(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸素側集電体の外周に、固体高分子電解質膜に対して凸の形状を有して当該固体高分子電解質膜に接するシール部材が配置され、当該シール部材は、水素側集電体の外周に配置されたシール部材と対向していないことを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の充放電システム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について説明すると、
図1は実施の形態にかかる充放電システム1の構成の概略を示しており、この充放電システム1においては、
図2、
図3に示した可逆セル10を複数枚、例えば数十〜数百枚程度を積層したセルスッタ2を有している。
【0021】
図2は、前記可逆セル10の内部(平面断面)を模式的に示しており、
図3は、後述する可逆セル10に使用されるセパレータ15の正面を示している。この可逆セル10においては、電極触媒層が両面に形成された固体高分子電解質膜11の両面に、方形の酸素側集電体12と水素側集電体13が配置されている。そして酸素側集電体12の外側には、流路14を形成するセパレータ15が配置され、水素側集電体13の外側には、流路16を形成するセパレータ17が配置されている。
【0022】
そして本実施の形態においては、
図3にも示したように、酸素側集電体12は、水素側集電体13よりも大きく(面積が広く)、酸素側集電体12の縁部が、全周に渡って、水素側集電体13の縁部の外方に位置している。
【0023】
セパレータ15の内面側(固体高分子電解質膜11側)には、方形の凹部15aが形成され、当該凹部15a内に、酸素側集電体12が設けられている。セパレータ15における当該凹部15aの外周側、すなわち、酸素側集電体12の外方側には、酸素側集電体12を囲むように、溝15bが形成され、当該溝15b内に、Oリングなどのシール部材21が設けられている。
【0024】
一方、セパレータ17の内面側(固体高分子電解質膜11側)にも、方形の凹部17aが形成され、当該凹部17a内に、水素側集電体13が設けられている。セパレータ17における当該凹部17aの外周側、すなわち、水素側集電体13の外方側には、水素側集電体13を囲むように、溝17bが形成され、当該溝17b内に、Oリングなどのシール部材22が設けられている。
【0025】
なお
図2、3に示したセパレータ15、17の形状は、数mmの厚みを有しているが、その材質は、セパレータ表面に反応流体を流通させる流路14、16を形成したり、構成部材を挿入するための凹部15a、17aを、モールドや切削加工等により設けることができるものが好ましく、たとえば樹脂セパレータや金属厚板セパレータを用いることができる。またセパレータの形状は
図2、
図3に示した例に限らず、公知となっている形状のものでもよい。
【0026】
そして、セパレータ17に設けられるシール部材22の位置は、
図2に示したように、固体高分子電解質膜11を介して、酸素側集電体12の面と対面する位置に設定されている。すなわち、シール部材22の位置は、固体高分子電解質膜11を介して酸素側集電体12の縁部よりも内方側に位置するように設定されている。
【0027】
なお
図3において、セパレータ15におけるシール材21の左右両側に位置するのは、冷却水用のマニホールド24、25であり、同じくシール材21の上側に位置しているのは、反応流体用のマニホールド、26、27、同じくシール材21の下側に位置しているのは、反応流体用のマニホールド28、29である。これら各マニホールド24〜29の外周には、Oリングなどのシール部材30が夫々各マニホールド24〜29を囲むように設けられている。
【0028】
セパレータ15の流路14の一部は、
図3に示したように、そのヘッダ部14a、セパレータ15の内部に形成された連通孔31を介して、マニホールド26と連通している。またセパレータ15の流路14の他の一部は、そのヘッダ部14b、セパレータ15の内部に形成された連通孔32を介して、マニホールド29と連通している。
【0029】
同様に、セパレータ17の流路16の一部は、そのヘッダ部(図示せず)、セパレータ17内部に形成された連通孔(図示せず)を介して、マニホールド27と連通している。またセパレータ17の流路16の他の一部は、そのヘッダ部(図示せず)、セパレータ17の内部に形成された連通孔(図示せず)を介して、マニホールド28と連通している。
【0030】
