(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱膨張性を有する素材で形成された筒状又は柱状のインナー芯材に対して、熱膨張性を有する素材で形成されてインナー芯材の外周面に倣った形状の内周面を有する筒状のアウター弾性材を外嵌固定することにより得られるボラードの製造方法であって、
−30〜50℃のいずれの温度においても、インナー芯材の外周部寸法がアウター弾性材の内周部寸法よりも大きくなるように、インナー芯材及びアウター弾性材をそれぞれ成形するインナー芯材成形工程及びアウター弾性材成形工程と、
アウター弾性材を加熱し、アウター弾性材の内周部寸法がインナー芯材の外周部寸法よりも大きくなるまでアウター弾性材を膨張させるアウター弾性材加熱工程と、
アウター弾性材加熱工程で加熱されて膨張したアウター弾性材の内部にインナー芯材を挿入するインナー芯材挿入工程と、
インナー芯材挿入工程でインナー芯材を挿入されたアウター弾性材を冷却して収縮させることにより、アウター弾性材をインナー芯材に固定するアウター弾性材冷却工程と
を経ることを特徴とするボラードの製造方法。
インナー芯材挿入工程において、ボラードにおける地中に埋設される部分までアウター弾性材が延在するように、アウター弾性材に対してインナー芯材を挿入する請求項1〜3いずれか記載のボラードの製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の進入を規制したり、その車両を誘導したりするためなどに、道路や広場などにボラードを設置することが行われている。古い時代のボラードは、その全体が金属や木などの硬い材料で形成されたものが多かった。しかし、近年のボラードは、ある程度硬い材料で形成された芯材(インナー芯材)に対して、クッション性を有するクッション材(アウター弾性材)を外嵌固定した構造のものが一般的となっている。この種のボラードは、万が一、それに車両や人などが衝突した場合であっても、車両や人が受ける衝撃を和らげることができるようになっている。この種のボラードにおいて、アウター弾性材をインナー芯材に固定する方法は様々である。
【0003】
例えば、特許文献1,2には、接着剤などを用いることにより、インナー芯材とアウター弾性材とを一体化させる方法が記載されている(特許文献1の請求項2,4及び特許文献2の段落0009,0010などを参照)。しかし、この方法では、インナー芯材の外周面やアウター弾性材の内周面に接着剤を塗布した状態でアウター弾性材の内部にインナー芯材を挿入しなければならず、難しい作業が要求される。加えて、ボラードを施工してから長期間が経過すると、アウター弾性材の内周面がインナー芯材の外周面から剥離するおそれがある。アウター弾性材の熱膨張率は、通常、インナー芯材の熱膨張率よりも大きくなっているが、この場合には、ボラードを設置した場所の温度が上昇すると、アウター弾性材がインナー芯材よりも大きく膨張するために、アウター弾性材の内周面とインナー芯材の外周面とが剥離しやすくなる。
【0004】
また、特許文献3には、インナー芯材とアウター弾性材とに共通なピンやボルトなどを挿通することにより、インナー芯材とアウター弾性材とを固定する方法が記載されている(同文献の段落0021などを参照)。しかし、この方法では、悪戯によって、ピンやボルトが外されて、アウター弾性材がインナー芯材から引き抜かれるおそれがあるし、ピンやボルトが挿通された箇所においては、ボラードのクッション性が犠牲になる。この点、特許文献4には、非接着状態のインナー芯材とアウター弾性材とをアンカーボルトによって一体化する方法も記載されているが(同文献の段落0025などを参照)、この場合には、アンカーボルトを留めるまではインナー芯材とアウター弾性材とを固定することができないし、アウター弾性材をインナー芯材に対して強固に固定することもできない。
【0005】
