特許第5960052号(P5960052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5960052-リチウム二次電池用黒鉛系負極活物質 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960052
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用黒鉛系負極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20160719BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20160719BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160719BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20160719BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20160719BHJP
   H01G 11/32 20130101ALN20160719BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/133
   H01M4/62 Z
   H01M10/0569
   H01M10/0525
   !H01G11/32
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-527608(P2012-527608)
(86)(22)【出願日】2011年8月5日
(86)【国際出願番号】JP2011004453
(87)【国際公開番号】WO2012017676
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2014年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2010-176783(P2010-176783)
(32)【優先日】2010年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】外輪 千明
(72)【発明者】
【氏名】田村 健博
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4738553(JP,B2)
【文献】 特開平08−298116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折において、
002が0.3354nm以上0.337nm以下、
Lc(004)が100nm未満、
La(110)が100nm以上、且つ
回折角(2θ):44°〜45°に現れる(101)面に由来するピークの半値幅が0.65°以上であり、
且つ体積平均粒子径D50が3μm以上30μm以下である
リチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
【請求項2】
粉末X線回折におけるピーク強度比I(100)/I(101)が0.7以上1以下である、請求項1に記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
【請求項3】
該負極活物質とポリフッ化ビニリデンとを含有し且つポリフッ化ビニリデンと負極活物質との合計量に対するポリフッ化ビニリデンの割合が固形分として5質量%である合剤を銅箔上に塗布し、乾燥させ、次いで加圧成形することによって密度1.5g/cm3以上1.6g/cm3以下の合剤層を形成し、該合剤層をX線回折法によって測定したときのピーク強度比I(110)/I(004)が0.2以上である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
【請求項4】
BET比表面積が5m2/g以下である、請求項1〜3のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
【請求項5】
粉末X線回折における回折角(2θ):44°〜45°に現れる(101)面に由来するピークの半値幅が0.65°以上2°以下である、請求項1〜4のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
【請求項6】
API比重1〜5度、アスファルテン分10〜50%、樹脂分5〜30%、および硫黄分1〜12%を含む原油減圧蒸留残渣をコーキングしてコークスを得、該コークスを粉砕して炭素粉体を得、該炭素粉体を1000〜3500℃で加熱処理することを含む請求項1〜5のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質の製造方法。
【請求項7】
表面処理することをさらに含む、請求項に記載の製造方法
【請求項8】
メカノフュージョン法または湿式法にて表面処理することをさらに含む請求項に記載の製造方法
【請求項9】
