(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記電動制動力が前記ブレーキペダルの操作に対応する制動力に満たない場合、前記調整機構を制御して前記液圧制動力の発生量を制御することを特徴とする請求項1記載のブレーキ装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態(以下、実施形態という)にかかる複合型のブレーキ装置を搭載したハイブリッド車両の構成を示す概略図である。なお、以下の説明では、常用制動力として主として電動制動力を用いる例を示し、適宜回生制動力を利用するものとする。また、バックパップ用の制動力として液圧制動力を用いて、電動制動力や回生制動力が十分に得られない場合に、制動力を確保する例を示す。そして、
図1の構成例では、制動力配分の大きな左右前輪側のブレーキ装置が電動ブレーキ機構と液圧ブレーキ機構を備える複合型のブレーキ装置であり、左右後輪側のブレーキ装置は電動ブレーキ機構のみを備える単構成型のブレーキ装置である場合を示している。もちろん、前輪および後輪を複合型のブレーキ装置としてもよいが、液圧ブレーキ機構を搭載する主たる目的は前述したように電動ブレーキ機構等の失陥時のバックアップ用なので、例えば左右前輪のみに搭載すれば十分である。前輪のみに液圧ブレーキ機構を搭載する場合、液圧配管の配管距離が短くできるというメリットがある。
【0017】
図1に示すハイブリッド車両100は、エンジン10と、エンジン10の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構12と、動力分割機構12に接続された発電可能なジェネレータ14と、変速機16を介して動力分割機構12に接続された走行用モータ18と、ハイブリッド車両100の駆動系全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU20」といい、電子制御ユニットは、すべて「ECU」と称する。)とを備える。変速機16には、ドライブシャフト22を介してハイブリッド車両100の右前輪24FRおよび左前輪24FLが連結される(以下、特に区別しない場合は、「前輪24」と称する)。なお、本実施形態の場合、右後輪26RRおよび左後輪26RLは従動輪となる(以下、特に区別しない場合は、「後輪26」と称する)。
【0018】
エンジン10は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU28により制御される。エンジンECU28は、ハイブリッドECU20と通信可能であり、ハイブリッドECU20からの制御信号や、エンジン10の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン10の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU28は、必要に応じてエンジン10の作動状態に関する情報をハイブリッドECU20に与える。
【0019】
動力分割機構12は、変速機16を介して走行用モータ18の出力を左右の前輪24FR、24FLに伝達する役割と、エンジン10の出力をジェネレータ14と変速機16とに振り分ける役割と、走行用モータ18やエンジン10の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。ジェネレータ14、走行用モータ18は、それぞれインバータを含む電力変換装置30を介してバッテリ32に接続されており、電力変換装置30には、モータECU34が接続されている。モータECU34も、ハイブリッドECU20と通信可能であり、ハイブリッドECU20からの制御信号等に基づいて電力変換装置30を介してジェネレータ14、走行用モータ18を制御する。なお、上述のハイブリッドECU20やエンジンECU28、モータECU34は、いずれもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。
【0020】
