(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960367
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ドロップインアンカーの取付工具
(51)【国際特許分類】
B25D 17/02 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
B25D17/02
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-541187(P2015-541187)
(86)(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公表番号】特表2015-533664(P2015-533664A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(86)【国際出願番号】EP2013073712
(87)【国際公開番号】WO2014076125
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2015年5月9日
(31)【優先権主張番号】102012221114.4
(32)【優先日】2012年11月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】ローランド フォーザー
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−155907(JP,A)
【文献】
米国特許第05030043(US,A)
【文献】
特開2008−119769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 17/00 − 17/32
B25D 16/00
E21B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドロップインアンカーを打ち込む第1部分(2)と、
前記ドロップインアンカー用の掘削孔を掘削するために、軸(8)沿いに前記第1部分に設置することができる第2部分(3)と
を備え、
前記第1部分(2)は、可搬型衝撃動力工具用のシャンク(5)と、衝突面(12)を有するプランジャー(6)と、回転軸継手の片(16)とを有し、
前記第2部分(3)は、前記プランジャー(6)を同軸に囲み前記プランジャー(6)の前記衝突面(12)に接触するスリップオンスリーブ(20)と、前記回転軸継手の対応部材(33)と、前記スリップオンスリーブ(20)に取り外しできないように接続されたドリルビット(23)とを有する
ことを特徴とする取付工具(1)。
【請求項2】
前記第1部分(2)と前記第2部分(3)が前記プランジャー(6)の前記衝突面(12)のみで前記軸(8)に沿って接触する、ことを特徴とする請求項1に記載の取付工具(1)。
【請求項3】
前記第1部分(2)と前記第2部分(3)が前記軸(8)沿いに位置する前記衝突面(12)を介して接触し、前記衝突面(12)の径方向外側に位置する前記第1部分(2)の表面(22)は空隙(34)により前記軸(8)沿いに前記第2部分(3)から離れている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の取付工具(1)。
【請求項4】
前記スリップオンスリーブ(20)は、前記ドリルビット(23)から径方向に突出して掘削孔の深さを定めるカラー(32)を有する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の取付工具(1)。
【請求項5】
前記第1部分(2)は前記シャンク(5)と前記プランジャー(6)とを接続するベース(15)を有し、前記ベース(15)は前記プランジャー(6)から径方向に突出し、衝撃方向(4)を向いた端面(22)を有するカラー(21)を備え、前記衝突面(12)から前記端面(22)までの軸方向の長さが前記ドロップインアンカーの取付深さを定める、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の取付工具(1)。
【請求項6】
前記回転軸継手の前記片(16)は少なくとも一つの主要表面(17)を有し、前記対応部材は前記主要表面(17)と補完関係にある少なくとも一つの補完的主要表面(37)を有する、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載の取付工具(1)。
【請求項7】
