(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャリパの鋳造を行う際には、ひけ巣(空孔)を考慮する必要がある。溶湯がキャビティ内で凝固する際に収縮することで、容積が減少する。例えば、アルミニウム合金の場合には、容積の約7%程度の凝固収縮が生じると言われている。その結果、鋳物として得られたキャリパに、溶湯の凝固過程で生じた収縮によるひけ巣が形成される場合がある。このように、ひけ巣が形成された製品は、鋳造製品の品質に影響を及ぼす虞がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、キャリパの鋳造時、鋳型内に注湯された溶湯が凝固する際にひけ巣が生じることを抑制する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記課題を解決するため、溶湯を流し込む湯口部に、金型の本体部の材質よりも熱伝導率が小さい材質を用いることとした。
【0007】
より詳細には、本発明は、ブレーキのキャリパを鋳造するためのキャリパ用鋳造装置に用いる金型であって、前記金型の本体部と、前記金型の本体部の材質よりも熱伝導率が小さい材質からなる、溶湯を流し込む湯口部と、を備える。
【0008】
本発明では、溶湯を流し込む湯口部に、金型の本体部の材質よりも熱伝導率が小さい材質を用いることで、従来に比べて、湯口部付近の溶湯の冷却速度を遅らせることができる。その結果、溶湯の凝固過程で生じやすい、収縮によるひけ巣の発生を抑制することができる。
【0009】
ここで、前記湯口部は、鋳造後に前記キャリパを構成する前記金型の本体部の一部を構成するように、当該金型の本体内部に接続されていてもよい。これにより、キャリパのうち、特に湯口部付近におけるひけ巣の発生を抑制することができる。
【0010】
また、前記湯口部は、鋳造後に前記キャリパを構成する前記金型の本体部の一部を構成するように、当該金型の本体内部に接続され、かつ、前記キャリパの表面に接していてもよい。これにより、キャリパのうち、特に湯口部と接する付近におけるひけ巣の発生を抑
制することができる。なお、湯口部を設ける位置は、特に限定されないが、湯口部は、ひけ巣の発生をより抑制したい位置に設けるとよい。また、湯口部の大きさは、特に限定されないが、ひけ巣の発生を効果的に抑制できるよう、キャリパが大きい場合には湯口部も大きくすることが好ましい。
【0011】
また、金型を合金工具鋼とし、湯口部をステンレス鋼とした場合、前記湯口部は、前記金型の本体部の1/3倍の熱伝導性を有するものでもよい。これにより、より効果的にひけ巣の発生を抑制することができる。なお、上記熱伝導性の比率は一例であり、金型の材質と湯口部の材質によって適宜変更することができる。
【0012】
また、前記湯口部は、内面に断熱塗料が塗布されていてもよい。これにより、溶湯の温度低下を抑制することができる。その結果、湯口部付近の溶湯の冷却速度を更に遅らせることができる。
【0013】
ここで、本発明は、上述したキャリパ用鋳造装置で製造されたキャリパとして特定してもよい。
【0014】
また、前記金型の本体部の材質は、鉄を含む合金であり、前記湯口部の材質は、ステンレスとしてもよい。また、湯口部は、更に熱伝導率が低い物質、例えばセラミックスやチタン合金等でもよい。これにより、より効果的にひけ巣の発生を抑制することができる。
【0015】
ここで、本発明は、キャリパ用鋳造装置として特定することもできる。具体的には、本発明は、上述した金型と、金型内に配置される中子と、を備えるキャリパ用鋳造装置である。
【0016】
また、本発明に係る金型は、以下のようなキャリパ用鋳造装置に適用することもできる。例えば、キャリパ用鋳造装置とは、内部にピストンを嵌装するシリンダと、ディスクロータを収容するための空間を画定するロータ収容面と、を有するディスクブレーキのキャリパを鋳造するためのキャリパ用鋳造装置であって、金型と、前記金型内に配置される中子と、を備え、前記金型は、鋳造後に前記ロータ収容面の一部を形成するロータ収容面形成部を有し、前記中子は、鋳造時に前記ロータ収容面形成部で位置決め保持されて且つ鋳造後に前記ロータ収容面形成部と共に前記ロータ収容面の一部を形成するものとすることができる。
【0017】
上記キャリパ用鋳造装置によれば、キャリパのロータ収容面を、中子だけでなく、中子に比して熱伝導率が大きな金型の一部として形成されたロータ収容面形成部によって形成することができる。つまり、金型が有するロータ収容面形成部で中子を位置決め保持した状態で鋳造することにより、従来に比べて、キャリパのシリンダやロータ収容面を形成する部分の溶湯の冷却速度を促進することができ、凝固するタイミングを促進できる。このため、鋳造によって得られたキャリパにおけるシリンダやロータ収容面にひけ巣が生じることを抑制することができる。また、上記キャリパ用鋳造装置によれば、鋳造時において、金型が有するロータ収容面形成部に中子が位置決め保持されているため、金型に対する中子の組み付け位置の精度を高めることができる。つまり、本発明によれば、キャリパを鋳造する際に、鋳型内に注湯された溶湯が凝固する際にひけ巣が生じることを好適に抑制し、しかも金型に対する中子の組み付け位置の精度を高めることが可能なキャリパ用鋳造装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明に係るキャリパ用鋳造装置において、前記ロータ収容面形成部には、前記中子を位置決め保持する位置決め用溝が形成されており、前記中子は、鋳造後に前記シリンダを形成するシリンダ形成部と、前記シリンダ形成部に連結された幅木部と、を有し、
