特許第5960276号(P5960276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社コーノの特許一覧

<>
  • 特許5960276-減圧蒸気発生器 図000003
  • 特許5960276-減圧蒸気発生器 図000004
  • 特許5960276-減圧蒸気発生器 図000005
  • 特許5960276-減圧蒸気発生器 図000006
  • 特許5960276-減圧蒸気発生器 図000007
  • 特許5960276-減圧蒸気発生器 図000008
  • 特許5960276-減圧蒸気発生器 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960276
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】減圧蒸気発生器
(51)【国際特許分類】
   F22B 3/04 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   F22B3/04
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-544055(P2014-544055)
(86)(22)【出願日】2012年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2012006957
(87)【国際公開番号】WO2014068610
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】393006285
【氏名又は名称】株式会社コーノ
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】阿部 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】加賀 壽
(72)【発明者】
【氏名】松倉 三夫
(72)【発明者】
【氏名】松下 知佳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 省吾
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−189605(JP,A)
【文献】 特開平8−219402(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/011212(WO,A1)
【文献】 特開昭49−60029(JP,A)
【文献】 特開平8−170802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に充填した熱媒液を加熱して蒸気を発生する減圧蒸気発生器において、
筐体と、前記筐体内部に配置する熱交換部と、前記熱交換部と接続する熱源及び排気管と、前記筐体内部に充填する充填材と、からなり、
前記熱交換部の表面にウール体を配置することを特徴とする、
減圧蒸気発生器。
【請求項2】
請求項1に記載の減圧蒸気発生器において、
前記ウール体を、前記熱交換部に加えて前記熱源及び/又は前記排気管の表面にも配置することを特徴とする、
減圧蒸気発生器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の減圧蒸気発生器において、
前記ウール体の外周を、前記充填材の粒径より小さな網目を有する金網で覆うことを特徴とする、
減圧蒸気発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭や学校をはじめとする公共施設等において使用される真空暖房機に用いる減圧蒸気発生器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の温水パネル暖房やFF式温風暖房に替わって、ヒートサイフォンの原理を利用した真空暖房機が使用されている。
真空暖房機3は、減圧蒸気発生器4と、放熱器5と、からなり、減圧蒸気発生器4により発生した蒸気を放熱器5内で凝縮することにより放熱器5を暖めて、暖房を行うものである。(図7
【0003】
真空暖房機3用の減圧蒸気発生器4は、熱源41で加熱した加熱空気と減圧蒸気発生器4の筐体42内に封入した水や不凍液などからなる熱媒液とを熱交換部43において熱交換することにより、熱媒液が加熱されて沸騰し、蒸気を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4202629号公報
【特許文献2】特開2009−216278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空暖房機用の減圧蒸気発生器は、加熱空気を熱交換部内に導入した際、内部が減圧されているため、減圧状態の圧力に対応する沸点に達した瞬間から熱交換部表面に接触する熱媒液が熱交換により沸騰し、気泡が生じる。
その際、熱媒液温度が低温であるほど、沸騰による著しい騒音を生じるため、その対策として、減圧蒸気発生器内には充填材を充填して沸騰音を抑制している。
充填材の使用によって、真空暖房機用の減圧蒸気発生器には以下のような問題が生じる。
【0006】
(1)熱交換部の変形
減圧蒸気発生器の筐体内部において、熱交換部と接する熱媒液の対流に必要な空隙は、充填材の存在によって微小になる。