ハイブリッドECU20やモータECU34による制御のもと、電力変換装置30を介してバッテリ32から電力を走行用モータ18に供給することで、走行用モータ18の出力により左右の前輪24FR、24FLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、ハイブリッド車両100はエンジン10によって駆動される。この際、動力分割機構12を介してエンジン10の出力の一部をジェネレータ14に伝えることにより、ジェネレータ14が発生する電力を用いて、走行用モータ18を駆動したり、電力変換装置30を介してバッテリ32を充電したりすることが可能となる。
【0021】
また、ハイブリッド車両100を制動する際には、ハイブリッドECU20やモータECU34による制御のもと、前輪24FR、24FLから伝わる動力によって走行用モータ18が回転させられ、走行用モータ18が発電機として作動させられる。すなわち、走行用モータ18、電力変換装置30、ハイブリッドECU20およびモータECU34等は、ハイブリッド車両100の運動エネルギを電気エネルギに回生することによってハイブリッド車両100を制動する回生ブレーキ機構として機能する。
【0022】
本実施形態の場合、回生ブレーキ機構に加え、電動ブレーキECU40によって電動制動力が制御される電動ブレーキ機構38を各車輪ごとに有し、各車輪ごとに電動制動力の調整が可能である。電動ブレーキ機構38の構造の詳細は後述するが、モータの動作により発生する駆動力で摩擦部材を車輪と共に回転する回転体に押圧して当該回転体に対して電動制動力を付与する。例えば、電動ブレーキ機構38をディスクブレーキ装置に適用する場合、ディスクブレーキ装置のキャリパ内部にモータが内蔵される。このモータの駆動により進退するナット部材が摩擦部材であるブレーキパッドを回転体であるブレーキディスクに押圧することで電動制動力が発生する。各車輪のモータは電動ブレーキECU40によって回転量や回転方向等が制御されることにより、ドライバの要求する制動力を発生させると共に、各車輪ごとの電動制動力を制御して、例えばアンチロックブレーキ(ABS)機能等も実現する。
【0023】
ブレーキECU36、電動ブレーキECU40は、いずれもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。ブレーキECU36、電動ブレーキECU40、ハイブリッドECU20は相互に通信可能である。ブレーキECU36には、ドライバーのブレーキペダルの踏み込み状態を検出するストロークセンサ42からの信号が入力され、その入力信号に対応する要求制動力に応じて電動制動力と回生制動力との配分比率を決定し、電動ブレーキECU40とハイブリッドECU20に対しそれぞれ制動力を要求する。このように、ブレーキECU36は、ハイブリッドECU20と電動ブレーキECU40を協調させる協調制御を実行することによりハイブリッド車両100の効率的な制動を可能にする。
【0024】
なお、本実施形態の場合、電動ブレーキECU40には、電動パーキングブレーキ(EPB)スイッチ44からのパーキング信号も入力される。電動ブレーキECU40はパーキング信号を取得すると、常用ブレーキとして機能させていた電動ブレーキ機構を電動パーキングブレーキとして機能させる。なお、パーキングブレーキ機能は、各車輪の電動ブレーキ機構38に備えてもよいし、前輪または後輪のいずれか一方に備えるようにしてもよい。
【0025】
ところで、電動制動力および回生制動力は、電気制御によりその発生量を調整しているため、例えば断線等の失陥に対する対策が必要になる。そこで、本実施形態の場合、主として常用ブレーキとして機能する電動ブレーキ機構が失陥した場合等に主としてバックアップ用のブレーキ機構として機能する液圧ブレーキ機構46を右前輪24FR、左前輪24FLに備えている。ただし、本実施形態の場合、前述したように、液圧ブレーキ機構46は電動ブレーキ機構38の失陥時のバックアップ用なので、詳細な制動制御を行う必要はない。すなわち、マスタシリンダ48と右前輪24FRおよび左前輪24FLの液圧ブレーキ機構とが直結され、ブレーキペダルの踏み込み動作に対して作動液を液圧ブレーキ機構46に向けて送出するシンプルな構造のものを採用している。この場合、マスタシリンダ48から電動ブレーキ機構38のホイールシリンダに至るまでの液圧経路が短縮化し易い。その結果、配管のスペース確保や配管作業が容易になる。また、他の構成部品との干渉を回避し易く設計自由度の向上にも寄与できる。さらに、配管距離が短いため液漏れの可能性も低減され、液漏れ対策も容易になる。