前記シャンク(5)は、前記衝撃方向(4)及びそれと反対方向に閉鎖されている前記軸(8)に沿った少なくとも一つの細長い溝(10)を有する、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載の取付工具(1)。
【請求項8】
前記第1部分(2)は前記スリップオンスリーブ(20)と同じ外径を有するベース(15)を有し、弾性プラスチック製で筒形のスリーブ(35)が前記第1部分(2)及び前記第2部分(3)に亘って設けられる、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1に記載の取付工具(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石材または無機質建材料のドロップインアンカーの機械的取付けに用いられる取付工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ドロップインアンカーはその先端に円錐形の膨張体と、当初はその膨張体に緩く取り付けられるスリーブを有する。ユーザーは、スリーブの直径に相当する内径を有する掘削孔に、先端を先にしてドロップインアンカーを取り付ける。スリーブは、膨張体に対するハンマーストロークで掘削孔に挿入され、よって掘削孔の壁に固着する。
【0003】
ドロップインアンカーを取り付ける補助的手段として、様々な手段が知られている。特許文献1は、ドリルビットに設置したフードを用いた取付工具等を開示している。ユーザーは最初に、ドリルビット及び衝撃機能を有する付属の可搬型電動工具で掘削孔を掘削する。取付工具のドリルビットの性能は、既存のドリルビットと変わらなく、トルク及び衝撃力に特に影響はない。次にユーザーはドリルビットの上にフードをかぶせる。フードはドリルビットのシャンク上のショルダーに支持され、フードの先端には衝突面が備えられている。ユーザーは可搬型動力工具の衝撃機能を利用して、ドロップインアンカーのスリーブを、ドリルビット及びフードを介して間接的に膨張体に挿入する。取付工具は、より大きな動力を必要とするドリリングなどの作業に用いるべく一体構成で用いられ、より単純な作業には二分割構成で用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第0955130号
【発明の概要】
【0005】
ドロップインアンカー用の掘削孔を掘削するため、本発明の取付工具は、ドロップインアンカーを打ち込む第1部分と、その第1部に設置し得る第2部分とをその軸に沿って有する。第1部分は、可搬型衝撃動力工具用のシャンクと、衝突面を有するプランジャーと、回転軸継手の片とを有する。第2部分は、プランジャーを同軸方向に囲み、プランジャーの衝突面に接触するスリップオンスリーブと、回転軸継手の対応部材と、スリップオンスリーブに取り外しできないよう接続されたドリルビットとを有する。
【0006】
本発明の取付工具では、ドリルツールと打ち込みツールの配置が特許文献1の配置と逆になっているが、そのドリリング性能について大きな制約はない。プランジャーがスリップオンスリーブに接触すると、軸沿いにシャンクからドリルビットの先端に衝撃波が伝搬される。軸に空洞が形成されることを防ぐことが必要なことが分かっている。
【0007】
本発明の態様の1つでは、軸に沿ったプランジャーの衝突面のみで第1部分と第2部分が接触する。第1部分は、軸に沿って位置する衝突面を介して第2部分と接触する。この衝突面の径方向外側に位置する第1部分の表面は、軸に沿った空隙により第2部分から離れている。衝撃波は軸の近くのみを通ることが好ましく、軸と同軸に位置し、衝突面と同じ断面を有する円筒空間内のみを通ることが特に好ましい。またこの円筒空間は衝突面と同じ形状と表面積を有することが好ましい。寄生的な二次的伝送路は、軸に沿った空隙により遮断される。
【0008】
もう1つの態様では、スリップオンスリーブが形成するカラーがドリルビットから径方向に突出し、掘削孔の深さを定める。もう1つの態様では、第1部分がシャンクとプランジャーを接続するベースを有し、このベースは取付深さを制限するために端面が衝撃方向を向いたプランジャーから径方向に突出する。打ち込みツール及びドリルツールは、基盤との接触により、打ち込みまたはドリリングが適切に行われたことをユーザーに知らせる。
【0009】
もう1つの態様では、回転軸継手の片が少なくとも一つの主要表面を有し、対応部材がその主要表面とは補完的な主要表面を少なくとも一つ有する。
【0010】
もう1つの態様では、シャンクが軸に沿って通る少なくとも一つの細長い溝を有する。この溝は、衝撃方向及びそれと反対方向について閉じている。このシャンクは、特に可搬型衝撃動力工具に適している。
