【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、超高速近距離無線伝送技術等の研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IQ信号をキャリブレーションするために、信号の包絡線を検波する包絡線検波器が用いられる。包絡線検波器は、例えば検波ダイオードを用いて構成される。送信機において、包絡線検波器の後段には、包絡線検波器の出力を入力とするADコンバータ(Analog to degital convertor)が配置される。
【0006】
従来の送信機では、IQ信号のキャリブレーションの精度向上させるためには、基準位相を求めることが望ましいが、どのように求めるのか不明確であった。例えば、0°の基準位相を求めるための簡単なテスト信号例として、利得誤差を極端に大きくしたテスト信号(I=cosω
mt,Q=0)が考えられる。テスト信号はダイナミックレンジが大きいため、検出系に大きなダイナミックレンジが求められる。つまり、検波ダイオードに広い検出範囲が求められる、または、ADコンバータに大きなビット数が求められる。
【0007】
比較的狭い周波数帯域(例えば1GHz帯)の信号を扱う場合には、ADコンバータの変調周波数を低くでき、ADコンバータの取扱可能なビット数(ダイナミックレンジ,垂直分解能)を大きくできる。ADコンバータでは、入力信号の周波数帯域とビット数とはトレードオフの関係にあるので、周波数帯域が狭いほど取扱可能なビット数を大きくできる。従って、比較的狭い周波数帯域の信号であれば、正確に検出できる可能性が高い。
【0008】
一方、比較的広い周波数帯域(例えば60GHz帯)の信号を扱う場合には、ADコンバータの変調周波数を高くする必要があるので、ADコンバータの取扱可能なビット数は小さくなる。従って、ダイナミックレンジが大きいテスト信号については、検出精度が劣化するので、正確な基準位相を求めることが困難であり、IQキャリブレーションの精度も不十分であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、IQキャリブレーションの精度を向上できる送信機、信号生成装置、および信号生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の送信機は、第1のテスト信号及び第2のテスト信号を生成するテスト信号生成部と、前記テスト信号生成部により生成されたテスト信号のIQインバランスを補正する信号補正部と、前記信号補正部により補正された補正信号を変調する変調部と、前記変調部により変調された変調信号の包絡線を検波する包絡線検波部と、前記包絡線検波部により検波された包絡線に基づいて、前記信号補正部により前記IQインバランスを補正するための補正係数を演算する補正係数処理部と、を備え、前記テスト信号生成部は、前記包絡線検波部の検波可能範囲に基づいて前記第1のテスト信号及び前記第2のテスト信号を生成し、前記補正係数処理部は、前記第1のテスト信号に基づく第1の包絡線
の周波数解析によって、前記テスト信号の基準位相を算出し、前記第2のテスト信号に基づく第2の包絡線
の周波数解析によって、前記テスト信号の測定位相を算出し、前記測定位相および前記基準位相に基づいて前記補正係数を算出する。
【0011】
この構成により、包絡線検波部の検波精度が向上し、基準位相を精度良く求められる。従って、IQキャリブレーションの精度を向上できる。
【0012】
また、本発明の信号生成装置は、第1のテスト信号及び第2のテスト信号を生成するテスト信号生成部と、前記テスト信号生成部により生成されたテスト信号のIQインバランスを補正する信号補正部と、前記信号補正部により補正された補正信号が変調された変調信号の包絡線に基づいて、前記信号補正部により前記IQインバランスを補正するための補正係数を演算する補正係数処理部と、を備え、前記テスト信号生成部は、前記包絡線を検波する包絡線検波部の検波可能範囲に基づいて前記第1のテスト信号及び前記第2のテスト信号を生成し、前記補正係数処理部は、第1のテスト信号に基づく第1の包絡線
の周波数解析によって、前記テスト信号の基準位相を算出し、第2のテスト信号に基づく第2の包絡線
の周波数解析によって、前記テスト信号の測定位相を算出し、前記測定位相および前記基準位相に基づいて前記補正係数を算出する。
【0013】
この構成により、包絡線検波部の検波精度が向上し、基準位相を精度良く求められる。従って、IQキャリブレーションの精度を向上できる。
【0014】