【0026】
図示を省略しているが、ブレーキECU36には、各車輪の近傍に設けられた車輪速センサ等から車輪の回転状態に関する信号が提供される。車輪速センサからの信号に基づいて、ブレーキECU36が電動ブレーキECU40に対して送信した制動制御による制動力が各車輪において適切に発生しているかを検出し、制御に反映させることもできる。
【0027】
なお、以下の説明で、電動ブレーキ機構38の失陥は、電動ブレーキ機構38を構成するモータやギアの不具合、電動ブレーキECU40からモータに至るまでの配線の断線不良、電動ブレーキECU40自体の不具合等のいずれか一つまたはその組合せによる不具合を含むものとする。
【0028】
図2は、実施の形態に係る電動ブレーキ機構、液圧ブレーキ機構およびマスタシリンダの内部構造を説明する概略構造図である。前述したように、本実施形態の場合、前輪24のブレーキ装置は、電動ブレーキ機構38および液圧ブレーキ機構46を備えた複合型であり、後輪26は、電動ブレーキ機構38のみを備えた単構成型である。なお、前輪24および後輪26のブレーキ装置は、左右同じ構成なので、
図2の場合は、前輪24用の複合型のブレーキ装置50、後輪26用の単構成型のブレーキ装置52をそれぞれ片側のみを示している。
【0029】
まず、電動ブレーキ機構38のみを有する単構成型のブレーキ装置52の構造を説明する。
キャリパ54は、キャリパ自身を車体側に固定するための車体固定マウント(不図示)に取り付けられ、キャリパ54は、ディスクロータ56に押圧され制動力を発生する摩擦部材であるブレーキパッド58と、ブレーキパッド58を押圧するシリンダ部60とで構成されている。車輪と共に回転する回転体であるディスクロータ56は
図2に示すように、一対のブレーキパッド58の間に存在する。ディスクロータ56の側面56a、56bは摩擦摺動面を構成し、一対のブレーキパッド58がディスクロータ56を挟んで対向配置される。このブレーキパッド58は、ディスクロータ56の側面56a、56bと直接接触する摩擦材62と、この摩擦材62の裏側、すなわちディスクロータ56と接触しない側を支持するパッド裏金64によって構成されている。
【0030】
キャリパ54は、
図2において矢印M,N方向に変位可能に車体固定マウントを介して車体側に取り付けられている。キャリパ54のシリンダ部60には、有底の穴66が穿設されており、この穴66には、ピストン68が摺動可能に嵌挿されている。穴66の底にはピストン68を進退させる駆動力を伝達するギア列70の出力軸と接続された棒ネジ部材72の一端が回転自在に配置されている。ギア列70は複数の歯車で構成され、電動ブレーキECU40からの指令に従い回転駆動するモータ74の回転数を所定値まで減速して棒ネジ部材72を所定の回転数で所定の方向に回転させる。棒ネジ部材72には、ピストン68を進退させるためのナット部材76が噛合している。ナット部材76は棒ネジ部材72の回転により矢印M,N方向に進退する。したがって、ナット部材76が矢印M方向に移動した場合、ピストン68をパッド裏金64aに向かって移動させて、摩擦材62aをディスクロータ56の側面56aに押圧させる。摩擦材62aがディスクロータ56に押圧されると、ピストン68は摺動を停止する。ピストン68が摺動を停止した後も、棒ネジ部材72が回転してナット部材76を矢印M方向に移動させようとすると、シリンダ部60を覆っているシリンダハウジング60aが矢印N方向の反力を受けることになる。その結果、棒ネジ部材72の回転に伴って、シリンダハウジング60aが矢印N方向に変位する。
【0031】
