(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記サンプリング部は、前記複数の導電性ペーストのそれぞれを10g以下の量で調製可能に構成されている、請求項1または2に記載の導電性ペーストの調製条件評価装置。
前記電気伝導率測定部は、前記複数の焼成体に対する測定を、1回の測定操作で同時に測定可能に構成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性ペーストの調製条件評価装置。
前記電気伝導率測定部は、前記複数の焼成体の電気伝導率を500℃以上の高温で測定可能に構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性ペーストの調製条件評価装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、医薬品等に代表される有機材料の分野においては、薬効成分等の網羅的探索を目的としてコンビナトリアル手法が活用されてきた。そして近年では、無機固体材料および金属材料の分野においても、新規材料の探索の手法としてコンビナトリアル手法を利用することが提案されてきている(例えば、特許文献1〜5参照)。無機固体材料および金属材料の分野においてもコンビナトリアル手法を採用することで、多成分かつ様々な量比の原料の組み合わせから特異な機能を発現する材料組成の網羅的な探索を、短時間で、かつ自動的に、行うことが可能とされている。
【0007】
しかしながら、導電性ペーストは、例えば25℃での粘度が3〜2000Pa・sの高粘性の懸濁物であり得ること、またペースト中に含まれる導電性粒子が経時的に沈降して懸濁状態を常に均一に保てない状態となり得ること等から、コンビナトリアル手法を利用して誤差の少ないサンプリングを自動的に行うことは比較的困難であった。そして何よりも、このような高粘性の試料については、サンプリング後の試料を均一に混合することが非常に困難となっていた。そのため、サンプリング誤差等により目的の配合割合とは異なる割合でペースト試料が配合された場合や、均一な混合が実現されていない場合には、配合割合のずれた導電性ペーストについて電気伝導率等の特性の測定を行うこととなり、正しい評価を行うことができない可能性があった。一方、誤差の少ないサンプリングを自動的に実施するには、例えばサンプリング速度を十分に低減したり、サンプリング中にサンプリング量を重量計等の複数の機能で監視してその場でサンプリング量の補正を行うなどする必要があり、コンビナトリアル手法であっても時間を要するものとならざるを得なかった。
【0008】
一方で、手作業による基本のペースト試料の配合割合の決定手法は、作業に長時間を要し、また、ある程度まとまった量でサンプル調製を行うことから廃棄ロスも増大するため、時間的およびコストの面で改善すべき課題があった。また、一つ一つの作業を人の手により進めているため、人為的な誤差の発生が避けられないという問題もあった。かかる誤差を抑制するには、さらに長時間かつ慎重な作業を行わなければならなかった。したがって、現実的に評価できる数の条件が限られていることから、得られる導電性膜の特性を管理できる幅が比較的粗いものになってしまうという問題もあった。
【0009】
本発明は、上述したような従来の問題を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、2種類以上のペースト試料を配合してなる導電性ペーストの調製条件を、より短時間で精度よく評価することができる導電性ペーストの調製条件評価装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここに開示する導電性ペーストの調製条件評価装置(以下、単に「評価装置」などと略して言う場合もある。)は、導電性物質を作製するための導電性ペーストの調製条件を評価する装置である。かかる評価装置は、導電性ペーストを構成するための2種類以上のペースト試料の配合割合を少なくとも一つのパラメータとし、該パラメータを複数通りに変化させて上記2種類以上のペースト試料を上記複数の配合割合で所定のサンプリング位置に採取するサンプリング部と、上記サンプリングされた2種類以上のペースト試料を加圧条件下で混合して導電性ペーストを調製する加圧混合部と、上記調製された複数の導電性ペーストを焼成して複数の焼成体を形成する焼成部と、上記複数の焼成体の電気伝導率を測定する電気伝導率測定部と、上記配合割合と上記電気伝導率の測定結果との関係から、上記複数の導電性ペーストの調製条件を評価する評価部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記のサンプリング部においては、コンビナトリアル手法にしたがって、導電性ペーストの構成材料であるペースト試料の配合割合を少なくとも一つのパラメータとし、このパラメータを変化させて様々な組成の導電性ペーストを配合する。しかしながら、この種の導電性ペースト、すなわちペースト試料は非常に高粘性であって、例えば、非接触の手法による均一な混合は極めて困難であった。また、接触の手法による混合、例えば何らかの混合器具等による機械的な撹拌等の手法によると均一な混合が可能とはなるものの、例えば、この場合はペースト試料の配合数に相当する数の混合器具を用意したり、かかる混合器具に適した量のペースト試料をサンプリングする必要があり、設備的にも、ペースト試料の廃棄ロスの面でも、好ましいとは言えなかった。
これに対し、ここに開示される調製条件評価装置によると、サンプリングされた2種類以上のペースト試料を、加圧混合部において加圧条件下で混合するようにしている。すなわち、高粘性のペースト試料に圧力を付加することにより、非接触での均一な混合を可能としている。したがって、均質な導電性ペーストの調製を行うことができ、調製条件をより高精度に評価することができる。また、非接触での混合が可能なため、配合ごとに撹拌器具等を新たに用意あるいは洗浄等する必要がなく、ペースト試料の廃棄ロスも抑制することができる。さらには、一度に複数のペースト試料の混合も可能とされる。したがって、効率よく導電性ペーストの調製条件を評価することができる。
【0012】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記ペースト試料は、導電性粒子と、バインダと、溶媒とを含み、25℃、10rpmでの粘度が3Pa・s〜2000Pa・sであることを特徴としている。
導電性ペーストを調製するのに用いるペースト試料の構成は様々であり、粘性の低いものから高いものまで存在する。ここに開示される調製条件評価装置は、上記のとおりの範囲の比較的粘性の高いペースト試料を用いる場合に適用することで、その効果が如何なく発揮できるために好ましい。ペースト試料の粘度は、その用途にもよるが3Pa・s以上であってよく、例えば、10Pa・s以上、特に50Pa・s以上、さらには100Pa・s以上のものとすることができる。ペースト試料の粘度の上限については一概には言えないが、おおよその目安として2000Pa・s程度以下とすることができる。
【0013】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記サンプリング部は、上記複数の導電性ペーストのそれぞれを10g以下の量で調製可能に構成されていることを特徴としている。
かかる構成によると、サンプリングされる高粘性のペースト試料を非接触で混合することができるため、例えば、調製される一つの導電性ペーストの量を10g以下と少量にした場合であっても十分精度よく調製条件の評価を行うことができる。より限定的には、かかる導電性ペーストは、例えば、1g以下の量に調製することができる。また、導電性ペーストは、たとえ粘性の高いペーストであっても厳密なサンプリング精度を考慮せずに試験や分析等に必要な量だけ調製すればよく、導電性ペーストの廃棄ロスを低減することができる。
【0014】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記加圧混合部は、0.05MPa〜1MPaの加圧条件下で混合することを特徴としている。
かかる構成によると、加圧混合部においてより均一な混合が実現でき、調製される導電性ペースト、延いては、焼成により得られる焼成体の特性等のバラつきを低減させることができる。
【0015】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記電気伝導率測定部は、上記複数の焼成体に対する測定を、1回の測定操作で同時に測定可能に構成されていることを特徴としている。
かかる電気伝導率測定部は、例えば基板上に複数設定された試料位置に形成される焼成体の電気伝導率をすべて同時に測れるように、電気伝導率を測定する機能が複数備えられている。例えば、基板上の各試料位置と対応する位置に電気伝導率を測定する装置がそれぞれ配設されている。これにより、瞬時に複数の焼成体の電気伝導度を測定し、調製条件の評価をより短時間で行うことが可能となる。
【0016】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記加圧混合部は、さらに超音波発生機能を備えていることを特徴としている。