また、本発明の信号生成方法は、第1のテスト信号及び第2のテスト信号を生成するテスト信号生成ステップと、前記生成されたテスト信号のIQインバランスを補正する補正ステップと、前記補正された補正信号が変調された変調信号の包絡線に基づいて、前記IQインバランスを補正するための補正係数を演算する演算ステップと、を備え、前記テスト信号生成ステップでは、前記包絡線を検波する包絡線検波部の検波可能範囲に基づいて前記第1のテスト信号及び前記第2のテスト信号を生成し、前記演算ステップでは、第1のテスト信号に基づく第1の包絡線
の周波数解析によって、前記テスト信号の基準位相を算出し、第2のテスト信号に基づく第2の包絡線
の周波数解析によって、前記テスト信号の測定位相を算出し、前記測定位相および前記基準位相に基づいて前記補正係数を算出する。
【0015】
この方法により、包絡線検波部の検波精度が向上し、基準位相を精度良く求められる。従って、IQキャリブレーションの精度を向上できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、IQキャリブレーションの精度を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態における送信機100の構成例を示すブロック図である。送信機100は、テスト信号生成部101、ベースバンド信号生成部102、MUX(Multiplexer)103、IQインバランス補正部104、変調器105、包絡線検波部106、演算部107、およびメモリ108を含む。
【0020】
テスト信号生成部101は、IQインバランスを測定するためのテスト信号を生成し、MUX103に出力する。テスト信号生成部101は、包絡線検波部106の検波可能範囲に基づいてテスト信号を生成する。テスト信号の生成方法の詳細については後述する。
【0021】
ベースバンド信号生成部102は、通信に用いるベースバンド信号を生成し、MUX103に出力する。
【0022】
MUX103は、テスト信号又はベースバンド信号のいずれかを選択し、IQインバランス補正部に出力する。MUX103は、キャリブレーションモードでは、つまりIQ信号をキャリブレーションする場合、テスト信号生成部101からの出力を選択する。また、MUX103は、データ送信モードでは、つまりバースバンド信号を送信する場合、ベースバンド信号生成部102からの出力を選択する。
【0023】
IQインバランス補正部104は、メモリ108が保持するLUT(Look Up Table)に格納されたパラメータ(補正係数)を用いて、入力されたIQ信号を補正し、補正信号を変調器105に出力する。IQインバランス補正部104による補正では、IQインバランスが補正される。IQインバランスは、振幅誤差及び位相誤差を含む。
【0024】
変調器105は、IQインバランス補正部104からの補正信号を変調し、変調信号(高周波信号)を出力する。
【0025】
包絡線検波部106は、包絡線検波器106Aと、包絡線検波器の後段に直列に接続されたADコンバータ106Bと、を含む。包絡線検波器106Aは、検波ダイオードを用いて構成され、変調器105から出力された高周波信号の包絡線を検波する。ADコンバータ106Bは、包絡線の検波結果としてのアナログ信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号(包絡線信号)を演算部107へ出力する。
【0026】
演算部107は、包絡線信号を解析することによって、IQインバランスを検出する。また、演算部107は、IQインバランスを補正するための補正係数を求め、メモリ108が保持するLUTを更新する。つまり、演算部107は、包絡線検波部106により検波された包絡線に基づいて補正係数を演算する補正係数処理部としての機能を有する。
【0027】
演算部107は、図示しないメモリに格納されたプログラムを実行することによって、各機能を実現する。演算部107の動作の詳細については後述する。
【0028】
メモリ108は、LUTを有し、各種データ、各種パラメータを記憶する。各種パラメータには、補正係数を含む行列cが含まれる。
【0029】
なお、テスト信号生成部101、ベースバンド信号生成部102、MUX103、IQインバランス補正部104、演算部107、およびメモリ108が、第1の集積回路において構成され、変調器105及び包絡線検波部106が第2の集積回路において構成されてもよい。また、送信機100における全ての構成部が、1つの集積回路によって構成されてもよい。
【0030】
次に、IQインバランス補正部104について説明する。
IQインバランス補正に用いる行列cは、値g
c及び値θ
cを用いて、例えば以下の(式1)により記述される。値g
cは振幅誤差g
eの補正に寄与する値であり、値θ
cは位相誤差θ
eの補正に寄与する値である。
【0032】
振幅誤差g
e及び位相誤差θ
eが十分小さい場合は、値g
c及び値θ
cも十分小さくなり、行列cは以下の(式2)により近似できる。
【数2】
【0033】
図2はIQインバランス補正部104の詳細構成例を示すブロック図である。