【0011】
もう1つの態様では、第1部分がスリップオンスリーブと同じ外径を有するベースを備え、弾性プラスチックでできた円筒スリーブが第1部分及び第2部分に亘って配置されていることを特徴とする。
【0012】
以下の模範的な具体的実施例及び図面に基づき、本発明について説明する。特に明記しない限り同じ要素や機能は同じ参照符号で示される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、部分的に省略した取付工具1を示す側面図である。
図2は、II−II平面の断面図である。取付工具は、組立後の状態で図示の第1部分2及び第2部分3を有する。以下では、第2部分3を工具無しで第1部分2から引き離してもよいことを説明する。
【0015】
取付工具1は、アンカーを掘削孔に挿入するために設計されたものであって、膨張体、ピン、コーン等を打ち込んで拡張させ、掘削孔の壁に固定する。一般的に膨張体は、掘削孔に挿入するアンカーの先端部に設置するが、取付工具1の場合は、掘削孔から突出した端部に設置してもよい。ユーザーは、
図1が示す通りに組み立てられた状態の取付工具1を使用して掘削孔を掘削する。掘削孔の掘削には、可搬型電動工具を用いる。アンカーを打ち込む際、ユーザーは最初に第1部分2のみを用いる。そのため第2部分3を第1部分2から引き離す。代替の実施例では、可搬型動力工具をハンマー削孔作業用に切り替えるが、厳密に言って実用的ではない。
【0016】
アンカーを打ち込む第1部分2は、衝撃方向4に、該円筒形のシャンク5と続けて設けられる該円筒形のプランジャー6とを有する。
【0017】
シャンク5は、可搬型衝撃動力工具用に設計したものである。シャンク5は軸と同軸方向に位置する該円筒形のシャフト7を有し、そのシャフト7は衝撃方向4と対向する方向に衝突面9を有する。可搬型動力工具のロックは、シャフト7の対向縦溝10に係止する。縦溝10は、衝撃方向に及びその反対方向に閉じている。シャンク5は、縦溝10から90゜離れるように軸8の周りに位置する回転同調溝11も備えている。回転同調溝11は、衝撃方向4の反対方向に開放されていることが好ましい。
【0018】
プランジャー6は、衝撃方向4を向いた衝突面12を先端部13に有する。衝突面12は、軸8と同軸方向に位置している。先端部13の形状は、取り付けるアンカーの形状に合わせてよい。典型的な衝突面12としては、湾曲してドームの形状を有する衝突面であり、その場合、他の衝突面は中央に窪みを有するリング形状でもよい。先端部13を有するプランジャー6のシャフト14は、円筒形状または角柱形状であることが好ましい。
【0019】
プランジャー6は、中間ベース15によりシャンク5に接続されている。これら3つの構成要素は、一体的に接合されていることが好ましく、特に同じ材料で製造されていることが好ましい。
【0020】
ベース15は、回転軸継手の片16(1つの継手半体)を形成する回転方向非対称の部分を有する。典型的な実施例では、軸8の直径上でお互いに対向する平面状の主要表面17が2つ存在する。上述の部分は、3つ、4つ、6つ、またはその他の数の主要表面を備えた角柱形状でもよく、星状の断面を有してもよい。回転軸継手は、ベース15に軸方向に突出する爪18として形成してもよい。この爪18は、スリップオンスリーブ20の対応の爪19と係合する(
図3が示す平面II−IIの断面図)。
【0021】
ベース15は、プランジャー6及び回転軸継手の片16から径方向に突き出る環状のカラー21を有してもよい。カラー21は、軸8沿いに第2部分3に向いた方向、即ち衝撃方向4に向いた端面22を有する。カラー21は、アンカーを打ち込む際にユーザーを補助する。衝突面12からカラー21の端面22までの軸方向の長さであるプランジャー6の長さは、アンカーの設定長と同じになるように設定される。この設定長は、アンカーのスリーブと膨張体がお互いに対して移動する際の相対移動距離である。このようにしてユーザーは、カラー21と基材との接触によって、取付作業が適切に完了したことを確認する。
【0022】
第2部分3は、軸8と同軸方向に位置するスリップオンスリーブ20及びドリルビット23を有する。
【0023】
ここで示すドリルビット23は、超硬金属(焼結炭化物)でできたドリルヘッド24を有する。ドリルヘッド24は一体構造が好ましいうえ、全てが高硬度の金属でできた4枚のブレードを有し、衝撃方向4に向かって十字型の形状を成す。ブレードは、先端部からドリルヘッドの周辺に向けて傾斜するように設けてもよい。ドリルヘッド24の周辺に沿って、軸8と略平行のブレード端も備えられている。ドリルヘッド24は、例えばはんだまたは溶接により螺旋部25に設置されている。螺旋部25は、スリップオンスリーブ20に取り外しできないように固定されている。端面全体を構成する一体構造のドリルヘッドの代替として、ドリルビット23に、螺旋部25のスロットに挿入する高硬度金属製の切断プレートを備えてもよい。
