【実施例1】
【0015】
図1は、本実施例の冷凍装置の構成図である。ここでは冷凍装置の一例として室外機と室内機とが冷媒配管により接続されて構成される空気調和機を示している。
冷凍装置1は、冷媒を圧縮する圧縮機2、室内熱交換器3、室内膨張弁5、室外熱交換器4、アキュームレータ6を順次連結して冷媒を循環させ冷凍サイクルを形成している。さらに、室内ファン7、室外ファン8と圧縮機2の内部に配置された永久磁石同期モータ9に接続したモータ駆動装置10からなる。
【0016】
圧縮機2は、冷凍サイクルに必要とされる能力に関連して運転周波数を可変制御される永久磁石同期モータ9により駆動され、運転周波数はモータ駆動装置10により制御される。
(モータ駆動装置の構成)
図2は、
図1の冷凍装置1におけるモータ駆動装置10の構成図である。このモータ駆動装置10は、永久磁石同期モータ9と、直流電源11と、直流を交流に変換するインバータ回路12と、インバータ回路の直流側に設ける母線電流検出器13と、制御器14とを備える。制御器14はマイクロコンピュータもしくはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)等の半導体演算素子を用いて、母線電流検出器13の検出信号を処理して、インバータ回路12を構成する半導体パワー素子のオン/オフ制御を行うPWM信号を出力する。つまり、本実施例の冷凍装置は、冷媒を圧縮する圧縮機2と、圧縮機2を駆動する永久磁石同期モータ9と、永久磁石同期モータ9に電流を印加するインバータ回路12と、インバータ回路12にPWM信号を送ることで永久磁石同期モータ9に流す電流を制御する制御器14とを備えたものである。
(モータ駆動装置の制御器の構成)
図3は、
図2のモータ駆動装置10における制御器14のブロック構成図である。制御器14は
図2のインバータ回路12と母線電流検出器13を介して、永久磁石同期モータ9を制御するフィードバック制御系である。
図4は、永久磁石同期モータ9を
図3で示した制御器14で制御した場合において、永久磁石同期モータ9の起動時にU相15、V相16、W相17のいずれかの1相に流れる電流(以下モータ電流)を示したグラフである。位置決め電流27は、直流電流であり永久磁石同期モータ9の磁極の回転角を任意の位置に固定するための電流である。同期起動電流28は交流電流であり、周波数を徐々に高めることにより永久磁石同期モータ9の回転数を高める。以下においては、位置決め電流を流すための制御器14の処理を位置決め処理、同期起動電流を流すための制御器14の処理を同期起動処理、位置決め処理を行う時間を位置決め時間、同期起動処理を行う時間を同期起動時間とする。
【0017】
以下、
図3の各構成要素について説明する。
電流再現演算器19は
図2の母線電流検出器13の出力である母線電流Ishを入力とし、母線電流Ishからモータ電流検出値を演算し出力する。抵抗同定器20はモータ電流検出値と第2のモータ電流指令値を入力として永久磁石同期モータ9の巻き線抵抗の同定値(以下、抵抗同定値とする)を演算し出力する。なお、第2のモータ電流指令値は電流指令補正器22によって、モータ電流指令値とモータ電流検出値の偏差を入力とした比例積分制御により決定し出力される。抵抗同定値の演算は位置決め処理前に実施し、抵抗同定値の演算時には永久磁石同期モータ9に直流電流を流す。
【0018】
永久磁石同期モータ9に直流電流を流すと永久磁石同期モータ9を抵抗器とみなすことができる。この抵抗器の抵抗初期設定値をRinit、第2のモータ電流指令値をIstar、モータ電流検出値をIfbとし、抵抗同定値をRsetとするとRsetは次式で求められる。
Rset=Rinit×(Istar÷Ifb)
減磁電流推定器21は抵抗同定値を入力として減磁電流推定値を演算し出力する。減磁電流は永久磁石同期モータ9の温度によって変化し、抵抗同定値も永久磁石同期モータ9の温度によって変化する。予め減磁電流推定器21に温度毎の減磁電流をテーブルデータで持たせておくことにより、抵抗同定値から永久磁石同期モータ9の温度を検出し、その検出温度から減磁電流を推定することが出来る。すなわち減磁電流推定器21は、永久磁石同期モータ9の巻き線抵抗から永久磁石同期モータ9の温度を算出する温度算出手段と、