図1に示したように、前記した充放電システム1のセルスタック2の原料水入口(水電解運転時)兼空気出口に対しては、酸素側の気液分離機能を有するタンク41から水(純水)が供給されて、水電解運転がなされる。すなわち、タンク41からの水は、タンク内の底部に接続された配管42、セルスタック2に通ずる配管43を介して、配管42に設けられたポンプ44によって、セルスタック2の酸素側の一方原料水入口(水電解運転時)兼空気出口(燃料運転時)に対して供給可能である。配管43内の圧力は、圧力計P1によって計測される。
【0031】
配管42には、配管42内を流れる水の一部をタンク41に戻すための戻し管45が接続されており、この戻し管45には、流量調整弁V1、熱交換器46、イオン交換樹脂塔47、フィルタ48が設けられており、これらの装置を通じて戻し水が処理されることで、タンク41内の水の水質が維持される。タンク41内には、タンク内の水の水位を検出する液面センサ41aが設けられている。
【0032】
また配管42における戻し管45の接続部の下流側とタンク41との間には、配管49が接続されている。この配管49には、電磁弁V2が設けられている。
【0033】
配管43には、湿度交換器51に通ずる配管52、湿度交換器51と熱交換器53を結ぶ配管54、熱交換器53と熱交換器55を結ぶ配管56、熱交換器55の出口側と外部の放出口(図示せず)を結ぶ放出管57が接続されている。配管52には、電磁弁V3が設けられている。なお湿度交換器51には、例えば全熱交換器を用いることができる。
【0034】
放出管57には、タンク41の底部に接続された配管58が接続されている。また配管56と、タンク41の上部との間には、配管59が接続されている。そしてタンク41には、純水製造装置60からの水(純水)が供給される。
【0035】
セルスタック2の原料水出口(水電解運転時)兼空気出口(燃料運転時)に接続された配管61には、電磁三方弁V4を介して、配管62、63が接続されている。配管62は、タンク41の上部と接続されている。また配管63は、湿度交換器51、熱交換器53を経て、ファン64に通じている。配管61内の圧力は、圧力計P2によって計測される。
【0036】
セルスタック2には、電源装置71が接続され、各可逆セル10に対して、直流の電力が供給される。電源装置71は、制御装置72によって制御される。
【0037】
セルスタック2には、冷却用の冷却水を循環させる配管73が接続され、熱交換器74にて熱交換された冷却水が、ポンプ75の駆動により、セルスタック2内を循環し、各可逆セル10を冷却する。ここで熱交換器74にて熱交換された熱は、温熱として利用できる。温熱利用を必要としない場合には、熱交換器74にラジエータを用いて放熱するようにし、冷却水を降温させればよい。
【0038】
セルスタック2の水素入口には、配管81が接続され、この配管81は、水素側の気液分離機能を有するタンク82に通じている。タンク82とタンク41の気層部(タンク内において貯留する水の液面より上の部分であり、貯留する液面が上昇しても、液面が達することのない部分)との間には、配管83が接続されている。配管83には、電磁弁V5が設けられている。タンク82内には、タンク内の水の水位を検出する液面センサ82aが設けられている。
【0039】
タンク82は配管91を介して、水素貯蔵部92の入口側に通じている。この例では、水素貯蔵タンク(高圧容器)であり、タンク内の圧力は、圧力計P3によって計測される。配管91には背圧弁V7、逆止弁V8が設けられている。また配管91における背圧弁V7の上流側には、放出管93が接続され、放出管93には、電磁弁V9が設けられている。
【0040】
水素貯蔵部92の出口側には、配管101が接続され、湿度交換器102を介して配管103によって、セルスタック2の水素出口に通じている。配管103には、圧力調整弁V10が設けられ、配管103には、電磁弁V11が設けられている。配管103における電磁弁V11の下流側の圧力は、圧力計P4によって計測される。
【0041】
そして配管103とタンク82の上部との間には、配管104が接続されている。この配管104は、途中で前記した湿度交換器102を経由している。配管104における湿度交換器102の上流側には、電磁弁V12が設けられ、下流側にはガス循環ポンプ105が設けられている。なお湿度交換器102は必要不可欠ではないため、必ずしも設置する必要はない。また湿度交換器としては、たとえば全熱交換器を使用することができる。
【0042】