【0024】
実施例として示したスリップオンスリーブ20は、プランジャー6の収容空間26を有する円筒体または角柱体である。収容空間26は軸8と同軸に形成され、衝撃方向4と対向する方向に開放されている。外壁27は収容空間26を囲むが、外周は閉鎖されていることが好ましく、かつ円筒または角柱の外側輪郭を有することが好ましい。収容空間26の中空の十字部はプランジャー6の十字部と補完的であることが好ましく、プランジャー6は収容空間26の中で径方向の小さな隙間により導かれることが好ましい。収容空間26は、衝撃方向4に向いた上面28により閉鎖されている。ここで示すスリップオンスリーブ20は、外壁27に対して横断方向に伸びて上面28を区画する区画部29を有する。収容空間26の長さは、プランジャー6及びその衝突面12が収容空間26の上面28に接触するように、プランジャー6の長さに従って設定される。上面28は衝突面12と補完的に設計してもよく、軸8に位置する接触点で上面28と衝突面12が確実に接触することが好ましい。可搬型動力工具がシャンク5に与えた衝撃波は、このようにして特に効率的にドリルヘッド24に伝播される。衝撃波は、軸8に沿った空洞を通じて妨害されることなく伝播される。
【0025】
スリップオンスリーブ20は、収容空間26に対向するとともにドリルビット23が取り外しできないように挿入された座30を有する。座30は、例えば螺旋部25に正確に合った空洞としてもよい。座30の底面31は、区画部29で形成されている。ドリルビット23は底面31に着座するが、その際、ドリルビット23の螺旋部25が軸8沿いの位置で底面31に接触する状態であることが好ましい。螺旋部25は、一体的な接合により、あるいは形状同士の嵌め合いにより、またはその他の方法によって、座30に取り外しできないように接続され得る。
【0026】
区画部29は取付工具1の製造に都合が良いことがわかっているが、衝撃波の効率的な伝播には必ずしも必要ではない。収容空間26は、ドリルビット23により直接閉鎖してもよい。衝撃方向4と対向する螺旋部25の底面が上面28を形成する。
【0027】
スリップオンスリーブ20の外径は、螺旋部の直径よりも大きい。衝撃方向4を向いたスリップオンスリーブ20の端面32は、ドリリングの際に深さ止めとなる。端面32からドリルヘッド24への軸方向の距離は、アンカーの長さによって決まる。
【0028】
スリップオンスリーブ20は、第1部分2とともに、回転軸継手の対応部材33(もう1つの継手半体)を形成する。スリップオンスリーブ20は片16の周りを囲み、片16と補完関係にある内側輪郭を有するか、そうでなければスリップオンスリーブ20は、軸方向に突出する爪19をその周辺に有する。対応部材33は、軸8沿いで収容空間26の直前に配置してもよい。
【0029】
衝撃方向4と逆方向を向いたスリップオンスリーブ20の端面は、ベース15の端面22と対向する位置にある。これら2つの端面は、お互いに空隙34により離れている。この空隙34は、プランジャー6の長さに合わせて収容空間26の長さを設定することにより形成される。空隙34は、取付工具1の径方向外側の部分、特にスリップオンスリーブ20の外壁27への衝撃波の伝播を抑制する。この回転軸継手の構成では、片16と対応部材33が周方向のみでお互いに接触し、軸8に沿う間隙により離れるようになっている。
【0030】
スリーブ35は、例えば合成ゴム等の弾性プラスチックでできており、第1部分2と第2部分3を摩擦力による係合により接続する。スリーブ35は、スリップオンスリーブ20及びベース15に亘って置くことが好ましい。このスリーブ35は、例えばスリップオンスリーブ20上の窪みに対応する突起36を取り付けてもよい。スリーブ35は、ベース15を掴めるように、衝撃方向4と対向する方向にスリップオンスリーブ20から十分突出している。ここで示す具体的な実施例では、スリップオンスリーブ20とベース15が同じ断面を有する。これに代わる具体的実施例において、軸8沿いのスリーブ35の中空の断面は、スリップオンスリーブ20及びベースによって変えてもよい。ユーザーは、径方向に働くスリーブ35のクランプ力及び摩擦力に勝る力で軸8沿いに第1部分2を引き出すことで第1部分2を第2部分3から切り離すことができる。同様に、第1部分2と第2部分3の両方を軸8に沿って押して一体にすることができる。