(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960069
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ガス化炉、ガス化複合発電設備及びガス化炉の起動方法
(51)【国際特許分類】
C10J 3/46 20060101AFI20160719BHJP
C10J 3/48 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
C10J3/46 M
C10J3/46 L
C10J3/48
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-6514(P2013-6514)
(22)【出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-136762(P2014-136762A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】吉田 章悟
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−251671(JP,A)
【文献】
特開2006−152081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/46
C10J 3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス化剤と固体炭素質燃料とを供給し、ガス化するガス化炉であって、
生成した可燃性ガスをチャー回収装置へ導くガス供給流路と、
前記チャー回収装置の上流側で前記ガス供給流路から分岐してフレア設備に至るバイパス主流路と、
前記バイパス主流路に設けた集塵装置と、
前記チャー回収装置に至る前記ガス供給流路及び前記バイパス主流路の分岐位置下流に設けた流路入口開閉弁と、
を備えていることを特徴とするガス化炉。
【請求項2】
ガス化剤と固体炭素質燃料とを供給し、ガス化するガス化炉であって、
生成した可燃性ガスをチャー回収装置へ導くガス供給流路と、
前記チャー回収装置のサイクロンとフィルタとの連結管から分岐してフレア設備に至るバイパス主流路と、
前記バイパス主流路に設けた集塵装置と、
前記フィルタに至る前記連結管及び前記バイパス主流路の分岐位置下流に設けた流路入口開閉弁と、
を備えていることを特徴とするガス化炉。
【請求項3】
前記集塵装置が、前記バイパス主流路から分岐して合流するとともに、流路切替弁により流路切替可能なバイパス副流路に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のガス火炉。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のガス化炉で固体炭素質燃料をガス化した可燃性ガスを燃料としてガスタービン設備を駆動して発電するとともに、前記ガスタービン設備から排出される燃焼排ガスから熱回収して生成された蒸気で蒸気タービンを駆動して発電することを特徴とするガス化複合発電設備。
【請求項5】
ガス化剤と固体炭素質燃料とを供給し、ガス化するガス化炉の起動方法であって、
起動時に生成される排ガスをチャー回収装置のフィルタ上流側で分岐するバイパス主流路に導入し、フレア設備の上流側で集塵装置を通過させることを特徴とするガス化炉の起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば石炭ガス化複合発電設備(Integrated Gasification Combined Cycle/IGCC)等に適用されるガス化炉に係り、特に、ガス化炉のフレア系統に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭ガス化複合発電設備(IGCC)は、固体炭素質燃料として石炭をガス化し、コンバインドサイクル発電と組み合わせることにより、従来型の石炭火力に比べてさらなる高効率化・高環境性を目指した発電設備である。この石炭ガス化複合発電設備は、資源量が豊富な石炭を利用可能であることも大きなメリットであり、適用炭種を拡大することにより、さらにメリットが大きくなることが知られている。
【0003】