前記幅木部は、前記位置決め用溝に嵌合可能であって且つ鋳造後に前記ロータ収容面形成部と共に前記ロータ収容面を形成する被嵌合部を有していてもよい。このように、金型の一部として形成されるロータ収容面形成部に、中子を位置決め保持するための位置決め用溝を設けておき、中子の幅木部に含まれる被嵌合部を上記位置決め用溝に嵌合することで、中子の組み付け精度をより一層向上させることができる。なお、本発明に係るキャリパ用鋳造装置においては、金型に溶湯を注湯する際に、ロータ収容面形成部に設けられた位置決め用溝に中子の被嵌合部が嵌合されていればよい。従って、例えば、金型に注湯する前の工程(前工程)において金型の予備加熱(プレヒート)を行うことで金型を膨張させた状態で、中子の被嵌合部を金型の位置決め用溝に嵌合させるようにしてもよい。なお、本発明において、前記ロータ収容面形成部は、前記中子に比べて熱伝導率を大きくすることが好ましい。これにより、鋳造後にキャリパのシリンダやロータ収容面を形成する部分における溶湯の冷却速度をより好適に調整することができる。
【0019】
ここで、前記位置決め用溝は、第1の溝と、この第1の溝に交差する第2の溝とを含み、前記被嵌合部は、前記第1の溝と第2の溝とに嵌合されるように構成されていてもよい。このように互いに交差する第1の溝と第2の溝とに中子の幅木部に形成される被嵌合部を嵌合することで、第1の溝および第2の溝を含む位置決め用溝が中子をセットする際のガイドとして機能する。そのため、中子の組み付け時におけるセンタリング作業が容易となり、組み付け位置の精度をより一層向上させることができる。なお、互いに交差する第1の溝と第2の溝とによって形成される形状には、十字形状、T字形状(トの字形状)の何れもが包含される。つまり、位置決め用溝は、少なくとも第1の溝と第2の溝とを含んでいればよく、これら以外の溝を付加して位置決め用溝を形成してもよい。従って、位置決め用溝は、十字形状、T字形状等の他、H形状、井形状等を有していてもよい。但し、位置決め用溝は、これらの例示以外の形状を有していてもよい。前記第1の溝および前記第2の溝は直線状の溝であって、且つ互いに直交していてもよい。
【0020】
ここで、前記幅木部は、前記被嵌合部の端部に設けられると共に前記位置決め用溝よりも幅広のストッパー部を更に有し、前記ストッパー部は、前記被嵌合部が前記位置決め用溝に嵌合された際に、前記ロータ収容面形成部における前記位置決め用溝と直交する側面に当接する段差面を有していてもよい。このように構成することで、中子を金型に配置する際の中子の位置決め精度をより一層高めることができる。また、溶湯を金型内に注湯する際に、注湯された溶湯の流動に起因して中子が正規の位置からずれてしまうことを好適に抑制することができる。
【0021】
また、前記中子は、複数の前記シリンダ形成部を有し、前記シリンダ形成部の各々は前記幅木部によって連結されていてもよい。
【0022】
また、本発明は、キャリパの鋳造方法として特定することもできる。具体的には、本発明は、ブレーキのキャリパの鋳造方法であって、キャリパを鋳造するキャリパ用鋳造装置に用いる金型前記金型の本体部の材質よりも熱伝導率が小さい材質を前記キャリパ用鋳造装置の湯口部に用いてキャリパを鋳造する。
【0023】
また、本発明は、キャリパとして特定することもできる。すなわち、本発明は、上述したキャリパの鋳造方法によって生産されたキャリパである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、キャリパの鋳造時、鋳型内に注湯された溶湯が凝固する際にひけ巣が生じることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、キャリパ用鋳造装置に用いる金型、並びにディスクブレーキ用キャリパの実施形態について、図面に基づいて例示的に詳しく説明する。なお、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0027】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係るキャリパ用鋳型の金型の下型の概略を示す図である。
図2は、実施形態1に係るキャリパ用鋳型の金型の上型の概略を示す図である。符号100は金属製の金型である下型を表し、符号101は金属製の金型である上型を表し、符号200は中子を表す。図中、中子200には、ハッチングを付している。
図1に示すように、下型100の所定位置に中子200が配置されている。中子200は、組み合わされた状態で金型内に配置される砂型である。中子200は、キャリパの製造後、ディスクロータを配置するための空間を得るための基部210と、この基部210の両側に配置され、キャリパのピストンを嵌装するシリンダを形成するためのシリンダ形成部220とを有する。基部210は、言い換えると、キャリパにおけるディスクロータの収容部を画定するロータ収容面を形成するための鋳型といえる。
【0028】
下型100には、湯口21の一部を形成する断面視U字状の下型側湯口形成部21aが設けられている。下型側湯口形成部21aと、後述する断面視U字状の上型側湯口形成部21bとが組み合わされることで、内部に矩形状の空間を有する湯口21が形成される。下型側湯口形成部21aと上型側湯口形成部21bとのうち何れか一方を平板状としてもよい。また、本実施形態では、湯口21の断面積(溶融したアルミニウム合金(溶湯)が流れる方向と直交する方向の断面)が金型に向けて徐々に小さくなるように、換言すると湯口21の幅が徐々に狭くなるように形成されているが、湯口21の断面積(湯口21の幅)は同じでもよい。湯口21は、金型の内側と中子200の外側との間に存在する(形成される)空間であるキャビティ250に溶融したアルミニウム合金(溶湯)を流し込む