さらに、特許文献5〜7には、インナー芯材の外周部に対してアウター弾性材を射出成形することにより、インナー芯材とアウター弾性材とを一体化する方法が記載されている(特許文献5の請求項1、特許文献6の段落0040,0041及び特許文献7の段落0021などを参照)。しかし、この方法でも、上述した接着剤を使用した場合と同様、ボラードを施工してから長期間が経過すると、アウター弾性材の内周面がインナー芯材の外周面から剥離するおそれがある。このため、アウター弾性材がインナー芯材から抜けないようにするためには、インナー芯材の外周面に抜け止め用の突起を形成するか(特許文献5の段落0006及び特許文献6の段落0041などを参照)、抜け止め用のピンをインナー芯材及びアウター弾性材に挿通する必要があり(特許文献7の段落0018などを参照)、構造が複雑になってコスト高となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、アウター弾性材の内部にインナー芯材を容易に挿入することのできるボラードの製造方法を提供するものである。また、インナー芯材に対してアウター弾性材を強固に固定でき、ボラードを施工した場所の温度が大きく変化した場合においても、アウター弾性材の内周面がインナー芯材の外周面から剥離することのないボラードを製造することも本発明の目的である。さらに、地表に突出する部分にピンやボルトなどを使用することなく、その部分のクッション性を良好に保つことができるボラードを低コストで製造することも本発明の目的である。さらにまた、衝撃を受けて変形した場合であっても破損することなく元の状態に復帰することのできるボラードを製造することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、
熱膨張性を有する素材で形成された筒状又は柱状のインナー芯材に対して、熱膨張性を有する素材で形成されてインナー芯材の外周面に倣った形状の内周面を有する筒状のアウター弾性材を外嵌固定することにより得られるボラードの製造方法であって、
−30〜50℃のいずれの温度においても、インナー芯材の外周部寸法がアウター弾性材の内周部寸法よりも大きくなるように、インナー芯材及びアウター弾性材をそれぞれ成形するインナー芯材成形工程及びアウター弾性材成形工程と、
アウター弾性材を加熱し、アウター弾性材の内周部寸法がインナー芯材の外周部寸法よりも大きくなるまでアウター弾性材を膨張させるアウター弾性材加熱工程と、
アウター弾性材加熱工程で加熱されて膨張したアウター弾性材の内部にインナー芯材を挿入するインナー芯材挿入工程と、
インナー芯材挿入工程でインナー芯材を挿入されたアウター弾性材を冷却して収縮させることにより、アウター弾性材をインナー芯材に固定するアウター弾性材冷却工程と
を経ることを特徴とするボラードの製造方法
を提供することによって解決される。
【0009】
ここで、「インナー芯材の外周部寸法」とは、インナー芯材の外周面をインナー芯材の中心軸に垂直な平面で切断した場合に現れる断面形状(インナー芯材の外周部断面形状)の寸法のことを云う。これに対し、「アウター弾性材の内周部寸法」とは、アウター弾性材の内周面をアウター弾性材の中心軸に垂直な平面で切断した場合に現れる断面形状(アウター弾性材の内周部断面形状)の寸法のことを云う。また、「インナー芯材の外周部寸法がアウター弾性材の内周部寸法よりも大きい」とは、その状態のままでは(その状態からアウター弾性材を膨張させたり、インナー芯材を収縮させたりしない限りは)、アウター弾性材の内部にインナー芯材を挿入することができない状態にあることを云う。これに対し、「アウター弾性材の内周部寸法がインナー芯材の外周部寸法よりも大きい」とは、その状態のまま(その状態からアウター弾性材を膨張させたり、インナー芯材を収縮させたりしなくても)、アウター弾性材の内部にインナー芯材を挿入することができる状態にあることを云う。
【0010】
このように、ボラードが施工される場所の温度として想定される−30〜50℃においては、インナー芯材の外周部寸法がアウター弾性材の内周部寸法よりも大きくなるように、インナー芯材及びアウター弾性材をそれぞれ成形することにより、ボラードの施工後に、アウター弾性材がインナー芯材を弾性的に締め付けた状態を維持し続けることが可能になる。したがって、アウター弾性材がインナー芯材から抜けないように、インナー芯材に対してアウター弾性材を強固に固定することが可能になる。このとき、インナー芯材の外周面に抜け止め用の突起を形成したり、抜け止め用のピンをインナー芯材及びアウター弾性材に挿通したりする必要もないので、ボラードを低コストで製造することも可能になるし、ボラードのクッション性が犠牲になることもない。また、加熱して膨張した状態のアウター弾性材に対してインナー芯材を挿入し、その後、アウター弾性材を冷却して収縮させるようにしたことにより、アウター弾性材の内部にインナー芯材を容易に挿入しながらも、アウター弾性材をインナー芯材に対して強固に固定することも可能になる。