従来の石炭ガス化複合発電設備は、一般的に、給炭装置、石炭ガス化炉、チャー回収装置、ガス精製設備、ガスタービン設備、蒸気タービン設備、排熱回収ボイラを具備して構成される。従って、石炭ガス化炉に対して、給炭装置により石炭(微粉炭)が供給されると共に、ガス化剤(空気、酸素富化空気、酸素、水蒸気など)が取り込まれる。
この石炭ガス化炉では、石炭が燃焼してガス化され、可燃性ガス(石炭ガス)が生成される。そして、生成された可燃性ガスは、チャー回収装置にて石炭の未反応分(チャー)が除去されてからガス精製され、この後、ガスタービン設備に供給される。
【0004】
ガスタービン設備に供給された可燃性ガスは、燃料として燃焼器で燃焼することで高温・高圧の燃焼ガスを生成し、この燃焼ガスの供給を受けてガスタービン設備のガスタービンが駆動される。
ガスタービンを駆動した後の排気ガスは、排熱回収ボイラで熱エネルギが回収されて蒸気を生成する。この蒸気は、蒸気タービン設備に供給され、この蒸気により蒸気タービンが駆動される。従って、ガスタービン及び蒸気タービンを駆動源とする発電機により、発電を行うことができる。
一方、排熱回収ボイラで熱エネルギが回収された排気ガスは、煙突を介して大気へ放出される。
【0005】
上述した石炭ガス化複合発電設備において、石炭ガス化炉の起動プロセスは、以下に示す(1)から(9)のステップを備えている。
すなわち、石炭ガス化炉の一般的な起動プロセスは、(1)炉内窒素ガス(N
2)パージ、(2)ガス化炉内の加圧/ウォーミング、(3)空気通気及び補助燃料によるガス化炉点火、(4)ポーラスフィルタへの通ガス、(5)ランピング(加圧)、(6)ガス精製設備への通ガス、(7)ガス化炉燃料を補助燃料から石炭に切替、(8)ガスタービン燃料の切替、(9)負荷上昇、の順に実施される。
なお、上述したものは空気吹きの場合であるが、酸素吹きガス化による化学合成品プラントの場合も、上述した起動プロセスのステップ(7)までは共通である。
【0006】
このような起動プロセスにおいて、ステップ(3)のガス化炉点火時に使用される補助燃料としては、例えば灯油・軽油や天然ガス等を例示できる。
また、ガスタービン燃料切替のステップ(7)においては、石炭ガスの供給を受けられない起動時に使用する起動用燃料(例えば灯油・軽油や天然ガス等)から、ガス化炉で生成された石炭ガスに変更される。
【0007】
下記の特許文献1には、石炭ガス化複合発電設備の起動時において、ガス組成及び圧力が安定しガスタービンで燃焼できる条件になるまで、フレアスタックで排ガスを燃焼しながらガス化炉やガス精製装置のウォーミングを行うことが記載されている。そして、環境条件の厳しい立地点では、フレアスタック用の排煙処理装置が必要になることも記載されている。
また、下記の特許文献2には、石炭ガス化炉と除塵装置とを連結する主系統ラインに、除塵装置の上流側で分岐してフレアスタックに至るバイパスラインを設けた石炭ガス化プラントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−182443号公報
【特許文献2】特開2006−152081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した起動プロセスにおいて、ステップ(1)〜(2)の間は窒素ガスを通ガスするため、例えば純度99vol%の窒素ガス中には、略酸素(O
2)は含有されない。しかし、ステップ(3)のガス化炉点火時には、少なくともガス化炉点火当初は、残存酸素を含有する燃焼排ガス(以下、「酸素含有ガス」ともいう)が発生する。
なお、「少なくともガス化炉点火当初」としたのは、ステップ(4)以降において、再び略酸素が含有されないガスをポーラスフィルタに通ガスするためである。
【0010】
従って、この燃焼排ガスを除塵のためポーラスフィルタまで通ガスすると、フィルタエレメント中に存在する石炭未燃分(以下、「チャー」と呼ぶ)が燃焼するので、この燃焼熱がフィルタエレメント温度を過上昇させる原因となる。
このようなフィルタエレメント温度の過上昇は、材料の設計温度超過や損傷の原因となるため、ガス化炉点火当初においては、少なくともポーラスフィルタをバイパスしてフレア系統で処理する必要がある。なお。一般的なバイパス流路は、例えば特許文献2に開示されているように、ガス化炉出口とサイクロンとの間を連結する配管流路において、サイクロン入口の上流側で分岐させている。
【0011】