軟化点200〜350℃および固定炭素50〜80質量%のピッチで表面処理することをさらに含む、請求項に記載の製造方法
【請求項10】
前記ピッチの体積平均粒子径D50が1μm〜10μmである、請求項に記載の製造方法
【請求項11】
前記ピッチは光学等方性のものである、請求項9または10に記載の製造方法
【請求項12】
コークスの水分含有率が1.0%以下である請求項6〜11のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質を含有してなるリチウム二次電池用負極。
【請求項14】
繊維径5nm以上0.2μm以下の気相法炭素繊維をさらに含有してなる請求項13に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項15】
請求項13または14に記載のリチウム二次電池用負極を備えたリチウム二次電池。
【請求項16】
エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、およびビニレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を備えた請求項15に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
請求項15に記載のリチウム二次電池を備えた交通機関。
【請求項18】
請求項15に記載のリチウム二次電池を備えた発電システム。
【請求項19】
請求項15に記載のリチウム二次電池を備えた電気・電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用黒鉛系負極活物質、リチウム二次電池用負極、およびリチウム二次電池に関する。より詳細に、本発明は、高い電池容量を得るために高密度に充填しても、充放電サイクル特性が良好なリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質、このリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質を含有するリチウム二次電池負極、およびこのリチウム二次電池用負極を備えたリチウム二次電池に関する。なお、本発明に係るリチウム二次電池は、リチウムイオンキャパシタを含意する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器などの電源には、リチウム二次電池が主に用いられている。携帯機器などはその機能が多様化し消費電力が大きくなっている。そのため、リチウム二次電池には、その電池容量を増加させ、同時に充放電サイクル特性を向上させることが求められている。このリチウム二次電池には、一般に、正極活物質にコバルト酸リチウムなどのリチウム塩が使用され、負極活物質に黒鉛などが使用されている。
【0003】
電池容量を増加させるために、例えば、負極に用いられる炭素質材料の電極充填密度を上げる手法が考えられる。しかし、従来の炭素質材料を用いて電極充填密度を上げると、炭素質材料の変形などが起きて、サイクル特性が著しく低下してしまうことがある。
【0004】
こうしたことから、負極用の炭素質材料自身の改良によって、電池容量を高め且つサイクル特性を改善することが検討されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、特定結晶構造の複合黒鉛が記載されている。特許文献3には、特定結晶構造の黒鉛と特定結晶構造の気相法炭素繊維とを併用することが記載されている。また特許文献4には、黒鉛などの炭素質粒子に重合体原料としての有機化合物を付着させ、該有機化合物を重合させ、その後、1800〜3300℃で熱処理して得られる複合炭素材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−141677号公報
【特許文献2】WO2007/072858
【特許文献3】特開2007−42620号公報
【特許文献4】特開2005−158718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に開示された炭素質材料によって、リチウム二次電池の容量および充放電サイクル特性は改善されてきている。しかしながら、リチウム二次電池に対する要求性能は年々高くなってきているので、リチウム二次電池負極用の炭素質材料の更なる改善が望まれている。
そこで、本発明の目的は、容量が高く、且つ高密度に充填しても充放電サイクル特性が良好なリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質、この負極活物質を含有するリチウム二次電池用負極、およびこの負極を備えたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した。その結果、X線回折法によって測定した面間隔、結晶子の大きさ、および回折ピークの半値幅が特定の数値範囲となる新規なリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質を見出した。そして、この負極活物質をリチウム二次電池の負極に含有させると、容量が高く、且つ高密度に充填しても充放電サイクル特性が良好なリチウム二次電池が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討し完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを包含する。