かかる構成によると、上記の通りの高粘性のペースト試料の混合を、より一層均一に、より短時間で行うことができ、より精度の高い導電性ペーストの調製条件の評価を行うことができる。
【0017】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記電気伝導率測定部は、上記複数の焼成体の電気伝導率を500℃以上の高温で測定可能に構成されていることを特徴としている。
導電性ペーストは、その焼成体の用途に応じて、例えば、低温領域(例えば−20℃程度)から500℃以上の高温領域等の様々な温度域で使用され得る。より具体的には、例えば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)は動作温度が500℃〜1000℃程度と比較的高い。かかる構成の調製条件評価装置によると、電気伝導率測定部は500℃以上(例えば、500℃〜1000℃程度)の高温での電気伝導率の測定を可能としている。これにより、例えば、焼成体の用途がSOFCの構成部材であって、500℃以上の高温で使用される場合等には、その使用状況における特性を評価することができる。
【0018】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記サンプリング位置が基板の表面に多数設けられた試料位置に設定されており、上記加圧混合部は、上記基板上の試料位置を全て同時に気密に封止して、上記サンプリングされた2種類以上のペースト試料を加圧混合することを特徴としている。
加圧混合部は、上記のとおり非接触での混合を可能としているため、ペースト試料のサンプリング位置が制限されない。そのため、例えば、ペースト試料を焼成用の基板上に直接サンプリングし、サンプリングされたペースト試料を基板上で全て同時に混合することが可能とされる。これにより、ペースト試料の廃棄ロスを低減し、更に効率よく導電性ペーストの調製条件を評価することができる。
【0019】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様においては、さらに、移送部を備えるとともに、上記サンプリング位置が、多数個用意されたサンプリング容器の各々に設定されており、上記加圧混合部は、上記サンプリング容器を気密に封止して、該封止したサンプリング容器内にサンプリングされた2種類以上のペースト試料を加圧混合し、上記移送部は、該サンプリング容器内に調製された導電性ペーストを基板の表面に多数設けられた試料位置に移送することを特徴としている。
かかる構成によると、より高粘性のペースト試料をより高圧の加圧条件下で加圧混合する場合においても、ペースト試料の飛散等とこれに伴う組成のずれ等の問題が生じることなく、均一な混合を行うことが可能とされる。
【0020】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様においては、さらに、上記複数の焼成体の組成分析を行う組成分析部を備え、上記評価部では、上記焼成体の各々について、上記2種類以上のペースト試料の配合割合を上記組成分析の結果に基づき補正し、該補正後の配合割合と上記電気伝導率の測定結果との関係から、上記複数の導電性ペーストの調製条件を評価することを特徴としている。
上記サンプリング部として、従来より用いられているコンビナトリアル試料調製装置等を利用すると、当該装置によっては高粘性のペースト試料の正確なサンプリングが困難となる場合があり、実際には目的の組成の導電性ペーストおよび焼成体が得られていないという事態が生じ得る。また、サンプリングの精度を上げるためにその場でサンプリング量を監視したり補正したりする場合には、サンプリング時間の長大化を招くものとなってしまう。
かかる構成によると、形成される焼成体(例えば、導電性膜)について、電気伝導率の測定と組成分析とが行える構成とされている。そのため、たとえ焼成体の配合割合が設定していた値からランダムに外れた場合であっても、実際の組成を基に配合割合を補正することができる。したがって、実際のサンプリング組成に基づいて精度よく導電性ペーストの調製条件を評価することができる。
【0021】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様においては、さらに複数の焼成体の熱膨張率を測定する熱膨張率測定部を備え、上記評価部は、上記熱膨張率の測定結果を含めて上記複数の導電性ペーストの調製条件を評価することを特徴としている。
導電性ペーストは、典型的には、セラミックス材料や金属材料、さらにはこれらの複合材料などの様々な材料を基材とし、この基材上に塗布し、導電性膜の積層構造を形成することで使用されている。例えば、かかる積層構造の製造において、反り等の変形を生じないよう熱膨張率を管理することは重要である。上記の構成によると、導電性ペーストを焼成して得られる焼成物について、上記のとおりの電気伝導率に加え熱膨張率をも含めて導電性ペーストの調製条件を評価することができる。したがって、より所望の特性および機能を備える導電性ペーストの調製条件の評価を行うことが可能とされる。
【0022】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様においては、上記熱膨張率測定部は、酸化雰囲気および還元雰囲気における上記焼成体の熱膨張率を測定する機能を備え、上記評価部は、上記焼成体の酸化雰囲気および還元雰囲気における熱膨張率の測定結果から次式(1)で定義される還元膨張率を算出するとともに、上記還元膨張率を含めて上記複数の導電性ペーストの調製条件を評価することを特徴としている。
【0023】
【数1】
【0024】
還元膨張率は、上記式(1)で表されるとおり、酸化雰囲気(例えば、大気雰囲気)と還元雰囲気とにおける熱膨張状態の差を、酸化雰囲気における熱膨張状態を基準として表した値である。例えば、SOFCは複数の無機固体材料が例えば層状に接合された複雑な構造を有しており、また、動作温度が高いため、起動および停止等の際に温度勾配が生じると熱膨張差により各材料の界面に応力が発生する。また、SOFCは、固体電解質膜を挟んでカソードが還元雰囲気、アノードが酸化雰囲気となるため、上記式(1)で示される還元膨張率が大きいと製品に反り等をもたらし得る。そのため、SOFCの開発において還元膨張率は無視することのできない特性である。ここに開示される評価装置によると、例えば、SOFC用途の導電性ペースト等のように還元膨張率が重要な評価指標とされる場合に、この還元膨張率を考慮して導電性ペーストの調製条件の評価を行うことができる。なお、還元膨張率は、例えば室温(典型的には25℃)を基準とすると、室温状態が1で表され、一般的には温度が高くなるほど値が1より大きくなる。かかる還元膨張率は、1に近い値であるか、接合される材料同士で近似した値であることが好ましい。
【0025】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記熱膨張率測定部は、測定雰囲気の制御と、少なくとも室温から1200℃の高温までの領域における結晶構造解析が可能であって、上記評価部は、測定温度範囲における格子定数の変化に基づき上記還元膨張率を算出し、該還元膨張率を含めて上記複数の導電性ペーストの調製条件を評価することを特徴としている。そして、かかる熱膨張率測定部としては、X線回折分析装置を含むことを好ましい態様としている。
無機固体材料の熱膨張率の測定は、一般的には、熱機械分析装置(TMA)等による測定が行われているが、この測定方法はコンビナトリアル手法により用意される極少量の焼成体試料に適用することは難しい。これに対し、結晶構造解析により求められる格子定数から還元膨張率を求める手法によると、コンビナトリアル手法による微小な焼成体試料(いわゆる、ライブラリー状の試料)であっても、酸化雰囲気および還元雰囲気における所定の温度範囲で結晶構造解析を行うことで、複数の焼成体について連続的かつ迅速に高精度で還元膨張率を算出することができる。かかる結晶構造解析の手法としては、例えば、代表的には、X線や中性子線を用いた結晶構造解析法が知られている。ここに開示される調製条件評価装置においては、上記結晶構造解析が可能な機能としてより汎用的なX線回折分析装置を用いるのを好ましい態様としている。
【0026】
ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の好ましい態様において、上記焼成部は、焼成温度を少なくとも一つのパラメータとし、該パラメータを変化させて上記複数の導電性ペーストを焼成し、上記評価部は、上記複数の導電性ペーストの調製条件として上記焼成温度のパラメータを含めて評価することを特徴としている。
かかる構成によると、焼成体試料の組成のみならず、焼成温度を含む焼成条件をも評価の対象として導電性ペーストの調製条件を評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、導電性ペーストの調製条件評価装置を構築する各構成要素の特徴)以外の事項であって、本発明の実施に必要な事柄(例えば、評価装置を構成する各構成要素の作製方法、作動方法および作動条件等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0029】
図1は、ここに開示される一実施形態としての導電性ペーストの調製条件評価装置の構成を概念的に示している。また、