シリンダハウジング60aの非シリンダ形成側には爪部78が形成されており、シリンダハウジング60aの矢印N方向への変位に伴って、爪部78がパッド裏金64bを介して摩擦材62bをディスクロータ56の側面56bに押圧する。したがって、ディスクロータ56を一対の摩擦材62a,62bにより押圧挟持する状態となり、ディスクロータ56を効率的に制動させる電動制動力を発生することが可能となる。
【0032】
電動制動力を解除する場合は、モータ74を逆転駆動させて棒ネジ部材72を制動時とは逆回転させてナット部材76を矢印N方向に退避させる。その結果、ピストン68は、ナット部材76による拘束が解除される。したがって、ブレーキパッド58のディスクロータ56に対する付勢力も解除される。この状態でディスクロータ56が回転すると、その回転によりブレーキパッド58が弾かれ離反することとなり、ディスクロータ56の自由な回転を許容する。なお、ピストン68とシリンダハウジング60aとの間には、例えば弾性部材からなるシール部材が配置されている。このシール部材は、ピストン68が矢印M方向に移動するときに弾性変形する。ピストン68は、ナット部材76による拘束が解除されると、シール部材の復元力により矢印N方向に引き戻される方向の力を受けるので、ブレーキパッド58のディスクロータ56からの離反を容易にする。
【0033】
爪部78が押圧するブレーキパッド58に、例えば、ブレーキパッド58を矢印M方向に離反させる付勢力を発生する弾性体を備えておけば制動力解放時の離反動作をスムーズに行うことができる。
【0034】
なお、制動力の解放時に摩擦材62とディスクロータ56との隙間が大きすぎると、異物や水等の液体が侵入してしまうおそれがある。また、隙間が大きすぎると次回の制動力の発生時に遅れが生じるので好ましくない。逆に、隙間がない場合、摩擦材62がディスクロータ56に引き摺られることになり、走行抵抗の原因となり燃費(エネルギ効率)の悪化を招くおそれがある。そのため、制動力の解放時の両者の隙間は、摩擦材62とディスクロータ56との間で引き摺りが生じない程度の最小限の値にすることが望ましい。本実施形態の場合、ピストン68の退避位置はモータ74(棒ネジ部材72)の回転により正確に管理できるので、摩擦材62の引き摺り防止を容易に実現できる。また、摩擦材62は使用に伴い摩耗して薄くなるが、押圧状態からの摩擦材62の退避距離をモータ74(棒ネジ部材72)の退避量で管理できるので、摩擦材62の摩耗時における調整も容易にできる。
【0035】
次に、電動ブレーキ機構38と液圧ブレーキ機構46を有する複合型のブレーキ装置50の構成を説明する。
電動ブレーキ機構38の構造は、単構成型のブレーキ装置52と同じなので、同じ符号を付してその説明は省略する。複合型のブレーキ装置50のシリンダハウジング60aには、液圧ブレーキ機構46を動作させるための作動液をシリンダ部60に導入するために導入ポート80が形成されている。導入ポート80には、マスタシリンダ48の送出ポート82から延びる液圧配管84が接続されている。マスタシリンダ48から作動液が送出され、シリンダ部60内部に注入されると、穴66内部の圧力が高まりピストン68を矢印M方向に移動させる。ピストン68の移動によるブレーキパッド58、シリンダハウジング60a、爪部78等の挙動は前述した電動ブレーキ機構における挙動と同じであり、制動力、すなわち液圧制動力が発生できる。
【0036】
マスタシリンダ48は、シリンダ室48aを有し、内部にブレーキペダル86から延びるプッシュロッドが接続されたマスタピストン88が摺動自在に配置されている。マスタピストン88は、スプリング48bの弾性力を受けてブレーキペダル86が踏み込まれていないときにブレーキペダル86を初期位置側に戻すようにプッシュロッドを押圧している。ドライバによってブレーキペダル86が踏み込まれると、プッシュロッドがマスタシリンダ48に進入し、マスタピストン88が押圧される。これにより、シリンダ室48aにマスタシリンダ圧が発生可能となる。マスタシリンダ48には、作動液90(ブレーキフルード)を貯留しておくリザーバ92が接続され、常時シリンダ室48aが作動液90で満たされるようにしている。