[1] 粉末X線回折において、
002が0.3354nm以上0.337nm以下、
Lc(004)が100nm未満、
La(110)が100nm以上、且つ
回折角(2θ):44°〜45°に現れる(101)面に由来するピークの半値幅が0.65°以上である、 リチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
[2] 粉末X線回折におけるピーク強度比I(100)/I(101)が0.7以上1以下である、前記[1]に記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
[3] 該負極活物質とバインダーとを含んでなる合剤を銅箔上に塗布し、乾燥させ、次いで加圧成形することによって密度1.5g/cm3以上1.6g/cm3以下の合剤層を形成し、該合剤層をX線回折法によって測定したときのピーク強度比I(110)/I(004)が0.2以上である、前記[1]または[2]に記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
[4] BET比表面積が5m2/g以下で且つ体積平均粒子径D50が3μm以上30μm以下である、前記[1]〜[3]のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
[5] 粉末X線回折における回折角(2θ):44°〜45°に現れる(101)面に由来するピークの半値幅が0.65°以上2°以下である、前記[1]〜[4]のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
【0009】
[6] 表面処理されてなる、前記[1]〜[5]のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
[7] 軟化点200〜350℃および固定炭素50〜80質量%のピッチで表面処理されてなる、前記[1]〜[5]のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
[8] 前記ピッチの体積平均粒子径D50が1μm〜10μmである、前記[7]に記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
[9] 前記ピッチは光学等方性のものである、前記[7]に記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質。
【0010】
[10] API比重1〜5度、アスファルテン分10〜50%、樹脂分5〜30%、および硫黄分1〜12%を含む原油減圧蒸留残渣をコーキングしてコークスを得、該コークスを粉砕して炭素粉体を得、該炭素粉体を1000〜3500℃で加熱処理することを含む前記[1]〜[9]のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質の製造方法。
[11] メカノフュージョン法または湿式法にて表面処理することをさらに含む前記[10]に記載の製造方法。
[12] コークスの水分含有率が1.0%以下である前記[10]または[11]に記載の製造方法。
【0011】
[13] 前記[1]〜[9]のいずれかひとつに記載のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質を含有してなるリチウム二次電池用負極。
[14] 繊維径5nm以上0.2μm以下の気相法炭素繊維をさらに含有してなる前記[13]に記載のリチウム二次電池用負極。
【0012】
[15] 前記[13]または[14]に記載のリチウム二次電池用負極を備えたリチウム二次電池。
[16] エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、およびビニレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を備えた前記[15]に記載のリチウム二次電池。
【0013】
[17] 前記[15]または[16]に記載のリチウム二次電池を備えた交通機関。
[18] 前記[15]または[16]に記載のリチウム二次電池を備えた発電システム。
[19] 前記[15]または[16]に記載のリチウム二次電池を備えた電気・電子機器。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質を、リチウム二次電池の負極に含有させると、容量が高く、且つ高密度に充填しても充放電サイクル特性が良好なリチウム二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られた本発明に係るリチウム電池用黒鉛系負極活物質の粉体X線回折を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1)リチウム二次電池用黒鉛系負極活物質
