特許第5959983号(P5959983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959983
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】絶縁性熱伝導フィラー分散組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20160719BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20160719BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20160719BHJP
   H05K 1/05 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C08L79/08 A
   C08K9/02
   H05K1/03 610N
   H05K1/03 610R
   H05K1/05 A
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-174334(P2012-174334)
(22)【出願日】2012年8月6日
(65)【公開番号】特開2014-31484(P2014-31484A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南部 敬
(72)【発明者】
【氏名】山口 健一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 真士
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−273592(JP,A)
【文献】 特開2010−137571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸と絶縁性熱伝導フィラーと溶媒とを含有する絶縁性熱伝導フィラー分散組成物であって、
前記ポリアミド酸は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、ジアミノジフェニルエーテルとを反応して得られるものであり、
前記絶縁性熱伝導フィラーは、窒化アルミニウム又は酸化アルミニウムで表面を被覆した窒化アルミニウムからなり、比表面積が1.5〜5m/gであり、
前記絶縁性熱伝導フィラーの含有量は、35〜70体積%であり、かつ、
前記絶縁性熱伝導フィラーは、体積平均粒子径が1〜8μm、d10が0.5μm以上及びd90が15μm以下となるように均一分散されている
ことを特徴とする絶縁性熱伝導フィラー分散組成物。
【請求項2】
絶縁性熱伝導フィラーは、Si−Al−O−N層が表面に形成された窒化アルミニウム、又は、有機ケイ素系カップリング剤或いはチタネート系及びアルミネート系カップリング剤で表面処理された窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項1記載の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物。
【請求項3】
溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、ヘキサメチルホスホアミド及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンからなる群より選択される少なくとも1種の有機極性溶媒であることを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物。
【請求項4】
絶縁性熱伝導フィラーの含有量が、35〜60体積%であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物。
【請求項5】
回転粘度計を用いて、25℃で測定した粘度が、0.5〜35Pa・sであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を塗布した後、加熱処理する工程を有することを特徴とする絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性と絶縁性とを両立させることが可能な絶縁性熱伝導フィラー分散組成物に関する。また、該絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を用いて、高い絶縁破壊電圧を得ることができる絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物の製造方法、絶縁フィルム、金属放熱板及び金属ベース回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力変換装置に求められる出力エネルギーは増大しており、電気エネルギーを変換・制御する際のエネルギーロスの低減が今後の重要課題となっている。
汎用ユニットやインバーターはもとより、環境対策車として普及が進んでいるハイブリッド自動車や次世代環境対策である電気自動車、燃料電池等には、インバーター回路基板が多く使用されている。また、液晶分野や照明分野等の様々な分野において、ハイパワーLED基板等の使用が検討されている。
【0003】
高密度実装に伴って、これらの用途において使用される回路基板では、素子より発生する熱の放熱性を高めるために高い熱伝導性を有することや、高電圧に対する電気絶縁特性に優れるものが必要とされている。
そのため、電子工業分野において普及している金属ベースプリント基板用途として、高温条件下でも安定した物性を有するポリイミドに、高熱伝導フィラーを分散させた高熱伝導材料を使用することが試みられている。