(注湯)。湯口21(下型側湯口形成部21a)は、金型の下型100と分離自在によって構成され、下型100の一部を構成するように、キャビティ250まで達している。実施形態1では、湯口21のうち、下型100の一部を構成する置換領域21a1が平面視において矩形状である。そのため、金型は、湯口21を受け入れ、置換領域21a1によって構成される被置換領域の形状が、湯口21の置換領域21a1の形状に合わせて形成されている。
【0029】
本実施形態では、下型側湯口形成部21aは下型100の長辺の2箇所に設けられているが、その数および位置については適宜変更することができる。更に、下型100には、押湯22の片側を形成する下型側押湯形成部22aが設けられている。押湯22は、キャビティ250に鋳込まれた溶湯の温度降下および凝固に伴って生じる収縮に対して溶湯を補給し、所謂ひけ巣を防止するための溶湯を貯めておく空間である。なお、押湯22の反対側に、更に押湯を設けるようにしてもよい。
【0030】
図2に示すように、上型101の底面102には、2つの金型凸片(図示せず)が対向配置した状態で立設している。ここで、
図1に示すように、下型100に中子200が組み付けられた(設置された)状態で、第2ロータ収容面形成部230と中子200との間には隙間240が形成されている。上型101側に設けられた金型凸片(図示せず)は、上型101および下型100が組み立てられた際に、上記の隙間240にちょうど嵌め込まれ、金型凸片によって隙間240が埋まるように、その位置、大きさおよび窓部形状が決定されている。また、
図2において、符号21bは「上型側湯口形成部」であり、上述したように、下型100側に設けられた下型側湯口形成部21aと組み合わせられることで、金型の湯口21を形成する。上型側湯口形成部21bは、上型101の長辺に設けられ、下型100側の下型側湯口形成部21aと対応する位置に配置されている。また、
図2において、符号22bは「上型側押湯形成部」であり、下型100側に設けられた下型側押湯形成部22aと組み合わせられることで、金型の押湯22を形成する。
【0031】
湯口21(下型側湯口形成部21a、上型側湯口形成部21b)は、ステンレス鋼によって構成されている。すなわち、湯口21は、金属製の金型の下型100、及び上型101と異なる材質によって構成されている。湯口21に用いられるステンレス鋼は、熱伝導率が17W/mKであり、S50C等といった合金工具鋼(例えば、S50Cの熱伝導率は54W/mK程度)に比べて熱伝導率が小さいことから、湯口21付近の溶湯の冷却速度を遅らせることができる。その結果、溶湯の凝固過程で生じやすい、収縮によるひけ巣の発生を抑制することができる。湯口21の熱伝導率が大きいと、溶湯の流動性が小さいことから、湯口21を大きくし、溶湯の重力を利用して溶湯を押し込む必要がある。そのため、従来は、湯口21を大きくせざるを得ない。これに対し、実施形態1では、湯口21の熱伝導率が小さく、溶湯の流動性が大きい状態を従来よりも長く維持することができる。そのため、少ない溶湯でも溶湯が金型内に行き渡るため、湯口21を従来よりも小さくすることができる。なお、湯口21は、ステンレス鋼に代えて、セラミックス、チタン合金等としてもよい。セラミックスの熱伝導率は、0.03W/mKであり、チタン合金の熱伝導率は、22W/mKである。また、湯口21の内面には、断熱塗料を塗布してもよい。断熱塗料には、セラミックス製の断熱塗料が例示される。
【0032】
湯口21と金型との接続は、金型からの脱着や交換の作業性を考慮し、ボルトなどの固定部材によって行うことができる。湯口21及び金型には、ボルトの軸部を受け入れる孔部を設ければよい。孔部の位置は、特に限定されない。ボルトの頭部が湯口側に位置していてもよく、また、金型側に位置していてもよい。ボルトの頭部が湯口側に位置する場合、例えば湯口21の金型の側面と接するフランジに孔部を設け、湯口21と金型とを固定することができる。ボルトの頭部が金型側に位置する場合、金型の背面から湯口21に達するように孔部を設け、湯口21と金型とを固定することができる。
【0033】
ここで、
図3は、実施形態1の変形例1に係るキャリパ用鋳型の金型の上型の概略を示す図である。また、
図4は、実施形態1の変形例2に係るキャリパ用鋳型の金型の上型の概略を示す図である。実施形態1の変形例1に係るキャリパ用鋳型の金型の上型101では、湯口21のうち、置換領域21b1が平面視において、先端に向けて徐々にその幅が広くなるように形成されている。換言すると、実施形態1の変形例1に係るキャリパ用鋳型の金型の上型では、湯口21の置換領域21b1が平面視において、台形形状である。また、実施形態1の変形例
2に係るキャリパ用鋳型の金型の上型101では、湯口21の置換領域21b1が平面視において、先端が湾曲し、かつ、根元よりも幅広に形成されている。実施形態1の変形例1、2に係るキャリパ用鋳型の金型では、湯口21(下型側湯口形成部21a)が、金型と分離し難い構造となっている。なお、実施形態1の変形例1、2に係るキャリパ用鋳型の金型は例示であり、上型と下型で湯口形成部の形状の組合せは限定されるものではない。
【0034】
以上より、実施形態1又は変形例1に係るキャリパ用鋳型の金型では、溶湯を流し込む湯口21に、金型よりも熱伝導率が小さい材質を用いることで、従来に比べて、湯口21付近の溶湯の冷却速度を遅らせることができる。その結果、溶湯の凝固過程で生じやすい、収縮によるひけ巣の発生を抑制することができる。
