(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960088
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】紫外線硬化性樹脂組成物及び塗膜
(51)【国際特許分類】
C09D 4/02 20060101AFI20160719BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20160719BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20160719BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20160719BHJP
C09D 175/16 20060101ALI20160719BHJP
C09D 201/04 20060101ALI20160719BHJP
C08F 2/48 20060101ALI20160719BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20160719BHJP
C08J 7/04 20060101ALI20160719BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20160719BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
C09D4/02
C09D133/00
C09D5/00 D
C09D7/12
C09D175/16
C09D201/04
C08F2/48
C08F2/44 C
C08J7/04 ZCEY
B32B27/30 A
B32B5/24 101
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-90640(P2013-90640)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-241583(P2013-241583A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-98970(P2012-98970)
(32)【優先日】2012年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】神宮 友行
(72)【発明者】
【氏名】小坂井 尚
(72)【発明者】
【氏名】皆川 広樹
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−054827(JP,A)
【文献】
特開2011−189322(JP,A)
【文献】
特開2011−128607(JP,A)
【文献】
特開2007−058204(JP,A)
【文献】
特開2006−106224(JP,A)
【文献】
特開2008−197320(JP,A)
【文献】
特開平10−279884(JP,A)
【文献】
特開平11−199798(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0070614(US,A1)
【文献】
特開2011−000282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 4/02
B32B 5/24
B32B 27/30
C08F 2/44
C08F 2/48
C08J 7/04
C09D 5/00
C09D 7/12
C09D 133/00
C09D 175/16
C09D 201/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)と、
アミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(B1)若しくは熱硬化性アクリル樹脂(F)のいずれか一方又はそれらの両方と、
光重合開始剤(C)と、
フッ素系化合物(D)と、を含有し、
前記アミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(B1)は、アミノアクリレートオリゴマー又はアミン変性ポリエステルアクリレートオリゴマーであり、
前記アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)と前記アミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(B1)とを混合したとき、前記アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)又は前記アミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(B1)のいずれか一方の成分が他方の成分中に油滴状に分散する関係にあるか、又は、
前記アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)と前記熱硬化性アクリル樹脂(F)とを混合したとき、前記アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)又は前記熱硬化性アクリル樹脂(F)のいずれか一方の成分が他方の成分中に油滴状に分散する関係にあり、
塗布・硬化後の塗膜が、少なくとも塗膜表面に海島構造を形成しており、かつ、1000μm×1000μm四方の領域内に、島が50個以上あることを特徴とする紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