図2は、本評価装置により導電性ペーストの調製条件を評価する際のフローの一例を示した図である。以下、
図2に示したフローに沿って、ここに開示される導電性ペーストの評価装置について詳しく説明する。
この評価装置500は、大略的に、制御部100、試料調整部200、計測部300から構成されており、これらのいずれかの部位に本評価装置500の主要な構成要素が配設されている。
図1に示した例において、制御部100には評価部40が入力部10と共に備えられ、試料調整部200にはサンプリング部20と加圧混合部22と焼成部24とが備えられ、計測部300には電気伝導率測定部30と、組成分析部32とが備えられている。なお、本評価装置はかかる構成に限定されることなく、例えば一例として、入力部10および評価部40が試料作製部200および計測部300にそれぞれ配設されて、相互にデータを送受信可能とする態様や、試料作製部200における焼成部24が計測部300における試験・分析部の一部の機能を担う等の、様々な態様を考慮することができる。
【0030】
以上の評価装置500は、2種類以上のペースト試料を混合し、焼成して得られる焼成体である導電性膜が、所望の機能を備えるよう、この2種類以上のペースト試料の配合割合を評価するものである。
ここで使用されるペースト試料は、導電性ペーストを構成するための基本となるペースト状(スラリー状、インク状を包含する。)の材料であって、このペースト試料を最適な配合割合で混合することで所望の機能および特性を示す導電性ペーストを構築するようにしている。かかるペースト試料の構成および特性は特に制限なく、例えば、目的の導電性ペーストの構成の一部となるよう構成することができる。かかる試料ペーストは、基本的には、導電性粒子と、バインダと、溶媒とを含んでいる。このようなペースト試料の構成について、以下にその代表的なものを例示して説明する。
【0031】
導電性粒子は、導電性ペーストを焼成した後に得られる焼成体(典型的には導電性膜)の導電性を担う物質である。かかる導電性粒子の種類等については特に制限はなく、目的の導電性ペーストに従来用いられている各種の導電性粒子を特に制限なく用いることができる。目的とする導電性ペーストは、電極形成用、印刷回路用、接合用、抵抗体用、異方導電性インク用等の様々な導電性ペーストであってよく、かかる導電性粒子の一例としては、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),白金(Pt),パラジウム(Pd),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),オスミウム(Os),ニッケル(Ni)およびアルミニウム(Al)等の金属およびそれらの合金、カーボンブラック等の炭素質材料、LaSrCoFeO
3系酸化物(例えばLaSrCoFeO
3)、LaMnO
3系酸化物(例えばLaSrGaMgO
3)、LaFeO
3系酸化物(例えばLaSrFeO
3)、LaCoO
3系酸化物(例えばLaSrCoO
3)等として表わされる遷移金属ペロブスカイト型酸化物に代表される導電性セラミックス等が例示される。
粒子の形状や粒径に厳密な制限はなく、例えば、代表的には、平均粒径が数nm〜数μm程度、例えば、10nm〜10μm程度の範囲のものから用途等に応じて選択される平均粒径を有する粒子を用いることができる。なお、本明細書における「平均粒径」とは、平均粒径がおおよそ0.5μm以上となる範囲では、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された粒度分布における積算値50%での粒径(50%体積平均粒子径;以下、D50と略記する場合もある。)として求めることができ、平均粒径がおおよそ0.5μm程度以下の範囲では、電子顕微鏡等の観察手段により観察される観察像内の複数の粒子の円相当径に基づき作成された粒度分布における積算値50%での粒径として求めることができる。なお、これらの平均粒径の算出手法を適用する粒径範囲に厳密な臨界はなく、採用する装置の精度等に応じて算出方法を適宜選択することができる。
【0032】
導電性ペーストの他の構成成分として、上記導体性粒子を分散させておくビヒクルとも呼ばれる媒質が挙げられる。かかる媒質は、典型的には、バインダおよび溶媒とから構成されている。かかるビヒクルは導電性粒子を適切に分散させ得るものであればよく、従来の導体ペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。
かかるバインダとしては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等をベースとするものが挙げられる。また、導電性ペーストの基材への固着能(バインダ機能)を担う成分として、あるいは固着性および耐久性等の他の機能を担う成分として、ガラスフリットを含んでいても良い。
【0033】
また溶媒としては、例えば、エチルセルロース等のセルロース系高分子、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ブチルカルビトール、ターピネオール等の高沸点有機溶媒又はこれらの二種以上の組み合わせを構成成分として含む有機ビヒクルを用いることができる。
その他、ペースト試料には、導電性ペーストを構成するに良好な粘性および塗膜(基材に対する付着膜)形成能等の所望の特性を付与し得る各種の添加剤が、必要に応じて含まれていても良い。かかる添加剤の一例をあげると、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、種々の光重合性化合物および光重合開始剤、重合禁止剤や、セラミック基材との密着性向上を目的としたシリコン系、チタネート系およびアルミニウム系等の各種カップリング剤等が挙げられる。
【0034】
以上のペースト試料は、例えば、目的とする導電性ペーストと同一の組成ないしはその一部となる組成を有するものとすることができる。具体的には、例えば、ペースト試料の組成を導電性ペーストと同一にする場合には、例えば、その濃度を適宜変更して2種以上の濃度のペースト試料を用意することができる。ペースト試料の組成を導電性ペーストと異ならせる場合には、例えば、目的の導電性ペーストの構成成分を2以上のパートに分け、そのパートを含む2種以上のペースト試料を用意することができる。
【0035】
これらのペースト試料は、非ビンガム流動を示す粘塑性流体であって、高粘性に調整され得る。かかる粘度は、使用するサンプリング部20の性能に因るため一義的に示すことはできないが、一般的には3Pa・s以上のものを考慮することができ、例えば10Pa・s以上とすることができる。ここに開示される評価装置においては、粘度は、10Pa・s〜2000Pa・s程度の比較的粘性の高いペースト試料に適用することで、その効果を明瞭に得ることができるために好ましい。さらに限定的には、ペースト試料の粘度は50Pa・s〜1500Pa・s程度、例えば、100Pa・s〜1000Pa・s程度であるのが好ましい。
なお、導電性ペーストの粘度は、粘塑性流体の粘度計測が可能な粘度計あるいはレオメータにより計測することが可能である。本明細書における粘度は、HBTタイプのブルックフィールド型粘度計を用い、25℃において10rpmの条件で計測される値を示している。
【0036】
この実施形態の評価装置500においては、先ず、ステップS10に示したように、入力部10において、サンプリング部20、加圧混合部22および焼成部24の動作条件の設定を行う。
サンプリング部20の設定としては、コンビナトリアル手法に基づき試料調製に際して必要な条件の入力を行えばよい。例えば、2種類以上の基本となるペースト試料の配合割合を決定する。かかる配合割合は、評価に必要な数および組成範囲の導電性ペーストが調製できるよう、該必要数および必要組成範囲の複数の配合割合を決定する。ここで、例えば一つのペースト試料の配合割合を少なくとも一つのパラメータとし、これを連続的にあるいは離散的に変化させることで、残りのペースト試料の配合割合(残りの基本となるペースト試料の合計の配合割合であり得る。)を決定するのが好ましい。残りの基本となるペースト試料が複数となる場合は、さらにそれらの配合割合を設定することができる。たとえば、一部のペースト試料の配合割合のみを変化させて残りの一部のペースト試料の配合割合は一定にしても良いし、すべてのペースト試料の配合割合を網羅的に変化させるようにしても良い。用意する導電性ペーストの数(すなわち、配合割合の数、調製する導電性ペーストの組成の数であり得る。)については特に制限されないが、5種類以上であることが好ましく、例えば8種類以上であることがより好ましい。例えば、10種類以上とすることや、30種類以上とすること等も可能である。
【0037】
加圧混合部22の設定としては、例えば、加圧混合のための器具の種類、混合時の印加圧力、加圧時間、加圧ガス種等の条件の設定を行うことができる。かかる加圧混合条件は、サンプリングされた複数のペースト試料を個々に加圧混合する場合や、いくつか(例えば全部)をまとめて加圧混合する場合など、その加圧混合の形態によって条件を変化させてもよい。加圧混合部22は、従来公知の振動や超音波などによる撹拌機能を併設することができ、かかる振動や超音波などによる撹拌の条件を同時に設定するようにしても良い。
