(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960440
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】天敵昆虫増殖装置
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
A01K67/033 502
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-26912(P2012-26912)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-162755(P2013-162755A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000066
【氏名又は名称】大協技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100098213
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】中島 哲男
(72)【発明者】
【氏名】大山 康夫
【審査官】
門 良成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−325541(JP,A)
【文献】
特開2007−267713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/033
A01M 29/00
A01G 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫から保護すべき作物の枝葉に設置するための設置部と、
前記害虫の天敵となる天敵昆虫の増殖に必要な餌を保持する餌保持部として機能し、前記天敵昆虫が生息する生息部としても機能し、さらに前記天敵昆虫が産卵可能な産卵部としても機能する、直径が5〜50μmの単繊維を撚ることで形成された繊維束を複数本束ねた、内部に空間又は空隙を有する紐とし、且つ、前記直径が5〜50μmの単繊維の端部分が前記紐の表面から突出している部分を複数有してなる生息部及び産卵部を兼ねる餌保持部と、を備えてなることを特徴とする天敵昆虫増殖装置。
【請求項2】
前記生息部及び産卵部を兼ねる餌保持部が、
直径が5〜50μmの単繊維を複数本撚ることで形成された、直径が0.5〜2mmの繊維束を複数本束ねた直径が2〜10mmの前記紐で紐の束が形成されており、該紐の束を構成している前記紐の表面に餌が付着してなるものである請求項1に記載の天敵昆虫増殖装置。
【請求項3】
前記生息部及び産卵部を兼ねる餌保持部が、
直径が5〜50μmの単繊維を複数本撚ることで形成された、直径が0.5〜2mmの繊維束を複数本束ねた直径が2〜10mmの前記紐で、紐と紐の間に空間又は空隙が保持されるようにして紐の束が形成されており、該紐の束を構成している前記紐の表面に餌を付着させてなるものである請求項1に記載の天敵昆虫増殖装置。
【請求項4】
さらに、前記紐の束が、結束部材によって結束されている請求項2又は3に記載の天敵昆虫増殖装置。
【請求項5】
前記餌が、非植物病原性の、かび胞子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の天敵見虫増殖装置。
【請求項6】
前記設置部は、前記餌保持部の担体と連続する短冊状の基材の長手方向のほぼ両端に設けられた凹凸用の切込みを、互いに係合することによって形成される請求項1〜5のいずれか1項に記載の天敵昆虫増殖装置。
【請求項7】
前記天敵昆虫は、カブリダニ類である請求項1〜6のいずれか1項に記載の天敵昆虫増殖装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天敵昆虫増殖装置に関する。さらに詳しくは、害虫から保護すべき作物の枝葉に直接容易に設置することが可能で、簡易な構成を有し、害虫の天敵となる天敵昆虫の増殖を効率よく安価に実現することが可能な天敵昆虫増殖装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天敵を中心としたIPM(総合的病害虫管理)が注目されている。例えば、ミヤコカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、ククメリスカブリダニ等の多食性のカブリダニ類は、防除対象の害虫であるハダニ類やアザミウマ類を餌にする天敵昆虫であるが、カブリダニ類が餌とするのは、上述の防除対象害虫であるハダニ類やアザミウマ類だけではなく、サトウダニ、サヤアシニクダニ等の貯穀害虫や、花粉、かびの胞子等も餌とすることはすでに分かっている。しかし、作物や栽培時期によっては、餌となる花粉や微小昆虫も存在しないことがあり、この場合は、天敵昆虫であるカブリダニ類(以下、「天敵カブリダニ」ということがある)は増殖することができなくなる。そこで、植物体上に貯穀害虫を散布して、天敵カブリダニの餌として活用しようとする試みもなされているが、これら貯穀害虫自体が植物体上で定着することが極めて困難であるので、天敵カブリダニはこれらを餌に利用することがむずかしい。