実施の形態にかかる充放電システム1は、以上のような構成を有している。まずこのシステムに用いた可逆セル10についていえば、水素側集電体13から酸素側集電体12に対して、正の差圧がかかったとしても、差圧がかかる固体高分子電解質膜11の部分は、全体が酸素側集電体12の平面部のみで完全に支持されている。通常、酸素側集電体12には、例えばチタンなどの金属製不織布やフォトケミカルエッチング、金属焼結体等により複数の微細孔を設けた金属薄板に白金鍍金を施したものが用いられるため、それ自体の剛性が非常に高く変形する恐れがない。したがって、固体高分子電解質膜11が変形する箇所は一切無く、シール部材22の面圧も確保できる。すなわち、所期のシール部材22の反力が得られ、それに応じたシール効果が得られる。
【0043】
また、たとえ酸素側集電体12の端部と、セパレータ15の凹部15aとの間に隙間があったとしても、後述のように、酸素側はほぼ大気圧であるため、膜を変形させる力は作用しない。さらに、万が一酸素側集電体12の端部で膜が破損しても、
図2に示したように、酸素側のシール部材21と水素側のシール部材22とは、直接対向しておらず、水素側のシール部材22が酸素側集電体12の端部よりも、内方側に配置されていることから、両極間のガスが混合する可能性は無く、可逆セル10外部への漏えい可能性もない。なお、水素側集電体13の端部とセパレータ17の凹部17aとの間に隙間があったとしても、前記したように、酸素側はほぼ大気圧であるから、酸素側から水素側に加圧されることはないので問題はない。
【0044】
したがって本実施の形態で採用した可逆セル10によれば、水素側集電体13から酸素側集電体12に対して、正の差圧がかかったとしても、固体高分子電解質膜11の破損はなく、またガスがセル外部に漏れ出すこともない。発明者の試算では膜の強度を一切変更することなくセルの極間差圧耐性を数10MPaに高めることが可能である。そのため、従来装置では周辺装置側が担っていた安全上の負荷をすべてセル本体で担わせることができ、従来最も重要な制御であった差圧制御を一切行う必要が無くなり、それに伴い周辺装置を極めて簡素化できる。
【0045】
次に実施の形態にかかる充放電システム1の運転例について説明する。
[水電解運転(充電運転)]
水電解運転開始時は、電磁三方弁V4を操作して、配管61と配管62を開通状態にしてから、ポンプ44を起動する。そうすると、タンク41に貯蔵された水は、配管42に設けられたポンプ44によってセルスタック2の原料水入口兼用空気出口に供給される。このとき配管42を流れる水の一部は、配管45を通じて、熱交換器46、イオン交換樹脂塔47、フィルタ48によって温度調節処理、浄化処理が施されてタンク41内に戻される。
【0046】
なお水電解運転時の主要各弁の開閉状況は次の通りである。
電磁弁V1→開放(起動の際の流量調整弁として機能し、常時一定開度で開放している)
電磁弁V2→閉鎖
電磁弁V3→閉鎖
電磁三方弁V4→配管61と配管62とが連通
電磁弁V5→液面センサ82aに基づく制御
電磁弁V9→閉鎖
電磁弁V11→閉鎖
電磁弁V12→閉鎖
【0047】
この状態でセルスタック2の各可逆セル10に対して、電源装置71から電力が供給されると、その出力に応じて、供給された水は可逆セル10の陽極上で水素イオン、酸素イオンに電気分解される。
【0048】
そのうち酸素イオンは可逆セル10の固体高分子電解質膜11の酸素側触媒上で酸素分子となり、循環水と共に、配管61を通じてセル外に排出される。水素イオンは随伴水を伴ってセルの水素側に移動し、固体高分子電解質膜11の水素側触媒上で水素分子となって配管81からセル外に排出される。
【0049】
排出された純酸素と純水素は、それぞれタンク41とタンク82に送られ気液分離が行なわれる。すなわち、純酸素は配管61から、配管62を通じて、水を伴ってタンク41へと戻される。そして酸素は配管59を経て熱交換器55で冷却除湿され、そこで凝縮した水は配管58を介してタンク41に返水され、一方、純酸素は配管57から系外に排出される。熱交換器55では、たとえば別途設置する冷却用チラー(図示せず)の冷媒と熱交換される。
【0050】
一方、セルスタック2から出た純水素は、配管81からタンク82へと送られ、ここで気液分離される。そして純水素は、配管91から背圧弁V7、逆止弁V8に送られ、その後水素貯蔵部92の入口部に供給され、貯蔵される。
【0051】