焼成部24の設定としては、例えば、焼成における昇温速度、焼成温度、焼成時間、焼成雰囲気等の条件の設定を行うことができる。かかる焼成条件は、コンビナトリアル手法に基づき変化させても良いし、全ての導電性ペーストについて一定の条件に設定するようにしても良い。さらには、導電性ペーストの焼成に加えて、付加的にヒートサイクルを施すよう設定しても良い。
かかる入力部10としては、所定の情報出入力機能および演算処理機能等を備えるコンピュータ、パーソナルコンピュータ(PC)等を好適に用いることができる。以上の入力部10において入力された情報は、試料作製部200のサンプリング部20、加圧混合部22および焼成部24に送られる。本評価装置における情報(各種の信号を含む。以下同じ。)の送受信は、有線通信で行っても良いし、無線通信で行っても良い(以下同じ)。
【0038】
試料作製部200においては、ステップS20に示したように、入力部10において入力された調製条件等の情報に基づき、2種類以上のペースト試料を複数の配合割合で所定のサンプリング位置に採取し、ステップS22で示したように、これらサンプリングされたペースト試料を加圧混合して複数の配合割合(すなわち、複数の組成)の導電性ペーストを基板上に調製する。その後、ステップS24で示したように、基板上の導電性ペーストを焼成して焼成体を形成する。この試料作製部200で形成される焼成体が、評価の対象物である導電体(典型的には、導電性膜)となる。
【0039】
サンプリング部20は、コンビナトリアル手法に基づいて組成の異なる複数の導電性ペーストをサンプリングする。具体的には、上記の入力部10で決定された配合割合に従って、各ペースト試料をサンプリングする。ペースト試料は、所定のサンプリング位置にサンプリングされる。このサンプリング位置は厳密には制限されないものの、典型的には、加圧混合容器か、あるいは、基板上の所定の試料位置であり得る。サンプリングされた各ペースト試料は、本質的には、分散等の作用のみにより全体が均一に混ざり合うことはない。
【0040】
加圧混合容器としては、例えば、加圧混合条件における圧力範囲で耐圧性を有する耐圧容器(例えば、ステンレス等の金属製、強化ガラス製、強化樹脂製等の試験管、アンプル等であり得る。)等を考慮することができる。
基板としては、所定の試料配設位置が用意されている平板状のライブラリプレートを用いることができる。かかる基板は、試料が配設される表面の全面が平滑なものであっても良いし、この試料配設位置に合わせて窪みが設けられたものであっても良い。基板の材質については特に制限はなく、例えば、導電性ペーストとの反応が生じない材質のものや、導電性ペーストと所望の反応が生じる材質のもの、あるいは、かかる導電性ペーストの実際の使用において塗布対象となる材質のもの等から任意に構成することができる。
【0041】
ここで、サンプリング部20は、例えば、導電性ペーストの調製量を10g以下(例えば、1g以下)の量として調製可能とされていることが好ましい。本評価装置は、後で詳しく説明するが、たとえサンプリングに誤差やバラつき等が生じても配合割合を補正し得るため、一つの導電性ペーストの量を10g以下と少量にした場合であっても十分精度よく導電性ペーストの調製条件の評価を行うことができる。そのため、サンプリングは、厳密な精度管理を考慮せずに必要な量のみ調製すればよく、導電性ペーストの廃棄ロスを低減することができる。
【0042】
かかるサンプリング部20は、例えば、コンビナトリアル手法に基づいたサンプリングを行うことのできる各種の自動湿式試料作製装置、サンプリング装置等を利用すること等で実現することができる。自動湿式試料作製装置およびサンプリング装置としては、液体ないしはスラリー状の湿式試料を扱うことのできるものであって、上記の粘性を有するペースト試料を1g以下(例えば、10mg〜1g程度)でサンプリングできるものであれば、構成等は特に制限されず、各種のものを利用することができる。このような装置の好ましい一例として、ピペットとこれに接続されるシリンジポンプによるペースト試料の吸引および排出によりサンプリングを行うものが例示される。具体的には、例えば、特許文献6に開示される秤量混合装置および化学反応処理装置等を例示することができる。
【0043】
加圧混合部22は、サンプリング部によりサンプリングされた2種以上の基本のペースト試料を加圧条件下で混合することで、組成の異なる複数の導電性ペーストを調製するよう構成されている。この加圧混合は、具体的には、加圧混合容器あるいは基板上の所定の試料位置にサンプリングされた互いに混じり合っていないペースト試料を、主として加圧雰囲気下に置くことで混合させるものである。例えば、圧縮空気を送り込むことで急激に加圧することや、ペースト試料に全体的または局所的に加圧すること等により、高粘性のペースト試料に流動を生じさせ、均一な撹拌を実現する。
なお、かかる加圧混合は、試料の組成ずれを防ぐために、ペースト試料に対して非接触で行われるのが好ましい。かかる非接触での加圧混合を実現する装置としては、例えば、有効吐出し圧力が0.05MPa〜1MPa程度を実現し得るブロワやコンプレッサ等の圧縮機を備えるものが好ましい例として示される。このような加圧混合部22には、印加圧力が所定の圧力を超えた場合に、該圧力を開放する安全弁等の機構が備えられていても良い。なお、圧縮機による空気の吹き込み(加圧)は、連続的に行っても良く、また、圧縮機の間欠運転により断続的に(パルス的に)行うようにしても良い。パルス的に加圧を行う場合は、例えば、加圧と加圧の間に印加した圧力を減圧(解放)するようにしても良い。パルス的な加圧は、一例として、0.01秒間〜1秒間程度の加圧を、繰り返し周波数を0.1秒〜10秒程度として行うことが例示される。
【0044】
ここで、加圧混合を加圧混合容器内で行う場合、加圧混合部は、例えば、上記の耐圧容器と、上記の圧縮機等に連結可能な蓋部材とで構成することができる。
図3は、加圧混合容器(耐圧容器)221にサンプリングされたペースト試料50を加圧混合するための加圧混合部22を例示した模式図である。ここで、加圧混合容器221は、例えば、ペースト試料50のサンプリング量に対して十分な容量(例えば、3倍〜10倍程度のヘッドスペース)を有している。また、蓋部材222は、この耐圧容器221を気密に封止可能な構成であるとともに、耐圧チューブ等を介して圧縮機223等に連結可能とされており、封止状態の耐圧容器221内を加圧することができる。なお、気密状態は、例えば、蓋部材222の内面であって耐圧容器221と当接する部位にパッキン(図示せず)を配しておき、蓋部材222を耐圧容器221の開口部にパッキンを介して当接させることで実現することができる。かかる気密状態は、例えば、耐圧容器221に対して蓋部材222を押圧した状態を保つことで気密を維持するようにしても良いし、例えば、ワンタッチで装着および取り外しが可能とされる蓋部材222を装着することにより実現するようにしても良い。ワンタッチで着脱可能な蓋部材222としては、スナップキャップタイプ、あるいは、ゴム栓タイプの蓋部材222を利用することができる。また、蓋部材222は、圧縮機223に繋がる耐圧チューブ等を着脱可能とする連結部(図示せず)を備えていてもよい。さらに、蓋部材222は、耐圧容器221の内圧が所定の圧力を超えた場合に、該内圧を外部に開放する安全弁(図示せず)を備えていても良い。なお、加圧混合容器221内で加圧混合を行う場合は、移送手段により、混合して得られた導電性ペースト51を基板上の所定の試料位置に供給する。かかる移送手段は上記のサンプリング部20を利用しても良いし、上記のサンプリング部20とは別の、試料の採取および吐出が可能な試料供給装置を用いても良い。
【0045】
また、加圧混合を基板上にサンプリングされた全てのペースト試料に対して同時に行う場合、加圧混合部は、例えば、所定の空間を以て基板の上面を覆う蓋部材と、耐圧チューブ等を介してこの蓋部材に連結される上記の圧縮機等により構成することができる。
図4は、基板224上の全てのペースト試料50を同時に加圧混合する加圧混合部22を例示した図である。
図4の例では、例えば、蓋部材222は、基板224の平面形状に対応した形状を有する無底の筐状体である。蓋部材222の上面には、圧縮機223等に連結される耐圧チューブ225が配設されている。蓋部材222の内面には、基板222の周縁部と当接する領域にパッキン部材(図示せず)が配設されている。なお、基板222の周縁部に溝を設けて耐熱性のOリング(図示せず)を装着するようにしても良い。このような蓋部材222を基板224に被せ、蓋部材222の内面を基板224の周縁部に当接させながら略垂直上方から下方に摺動させて、蓋部材222の内部に基板224を嵌める。かかる状態で蓋部材222の内部にエアを送るなどして加圧すると、パッキン部材またはOリングのシール作用が機能して、基板224と蓋部材222とで形成される空間を高圧に維持することができる。かかる蓋部材222は、基板224と蓋部材222とで形成される空間の圧力が所定の圧力を超えた場合に、当該圧力を外部に開放する安全弁(図示せず)を備えていても良い。また、圧縮機223と蓋部材222とを連通する耐圧チューブ225が途中で分岐され、蓋部材222の複数の箇所(例えば、基板224の各試料位置の上方)において圧縮機223に連結される構成であっても良い。なお、蓋部材222と基板224とは、