IQインバランス補正部104は、例えば、乗算器201,202,203,204、および加算器205,206を含む。
【0034】
乗算器201は、MUX103からのI信号(補正前I信号)と、LUTに格納された補正係数c(1,1)とを入力し、乗算する。乗算器202は、MUX103からのI信号(補正前I信号)と、LUTに格納された補正係数c(2,1)とを入力し、乗算する。乗算器203は、MUX103からのQ信号(補正前Q信号)と、LUTに格納された補正係数c(1,2)とを入力し、乗算する。乗算器204は、MUX103からのQ信号(補正前Q信号)と、LUTに格納された補正係数c(2,2)とを入力し、乗算する。
【0035】
加算器205は、乗算器201の出力と乗算器203の出力とを入力して乗算し、補正されたI信号(補正後I信号)を出力する。加算器206は、乗算器202の出力と乗算器204の出力とを入力して乗算し、補正されたQ信号(補正後Q信号)を出力する。
【0036】
次に、変調器105について説明する。
図3は変調器105の詳細構成例を示すブロック図である。
変調器105は、乗算器301,302、発振器303、および加算器304を含む。
【0037】
乗算器301は、IQインバランス補正部104により補正されたI信号(補正後I信号)と、発振器303の出力とを入力し、乗算する。乗算器302は、IQインバランス補正部104により補正されたQ信号(補正後Q信号)と、発振器303の出力とを入力し、乗算する。
【0038】
発振器303は、連続波信号を生成し、2つの連続波信号に90°の位相差を付加して、乗算器301および乗算器302に供給する。加算器304は、乗算器301の出力と乗算器302の出力とを入力し、加算する。
【0039】
加算器304の出力が、変調信号となり、送信機100の出力信号となる。なお、送信機100は、変調器105の後段に増幅器を設けてもよい。送信機100の出力信号を、振幅誤差g
e、位相誤差θ
eを用いて、以下の(式3)に示す。
【0041】
次に、テスト信号生成部101について説明する。
テスト信号には、第1のテスト信号S1と第2のテスト信号S2とがある。第1のテスト信号S1は、送信機100が生成する信号の基準位相を測定するための信号である。第2のテスト信号S2は、送信機100が生成する信号の測定位相を測定するための信号である。
【0042】
まず、第1のテスト信号S1について説明する。
【0043】
テスト信号生成部101は、第1のテスト信号S1として、例えば以下の(式4)によって表される第1のテスト信号S11を出力する。(式4)によって表わされる第1のテスト信号S11は、0°の基準位相を求めるための信号である。
【数4】
【0044】
(式4)において、A,αは定数である。ω
mは後述する第2のテスト信号(シングルサイドバンド信号)の角周波数である。αは、送信機100の有するIQインバランスの大きさと、IQインバランス補正後に許容される残留IQインバランスと、によって決定される。以下の式においても同様である。
【0045】
(式4)によって表わされる第1のテスト信号S11は、IQ平面では、t=0において(I,Q)=(A(1+α),0)(
図4(A)の点A)から、I軸の負方向に振幅Aαとして振動を開始する。つまり、原点(0,0)を中心とした単純なテスト信号の振動と比較すると、距離Aがオフセットされている。従って、包絡線検波器106Aに入力される第1のテスト信号S11の振幅A±Aαが、
図5に示す検波可能レンジDに収まれば、好適に第1のテスト信号S11を検出できる。
【0046】
また、テスト信号生成部101は、第1のテスト信号S1として、例えば以下の(式5)によって表される第1のテスト信号S12を出力してもよい。(式5)によって表わされる第1のテスト信号S12は、90°の基準位相を求めることができる。
【数5】
【0047】
第1のテスト信号S12は、IQ平面では、t=0において(I,Q)=(0,A(1+α))(
図4(A)の点B)の点から、Q軸の負方向に振幅Aαとして振動を開始する。つまり、原点を中心とした単純なテスト信号の振動と比較すると、Q軸方向に距離Aがオフセットされている。従って、包絡線検波器106Aに入力される第1のテスト信号S12の振幅A±Aαが、
図5に示す検波可能レンジDに収まれば、好適に第1のテスト信号S12を検出できる。
【0048】
また、テスト信号生成部101は、第1のテスト信号S1として、例えば以下の(式6)によって表される第1のテスト信号S13を出力する。(式6)によって表される第1のテスト信号S13は、180°の基準位相を求めるための信号である。
【数6】
【0049】
(式6)によって表される第1のテスト信号S13は、IQ平面では、t=0において(I,Q)=(A(1-α),0)(