2官能ウレタンアクリレートオリゴマー、アクリルアクリレートオリゴマー及びポリエステルアクリレートオリゴマーの中から選ばれる少なくとも一つのアクリレート系オリゴマー(A)と、
3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(B3)と、
光重合開始剤(C)と、
アクリレート系モノマー(B2)と、を含有し、
前記アクリレート系オリゴマー(A)と前記3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(B3)とを混合したとき、前記アクリレート系オリゴマー(A)又は前記3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(B3)のいずれか一方の成分が他方の成分中に油滴状に分散する関係にあり、
塗布・硬化後の塗膜が、少なくとも塗膜表面に海島構造を形成しており、かつ、1000μm×1000μm四方の領域内に、島が50個以上あることを特徴とする紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらにアクリレート系モノマー(B2)を含有することを特徴とする請求項1に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらにフッ素系化合物(D)を含有することを特徴とする請求項2に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
アクリレート系オリゴマー(A)は、ウレタンアクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
フッ素系化合物(D)は、部分フッ素ポリマーであることを特徴とする請求項1又は4に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに熱硬化性アクリル樹脂(F)を含有することを特徴とする請求項2に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
熱硬化性アクリル樹脂(F)は、アクリルラッカー樹脂(G)又はアクリルポリオール樹脂(H)であることを特徴とする請求項1又は7に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の紫外線硬化性樹脂組成物を被塗布物の表面に塗布して硬化した塗布層を備える塗膜であって、前記塗布層の表面が多孔質であり、孔の平均直径が0.1〜200μmであることを特徴とする塗膜。
【請求項10】
前記塗布層をアンダーコート層とし、かつ、該アンダーコート層の表面にトップコート層を更に備えることを特徴とする請求項9に記載の塗膜。
【請求項11】
前記アンダーコート層と前記トップコート層との間に金属層を更に備えることを特徴とする請求項10に記載の塗膜。
【請求項12】
前記金属層の金属材料が、スズ及び/又はインジウムであることを特徴とする請求項11に記載の塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美麗な意匠を施すことができる紫外線硬化性樹脂組成物及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの家電には、高い意匠性が求められており、例えば、塗装によって虹彩色模様の意匠を付与することが行われている。
【0003】
塗装によって虹彩色模様の意匠を発現するものには、(A)(a1)(ポリ)アルキレングリコールおよび(a2)アジピン酸を反応させて得られるポリエステルジオールに、更に(a3)ジイソシアネート化合物および(a4)ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートと、(B)分子内に1個以上のラジカル重合性2重結合を有する化合物、(C)光重合開始剤を含むアンダーコート層形成用被覆材組成物を用いる方法がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−54827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の塗料組成物を被塗物に塗装し、その上にアルミニウムを用いた金属蒸着を行うことにより、虹彩色模様の意匠を付与することが出来る。しかし、アルミニウムの蒸着膜は連続層を形成するため、その塗装物の電磁波透過性は著しく低下する。このことは、例えばこの塗装物を通信機器に用いた場合に、通信機能に悪影響が出るなどの問題の原因となる。この問題を解決するには、金属蒸着の材料として、スズやインジウム等を用いることが有効である。スズやインジウムを用いた蒸着膜は、不連続層を形成するため、電磁波透過性はアルミニウムの層と比較して、はるかに高いものとなる。しかし、特許文献1の塗料組成物の塗膜の上にスズやインジウムを用いた金属蒸着膜を形成した場合、虹彩色模様は発現せず、通常の鏡面の意匠となる。そこで、スズやインジウムを用いた場合に虹彩色模様を発現する塗料組成物が必要となる。
【0006】
本発明の目的は、アルミ顔料やパール顔料等の微粒子によらずに、また、特別な操作を必要とせずに、さらに、スズやインジウム等の不連続な金属蒸着膜と組み合わせても虹彩色外観を有する紫外線硬化性樹脂組成物及び塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、樹脂組成物に特定のオリゴマー、特定の化合物及び/又はモノマーを組み合わせて用いることで、紫外線硬化における一般的な操作で、虹彩色模様を有する塗膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、
アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)と、
アミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(B1)若しくは熱硬化性アクリル樹脂(F)のいずれか一方又はそれらの両方と、光重合開始剤(C)と、
フッ素系化合物(D)と、を含有し、
前記アミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(B1)は、アミノアクリレートオリゴマー又はアミン変性ポリエステルアクリレートオリゴマーであり、前記アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)と前記アミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(B1)とを混合したとき、前記アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)又は前記アミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(B1)のいずれか一方の成分が他方の成分中に油滴状に分散する関係にあるか、又は、前記アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)と前記熱硬化性アクリル樹脂(F)とを混合したとき、前記アミノ基を有さないアクリレート系オリゴマー(A)又は前記熱硬化性アクリル樹脂(F)のいずれか一方の成分が他方の成分中に油滴状に分散する関係にあり、塗布・硬化後の塗膜が、少なくとも塗膜表面に海島構造を形成しており、かつ、1000μm×1000μm四方の領域内に、島が50個以上あることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー、アクリルアクリレートオリゴマー及びポリエステルアクリレートオリゴマーの中から選ばれる少なくとも一つのアクリレート系オリゴマー(A)と、3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(B3)と、光重合開始剤(C)と、アクリレート系モノマー(B2)と、を含有し、前記アクリレート系オリゴマー(A)と前記3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(B3)とを混合したとき、前記アクリレート系オリゴマー(A)又は前記3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(B3)のいずれか一方の成分が他方の成分中に油滴状に分散する関係にあり、塗布・硬化後の塗膜が、少なくとも塗膜表面に海島構造を形成しており、かつ、1000μm×1000μm四方の領域内に、島が50個以上あることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、さらにアクリレート系モノマー(B2)を含有することが好ましい。
【0010】
本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、さらにフッ素系化合物(D)を含有することが好ましい。
【0011】
本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物では、前記アクリレート系オリゴマー(A)は、ウレタンアクリレートであることが好ましい。
【0013】
本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物では、フッ素系化合物(D)は、部分フッ素ポリマーであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、さらに熱硬化性アクリル樹脂(F)を含有することが好ましい。本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物では、熱硬化性アクリル樹脂(F)は、アクリルラッカー樹脂(G)又はアクリルポリオール樹脂(H)であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る塗膜は、本発明に係る紫外線硬化性樹脂組成物を被塗布物の表面に塗布して硬化した塗布層を備える塗膜であって、前記塗布層の表面が多孔質であり、孔の平均直径が0.1〜200μmであること特徴とする。
【0016】
本発明に係る塗膜では、前記塗布層をアンダーコート層とし、かつ、該アンダーコート層の表面にトップコート層を更に備えることが好ましい。多様な意匠を付与することができる。また、耐久性を高めることができる。
【0017】
本発明に係る塗膜では、前記アンダーコート層と前記トップコート層との間に金属層を更に備えることが好ましい。更に美麗な意匠とすることができる。
【0018】
本発明に係る塗膜では、前記金属層の金属材料が、スズ及び/又はインジウムであることが好ましい。従来、金属層の金属材料がスズ又はインジウムであるとき、虹彩色模様を持たない通常の鏡面状となってしまい、虹彩色模様を発現させることは難しかったところ、本発明ではスズ又はインジウムを用いても虹彩色模様を発現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、被塗布物の耐熱性にかかわらず、特別な操作を必要とせずに、また虹彩色模様を呈する微粒子等によらずに、さらには、スズやインジウム等の不連続な金属蒸着膜と組み合わせても虹彩色外観を有する紫外線硬化性樹脂組成物及び塗膜を提供することが出来る。また、アルミニウム等の連続な金属蒸着膜と組み合わせた場合にも虹彩色外観を発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】塗布層の表面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影画像である。