しかしながら、上述した方式(過程)によるガス化炉点火のステップでは、一時的にではあるものの、炉内及び配管内に残留するチャーがフレア設備の煙突より黒煙として排出されることが懸念される。このような黒煙の排出は、たとえ一時的なものであっても好ましいことではなく、従って、ガス化炉起動時における一時的な黒煙の発生を防止または抑制することが望まれる。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ガス化炉起動時における一時的な黒煙発生の防止または抑制を可能にしたガス化炉を提供することにある。換言すれば、本発明の目的は、ガス化炉起動時に発生する酸素含有ガスをポーラスフィルタに通ガスしないことに伴い、フィルタをバイパスする流路を経由してフレア設備からチャーが放出されることを防止することにある。
さらに、本発明は、このガス化炉を備えたガス化複合発電設備、そして、ガス化炉の起動方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係るガス化炉は、ガス化剤と固体炭素質燃料とを供給し、ガス化するガス化炉であって、生成した可燃性ガスをチャー回収装置へ導くガス供給流路と、前記チャー回収装置の上流側で前記ガス供給流路から分岐してフレア設備に至るバイパス主流路と、前記バイパス主流路に設けた集塵装置と、前記チャー回収装置に至る前記ガス供給流路及び前記バイパス主流路の分岐位置下流に設けた流路入口開閉弁と、を備えていることを特徴とするものである。
【0014】
このような本発明のガス化炉によれば、生成した可燃性ガスをチャー回収装置へ導くガス供給流路と、チャー回収装置の上流側でガス供給流路から分岐してフレア設備に至るバイパス主流路と、バイパス主流路に設けた集塵装置と、チャー回収装置に至るガス供給流路及びバイパス主流路の分岐位置下流に設けた流路入口開閉弁と、を備えているので、例えばガス化炉起動時のように、略酸素が含有されない排ガスが得られるまでの間に生成されたガスは、バイパス主流路を介して導入されるフレア設備で処理される前の段階で、ガス中に含まれるチャー等の粒子が集塵装置により除去される。
【0015】
本発明に係るガス化炉は、ガス化剤と固体炭素質燃料とを供給し、ガス化するガス化炉であって、生成した可燃性ガスをチャー回収装置へ導くガス供給流路と、前記チャー回収装置のサイクロンとフィルタとの連結管から分岐してフレア設備に至るバイパス主流路と、前記バイパス主流路に設けた集塵装置と、前記フィルタに至る前記連結管及び前記バイパス主流路の分岐位置下流に設けた流路入口開閉弁と、を備えていることを特徴とするものである。
【0016】
このような本発明のガス化炉によれば、生成した可燃性ガスをチャー回収装置へ導くガス供給流路と、チャー回収装置のサイクロンとフィルタとの連結管から分岐してフレア設備に至るバイパス主流路と、バイパス主流路に設けた集塵装置と、フィルタに至る連結管及びバイパス主流路の分岐位置下流に設けた流路入口開閉弁と、を備えているので、例えばガス化炉起動時のように、所望の性状を有する可燃性ガスが得られるまでの間に生成されたガスは、バイパス主流路を介して導入されるフレア設備で処理される前の段階で、ガス中に含まれるチャー等の粒子が集塵装置により除去される。
【0017】
上記のガス化炉において、前記集塵装置は、前記バイパス主流路から分岐して合流するとともに、流路切替弁により流路切替可能なバイパス副流路に設けられていることが好ましく、これにより、ガス火炉起動時にのみバイパス副流路の集塵装置を通過してフレア設備に至る流路の選択が可能になる。
【0018】
本発明のガス化複合発電設備は、請求項1から3のいずれか1項に記載のガス化炉で固体炭素質燃料をガス化した可燃性ガスを燃料としてガスタービン設備を駆動して発電するとともに、前記ガスタービン設備から排出される燃焼排ガスから熱回収して生成された蒸気で蒸気タービンを駆動して発電することを特徴とするものである。
【0019】
このような本発明のガス化複合発電設備によれば、請求項1から3のいずれか1項に記載のガス化炉で固体炭素質燃料をガス化した可燃性ガスを燃料として使用するので、ガス化炉起動時において、所望の性状を有する可燃性ガスが得られるまでの間に生成されたガスは、バイパス主流路を介して導入されるフレア設備で処理される前の段階で、ガス中に含まれるチャー等の粒子が集塵装置により除去される。
【0020】
本発明のガス化炉の起動方法は、ガス化剤と固体炭素質燃料とを供給し、ガス化するガス化炉の起動方法であって、起動時に生成される排ガスをチャー回収装置のフィルタ上流側で分岐するバイパス主流路に導入し、フレア設備の上流側で集塵装置を通過させることを特徴とするものである。