【0035】
<実施形態2>
実施形態1の湯口21や押湯22は、実施形態2や変形例に係る、以下に説明するキャリパ用鋳造装置にも適用することができる。
図5は、実施形態2に係るキャリパ用鋳造装置の概略構成を示す図である。
図6は、実施形態2に係るキャリパ用鋳造装置の分解斜視図である。
図7は、実施形態2に係るキャリパ用鋳造装置を構成する中子をセットした状態の下型を示す図である。
図8は、実施形態2に係るキャリパ用鋳造装置を構成する上型を示す図である。
図9〜
図13は、実施形態2に係るキャリパ用鋳造装置によって鋳造するキャリパ1の外観の一例を示す図である。
図9は、実施形態2に係るキャリパ1をディスクロータの外径側から見た正投影図である。
図10は、実施形態2に係るキャリパ1を一方の側面側から見た正投影図である。
図11は、実施形態2に係るキャリパ1を他方の側面側から見た正投影図である。
図12は、実施形態2に係るキャリパ1の主要断面図である。
図13は、実施形態2に係るキャリパ1をディスクロータの軸側から見た正投影図である。
【0036】
まず、
図9〜
図13を参照して、本実施形態に係るキャリパ1の概略構成について説明する。このキャリパ1は、対向ピストン型ディスクブレーキに使用するもので、アルミニウム合金によって一体に形成したアルミキャリパである。キャリパ1は、車輪と共に回転するディスクロータ(図示せず)の軸方向両側に配置された第1ボディ部2および第2ボディ部3と、これら両ボディ部2,3を連結する連結部4とを一体に形成したものである。そして、図示の例では、第1ボディ部2および第2ボディ部3にそれぞれ3個ずつ、キャリパ1全体では合計6個のシリンダ5が設けられている。ディスクブレーキの組み立て状態で、これら各シリンダ5には、それぞれピストン(図示せず)が嵌装される。
【0037】
第1ボディ部2および第2ボディ部3の間には、上述したディスクロータと、一対のブレーキパッド(図示せず)とを収容(配置)するための空間である収容部6が形成されている。また、収容部6は、ロータ収容面7によって画定されている。ロータ収容面7は、第1ボディ部2、第2ボディ部3および連結部4の内壁面として形成されている。なお、このキャリパ1のその他の基本的構造については、従来から知られているアルミニウム合金製のキャリパと同様であるため、その詳しい説明を省略する。
【0038】
上述したキャリパ1は、
図5〜
図8に示すキャリパ用鋳造装置(以下、単に「鋳造装置
」という)10によって鋳造される。鋳造装置10は、キャリパ1を鋳造するための鋳型である。鋳造装置10は、金属製の金型20と、中子30とを備える。中子30は、組み合わされた状態で金型20内に配置される砂型である。中子30の詳細については後述する。鋳造装置10によるキャリパ1の鋳造においては、金型20の内側と中子30の外側との間に存在する(形成される)空間であるキャビティ60内に溶融したアルミニウム合金(溶湯)を流し込む(注湯)。外部からキャビティ60への溶湯の注湯は、
図5に示す湯口21から行われる。
図5に示す例では、鋳造装置10を2つの湯口21を備えているが、その数は適宜変更することができる。また、湯口21の大きさおよび配置位置は適宜変更なし得る設計事項である。湯口21からキャビティ60内への注湯は、鋳造装置10の姿勢を
図5に示す状態から90°程度起こし、湯口21の開口がほぼ鉛直上向きとなった状態で行われる。但し、注湯時における鋳造装置10の姿勢は適宜変更することができるのは勿論である。
【0039】
金型20は、互いに下型40および上型50から構成されている。下型40に中子30を組み付けた後(セットした後)、下型40および上型50を締結具等を用いて連結することにより、鋳造装置10の組み立てが完了し、湯口21から溶湯を流し込む注湯工程に移行することになる。下型40は、主として鋳造後におけるキャリパ1の鉛直方向下側部分を形成するための金型であり、上型50は主としてキャリパ1の鉛直方向上側部分を形成するための金型である。
【0040】
次に、金型20(下型40および上型50)、中子30の詳細構造について説明する。なお、金型20の材料としては、例えば、FC250,S50C,S55C,SKD61等といった合金工具鋼が例示できるが、これには限定されない。下型40および上型50は、連結時に互いに重ね合される接合面41,51を有する。また、下型40の接合面41には、2個の位置合わせ用ピン42が設けられている。一方、上型50の接合面51には、位置合わせ用ピン42を挿入可能な挿入孔52が形成されている。下型40および上型50を連結して鋳造装置10を組み上げる際には、挿入孔52に位置合わせ用ピン42を挿入することで、下型40および上型50の平面位置を規定通りの位置に合わせることができる。本実施形態では、位置合わせ用ピン42および挿入孔52を、それぞれ下型40および上型50に2個ずつ設けるようにしているが、その数は適宜変更することができる。
【0041】
図6に示すように、下型40の内面から、鋳造後のロータ収容面7の一部を形成するロータ収容面形成部44が突設されている。このロータ収容面形成部44には、十字型の位置決め用溝45が設けられている。ロータ収容面形成部44は位置決め用溝45によって4個の金型ブロック44a〜44dに分割されている。金型ブロック44a〜44dによって構成されるロータ収容面形成部44は、鋳造後のキャリパ1における周方向中央近傍部に対応する箇所のロータ収容面7を形成する金型である。また、