かかる電気分解によって、タンク41の水位は減少し、タンク82の水位は上昇し、また可逆セル10の酸素側は、配管61、62、59、57を通じて大気系に開放されているため、常に水素側圧力の方が酸素側圧力(ほぼ大気圧)よりも高くなる。しかしながら、セルスタック2で採用している可逆セル10は、前記したように、極間差圧耐性を有するセルであるため、タンク82の液面センサ82aによる水位が、所定位置、たとえば
図1中の上側の位置になったら、電磁弁V5を開放することで、その圧力差によってタンク82の水は配管83を通じてタンク41に返水される。
【0052】
そして、水素貯蔵部92のタンク4の圧力があらかじめ設定した充電終了圧力(以降、完全充電状態という)に到達したとき、あるいは充電終了信号が制御装置72から出力されたときに、電源装置71からの電力の供給を停止し、充電を終了させる。
【0053】
水電解運転終了時は、水素極側では電磁弁V9を開放して、系内を大気圧付近まで減圧する。一方酸素極側では、ポンプ44を停止し、電磁三方弁V4を操作して、配管61と配管63を開通状態にし、電磁弁V2を開放し、ファン64を一定時間起動して、配管63、61を通じてセルスタック2に空気を供給し、配管49へと流すことで、系内及び可逆セル10内に残存した水を、配管43、49を通じてタンク41に返水する。また供給された空気は配管43、49、並びに配管59、56、57を介して系外に排出される。
【0054】
そして前記した減圧と、可逆セル10の乾燥が終了したら、全ての電磁弁を閉として運転を終了するか、あるいは次に述べる燃料電池運転に切替える。なお、可逆セル10の乾燥方法については公知の方法、たとえば乾燥したエアや窒素ガスを系内に供給することで行える。
【0055】
[燃料電池運転(放電運転)]
燃料電池運転開始時は、電磁弁V11、V12、V3を開放し、また電磁三方弁V4を操作して配管61と配管63を開通状態として、ガス循環ポンプ105、ファン64を起動する。これによって、セルスタック2の可逆セル10に対しては配管103から水素が供給され、配管61から空気が供給される。この状態でセルスタック2の可逆セル10に電力負荷(図示せず)を接続すれば、その負荷に応じてセルスタック2の可逆セル10が放電し、可逆セル10において放電電流に応じた水素と空気中の酸素が消費される。
【0056】
なお燃料電池運転時の主要各弁の開閉状況は次の通りである。
電磁弁V2→閉鎖
電磁弁V3→開放
電磁三方弁V4→配管61と配管63とが連通
電磁弁V5→液面センサ82aに基づく制御
電磁弁V9→閉鎖
電磁弁V11→開放
電磁弁V12→開放
【0057】
消費されなかった空気と発生した生成水は、配管43、52を介して湿度交換器51に送られ、供給空気と湿度交換した後に熱交換器53に送られる。ここで供給空気と熱交換が行なわれ、凝縮した水と湿度交換されなかった水は、配管56、59を介してタンク41に返水され、その余の気体は熱交換器55に送られる。この熱交換器55でさらに冷却除湿され凝縮した水は配管58を介してタンク41へと戻され、その余の気体は配管57を介して大気に排気される。
【0058】
一方、消費されなかった水素は配管81を介してタンク82に送られ、そこで気液分離された後、水素は配管104を介して湿度交換器102に送られ、水素貯蔵部92からの供給水素と湿度交換され、除湿された水素がガス循環ポンプ105により系内を循環する。なお湿度交換器102を設置しない場合には、タンク82で気液分離された後、配管104を介してガス循環ポンプ105に送られ、系内を循環する。そして燃料電池運転の反応で消費された分の水素は、水素貯蔵部92から圧力調整弁V10で調圧された後、系内(可逆セル10との循環系)に供給される。
【0059】
そしてタンク82に溜まった水は、圧力調整弁V10の設定圧力を、空気側の系内圧力(圧力計P1の圧力値)よりも10kPa以上高く設定することで、ポンプを使用しなくても可逆セル10の極間圧力差でタンク41へ返水できるようにする。タンク41の圧力があらかじめ設定した放電終了圧力(以降、完全放電状態)に到達したとき、または放電終了信号が制御装置72から出力されたら、前記した電力負荷(図示せず)を遮断し、放電を終了させる。
【0060】
燃料電池運転終了時は、水素極ではガス循環ポンプ105を停止し、電磁弁V11、V12を閉鎖する。一方酸素極ではセル内部基材が適度に乾燥する状態までファン64によって空気を供給した後、ファン64を停止し、電磁弁V3を閉鎖し、電磁三方弁V4を操作して、配管61と配管63とを開通状態として運転を終了する。そしてその後水電解運転に切替える場合には、上述の水電解開始フローの通りに起動すればよい。なお、ガス循環ポンプ105の代わりにエジェクターを使用してもよい。
【0061】