図4(A)の点A)の点から、I軸の正方向に振幅Aαとして振動を開始する。つまり、原点(0,0)を中心とした単純なテスト信号の振動と比較すると、I軸方向に距離Aがオフセットされている。従って、包絡線検波器106Aに入力される第1のテスト信号S13の振幅A±Aαが、
図5に示す検波可能レンジDに収まれば、好適に第1のテスト信号S13を検出できる。
【0050】
(式4)〜(式6)では、第1のテスト信号S11、S12、S13は、例えば振幅変調(AM)信号用のIQ信号である。
【0051】
次に、第2のテスト信号S2について説明する。
テスト信号生成部101は、例えば以下の(式7)によって表される第2のテスト信号S2を出力する。
【数7】
【0052】
(式7)では、第2のテスト信号S2は、例えばIQ平面において原点(0,0)を中心として回転するシングルサイドバンド信号用のIQ信号である。また、第2のテスト信号S2の角周波数ω
mは、第1のテスト信号S11〜S13の角周波数2ω
mの半分である。
【0053】
ここで、第2のテスト信号S2の角周波数ω
mが第1のテスト信号S11〜S13の角周波数2ω
mの半分である理由について説明する。
【0054】
図4(A)は、IQ平面における第1のテスト信号S11及び理想的な第2のテスト信号S2の一例を示す図である。
図4(B)は、IQ平面においてI信号が理想状態よりも大きく、Q信号が理想状態よりも小さい第2のテスト信号S2の一例を示す図である。ここでは、第1のテスト信号S1として(式4)によって表わされる第1のテスト信号S11を例示する。
【0055】
図4(A)において、第1のテスト信号S11は、IQ平面において直線的な振動を反復する。第2のテスト信号S2は、IQ平面において円を描くよう回転する。例えば、
図4(B)では、歪を第2のテスト信号S2が有する場合、IQ平面上を1回転する一周期の間に振幅が大→小→大→小→大となり、角周波数が2回変化することになる。従って、第2のテスト信号S2の周期の半分の周期において、スプリアスが出現する。
【0056】
一方、第1のテスト信号S11に対しては、一周期の間に振幅が大→小→大となり、角周波数が1回変化することになる。従って、包絡線を検波した場合、第1のテスト信号S11の周期と同一の周期において、スプリアスが出現する。
【0057】
従って、テスト信号生成部101は、第1のテスト信号S11の角周波数2ω
mが、第2のテスト信号S2の角周波数ω
mの2倍となるように、テスト信号を生成する。つまり、第1のテスト信号S1の周波数は、第2のテスト信号S2の周波数の2倍である。
【0058】
次に、包絡線検波部106について説明する。
【0059】
図5は包絡線検波器106Aの入出力特性の一例を示す図である。
図5の横軸は包絡線検波器106Aの入力の大きさを示しており、縦軸は包絡線検波器106Aの出力つまりADコンバータ106Bの入力の大きさを示している。
図5を参照すると、検波可能レンジDにおいて包絡線検波器106Aの出力が急峻に大きくなっていることが理解できる。
【0060】
図4(A)では、第1のテスト信号S11は、IQ平面におけるI軸上の原点0点からA点にオフセットされている。従って、IQ平面におけるI軸上の原点0点を通過するテスト信号を使用した場合には、検波可能レンジD内にテスト信号が好適に収まらないが、第1のテスト信号S11は、検波可能レンジD内に好適に収まる。
従って、ADコンバータ106Bのビット数全体を使用でき、包絡線検波器106Aの検出精度が向上する。従って、基準位相を精度良く検出できる。
【0061】
テスト信号生成部101は、第1のテスト信号S1を示す(式4)〜(式6)における定数Aを調整する。具体的には、テスト信号生成部101は、第1のテスト信号S1の振動の中心A(A,0)(
図4(A)参照)が、包絡線検波器106Aの特性に合わせて、包絡線検波器106Aの検波可能レンジDの中心Dmの付近となるように設定する。
【0062】
また、テスト信号生成部101は、第2のテスト信号S2を示す(式7)における定数Aを調整する。具体的には、テスト信号生成部101は、第2のテスト信号S2の振動の中心が、包絡線検波器106Aの特性に合わせて、包絡線検波器106Aの検波可能レンジDの中心Dmの付近となるように設定する。なお、第2のテスト信号S2における定数Aは、第1のテスト信号S1における定数Aと同じ値を用いてもよい。
【0063】
包絡線検波器106Aにより検波される信号の大きさは、I信号及びQ信号の合成ベクトルの絶対値に相当する。送信機100がIQインバランスを持たない場合、包絡線検波器106Aにより検波される第2のテスト信号S2の包絡線の大きさは一定である。一方、送信機100がIQインバランスを有する場合、包絡線検波器106Aにより検波される包絡線の大きさは変動する。
【0064】