その結果、加熱の際、熱交換部表面において熱媒液の対流が阻害され、熱交換部表面で発生した気泡の剥離が十分に行えなくなる。
さらに、熱交換部に供給される熱量が大きいほど気泡は激しく発生する。従って、熱量が大きいほど熱交換部表面が気泡で覆われて、その部分において熱交換部表面に熱媒液が直接接触できない状態となる。
この場合、熱交換部が急激な温度上昇による過熱状態を来たし、その結果、接合部等の応力集中を招きやすい箇所に過度の熱応力が発生する。
このため、真空暖房機のON−OFFに伴う熱交換部の加熱と冷却の繰り返しにより熱応力の発生が繰り返され、熱疲労に伴う局所的な応力集中によって亀裂を発生させ、減圧蒸気発生器の内部にリークを生じ、暖房機能が著しく損なわれる可能性がある。
【0007】
(2)出力の低下
加熱の際、熱交換部表面において熱媒液が対流しにくくなり、熱交換部表面で発生した気泡の剥離が十分に行えなくなると、熱交換部から熱媒液への伝熱量が著しく減少し、熱効率が悪くなるため、所定の出力を得ることができない。
【0008】
本発明は、熱媒液の対流を円滑に行わせることにより気泡の剥離を容易にし、熱交換部の過熱による熱応力集中に伴う亀裂の発生を防止することによって、長寿命かつ熱効率を低下させない減圧蒸気発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本願の第1発明は、内部に充填した熱媒液を加熱して蒸気を発生する減圧蒸気発生器において、筐体と、前記筐体内部に配置する熱交換部と、前記熱交換部と接続する熱源及び排気管と、前記筐体内部に充填する充填材と、からなり、前記熱交換部の表面にウール体を配置することを特徴とする、減圧蒸気発生器を提供する。
本願の第2発明は、前記ウール体を、前記熱交換部に加えて熱源及び/又は前記排気管の表面にも配置することを特徴とする、減圧蒸気発生器を提供する。
本願の第3発明は、前記ウール体の外周を、前記充填材の粒径より小さな網目を有する金網で覆うことを特徴とする、減圧蒸気発生器を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
<1>熱交換部の表面にウール体を配置することにより、加熱時において熱交換部表面での熱媒液の対流が促進され、熱交換部表面からの気泡の剥離が容易に行えるようになる。
<2>上記により、熱交換部に供給される熱を常に熱媒液へと伝達することができる。これにより、熱交換部等の過熱が抑えられる。
<3>熱交換部等の過熱が抑えられ、接合部等の応力集中を招きやすい箇所への熱応力の集中が抑えられる。
<4>局所的な熱応力集中が抑制されるため、その箇所での亀裂の発生を防止でき、減圧蒸気発生器の長寿命化が図れる。
<5>ウール体を配置した箇所を充填材の粒径より小さい網目を有する金網で覆うことにより、ウール体の空隙は減圧によって圧縮されることなく、初期のウール体の空隙状態を維持することができる。これにより、熱交換部表面において熱媒液の対流を円滑に行わせることによって気泡の剥離をより促進させ、上記<3><4>の効果を一層発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る減圧蒸気発生器の断面斜視図
図2】本発明に係る減圧蒸気発生器の断面図
図3】ウール体を使用しない場合とウール体を熱交換部に配置した場合の排気温度の比較
図4】その他実施例に係る減圧蒸気発生器の断面図
図5】その他実施例に係る減圧蒸気発生器の断面斜視図
図6】ウール体を金網で覆った場合と金網を使用しない場合の、減圧に伴うウール体の空隙の減少率の比較
図7】従来の真空暖房機の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示す実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
[1]全体の構成
本発明の真空暖房機用の減圧蒸気発生器1は、筐体11と、筐体11の内部に配置する熱源12、熱交換部13、及び排気管15、からなる(図1)。
【0014】
(1)筐体
本発明の真空暖房機用の減圧蒸気発生器1は、放熱器の下部に取り付けて一体として使用するものであるため、筐体11は所定の性能を得る仕様の熱源、熱交換部、排気管、熱媒液、充填材を収納できるよう、矩形、丸形等の適切な形状とする。
筐体11の内部には、水や不凍液などからなる熱媒液2を貯留する。
【0015】
(2)熱源、熱交換部及び排気管
筐体11の内部には、バーナーや電気ヒーターなどからなる熱源12と、熱源12に接続する熱交換部13を配置する。
熱源12は、外部から導入した空気を加熱するものである。
熱交換部13は中空の筒体であり、一方の端部は熱源12に接続し、もう一方の端部は排気管15と連続する。
排気管15は一方の端部を熱交換部13と連続し、他方の端部を筐体11から突出する。排気管15はU字状に折り返してもよいし、一直線状に筐体11から突出させてもよい。
外部から導入した空気を熱源12により加熱し、加熱空気を熱交換部13に導入する。そして、加熱空気の持つ熱が熱交換部13を介して熱交換部13の周囲の熱媒液2に伝達されることにより、熱媒液2を加熱して、蒸気を発生する。
加熱空気は熱交換部13から排気管15を経由して筐体11の外部に排出する。
熱交換部13は、表面にウール体131を設ける。
筐体11の内部には、ウール体131の回りに耐熱材料からなる充填材14を充填する。
充填材14は加熱時に生じる沸騰音を抑制する機能を有する。
【0016】