この場合、バイパス主流路の分岐位置は、チャー回収装置の入口上流側でもよいし、あるいは、チャー回収装置を構成するサイクロン及びポーラスフィルタにおいて、下流側に配置されるポーラスフィルタの入口上流側でもよい。
【0021】
このようなガス化炉の起動方法によれば、起動時に生成される排ガスをチャー回収装置のフィルタ上流側で分岐するバイパス主流路に導入し、フレア設備の上流側で集塵装置を通過させるので、ガス化炉起動時において、略酸素が含有されない排ガスが得られるまでの間に生成されたガスは、バイパス主流路を介して導入されるフレア設備で処理される前の段階で、ガス中に含まれるチャー等の粒子を集塵装置により除去できる。
【発明の効果】
【0022】
上述した本発明によれば、ガス化炉起動時における一時的な黒煙発生の防止または抑制を可能にしたガス化炉を提供することができる。すなわち、発生する酸素含有ガスをポーラスフィルタに通ガスしないガス化炉起動時の運転において、フィルタをバイパスする流路を経由してフレア設備からチャーが放出されることを防止できるので、一時的な黒煙の発生を防止または抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るガス化炉の一実施形態として、ガス化炉で生成された可燃性ガスの供給系統を示す系統図である。
【
図2】
図1に示したガス化炉の第1変形例として、ガス化炉で生成された可燃性ガスの供給系統を示す系統図である。
【
図3】
図1に示したガス化炉の第2変形例として、ガス化炉で生成された可燃性ガスの供給系統を示す系統図である。
【
図4】石炭ガス化複合発電設備(IGCC)の概略構成例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るガス化炉、ガス化複合発電設備及びガス化炉の起動方法について、一実施形態を図面に基づいて説明する。
以下に説明するガス化炉は、例えば石炭ガス化複合発電設備(以下、「IGCC」と呼ぶ)1において、粉砕された石炭(微粉炭)を炉内に投入して可燃性ガス(石炭ガス)を生成するための装置に用いられる。なお、以下の説明では、微粉炭から可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉10を例示するが、本発明のガス化炉は、例えば、間伐材、廃材木、流木、草類、廃棄物、汚泥、タイヤ等のバイオマス燃料、など他の固体炭素質燃料をガス化するものにも適用可能である。
【0025】
図4に概略構成例を示すIGCC1は、主な構成要素として、燃料の微粉炭を供給する給炭装置20と、ガス化剤とともに供給された微粉炭をガス化して可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉10と、可燃性ガスとともに排出されるチャーを分離して回収するチャー回収装置30と、可燃性ガスを精製してガス中から不純物を取り除くガス精製設備40と、精製された可燃性ガスを燃料として運転されるガスタービン設備50と、ガスタービン設備50から排出される高温の燃焼排ガス中の熱を回収して蒸気を生成する排熱回収ボイラ(HRSG)60と、排熱回収ボイラ60から供給される蒸気により運転される蒸気タービン設備70と、を具備して構成される。
【0026】
石炭ガス化炉10は、ガス化剤とともに導入した固体炭素質燃料の微粉炭を供給し、ガス化させる装置である。ここで使用するガス化剤としては、空気、酸素富化空気、酸素、水蒸気等を例示でき、例えばガスタービン設備50から導入した圧縮空気に酸素分離装置(ASU)80から供給される酸素を混合して使用される。
石炭ガス化炉10で生成された可燃性ガスは、チャーを含んだ状態でチャー回収装置30へ導かれる。チャー回収装置30は、サイクロン31とポーラスフィルタ32とが連結管33を介して直列に接続された構成とされ、上流側に設置されたサイクロン31で粒子を分離除去させた可燃性ガス成分がポーラスフィルタ32へ導入される。なお、ポーラスフィルタ32は、サイクロン31の後流側に設置されたフィルタであり、可燃性ガスの微細チャーを回収する設備である。
【0027】
チャー回収装置30でチャーを分離除去された可燃性ガスは、可燃性ガス供給系統34を介してガス精製設備40へ導かれる。このガス精製設備40では、可燃性ガスを精製して不純物を取り除き、ガスタービン設備50の燃料ガスに適した性状のガスとする。
