質塩を含有した非水電解質とを備える発電要素を幅34mm高さ50mm厚み5.2mmの電池ケース6に収納してなるものである。
上記電池ケース6には、安全弁8を設けた電池蓋7がレーザー溶接によって取り付けられ、負極板4は負極リード11を介して負極端子9と接続され、正極板3は正極リード10を介して電池蓋と接続されている。
【0087】
正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、質量比90:4:6の割合で混合した。この混合物を、分散媒としてN−メチルピロリドンを加えて混練分散し、塗布液を調製した。なお、PVdFについては、固形分が溶解分散された液を用いることによって、固形質量換算した。該塗布液を厚さ15μmのアルミニウム箔集電体の両面に塗布、乾燥した。正極塗布質量は10.5mg/cm
2であった。次に、ロールプレスすることによって正極板を作製した。
【0088】
一方、イオン交換水を分散媒とし、負極活物質としてのグラファイト、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)が質量比97:2:1の割合で混練分散されている負極ペーストを作製した。該負極ペーストを厚さ10μmの銅箔集電体の両方の面に塗布、乾燥した。負極塗布質量は14.0mg/cm
2であった。次に、ロールプレスすることによって負極板を作製した。
【0089】
電解液としては、EC/EMCの体積比が3:7である混合溶媒に、LiPF
6を、その濃度が1mol/lとなるように溶解させたものを用いた。
【0090】
セパレータには、厚さ20μmのポリエチレン微多孔膜(旭化成製H6022)を用いた。
【0091】
上記のようにして作製された角形非水電解質二次電池を、以下の試験に供した。
【0092】
(初期活性化工程)
25℃に設定した恒温槽に移し、2サイクルの初期充放電工程を実施した。充電は、電流0.1CmA、電位4.5Vの定電流定電圧充電とした。充電終止条件については、電流値が0.02CmAに減衰した時点とした。放電は、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。
【0093】
(電池の解体)
初期活性化工程後の各電池について、再度、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電を行った。その後、露点−40℃以下のドライルーム内でこれらの電池を解体して、正極板を取り出した。取り出した正極板は、ジメチルカーボネート(DMC)を用いて付着した電解質を十分に洗浄した後、減圧乾燥を行うことでDMCを除去した。
【0094】
(プレス試験)
上記の様にして、実施例1、2、及び、比較例1の電池から取り出したそれぞれの正極板について、前記扁平巻状電極群の中で正極板として最外周部に位置していた部分の中央部を1cm×1cmの大きさで3枚切り出した。これを正極活物質のプレス試験と同じプレス試験機及びペレット成形機を使用して、正極板のプレスを行った。プレス圧力は20、30、40kN/cm
2とし、各プレス圧力に対して、実施例1、2、及び、比較例1について切り出した正極板1枚ずつのプレスを実施した。
なお、前記正極板として最外周部に位置していた部分の中央部にダマ、皺、亀裂等の異形が存在する場合は、中央部近辺で異形が存在しない部分を切り出した。
【0095】
(正極板充填密度)
プレス後の実施例1、2、及び、比較例1の各正極板について重量と厚みを測定し、各プレス圧力に対する、それぞれの正極板の充填密度を算出した。その値を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
(プレス後正極板のSEM観察)
プレス後の正極板を液体窒素に15秒以上浸した後、極板の中央部を折り曲げることにより破断させたものを試料とし、それらの破断面の異なる2箇所の範囲についてSEM観察を行った。
SEM観察はまず、イオンスパッタ(日立サイエンスシステムズ社製 E−1010)を用いて15mA、4分間の条件でスパッタ処理を行うことで各試料にAu−Pd合金を蒸着させた。これを、走査形電子顕微鏡(日本電子社製 JSM−T200)の試料台にセットし、減圧条件下において、加速電圧15kV、500倍の倍率により正極断面のSEM観察を行った。
それぞれの正極板について全ての試料のSEM観察を行い、観察した2箇所の像の範囲内において、正極活物質について破砕された粒子と破砕されていない粒子とを数え、破砕された粒子の割合を算出した。この値を「破砕率」として表3に示す。
また、正極活物質を含有する電極を20、40kN/cm
2の各圧力で加圧プレスした場合における、正極活物質粒子の破砕率の差((40kN/cm
2加圧プレス時破砕率)−(20kN/cm
2加圧プレス時破砕率))を算出した。この値を「破砕率」とともに表3に示す。
【0098】
(充放電サイクル試験)
初期活性化工程に供したそれぞれの非水電解質二次電池について、次の手順に充放電サイクル試験を行った。電流1CmA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電を行った。充電終止条件については、電流値が0.02CmAに減衰した時点とした。30分の休止後、電流1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電を行った。上記充放電サイクルを1サイクルとし、これを200サイクル連続して実施した。このときの1サイクル目に対する200サイクル目の放電容量の比率を「放電容量維持率」として記録した。この「放電容量維持率」の値を1サイクル目及び200サイクル目の放電容量とともに、表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
表3からわかるように、放電容量維持率を比較すると、実施例1及び2に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池の方が、比較例1に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池よりも放電容量維持率が高く、充放電サイクル特性が優れている。これは、プレス後の破砕率が小さい実施例1及び2の正極活物質は、充放電に伴う粒子の膨張、収縮による体積変化に強く、充放電サイクルにより破砕される粒子が少ないためと考えられる。一方、プレス後の破砕率が大きい比較例1に係る正極活物質では、充放電サイクルにより破砕される粒子が多いため放電容量維持率が低下しやすいと考えられる。表3の結果から、プレス圧力40kN/cm
2により正極板をプレスした場合の破砕率が40%以下、プレス圧力30kN/cm
2により正極板をプレスした場合の破砕率が35%以下となるような正極活物質を用いることにより、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性を向上することができることがわかる。
また、正極活物質を含有する電極を20、40kN/cm
2の各圧力で加圧プレスした場合における破砕率の差についても、値が小さい正極活物質を用いることにより、電池の充放電サイクル特性が優れている。実施例1と2を比較すると、破砕率の差がより小さい実施例2の正極活物質からなる電池の方が、放電容量維持率が高い結果となっている。よって、この破砕率の差の値は充放電サイクルによる粒子の破砕されやすさを表す指標の一つと考えられる。表3の結果から、破砕率の差が10%以下となるような正極活物質を用いることにより、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性を向上することができることがわかる。さらに、充放電サイクル特性を特に優れたものとするためには、この値が8%以下が好ましいことがわかる。
表1及び表3から、破砕率と同様に、正極活物質のプレス前後の10%累積質量粒子径の比率(D
10b/D
10a)も、充放電サイクル特性に影響を与えている。即ち、D
10b/D
10aの値が1に近い、実施例1及び2の正極活物質では、プレスにより粒子が破砕されにくく、電池のサイクル特性が優れており、D
10b/D
10aの値が0.81の比較例1の正極活物質では、プレスにより粒子が破砕されやすく、電池のサイクル特性が劣っている。