従って、包絡線検波器106Aは、第1のテスト信号S1及び第2のテスト信号S2のどちらであっても、検波可能レンジDの中心Dm付近を中心に振動する波形を検出する。また、第1のテスト信号S1及び第2のテスト信号S2の包絡線信号の大きさが同程度となるようαを設定することで、振幅も同程度にできる。従って、ダイナミックレンジの狭い包絡線検波器106A又はADコンバータ106Bを用いても、信号を高精度に検出できる。
【0065】
次に、演算部107の動作について説明する。
図6は演算部107の動作例を示すフローチャートである。
【0066】
まず、演算部107は、包絡線検波部106から第1のテスト信号S1に対応する包絡線信号(第1の包絡線)を入力する(ステップS101)。
【0067】
演算部107は、第1のテスト信号S1を入力すると、例えば高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)によって周波数解析し、ω
mの角周波数成分の位相θ
refを求める(ステップS102)。位相θ
refは第2のテスト信号S2を用いた場合の基準位相となる。
【0068】
続いて、演算部107は、包絡線検波部106から第2のテスト信号S2に対応する包絡線信号(第2の包絡線)を入力する(ステップS103)。
【0069】
続いて、演算部107は、第2のテスト信号S2を入力すると、例えば高速フーリエ変換によって周波数解析し、2ω
mの角周波数成分の位相θ
measを求める(ステップS104)。位相θ
measは第2のテスト信号S2の測定位相である。
【0070】
続いて、演算部107は、位相θ=θ
meas−θ
refを求める(ステップS105)。位相θは、IQインバランスに起因する2ω
mの角周波数成分の位相である。送信機100は、主に、MUX103、IQインバランス補正部104、変調器105の遅延により、位相θ
ref分の位相回転を有する。従って、位相θにより、系自体の遅延の影響を取り除き、IQインバランスに起因する位相成分を抽出できる。
【0071】
続いて、演算部107は、位相θの値に基づいて、振幅誤差g
e,位相誤差θ
eの向きを求める(ステップS106)。
【0072】
図7は位相θと、IQインバランスの向きとの関係の一例を示す図である。
図7の関係を示す情報は、例えばメモリ108が保持するLUTに格納される。
【0073】
図7において、−45°≦θ<45°では、演算部107は、振幅誤差g
eの向きが負であると判別する。つまり、出力VのI信号成分が理想状態よりも大きいことを示している。また、45°≦θ<135°では、演算部107は、位相誤差θ
eの向きが負であると判別する。また、−135°≦θ<180°又は−180°≦θ<135°では、演算部107は、振幅誤差g
eの向きが正であると判別する。また、−135°≦θ<−45°では、演算部107は、位相誤差θ
eの向きが正であると判別する。
【0074】
続いて、演算部107は、振幅誤差g
e,位相誤差θ
eの向きに基づいて、LUTに格納された行列cの値を更新する(ステップS107)。なお、行列cの初期値は単位行列に設定されている。行列cを更新することで、補正係数の精度を向上できる。
【0075】
例えば、演算部107は、振幅誤差g
eの向きが負では、行列cの各要素における値gcをΔg減算し、値θcを変更しない。つまり、振幅誤差g
eの向きが負では、I信号の成分が理想状態より大きいので、演算部107は、I信号の成分が小さくなるように行列cの値を更新する。
【0076】
また、演算部107は、位相誤差θ
eの向きが負では、行列cの各要素における値θcをΔθ減算し、値gcを変更しない。また、演算部107は、位相誤差θ
eの向きが正では、行列cの各要素における値θ
cをΔθ加算し、値g
cを変更しない。また、演算部107は、振幅誤差g
eの向きが正では、行列cの各要素における値g
cをΔg減算し、値θcを変更しない。
【0077】
なお、Δg及びΔθは、IQキャリブレーションを実施する場合の振幅誤差g
e及び位相誤差θ
eの調整パラメータであり、収束時間、収束精度の要求から決定される。また、IQインバランス補正部104は、更新された行列cを用いて補正する。
【0078】
演算部107は、第2のテスト信号S2を用いた上記の処理(ステップS103〜ステップS107)を繰り返す。演算部107は、角周波数成分2ω
mの振幅が前回の角周波数成分2ω
mの振幅よりも小さくなったかどうかを判別する(ステップS108)。角周波数成分2ω
mの振幅が前回の角周波数成分2ω
mの振幅よりも小さくなった場合、ステップS103の処理に進む。
【0079】
従って、第2のテスト信号S2を用いたテストを繰り返し実行することで、角周波数成分2ω
mの振幅が小さくなっていき、第2のテスト信号S2のIQインバランスが減少する。
【0080】