図6から明らかなように、位置決め用溝45は、ロータ収容面形成部44に十字型に形成された十字型溝ということができる。このような十字型溝として形成された位置決め用溝45のうち、金型20の短辺方向に平行な直線溝を「第1位置決め用溝45a」と呼び、金型20の長辺に平行な直線溝を「第2位置決め用溝45b」と呼ぶ。第1位置決め用溝45aおよび第2位置決め用溝45bは互いに直交している。なお、金型20の長辺方向は、鋳造後におけるキャリパ1の収容部6に配置されるディスクロータの周方向に対応する。また、金型20の短辺方向は、鋳造後におけるキャリパ1の収容部6に配置されるディスクロータの軸方向に対応する。本実施形態において、第1位置決め用溝45aは第1の溝の一例であり、第2位置決め用溝45bは第2の溝の一例である。また、第1位置決め用溝45aおよび第2位置決め用溝45bは直交していなくてもよく、斜めに交差していてもよい。
【0042】
下型40において、ロータ収容面形成部44の両側には、ロータ収容面形成部44と離
れて第2ロータ収容面形成部46が下型40の内面から突出形成されている。第2ロータ収容面形成部46は、鋳造後のキャリパ1における周方向端部寄りの部分に対応する箇所のロータ収容面7を形成する金型である。
【0043】
次に、中子30について説明する。中子30は、下型40に設置される砂型である。中子30は、キャリパ1のシリンダ5等の空洞部を形成する部分として金型20内に配置される。本実施形態において、中子30は、熱硬化性の合成樹脂を配合した硅砂(レジンコーテッドサンド)を加熱硬化させるシェルモールド法によって製造されたシェル中子である。
【0044】
中子30は、鋳造後にシリンダ5を形成するためのシリンダ形成部31、シリンダ形成部31に連結された幅木部32、および油路形成部33等を有する。ここで、キャリパ1は、第1ボディ部2および第2ボディ部3にそれぞれ3個ずつのシリンダ5が並び、且つ、第1ボディ部および第2ボディ部3におけるシリンダ5同士が対向して配置される6ポットの対向ピストン型キャリパである。そのため、中子30においても、合計6個のシリンダ形成部31を備えている。
【0045】
ここで、6個のシリンダ形成部31を、符号31a〜31fによって表す。
図6および
図7に示すように、シリンダ形成部31a〜31c,シリンダ形成部31d〜31fが一列に並んでいる。シリンダ形成部31a〜31cとシリンダ形成部31d〜31fとの間に挟まれるようにして幅木部32が介在し、この幅木部32によって各シリンダ形成部31a〜31fが一体に連結されている。また、シリンダ形成部31aとシリンダ形成部31d、シリンダ形成部31bとシリンダ形成部31e、シリンダ形成部31cとシリンダ形成部31fがそれぞれ対向する位置に設けられている。
【0046】
ここで、幅木部32は、シリンダ形成部31bおよび31eを連結する第1梁部34と、第1梁部34に直交する第2梁部35とを有する。第1梁部34の幅は、第1位置決め用溝45aの幅に等しい。また、第2梁部35は、上記の第2位置決め用溝45bに嵌合される被嵌合部35aと、この被嵌合部35aの両端に設けられる一組のストッパー部35bとを有している。ストッパー部35bは、第2梁部35の被嵌合部35aよりも幅が広く形成されており、第2梁部35の被嵌合部35aとの境界部に段差面36(
図7を参照)が形成されている。この段差面36は、第2梁部35における被嵌合部35aの側面と、ストッパー部35bの側面とを接続する面であり、第2梁部35の側面およびストッパー部35bの側面に対して直交する面として形成されている。第2梁部35における被嵌合部35aの幅は、第2位置決め用溝45bの幅と等しい。更に、幅木部32は、シリンダ形成部31aおよび31dを連結する第3梁部37、シリンダ形成部31cおよび31fを連結する第4梁部38を有する。これら第3梁部37および第4梁部38は、第1梁部34と平行に、且つ、第2梁部35に対して直交に配置されている。また、第2梁部35における被嵌合部35aの長さは、第2位置決め用溝45bの長さに等しく、被嵌合部35aの両端に設けられているストッパー部35bと被嵌合部35aとの境に形成された段差面36がロータ収容面形成部44の側面に当接している。
【0047】
次に、幅木部32と位置決め用溝45との関係について説明する。上記のように、幅木部32における第1梁部34および第2梁部35は互いに直交しているため、第1梁部34および第2梁部35によって十字型の十字梁部が構成されている。以下では、第1梁部34および第2梁部35をまとめて十字梁部39と総称する。
【0048】
本実施形態では、第1梁部34と第1位置決め用溝45aの幅が互いに等しく、第2梁部35の被嵌合部35aと第2位置決め用溝45bの幅が互いに等しくなるように設計されている。従って、十字梁部39における第1梁部34が第1位置決め用溝45aに対し
て嵌合可能であり、十字梁部39における第2梁部35の被嵌合部35aが第2位置決め用溝45bに対して嵌合可能となっている。本実施形態では、中子30を下型40に組み付ける際に、ロータ収容面形成部44に設けられた位置決め用溝45に、中子30の十字梁部39を嵌め込むことにより、中子30の位置決めを容易に精度良く行うことができる。本実施形態においては、中子30を下型40にセットする際、位置決め用溝45に嵌合される十字梁部39が本発明に係る被嵌合部に相当する。なお、中子30における十字梁部39(第1梁部34、第2梁部35)が位置決め用溝45(第1位置決め用溝45a、第2位置決め用溝45b)に嵌め込まれた状態において、十字梁部39の上面はロータ収容面形成部44と共に鋳造後にキャリパ1のロータ収容面7を形成する。
【0049】