【0011】
本発明のボラードの製造方法において、アウター弾性材加熱工程におけるアウター弾性材の加熱温度(以下、「加熱温度T」と表記することがある。)は、アウター弾性材の内周部寸法がインナー芯材の外周部寸法よりも大きくなるのであれば特に限定されない。加熱温度Tは、アウター弾性材を形成する材料の線膨張係数や融点などによっても異なる。しかし、加熱温度Tを低くしすぎると、アウター弾性材加熱工程において、アウター弾性材の内周部寸法をインナー芯材の外周部寸法に対して十分に大きくすることができず、その後のインナー芯材挿入工程において、アウター弾性材の内部にインナー芯材を挿入しにくくなるおそれがある。このため、加熱温度Tは、60℃以上であると好ましい。加熱温度Tは、65℃以上であるとより好ましく、70℃以上であるとさらに好ましい。一方、加熱温度Tを高くしすぎると、アウター弾性材加熱工程において、アウター弾性材が融解するおそれがある。このため、加熱温度Tは、110℃以下とする好ましい。加熱温度Tは、100℃以下であると好ましく、90℃以下であるとより好ましい。後述するように、高温槽で加熱された加熱水にアウター弾性材を浸漬することによってアウター弾性材加熱工程を行う場合、加熱温度Tは、通常、100℃以下となる。
【0012】
また、本発明のボラードの製造方法において、インナー芯材は、必要な強度を有するのであれば、その材料は特に限定されない。インナー芯材の材料としては、樹脂や金属などが挙げられるが、インナー芯材の成形性や、ボラードが衝撃を受けた際の衝撃吸収性などを考慮すると、樹脂の方が好ましい。このとき、インナー芯材を形成する材料として、線膨張係数(熱膨張率)が小さすぎるものを選択してしまうと、インナー芯材の外周部寸法に対してアウター弾性材の内周部寸法がかなり小さくなるようにアウター弾性材を成形するか、アウター弾性材を形成する材料にも線膨張係数の小さなものを選択するかしなければならなくなり、アウター弾性材加熱工程やインナー芯材挿入工程を行いにくくなったり、アウター弾性材のクッション性を保てなくなったりするおそれがある。このため、インナー芯材を形成する材料の線膨張係数は、0.3×10
−4・℃
−1以上とすると好ましい。インナー芯材を形成する材料の線膨張係数は、0.5×10
−4・℃
−1以上であるとより好ましく、0.7×10
−4・℃
−1以上であるとさらに好ましい。
【0013】
一方、インナー芯材を形成する材料の線膨張係数に、特に上限はない。しかし、樹脂の線膨張係数は、多くの場合、3.0×10
−4・℃
−1以下である。インナー芯材を形成する材料の線膨張係数は、通常、2.5×10
−4・℃
−1以下とされ、2.0×10
−4・℃
−1以下であることが殆どである。線膨張係数が上記の範囲に属する樹脂としては、ポリエチレン(線膨張係数が約1.1×10
−4・℃
−1)や、ポリプロピレン(線膨張係数が約1.1×10
−4・℃
−1)や、ポリ塩化ビニル(線膨張係数が約0.7×10
−4・℃
−1)や、ポリウレタン(線膨張係数が1.0×10
−4〜2.0×10
−4・℃
−1)などが例示される。インナー芯材は、これらの樹脂のブレンド材によって成形することもできる。
【0014】
さらに、本発明のボラードの製造方法において、アウター弾性材は、必要なクッション性を有するのであれば、その材料は特に限定されず、発泡樹脂などを用いてもよいが、ゴムを用いると好ましい。このとき、アウター弾性材を形成する材料として、線膨張係数(熱膨張率)が大きすぎるものを選択してしまうと、インナー芯材の外周部寸法に対してアウター弾性材の内周部寸法がかなり小さくなるようにアウター弾性材を成形するか、インナー芯材を形成する材料にも線膨張係数の大きなものを選択するかしなければならなくなり、アウター弾性材加熱工程やインナー芯材挿入工程を行いにくくなったり、インナー芯材の強度を保てなくなったりするおそれがある。このため、アウター弾性材を形成する材料の線膨張係数は、5.0×10
−4・℃
−1以下とすると好ましい。アウター弾性材を形成する材料の線膨張係数は、4.5×10
−4・℃
−1以下であるとより好ましく、4.1×10
−4・℃
−1以下であるとさらに好ましい。
【0015】
一方、アウター弾性材を形成する材料の線膨張係数に、特に上限はない。しかし、ゴムの線膨張係数は、多くの場合、1.0×10