【0003】
一方、うどん粉病菌の胞子が蔓延している葉上では、天敵カブリダニが非常によく増殖することもわかっている。また、植物葉上にコメヌカを散布すると、常在菌の胞子が繁殖し、天敵カブリダニはこれを餌として利用し、通常の2〜3倍の増殖をする。ただ、うどん粉病菌は植物病原菌であるために、害虫から保護すべき作物に悪影響を与えるため、利用することはできない。また、コメヌカを散布することで繁殖する常在菌は葉上に繁殖し、保護作物の葉を汚染してしまい、光合成を阻害してしまうために、利用することは困難である。
【0004】
サトウダニやサヤアシニクダニのような代替餌(餌ダニ)と、それらの餌となるフスマや酵母を、紙コップのなかに天敵カブリダニと一緒にいれることで、天敵カブリダニの増殖を促すことが農家によって行われている例があるが、この方法でも天敵カブリダニはある程度の増殖はするが、餌ダニがカップ内に定着しないことから、増殖程度は限られたものとなってしまい、十分な効果を示すまで天敵カブリダニを増殖させることは困難である。これらの問題を解決するために、コーン茎繊維等の細かい毛をもった植物繊維を産卵場所として使う試みも行われているが、植物体を使うためには、その調達が季節に左右されたり、別途そのための栽培をしなければならない等の制約があり、広く普及できる技術とはなっていない(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−325541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑み、IPM(総合的病害虫管理)の見地から、簡便に、天敵カブリダニの餌、産卵場所、成虫の棲家等を提供することによって天敵昆虫の増殖を図ることを目指して、なされたものであり、害虫から保護すべき作物の枝葉に直接容易に設置することが可能で、簡易な構成を有し、害虫の天敵となる天敵昆虫の増殖を効率よく安価に実現することが可能な天敵昆虫増殖装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の天敵昆虫増殖装置が提供される。
【0008】
[1]害虫から保護すべき作物の枝葉に設置するための設置部と、担体上に前記害虫の天敵となる天敵昆虫の増殖に必要な餌を保持する餌保持部と、を備えた天敵昆虫増殖装置。
【0009】
[2]前記天敵昆虫が生息することが可能な、内部に空間又は空隙を有する、生息部をさらに備えた前記[1]に記載の天敵昆虫増殖装置。
【0010】
[3]前記生息部は、前記天敵昆虫が産卵可能な産卵部を有する前記[2]に記載の天敵昆虫増殖装置。
【0011】
[4]前記餌保持部は、紙又はプラスチック製のシートから構成された担体の上に、前記餌を、粘着剤を介して保持する前記[1]に記載の天敵昆虫増殖装置。
【0012】
[5]前記餌保持部は、内部に空間又は空隙を有する、紐の束、繊維の塊又は発泡体から構成された担体の上に、前記餌を、粘着剤を介して保持する前記[1]に記載の天敵昆虫増殖装置。
【0013】
[6]前記餌保持部は、前記生息部としても機能する前記[5]に記載の天敵昆虫増殖装置。
【0014】
[7]前記餌保持部は、紙又はプラスチック製のシートから構成された担体の上に、前記餌を、粘着剤を介して保持するとともに、前記生息部は、内部に空間又は空隙を有する、紐の束、繊維の塊又は発泡体から構成された担体の上に、前記餌を、粘着剤を介して保持する前記[2]に記載の天敵昆虫増殖装置。
【0015】
[8]前記産卵部は、内部に空間又は空隙を有する前記紐を構成する、直径が5〜50μmの単繊維を、前記複数本の前記紐の表面に林立させたものである前記[3]に記載の天敵昆虫増殖装置。
【0016】
[9]前記設置部は、前記餌保持部の担体と連続する短冊状の基材の長手方向のほぼ両端に設けられた凹凸用の切込みを、互いに係合することによって形成される前記[1]〜[8]のいずれかに記載の天敵昆虫増殖装置。
【0017】
[10]前記天敵昆虫は、カブリダニ類である前記[1]〜[9]のいずれかに記載の天敵昆虫増殖装置。
【0018】