【
図2】塗布層の表面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して本発明の一態様を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0022】
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、アクリレート系オリゴマー(A)と、アクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアクリレート系オリゴマー(B)若しくは熱硬化性アクリル樹脂(F)のいずれか一方又はそれらの両方と、光重合開始剤(C)と、を含有し、塗布・硬化後の塗膜が、少なくとも塗膜表面に海島構造を形成しており、かつ、1000μm×1000μm四方の領域内に、島が50個以上ある。
【0023】
アクリレート系オリゴマー(A)及びアクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアクリレート系オリゴマー(B)は、紫外線の照射によって重合及び硬化して多孔質な塗膜を形成する成分である。
【0024】
アクリレート系オリゴマー(A)は、ウレタンアクリレートであることが好ましい。アクリレート系オリゴマー(A)は、脂肪族ウレタンアクリレートであることがより好ましい。さらに好ましくは、2官能の脂肪族ウレタンアクリレートである。
【0025】
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物では、アクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアクリレート系オリゴマー(B)が、アクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアミノ基を有するアクリレート系オリゴマー(以降アミノ基を有する化合物ということもある。)(B1)若しくはアクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアミノ基を有さないウレタンアクリレート系オリゴマー(以降アミノ基を有さない化合物ということもある。)(B3)のいずれか一方又はそれらの両方であることが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物では、アクリレート系オリゴマー(A)と、アクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアクリレート系オリゴマー(B)若しくは熱硬化性アクリル樹脂(F)のいずれか一方又は両方とは互いに溶解しない(以降、不相溶という。)か、又は相分離する。不相溶であること、あるいは相分離することによって、アクリレート系オリゴマー(A)又はアクリレート系オリゴマー(B)のいずれか一方の成分が他方の成分中に油滴状に分散する。または、同様に、不相溶であること、あるいは相分離することによって、アクリレート系オリゴマー(A)又は熱硬化性アクリル樹脂(F)のいずれか一方の成分が他方の成分中に油滴状に分散する。
【0027】
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、組成物中に相互に溶解しない(不相溶)又は相分離する成分が含まれており、これらが分散質と分散媒とに分かれて分散相を形成した状態で塗布することで、紫外線硬化性樹脂組成物の状態が塗膜に反映されて、多孔質な塗膜を形成することができる。塗膜は、少なくとも塗膜表面に海島構造(以降、多孔質な表面ということもある。)を形成しており、かつ、1000μm×1000μm四方の領域内に、島(以降、孔(窪み)ということもある。)が50個以上ある。島が50個以上あることで、虹色彩光感が高く、意匠の高い塗膜を得ることができる。主として、紫外線硬化性樹脂組成物における分散相を形成した状態が、固化後の塗膜に残る。塗膜表面に海島構造を形成していない場合又は塗膜表面に海島構造を形成していても、1000μm×1000μm四方の領域内に、島が50個未満である場合は、虹彩色模様とならない。塗膜の海島構造は、1000μm×1000μm四方の領域内に、島が80個以上あることがより好ましい。ここで、海島構造の島の数は、塗膜を倍率300倍で、領域をずらしながらSEM画像を複数枚撮影し、これらをつなぎ合わせ、1000μm×1000μm四方の領域を設定し、この領域内に全体が含まれる島の数とする。
【0028】
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、さらにアクリレート系モノマー(B2)を含有することが好ましい。
【0029】
前記アミノ基を有する化合物(B1)及びアクリレート系モノマー(B2)は、光増感作用を持つものが好ましい。具体的には、アミノアクリレートまたはアミノ変性ポリエステルアクリレートであることが好ましい。
【0030】
前記光重合開始剤(C)は、紫外線の照射によってアクリレート系オリゴマーやアクリレート系モノマーの重合反応を開始させる成分である。重合反応を開始させ、塗膜を硬化させることができる限り、汎用的な光重合開始剤を用いることが出来る。