−4・℃
−1以上である。アウター弾性材を形成する材料の線膨張係数は、通常、1.5×10
−4・℃
−1以上とされ、1.8×10
−4・℃
−1以上とすると好ましく、2.0×10
−4・℃
−1以上とするとより好ましい。線膨張係数が上記の範囲に属するゴムとしては、天然ゴム(線膨張係数が2.2×10
−4〜2.3×10
−4・℃
−1)や、スチレンブタジエンゴム(線膨張係数が約2.3×10
−4・℃
−1)や、クロロプレンゴム(線膨張係数が約2.0×10
−4・℃
−1)や、エチレンプロピレンゴム(線膨張係数が2.3×10
−4〜2.4×10
−4・℃
−1)などが例示される。また、廃タイヤを主原料として製造されたタイヤ再生ゴム(線膨張係数が約4.0×10
−4・℃
−1)などの再生ゴムを用いることもできる。アウター弾性材は、これらのゴムのブレンド材によって成形することもできる。
【0016】
さらにまた、本発明のボラードの製造方法において、アウター弾性材は、施工後のボラードのインナー芯材における地面から突出する部分の少なくとも一部に設けていればよい。しかし、インナー芯材挿入工程において、施工後のボラードのインナー芯材における地中に埋設される部分までアウター弾性材が延在するように、アウター弾性材に対してインナー芯材を挿入すると好ましい。このように、施工後のボラードにおいて地面を跨るようにアウター弾性材を設けることにより、ボラードが車両や人などから衝撃を受けてその地面から上側の部分が傾くように変形した際に、アウター弾性材の有する弾性によってボラードを元の状態に復帰させやすくすることが可能になる。またその衝撃を受けた際に負荷が集中しやすい地面付近のボラードをアウター弾性材で補強することができるので、ボラードの破損を防止することも可能になる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によって、アウター弾性材の内部にインナー芯材を容易に挿入することのできるボラードの製造方法を提供することが可能になる。また、インナー芯材に対してアウター弾性材を強固に固定でき、ボラードを施工した場所の温度が大きく変化した場合においても、アウター弾性材の内周面がインナー芯材の外周面から剥離することのないボラードを製造することも可能になる。さらに、地表に突出する部分にピンやボルトなどを使用することなく、その部分のクッション性を良好に保つことができるボラードを低コストで製造することも可能になる。さらにまた、衝撃を受けて変形した場合であっても破損することなく元の状態に復帰することのできるボラードを製造することも可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.本発明のボラードの製造方法の概要
本発明のボラードの製造方法の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。本発明のボラードの製造方法では、熱膨張性を有する素材で形成された筒状又は柱状のインナー芯材に対して、熱膨張性を有する素材で形成されてインナー芯材の外周面に倣った形状の内周面を有する筒状のアウター弾性材を外嵌固定することにより得られるボラードを製造する。本発明のボラードの製造方法は、インナー芯材成形工程と、アウター弾性材成形工程と、アウター弾性材加熱工程と、インナー芯材挿入工程(アウター弾性材外嵌工程)と、アウター弾性材冷却工程とを経るものとなっている。以下、本発明のボラードの製造方法について各工程ごとに詳しく説明する。
【0020】
2.インナー芯材成形工程及びアウター弾性材成形工程
インナー芯材成形工程は、インナー芯材を筒状又は柱状に成形する工程であり、アウター弾性材成形工程は、アウター弾性材を筒状に成形する工程である。ところで、「筒状」という語句は、狭義では、円筒体のように、その内周面及び外周面の各点における全ての法線ベクトルがその中心軸に対して垂直となっている筒状の形態のことを云うが、ここでは、その内周面及び/又は外周面が円錐面などの錐面となっている筒状の形態をも含むものとする。同様に、「柱状」とは、円柱体のように、その外周面の各点における全ての法線ベクトルがその中心軸に対して垂直となっている柱状の形態のことを云うが、ここでは、その外周面が円錐面などの錐面となっている柱状の形態をも含むものとする。インナー芯材の外周面を錐面とした場合には、通常、アウター弾性材の内周面も錐面とされ、インナー芯材の外周面を円筒面とした場合には、通常、アウター弾性材の内周面も円筒面とされる。以下においては、インナー芯材及びアウター弾性材がいずれも円筒体である場合を例に挙げて説明する。したがって、上で定義した「インナー芯材の外周部寸法」及び「アウター弾性材の内周部寸法」という語句については、それぞれ「インナー芯材の外径」及び「アウター弾性材の内径」と読み替えて説明する。