【0004】
しかしながら、このような高熱伝導材料であっても、近年必要とされる伝導特性のレベル(熱伝導率:1.0W/(m・k)、ポリイミドでの熱拡散率換算:4×10−7(m/S))を得ようとすると、高熱伝導フィラーを35体積%以上添加することが必要となっていた。その結果、このような高熱伝導材料を用いて得られる製品の強度低下や、絶縁性の低下を招いていた。また、シートとして使用する場合はもちろん、回路基板として使用する場合にも回路形成時の荷重やひずみに加えて、実使用時の駆動電圧による絶縁破壊により、樹脂材料が破壊される等の問題が生じていた。
【0005】
これに対して、熱伝導性と絶縁性とを両立させるための材料が検討されており、例えば、特許文献1には、パワートランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET等の発熱性部品の放熱フィンや、放熱板に張り付ける絶縁性放熱シートとして、絶縁性があり耐熱性柔軟性が高いシリコーンゴムに高熱伝導素材を混入した硬化物を用いているが、このような材料を200℃以上の高温条件下で使用すると、高熱伝導素材中の不純物の影響によりシリコーンゴムが劣化し、経時で絶縁特性が損なわれるという欠点がある。
【0006】
また、特許文献2には、1.0μm以下の窒化ホウ素フィラーを60重量%以上含有することで、熱伝導性に優れたポリイミド組成物を得ることが記載されている。また、分散性やフィラーの結晶性の問題を解決するため、窒化ホウ素フィラーとして、比表面積が2〜50m/gであるものを用いることが記載されている。
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、成形時のイミド化反応による体積変化や運用時のひずみ緩和効果が少ないために、フィラー樹脂間の界面剥離による耐電圧物性や強度の低下が問題となる。
更に、特許文献2に記載のフィラーを用いた場合は、充分な熱伝導経路と物理的に安定した界面を確保することができず、必要とされる熱伝導性のレベルを得るには、多量のフィラーを添加する必要があった。その結果、フィラーと樹脂間の界面が増加し、界面剥離が発生する確率が大きくなるため、充分な電気絶縁性を実現できないという問題がある。
【0007】
特許文献3には、接着強度と熱伝導率とを両立させた材料として、フィラーを含有する接着剤組成物が記載されており、フィラーの例として窒化アルミを含むものを用いることが記載されている。
しかしながら、特許文献3に記載されているエポキシ樹脂やアクリリル樹脂では、200℃以上の高温条件下での耐久性に問題があり、一般的なポリイミドではポリイミド樹脂とフィラー界面が不安定となる為に電気絶縁性が低下する問題がある。
【0008】
特許文献4には、様々なポリイミド樹脂に熱伝導フィラーを分散した熱伝導ポリイミドフィルム材料が記載されており、実施例中には、絶縁耐力として197kV/mmを超える絶縁性が実現できたことが記載されている。
しかしながら、特許文献4の構成でも、必要とされる熱伝導性や充分な電気絶縁性が得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平7−7605号公報
【特許文献2】特開平10−87990号公報
【特許文献3】特開2003−206469号公報
【特許文献4】特開2006−169534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、熱伝導性と絶縁性とを両立させることが可能な絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を提供することにある。また、該絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を用いて、高い絶縁破壊電圧を得ることができる絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物の製造方法、絶縁フィルム、金属放熱板及び金属ベース回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリアミド酸と絶縁性熱伝導フィラーと溶媒とを含有する絶縁性熱伝導フィラー分散組成物であって、前記ポリアミド酸は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、ジアミノジフェニルエーテルとを反応して得られるものであり、前記絶縁性熱伝導フィラーは、窒化アルミニウム又は酸化アルミニウムで表面を被覆した窒化アルミニウムからなり、比表面積が1.5〜5m/gであり、前記絶縁性熱伝導フィラーの含有量は、35〜70体積%であり、かつ、前記絶縁性熱伝導フィラーは、体積平均粒子径が1〜8μm、d10が0.5μm以上及びd90が15μm以下となるように均一分散されている絶縁性熱伝導フィラー分散組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を構成するマトリックスとしてのポリイミド樹脂として、特定のポリアミド酸を用い、かつ、特定形状の絶縁性熱伝導フィラーを用いることで、マトリックス−フィラー間の界面剥離を抑制することができ、その結果、高い熱伝導性と十分な電気絶縁性とを同時に実現可能な絶縁性熱伝導フィラー分散組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、ジアミノジフェニルエーテルとを反応して得られるポリアミド酸を含有する。