図4に例示したような嵌め合わせにより気密を維持する形態に限定されない。例えば、筐状の蓋部材222の開口端にパッキン等のシール部材を配設し、蓋部材222を基板224の上面にシール部材を介して当接させ、押圧することで、気密を維持する構成としても良い。
【0046】
加圧混合の時間については、ペースト試料の粘度やサンプリング量、空気の吐出の態様等にもよるため一概には言えないが、概ね数分間〜数十分間程度とすることができる。
これにより、サンプリングされたペースト試料を、非接触で均一に混合することが可能となる。
なお、加圧混合部22は、上記の通りの加圧による混合以外に、加圧混合を促進する手段として、補助的に他の撹拌機能(図示せず)が併設されていても良い。かかる補助的な撹拌機能としては、例えば、振動を付与する振動撹拌機能や、超音波を付与する超音波撹拌機能や、電磁誘導によりペースト試料中の導電性粒子自体に流動を発生させる電磁誘導撹拌機能などが例示される。なお、電磁誘導撹拌機能を備える場合については、加圧混合容器または基板に水冷管等の冷却機構が備えられていても良い。
これにより、より短時間で均一な攪拌が可能となり、組成のずれ等の少ない導電性ペーストの調製が可能とされる。また、かかる加圧混合は、ペースト試料と混合機器等との接触が無いため、試料ロスが少なく、メンテナンスが容易等の利点がもたらされる。
【0047】
焼成部24は、上記で用意された導電性ペーストを焼成し、基板上の所定の位置に焼成体を形成する。かかる焼成部24は、公知の各種の加熱装置等を用いることができる。加熱装置としては、例えば、具体的には、高周波誘導コイル等を用いたマッフル炉や、トンネル式加熱炉、レーザ加熱装置、局所加熱装置等が例示される。基板上の全ての導電性ペーストの焼成条件を揃え、焼成雰囲気や焼成温度の制御を正確に行うためには、マッフル炉等の密閉式の加熱装置を用いるのが好適である。また、トンネル式加熱炉等を採用すると、多数の基板を連続的に加熱でき、また、加熱の温度履歴等を変化させやすい点で好ましい。さらに、同一の基板上の導電性ペーストの加熱条件を変更する場合等には、例えば、レーザ加熱装置やセラミックス発熱体等による局所的な加熱を可能とする加熱装置を採用することが考慮される。
このようにして調製される組成の異なる焼成体は、焼成条件についても変化させることができる。
【0048】
その後、計測部300において、ステップS30〜S36に示したように、上記で形成された組成の異なる焼成体について、例えば制御部100からの情報に基づき、自動的に所望の機能の試験および分析等を行うことができる。この
図1に例示した評価装置500の場合、例えば、計測部300に電気伝導率測定部30、組成分析部32、結晶構造解析部34および熱膨張率測定部36が備えられており、例えば、焼成体の電気伝導率(抵抗率)、組成、結晶性、熱膨張率(あるいは還元膨張率)等の測定および分析を行うことができる。この試験、分析は、必要に応じて、制御部100と情報を送受信しながら実施することができる。
【0049】
電気伝導率測定部30は、上記で用意された複数の焼成体(導電性膜)の電気伝導率(抵抗率)を、例えば制御部100からの情報に基づき、自動的に測定することができる。即ち、電気伝導率測定手段30に送られてきた複数の焼成体(導電性膜)を例えば基板ごと所定の測定位置に設置し、各焼成体の電気伝導率(抵抗率)の測定を行うことができる。電気伝導率の測定は、例えば、四探針法、二端子法、四端子法等による電気伝導率の測定機能を有する装置により実現することができる。電気伝導率の測定においては、複数の焼成体を一つずつ順に測定するようにしてもよいが、例えば、基板上に形成された焼成体の全ての電気伝導率を一度に測定する構成とされているのがより好ましい。
【0050】
かかる複数の焼成体の電気伝導率の測定を一度に行うには、例えば、電気伝導率測定部30として、上記の基板の試料位置にそれぞれ対応するように、複数の電気伝導率測定機能が配設されている電気伝導率測定装置301を用いるのが好ましい例として示される。
図5は、複数の電気伝導率測定機能302が配設されている電気伝導率測定装置301を概念的に説明する図である(
図5では電気伝導率測定機能302の一部を省略して示している。)。この電気伝導率測定機能302は、例えば、四探針法プローブより構成されていることで、焼成体52が微小な薄膜状等であっても、基板222上に形成された全ての試料(焼成体52)の電気伝導率を同時かつ瞬時に測定可能とすることができる。また、例えば、各々の電気伝導率測定機能302における四本の探針の先端が各々の針軸方向で移動可能とされていることで、四探針法プローブを試料(焼成体52)に押し当てるだけで試料(焼成体52)表面の凹凸や試料ごとの表面高さの違い等を探針の移動により吸収でき、すべての試料(焼成体52)の電気伝導率の測定を同時かつ瞬時に行うことができる。かかるプローブ303の先端部の移動は、具体的には、例えば
図6(a)に示したように、プローブ303が針軸方向でスライドすることにより、あるいは、
図6(b)に示したように、プローブ303の微小な湾曲により、実現することができる。さらに、この電気伝導率測定部30が、マッフル炉等の温度および測定雰囲気の制御を可能とする機能を備えることで、例えば、高温環境における電気伝導率の測定を行うことが可能とされる。この電気伝導率測定部30において測定された電気伝導率の情報は評価部40に送られる。
【0051】
組成分析部32は、上記で用意された複数の焼成体(導電性膜)の化学組成を、例えば制御部100からの情報に基づき、自動的に測定する。化学組成の分析は、例えば、蛍光X線分析法による分析機能を有する蛍光X線分析装置や、X線光電子分光法、二次イオン質量分析法等の固体無機物の組成分析を非破壊で行える分析手法による分析装置等を好ましく採用することができる。なお、蛍光X線分析装置としては、例えば、エネルギー分散型のものと波長分散型のもののいずれを用いるようにしても良い。組成分析においては、例えば、複数の焼成体が形成されている基板を水平方向で移動させることで測定対象の焼成体を測定位置に移動させるようにし、全ての焼成体について順次自動的に組成分析を行うようにしてもよい。なお、用いる組成分析部32の構成によっては、組成分析の手順および手法はかかる例示に限定されることはない。組成分析部32における組成分析の結果は、評価部40に送られる。
【0052】
結晶構造解析部34は、上記で用意された複数の焼成体(導電性膜)の結晶構造に関する情報を、例えば制御部100からの情報に基づき、自動的に解析可能としている。結晶構造の解析は、例えば、X線回折分析法による分析機能を有するX線回折分析装置等を用いることで好適に実現することができる。かかるX線回折分析においても、例えば、複数の焼成体が形成されている基板を水平方向で移動させることで測定対象の焼成体を測定位置に移動させるようにし、全ての焼成体について順次自動的に組成分析を行うことができる。なお、用いる結晶構造解析部34の構成によっては、組成分析の手順および手法はかかる例示に限定されることはない。結晶構造解析部34における組成分析の結果は、評価部40に送られる。
【0053】
熱膨張率測定部36は、上記で用意された複数の焼成体(導電性膜)の熱膨張率あるいは還元膨張率を、例えば制御部100からの情報に基づき、自動的に測定する。熱膨張率は、線熱膨張率と体積熱膨張率のいずれであっても良い。かかる熱膨張率測定部36は、例えば、光干渉法、X線回折法、望遠測微法等の精密絶対測定手法による測定機能を有する装置を採用することで好適に実現することができる。かかる測定は、例えば、所定の温度範囲で、所定の測定雰囲気で測定可能であることが望ましい。例えば、測定雰囲気を酸化雰囲気と還元雰囲気の二通りとし、各々の測定雰囲気における室温から500℃以上程度の所望の測定温度範囲の熱膨張率を測定することにより、その差である還元膨張率を後述の評価部40において算出することが可能となる。還元膨張率は、例えば、上記の式(1)により算出することができる。例えば、熱膨張率測定部36としてX線回折分析装置を採用する場合は、かかる熱膨張率測定部36と上記の結晶構造解析部34として同一のX線回折分析装置を用いるようにしても良い。X線回折法による熱膨張率の測定は、結晶格子の格子間隔(すなわち格子定数)の温度変化をX線の回折角の変化として読み取り、熱膨張率を算出するものである。また、X線回折法は結晶性試料であれば他の測定方法では測定が困難なごく僅かな量の試料についても測定を行うことが出来るため、かかるコンビナトリアル手法により作成される焼成体の熱膨張率の測定に適用するのは好ましい。かかる熱膨張率測定部36における熱膨張率の測定結果は、評価部40に送られる。
【0054】
評価部40では、以上の通り計測部300から送られた情報と、入力部10において設定した導電性ペーストの配合との関係性を解析し、所望の機能又は特性を実現し得る導電性ペーストの組成を算出することができる。かかる解析は、公知の解析ソフトを用いて実施することができる。例えば、各試験・分析装置等に付属の解析ソフトであってよい。