なお、本実施形態では、第1梁部34および第1位置決め用溝45aの幅を同じ寸法に設計し、第2梁部35の被嵌合部35aおよび第2位置決め用溝45bの幅を同じ寸法に設計する場合を説明したが、これには限定されない。例えば、第1梁部34の幅を第1位置決め用溝45aの幅よりも僅かに小さな寸法に設計し、第2梁部35における被嵌合部35aの幅を第2位置決め用溝45bの幅よりも僅かに小さな寸法に設計してもよい。そして、中子30を下型40にセットする際に下型40の予備加熱(プレヒート)を行うことで下型40を熱膨張させ、第1位置決め用溝45aおよび第2位置決め用溝45bの幅を常温時よりも広げてから、それぞれに第1梁部34と第2梁部35の被嵌合部35aとを嵌め込むようにしてもよい。
【0050】
次に、上型50について説明する。
図7に示すように、下型40に中子30が組み付けられた(設置された)状態で、第2ロータ収容面形成部46と中子30との間には隙間23が形成されている。上型50の底面54には図示しない金型凸片が2つ設けられており、上型50および下型40が組み立てられた際に、上型50側の金型凸片が上記の隙間23にちょうど嵌め込まれてその隙間23が埋まるように金型凸片の位置、大きさおよび窓部形状が決定されている。
【0051】
以上のように構成される鋳造装置10においては、下型40に中子30が組み付けられた(セットされた)後、下型40に上型50が組まれることで完成する。そして、金型20内に形成されるキャビティ60に、溶融したアルミニウム合金(溶湯)を流し込む注湯工程が行われる。つまり、本実施形態に係るディスクブレーキ用キャリパの製造方法では、中子30における十字梁部39(被嵌合部)をロータ収容面形成部44に形成された位置決め用溝45(第1位置決め用溝45a,第2位置決め用溝45b)に嵌合して金型20内に中子30を配置した後、その中子30が配置された金型20内に溶融したアルミニウム合金(溶湯)を注湯する注湯工程が行われる。なお、キャビティ60は、下型40および上型50と中子30との間に形成される隙間空間である。
【0052】
本実施形態に係る鋳造装置10によれば、鋳造後のロータ収容面7を、中子30の幅木部32および金型から成るロータ収容面形成部44(金型ブロック44a〜44d)によって形成することになる。ここで、中子30を形成する硅砂の熱伝導率は、一般に0.38W/mK程度であり、金型(例えば、S50Cの熱伝導率は54W/mK程度)に比べて顕著に小さい。従来のキャリパ用鋳型においては、中子200における大容積の基部210によって、鋳造後におけるロータ収容面を形成するため、鋳造後のキャリパにおいてシリンダやロータ収容面にひけ巣が発生し易いという課題があった。
【0053】
これに対して、本実施形態における鋳造装置10によれば、キャリパ1のロータ収容面7を、中子30だけでなく、中子30に比して熱伝導率が大きな金型により形成されたロータ収容面形成部44(金型ブロック44a〜44d)によって形成することになる。これによれば、従来に比べて、キャリパ1のシリンダ5やロータ収容面7を形成する部分の溶湯の冷却速度を促進することができるため、凝固するタイミングを促進できる。よって
、キャリパ1のシリンダ5やロータ収容面7を形成する部分の溶湯が、他の部位に比べて過度に遅れて凝固することがない。このため、鋳造によって得られたキャリパ1におけるシリンダ5やロータ収容面7にひけ巣が生じることを抑制することができる。なお、中子30の周辺に位置する溶湯の凝固タイミングは、他の部位における溶湯よりも遅くなると考えられるが、本実施形態における中子30は従来の中子200に比べて容積を小さくすることができるため、中子30の周辺部の溶湯が凝固する際には押湯から溶湯を補給することで、ひけ巣を十分に抑制することができる。
【0054】
なお、キャリパ1のシリンダ5やロータ収容面7を形成する部分における溶湯の凝固タイミングは、熱伝導率が小さな中子30を構成する幅木部32と、中子30(幅木部32)に比べて熱伝導率が顕著に大きい金型のロータ収容面形成部44(金型ブロック44a〜44d)との面積比を調整することで、所望のタイミングにコントロールすることができる。つまり、熱伝導性の高い中子30と冷却性の高い金型とをバランス良く設計することで、鋳造によって得られるキャリパ1に欠陥が生じることを好適に抑制することができる。
【0055】
更に、鋳造装置10によれば、中子30を下型40にセットする際、下型40側に形成されたロータ収容面形成部44の位置決め用溝45に、幅木部32に含まれる十字梁部37を嵌合させるようにした。これによれば、従来のように、いわゆる箱状の中子200(基部210)を金型にセットすることがないため、中子30のセット位置精度を従来に比べて高めることが可能となる。特に、本実施形態においては、位置決め用溝45を十字型溝として形成し、この十字型溝に十字梁部39を隙間無く嵌合するようにした。これによれば、位置決め用溝45が中子30をセットする際のガイドとしても機能するため、中子30の組み付け時におけるセンタリング作業が容易なものとなり、組み付け位置の精度をより一層向上させることができる。また、位置決め用溝45を構成する第1位置決め用溝45aおよび第2位置決め用溝45bを直線状に形成し、双方を直交させることによって、下型40(金型)の加工性を向上させることができる。つまり、下型40(金型)の加工精度を向上させることができるため、下型40に対する中子30の組み付け位置の精度も向上し、鋳造製品の寸法精度を高めることができる。また、上記のように、下型40のロータ収容面形成部44における第1位置決め用溝45aおよび第2位置決め用溝45bを互いに直交させることにより、これらに嵌合させる中子30の第1梁部34および第2梁部35も互いに直交して構成されることになる。これによれば、中子30の形状を左右対象に形成することができ、中子30を成形する際の精度を高めることができる。なお、下型40のロータ収容面形成部44に形成される第1位置決め用溝45aおよび第2位置決め用溝45b(中子30の第1梁部34および第2梁部35)は直交していなくてもよく、交差していれば、中子30のセット位置精度を従来に比べて高めることが可能となる。