上記ポリアミド酸によって得られるポリイミド樹脂は、非熱可塑性であるため、高温での使用における物性変化が少ない。また、ポリアミド酸のイミド化反応時における脱水縮合時の体積変化が少なく、結晶性でありながら分子構造中に柔軟な結合を持つことにより、イミド化反応を伴う成形時の収縮応力も小さい。
これらの特性を有することにより、成形時の応力を分子構造中の柔軟な結合により吸収することが可能となり、樹脂−フィラー間の界面に作用するひずみが小さくなることから、界面剥離を抑制し、優れた耐電圧物性(電気絶縁性)を実現できるものと考えられる。
【0014】
上記ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA)、さらには、前記を2種以上ブレンドしたビフェニルテトラカルボン酸二無水物等を用いることができる。
【0015】
上記ジアミノジフェニルエーテルとしては、具体的には例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられる。
これらジアミノジフェニルエーテルは、エーテル結合で2つのフェニレン環を結んでいる為に一定分子量に対するイミド化の際の脱水反応による体積減少が少ないため、樹脂−フィラー間の界面に作用するひずみが小さく界面剥離が起こりにくく、高い耐電圧特性を実現することができる。
また、分子中にあるエーテル結合によりひずみを柔軟に吸収することができるため、樹脂−フィラー間の界面剥離を効果的に抑制することができる。
【0016】
上記反応における上記ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルとの配合比は、略等モル量であればよい。ここで「略等モル」とは、具体的には、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の1モルあたり、ジアミノジフェニルエーテルを0.8〜1.2モル用いることをいう。好ましくは0.9〜1.1モル、より好ましくは0.99〜1.01モル用いる。
【0017】
上記ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルとの反応としては、重縮合反応等が挙げられる。
上記重縮合反応としては、公知の方法を採用することができ、例えば、ジアミノジフェニルエーテルを含む溶液に、室温(15〜30℃程度)でビフェニルテトラカルボン酸二無水物を添加しアミド化させてポリアミド酸溶液を調製する方法が挙げられる。
【0018】
上記ポリイミド樹脂は、特に、有機極性溶媒中で、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、ジアミノジフェニルエーテルとを反応して得られるものであることが好ましい。
【0019】
上記有機極性溶媒としては、非プロトン系有機極性溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ。)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、ヘキサメチルホスホアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、NMPが好ましい。
【0020】
上記ポリアミド酸の重量平均分子量は、3000〜30000であることが好ましい。
上記重量平均分子量が3000未満であると、オリゴマー状態の分子は内部分子との絡み合い効果がなく、結果的に熱伝導性ポリイミド組成物の表面に脆弱層を形成してしまうことになる。上記重量平均分子量が30000を超えると、分子鎖の絡み合いが多く高粘度となる結果、フィラー分散可能な粘度に調整する際に多量の溶剤が必要となり、成形コストが増大することがある。より好ましくは6000〜25000である。
なお、上記ポリアミド酸の重量平均分子量の調整は、公知の方法で行うことができる。
また、上記重量平均分子量はGPC法(溶媒:NMP、ポリエチレンオキサイド換算)により測定することができる。
【0021】
本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物は、所定の絶縁性熱伝導フィラーを含有する。
このような絶縁性熱伝導フィラーを用いることで、ポリイミド樹脂と絶縁性熱伝導フィラー間の物理的な相互作用(アンカー効果)が大きくなり、イミド化反応時の成形収縮ひずみや、使用時の曲げ・圧縮ひずみに対して界面剥離を抑制することができる。その結果、優れた熱伝導性と絶縁特性とを兼ね備えた絶縁性熱伝導フィラー分散組成物が得られると推測される。
【0022】
上記絶縁性熱伝導フィラーは、窒化アルミニウム又は酸化アルミニウムで表面を被覆した窒化アルミニウムからなる。
上記窒化アルミニウムからなる絶縁性熱伝導フィラーの市販品としては、例えば、シェイパル(TOKUYAMA社製)、TOYALNITE(東洋アルミニウム社製)等が挙げられる。
【0023】
上記酸化アルミニウムで表面を被覆した窒化アルミニウムとしては、シェイパル(TOKUYAMA社製)のHグレードやFグレードが挙げられる。
なお、上記酸化アルミニウムの市販品としては、例えば、新日鉄マテリアルズ社製、マイクロン社製、電気化学工業社製のもの等を用いることができる。
【0024】
上記絶縁性熱伝導フィラーは、Si−Al−O−N層が表面に形成された窒化アルミニウム、又は、有機ケイ素系カップリング剤或いはチタネート系及びアルミネート系カップリング剤で表面処理された窒化アルミニウムであることが好ましい。
【0025】
上記Si−Al−O−N層が表面に形成された窒化アルミニウムとしては、例えば、TOYALNITEスーパーFLシリーズ(東洋アルミニウム社製)等が挙げられる。
【0026】