【0031】
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、さらにフッ素系化合物(D)を含有することが好ましい。
【0032】
前記フッ素系化合物(D)は、表面調整剤として用いられる成分であり、部分フッ素ポリマーであることが好ましい。塗料の表面張力を下げることで、塗布後の塗膜が多孔質になりやすくする。
【0033】
紫外線硬化性樹脂組成物は、アクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアクリレート系オリゴマー(B)として、アミノ基を有する化合物(B1)とともに、又はアミノ基を有する化合物(B1)に代えてアミノ基を有さない化合物(B3)を含有させることが好ましい。塗膜の硬化性やその他諸物性を大幅に向上させることが出来る。アミノ基を有さない化合物(B3)は、好ましくは多官能のウレタンアクリレートであり、さらに好ましくは、3官能のウレタンアクリレートである。
【0034】
紫外線硬化性樹脂組成物は、アクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアクリレート系オリゴマー(B)とともに、又はアクリレート系オリゴマー(A)とは異なるアクリレート系オリゴマー(B)に代えて、更に熱硬化性アクリル樹脂(F)を含有させることが好ましい。硬化時の硬化収縮の低減やコストの低減、その他諸性能を向上させることが出来る。
【0035】
熱硬化性アクリル樹脂(F)は、加熱によって硬化する成分である。熱硬化性アクリル樹脂(F)は、アクリルラッカー樹脂(G)又はアクリルポリオール樹脂(H)であることが好ましい。アクリルラッカー樹脂(G)は、分子内に水酸基を有さないアクリル樹脂を溶剤に溶解したものであり、加熱によって溶剤が揮発することで硬化する。アクリルポリオール樹脂(H)は、分子内に水酸基を2個以上有するアクリル樹脂を溶剤に溶解したものであり、アクリルラッカー樹脂同様、加熱によって溶剤が揮発することで硬化する。
【0036】
紫外線硬化性樹脂組成物は、更に溶剤を含有することが好ましい。溶剤は、主に、重合反応を進行させる媒質としての役割、アクリレート系オリゴマー(A)中にアミノ基を有する化合物(B1)及び/又はアクリレート系モノマー(B2)などを均一に分散させる役割、塗装作業に適した粘度に調整する希釈剤としての役割及び硬化性を調整する役割をもつ。溶剤は、例えば、アセトン(AT)(沸点56.3℃)、酢酸エチル(EAC)(沸点77.1℃)、メチルエチルケトン(MEK)(沸点79.5℃)などの沸点が100℃以下の溶剤(以降、低沸点溶剤という。)、メチルイソブチルケトン(MIBK)(沸点116.7℃)、酢酸ブチル(BAC)(沸点126.3℃)、イソブチルアルコール(I‐BOH)(沸点108℃)、トルエン(TO)(沸点110.6℃)などの沸点が100℃を超え150℃以下の溶剤(以降、中沸点溶剤という。)、ジイソブチルケトン(DIBK)(沸点168.2℃)、イソ酪酸イソブチル(IBIB)(151℃)、ブチルセロソルブ(ブチセロ)(沸点171.2℃)、イソホロン(沸点215.2℃)などの沸点が150℃を超える溶剤(以降、高沸点溶剤という。)である。溶剤は、単独で使用するか、又は2種以上を併用してもよい。
図1及び
図2は、塗布層の一例を示す電子顕微鏡(SEM)よる撮影画像である。本実施形態に係る塗膜は、本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物を被塗布物の表面に塗布して硬化した塗布層を備える塗膜であって、
図1及び
図2に示すように塗布層が多孔質の表面を有する。
【0037】
被塗布物の材質は、特に制限はなく、例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアセタール(POM)である。被塗布物の形状は、特に制限はないが、例えば、筐体、ボタン、パネル、キーボードなど携帯電話又はパソコンなどの家電製品の部品、ハンドル、ドアノブ、ボタン、ダッシュボード、エンジンカバー、ホイールキャップなどの自動車内外装部品である。塗膜は、これらの外表面若しくは内表面又は全表面に形成される。
なお、被塗布物の表面を、塗膜との密着性を高めることを目的として表面処理を施してもよい。
【0038】
塗布層は、本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物の光硬化物からなり、
図1及び
図2に示すように表面が多孔質の膜を形成する。孔(窪み)の平均直径は0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることが更に好ましい。また、孔の平均直径は200μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。この孔(窪み)の存在により、可視光が乱反射され、反射光同士の干渉により虹彩色模様が発現する。ここで、孔(窪み)の平均直径は、塗膜を300倍、500倍又は1000倍で観察したSEM画像に、孔(窪み)を10〜15個含むような円を描き、この円内に全体が含まれる各孔の直径の平均値として求める。また、1枚のSEM画像内に孔(窪み)を10〜15個含むような円を描けない場合は、300倍、500倍又は1000倍で、領域をずらしながらSEM画像を複数枚撮影し、これらをつなぎ合わせた画像を用いる。孔の直径はフェレ径で測定し、水平フェレ径及び垂直フェレ径のそれぞれを測定した値のうち、大きなものとする。
【0039】