【0037】
ブレーキペダル86には、ストロークセンサ42が設けられ、ブレーキペダル86がドライバにより踏み込まれたときの踏み込み状態を検出して、その信号をブレーキECU36に送信する。ブレーキECU36では、ストロークセンサ42の信号に基づいてドライバの要求制動力を算出して、電動ブレーキECU40やハイブリッドECU20を協調制御して適切な制動力を発生させる。
【0038】
なお、本実施形態の場合、電動ブレーキ機構38を電動パーキングブレーキとしても機能させることができる。
図2に示すように、電動ブレーキ機構38の場合、棒ネジ部材72とナット部材76が噛合していると共に棒ネジ部材72とモータ74との間にはギア列70が存在するので、モータ74への電流供給が停止したとしても棒ネジ部材72が制動力解放方向に回転する可能性は低い。したがって、ナット部材76によるピストン68の押圧状態が維持され、パーキングブレーキとしての制動力を維持できる。ただし、本実施形態の場合、パーキング時の制動力維持を確実なものにするため、EPBスイッチ44が操作され、パーキングが有効になった場合に、ブレーキ装置50の例えばモータ74の出力ギアに楔を打ち込むパーキング用ソレノイド44aを備えている。パーキング用ソレノイド44aにより楔を打ち込むことにより、各ギアの遊び等による緩みの発生が抑制され、パーキング制動力の維持を保証することができる。
【0039】
ところで、本実施形態のマスタシリンダ48には、当該マスタシリンダ48内の作動液90をリザーバ92に排出する排出ポート94が形成されている。排出ポート94はマスタシリンダ48において、マスタピストン88の侵入側とは逆側の終端位置に偏った位置に形成されている。排出ポート94にはリザーバ92から延びる排出配管96が接続され、その排出配管96の経路中にマスタシリンダ48からリザーバ92に排出する作動液90の排出調整をする調整機構として機能するバルブ98が配置されている。バルブ98は例えば、常閉型の開閉弁であり、非通電の場合に閉弁し、通電により開弁する。バルブ98の開閉制御は、例えば電動ブレーキECU40によって行われる。バルブ98が開弁状態の場合にブレーキペダル86が踏み込まれてマスタピストン88が矢印M方向に移動しても作動液90は、リザーバ92に排出されるためシリンダ室48aの圧力は上がらず、ブレーキ装置50に向けて送出されることはない。つまり、ブレーキ装置50の液圧ブレーキ機構による液圧制動力は発生しない。一方、バルブ98が閉弁状態の場合にブレーキペダル86が踏み込まれてマスタピストン88が矢印M方向に移動すると作動液90は、リザーバ92に排出されないためシリンダ室48aの圧力が上がり、ブレーキ装置50に向けて送出される。つまり、ブレーキ装置50の液圧ブレーキ機構による液圧制動力が発生することになる。
【0040】
このように構成されるブレーキ装置の基本的な動作を説明する。前述したように、本実施形態のブレーキ装置は、電動ブレーキ機構38を主に用いて制動力を発生させる。そして、電動ブレーキ機構38に失陥が生じて電動制動力が十分に発生できない場合等に、バックアップとして液圧ブレーキ機構46が動作するようにして液圧制動力により制動力を確保する。したがって、電動ブレーキ機構38が正常に動作している場合には、バルブ98を開弁状態にして排出ポート94から作動液90を排出させ、リザーバ92に送る。その結果、ドライバがブレーキペダル86を踏み込んでも、その踏み込み動作に起因する液圧制動力は基本的には発生しない。つまり、ストロークセンサ42の検出値に基づく要求制動力が液圧制動力以外で賄われる。
図3(a)は、電動ブレーキ機構38が正常動作している場合のブレーキペダル86のストロークと発生する制動力の関係を示している。本実施形態の場合、排出ポート94がマスタシリンダ48のストローク終端から僅かにストローク始端側に偏った位置に形成されている。したがって、ブレーキペダル86の踏み込みよりマスタピストン88がストロークして、当該マスタピストン88で排出ポート94を塞ぐまでは液圧制動力は発生しない。つまり、