上記有機ケイ素系カップリング剤或いはチタネート系及びアルミネート系カップリング剤で表面処理された窒化アルミニウムは、例えば、アミノシラン系カップリング剤(商品名:KBM503やKBE903等、信越化学社製)、アルミネート系カップリング剤(商品名:プレンアクト、味の素ファインテクノ社製)、チタネート系カップリング剤を用いて、既知の方法で表面を処理することにより得られる。
【0027】
上記絶縁性熱伝導フィラーの比表面積は、1.5〜5m/gである。
上記比表面積が1.5m/g未満であると、絶縁破壊電圧が低下する現象が確認されるが、これはフィラーとポリイミド界面の物理的な相互作用が弱いため、イミド化の過程においてフィラーの沈降とイミド化反応の収縮による残留応力によりフィラーとポリイミド界面に微細な空隙が発生するためであると考えられる。
一方、上記比表面積が5m/gを超えても、絶縁破壊電圧が低下する現象が確認されており、これはフィラー表面の凹凸が微細で多量なために、絶縁性熱伝導フィラー分散組成物中においてフィラー界面とポリアミド酸溶液間の十分な濡れが得られず、結果としてイミド化後の絶縁樹脂においてフィラーとイミド界面に空隙が多く発生するためであると考えられる。
上記絶縁性熱伝導フィラーの比表面積は、2〜4.5m/gであることが好ましい。このような範囲とすることで、イミド化の過程において、フィラーとイミド界面がアンカー効果のような物理的相互作用により強固な連続層となるとともに、沈降によるフィラーの偏在も少なくなるため、より効率的な伝熱ネットワークを形成することができる。
なお、上記比表面積は、BET法による比表面積測定原理によって測定することができる。測定装置としては、例えば、SA3100(ベックマンコールター社製)や、フローソーブ(島津製作所社製)等が挙げられる。
【0028】
上記絶縁性熱伝導フィラーは、体積平均粒子径が1〜8μmであることが好ましい。
上記体積平均粒子径が1μm未満であると、絶縁破壊電圧が低下するとともに、絶縁性熱伝導フィラーによる伝熱ネットワークを構成することが困難となるため、充分な熱伝導特性を得ることが困難となることがある。
上記体積平均粒子径が8μmを超えると、ポリアミド酸中での沈降が激しく、厚み方向にフィラーの偏在が発生する為に絶縁破壊電圧が低下するとともに、イミド化反応後のポリイミドフィルムにおいては自由表面の凹凸が激しく放熱相手材との接触抵抗が大きくなり、上記ポリアミド酸の熱伝導特性を充分に生かすことが困難となることがある。
なお、上記体積平均粒子径は、市販の粒度分布測定装置(日機装社製、ナノトラックUPAシリーズ、MP3000IIシリーズ等)によって測定することができる。
【0029】
上記体積平均粒子径と比表面積との関係は、下記式(1)の関係を満たす場合に完全な球形に近い形状となるため、等方的な熱伝導方向の材料を得るため、下記式(1)の関係式に近い熱伝導フィラーを選択することが好ましい。
なお、式(1)中、Svは比表面積(m/g)、Dは直径(m)、ρは密度(g/m)を表す。
Sv = 6/(D・ρ) (1)
【0030】
本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物における上記絶縁性熱伝導フィラーの含有量は、35〜70体積%である。
上記含有量が35体積%未満であると、放熱材料として求められる熱伝導性が得られず、70体積%を超えると、充分な絶縁性が得られず絶縁破壊電圧が低下する。
好ましくは35〜65体積%であり、より好ましくは35〜60体積%である。
なお、上記含有量は、熱伝導性がフィラー間の伝熱ネットワークにより得られることから、体積分率により規定する。
【0031】
本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物では、上記絶縁性熱伝導フィラーが、体積平均粒子径が1〜8μm、d10が0.5μm以上及びd90が15μm以下となるように均一分散されている。これにより、中心粒径が規定範囲内でも分布範囲に規定を大きく外れる範囲の絶縁性熱伝導フィラーが存在することにより生じる問題を解消することができ、絶縁性と高熱伝導性を両立した絶縁性熱伝導フィラー分散組成物となる。
【0032】
上記絶縁性熱伝導フィラーは、体積平均粒子径が1〜8μmで均一分散されており、このような体積平均粒子径で均一分散されていることで、フィラーがマトリクス中で均等に分散されるとともに熱伝導ネットワークを形成することができる為、絶縁性と熱伝導性を兼ね備えた絶縁・高熱伝導フィルムをとなる。
上記体積平均粒子径が1μm未満であると、絶縁破壊電圧が低下するとともに、絶縁性熱伝導フィラーによる伝熱ネットワークを構成することが困難となり、充分な熱伝導特性を得ることが困難となるとともに、フィラーとマトリクス間に空隙が発生するため絶縁性も低下する。
上記体積平均粒子径が8μmを超える場合にも絶縁破壊電圧が低下するとともに、自由表面の凹凸が激しく放熱相手材との接触抵抗が大きくなり、上記ポリアミド酸の熱伝導特性を充分に生かすことが困難となる。
また、2〜7μmで均一分散されていることが好ましい。
なお、上記体積平均粒子径は、市販の粒度分布測定装置(日機装社製、ナノトラックUPAシリーズ、MP3000IIシリーズ等)によって測定することができる。
【0033】
上記絶縁性熱伝導フィラーは、粒度分布において10体積%の粒子径であるd10が0.5μm以上であり、かつ、90体積%の粒子径であるd90が15μm以下である。
上記d10が0.5μm未満であると、絶縁破壊電圧のバラツキが大きくなるため安定した絶縁材料を得ることが難しくなる。
また、上記d90が15μmを超えると、絶縁破壊電圧が低下する。
上記d10は、0.5〜1μmであることが好ましい。また、上記d90は、12〜15μmであることが好ましい。