本発明のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質は、粉末X線回折において、d002が、0.3354nm以上0.337nm以下、好ましくは0.3359nm以上0.3368nm以下である。d002は黒鉛の結晶性の高さを示している。
なお、d002は、黒鉛粉末の002回折線に基づいて、Braggの式 d=λ/sinθcから算出される面間隔である。
【0017】
本発明に係る負極活物質は、粉末X線回折において、Lc(004)が、100nm未満、好ましくは40nm以上85nm以下である。また、本発明に係る負極活物質は、粉末X線回折において、La(110)が、100nm以上である。
なお、Lc(004)は、黒鉛粉末の004回折線に基づいて算出される結晶子のc軸方向の厚みである。La(110)は、黒鉛粉末の110回折線に基づいて算出される結晶子のa軸方向の幅である。
【0018】
本発明に係る負極活物質は、粉末X線回折において、回折角(2θ):44°〜45°に現れる(101)面に由来するピークの半値幅B101が、0.65°以上、好ましくは0.65°以上2°以下、より好ましくは0.7°以上1.5°以下である。
(101)面に由来するピークの半値幅B101が0.65°以上であるということは、ピークとしては比較的ブロードであることを示している。このピークがブロードであるということは、黒鉛結晶のABAスタッキング構造の乱れを示していると考えられる。リチウムイオンが黒鉛層間に挿入される際に、ABAスタッキング構造からAAAスタッキング構造に変化することが知られている。ABAスタッキング構造に乱れがある場合には、リチウムイオンの挿入時の黒鉛スタッキング構造の変化がより低エネルギーで行われるのではないかと推測している。
【0019】
また、本発明に係る負極活物質は、粉末X線回折におけるピーク強度比I(100)/I(101)が、好ましくは1以下、より好ましくは0.7以上1以下、さらに好ましくは0.75以上0.95以下である。
【0020】
さらに、本発明に係る負極活物質は、該負極活物質とバインダーとを含んでなる合剤を銅箔上に塗布し、乾燥させ、次いで加圧成形することによって密度1.5g/cm3以上1.6g/cm3以下の合剤層を形成し、該合剤層をX線回折法によって測定したときのピーク強度比I(110)/I(004)が、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.35超0.9以下である。該測定法で得られるピーク強度比I(110)/I(004)は、黒鉛粉末の配向性を示している。この値が大きくなるほど配向性が低くなることを示している。
【0021】
また、本発明に係る負極活物質は、BET比表面積が、好ましくは5m2/g以下、より好ましくは1〜4.5m2/gである。BET比表面積が5m2/g以下であると、電解液との望ましくない副反応が進み難くなり、且つ充放電サイクル特性の劣化が進み難くなる。
さらに、本発明に係る負極活物質は、体積平均粒子径D50が、好ましくは3μm以上30μm以下、より好ましくは4μm以上25μm以下、さらに好ましくは4μm以上20μm以下である。この範囲の体積平均粒子径D50を有すると電極表面の平滑性が良好となり且つ電解液との望ましくない副反応が進み難くなる。
【0022】
本発明に係る負極活物質は、例えば、以下のような方法にて得ることができる。
先ず、ベネズエラ産原油を減圧蒸留して残渣を得る。該残渣は、API比重が好ましくは1〜5度、アスファルテン分が好ましくは10〜50%、樹脂分が好ましくは5〜30%、および硫黄分が好ましくは1〜12%である。
該残渣をコーキングしてコークスを得る。コーキング方法は、ディレードコーキング法であってもよいし、フルードコーキング法であってもよい。得られたコークスを水によって切り出し、それを加熱し、水分含有率が好ましくは1.0%以下となるまで乾燥させる。
乾燥させたコークス塊を粉砕し、分級して、炭素粉体を得る。粉砕方法は特に限定されず、例えば、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル、ロッドミル、ACMパルベライザーなどの装置を用いる方法が挙げられる。分級後の炭素粉体の体積平均粒子径D50は、好ましくは3μm以上30μm以下、より好ましくは4μm以上25μm以下、さらに好ましくは4μm以上20μm以下である。
この炭素粉体を、好ましくは1000〜3500℃、より好ましくは2000〜3400℃、さらに好ましくは2500〜3300℃で加熱処理して、黒鉛化する。このようにして本発明に係る負極活物質を得ることができる。
【0023】
本発明に係る負極活物質は、その表面に処理が施されたものであってもよい。該表面処理としては、メカノフュージョン法などによる表面融合、湿式法などによる表面被覆、などが挙げられる。
【0024】