図3(a)に示すように、電動制動力のみが発生し、排出ポート94の形成位置であるA点を超えて液圧制動力が発生し始める。このように、電動制動力を主な制動力として利用することができる。なお、制動力立ち上がりの遅れは、ブレーキペダル86の遊びに対応する遅れである。
【0041】
図3(a)に示すように、A点を通過した時点で液圧制動力を発生させることにより、例えばABS制御を行う場合のペダル反力を発生させることができる。本実施形態の場合、ABS制御を行う場合も基本的には電動ブレーキ機構38による制動力の増減制御で行う。この場合、電動制動力のみでABS制御を行うと、通常の液圧制動力を常用制動力にしている場合にABS制御中であることをドライバに認識させる一手段となるペダル反力が発生できない。一方、
図3(a)に示すように、ABS制御が実行されやすいブレーキペダル86の踏み込み量が大きいときに液圧制動力を発生させることにより、制動力の増減に伴う作動液90の脈動を液圧配管84およびマスタシリンダ48を介してブレーキペダル86に伝達することができる。なお、
図2の場合、排出ポート94はストローク終端に近い位置に形成されているので、電動ブレーキ機構38の正常動作時にABS制御が実行されても発生する液圧制動力は僅かであり、電動制動力の増減調整で液圧制動力の発生を相殺できるのでABS制御はスムーズに実行できる。
【0042】
一方、電動ブレーキ機構38において、断線等の失陥が生じて電動制動力が発生できない場合、電動ブレーキECU40はバルブ98に対する通電を止める。その結果、マスタシリンダ48内の作動液90は排出配管96を介してリザーバ92に排出されない。その結果、
図3(b)に示すように、ブレーキペダル86の踏み込みの初期の段階から液圧制動力を発生させることができる。
【0043】
このように、排出ポート94を形成するシンプルな構成により、電動ブレーキ機構38の正常動作時には電動制動力を主に利用し、電動ブレーキ機構38の失陥時には、液圧制動力をバックアップ用の制動力として利用することができる。なお、電動ブレーキ機構38の失陥は、例えば、電動ブレーキECU40により断線判定や各センサによる異常判定、通電時間の異常等によって検出することができる。
【0044】
図2の場合、排出ポート94をストローク終端から僅かに離れた位置に形成した例を示したが、この位置は適宜変更してもよい。例えば、電動ブレーキ機構38の異常判定が迅速に行える場合は、排出ポート94の位置をストローク終端位置にしてもよい。この場合、電動ブレーキ機構38の正常時は完全に液圧制動力を利用しない構成にすることができる。逆に、排出ポート94の位置を
図2のように矢印N方向に偏らせれば、電動ブレーキ機構38が正常動作時でも、液圧制動力を補助制動力として利用することが可能になる。例えば、急ブレーキを踏んだ場合には、液圧制動力の発生を早めて電動制動力と液圧制動力により制動力を発生させることができる。また、電動ブレーキ機構38の失陥時に何らかの原因によりバルブ98の閉弁が遅れるような場合でもマスタピストン88により排出ポート94を塞いだ時点から液圧制動力の発生が可能になる。
【0045】
なお、電動ブレーキ機構38の失陥によりバルブ98が閉弁された場合、電動ブレーキ機構38が失陥した旨をドライバに迅速に通知することが望ましく、例えば表示灯や音声により警報を出力して速やかに修理等で対応することを促すことが望ましい。
【0046】
このように構成されるブレーキ装置を
図1のハイブリッド車両100に搭載した場合の制御例を
図4のフローチャートを用いて説明する。
まず、ハイブリッド車両100のイグニッションスイッチがONの場合、ブレーキECU36は所定周期でシステムチェックを行う(S100)。この場合、ブレーキECU36は、電動ブレーキECU40およびハイブリッドECU20を介してそれぞれのシステムの動作確認を実行する。続いて、ブレーキECU36は、ブレーキペダル86の踏み込みによりドライバから制動要求があった場合であり(S102のY)、電動ブレーキ機構38が正常に動作可能な場合は(S104のY)、バルブ98を開弁する(S106)。バルブ98を常閉型の開閉弁にした場合、電動ブレーキECU40は電動ブレーキ機構38の正常動作時は常時通電により開弁しているので、その状態を維持することなる。そして、ブレーキECU36は、ハイブリッドECU20との通信により回生制動力の発生が可能である場合(S108のY)、電動ブレーキECU40とハイブリッドECU20の協調制御により要求制動力を発生するように、電動制動力および回生制動力の制御を行う(S110)。