以上のように、水電解運転時に発生する純酸素を貯蔵せず大気系へと排気し、一方燃料電池運転時の酸化剤には、空気を使用する本実施の形態にかかる充放電システム1では、充放電運転中に極間の水移動と、システム系外への、主に水蒸気の状態での排水が発生する。これらの現象が発生する中で繰返し充放電を行うためには、水管理が特に重要となる。
【0062】
具体的には、まず水電解運転では、電気分解時に陽極で発生したプロトンが固体高分子電解質膜11を介して陰極に移動する際の随伴水により、陽極側から陰極側への水移動が発生する。原料を無駄にせず電気分解を継続するためには、原料であるこの随伴水を適時陽極側に返水する必要がある。この移動水は、前記したように、タンク82に送られるが、従来のように、両極圧力を昇圧してほぼ均圧で運転するこれまでのシステムでは、水素側の気液分離タンクと補給水タンクを結ぶ配管を各々別途設け、補給水タンクに返送してから酸素側の気液分離タンクに送っていた。これは、水素側から酸素側に直接返水すると、仮に制御不良や弁類の故障により水素側から酸素側に水でなく水素が送られた場合、可逆セル10の陽極電極上で水素と酸素の燃焼反応が起こりセルを破損させる危険性があるためである。
【0063】
そのため、従来は、前記危険性を排除するために、クッション、バッファとして機能する補給水タンクを設置し、それを大気開放することで、たとえ水素が入ってきても補給水タンク内で水素を系外に排出するようにしていた。
【0064】
これに対して前記した本実施の形態では、水素側は加圧状態であるが酸素側は常圧であることから、タンク41は大気開放状態である。しかも水素側からの返水用の配管83を、タンク41の水槽部ではなくタンク41の上方、すなわち気層部に接続している。そのため、タンク82と41を直結させて水を返水する際に、水だけでなく水素がタンク41に送られても、大気開放された配管59、57により直ちに系外へ排気されるため、陽極側の配管42、45、62に水素が混入することは無い。
【0065】
なお、より好ましくは、タンク41に接続された配管56、59、62に逆止弁を設けることで、配管系への混入の危険性をさらに低減できる。このように、両タンク82、41を配管83で直結しても安全が確保できるため、両極間の圧力差による水素側から酸素側への返水が可能となり、また従来みられた補給水タンクと酸素側気液分離兼水タンクを一体化でき、それに伴って、従来システムでは必要であった送水ポンプや配管系、弁類が大幅に削減できる。
【0066】
また、従来の水電解専用機では水素側気液分離タンクは気液分離と系内圧力調整の2つの機能を果たしていたため、特に後者の機能を果たすために小型化することは極間差圧制御の複雑化、高度化を招いていた。
【0067】
しかしながら、本システムでは極間差圧調整の必要が無いため、タンク82は気液分離機能のみ有していればよく、タンク容積自体も小型化できる。またタンク41については、水電解専用機の場合は製造した水素(または酸素)の全てを外部の水素需要に供給するため、製造した水素を水に戻すことはない。そのため、本実施の形態で用いたような極間差圧耐性のある可逆セル10を使用して酸素側を常圧運転にした場合には、タンク41の低コスト化のために、タンク41の容量は気液分離できる程度の大きさとし、電気分解して減少した分の水を、純水製造装置60から適時給水することが最適である。しかし本システムの場合には、発電終了時に分解した水と同量の水が生成されるため、タンク41には最低でも、分解した水を貯蔵できる容積が必要となる。この場合、その容量は水素貯蔵部92の水素ガスの貯蔵量により決定する。
【0068】
また、発生した純酸素を系外に排気する際に、そのまま全てを排気すると、排気酸素中に含まれる水蒸気、つまり原料の一部を系外に排出してしまうことになる。これについては、気液分離後の排気酸素を熱交換器55で冷却することで、排気酸素中の水蒸気を回収して、タンク41に返水することができ、原料水の系外への排出量を低減することができる。
【0069】
次に燃料電池運転では、アノード側での生成水発生が支配的であるが、アノードとカソードの水の濃度差によって、アノード側から電解質膜を介してカソード側への逆拡散により水移動が発生する。移動水の一部は水素ガスの加湿に使われるが、運転条件によっては系内でその水が凝縮し、タンク82に徐々に水が溜まっていく。燃料電池専用装置ではその水を系外に捨ててしまえばよいが、本実施の形態では、水は原料であるため系外へと排出してしまうと、その分を新たに給水しなければいけない。
【0070】