塗布層の厚さは、5〜50μmであることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る塗膜では、塗布層をアンダーコート層とし、かつ、アンダーコート層の表面にトップコート層を更に備えることが好ましい。トップコート層は、主に、色感、質感などの多様な意匠性を付与する役割、表面平滑性を向上させる役割及び塗布層を保護する役割をもつ。トップコート層は、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂などの硬化性樹脂を含有する。トップコート層は、有色顔料又は染料などの着色剤、パール顔料又はメタリック顔料などの高輝材料を含有してもよい。また、トップコート層は、レベリング剤、安定化剤などの各種添加剤を更に含有してもよい。トップコート層の態様は、例えば、クリヤ(無色透明)、カラークリヤ(有色透明)、ソリッドカラー(単色)である。
【0041】
トップコート層の厚さは、5〜50μmであることが好ましい。より好ましくは、10〜30μmである。
【0042】
本実施形態に係る塗膜では、アンダーコート層(塗布層)とトップコート層との間に金属層を更に備えることが好ましい。金属層の金属は、例えば、アルミニウム、スズ、インジウム、金、銀、銅、クロムである。
【0043】
金属層の金属材料が、スズ及び/又はインジウムであることが好ましい。本実施形態に係る塗膜は、金属層にスズ又はインジウムを用いた場合であっても虹彩色模様を発現することができる。金属層の金属材料がスズ及びインジウムである形態は、例えば、金属材料がスズ及びインジウムの合金である形態、金属層がスズを含む金属層及びインジウムを含む金属層の多層膜である形態である。
【0044】
金属層を設ける場合、トップコート層は、クリヤ又はカラークリヤであることが好ましい。
【0045】
金属層の厚さは、3〜100nmであることが好ましい。より好ましくは、10〜70nmである。
【0046】
次に、本実施形態に係る塗膜の形成方法について説明する。本実施形態に係る塗膜の形成方法は、塗布層形成工程を有する。塗布層形成工程は、紫外線硬化性樹脂組成物を被塗布物の表面に塗布する第一塗布工程と、塗布面に紫外線を照射して硬化させる第一硬化工程とを含む。
【0047】
第一塗布工程において、紫外線硬化性樹脂組成物の塗布方法は、特に制限はなく、刷毛塗り法、ローラー塗り法、スプレーガンによる吹付法、ロールコーター法、浸漬法などの公知の方法である。
【0048】
塗布層形成工程は、第一塗布工程と第一硬化工程との間に、塗布面を乾燥させる第一予備乾燥工程を更に有することが好ましい。予備乾燥を行うことで、紫外線硬化性樹脂組成物中の溶剤分を揮発させ、残留溶剤による硬化阻害を防ぐ効果が得られる。乾燥方法は、例えば、自然乾燥、加熱乾燥であり、加熱乾燥がより好ましい。加熱温度は、50℃以上90℃以下であることが好ましいい。50℃未満では効率が悪い。90℃を超えると、塗膜の平滑性が損なわれる場合がある。また、被塗布物の材質によっては熱による変形が発生する場合がある。乾燥時間は、1分以上20分未満であることが好ましい。1分未満では、予備乾燥の効果が得られない場合がある。20分以上では、白化が発生する場合がある。
【0049】
第一硬化工程において、光源の波長は200〜450nmであることが好ましい。500mJ/cm
2未満では硬化が不足する場合がある。2000mJ/cm
2を超えると良好な多孔質膜が形成されない場合がある。照射時間は、積算照射量及びピーク強度に応じて設定するため特に制限はないが、一例としては、積算照射量が500mJ/cm
2でピーク強度が50mW/cm
2のとき40秒であり、積算照射量が1000mJ/cm
2でピーク強度が80mW/cm
2のとき70秒であり、積算照射量が2000mJ/cm
2でピーク強度が100mW/cm
2のとき120秒である。
【0050】
塗膜の孔(窪み)の大きさは、選択するオリゴマーやアミノ基を有する化合物又はアクリレート系モノマー、光重合開始剤や光増感材の種類又は溶剤の他、例えば、紫外線の積算照射量又はピーク強度によって調整できる。
【0051】
本実施形態に係る塗膜の形成方法では、塗布層形成工程の後に、金属層形成工程を更に有することが好ましい。金属層の形成方法は、特に制限はないが、例えば、物理蒸着法(PVD法)又はめっき法である。PVD法は、例えば、イオンプレーティング、真空蒸着、スパッタリングである。めっき法は、例えば、電解めっき法、無電解めっき法である。
【0052】
本実施形態に係る塗膜の形成方法では、塗布層形成工程又は金属層形成工程の後にトップコート層形成工程を更に有することが好ましい。トップコート層形成工程は、トップコート層を形成する樹脂組成物(以降、トップコート層形成用樹脂組成物という。)を塗布層又は金属層の表面に塗布する第二塗布工程と、塗布面を硬化させる第二硬化工程とを含む。
【0053】
第二塗布工程において、トップコート層形成用樹脂組成物の塗布方法は、特に制限はなく、例えば第一塗布工程において列挙した塗布方法を利用できる。
【0054】
第二硬化工程において、硬化方法は、トップコート層の材質によって選択する事項であり、例えば、紫外線硬化、熱硬化である。本実施形態では、紫外線硬化であることがより好ましい。第二硬化工程を紫外線硬化で行う場合、硬化条件は、第一硬化工程において示した光源の波長、紫外線の積算照射量、ピーク強度及び照射時間などの各種条件を採用してもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