[11]前記天敵昆虫の増殖に必要な前記餌は、非植物病原性の、かび胞子である前記[1]〜[10]のいずれかに記載の天敵昆虫増殖装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、害虫から保護すべき作物の枝葉に直接容易に設置することが可能で、簡易な構成を有し、害虫の天敵となる天敵昆虫の増殖を効率よく安価に実現することが可能な天敵昆虫増殖装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置(餌保持部の担体として紙又はプラスチック製のシートを使用した場合)を模式的に示す平面図である。
【
図2A】本発明の第2の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を模式的に示す説明図である。
【
図2B】本発明の第2の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置(餌保持部(生息部)の担体として発泡体を使用した場合)を模式的に示す説明図である。
【
図3】本発明の第3の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置(産卵部を有する場合)を模式的に示す説明図であり、(a)〜(e)産卵部の製造過程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜
図3に示すように、本発明の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置10は、害虫から保護すべき作物の枝葉に設置するための、例えば、凹凸用切込み21,22等からなる設置部20と、例えば、紙又はプラスチック製のシート31aから構成された担体31上に害虫の天敵となる天敵昆虫の増殖に必要な餌32を保持する餌保持部30と、を備えており、さらに必要に応じて、天敵昆虫が生息することが可能な、例えば、内部に空間又は空隙41を有する紐の束(繊維の塊)31b又は発泡体31cの担体31からなる生息部40を備えてなるものであり、さらに必要に応じて、生息部40は、天敵昆虫が産卵可能な、例えば、単繊維51を撚って繊維束52にし、繊維束52を束ねて紐53にし、その紐53を束ねて、餌32を塗布するとともに、空間又は空隙41を有するように作製した産卵部50を有するものである。以下、第1〜第3の実施の形態のそれぞれにおいて、構成要素ごとに詳細に説明する。
【0022】
[第1の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置10(餌保持部の担体として紙又はプラスチック製のシートを使用した場合)を模式的に示す平面図である。
【0023】
(設置部)
本実施の形態の設置部20は、例えば、紙又はプラスチック製の、短冊状のシート31aから構成された担体31に形成された凸用切込み21を、環状体を形成するように凹用切込み22に差し込むことによって構成することができる。このように構成することによって、植物体の枝葉等に直接に吊り下げることができる。
【0024】
(餌保持部)
本実施の形態の餌保持部30は、例えば、紙又はプラスチック製のシート31aから構成された担体31の長手方向の半分に粘着剤(図示せず)を塗布し、粘着剤を塗布した部分にかび胞子等の餌32を塗布することによって構成することができる。この場合、餌32としてのかび胞子の栄養源として、米ぬか、フスマ、酵母等を一緒に塗布することが好ましい。
【0025】
本実施の形態に用いられる菌株の選定基準としては、以下の(1)〜(7)を挙げることができる。
(1)カブリダニに影響がないこと
(2)カブリダニが餌として利用し増殖できること
(3)*植物病原菌でないこと
(4)分生胞子を大量に産生すること
(5)マイコトキシンを産生しないこと
(6)アレルゲンでないこと
(7)日和見感染しないこと
【0026】
具体的な、かび胞子としては、以下の(1)〜(8)を挙げることができる。
(1)Aspergillus oryzae
(2)Penicillium galaucum
(3)Talanomyces flavus
(4)Trichoderma viride
(5)Metarhizium anisopliae
(6)*Beauveria bassiana
(7)Verticillium lecanii
なお、上記以外でも、上述の選定基準に当てはまるものすべて含まれる。
【0027】
(生息部)
キュウリ、メロン、ナス、ピーマン等の産卵が葉裏の毛耳部分にでき、葉脈と葉脈の間に生息できる場所がある植物については、天敵に対する餌のみを効率的に供給することのみで、天敵カブリダニを増殖させることできる。従って、本実施の形態においては、生息部40を設けずに、簡易な構成を有しており、例えば、キュウリ、メロン、ナス、ピーマン等の作物を対象とした場合に有効である。
【0028】
(産卵部)
上述のように、キュウリ、メロン、ナス、ピーマン等では葉裏の毛耳部分に産卵ができるので、天敵に対する餌のみを効率的に供給することのみで、天敵カブリダニを増殖させることができる。従って、本実施の形態においては、産卵部50を設けずに、簡易な構成を有しており、例えば、キュウリ、メロン、ナス、ピーマン等の作物を対象とした場合に有効である。