そこで、水電解運転時の配管83を利用して、水素側から酸素側へ返水するために、水素極の圧力を酸素極の圧力よりも例えば10kPa以上高く設定する。これにより返水ポンプを使用せず、また、返水のために新たな配管系を設けることなくタンク41への返水が可能となる。なお、水素極側の圧力の設定は、圧力調整弁V10により行うため、かかる水素側の圧力設定は、圧力調整弁V10の開度調整だけで済み、非常に簡素である。
【0071】
また、酸化剤として可逆セル10に供給され、反応に使われずにセル外へ排出された空気をそのまま系外に排気してしまうと、排気空気中に含まれる水蒸気を系外に排出することになる。特に燃料電池運転時の排気量は、空気自体の構成として窒素が約8割を占め、その全ては反応に使用されずに排気される。そのため、運転条件にもよるが、燃料電池運転時の空気の排気量は、水電解時の純酸素の排気量に比べて3倍程度となり、それに伴い水蒸気、つまり原料の排出量も増加する。
【0072】
通常の燃料電池専用装置であれば、水を回収する必要が無いため排水量の増加は問題にならないが、水を原料とする本実施の形態にかかる充放電システム1では、排水した分は給水しなければいけない。しかしながら給水量を増やすと、純水製造装置60の大型化や処理水量増大に伴う純水装置内部の交換部品の交換頻度が高まることにより、給水に係わるイニシャルコスト、ランニングコストが増加してしまう。一般的な純水製造装置で純水を作る場合、原水の100%を純水にできるわけでは無く、一部の原水を純水製造のために排水する。そのため、給水量の増加に伴い排水原水も増加するため資源的な無駄が多くなる。
【0073】
かかる点に関しては、本システムでは、酸化剤排気系統に各種回収器を設けることで、効率的な水回収と冷却動力の低減を図っている。具体的には、まず排気系の上段に供給空気と湿度交換するための湿度交換器51を設けており、これによって排気空気の除湿と供給空気の加湿を行う。次に、中段に供給空気と熱交換を行うための熱交換器53を設けており、これによって、排気空気および生成水の冷却と供給空気の昇温を行う。供給空気を昇温することにより、湿度交換器51で水分移動が促進される効果もある。その後下段での冷却負荷を低減するために、下段の熱交換器55に送る前に配管59で排気空気中の生成水や凝縮水をタンク41に返水する。そして水蒸気のみとなった排気空気を下段の熱交換器55で除湿し、十分除湿された空気を系外に排気することができる。
【0074】
このように、排気空気をタンク41を経由せず排気することで、タンク41から排気空気への水移動を完全に排除し、冷却負荷の低減と効率的な除湿、加湿を実現できる。例えば、可逆セル10から、80℃で排気された空気は、下段の熱交換器55に到達する時点で55℃程度まで冷却すれば、排気空気の水蒸気分圧は排気直後の1/3以下になる。水電解時の排気酸素の露点温度が80℃であるとすれば、例え燃料電池運転時の排気空気量が水電解時の排気酸素量の3倍だとしても、双方とも潜熱冷却が支配的であるため、それらを所定の温度(例えば10℃)まで冷却するときに必要な冷却装置の冷却能力は同等で済む。したがって、燃料電池運転を考慮しても、水電解時の排気酸素を所定の温度まで冷却するために必要な冷却装置を導入すればよい。
【0075】
タンク41への補給については、タンク内の液面センサ41aからの信号や水素貯蔵圧力値に基づいて行うことができる。タンク41内の水位は3点で監視する。すなわち、図中水位Aは下限水位であり、この信号が出たら運転を中止する水位である。水位Bは水位Aからの水量が、完全充電状態に必要な最小水量となる水位である。水位Cは上限水位であり、この信号が出たら必ず純水製造装置60からの給水を停止するとともに、水位が高いことを警告するために設けるものである。よって、給水量を監視、管理すれば、水位Aは省略することも可能である。
【0076】
本システムの各装置を初めて運転するときは、タンク41の水位が水位Cの状態から運転を開始する。そして繰返し充放電をしていくうちに、系外への僅かな排水の積み重ねによりタンク41の水位は低下していく。そのため、放電時では、水素貯蔵部92の圧力があらかじめ設定した放電終了圧力(完全放電状態)に到達してもタンク41の水位が、水位Bに到達しない場合が出てくる。その場合には、純水製造装置60から水位B〜C間の水量分、タンク41への給水を行う。なお、給水中であっても充電は行ってよい。
【0077】