湿式法としては、例えば、特開2005−158718号公報に記載されているような方法がある。具体的には、重合体原料としての有機化合物を、負極活物質の表面に付着および/または含侵させ、次いで有機化合物を重合させ、その後に1800〜3300℃にて熱処理することを含む方法、もしくは樹脂材の溶液を負極活物質の表面に付着および/または含侵させ、乾燥させ、次いで1800〜3300℃にて熱処理することを含む方法である。
【0025】
また、メカノフュージョン法の例としては、高速回転混合可能な装置に、負極活物質と異種炭素材または樹脂材とを入れ、負極活物質と異種炭素材または樹脂材に機械的エネルギーを加えて、メカノケミカル的な反応を起こさせ、次いで必要に応じて900℃〜2000℃で熱処理することを含む方法である。本発明ではメカノフュージョン法による表面処理が好ましい。
【0026】
負極活物質の表面処理においては、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、コールタールなどの炭素材や、フェノール樹脂、フラン樹脂などの樹脂材が用いられる。石油系ピッチまたは石炭系ピッチには、光学等方性のものと光学異方性のものとがある。本願明細書の実施例では光学等方性のものを用いている。表面処理において用いられるピッチは、軟化点が好ましくは200〜350℃であり、固定炭素が好ましくは50〜80質量%であり、体積平均粒子径D50が好ましくは1μm〜10μmである。該表面処理に使用するピッチの量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。
【0027】
なお、本発明のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質は、上記のような特性値を有するものであれば、一種単独の炭素質材料からなるものであってもよいし、異種複数の炭素質材料からなるものであってもよい。
【0028】
2)リチウム二次電池用負極
本発明のリチウム二次電池用負極は、本発明の負極活物質を含有してなるものである。
リチウム二次電池用負極において、該負極活物質は、通常、負極活物質層に含有されている。該負極活物質層は、前記負極活物質、バインダー、および必要に応じて配合される添加剤を含有する合剤を種々の成形法によって成形してなるものである。また、該負極活物質層には、通常、端子や導電線などとの通電を容易にするための集電体が積層されている。
【0029】
バインダーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリファスファゼン、ポリアクリロニトリル、などが挙げられる。
【0030】
負極活物質層に必要に応じて配合される添加剤としては、導電性付与材、イオン透過性化合物、増粘剤、分散剤、滑材、活性炭などが挙げられる。
導電性付与材としては、銀粉などの導電性金属粉;ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどの導電性カーボン粉;カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相法炭素繊維などが挙げられる。本発明の負極においては、添加剤として気相法炭素繊維を含有させることが好ましい。気相法炭素繊維は、その繊維径が5nm以上0.2μm以下であることが好ましい。気相法炭素繊維の含有量は負極活物質層の質量に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。イオン透過性化合物としては、キチン、キトサンなどの多糖類、または該多糖類の架橋物などが挙げられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0031】
負極活物質層は、例えば、ペースト状の合剤を集電体に塗布し、乾燥させ、加圧成形することによって、または粉粒状の合剤を集電体上で加圧成形することによって得られる。負極活物質層の厚さは、通常、0.04mm以上0.15mm以下である。成形時に加える圧力を調整することによって任意の電極密度の負極活物質層を得ることができる。成形時に加える圧力は1t/cm2〜3t/cm2程度が好ましい。
【0032】
集電体としては、導電性金属の箔、導電性金属の網、導電性金属のパンチングメタルなどが挙げられる。導電性金属としては、銅、アルミニウム、ニッケルなどを含むものが用いられる。負極用の集電体としては銅を含むものが好ましい。
【0033】
3)リチウム二次電池
本発明のリチウム二次電池は、本発明のリチウム二次電池用負極を備えたものである。なお、本発明のリチウム二次電池はリチウムイオンキャパシタを含意する。
本発明のリチウム二次電池は、さらに、正極を備えている。正極は、リチウム二次電池に従来から使われてきたものを用いることができる。正極は、通常、正極活物質を含有する正極活物質層と、正極活物質層に積層された集電体とからなる。正極活物質としては、LiNiO2、LiCoO2、LiMn24などが挙げられる。該正極活物質層は、従来公知の正極活物質用の添加剤をさらに含有していてもよい。正極用の集電体としてはアルミニウムを含むものが好ましい。
【0034】