【0021】
図1は、インナー芯材成形工程で成形されたインナー芯材20と、アウター弾性材成形工程で成形されたアウター弾性材30とを、それぞれの中心軸を含む平面で切断した状態を示した断面図である。
図1に示す円筒状のインナー芯材20は、樹脂などの材料を押出機や射出機などの成形機を用いて円筒体に成形することにより得られる。本実施態様においては、線膨張係数が1.8×10
−4・℃
−1の低密度ポリエチレン(再生ポリエチレン)を押出成形することにより、インナー芯材20を成形している。一方、
図1に示す円筒状のアウター弾性材30は、ゴムなどの材料をコンプレッション成形機やトランスファー成形機や射出機や押出機などの成形機を用いて円筒体に成形することにより得られる。本実施態様においては、線膨張係数が4.0×10
−4・℃
−1のゴム(タイヤ再生ゴム(天然ゴム/スチレンブタジエンゴム)を主原料とするゴムコンパウンド)をコンプレッション成形(圧縮成形)することにより、アウター弾性材30を成形している。
【0022】
インナー芯材20及びアウター弾性材30の各部寸法のうち、インナー芯材20の外径A
t(
図1)とアウター弾性材30の内径b
t(
図1)は、以下の条件を満たすように設定する。すなわち、−30〜50℃以下のいずれの温度においても、インナー芯材20の外径A
tがアウター弾性材30の内径b
tよりも大きくなるようにする。
より具体的には、インナー芯材20の温度tにおける外径をA
tとし、アウター弾性材30の温度tにおける内径をb
tとしたときに、−30℃≦t≦50℃の範囲における全ての温度tにおいて、下記式1の関係を満たすように設定する。
【数1】
インナー芯材20の0℃における外径をA
0とし、インナー芯材20の線膨張係数をαとし、アウター弾性材30の0℃における内径をb
0とし、アウター弾性材30の線膨張係数をβとすると、A
t及びb
tは、それぞれ下記式2,3で表わされる。
【数2】
【数3】
上記式2,3を上記式1に代入すると、上記式1は、下記式4で表わされる。
【数4】
【0023】
ここで、インナー芯材20の線膨張係数αがアウター弾性材30の線膨張係数βよりも大きい場合には、t=−30℃のときに上記式4を満たせば、−30℃≦t≦50℃のいずれの温度tにおいても上記式4は必ず満たされる。したがって、α>βの条件下では、t=−30℃のときに上記式4を満たせばよく、下記式5が導かれる。
【数5】
ただし、インナー芯材20やアウター弾性材30の寸法を測定するのは0℃のときではなく、通常、常温(例えば20℃)であるので、上記式5をインナー芯材20の20℃における外径A
20と、アウター弾性材30の20℃における内径b
20を用いて表しておく。すると、上記式5は、下記式6で表わされる。
【数6】
したがって、α>βの場合には、インナー芯材20の外径A
20(外径A
0)とアウター弾性材30の内径b
20(内径b
0)は、上記式6(上記式5)を満たすように設定すればよいことになる。
【0024】
これに対し、インナー芯材20の線膨張係数αがアウター弾性材30の線膨張係数βよりも小さい場合には、t=50℃のときに上記式4を満たせば、−30℃≦t≦50℃のいずれの温度tにおいても、上記式4は必ず満たされる。したがって、α<βの条件下では、t=50℃のときに上記式4を満たせばよく、下記式7が導かれる。
【数7】
上記式6と同様、上記式7を外径A
20と内径b
20を用いて表わすと、下記式8になる。
【数8】
したがって、α<βの場合には、インナー芯材20の外径A
20(外径A
0)とアウター弾性材30の内径b
20(内径b
0)は、上記式8(上記式7)を満たすように設定すればよいことになる。
【0025】
以下、インナー芯材20の外径A
20が75mmで、インナー芯材20の線膨張係数αが1.8×10
−4・℃
−1で、アウター弾性材30の線膨張係数βが4.0×10
−4・℃