図5(a)は、電動ブレーキ機構38が正常動作している場合であり、電動制動力と回生制動力により、
図2のA点まで協調制御が行われている様子が示されている。さらに、ブレーキペダル86の踏み込みが進みマスタピストン88が排出ポート94を通過した時点から電動制動力と回生制動力に加え液圧制動力が発生している様子を示している。この場合、回生制動力の発生分だけ、電動制動力の発生を抑制できるので電動ブレーキ機構38を駆動するための電力消費を軽減できる。なお、排出ポート94をストロークの終端に形成すれば、液圧制動力の追加発生が生じないようにできる。
【0047】
S108において、例えばバッテリ32が満充電等の原因により回生制動力が発生できない場合(S108のN)、ブレーキECU36は電動ブレーキECU40により電動制動力のみを発生させる電動制動力制御を実行する(S112)。
図5(b)に示すように、この場合もブレーキペダル86の踏み込みが進みマスタピストン88が排出ポート94を通過した時点から電動制動力に加え液圧制動力が発生するが、排出ポート94をストロークの終端に形成すれば、液圧制動力の追加発生が生じないようにできる。
【0048】
S104において、電動ブレーキ機構38に失陥が生じている場合で(S104のN)、回生制動力の発生が可能である場合(S114のY)、ブレーキECU36は、要求制動力と発生可能な回生制動力を比較する。そして、回生制動力のみで十分に制動力を賄える場合(回生制動力で要求制動力を完全に賄えない場合でも十分安全な制動が行える場合も含む)で、液圧制動力の補助が不要な場合(S116のY)、バルブ98を開弁する(S118)。すなわち電動ブレーキECU40はバルブ98に対する通電を継続して開弁状態を維持する。そして、ブレーキECU36は、ハイブリッドECU20を制御して要求制動力を発生するように回生制動力制御を実行する(S120)。
図5(c)に示すように、この場合もブレーキペダル86の踏み込みが進みマスタピストン88が排出ポート94を通過した時点から回生制動力に加え液圧制動力が発生するが、排出ポート94をストロークの終端に形成すれば、液圧制動力の追加発生が生じないようにできる。
【0049】
S116において、要求制動力より発生できる回生制動力が少ない場合、つまり要求制動力を賄うために液圧制動力の追加が必要な場合(S116のN)、電動ブレーキECU40は、バルブ98に対する通電を中止して閉弁状態とする(S122)。その結果、排出ポート94からリザーバ92へ作動液90の排出が抑制される。つまり、ブレーキペダル86の踏み込み初期の段階から液圧制動力の発生が可能になる。ブレーキECU36は、ハイブリッドECU20を制御して回生制動力制御を実行すると共に、ブレーキペダル86の踏み込み量に応じた液圧制動力のバックアップ制御を実行する(S124)。この場合の制動力の発生の様子を
図5(d)に示す。このように、電動ブレーキ機構38の失陥時に急峻なブレーキペダル86の操作が行われた場合でも、可能な限りの制動力を発生させて制動力と応答性の確保を実現する。
【0050】
S114において、電動制動力に加え、回生制動力も発生できない場合(S114のN)、電動ブレーキECU40は、バルブ98に対する通電を中止して閉弁状態とする(S126)。その結果、排出ポート94からリザーバ92へ作動液90の排出が抑制される。つまり、ブレーキペダル86の踏み込み初期の段階から液圧制動力の発生が可能になる。その結果、ブレーキペダル86の踏み込み量に応じた液圧制動力のバックアップ制御を実行する(S128)。この場合の制動力の発生の様子を