リチウム二次電池では、通常、正極と負極とが電解質に浸されている。電解質は液体、ゲルまたは固体のいずれでもよい。
液体電解質としては、リチウム塩の非水系溶媒溶液が挙げられる。リチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3、CH3SO3Li、CF3SO3Liなどが挙げられる。液体電解質に用いられる非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、およびビニレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0035】
固体電解質またはゲル電解質としては、スルホン化スチレン-オレフィン共重合体などの高分子電解質、ポリエチレンオキシドとMgClO4を用いた高分子電解質、トリメチレンオキシド構造を有する高分子電解質などが挙げられる。高分子電解質に用いられる非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、およびビニレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0036】
正極と負極との間には必要に応じてセパレータが設けられる。セパレータとしては、例えば、不織布、織布、微細孔質フィルムなどや、それらを組み合わせたものなどが挙げられる。
【0037】
本発明に係るリチウム二次電池は、種々な分野において用いることができる。例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型コンピュータ、ノート型コンピュータ、携帯電話、無線機、電子手帳、電子辞書、PDA(Personal Digital Assistant)、電子メーター、電子キー、電子タグ、電力貯蔵装置、電動工具、玩具、デジタルカメラ、デジタルビデオ、AV機器、掃除機などの電気・電子機器; 電気自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク、ハイブリッドバイク、電動自転車、電動アシスト自転車、鉄道機関、航空機、船舶などの交通機関; 太陽光発電システム、風力発電システム、潮力発電システム、地熱発電システムなどの発電システムなどが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
リチウム二次電池用黒鉛系負極活物質の物性は以下の方法で測定した。
【0040】
「d002、Lc(004)、La(110)、I(100)/I(101)、およびB101
粉末X線回折法により求めた。d002は、002回折線に基づいて、Braggの式 d=λ/sinθcから算出される面間隔である。Lc(004)は、004回折線に基づいて算出される結晶子のc軸方向の厚みである。La(110)は、110回折線に基づいて算出される結晶子のa軸方向の幅である。I(100)/I(101)は、101回折線のピーク強度に対する100回折線のピーク強度の比である。B101は、回折角(2θ):44°〜45°に現れる101回折線のピーク半値幅である。
【0041】
「配向性 I(110)/I(004)」
クレハ社製ポリフッ化ビニリデン(L#9130;n-メチル-2-ピロリドン溶液)を、固形分5質量%となるように、負極活物質に少量ずつ加えながら混練した。次いで、n-メチル-2-ピロリドンを加えて混練し、十分な流動性を持つように調整した。日本精機製作所社製脱泡ニーダーNBK−1を用いて500rpmで5分間混練を行い、ペースト状の合剤を得た。自動塗工機とクリアランス250μmのドクターブレードを用いて、前記合剤を銅箔上に塗布した。
合剤が塗布された銅箔を約80℃のホットプレート上に置いて水分を除去した。その後、真空乾燥機にて120℃で6時間乾燥させた。乾燥後、合剤中の固形分の質量と塗膜乾燥体積とから算出される電極密度が1.5g/cm3以上1.6g/cm3以下になるようにプレス機により加圧成形して、合剤層と銅箔とが積層されてなる電極シートを得た。電極シートを適当な大きさに切り取り、X線回折測定用のガラスセルに貼り付け、X線回折法で測定した。そして、ピーク強度比I(110)/I(004)を算出した。ピーク強度比I(110)/I(004)は、黒鉛の配向性を示している。
【0042】
「BET比表面積 Ssa
窒素吸着を利用したBET法により解析して比表面積を算出した。
【0043】
「体積平均粒子径 D50
黒鉛を極小型スパーテル2杯分、および非イオン性界面活性剤(トリトン−X)2滴を水50mlに添加し、3分間超音波分散させた。この分散液をMalvern社製レーザー回折式粒度分布測定器(Mastersizer)に投入し、粒度分布を測定し、体積平均粒子径D50を求めた。
【0044】
実施例1 黒鉛A1の製造
ベネズエラ産原油を減圧蒸留して残渣を得た。該残渣は、API比重が2.3度、アスファルテン分が25%、樹脂分が15%、および硫黄分が6.0%であった。該残渣をディレードコーカーに投入し、コーキングして、コークスを得た。得られたコークスを水によって切り出し、それを120℃で加熱し、水分含有率1.0%以下となるまで乾燥させた。