また充電時では、水位が水位Aに到達しているにもかかわらず水素貯蔵部92の圧力があらかじめ設定した充電終了圧力に到達しない場合が出てくる。この場合は充電を中止し、純水製造装置60からの給水を開始する。その際の給水量は、充電中止時点の水素貯蔵部92の圧力を、完全充電状態の圧力にするのに必要な水量を、水素吸蔵部92の容積に基づいて制御装置72で算出し、その分の水を純水製造装置60から給水すると共に、水位B〜C間の水量分の給水も行う。なお、給水中であっても放電は行ってよい。
【0078】
ここで重要なのは、完全放電状態にも完全充電状態にもならずに充放電を繰り返す場合の給水のタイミングである。この問題について制御を行わないと、系内の保有水量が大幅に減少し、充電しても充電圧力が著しく低いときに水位下限により充電中止を余儀なくされる可能性がある。このような使用条件でも適時給水を行うためには、定期的に水素貯蔵部92のタンクとタンク41の初期化を行えばよい。具体的には、完全充電と完全放電を各1回行った時に系外に排出される水分量は計算により算出できるため、その水分量と水位B〜C間の水量(運転初期の予備水量)から、完全充放電を何回行えば水予備水が無くなるかの最小回数を予想できる。
【0079】
充放電回数がその予想回数に到達したら、放電終了時に水素貯蔵部92のタンクの水素を系外に完全に排出する。同時にタンク41の水位が水位Bに到達するまで給水を続ける。この給水中は充電も放電も行ってはならない。そして水位Bに到達したら、さらに水位B〜C間の水位分の給水を行う。この給水中は充電を行ってよい。このような初期化をあらかじめ定めた充放電回数ごとに行うことで系内の水量を一定以上に保つことができ、常に所定の蓄電容量を確保できる。
【0080】
なお、本実施の形態にかかる充放電システムを電力貯蔵システムと捉えた場合、充電時(水電解運転時)に発生する水素の貯蔵容積をコンパクトにすることでシステム全体のコンパクト化が図れる。水素の貯蔵方式としては、投入エネルギー量の観点から、現時点では高圧ガスとして貯蔵する方法か、水素吸蔵合金等の貯蔵媒体に貯蔵する方法が適切である。本発明では、いずれの水素貯蔵方式にも適用できるものである。
【0081】
本実施の形態で示したように、本発明は、僻地や遠隔地など電気や水のインフラがない、あるいは水補給が出来ない状況で、充電に自然エネルギー由来の電力を使う電力貯蔵システムとして利用できる。また本実施の形態にかかるシステムは、排気する水の量を極力低減しているため、長期にわたり水インフラと断絶されたり、システムが要求するレベルの純水を得るのが困難な環境下で、かつ外気温が比較的高く、通常のバッテリーでは対応できないような場所で充放電を行う用途に最適である。
【0082】
さらにまた長期保管が想定され、かつ保管後に繰返し充放電を行う用途にも適している。すなわち、水素は一般的に、高圧容器(タンク)や水素吸蔵合金に貯蔵しておくため、通常のバッテリーのような保管中の放電ロスが無く、長期間保管後でも繰返し充放電を行うことができる。したがって、酸素を空気中から取り入れる本実施の形態にかかるシステムによれば、水素貯蔵部92での保管が確保されれば、長期間運転を休止していても、直ちに充放電が可能である。
【0083】
なお前記実施の形態の可逆セル10は、セパレータ15、17に形成された流路14、16は、各セパレータ15、17に形成した溝と、酸素側集電体12、水素側集電体13の面とで形成したものであったが、
図4に示した構造を有する可逆セル201も提案できる。
【0084】
この可逆セル201は、セパレータとして金属薄板セパレータを用いたものであり、
図4は内部の流路断面(平面断面)を模式的に示している。この可逆セル201は、電極触媒層が両面に形成された固体高分子電解質膜11の両面に、方形の酸素側集電体12と水素側集電体13が配置されている。既述の可逆セル10と同様、酸素側集電体12は、水素側集電体13よりも大きく、酸素側集電体12の縁部が、全周に渡って、水素側集電体13の縁部の外方に位置している。
【0085】
そして酸素側集電体12の外側には、反応流路202を形成するためのセパレータ203が配置され、水素側集電体13の外側には、反応流路204を形成するためのセパレータ205が配置されている。この例では、酸素側集電体12とセパレータ203との間の空間、及び水素側集電体13とセパレータ205との間の空間に、各々多孔質の金属メッシュを挿入することで各流路202、204が形成されている。そして各流路202、204が形成領域は、酸素側集電体12側の流路202の方が、水素側集電体13の流路204よりも大きく、流路202の形成領域外方端部は、流路204の形成領域外方端部よりも外方側に位置している。なお、各流路202、204が形成領域に大きさについては、これに限られるものではない。