【0056】
更に、本実施形態における中子30によれば、十字梁部39を構成する第2梁部35における被嵌合部35aの両端にストッパー部35bを設けるようにした。これによれば、第2梁部35における被嵌合部35aが第2位置決め用溝45bに嵌合された際に、下型40に設けられたロータ収容面形成部44における第2位置決め用溝45bと直交する側面に、ストッパー部35bの段差面36を当接させることができる。これにより、中子30の位置決め精度をより一層高めることができる。また、注湯工程において、キャビティ60に注湯された溶湯の流動に起因して、中子30が正規位置からずれてしまうことを好適に抑制することが可能となる。なお、中子30を下型40に組み付ける際にストッパー部35bの段差面36が当接するロータ収容面形成部44の側面は、ロータ収容面形成部44における第2位置決め用溝45bと直交していなくても交差していれば中子30の位置決め精度を高める効果が期待できる。
【0057】
以上より、本実施形態に係る鋳造装置10によれば、キャリパ1を鋳造する際に、鋳造装置10内に注湯された溶湯が凝固する際にひけ巣が生じることを好適に抑制し、しかも金型20(本実施形態においては下型40)に対する中子30の組み付け位置の精度を高めることが可能な技術を提供することができる。なお、本実施形態に係る鋳造装置10によって製造したキャリパ1のロータ収容面7には、
図13に示すように、中子30側の十字梁部39(第1梁部34,第2梁部35)とロータ収容面形成部44との境界部に形成された略十字型のパーティングラインLpが形成されている。本実施形態においては、十字梁部39(第1梁部34,第2梁部35)とロータ収容面形成部44との高さが等しくなるように設計されているため、製造されたキャリパ1のロータ収容面7にはパーティングラインLpによって十字跡部が現出するようになる。また、鋳造装置10における他の形態として、十字梁部39(第1梁部34,第2梁部35)をロータ収容面形成部44の高さよりも低く設計する場合、キャリパ1のロータ収容面7には、パーティングラインLpによって十字形状を有する突部(「十字リブ」ともいえる)が形成される。これによれば、キャリパ1におけるロータ収容面7の表面積が増加するため、キャリパ1の放熱性を向上させることができる。
【0058】
なお、以上述べた実施の形態は本発明を説明するための一例であって、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得る。例えば、本実施形態では、アルミキャリパを鋳造する鋳造装置を例に説明したが、これには限られず、重力鋳造方式によるキャリパの鋳造装置全般に適用することができる。また、本実施形態では、6ポットの対向ピストン型キャリパを例に説明したが、ピストンの数は特に限定されない。
【0059】
例えば、
図14は、上述した下型40および中子30の変形例について説明する図である。
図14には、ピストンを片側に2個ずつ配置した4ポットの対向ピストン型キャリパを鋳造するための下型40Aおよびこの下型40Aに組み付けた中子30Aを示している。以下では、下型40Aおよび中子30Aと、上述した6ポット用の下型40および中子30との相違点を中心に説明する。中子30Aは、下型40Aに設置される砂型であり、上述までの中子30と同様に、硅砂を加熱硬化させて製造されている。
【0060】
中子30Aは、鋳造後にシリンダ5を形成するためのシリンダ形成部31´、シリンダ形成部31´に連結された幅木部32A、および油路形成部33等を有する。本変形例に係る中子30Aは、4個のシリンダ形成部31´を備えている点で、6個のシリンダ形成部31を備えた上述までの中子30と相違する。幅木部32Aは、各シリンダ形成部31´に連結されている。
【0061】
ここで、4個のシリンダ形成部31´を、符号31´a〜31´dによって表す。
図14に示すように、シリンダ形成部31´aおよび31´bと、シリンダ形成部31´cおよび31´dが一列に並んでいる。シリンダ形成部31´aおよび31´bとシリンダ形成部31´cおよび31´dとの間に挟まれるようにして幅木部32Aが介在し、この幅木部32Aによって各シリンダ形成部31´a〜31´dが一体に連結されている。また、シリンダ形成部31´aとシリンダ形成部31´c、シリンダ形成部31´bとシリンダ形成部31´dがそれぞれ対向する位置に設けられている。
【0062】
ここで、幅木部32Aは、シリンダ形成部31´aおよびこれに対向するシリンダ形成部31´cを連結する第1連結梁部321、シリンダ形成部31´bおよびこれに対向するシリンダ形成部31´dを連結する第2連結梁部322を有する。第1連結梁部321および第2連結梁部322は互いに平行に配置されている。また、幅木部32Aは、第1連結梁部321および第2連結梁部322の中間部同士を連結すると共にこれらに直交して配置される第3連結梁部323を有する。
【0063】
第3連結梁部323は、後述する下型40A側に設けられる位置決め溝に嵌合される被嵌合部323aと、この被嵌合部323aの両端に設けられる一組のストッパー部323bとを有している。ストッパー部323bは、上述したストッパー部35bに対応する部材である。ストッパー部323bは、被嵌合部323aに比べて横幅が一段広くなっており、ストッパー部323bと被嵌合部323aとの間の境界部は、段差面324(