該温度算出手段により算出した温度から該温度における永久磁石同期モータ9の減磁電流を算出する減磁電流算出手段とを備えたものである。
【0019】
ここで永久磁石同期モータ9の基準温度をT、基準温度の時の抵抗値をR、永久磁石同期モータ9の温度をt、温度の単位を℃とすると、tは次式で求められる。
t=(Rset÷R)×(235+T)−235
この永久磁石同期モータ9の温度と永久磁石の温度とは多少の相違はあるものの非常に近い値になることが確認できている。よって、この方法によれば新たな温度センサを設置することなくコスト低減を図りながら、正確に永久磁石の温度を推定することが可能となるものである。
【0020】
電流指令発生器18は位置決め処理時および同期起動処理時においては減磁電流推定値を入力としてモータ電流指令値を出力する。ここでモータ電流指令値はモータ電流ピーク値であり、交流電流ではない。モータ電流指令値の大きさは減磁電流推定値未満とする。
つまり、制御器14は、永久磁石同期モータ9の起動時に、永久磁石同期モータ9に減磁電流算出手段により算出した減磁電流よりも低い直流電流を流すことにより磁極の回転角を任意の位置に固定する位置決め処理を行うとともに、永久磁石同期モータ9に減磁電流算出手段により算出した減磁電流よりも低い交流電流を流し、交流電流の周波数を徐々に高める同期起動処理を行うものである。これにより、上記したようにより正確に減磁電流が求まっていることから、減磁が発生することがないように最大限の電流を永久磁石同期モータ9に電流を流すことが可能となる。
【0021】
また位置決め処理時および同期起動処理時に永久磁石同期モータ9に加わる負荷トルクに対して、モータ電流指令値が小さく永久磁石同期モータ9の発生トルクに充分な大きさがない場合は、位置決め処理または同期起動処理の途中に脱調する可能性がある。そこで、モータ電流指令値の大きさに応じて位置決め時間または同期起動時間を調整する。モータ電流指令値が小さいほど位置決め時間、または同期起動時間を長くする。
【0022】
つまり制御器14における電流指令発生器18は、位置決め処理時に永久磁石同期モータ9に流す直流電流が小さいほど、該直流電流を永久磁石同期モータ9に流す時間を長くするように調整するものである。また、制御器14における電圧指令制御器23は、同期起動処理時に永久磁石同期モータ9に流す交流電流のピーク値が小さいほど、該交流電流の周波数加速レートを小さくすることで同期起動時間の調整を行う。同期起動処理終了時に永久磁石同期モータ9に流れる電流の周波数は同期起動時間によらず一定であるため、同期起動時間が長くなるほど周波数の加速レートは遅くなる。このようにモータ電流指令値と位置決め時間および同期起動時間の調整により減磁と脱調を抑制することが可能となる。
【0023】
軸誤差演算器25はモータ電流検出値から、実際の磁極位置と制御上の磁極位置のずれである軸誤差を演算し出力する。PLL制御器26は位置決め処理時および同期起動処理時は0を出力し、同期起動処理終了後は、軸誤差が0となるような3相の電圧指令値の位相補正値を演算し出力する。この演算には軸誤差を入力とした比例制御、または積分制御、もしくはその両方を用いる。
【0024】
電圧指令制御器23は第2のモータ電流指令値を3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換する。3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwは交流電圧であり、各電圧指令値の位相が120度ずれている。このため電圧指令制御器23では、まず第2のモータ電流指令値を電圧指令値のピーク値に変換し、その後3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換する。この3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwの位相にはPLL制御器26から出力された3相の電圧指令値の位相補正値が加算される。
【0025】