ガス精製設備40で生成された可燃性ガス(燃料ガス)は、可燃性ガス供給系統41を介してガスタービン設備50の燃焼器51に供給され、圧縮機52から導入した圧縮空気を用いて燃焼する。
【0028】
こうして可燃性ガスが燃焼すると、高温高圧の燃焼ガスが生成されて燃焼器51からガスタービン53へ供給される。この結果、高温高圧の燃焼ガスが仕事をしてガスタービン53を駆動し、高温の燃焼排ガスが排出される。そして、ガスタービン53の軸出力は、後述する発電機や圧縮機52の駆動源として使用される。
なお、圧縮機52から供給される圧縮空気は、可燃性ガス燃焼用として燃焼器51へ供給されるだけでなく、一部が抽気されて抽気空気昇圧器54で昇圧された後、ガス化剤として石炭ガス化炉10へも供給される。
【0029】
ガスタービン53で仕事をした燃焼排ガスは、排熱回収ボイラ60へ導かれる。この排熱回収ボイラ60は、燃焼排ガスが保有する熱を回収して蒸気を生成する設備である。すなわち、排熱回収ボイラ60では、燃焼排ガスと水との熱交換により蒸気を生成し、生成された蒸気は蒸気タービン70へ供給され、温度低下した燃焼排ガスは必要な処理を施した後に大気へ放出される。
こうして駆動されたガスタービン53及び蒸気タービン70は、例えば同軸の発電機71を駆動して発電する駆動源となる。なお、ガスタービン53及び蒸気タービン70は、各々専用の発電機を駆動するようにしてもよく、特に限定されることはない。
【0030】
上述した構成のIGCC1を起動する際の起動プロセスにおいて、従来技術で説明したステップ(1)の炉内窒素ガスパージ及びステップ(2)のガス化炉内の加圧/ウォーミングの過程では、例えば純度99vol%の窒素ガスが酸素分離装置80から通ガスされる。このため、ポーラスフィルタ32には、略酸素(O
2)を含有しない高純度の窒素ガスが通ガスされる。
しかし、ステップ(3)のガス化炉点火時には、少なくとも石炭ガス化炉10の点火当初に残存酸素を含有し、可燃性ガスとして使用しにくい燃焼排ガスが発生する。この燃焼排ガスは、除塵のためにポーラスフィルタ32を通過させると、フィルタエレメント中に残存するチャーを燃焼させるため、チャー回収装置30をバイパスしてフレア設備90に至るバイパス配管系統のバイパス主流路91が設けられている。
【0031】
バイパス主流路91は、サイクロン31の入口上流で可燃性ガス供給系統(ガス供給流路)11から分岐してフレア設備90に至るガス流路であり、分岐後の両流路に流路切替用の開閉弁12,92が設けられている。そして、このバイパス主流路91には、環境性改善の観点から、石炭ガス化炉10内や可燃性ガス供給系統11等に残留するチャーが黒煙としてフレア設備90から排出されることを防止するため、分岐位置下流に設けられた流路入口開閉弁92とフレア設備90との間に、チャー等の粒子を除去する集塵装置93が配設されている。
【0032】
さらに、本実施形態のバイパス主流路91には、ポーラスフィルタ32とガス精製設備40との間を接続する可燃性ガス供給系統(ガス供給流路)34から開閉弁35の上流側で分岐するとともに、分岐位置下流に開閉弁36を備えた分岐配管37と、ガス精製設備40と燃焼器51との間を接続する可燃性ガス供給系統(ガス供給流路)41から開閉弁42の上流側で分岐するとともに、分岐位置下流に開閉弁43を備えた分岐配管44と、が連結されている。
【0033】
図1に示した実施形態のバイパス主流路91は、ガス化炉10で生成した可燃性ガスをチャー回収装置30へ導く可燃性ガス供給系11から分岐してフレア設備90に至る流路であり、この場合、チャー回収装置30を構成するサイクロン31の入口上流側から分岐している。可燃性ガス主流路11から分岐したバイパス主流路91には、分岐位置から下流側のフレア設備90へ向けて、流路入口開閉弁92及び集塵装置93の順に設置されている。ここで使用する集塵装置93としては、例えばサイクロンが好適である。なお、集塵装置93は、圧力調整弁97の下流側に設けられているので、処理するガス流体の圧力を制御して耐圧仕様を緩和すれば安価に製造することが可能となる。
また、バイパス主流路91の分岐位置より下流側でサイクロン31の入口より上流側の可燃性ガス供給系11には、流路入口開閉弁12が設けられている。
【0034】
このように構成されたガス化炉10は、IGCC1を起動する際の起動プロセスにおいて、窒素ガスを用いたステップ(1)の炉内窒素ガスパージ及びステップ(2)のガス化炉内の加圧/ウォーミングの過程が終了した後、ステップ(3)に進んでガス化炉点火となる。このようなガス化炉点火時には、灯油・軽油や天然ガス等の補助燃料を使用するが、石炭ガス化炉10の点火当初は残存酸素を含有し、可燃性ガスとして使用しにくい燃焼排ガスが発生する。