なお、上記d10及びd90は体積平均粒子径と同様に市販の粒度分布測定装置(日機装社製、ナノトラックUPAシリーズ及びMP3000IIシリーズ等)によって測定することができる。
【0034】
本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物は、回転粘度計を用いて、25℃で測定した粘度が、0.5〜35Pa・sであることが好ましい。なお、上記粘度は、例えば、TVE−33Hにおいて 3°×R9.7コーンローター(東機産業株式会社製)を用いて測定することができる。
上記粘度が0.5Pa・s未満であると、塗布後の加熱処理の過程でフィラーが沈降する事で厚み方向の熱伝導ネットワークが部分的に形成されず熱伝導性が損なわれたり、沈降部分でのフィラー密度が高まることで、ポリイミド樹脂とフィラー間の微細な空隙の発生確率が高くなり、絶縁性が低下したりすることがある。
また、上記粘度が35Pa・sを超えると、流動性が著しく低下するために塗布による薄膜成形が困難になり、膜厚バラツキが大きくなることで材料全体での熱伝導性及び耐電圧性にバラツキが生じる場合や、成形時のせん断によりポリイミド樹脂とフィラー間に生じる微細な空隙が増加する事により絶縁性が低下することがある。
【0035】
本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を製造する方法としては例えば、上記ポリアミド酸と絶縁性熱伝導フィラーと溶媒とをボールミルやジェットミル、ビーズミルやメディアレス分散等を用いて混合する方法等が挙げられる。なかでもメディアレス分散を用いた方法が好ましい。
特に、上述した体積平均粒子径、d10、d90の範囲で均一分散するため、メディアの衝突エネルギーにより絶縁性熱伝導フィラーを破砕するのではなく、せん断力により凝集体を解離させるような条件又は方法を用いることが好ましい。
具体的には、30〜300μmのスリットに対してフィラー分散液を20〜200MPaの高圧で通過する際の圧縮・せん断・乱流による効果により分散する方法が好ましい。
【0036】
本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を塗布した後、加熱処理する工程を行うことでポリアミド酸がイミド化され、絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物が得られる。このようにして得られる絶縁フィルムもまた本発明の1つである。
上記絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を金属板やガラス板上へ塗布した後、加熱処理する方法等が挙げられる。
上記塗布方法としては、例えば、コンマコーター、ナイフコーター、ロールコーター、リバースコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ワイヤーバー等公知の塗布方法・装置を使用することができる。
また、上記加熱処理の方法としては、例えば、熱風、熱窒素、遠赤外線、高周波誘導加熱など公知の方法で加熱する方法が挙げられる。
【0037】
本発明の絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物からなる絶縁層と金属板とを組み合わせることで金属放熱板が得られる。
上記金属放熱板を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を金属板の表面に均一な厚みに塗工した後、加熱処理する工程を行う方法等が挙げられる。
上記塗工及び加熱処理の方法としては、上記絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物の製造方法と同様の方法を用いることができる。
なお、塗工を行う際には、付着している切削油等の揮発分を予め除去することが好ましい。また、上記塗工を行う際には、金属板の表面を予めエッチング処理を行い微細な凹凸を与える事でアンカー効果によりポリイミド樹脂と金属板との密着性を向上させることができる。上記エッチング処理の方法としては、例えば、金属板がアルミニウム製である場合は、メックアルマットAR−1200(メック社製)等を用いてエッチングする方法等が挙げられる。
【0038】
本発明の絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物からなる絶縁層と回路用金属箔とを有する金属ベース回路基板もまた本発明の1つである。
【0039】
上記回路用金属箔の厚みは、3〜175μmであることが好ましく、より好ましくは17.5〜175μmである。ベース基板用の金属箔(板)用としては50〜3000μmのものが好適に使用される。
また、上記回路用金属箔としては、表面に金属単体やその酸化物などの無機物を塗膜したり、アミノシラン、エポキシシラン等のカップリング剤で処理したりした片面若しくは両面表面処理銅箔が用いることが好ましい。
上記回路用金属箔としては、より耐食性の高い表面処理箔を用いるか、加熱時の雰囲気を不活性下とする等の対処を行うことがより好ましい。
【0040】
本発明の金属ベース回路基板を製造する方法としては、例えば、本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を回路用金属箔の表面に均一な厚みに塗工した後、加熱処理する工程を行う方法等が挙げられる。
なお、上記金属ベース回路基板は、片面一層の回路基板であってもよく、絶縁樹脂層上に別途無電解メッキにより金属層を設ける場合や、接着剤を介して金属箔を設けるなど既知の方法により両面金属ベース回路基板としてもよい。
【0041】