【0029】
[第2の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置]
図2Aは、本発明の第2の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を模式的に示す説明図であり、
図2Bは、本発明の第2の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置(餌保持部(生息部)の担体として発泡体を使用した場合)を模式的に示す説明図である。
【0030】
(設置部)
本実施の形態の設置部20は、例えば、後述する餌保持部30の一箇所に植物体の主茎や枝に吊るすための紐等を設置することによって構成することができる。このように構成することによって、植物体の主茎や枝に直接吊り下げることができる。
【0031】
(餌保持部)
図2Aに示すように、本実施の形態の餌保持部30は、例えば、太さ100μmから2mm程度の繊維を軽く固めて、内部に空間又は空隙41を有する担体31としての紐の束(繊維の塊)31bを形成することによって構成することができる。紐の束(繊維の塊)31bの素材としては特に制限はなく、例えば、生分解性セルロースやポリアクリル等の繊維状のものを挙げることができる。次に、内部に空間又は空隙41を有する担体31(紐の束(繊維の塊)31b)の表面に、餌32としてのカビ胞子を塗布する。この場合、かび胞子の栄養源として、コメヌカやフスマ、酵母等も一緒に塗布することが好ましい。
【0032】
なお、
図2Bには、餌保持部30として、内部に空間又は空隙41を有する担体31(発泡体31c)の表面に、餌32としてのカビ胞子を塗布した場合を示す。このような発泡体31cとしては、例えば、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン等を挙げることができる。
【0033】
(生息部)
上述の餌保持部30の構成が、本実施の形態の生息部40を兼用する構成となる。すなわち、空間又は空隙41が天敵カブリダニの生息場所を提供することになる。また、キュウリ、ナス等で、天敵昆虫としての天敵カブリダニに影響の強い化学農薬を散布した時に、その隠れる場所を提供することもできる。
【0034】
(産卵部)
本実施の形態においては、産卵部50を特には備えていない。このため、天敵昆虫は、上述の生息部40と同じ場所に産卵することができる可能性はあるが、効率はあまりよくないので、本実施の形態は、対象作物として、葉裏面に毛耳を持っている、キュウリ、メロン、ナス、ピーマン等に適している。
【0035】
[第3の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置]
図3は、本発明の第3の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置(産卵部を有する場合)を模式的に示す説明図であり、(a)〜(e)産卵部の製造過程を示す。
【0036】
(設置部)
本実施の形態の設置部20は、例えば、後述する餌保持部30(生息部40及び産卵部50を兼ねる)の一箇所に、植物体の主茎や枝に吊るすための紐等を設置することによって構成することができる。
【0037】
(餌保持部)
本実施の形態の餌保持部30は、例えば、
図3(a)に示す、直径が5〜50μmの単繊維51を50〜100本撚ることで、
図3(b)に示す直径が0.5〜2mmの繊維束52を得、得られた繊維束52を3〜5本束ねて、
図3(c)に示す直径が2〜10mmで、長さが3〜5cmの紐53とし、
図3(d)に示すように、結束部材55によって結束して紐の束54を形成し、紐の束54の表面に餌32としてのカビ胞子を付着させる、又は
図3(d)に示す場合の代わりに、
図3(e)に示すように、紐の束54の3〜10本を束ねて紐の束54の表面に餌32としてのカビ胞子を付着させることによって作製することができる。
図3(d)及び
図3(e)に示す場合、紐53と紐53の間に空間又は空隙41が保持されるとともに、湿度が保持されて、生息部40としても機能する。また、単繊維51の端部分56が紐53の1cmあたり5〜30存在し、産卵部50として機能する。
【0038】
(生息部)
上述のように、紐53と紐53の間に空間又は空隙41が保持されるとともに、湿度が保持されるので、効率的な生息部40を提供することができる。
【0039】
(産卵部)