なお、かかる装置500が組成分析部32を備える場合には、評価部40では、組成分析部32から送られた組成分析の結果を基にして実際のペースト試料の配合割合を算出し、この算出値を入力部10において設定した配合割合に代えて解析に用いる(すなわち、補正する)ようにしてもよい。導電性ペーストの調製においては、試料調製部200による導電性ペーストの調製の精度よりも、組成分析部32による導電性ペーストの組成分析の精度の方が、より高くなる可能性があるからである。そして補正後の導電性ペーストの配合と、上記で試験・分析を行った機能又は特性との関係性を解析することで、所望の機能又は特性を実現し得る導電性ペーストのより精確な配合割合(あるいは配合範囲)を算出し、評価することができる。
かかる補正値の解析への導入は、常に評価に反映させるようにしても良いし、例えば、入力部10で設定した基本のペースト試料の配合割合と補正値との差が、あらかじめ設定しておいた閾値より大きい場合に、予め入力部10において設定した配合割合を補正値に置き換えて補正するようにしてもよい。
【0055】
また、計測部300から送られた焼成体の機能(特性であり得る)に関する情報は、例えば、上記の焼成体の電気伝導率(抵抗率)、結晶性、熱膨張率、還元膨張率等が例示されるが、これらの機能ごとに予め閾値等を設け、この閾値で示される範囲内の焼成体を「可」と評価し、この閾値で示される範囲外の焼成体を「不可」と評価すること等が例示される。かかる評価は、例えば、「可」「不可」の2段階に限定されることなく、複数の段階を設けるなどしてより詳細に評価することもできる。そしてこの評価結果と焼成体の配合割合とを関連付け、より望ましい特性を備える焼成体を形成可能な導電性ペーストの配合割合を決定することができる。
以上の各機能の評価結果と焼成体の配合割合との関係は、例えば、組成マップ上に表すこともできる。例えば、ガラス組成と、接触角との関係を示すマップを作製すること等も可能である。これにより導電性ペーストの配合割合と、かかる配合割合により達成される焼成体の機能との関係を視覚的に明確に評価することができる。
【0056】
なお、焼成体の機能評価は、上記に例示した機能の試験および分析等に限定されることなく、その他の公知あるいは今後開発されるであろう各種の測定装置によって行うことができる。また、複数の測定機能が一つの測定部に複合化された測定部が備えられていても良い。計測部300に備えられる各種機能および特性の評価分析部としては、例えば、焼成体の誘電率の測定を行う誘電率測定部や、レーザーラマン分光光度計等を備えるレーザーラマン分析部等が備えられ、各焼成体の誘電率や分子構造の評価等を配合割合の決定に考慮することができる。
また、計測部300に設けられた複数の測定および/または分析装置の間には、本質的に、焼成体(試料)を基板ごと自動的に移送可能な移送手段を備えることができる。かかる移送手段としては、例えば、リフトやロボットアーム等の移送物を上下方向に移送可能な垂直移送手段、ローラコンベアやベルトコンベア等の移送物を水平方向に移送可能な水平移送手段、および、移送物の移動に基づきこれらの移送手段の動作を制御する制御手段を備える等した、公知の各種の搬送システム等を採用することができる。しかしながら、自動的に移送可能な移送手段の設置には比較的広いスペースが必要となるため、場合によって、かかる移送手段としては、必ずしも自動的に(機械的に)実施されるものに限らず、人の手による移送を利用するようにしても良い。
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0057】
[実施態様1]
以下に説明する導電性ペーストの調製条件評価装置を用いて、電気伝導率の異なる2種類のペースト試料Aおよびペースト試料Bから、所定の抵抗率を有する導電性ペースト(いわゆる抵抗ペースト)を調製するためのペースト試料AおよびBの配合割合を調べた。本実施形態で用いた導電性ペーストの調製条件評価装置は、ペースト試料AおよびBを所定の配合割合で基板上の所定のサンプリング位置にサンプリングするサンプリング部と、基板を上方から覆い全てのサンプリング位置を同時に加圧してサンプリングした試料を混合して複数の導電性ペーストを調製する加圧混合部と、調製した導電性ペーストを基板ごと所定の焼成条件で焼成する焼成部と、焼成後の複数の焼成体の抵抗率(電気伝導率)を測定する電気伝導率測定部と、複数の焼成体の組成分析を行う組成分析部と、各部から受け取った情報からペースト試料AおよびBの配合割合を評価する評価部を備えている。
【0058】
なお、ペースト試料AおよびBとしては、電子デバイスの抵抗体形成用のペーストであって、導電性を有する酸化ルテニウム(RuO
2)粉末とバインダとしてのガラス粉末とを、溶媒としてのテルピネオールに分散させたものを用意した。ペースト試料Aとペースト試料Bとは、RuO
2粉末とガラス粉末の配合等を調整することで、予め異なる抵抗率に調製されている。なお、これらのペースト試料AおよびBの粘性を測定したところ、25℃、10rpmにおいてそれぞれ100Pa・sと120Pa・sであった。
【0059】
[サンプリング部]
サンプリング部としては、コンビナトリアル手法に基づき、複数の液体試料を所定の量ずつ採取し、所定のサンプリング位置に配置することができる自動サンプリング装置が備えられている。この装置では、ピペットとこれに連続するシリンジポンプとを用いる圧力制御法によりペースト試料の吸引および吐出を行う。本実施形態では、ペースト試料AおよびBの配合割合をパラメータとし、このパラメータを一定の割合で変化させることで、下記の表1に示した9通りの配合となるよう各試料のサンプリングを行った。ピペットは、異なるペースト試料をサンプリングする前に、自動的に新しいものに交換される。
【0060】
この実施形態では、サンプリングは、基板上の所定の試料位置に各試料をサンプリングするようにした。基板としては、アルミナ製であって、平板状基板の表面の所定の試料位置に球面状の凹みが設けられたものを用いた。また、この例では、基板上には6×6の格子状に試料位置が設定されており、この所定の試料位置に、サンプリングされたペースト試料が所定の順で吐出される。ペースト試料AおよびBは、ピペットにて各々10mg〜100mg程度の所定の量が自動的に採取され、この基板上に設定された所定の試料位置に吐出される。このようにして2種類の抵抗ペーストから9通りの配合で基板上に試料を採取するのに要した時間は約10分間であった。
【0061】
[加圧混合部]
加圧混合部は、
図4に示したように、空間をもって基板224の上面を覆う無底筐状の蓋部材222と、この蓋部材222の上面に耐圧チューブ225により連結された高圧ポンプ(図示せず)とを備えている。この蓋部材222は内部がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)でコーティングされており、基板224の周縁部に対して摺動しながら装着されるとともに、加圧時には蓋内部が高圧となった場合でも基板224との気密を保ち、高圧状態を維持することが可能である。本実施形態では、基板224に蓋部材222を取り付けた後、蓋内部がおよそ0.2MPaとなるように断続的に10分間加圧することで、基板224上の全てのサンプリング試料50の混合を同時に行い、9通りの組成の導電性ペースト(抵抗ペースト)51を調製した。調製された導電性ペースト51は、基板ごと焼成部に送られる。
【0062】
[焼成部]
焼成部としては、焼成条件をすべて自動で制御可能な焼成炉が備えられている。この実施形態では、9通りの導電性ペーストを基板ごと空気雰囲気中で、800℃で焼成することで、焼成体としての9通りの組成の抵抗体試料を得た。得られた抵抗体試料は、空冷後、組成分析部に送られる。
【0063】
[組成分析部]
組成分析部としては、基板を所定の測定位置に自動的に移動可能な基板ホルダを備えたエネルギー分散型微少部蛍光X線分析装置が備えられている。本実施形態では、この蛍光X線分析装置により抵抗体試料中のルテニウム(Ru)の濃度(質量%)を調べた。各抵抗体試料のRu濃度に関する情報は、評価部に送られる。参考のために、各抵抗体試料のRu濃度の測定結果を表1に示した。組成分析を終えた抵抗体試料は、基板ごと、電気伝導率(体積抵抗率)測定部に送られる。
【0064】
[電気伝導率測定部]
電気伝導率測定部としては、
図5に示したような、上記の基板の試料位置にそれぞれ対応するように、複数(この場合は36個)の電気伝導率測定機能302が配設されている電気伝導率測定装置301を用いた。この電気伝導率測定装置301は、四探針法プローブにより、微小な薄膜状の試料等であっても、基板上に形成された全ての試料の抵抗率(電気伝導率)を全て同時に測定することができる。また、四本の探針(プローブ303)の各々が独立して針軸方向でスライド可能とされており、四探針法プローブを試料に押し当てるだけで試料表面の凹凸や試料ごとの表面高さの違い等を吸収して、正確な抵抗率(電気伝導率)の測定が瞬時に可能とされる。さらに、測定部はマッフル炉内にも設置されており、最高1400℃程度の高温における電気伝導率の測定を可能としている。この電気伝導率測定装置により、25℃における抵抗体試料の体積抵抗率を測定し、その情報は評価部に送られる。参考のために、各抵抗体試料の体積抵抗率の測定結果を表1に示した。なお、表中、ペースト試料Aとペースト試料Bの配合割合は、それぞれ、ペーストA,ペーストBとした欄に示した。
【0066】
[評価部]
評価部においては、以上のとおり組成分析部および電気伝導率測定部から送られた測定結果から、抵抗体試料の組成(Ru含有量)と体積抵抗率との関係を求めた。この関係は、抵抗ペーストの調製に用いたRuO