本発明の絶縁フィルム、金属放熱板及び金属ベース回路基板において、絶縁層の熱拡散率は4×10−7W/(m・k)以上であることが好ましく、絶縁破壊電圧は50kV/mm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、熱伝導性と絶縁性とを両立させることが可能な絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を提供できる。また、該絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を用いて、高い絶縁破壊電圧を得ることができる絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物の製造方法、絶縁フィルム、金属放熱板及び金属ベース回路基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
窒素流通下で4,4’−ジアミノジフェニルエーテル47.6gを、N−メチルピロリドン(NMP)488gに添加して50℃で保温、攪拌し完全に溶解させた。この溶液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物70gを徐々に添加することにより、605.6gのポリアミド酸溶液を得た。
得られたポリアミド酸溶液の粘度は3Pa・s、固形分濃度は18.0重量%であった。なお、粘度は、TVE−33Hを用い、25℃で3°×R9.7コーンローター(東機産業株式会社製)により測定した。
【0045】
得られたポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=2.5m/g、体積平均粒子径1.2μm)41.5gとNMP5.2gとを加えて、加圧式湿式分散装置を用いて150μmのスリットに対してフィラー分散液を100MPaで通過することで窒化アルミニウム粒子の均一分散を行うことにより、窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液を得た。
なお、窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を、粒度分布測定装置(日機装社製、MT3300)を用いて確認したところ、窒化アルミニウム粒子の2次粒子を含む体積平均粒子径が5μm、d10が1μm、d90が13μmとなっていた。
この窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の固形分濃度は41重量%であり、25℃での粘度は18.5Pa・sであった。
【0046】
幅300mm、長さ450mmの成形金属板(表面は鏡面仕上げ)を準備し、十分に水平をとった塗工装置(テスター産業株式会社製、PI1210自動塗工装置)に設置した。
次いで、得られた窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液16.5gを採取し、これを成形金属板上に、塗布液膜厚が180μmとなるよう調整したドクターブレードをストローク速度10mm/secにて成形金属板上を移動させることで均一な塗膜厚みである液塗膜を得た。
更に、塗工済の成形金属板を、熱風乾燥炉内床より100mmの位置で高床状に水平調整された幅400mm、長さ550mm保持板上に設置し、幅350mm、長さ500mm、高さ150mmとなるステンレス製のカバーで成形金属板を被うように設置し、320℃まで1時間を要して、徐々に昇温し、そしてその温度で1時間加熱を続行した。
この加熱を終了し常温になった後に成形金属板より剥離させポリイミドフィルムを得た。
なお、加熱処理によって微量残存していたN−メチルピロリドンが完全に除去され、イミド化したことを赤外線分光スペクトル分析によって確認した。
得られたポリイミドフィルムの厚さは50μm±2μm、表面と裏面の粗度はRz(10点平均粗さ)で3.2μmと1.6μmであった。また該フィルムの1部をカットして、その断面を走査型電子顕微鏡で(以下、SEMと呼ぶ)で拡大して窒化アルミ粉体の分散状態を観察したところ、表面から裏面(自由表面から成形金属板との界面)に向かって、体積分率としての連続的な傾斜状態で徐々に大きな窒化アルミニウム粒子が多くなって分散されていることも確認することができた。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=2.5m/g、体積平均粒子径1.2μm)27.6gとNMP5.2gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。なお、得られた窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の粘度は8.0Pa・sであった。また、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を確認した。
【0048】
(実施例3)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=2.5m/g、体積平均粒子径1.2μm)96.8gとNMP5.2gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。なお、得られた窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の粘度は24.0Pa・sであった。また、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を確認した。
【0049】
(実施例4)