【0086】
なお反応流路側の反応に伴い発生する熱を取り除くために設けられている冷却水流路等の部分についても、同様に金属メッシュで構成してもよい。多孔質の金属メッシュによってこれら流路を形成すると、高価となるが、セパレータ機構やシール形状を単純化できるメリットがある。
【0087】
そしてこの可逆セル201においては、セパレータ203、205間における酸素側集電体12の外方端部と、水素側集電体13の外方端部に、各々対応するシール材211、212が配置され、セパレータ203、205によって挟持されている。そしてシール材211における酸素側集電体12の端部外周側には、固体高分子電解質膜11に凸に突出するリップ211aが、酸素側集電体12を囲むように形成され、一方、そしてシール材212における水素側集電体13の端部外周側には、固体高分子電解質膜11に凸に突出するリップ212aが水素側集電体13を囲むように、形成されている。リップ212aは、固体高分子電解質膜11を介して、酸素側集電体12の周辺部と対面している。各リップ211a、212aは、たとえば金型を用いて、シール材211、212と一体成型することで容易に形成できる。
【0088】
またこれらシール材211、212は、セパレータ203、205と焼き付けや射出成型等により一体化するか、プレス加工でセパレータ203、205に溝を設けその部分にシール部材を埋め込むことによって、シール部材に内圧がかかってもシール部材が外方に移動しない構造とすることが好ましい。
【0089】
かかる構成を有する可逆セル201によれば、流路202、204の端部位置、及び酸素側集電体12、水素側集電体13の端部位置が、各部材の重合方向(
図4中の上下方向)からみて、いずれも重なっておらず、また断面的に凹凸のある流路202、204よりも、断面的に平滑な酸素側集電体12、水素側集電体13の方が全体的に一回り大きくなっており、平滑な集電体とシール部材のみで固体高分子電解質膜11を挟持する構造としている。そのため、シール材211、212が変形して流路202、204に入り込んで流路圧損上昇等の問題を生じたり、入り込むことでシール面圧が低下することは無い。したがって、前記した可逆セル1と同様、水素側から酸素側に向かう正の圧力差に対する耐性を確保できる。
【0090】
また上記構成を有する可逆セル201では、セパレータ205との間の空間に、各々多孔質の金属メッシュを挿入することで各流路202、204が形成されているので、厚みが全面的に均等に製作できる。しかも集電体との接触が均一になるので、導体抵抗が低くなり、高効率での水素製造が可能である。その他、流路を構成するセパレータの厚みが薄く、かつ軽くでき、そのうえ金型が必要ないのでイニシャルコストがかからないというメリットも享有できる。
【0091】
さらにまた
図5に示した可逆セル251も提案できる。この可逆セル251は、金属薄板を波板形状にプレス成形したセパレータ252、253を用いたものであり、セパレータ252、253に、シール材211、212を焼付けや射出成型によって一体化したものである。そして酸素側集電体12とセパレータ252との間に形成される空間が、酸素側の反応流路14cとなり、セパレータ252の外側に形成される空間(実際には、同形の他の可逆セル251を積層した際に、当該他の可逆セル251のセパレータとによって形成される)が、酸素側の背面を流れる冷却水の流路14dとなる。同様に、水素側集電体13とセパレータ253との間に形成される空間が、水素側の反応流路16cとなり、セパレータ253の外側に形成される空間(実際には、同形の他の可逆セル251を積層した際に、当該他の可逆セル251のセパレータとによって形成される)が、水素側の背面を流れる冷却水の流路16dとなる。もちろん既述の可逆セル10、201と同様、酸素側集電体12は、水素側集電体13よりも大きく、酸素側集電体12の縁部が、全周に渡って、水素側集電体13の縁部の外方に位置している。
【0092】
またこの可逆セル251においては、シール材211における外側であって、リップ211aと対応する位置に、外側に凸に突出する同形のリップ211bが設けられている。このリップ211bは、可逆セル251を積層してスタック構成とした際に、冷却水の流路の気密性を確保するためのものである。
【0093】
かかる構成の可逆セル251によれば、流路を形成するセパレータをプレス加工によって容易に製作できるから、大量生産に適しており、それによって1枚あたりの単価を低廉にすることが可能である。