2粉末やガラス粉末のロットの違い等により完全な線形性を示すことは極めて稀であるが、この実施形態では比較的相関性の高い線形性を示すことが確認できた。すなわち、設定条件である配合割合を、Ru含有量から算出される配合割合(補正後)に置き換えて、体積抵抗率との関係を評価することで、より信頼性の高い評価を行うことができる。
また以上の測定結果についても、この抵抗ペーストの調製条件の評価を実施する日の天候等の影響を受けて微妙に変化するため、その日ごとの調製が欠かせない。この補正後の配合割合と体積抵抗率との関係から、例えば、この日、体積抵抗率が1.20Ω・cmの抵抗ペーストを調製するには、ペースト試料Aおよびペースト試料Bを(A)53.8:(B)46.2の割合で混合すればよいことがわかった。
また、本評価装置を利用した場合に各工程に要した時間を下記の表2に示した。また、参考のために、従来の手作業による抵抗ペーストの調製条件の評価に要する時間についても、併せて表2に示した。
【0068】
以上のようにここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置を用いれば、従来では導電性ペーストの調製条件の最適化評価を一配合ずつあるいは一サンプルずつ成膜し分析または試験することで時間を費やしてしまっていたところを、複数サンプル同時に成膜し、複数サンプル同時または連続的に分析または試験することで所要時間を大幅に短縮できることが確認できた。また、サンプル作成に用いる基本のペーストも、従来は人の手による秤量・混合等の誤差を小さく抑えて調製可能な量だけ使用する必要があり、廃棄ロスも多量となってしまっていたが、かかる評価装置によると少量でも誤差を小さく抑えてサンプルを作製することが可能となり、廃棄ロスも削減することができた。これにより、例えば毎日の導電性ペーストの調製条件を最適化するための膨大な試験時間およびコストを低減することができる。
【0069】
この例では、2種類の導電性ペーストとしていずれもRu系の抵抗ペーストを用いるようにしているが、導電性ペーストとしては導電性粒子の成分および組成が異なるものを用いても良いし、2種類以上、例えば3種類や4種類の導電性ペーストを配合するようにしても良い。
また、形成された複数種の抵抗体の評価内容は、組成分析および抵抗率の測定に限定されず、その他の評価を行っても良い。
【0070】
[実施態様2]
本実施形態では、サンプリングされたペースト試料の混合を、(a)上記実施態様1と同様の加圧混合による混合装置で混合した場合と、(b)汎用の超音波照射による混合装置で混合した場合とで、得られる導電性ペーストの性状の違いを評価した。
すなわち、本実施形態2では、(a)加圧混合装置により混合する場合は、上記実施態様1と同様の導電性ペーストの調製条件評価装置を用いた。混合部では、基板上に直接サンプリングしたペースト試料を一度に加圧混合し、基板ごと焼成部、組成分析部および電気伝導率測定部に送られ、焼成および各種の分析に供した。
また、(b)超音波混合装置により混合する場合は、上記実施態様1の装置から混合部とサンプリング位置の構成を変更して、その他は同様の装置を用いた。すなわち、(b)超音波混合を行う場合は、所定のサンプリング位置に並べられたステンレス製の管状のサンプリング容器(φ10mm×t50mm)内に順に試料のサンプリングを行うようにした。混合部としては超音波ホモジナイザーを用い、各サンプリング容器に30分間超音波を照射することで、サンプリングされたペースト試料の混合を行った。混合されたペースト試料は、再度サンプリング装置を利用して、実施態様1で用いたのと同様の基板上の所定の試料位置に順に供給した。その後は、上記(a)と同様に、基板ごと焼成部、組成分析部および電気伝導率測定部に送られ、焼成および各種の分析に供した。
【0071】
なお、導電性ペーストは、上記実施態様1で用いたのと同じペースト試料Aおよびペースト試料Bを用いて、ペースト試料AおよびBの配合割合を(A)53.8:(B)46.2で一定としてサンプリングを行った。また、上記(a)(b)の異なる混合装置により混合することで、各混合装置で10サンプルずつの導電性ペーストを調整した。
導電性ペーストを焼成して得た焼成体について組成分析および体積抵抗率を測定した結果は、評価部に送られる。組成分析部および電気伝導率測定部から評価部に送られた測定結果を、下記の表3に示した。
【0073】
表3に示したように、(a)加圧混合装置により混合して得られた焼成体は、(b)超音波混合装置により混合して得られた焼成体よりも、体積抵抗率および組成共にバラつきが大幅に小さく抑えられることがわかった。すなわち、混合部として(a)加圧混合装置を備える導電性ペーストの調製条件評価装置によると、高粘性のペースト試料をより均一に混合することが可能であり、導電性ペーストの調製条件をより精度良く評価できることが確認された。
【0074】
[実施態様3]
本実施形態では、上記実施態様2と同様の加圧混合による混合装置(a)を備えた導電性ペーストの調製条件評価装置を用い、上記実施態様2と同様に、ペースト試料Aおよびペースト試料Bを用いて、ペースト試料AおよびBの配合割合を(A)53.8:(B)46.2で一定として導電性ペーストの調製を行った。なお、導電性ペーストの混合に際しては、加圧混合の圧力条件を下記の表4に示す通りに変化させ、各圧力条件で10サンプルずつの導電性ペーストを調整した。
導電性ペーストを焼成して得た焼成体について体積抵抗率を測定した結果から、各加圧条件における体積抵抗率の標準偏差(サンプル数10)を求め、下記の表4に示した。
【0076】
表4に示した通り、圧力条件を2MPaとすると圧が高すぎるため、より堅牢な加圧混合装置を用意する必要があるが、圧力条件が1MPa以下の範囲では超音波照射による混合に比較して均一でバラつきの無い混合を行えることが確認された。特に、圧力条件が0.01MPa〜1MPaの範囲では、よりバラつきの無い均一な混合が行えることがわかった。
【0077】
[実施態様4]
以下に説明する導電性ペーストの調製条件評価装置を用いて、電気伝導率の異なる2種類のペースト試料Cおよびペースト試料Dから、所定の特性(電気伝導率、結晶構造、還元膨張率)を有する導電性ペーストを調製するためのペースト試料CおよびDの配合割合を調べた。本実施態様4で用いた導電性ペーストの調製条件評価装置は、上記実施態様1の装置から加圧混合部を変更するとともに、サンプリング位置を設定し直し、その他は同様の装置を用いた。
【0078】
[サンプリング部]
サンプリング部としては、コンビナトリアル手法に基づき、複数の液体試料を所定の量ずつ採取し、所定のサンプリング位置に配置することができる自動サンプリング装置が備えられている。この装置では、ピペットとこれに連続するシリンジポンプとを用いる圧力制御法によりペースト試料の吸引および吐出を行う。本実施態様では、ペースト試料CおよびDの配合割合をパラメータとし、このパラメータを一定の割合で変化させることで、下記の表5に示した9通りの配合となるよう各試料のサンプリングを行った。
【0079】
なお、ペースト試料CおよびDとしては、固体酸化物形燃料電池における電極形成用のペーストであって、ペーストCは導電性酸化物としてLaSrCoFeO
3を含み、ペーストDは導電性酸化物としてLaSrTiFeO
3を含み、これをバインダとしてのガラス粉末と共に溶媒としてのテルピネオールに分散させたものを用いた。ペースト試料Cとペースト試料Dとは、予め異なる電気伝導率に調製されている。これらのペースト試料CおよびDの粘性を測定したところ、それぞれ130Pa・sと150Pa・sであった。
この実施態様では、サンプリングは、所定のサンプリング位置に並べられたステンレス製の管状のアンプル(φ10mm×t50mm)を耐圧容器として用い、この容器内にペースト試料CおよびDを順にサンプリングするようにした。ペースト試料CおよびDは、ピペットにて各々50mg〜100mg程度の所定の量が自動的に採取され、所定のサンプリング容器内に吐出される。このようにして2種類の抵抗ペーストから9通りの配合でサンプリング容器内に試料を採取するのに要した時間は約10分間であった。
【0080】
[加圧混合部]
加圧混合部としては、
図3に示したのと類似の構成の加圧混合装置を用いた。すなわち、上記の耐圧容器221の開口部に、PTFE製の蓋部材222を押し当てることで自動的に容器221内を気密に封止する。この蓋部材222には、コンプレッサ223に繋がる耐圧チューブ225と連結可能な連結部(図示せず)が備えられており、この連結部と耐圧チューブ225とはワンタッチで連結可能とされている。本実施態様では、耐圧容器221に蓋をした後、容器内部を0.5MPaに断続的に1分間の加圧を行うことで、容器内にサンプリングされた試料ペースト50の混合を行った。9通りのサンプリング試料を一つずつ順に加圧混合して、9通りの導電性ペースト51を調製した。
【0081】
調製された導電性ペーストは、再びサンプリング部の自動サンプリング装置により所定量を採取し、基板上の所定の試料位置に吐出することで、基板上に導電性ペーストを配置させた。なお、基板としては、8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)製の、平板状基板の表面の所定の試料位置に球面状の凹みが設けられたものを用いた。この例では、基板上には6個×6列の格子状に試料位置が設定されており、この所定の試料位置に、採取された調製後の導電性ペーストが所定の順で吐出される。導電性ペーストは、ピペットにて各々約50mg程度が自動的に採取され、この基板上に設定された所定の試料位置に吐出された。その後、導電性ペーストは、基板ごと焼成部に送られる。