実施例1〜10と比較例1〜4の紫外線硬化性樹脂組成物の組成を表1に示す。アクリレート系オリゴマー(A)にはEBECRYL 230(ダイセル・サイテック社製、2官能脂肪族ウレタンアクリレート)、アミノ基を有する化合物(B1)にはEBECRYL 7100(ダイセル・サイテック社製、アミノアクリレート)、アクリレート系モノマー(B2)にはIRR214−K(ダイセル・サイテック社製、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)、光重合開始剤にはイルガキュア500(チバ・ジャパン社製光重合開始剤混合物)、フッ素系化合物(D)にはMasurf FS−2300(Mason Chemical社製、部分フッ素ポリマー)、アミノ基を有さない化合物(B3)には、ユニディック15−829(DIC社製、3官能ウレタンアクリレート)を用いた。これらはいずれも塗膜形成時に揮発せず、硬化して塗膜成分となるものである。実施例1、3、5、7、9及び比較例1、3はいずれも、アンダーコート塗膜を形成後、トップコートを形成させた。実施例2、4、6、8、10及び比較例2、4は、アンダーコート塗膜を形成後、スズ蒸着を行い、さらにその上にトップコートを形成させた。各層の形成は、次の要領で行った。
【0057】
(塗布層形成工程)
塗布層の形成は次のとおり行った。すなわち、紫外線硬化性樹脂組成物を、ABS板(寸法10mm×15mm、厚さ1mm、型番タフエース、緑川化成工業社製)上にスプレー塗装法で塗装した後、塗布面を60℃で3分間予備乾燥した。次いで、紫外線光源として空冷水銀ランプ(型番H045−L31、アイグラフィックス社製)を用いて、紫外線を積算照射量1000mJ/cm
2、ピーク強度80mW/cm
2で70秒間照射して硬化・乾燥させ、塗布層を形成した。
【0058】
(金属層形成工程)
金属層の形成は次のとおり行った。すなわち、塗布層上に真空蒸着装置(C−311型真空蒸着装置、昭和真空社製)を用いて、金属としてスズを蒸着させ、金属層を形成した。
【0059】
(トップコート層形成工程)
トップコート層の形成は次のとおり行った。すなわち、トップコート層形成用樹脂組成物(VIOLET TOP T−390M−2、東邦化研工業社製)を、金属層上にスプレー塗装法で塗装した後、塗布面を60℃で3分間予備乾燥した。次いで紫外線光源として空冷水銀ランプ(型番H045−L31、アイグラフィックス社製)を用いて紫外線を積算照射量1000mJ/cm
2、ピーク強度80mW/cm
2で約1分間照射して硬化・乾燥させ、トップコート層を形成した。
【0060】
【表1】
【0061】
得られた塗膜について、次の評価を行った。
<虹彩色模様の評価>
塗膜の表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:虹彩色模様が発現している(実用レベル)
×:虹彩色模様が発現していない(実用不適レベル)
【0062】
<表面状態及び断面状態の観察>(多孔質塗膜の形成の評価)
(塗布層)
実施例1において、蒸着層を形成しない塗布層を走査型電子顕微鏡(型式:JSM−5500LV、日本電子社製)を用いて倍率500倍と1000倍で上から表面状態を観察した。撮影したSEM画像を
図1及び
図2に示す。
図1及び
図2に示すように、塗布層の表面には微細な孔(窪み)が形成されていた。
【0063】
各実施例及び各比較例の塗膜を300倍で観察したSEM画像を複数枚つなげて1000μm×1000μm四方の枠を描き、この枠内に全体が含まれる島の数を数え、以下の基準で評価した。
○:塗膜表面に海島構造を形成しており、かつ、1000μm×1000μm四方の領域内に、島(微細な孔(窪み))が50個以上ある(実用レベル)
△:塗膜表面に海島構造を形成しているが、1000μm×1000μm四方の領域内に、島(微細な孔(窪み))が50個未満である(実用不適レベル)
×:塗膜表面に海島構造を形成していない(微細な孔(窪み)が形成されていない)(実用不適レベル)
【0064】
<硬化性の評価>
塗膜を爪で擦った際の塗膜の傷付きの程度によって、硬化性を評価した。
○:全く傷付かない(実用レベル)
△:傷が入るが、塗膜は脱落しない(実用レベル)
×:擦った際に塗膜が脱落する(実用不適レベル)
【0065】
実施例1、3、5、7、9の紫外線硬化性樹脂組成物はいずれも多孔質の塗膜を形成し、虹彩色模様を発現した。また、実施例2、4、6、8、10はそれぞれ実施例1、3、5、7、9の塗膜にスズ蒸着を行っており、これらに関しても虹彩色模様を発現した。また、実施例3〜10はアミノ基を有さない化合物(B3)を含むため、硬化性が大幅に向上した。
【0066】
比較例1の紫外線硬化性樹脂組成物は、アミノ基を有する化合物(B1)もアクリレート系モノマー(B2)も用いていないため、光硬化しても塗膜は多孔質なものとならず、したがって虹彩色模様は発現しなかった。比較例2も同様である。比較例3は光硬化しても塗膜は多孔質なものとならず、したがって虹彩色模様は発現しなかった。比較例4も同様である。
【0067】
実施例11〜24の紫外線硬化性樹脂組成物の組成及び評価結果を表2〜表4に示す。各層の形成は、実施例1〜10と同様の要領で行った。また、得られた塗膜について、次の評価を行った。
【0068】
<初期密着の評価>
JIS K−5600−5−6:1999「クロスカット法」に準じて、1mm×1mmの碁盤目状の切込みを100個入れ、粘着テープによる剥離試験を行った。
○:異常なし(実用レベル)
△:カケあり(実用不適レベル)
×:剥離あり(実用不適レベル)
【0069】
多孔質塗膜の形成、硬化性及び虹彩色模様の評価は、いずれも実施例1〜10と同様にした。評価結果を表2〜表4に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】