成形金属板に代えて、放熱板として幅300mm、長さ450mm、厚み2mmのアルミ板(A5052)を用い、剥離を行わなかった以外は実施例1と同様にして金属製放熱板を得た。
こうして得られた金属製放熱板上に発熱素子(トランジスタ:2SC4058)を設けて素子温度と比較した。その結果、金属製放熱板の素子反対面の温度が低いことが確認され、パワートランジスタに対応する放熱板として充分な性能を有することが分かった。
【0050】
(実施例5)
成形金属板に代えて、金属製回路基板素材として、幅300mm、長さ450mm、厚み2mmの片面処理銅箔(古河電工社製、電解銅箔 GTS−STD、厚み175μm)を用い、剥離を行わなかった以外は実施例1と同様にして銅回路基板素材を得た。
こうして得られた銅回路基板素材について、環境試験として260℃環境下に3分間放置することを3回繰り返した後に160℃環境下で500時間放置後に熱伝導性と絶縁性を確認した。その結果、環境試験前後で絶縁性能及び熱伝導性能に変化はなく回路基板素材としての性能を有することが確認できた。
従って、この銅回路基板素材の銅箔を既知の方法でエッチングして配線を形成することで回路基板を得ることが可能となる。
【0051】
(実施例6)
実施例1において、体積平均粒子径4.2μm、比表面積が4.5m/gである窒化アルミニウム粒子を用い、かつ、加圧式湿式分散装置を用いて150μmのスリットに対してフィラー分散液を100MPaで通過することで窒化アルミニウム粒子の均一分散を行った以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。得られた窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液は、体積平均粒子径が3.5μm、d10が1.0μm、d90が9.0μmであった。また、得られた窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の粘度は22.0Pa・sであった。
更に、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を確認した。
【0052】
(実施例7)
実施例1において、体積平均粒子径7.5μm、比表面積が2.0m/gである窒化アルミニウム粒子を用い、かつ、加圧式湿式分散装置を用いて150μmのスリットに対してフィラー分散液を100MPaで通過することで窒化アルミニウム粒子の均一分散を行った以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。得られた窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液は、体積平均粒子径が7.0μm、d10が3.5μm、d90が14μmであった。なお、得られた窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の粘度は14.5Pa・sであった。また、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を確認した。
【0053】
(実施例8)
実施例1において、窒化アルミニウム粒子を加えて加圧式湿式分散装置を用いて150μmのスリットに対してフィラー分散液を100MPaで通過することで窒化アルミニウム粒子の均一分散を行った後、シランカップリング剤(信越シリコーン社製、KBM903)を0.24g滴下し、簡易攪拌装置にて30分間攪拌を行い、カップリング処理を施した以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。なお、得られた窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の粘度は19.5Pa・sであった。また、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を確認した。
【0054】
(実施例9)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=2.5m/g、体積平均粒子径1.2μm)35.4gとNMP77.6gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
なお、窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液のフィラー濃度は35体積%であり、25℃で測定した粘度は0.7Pa・sであった。また、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を確認した。
【0055】
(実施例10)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=2.5m/g、体積平均粒子径1.2μm)197.1gとNMP50.5gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
なお、窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液のフィラー濃度は70体積%であり、25℃で測定した粘度は28Pa・sであった。また、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を確認した。
【0056】
(比較例1)
窒素流通下でパラフェニレンジアミン(PPD)47.6gを、N−メチルピロリドン(NMP)488gに添加して50℃で保温、攪拌し完全に溶解させた。この溶液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物70gを徐々に添加することにより、605.6gのポリアミド酸溶液を得た。
窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液を用い、製膜用金型を用いて430℃まで1時間を要して、徐々に昇温し、そしてその温度で1時間加熱を続行した以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0057】
(比較例2)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=2.5m/g、体積平均粒子径1.2μm)17.8gとNMP5.2gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
【0058】
(比較例3)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=2.5m/g、体積平均粒子径1.2μm)124.5gとNMP5.2gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
【0059】
(比較例4)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=0.9m/g、体積平均粒子径7.0μm)27.6gとNMP5.2gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
【0060】
(比較例5)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=0.9m/g、体積平均粒子径7.0μm)96.8gとNMP5.2gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
【0061】
(比較例6)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=7.0m/g、体積平均粒子径1.5μm)27.6gとNMP5.2gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
【0062】
(比較例7)
実施例1において、ポリアミド酸溶液99.0gに、窒化アルミニウム粒子(比表面積=7.0m/g、体積平均粒子径7.5μm)96.8gとNMP5.2gとを加えた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
【0063】
(比較例8)
実施例1において、分散方式をメディア衝突型分散機であるビーズミルとして窒化アルミフィラーを破砕分散させ、窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の分散状態を、粒度分布測定装置(日機装社製、MT3300)を用いて確認した。その結果、窒化アルミニウム粒子の2次粒子を含む体積平均粒子径が4μm、d10が0.4μm、d90が10.5μmとなる窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液を得た。
この窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液の固形分濃度は41重量%であり、25℃での粘度は19.0Pa・sであった。
【0064】
(比較例9)
実施例1において、加圧式湿式分散装置を用いて300μmのスリットに対してフィラー分散液を30MPaで通過することで、窒化アルミニウム粒子の2次粒子を含む体積平均粒子径が6μm、d10が1.5μm、d90が17μmとなる窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液を得た以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム分散ポリアミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
【0065】
(評価)
実施例及び比較例で得られたポリイミドフィルムについて、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示した。
【0066】
(1)熱拡散率
温度波熱分析法により熱拡散率を測定した。また、下記式(2)と別途測定した比熱及び密度とから参考値として、より熱伝導率を算出した。
なお、式中、Kは熱伝導率[W/(m・k)]、αは熱拡散率[W/(m・k)]、Cpは比熱[J/(kg・k)]、ρは密度[kg/m]を表す。
【0067】
K = α・Cp・ρ (2)
【0068】
(2)絶縁破壊電圧
JIS C 2110の気中試験方法に準拠して、標準電極−1を用いて、絶縁破壊電圧を測定した。
【0069】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、熱伝導性と絶縁性とを両立させることが可能な絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を提供することができる。また、該絶縁性熱伝導フィラー分散組成物を用いて、高い絶縁破壊電圧を得ることができる絶縁性熱伝導ポリイミド樹脂組成物の製造方法、絶縁フィルム、金属放熱板及び金属ベース回路基板を提供することができる。
また、本発明の絶縁性熱伝導フィラー分散組成物は、ハイブリット自動車及び燃料電池自動車等のインバーター基板、モーター部品、高密度・高輝度LEDの実装基板、携帯電話機や携帯型端末、通信システムの基地局機器、パソコン/サーバー、半導体製造装置等の放熱と熱拡散の用途として使用することができる。