−1である場合に、アウター弾性材30の内径b
20を設定する方法について具体的に説明する。この例では、α<βとなっているので、内径b
20を上記式8を満たすように設定すればよい。外径A
20、線膨張係数α及び線膨張係数βの値を上記式8に代入すると、下記式9の不等式が導かれる。
【数9】
したがって、アウター弾性材30の内径b
20は、上記式9を満たすように設定すればよい。本例では、安全を見て、内径b
20を上記式9の右辺の値よりも約1.2%小さな73.6mmに設定した(安全率を約1.2%とした。)。
【0026】
実際の外径A
0若しくは外径A
20、又は内径b
0若しくは内径b
20において、上記式4〜6から導かれた値(上限値)からの安全率をどの程度に設定するかは特に限定されない。しかし、この安全率を低くしすぎると、寸法や線膨張係数の僅かな誤差によって、アウター弾性材30がインナー芯材20から抜けやすくなるおそれがある。とくに、−30℃付近や50℃付近においてこの問題が生じやすくなる。このため、上記安全率は、通常、0.1%以上とされる。上記安全率は、0.5%以上であると好ましく、1%以上であるとより好ましい。一方、上記安全率を高くしすぎると、アウター弾性材加熱工程やインナー芯材挿入工程を行いにくくなるおそれがある。このため、上記安全率は、通常、5%以下とされる。上記安全率は、4%以下であると好ましく、3%以下であるとより好ましい。
【0027】
ところで、インナー芯材20やアウター弾性材30の各部寸法を具体的にどの程度に設定するかは、インナー芯材20の外径やアウター弾性材30の内径が上記式5〜8のいずれかを満たすこと以外は、特に限定されない。ただし、インナー芯材20の外径A
tが小さすぎると、インナー芯材20の強度が保てなくなるおそれがある。このため、インナー芯材20の外径A
t(常温である20℃におけるインナー芯材20の外径A
20のこと。以下の各種寸法の説明においても、特に温度を指定していない場合は、常温である20℃の値を意味している。)は、通常、20mm以上とされる。外径A
tは、50mm以上であると好ましく、70mm以上であるとより好ましい。一方、外径A
tが大きすぎると、ボラード10が太くなりすぎるおそれがある。このため、外径A
tは、通常、200mm以下とされる。外径A
tは、150mm以下であると好ましく、100mmであるとより好ましい。本例において、外径A
tは、上述したように75mmとしている。インナー芯材20を柱状ではなく筒状のものとする場合には、インナー芯材20の周壁の肉厚は、通常、1〜20mm程度、好ましくは、3〜10mm程度とされる。本例においては、インナー芯材20の内径を65mmに設定しており、インナー芯材20の周壁の肉厚は5mmとなっている。
【0028】
インナー芯材20の中心軸に沿った長さも、特に限定されないが、通常、50〜120cm、好ましくは、70〜100cm程度とされ、このうち、10〜30%が地中に埋設されるようにする。本例において、インナー芯材20の中心軸に長さは、94cmとなっており、その下側約20cm程度が地中に埋設されるようになっている。
【0029】
また、アウター弾性材30の周壁の肉厚は、アウター弾性材30を形成する素材のクッション性などを考慮して適宜決定され、特に限定されない。しかし、アウター弾性材30の周壁が薄すぎると、アウター弾性材30にクッション性を付与しにくくなる。また、アウター弾性材30の周壁がある程度厚い方が、本発明の構成を採用する意義も深まる。このため、アウター弾性材30の周壁の肉厚は、通常、5mm以上とされる。アウター弾性材30の周壁の肉厚は、10mm以上であると好ましく、15mm以上であるとより好ましい。一方、アウター弾性材30の周壁を厚くしすぎると、後述するアウター弾性材加熱工程において、アウター弾性材30を均一に膨張させるためには、アウター弾性材30の加熱時間を長くしなければなくなり、ボラード10の生産効率が低下するおそれがある。このため、アウター弾性材30の周壁の肉厚は、通常、70mm以下、好ましくは、50mm以下、より好ましくは、30mm以下とされる。本例において、アウター弾性材30の外径は、114mmとなっており、アウター弾性材30の周壁の肉厚は、20.2mm(=(114mm−73.6mm)/2)となっている。
【0030】
アウター弾性材30の中心軸に沿った長さも、特に限定されないが、通常、30〜120cmとされ、好ましくは、50〜110cm、より好ましくは、70〜100cmとされる。アウター弾性材30は、