乾燥させたコークス塊をホソカワミクロン社製のハンマーミルで粉砕し、日清エンジニアリング社製ターボクラシファイアーTC−15Nにて気流分級して、体積平均粒子径D50が17μmの炭素粉体を得た。
この炭素粉体を黒鉛製ルツボに充てんして、アチソン炉にて3200℃で加熱処理して、黒鉛A1を得た。物性を表1に示す。図1に黒鉛A1の粉末X線回折を示す。
【0045】
実施例2 黒鉛B1の製造
気流分級にて体積平均粒子径D50が5μmの炭素粉体を得、それを、体積平均粒子径D50が17μmの炭素粉体に替えて用いた以外は実施例1と同じ手法で、黒鉛B1を得た。物性を表1に示す。
【0046】
実施例3 黒鉛A2の製造
軟化点約275℃、固定炭素65質量%および体積平均粒子径D50が5μmの石油系光学等方性ピッチ 5質量部と、黒鉛A1 95質量部とを混ぜ合わせた。この混合物をホソカワミクロン社製メカノフュージョンシステムに入れて、高速回転させた。次いで、これを窒素ガス雰囲気下において1200℃で1時間熱処理した。冷却後、目開き45μmの篩を通して黒鉛A2を得た。なお、メカノフュージョンとは、複数の異なる素材粒子にある種の機械的エネルギーを加えて、メカノケミカル的な反応を起こさせ、新しい素材を創造する技術である。物性を表1に示す。
【0047】
実施例4 黒鉛B2の製造
黒鉛A1に替えて黒鉛B1を用いた以外は実施例3と同じ手法で、黒鉛B2を得た。物性を表1に示す。
【0048】
比較例1〜比較例4
比較例として、球状天然黒鉛(以下、黒鉛C1と表記する。)、メソフェーズカーボン(以下、黒鉛Dと表記する。)および鱗片状人造黒鉛(以下、黒鉛Eと表記する。)を用意した。これらは市販品である。
また、黒鉛A1に替えて黒鉛C1を用いた以外は実施例3と同じ手法で黒鉛C2を得た。それらの物性を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例5〜8および比較例5〜8
実施例1〜4および比較例1〜4で用意した黒鉛をそれぞれ負極活物質とした。
これらの負極活物質を用いて下記の手法でリチウム二次電池を製造し、200回充放電サイクル後の放電容量保持率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
「リチウム二次電池の製造」
露点−80℃以下の乾燥アルゴンガス雰囲気下に保ったグローブボックス内で下記の操作を実施した。
コバルト酸リチウム(日本化学工業製正極材C−10)95質量部、バインダー(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)3質量部、および導電材(アセチレンブラック)5質量部、にN−メチル-2-ピロリドンを加えてスラリー状合剤を得た。この合剤を厚さ25μmのアルミ箔上に塗布した。合剤が塗布されたアルミ箔を真空乾燥機にて120℃で6時間乾燥させた。乾燥後、合剤中の固形分の質量と塗膜乾燥体積とから算出される電極密度が約3.5g/cm3になるようにプレス機により加圧成形して、正極を得た。負極として、配向性の評価において作製した電極シートを用いた。
【0052】
円筒形をしたSUS304製の受け外装材の中に、スペーサー、板バネ、負極、セパレーター(ポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム「セルガード2400」セルガード社製)および正極をこの順で積み重ねた。その上に円筒形をしたSUS304製の上蓋外装材を載せた。次いで、コインかしめ機を用いて、受け外装材と上蓋外装材とをかしめ止めて、評価用のコインセルを得た。1種の負極活物質に対して5個のコインセルを製造し、評価試験に供した。
【0053】
「200回充放電サイクル後の放電容量保持率(%)」
上記のコインセルを用いて以下のような定電流定電圧充放電試験を行った。
初回と2回目の充放電サイクルは、次のようにして行った。
レストポテンシャルから4.2Vまでを0.17mA/cm2で定電流充電し、4.2Vに達した時点から4.2Vによる定電圧充電を行い、電流値が25.4μAに低下した時点で充電を停止させた。次いで、0.17mA/cm2で定電流放電を行い、電圧2.7Vでカットオフした。
【0054】
3回目以降の充放電サイクルは、次のようにして行った。
レストポテンシャルから4.2Vまでを0.34mA/cm2(0.2Cに相当)で定電流充電し、4.2Vに達した時点から4.2Vによる定電圧充電を行い、電流値が20μAに低下した時点で充電を停止させた。次いで、1.7mA/cm2(1.0Cに相当)で定電流放電を行い、電圧2.7Vでカットオフした。
【0055】
そして、3回目の放電容量に対する200回目の放電容量の割合を、測定した。この測定を、5個のコインセルについて行い、その平均値を求め、「200回充放電サイクル後の放電容量保持率(%)」とした。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、本発明のリチウム二次電池用黒鉛系負極活物質によって、良好な充放電サイクル特性を有するリチウム二次電池が得られることがわかる。
図1