【0035】
そこで、石炭ガス化炉10に点火する起動時には、起動時に生成される可燃性ガスである酸素含有の燃焼排ガスをチャー回収装置30のフィルタ上流側で分岐するバイパス主流路91に導入し、フレア設備90の上流側で集塵装置93を通過させる起動方法を採用する。すなわち、サイクロン31の入口上流に設けた流路入口開閉弁12を全閉とし、バイパス主流路91の流路入口開閉弁92を全開とすることにより、石炭ガス化炉10で生成された酸素含有ガスは、チャー回収装置30のポーラスフィルタ32を通過することなく全量がフレア設備30へ導かれる。従って、石炭ガス化炉10の起動時に発生する酸素含有ガスは、ポーラスフィルタ32へ流入することなくフレア設備90で処理され、最終的に大気へ排出される。
【0036】
このとき、石炭ガス化炉10から集塵装置93へ至る流路に残存するチャー等の粒子があれば、集塵装置93により回収されるため、フレア設備90から黒煙となって排出されることはない。
すなわち、本実施形態の石炭ガス化炉10は、生成した可燃性ガスをチャー回収装置30へ導く可燃性ガス供給系11と、チャー回収装置30の上流側で可燃性ガス供給系11から分岐してフレア設備90に至るバイパス主流路91と、バイパス主流路91に設けた集塵装置93と、チャー回収装置30に至る可燃性ガス供給系11及びバイパス主流路91の分岐位置下流に設けた流路入口開閉弁12,92とを備えているので、ガス化炉起動時のように所望の性状を有する可燃性ガスが得られるまでの間に生成された酸素含有ガスは、バイパス主流路91を介して導入されるフレア設備90で処理される前の段階で、ガス中に含まれるチャー等の粒子を集塵装置93により除去することが可能となる。
【0037】
この結果、チャー等の粒子がフレア設備90に流入し、黒煙となって排出されることを防止または抑制できる。従って、発生する酸素含有ガスをポーラスフィルタ32に通ガスしないガス化炉起動時の運転においても、ポーラスフィルタ32をバイパスするバイパス主流路91を経由してフレア設備90からチャーが放出されることを防止できるので、一時的な黒煙の発生を防止または抑制できる。すなわち、ガス化炉起動時のあらゆるタイミングにおいて、フレア設備90からのチャー排出は、従来型発電プラントのエミッションレベルまで低減される。
【0038】
ところで、上述した集塵装置93の集塵タイミングは、ステップ(3)のガス火炉点火時であるが、集塵装置93がバイパス主流路91に設置されている場合、ステップ(4)のポーラスフィルタへの通ガス以降における増負荷後の可燃性ガスも集塵装置93へ流入・通過することになる。このため、集塵装置93の型式による影響の大小はあるが、ガス流量の増大に対応するためには、集塵装置93の体格を大きくする必要が生じることも懸念される。
【0039】
また、ガス化炉停止プロセスは、以下に示す(10)から(13)のステップを備えている。
すなわち、石炭ガス化炉10の一般的な停止プロセスは、(10)負荷降下/GT燃料切替、(11)デランピング(減圧)、(12)ガス系パージ、(13)ガス系冷却、の順に実施される。しかし、停止操作開始初期はガス量が大きいため、これも集塵装置93の体格を大きくする要素となる。
【0040】
そこで、
図2に示す第1変形例では、ステップ(3)のガス化炉点火時のみチャーを含む可燃性ガスが集塵装置93へ流入するように、バイパス主流路91から分岐して合流するバイパス副流路94を設けてある。なお、上述した実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
すなわち、集塵装置93は、バイパス主流路91から分岐して合流するとともに、流路切替弁95,96a,96bにより流路の選択切替が可能なバイパス副流路94に設けられている。
【0041】
具体的に説明すると、ステップ(3)のガス化炉点火時においては、流路切替弁95を全閉とし、かつ、流路切替弁96a,96bを全開にして、バイパス主流路91に導入した酸素含有ガスの全量をバイパス副流路94に導入する。この結果、酸素含有ガスは集塵装置93を通過して流れるので、上述した実施形態と同様に、チャー等の粒子が除塵されてからフレア設備90に流入する。