図5に示すように、ボラード10における地面から突出する部分11のみに設けてもよいが、
図6に示すように、ボラード10における地中に埋設される部分まで延在させることも好ましい。
図6は、別の態様のボラード10を地面100に施工した状態を、その中心軸を含む平面で切断して示した断面図である。これにより、衝撃を受けて変形したボラード10が初期形態に復帰しやすくするとともに、ボラード10の破損を防止することも可能になる。この場合、ボラード10における地中に埋設される部分11の長さ(L
0とする。)に対するアウター弾性材30における地中に埋設される部分の長さ(L
1とする。)の比(L
1/L
0)は、特に限定されないが、通常、0.2以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上とされる。
図6の例において、この比(L
1/L
0)は1となっている(ボラード10における地中に埋設される部分12の全ての区間にアウター弾性材30が延在するようにしている。)。
【0031】
3.アウター弾性材加熱工程
インナー芯材成形工程及びアウター弾性材成形工程を終えると、続いて、アウター弾性材加熱工程を行う。
図2は、アウター弾性材加熱工程を行っているときのインナー芯材20とアウター弾性材30とを、それぞれの中心軸を含む平面で切断した状態を示した断面図である。アウター弾性材加熱工程では、アウター弾性材30を加熱し、
図2に示すように、アウター弾性材30の内径b
tがインナー芯材20の外径A
tよりも大きくなるまでアウター弾性材30を膨張させる。
図2における内径b
tは、アウター弾性材30が加熱温度Tで加熱されているときの内径(すなわち内径b
T)であり、
図2における外径A
tは、インナー芯材20が後述する挿入温度T’(インナー芯材挿入工程におけるインナー芯材20の温度のこと。T’<Tの関係を満たす。)にあるときの外径(すなわち外径A
T’)である。
【0032】
アウター弾性材加熱工程において、アウター弾性材30を加熱する方法は、特に限定されない。しかし、アウター弾性材30の加熱むらを小さくしたり、ボラード10を量産に適したものとしたり、処理コストを抑えたりすることなどを考慮すると、高温槽で加熱された加熱水にアウター弾性材30を浸漬することにより、アウター弾性30を加熱する方法が好ましい。この場合には、加熱温度Tが、水の沸騰温度である100℃以下となるために、アウター弾性材30が加熱されすぎて融解するなどの不具合も必然的に防ぐことも可能になる。加熱温度Tの下限値は、既に述べた通り、50℃よりも高ければ特に限定されないが、重要なのは、アウター弾性材30の加熱温度Tにおける内径b
Tが、挿入温度T’におけるインナー芯材20の外径A
T’よりも大きくなることである。
【0033】
この条件は、外径A
0、線膨張係数α、内径b
0、線膨張係数β、加熱温度T及び挿入温度T’を用いて、下記式10で表わされる。
【数10】
また、この条件は、外径A
0及び内径b
0の代わりに外径A
20及び内径b
20を用いると、下記式11で表わされる。
【数11】
【0034】
本例の場合において、挿入温度T’を常温である20℃とし、加熱温度Tを70℃とすれば、アウター弾性材30の加熱温度T(70℃)における内径b
Tは、約75.1mmとなり、インナー芯材20の挿入温度T’(20℃)における外径A
T’の75mmよりも大きくなる。このため、加熱温度Tは、70℃以上であればよいが、内径b
Tは、外径A
T’よりもある程度大きくしておいた方が、続くインナー芯材挿入工程が容易となる。このため、加熱温度Tは、70℃よりも高くすると好ましい。加熱温度Tが80℃、90℃、100℃であるときの内径b
Tは、それぞれ、約75.4mm、約75.6mm、約75.9mmであり、いずれもインナー芯材20の外径A
T’の75mmよりも大きくなる。
【0035】