【0082】
[焼成部]
焼成部としては、焼成条件をすべて自動で制御可能な焼成炉が備えられている。この実施態様では、9通りの導電性ペーストを、基板ごと空気雰囲気中で、1000℃で焼成することで、焼成体としての9通りの組成の電極膜試料を得た。得られた焼成体は、空冷後、還元膨張率測定部に送られる。
図7に、基板上に作製した電極膜試料の一部を示した。
図7は、基板上に6個×6列の格子状に設けられた試料位置のうちの、一列分に形成された電極膜試料の様子を示している。
【0083】
[還元膨張率測定部]
還元膨張率測定部としては、基板を所定の測定位置に自動的に移動可能な基板ホルダと、所望の雰囲気条件で複数の電極膜試料のX線回折分析を連続的に行うことのできるX線回折分析装置が備えられている。本実施態様では、このX線回折装置により、室温と1273Kの高温での電極膜試料の単位結晶格子の大きさ(すなわち、結晶格子定数a、b、c)に関するデータを計測して評価部に送り、評価部において、これらの値から算出される単位格子の体積変化から、室温から1273Kにかけての体積熱膨張係数を求めた。また、上記の電極膜試料の単位結晶格子の大きさを、酸化(大気)雰囲気および還元雰囲気の両方で求め、酸化(大気)雰囲気における熱膨張体積を基準とした場合の、還元雰囲気における熱膨張体積の増加具合を、還元膨張率として求めた。すなわち、かかる還元膨張率は、上記の式(1)により表される。参考のために、各電極膜試料について得られた還元膨張率を下記の表5に示した。X線回折分析を終えた電極膜試料は、基板ごと、電気伝導率測定部に送られる。
【0084】
[電気伝導率測定部]
電気伝導率測定部としては、上記の実施態様1で用いたのと同じ電気伝導率測定装置が備えられている。この実施態様では、かかる電気伝導率測定装置により800℃における電極膜試料の高温電気伝導率を測定し、その情報を評価部に送った。参考のために、各電極膜試料の高温電気伝導率の測定結果を下記の表5に示した。なお、表中、電極膜試料における導電性ペーストCと導電性ペーストDの配合割合は、それぞれ、ペーストC,ペーストDとした欄に示した。
【0086】
[評価部]
以上のとおり電気伝導率測定部および還元膨張率測定部から送られた測定結果から、電極膜試料の配合と、高温電気伝導率および還元膨張率との関係を求めた。
電極膜試料の配合と高温電気伝導率との関係は、導電性ペーストの調製に用いた各材料粉末のロットの違い等により完全な線形性を示すことは極めて稀であるが、この実施態様では比較的相関のみられる線形性を示すことが確認できた。すなわち、この導電性ペーストの調製条件評価装置によると、高粘度のペースト試料を所望の配合割合でサンプリングし、均一に混合できていることが確認できた。
また、還元膨張率測定部から送られた格子定数のデータから還元膨張率を算出し、還元膨張率−高温導電率の関係を求めた。電極膜の特性として、高温での電気伝導率は高い方が好ましいが、還元膨張率は小さい方が好ましい。表5の結果から、例えば、高温導電率が100S/cm以上で、還元膨張率が0.1%以下の導電ペーストを調製するには、ペーストCおよびペーストDを(C)50:(D)50の割合で混合すればよいことがわかった。また、電極膜試料の配合と還元膨張率の間にも、指数関数的な相関関係がみられ、所望の還元膨張率を有する電極膜の作製を目的としたペーストの調製条件の評価を行えることも確認できた。
【0087】
また以上の測定結果についても、この導電性ペーストの調製条件評価を実施する日の天候等の影響を受けて微妙に変化するため、その日ごとの調製が欠かせない。この補正後の配合割合と高温導電率との関係から、例えば、この日、高温導電率が120S/cmの抵抗ペーストを調製するには、ペースト試料Cおよびペースト試料Dを(C)55:(D)45の割合で混合すればよいことがわかった。
以上のとおり、本評価装置を利用した場合に各工程に要した時間を下記の表6に示した。参考のために、従来の手作業による導電性ペーストの調製条件の評価に要する時間についても、併せて表6に示した。
【0089】
以上のようにここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置を用いれば、従来では導電性ペーストの調製条件の最適化評価を一配合ずつあるいは一サンプルずつ成膜し分析または試験することで時間を費やしてしまっていたところを、複数サンプル同時に成膜し、複数サンプル同時または連続的に分析または試験することで、所要時間を大幅に短縮することができた。還元膨張率の測定は、X線回折分析装置を利用することにより、極微小のサンプルでも高精度に測定が行えることが確認できた。また、サンプル作成に用いる基本のペーストも、従来は人の手による秤量・混合等の誤差を小さく抑えるためにある程度まとまった量を調製する必要があり廃棄ロスも多量となってしまっていたが、かかる評価装置によると少量でも誤差を小さく抑えてサンプルを作製することが可能となり、廃棄ロスも削減することができた。これにより、例えば毎日の導電性ペーストの調製条件を最適化するための膨大な試験時間およびコストを低減することができる。
【0090】
[実施態様5]
本実施態様では、サンプリングされたペースト試料の混合を、(a)上記実施態様4と同様の加圧混合による混合装置で混合した場合と、(b)従来より一般的に採用されている超音波照射による混合装置で混合した場合とで、得られる導電性ペーストの性状の違いを評価した。
すなわち、本実施態様5では、(a)加圧混合装置により混合する場合は、上記実施態様1と同様の導電性ペーストの調製条件評価装置を用いた。混合部では、基板上に直接サンプリングしたペースト試料を一度に加圧混合し、基板ごと焼成部、電気伝導率測定部および還元膨張率測定部に送られ、焼成および各種の分析に供した。
また、(b)超音波混合装置により混合する場合は、上記実施態様1の装置から混合部とサンプリング位置の構成を変更して、その他は同様の装置を用いた。すなわち、(b)超音波混合を行う場合は、所定のサンプリング位置に並べられたステンレス製の管状のサンプリング容器(φ10mm×t50mm)内に順に試料のサンプリングを行うようにした。混合部としては超音波ホモジナイザーを用い、各サンプリング容器に○○分間超音波を照射することで、サンプリングされたペースト試料の混合を行った。混合されたペースト試料は、再度サンプリング装置を利用して、実施態様1で用いたのと同様の基板上の所定の試料位置に順に供給した。その後は、上記(a)と同様に、基板ごと焼成部電気伝導率測定部および還元膨張率測定部に送られ、焼成および各種の分析に供した。
【0091】
なお、導電性ペーストは、上記実施態様4で用いたのと同じペースト試料Cおよびペースト試料Dを用いて、ペースト試料CおよびDの配合割合を(C)70:(D)30で一定としてサンプリングを行った。また、上記(a)(b)の異なる混合装置により混合することで、各混合装置で10サンプルずつの導電性ペーストを調整した。
導電性ペーストを焼成して得た焼成体について、800℃における電気伝導率(高温導電率)および還元膨張率を測定した結果は、評価部に送られる。電気伝導率測定部および還元膨張率測定部から評価部に送られた測定結果を、下記の表7に示した。
【0093】
表7に示したように、(a)加圧混合装置により混合して得られた焼成体は、(b)超音波混合装置により混合して得られた焼成体よりも、電気伝導率および還元膨張率共にバラつきが大幅に小さく抑えられることがわかった。すなわち、混合部として(a)加圧混合装置を備える導電性ペーストの調製条件評価装置によると、高粘性のペースト試料をより均一に混合することが可能であり、導電性ペーストの調製条件をより精度良く評価できることが確認された。
【0094】
以上、本発明を好適な実施態様により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。例えば、ここに開示される導電性ペーストの調製条件評価装置の評価対象は、上記に例示されたようなSOFCの電極材料や、電子デバイスの抵抗材料に限定されることなく、例えば、各種の微小電気機械システム(MEMS:Micro-Electro-Mechanical System)や積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layer Ceramic Capacitor)等におけるプリント配線用の電極ペーストおよび導電性接着材等の調製条件の評価にも適用することができる。また、この評価装置は、評価の対象となる導電性ペーストに含まれる導電性粒子が上記のRuO
2や遷移金属ペロブスカイト型酸化物に限定されることはなく、他の種々の成分からなる導電性粒子をふくむ導電性ペーストに適用することができる。また、導電性ペーストとしては2種類のものを配合することに限定されず、例えば3種類や4種類以上の導電性ペーストの配合割合を評価するようにしても良い。形成された導電性膜を評価するために、上記に具体的に開示された分析部以外の、他の試験、分析または評価部が備えられて良いことはいうまでもない。