図14を参照)が形成されている。この段差面324は、第3連結梁部323における被嵌合部323aの側面と、ストッパー部323bの側面とを接続する面であり、被嵌合部323aの側面およびストッパー部323bの側面に対して直交する面として形成されている。
【0064】
一方、下型40Aの内面には、鋳造後のロータ収容面7の一部を形成するロータ収容面形成部44´が突設されている。このロータ収容面形成部44´には、一文字型(I型)の位置決め用溝45´が設けられている。本変形例において、位置決め用溝45´の溝深さはロータ収容面形成部44´の高さと等しくなっており、ロータ収容面形成部44´は位置決め用溝45´を挟んで2個の金型ブロック44´a,44´bに分割されている。金型ブロック44´a,44´bによって構成されるロータ収容面形成部44´は、鋳造後のキャリパにおける周方向中央近傍部に対応する箇所のロータ収容面を形成する金型である。
【0065】
次に、幅木部32Aと位置決め用溝45´との関係について説明する。上記のように、幅木部32Aの被嵌合部323aの横幅は、位置決め用溝45´の横幅と等しく、被嵌合部323aは位置決め用溝45´に嵌合されている。また、被嵌合部323aの長さは、位置決め用溝45´の長さ(言い換えると、金型ブロック44´a,44´bの横幅)に等しく、被嵌合部323aの両端に設けられているストッパー部323bと被嵌合部323aとの境に形成された段差面324が金型ブロック44´a,44´bの側面に当接した状態で、下型40Aに対して組み付けられる中子30Aの位置決めが行われている。
【0066】
本変形例においては、中子30Aを下型40Aに組み付ける際に、ロータ収容面形成部44´に設けられた位置決め用溝45´に、中子30Aの幅木部32Aにおける被嵌合部323aを嵌め込むことにより、中子30Aの位置決めを容易に精度良く行うことができる。なお、本発明に係るキャリパ用鋳造装置、キャリパ用鋳造装置に用いる中子および金型は、ピストンが片押し形式(フィストタイプ)のディスクブレーキ用キャリパに適用することも可能である。
【0067】
また、上述までの実施形態では、6ポットの中子30、4ポットの中子30Aを例に説明したが、本発明の適用はこれらに限定されるものではない。
図15A〜15Cは、実施形態2に係る中子30の他のバリエーションを示す図である。
図15Aに示す中子30Bは2ポット仕様となっており、
図15Bに示す中子30Cは8ポット仕様となっている。また、
図15Cに示す中子30Dは5ポット仕様となっている。
図15A〜15Cにおいて、
図3に示した中子30と共通の部位については同じ符号を付している。また、
図15A〜15Cに示すバリエーション以外の中子を適用してもよいのは勿論である。また、上記実施形態において、直交する第1の直線溝と第2の直線溝の組み合わせとして、第1梁部34および第2梁部35(被嵌合部35a)を例に挙げて説明したが、第1梁部34および第2梁部35(被嵌合部35a)が直交する形態としてT字形(トの字形)に直交していてもよい。つまり、位置決め用溝は、少なくとも第1の直線溝と第2の直線溝とを含んでいればよく、これら以外の溝を付加して位置決め用溝を形成してもよい。従って、位置決め用溝は、十字形状、T字形状等の他、H形状、井形状等を有していてもよい。但し、位置決め用溝は、これらの例示以外の形状を有していてもよい。以上述べた実施形態は、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。また、上述の実施形態及び変形例は、可能な限りこれらを組み合わせて実施することができる。なお、本実施形態に係る鋳造装置によって製造する製品は、アルミ、アルミ合金以外にチタンや
マグネシウム等を用いて製造してもよく、種々の材料を用いることができる。
【0068】
<実施例>
実施形態1に係るキャリパ用鋳型の金型を用いて、ひけ巣の発生状況の確認試験を行った。本試験では、湯口21に金型と同じS50Cを用いた場合、金型の熱伝導率の約1/3倍のSUSを用いた場合、金型の熱伝導率の約1/200倍のセラミックスを用いた場合のひけ巣の発生状況を確認した。ひけ巣が発生しているかどうかの確認位置は、
図16Aに示すように、シリンダ形成部220の付近の符号A1の領域と、基部210の両側、かつ、湯口21が食い込む付近の符号A2の領域とした。ここで、
図16Aは、ひけ巣の発生状況の確認位置を示し、
図16Bは、試験結果を示す。
図16Bにおいて、「×」はひけ巣が確認されたこと(ひけ巣の発生あり)を示し、「○」はひけ巣が確認されなかったこと(ひけ巣の発生なし)を示す。
【0069】
図16Bに示すように、湯口21に金型と同じS50Cを用いた場合、符号A1の領域では、2mm以上の内径を有するひけ巣が確認され、符号A2の領域では、1mm程度の内径を有するひけ巣が確認された。これに対し、湯口21に金型の熱伝導率の約1/3倍のSUSを用いた場合、符号A1の領域では、0.5から1mmの内径を有するひけ巣がわずかに確認され、符号A2の領域では、ひけ巣は確認されなかった。また、湯口21に金型の熱伝導率の約1/200倍のセラミックスを用いた場合、符号A1の領域、符号A2の領域の何れにおいても、ひけ巣は確認されなかった。以上より、実施形態1に係るキャリパ用鋳型の金型では、溶湯を流し込む湯口21に、金型よりも熱伝導率が小さい材質を用いることで、溶湯の凝固過程で生じやすい、収縮によるひけ巣の発生を抑制することができることが確認された。