アウター弾性材加熱工程において、アウター弾性材30を加熱する時間(加熱時間)は、アウター弾性材30を所望の寸法まで膨張させることができるのであれば特に限定されない。アウター弾性材30の加熱時間は、その加熱方法によっても異なるが、上記のように、高温槽に浸漬することによりアウター弾性材30を加熱する場合、アウター弾性材30が所望の寸法まで膨張するまでにはある程度時間を要する。このため、アウター弾性材30の加熱時間は、通常、10分以上とされる。アウター弾性材30の加熱時間は、30分以上であると好ましく、1時間以上であるとより好ましい。一方、アウター弾性材30の加熱時間を長くしすぎても、ボラード10の生産効率が悪くなるだけであまりメリットはない。このため、アウター弾性材30の加熱時間は、通常、3時間以下とされる。アウター弾性材30の加熱時間は、2時間以上であると好ましい。
【0036】
4.インナー芯材挿入工程(アウター弾性材外嵌工程)
アウター弾性材加熱工程を終えると、続いて、インナー芯材挿入工程(アウター弾性材外嵌工程)を行う。
図3は、インナー芯材挿入工程を行っているときのインナー芯材20とアウター弾性材20とを、それぞれの中心軸を含む平面で切断した状態を示した断面図である。
図4は、インナー芯材挿入工程を行った直後のインナー芯材20とアウター弾性材30とを、それぞれの中心軸を含む平面で切断した状態を示した断面図である。
図3及び
図4における内径b
tは、アウター弾性材30が加熱温度Tで加熱されているときの内径(すなわち内径b
T)であり、
図3及び
図4における外径A
tは、インナー芯材20が挿入温度T’にあるときの外径(すなわち外径A
T’)である。
【0037】
インナー芯材挿入工程では、
図3及び
図4に示すように、アウター弾性材加熱工程で加熱されて膨張したアウター弾性材30の中空部31にインナー芯材20を挿入することにより行われる。換言すると、アウター弾性材加熱工程で加熱されて膨張したアウター弾性材30をインナー芯材20に対して外嵌することにより行われる。このとき、アウター弾性材30の内径b
tは、インナー芯材20の外径A
tよりも大きくなっており、インナー芯材20の外周面とアウター弾性材30の内周面との間には隙間Gが形成されているため、アウター弾性材30に対してインナー芯材20を容易に挿入することができる。インナー芯材挿入工程は、通常、高温槽から取り出したアウター弾性材30に対してインナー芯材20を挿入することによって行うが、高温槽に浸漬された状態のアウター弾性30に対してインナー芯材20を挿入することによって行ってもよい。重要なのは、アウター弾性材30の内径b
tがインナー芯材20の外径A
tよりも小さくなる前に、インナー芯材20の挿入を終えることである。
【0038】
5.アウター弾性材冷却工程
インナー芯材挿入工程を終えると、続いて、アウター弾性材冷却工程を行う。
図5は、アウター弾性材冷却工程を行っているときのインナー芯材20とアウター弾性材30とを、それぞれの中心軸を含む平面で切断した状態を示した断面図である。アウター弾性材冷却工程は、インナー芯材20に対して外嵌されたアウター弾性材30を冷却し、
図5に示すように、アウター弾性材30を収縮させることにより、アウター弾性材をインナー芯材に固定する工程となっている。アウター弾性材冷却工程は、アウター弾性材30を積極的に冷却することによって行ってもよいが、本例においては、アウター弾性材30を自然冷却(常温まで自然に冷却)することによって行っている。これにより、省エネルギー化が可能となる。アウター弾性材30が常温まで冷却されると、アウター弾性材30の内周面32は、インナー芯材20の外周面22を締め付けた状態となっており、アウター弾性材30は、インナー芯材20から容易に引き抜くことができないようになっている。これは、ー30℃≦t≦50℃の範囲で温度tが変化しても同じである。アウター弾性材冷却工程が終了すると、本発明のボラードの製造方法は完了する。
【0039】
6.ボラードの施工方法
本発明の製造方法で製造されたボラード10は、
図6に示すように、地面100に対して立設固定される。ボラード10は、ボルトなどで地面100のアスファルトや、地面100に固定された金具などに対して固定するようにしてもよいが、本例においては、地面100に穴を掘り、該穴にボラード10の下部を挿入してコンクリート110を流し込むことにより、ボラード10を地面100に対して固定している。ボラード10の下部には、螺子棒41と一対のナット42とからなるアンカーボルト40を挿通しており、ボラード10とコンクリート110との一体性を高めている。このとき、アンカーボルト40の螺子棒41を、インナー芯材20とアウター弾性材30とに挿通することにより、インナー芯材20とアウター弾性材30の一体性を高めることも可能である。