図5(e)に示す。このように、電動ブレーキ機構38の失陥時で回生制動力も発生できない場合でも、可能な限りの制動力を発生させて制動力と応答性の確保を実現する。
【0051】
S102において、制動要求がない場合は(S102のN)、S100に戻り、次の周期での処理を実行する。
【0052】
上述した例では、バルブ98を単純な開閉動作を行う電磁バルブとしたが、開閉度を詳細に制御できるリニアバルブとしてもよい。リニアバルブの場合、全開および全閉の場合は、バルブ98と同様に排出ポート94からのリザーバ92への作動液90の排出時期の制御ができる。また、開閉量を制御することにより液圧制動力を発生させる場合の液圧制動力の大きさの制御ができる。例えば、上述したバルブ98の場合、電動ブレーキ機構38が正常動作時にABS制御が実施された場合、マスタピストン88が排出ポート94を塞がなければペダル反力が得られない。一方、リニアバルブにして、排出ポート94からリザーバ92への作動液90の排出量を制御することで、作動液90の脈動をブレーキペダル86側に伝達し易くしてドライバにペダル反力の変化を感じさせるようにできる。
【0053】
また、上述の実施形態では、電動ブレーキ機構38が正常動作しており、回生制動力が発生できるか否かに拘わらず、バルブ98を開弁状態にしてマスタピストン88が排出ポート94を塞ぐまで液圧制動力を発生しない場合を示した。別の実施例では、電動ブレーキ機構38が正常動作している場合、回生制動力が発生できるか否かに拘わらず、最初からバルブ98を閉じて液圧制動力を発生できるようにしてもよい。この場合、液圧制動力の発生分だけ、電動制動力の発生量を軽減できるので、電動ブレーキ機構38を動作させるための電力消費を低減できる。
【0054】
また、上述した実施形態では、排出ポート94の排出を制御するバルブ98を備える例を示したが、バルブ98を省略してもよい。つまり、ブレーキペダル6が所定量踏み込まれるまで(例えばA点まで)、マスタシリンダ48内の作動液90をリザーバ92に排出して電動制動力の発生開始より液圧制動力の発生開始を遅らせるようにする。この場合、ブレーキペダル86の踏み込み量がA点を超えれば作動液90が液圧ブレーキ機構46に送出され液圧制動力を発生させることが可能になる。その結果、電動ブレーキ機構38の失陥時に電動制動力が発生しない場合でもブレーキペダル86を排出ポート94を越える位置まで踏み込めば、液圧ブレーキ機構46がバックアップ用ブレーキ装置として機能するよりシンプルな構成のブレーキ装置が構成できる。
【0055】
また、上述した実施形態では、電動ブレーキ機構38の失陥を電動ブレーキECU40で検出する例を示したが、例えばブレーキECU36がストロークセンサ42から取得した要求制動力と、キャリパ54等の内部に配置されたセンサからの信号に基づいて算出した制動力発生推定量と比較して、その推定量がブレーキペダル86の操作に対応する制動力に満たない場合、バルブ98の開閉制御を行い液圧制動力の発生量を制御してもよい。この場合、電動ブレーキECU40自体が失陥した場合でも液圧制動力をバックアップ用の制動力として迅速に発生させることができる。
【0056】
上述した実施形態では、ハイブリッド車両100に排出ポート94を有するブレーキ装置を搭載した例を示したが、別の実施例では、エンジンを搭載しない電気自動車に本実施形態のブレーキ装置を適用して本実施形態と同様の効果を得ることができる。また、走行用モータを含まない車両に適用した場合は、回生制動力の付加がなくなるのみで、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、
図2の例では、ブレーキ装置としてディスクブレーキ装置を示したが、ドラムブレーキ装置に適用しても本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
以上、本発明を上述の実施形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、実施形態や変形例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。