上述のように、単繊維51の端部分56が紐53の1cmあたり5〜30存在し、単繊維の端部分56が紐53の表面から突出している部分に、産卵部50としての産卵場所を提供することができる。ハウスミカンやオオバでは、このような産卵部50としての産卵場所を提供しないと、天敵カブリダニは産卵場所がないために増殖することができない。本発明の第2の実施形態にかかわる天敵昆虫増殖装置10に比べて、より効率的な産卵部50としての産卵場所を提供することができる。
【0040】
[天敵昆虫増殖装置の製造方法]
本実施の形態の天敵昆虫増殖装置の製造方法は、餌32としてのかび胞子を塗布又は付着させる担体31の製造工程と、餌32としてのかび胞子の増殖工程と、これらを担体31の上に塗布又は付着させる工程とを含む。以下さらに具体的に説明する。担体31の製造は、例えば、
図1に示すように、プラスチック又は紙を短冊状に切り抜き、片側に植物の枝等に吊り下げるための凸用切込み21と凹用切込み22とを入れることで製造することができる。餌32は、米やフスマ等を培地として常温下で静置培養を行い、分生胞子を得ることで製造することができる。この餌32を、餌保持部30に付着させるためには、まず、餌保持部30に接着剤を塗布し、フスマ又は米ぬかに酵母等の栄養源を加えたものを付着させる。この上に、さらに、フスマや米ぬかと混合した餌32としてのかび胞子を付着させることで目的とする天敵昆虫増殖装置を得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の天敵昆虫増殖装置を、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって、いかなる制限を受けるものではない。
【0042】
(実施例1)
ハウスミカンの栽培ハウスにおいて、10月下旬に加温を開始し、11月下旬に開花を開始した時期に、スワルスキーカブリダニを10aあたり50000頭放飼にすると同時に、第1の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置(餌32として、Aspergillus oryzae 分生胞子を米ぬかと混合して塗布したもの)をミカン樹の枝に一樹あたり4個吊り下げた。第1の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を吊り下げなかった区を対照区として、1ヶ月後のスワルスキーカブリダニの100葉あたりの生存数をカウントした。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例2)
ハウス促成栽培ナスにおいて、3月中旬にスワルスキーカブリダニを、春季のアザミウマ防除のために放飼した。それと同時に第1の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を10aあたり400枚ナスの枝に吊り下げた。第1の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を吊り下げなかった区を対照区として、1ヶ月後の10葉あたりのスワルスキーカブリダニの生存数をカウントした。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
(実施例3)
ハウス促成栽培ナスにおいて、3月中旬にスワルスキーカブリダニを、春季のアザミウマ防除のために放飼した。それと同時に第3の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を10aあたり400個、ナスの枝に吊り下げた。第3の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を吊り下げなかった区を対照区として、1ヶ月後の10葉あたりのスワルスキーカブリダニの生存数をカウントした。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
(実施例4)
ハウスミカンの栽培ハウスにおいて、10月下旬に加温を開始し、11月下旬に開始した時期に、スワルスキーカブリダニを1樹あたり1000頭放飼する。同時に第3の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を1樹あたり4個、ミカンの枝に吊り下げた。第3の実施の形態に係る天敵昆虫増殖装置を吊り下げなかったものを対照区として供試した。1ヶ月後のスワルスキーカブリダニの100葉あたりの生存数をカウントした。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【符号の説明】
【0050】
10 天敵昆虫増殖装置
20 設置部
21 凸用切り込み
22 凹用切り込み
30 餌保持部
31 担体
31a シート
31b 紐の束(繊維の塊)
31c 発泡体
32 餌
40 生息部
41 空間又は空隙
50 産卵部
51 単繊維
52 繊維束
53 紐
54 紐の束
55 結束部材
56 単繊維の端部分