一方、ステップ(3)のガス化炉点火時以外は、流路切替弁95を全開とし、かつ、流路切替弁96a,96bを全閉にすることで、バイパス主流路91に導入した酸素含有ガスは除塵装置93を通過することなくフレア設備90へ導かれる。従って、除塵装置93の体格について、これを大きくするという問題が生じることはない。
【0042】
次に、第2変形例について、
図3を参照して説明する。なお、上述した実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
この変形例では、上述した実施形態と分岐位置の異なるバイパス主流路91´が設けられている。すなわち、バイパス主流路91´は、チャー回収装置30を構成するサイクロン31とポーラスフィルタ32との間を連結する可燃性ガス流路の連結管33から分岐してフレア設備90に至る。バイパス主流路91´の分岐位置下流には、流路入口開閉弁92´が設けられている。また、連結管33の分岐位置下流には、流路入口開閉弁33aが設けられている。
【0043】
さて、本発明の課題は、上述したように、ガス化炉起動時の酸素含有ガスをポーラスフィルタ32に通ガスしないことに伴い、バイパス主配管91´を経由したチャーの放出防止である。
ここで、チャー回収装置30の具体的な配置関係を考える場合、主に粗粒を分離するサイクロン31と微粒を分離するポーラスフィルタ32は、ともに一定以上(重力落下できる程度の角度)の傾斜角をつけた連絡管31a,32aを介してチャー溜まりと接続されている。すなわち、サイクロン31及びポーラスフィルタ32内で分離回収されたチャーは、それぞれ連絡管31a,32aを通る重力落下により、同一のチャー溜まりに回収される。
【0044】
このようなチャー回収装置30は、傾斜角をつけた連絡管31a,32aを介してチャー溜まりと接続されるサイクロン31及びポーラスフィルタ32の距離を相対的に大きくしようとすれば、サイクロン31及びポーラスフィルタ32とチャー溜まりとの距離(高さ)を増大させる必要があり、装置を収容する建屋高さの不要な増加につながるという問題が生じてくる。
この結果、サイクロン31とポーラスフィルタ32とを接続して可燃性ガス流路となる連絡管33の長さは短い場合が多く、従って、サイクロン31とポーラスフィルタ32との間からバイパス主配管91´を取り出すことは通常行わないが、あえて両者間の連絡管長を長くとり、連絡管33上からバイパス主配管91´を取り出している。
【0045】
このようなバイパス主配管91´は、ガス化炉点火当初においてもサイクロン31での粗粒分離が可能となる。すなわち、ガス化炉点火当初に発生する酸素含有ガスは、ポーラスフィルタ32をバイパスするものの、サイクロン31を通過してからバイパス主配管91´に流入するので、サイクロン31による集塵が可能となる。
この結果、主にサイクロンを採用する集塵装置93の仕様緩和が可能となり、諸条件によっては集塵装置93の設置が不要となる可能性もある。なお、この第2変形例においても、上述した第1変形例のバイパス副流路94を設けて集塵装置93を設置する構成を採用してもよい。
【0046】
このように、上述した本実施形態及び変形例によれば、ガス化炉起動時における一時的な黒煙発生の防止または抑制を可能にした石炭ガス化炉10等のガス化炉を提供することができる。すなわち、発生する酸素含有ガスをポーラスフィルタ32に通ガスしないガス化炉起動時の運転において、ポーラスフィルタ10をバイパスするバイパス主流路91,91´やバイパス副流路94を経由してフレア設備90からチャーが放出されることを防止できるので、一時的な黒煙の発生を防止または抑制することが可能になる。
【0047】
また、石炭をガス化する石炭ガス化炉10を備えたIGCC1においても、ガス化炉起動時においてフレア設備90からの一時的な黒煙発生を防止または抑制できるので、優れたエミッションレベルを有する設備の提供が可能となる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 石炭ガス化複合発電設備(IGCC)
10 石炭ガス化炉(ガス化炉)
11 可燃性ガス供給系(ガス供給流路)
12,92,92´ 流路入口開閉弁
20 給炭装置
30 チャー回収装置
31 サイクロン
32 ポーラスフィルタ
33 連絡管
40 ガス精製設備
50 ガスタービン設備
60 排熱回収ボイラ(HRSG)
70 蒸気タービン
80 酸素分離装置(ASU)
90 フレア設備
91,91´ バイパス主流路
93 集塵装置
94 バイパス副流路
95,96a,96b 流路切替弁