(3)ウール体
ウール体131は、金属製のウール状の部材であり、熱交換部13の外周に取り付ける。(図2
ウール体131はウール状であり、内部に空隙を有するが、その空隙率は充填材14を筐体11に充填した時の空隙率よりも格段と、又は数十倍以上大きくする。
ウール体131はウール状であるため伸縮性を有し、熱交換部13に密着することができる。
また図示しない結束具によりウール体131を熱交換部13に密着してもよい。
【0017】
[2]使用状態
(1)熱交換
減圧蒸気発生器1内の熱源12を作動し、熱源12で加熱した空気を熱交換部13に導入する。
減圧蒸気発生器1は、内部を減圧した状態で放熱器と接続する。ここで加熱された空気を熱交換部13内に導入し、熱交換部13に接触する熱媒液2が加熱されると、減圧状態の圧力に対応する沸点に達した瞬間から、沸騰し気泡を生じる。
【0018】
(2)ウール体の効果
(2.1)気泡の剥離
熱交換部13の表面にはウール体131が配置されている。
ウール体131内部の空隙率は充填材14を筐体11に充填した時の空隙率の数十倍以上にも達する。このため、熱媒液2の対流と気泡の剥離が阻害されにくくなる。このことにより、熱交換部13に供給される熱を常に熱媒液2へと伝達することができる。
また、ウール体131は熱交換部13に密着しているため、熱交換部13表面で発生した気泡がウール体131の空隙以上に大きく成長することがなく、沸騰音を助長することもない。
【0019】
(2.2)局所加熱防止
熱交換部13に供給される熱を常に熱媒液2へと伝達することができると、熱交換部13等の過熱が抑えられる。
図3は、ウール体131を使用しない場合及びウール体131を熱交換部13に配置した場合における、熱量9200kcal/hで加熱した場合の排気温度(排気管の端部で測定)を比較したものである。
ウール体131には線径0.13mmのSUS304線を扁平にして直径約4mmのカール状にしたものを使用した。熱媒液温度は15〜20℃で加熱を開始した。
ウール体131を使用しない場合は加熱開始から約8分間に渡って一時的に排気温度が高い状態を呈している。これは、低沸点となる減圧下で、大きい熱量で加熱していることで沸騰が激しく、熱交換部13表面が気泡で覆われているために、熱交換部13から熱媒液2への熱伝達性能が著しく低下していることを示している。
一方、ウール体131を使用した場合は前記の現象は起こらず、排気温度は熱媒液温度(図示せず)とほぼ一定の温度差を保ちながら、特異現象もなく自然な上昇を示した。
使用後に熱交換部13の状態を点検したところ、ウール体131を使用しない場合は高温気体が通過する熱交換部13内面に高温酸化に伴う変色が認められた。一方、ウール体131を使用した場合は、上記熱交換部13内面は使用開始前と変わらない色と光沢を維持していることが確認された。試験から明らかとなった両者の違いを表1に示す。
以上のように、熱交換部13等の過熱が抑えられ、接合部等の応力集中を招きやすい箇所への熱応力の集中が抑えられることにより、その箇所での亀裂の発生を防止でき、減圧蒸気発生器1の長寿命化が図れ、熱効率が低下しないよう改善することができる。
【0020】
【表1】
【0021】
[その他実施例]
前記実施例においては、熱交換部13の表面にウール体131を配置したが、熱交換部に加えて熱源12や排気管15の表面にウール体131を配置してもよい。(図4
熱源12や排気管15の表面においても気泡が発生するため、熱源12や排気管15の表面にウール体131を配置することにより、より減圧蒸気発生器1の長寿命化に繋がる効果をもたらす。
【0022】
また、ウール体131の周囲を充填材14の粒径より網目が小さいステンレス等の金網132で覆う(図5)ことにより、上記ウール体131の効果を最大限に発揮させることができる。
前記段落0019に記載の試験結果から、金網132を使用しなくともウール体131の効果は得られている。しかし、減圧に際し、ウール体131は回りに充填した充填材14により、ウール体131が本来持っている空隙が圧縮されるため、熱媒液2が円滑に対流できる空隙が減少してしまう。
この対策として、ウール体131の周囲を、充填材14の粒径より網目が小さい金網132で覆うことにより、減圧下においても金網132が補強材となり、ウール体131の空隙の圧縮を抑制することができる。
【0023】
図6は熱交換部13をウール体131で覆い、ウール体131をさらに金網132(SUS304平織金網、線径φ0.34×30メッシュ)で覆ってから充填材14を詰めた場合及び金網132を使用しない場合での、減圧に伴うウール体131の空隙の減少率を比較したものである。減圧時の圧力は−73kPa(ゲージ圧)である。
金網132を追加することにより、ウール体131の空隙の減少率は77%から95%へ向上していることが分かる。
従って、金網132を追加することにより、熱媒液2の対流を円滑に行わせて気泡の剥離を容易にし、熱交換部13の過熱による熱応力集中に伴う亀裂の発生を防止する効果を一層発揮することが可能となる。
【符号の説明】
【0024】
1 減圧蒸気発生器
11 筐体
12 熱源
13 熱交換部
131 ウール体
132 金網
14 充填材
15 排気管
2 熱媒液
<従来例>
3 真空暖房機
4 減圧蒸気発生器
41 熱源
42 筐体
43 熱交換部
5 放熱器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7