一方、角周波数成分2ω
mの振幅が前回の角周波数成分2ω
mの振幅よりも小さくなかった場合、
図6の処理を終了する。すなわち、包絡線検波器106Aにより検波された第2のテスト信号S2の角周波数成分2ω
mの振幅が小さくならなくなった時点において、キャリブレーション終了とする。
【0081】
演算部107は、第1のテスト信号S1に基づく第1の包絡線に基づいて、第2のテスト信号S2の基準位相θ
refを算出する。また、演算部107は、第2のテスト信号S2に基づく第2の包絡線に基づいて、第2のテスト信号S2の測定位相θ
measを算出する。また、演算部107は、測定位相θ
meas及び基準位相θ
refに基づいて、補正係数を算出する。補正係数は、例えば行列cの各要素である。
【0082】
詳細には、演算部107は、測定位相θ
measから基準位相θ
refを減算して位相θを求め、位相θに基づいて補正係数を算出することが好ましい。さらに詳細には、演算部107は、位相θに基づいて、IQインバランスに含まれる振幅誤差g
e又は位相誤差θ
eの向きを推定し、振幅誤差g
e又は位相誤差θ
eの向きに基づいて補正係数を算出することが好ましい。
【0083】
演算部107の動作によれば、基準位相θ
refを用いて、IQインバランスに起因する位相θを精度よく推定できる。従って、IQキャリブレーションの精度を向上できる。
【0084】
また、演算部107は、第2のテスト信号S2から測定位相θ
measを複数回算出し、算出した測定位相θ
measと基準位相θ
refに基づく補正係数の算出を複数回繰り返すことが好ましい。これにより、IQインバランスを徐々に低減でき、収束できる。
【0085】
次に、キャリブレーション終了後の送信機の動作について説明する。
【0086】
送信機100は、キャリブレーションが終了すると、キャリブレーションモードが終了する。キャリブレーションモードが終了すると、送信機100は、データ送信モードに切り替える。具体的には、
図1のMUX103が、ベースバンド信号生成部102の出力を選択する。
【0087】
続いて、IQインバランス補正部104が、演算部107により更新された行列cを含むパラメータが格納されたLUTを参照して、ベースバンド信号生成部102から出力されたIQ信号を補正する。続いて、変調器105は、補正信号を変調し、変調信号を送信する。
【0088】
送信機100によれば、ダイナミックレンジが狭い包絡線検波部106であっても、高精度なIQインバランスキャリブレーションが可能となり、送信信号の歪みを低減できる。なお、IQキャリブレーションは、例えば、送信機100の電源投入時、スリープモードからの起動時、データ送信開始前に実施すればよい。
【0089】
次に、送信機100を含む無線機器600について説明する。
図8は無線機器600の構成例を示すブロック図である。無線機器600は、送信機100、受信機602、共用器603、およびアンテナ604を含む。
【0090】
送信機100は、IQインバランスを補正して所望のデータを変調し、変調信号を送信する。受信機602は、他の通信装置からのデータを受信する。共用器603は、送信信号と、受信信号を分離し、アンテナ604を送信時、受信時において共用する。
【0091】
無線機器600により、歪みの少ないデータ送信が可能である。
【0092】
また、
図9に示す無線機器700のように、送信用のアンテナ703と受信用のアンテナ704を別に具備する構成であっても構わない。
【0093】
本発明は、上記実施形態の構成に限られるものではなく、特許請求の範囲において示した機能、または本実施形態の構成が持つ機能が達成できる構成であれば、どのようなものであっても適用可能である。
【0094】
上記実施形態では、本発明をハードウェアによって構成する場合を例にとって説明したが、本発明はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。
【0095】
また、上記実施形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしてもよいし、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称してもよい。
【0096】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。例えば、LSI製造後にプログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、LSI内部の回路セルの接続、又は、設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0097】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。