PWM制御器24は3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwを、インバータ回路12を構成する半導体パワー素子のオン/オフ制御を行うPWM信号に変換する。PWM信号は3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwと、直流電源11の電圧の比によって決まる。
【実施例2】
【0026】
以下、本発明の実施例2について図面を用いて説明する。
本実施例は実施例1で示した
図1、
図2、
図3と同一の構成をもち、これに加え、永久磁石同期モータ9の磁極位置情報を推定する手段をもつものである。磁極位置を推定する手段としては例えば(特許文献2)が挙げられる。
【0027】
詳細は説明しないが、特許文献2のような推定方法により、磁極位置の情報をもつことで位置決め処理および同期起動処理を行わずに永久磁石同期モータ9を起動することが出来るようになる。これにより位置決め電流および同期起動電流による減磁を防ぐことが出来る。
【0028】
すなわち、本実施例の制御器は、減磁電流算出手段により算出した減磁電流が設定値よりも低い場合に、位置決め処理及び同期起動処理を行わない。この場合において特許文献2に示すような磁極位置推定を行うことで位置決め処理及び同期起動処理を行わないまま同期運転を開始するものである。これによれば実施例1よりもさらに減磁や脱調を回避することが可能となり、また実施例1の方法よりも確実に永久磁石同期モータ9の起動を行うことが可能となる。
【実施例3】
【0029】
以下、本発明の実施例3について図面を用いて説明する。本実施例は実施例1で示した
図1、
図2、
図3、
図4と同一の構成をもつ。実施例1で示した通り、電流指令発生器18は減磁電流推定値に応じてモータ電流指令値を調整するが、位置決め処理時および同期起動処理時に永久磁石同期モータ9に加わる負荷トルクに対して、モータ電流指令値が小さく永久磁石同期モータ9の発生トルクに充分な大きさがない場合は、位置決め処理または同期起動処理の途中に脱調する虞がある。
【0030】
そこで脱調を抑制する方法として、実施例1に示した位置決め時間または同期起動時間の調整する方法以外に、リリース弁を開けることにより永久磁石同期モータ9に加わる負荷トルクを小さくする方法が挙げられる。
図5は、圧縮機2の冷媒圧縮機構部の断面図を示している。以下、
図5にてリリース弁と永久磁石同期モータ9に加わる負荷トルクの関係について説明する。圧縮機2は吸入口30から低圧冷媒を吸入する。低圧冷媒は固定スクロール31と旋回スクロール32で構成されたに圧縮空間で圧縮され高圧冷媒となる。旋回スクロール32は永久磁石同期モータ9によって駆動される。高圧冷媒は吐出口33から圧縮機2の外へと押し出される。吸入口31から吐出口33へと向かう圧縮空間の途中にはリリース弁29が設けられており、リリース弁29からも高圧冷媒が圧縮機2の外へと押し出される。このためリリース弁29を開けることにより永久磁石同期モータ9に加わる負荷トルクが小さくなる。
【0031】
すなわち、位置決め処理時に、永久磁石同期モータ9に流す直流電流が設定値よりも低い場合に、圧縮機2が有する負荷低減手段(リリース弁29)により圧縮機2に加わる負荷を減らすとともに、同期起動処理時に、永久磁石同期モータ9に流す交流電流のピーク値が設定値よりも低い場合に、負荷低減手段(リリース弁29)により該圧縮機2に加わる負荷を減らす。なお、この設定値には減磁電流推定値を超えない値が設定される。
【0032】
また冷媒にはR32冷媒を使用するとより本発明の効果を発揮することができる。つまり、R32冷媒は圧縮時に温度が上がりやすい特性であるため、R32冷媒とフェライト系の磁石を用いた永久磁石同期モータ9を組み合わせることにより、冷媒圧縮時に減磁電流を上げることができ、これにより減磁を抑制することが可能となる。
【0033】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0034】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0035】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。