(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960504
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】オイル噴射装置
(51)【国際特許分類】
F01P 3/08 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
F01P3/08 B
F01P3/08 N
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-116620(P2012-116620)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-241913(P2013-241913A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598086110
【氏名又は名称】株式会社大安工業所
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠
【審査官】
北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−197630(JP,A)
【文献】
特開2011−247186(JP,A)
【文献】
実開昭62−732(JP,U)
【文献】
特開2006−291904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に噴孔を開口したオイル噴射パイプと、該オイル噴射パイプの基端を支持して上向きに延在せしめる本体部と、該本体部を貫通してシリンダ下部に固定せしめるボルトとを備え、該ボルトの前記本体部との貫通部にて前記ボルトの外周面と前記本体部の内周面との間に形成される環状流路に対し前記ボルトの内部を通してオイルを供給し且つ前記環状流路から前記オイル噴射パイプにオイルを供給して前記噴孔からピストンの裏面に噴射し得るように構成したオイル噴射装置であって、環状流路におけるオイル噴射パイプとの接続位置に半径方向外側に膨らむバッファ部を形成したことを特徴とするオイル噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンのクーリングギャラリーにオイルを噴射注入するためのオイル噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2に示す如く、自動車などにおける一般的なエンジンでは、シリンダ1内に収容されたピストン2がピストンピン3を介しコンロッド4の小端部4aと連結され、該コンロッド4の大端部4bが図示しないクランクピンを介しクランクシャフトと連結されており、ピストン2の上下方向の往復運動がコンロッド4を介しクランクシャフトを回転する動力として作用するようになっている。
【0003】
そして、前述した如きピストン2においては、その上側内部にクーリングギャラリー(図示せず)を環状に穿設したものがあり、この種のピストン2を冷却するに際しては、クーリングギャラリーの円周方向適宜位置に下向きに開口されているオイル入口に対し、シリンダ1下部に装備されたオイル噴射装置5からオイル6を上向きに噴射し、該オイル6を主にピストン2の下降時にクーリングギャラリー内へ注入して行き亘らせ、ピストン2の上下動による慣性力でシェーキングして効率良く熱交換させ、この熱交換によりピストン2から熱を奪って昇温したオイル6をクーリングギャラリーの円周方向適宜位置に下向きに開口されているオイル出口から流下させて回収するようにしている。
【0004】
図3に示す如く、前記オイル噴射装置5は、先端に噴孔7aを開口したオイル噴射パイプ7と、該オイル噴射パイプ7の基端を支持して上向きに延在せしめる本体部8と、該本体部8を貫通してシリンダ1下部に固定せしめるボルト9とを備え、前記ボルト9の前記本体部8との貫通部に環状流路10が形成されるようになっており、この環状流路10に前記ボルト9の内部を通してオイル6が供給され、更には、前記環状流路10から前記オイル噴射パイプ7にオイル6が供給されて前記噴孔7aからピストン2の裏面に噴射されるようになっている。
【0005】
即ち、
図4に前記ボルト9を単体で示している通り、このボルト9のロッド部9aの先端側に雄ねじ9bが形成されていると共に、このロッド部9aの基端側に括れ部9cが形成されており、
図5に示す如く、斯かるロッド部9aを本体部8に貫通せしめることで前記本体部8との貫通部に前記括れ部9cによる環状流路10が形成されるようになっている。
【0006】
一方、前記ボルト9の内部には、ロッド部9aの先端側に開口して軸心方向に延びる内部流路11が形成されており、前記括れ部9cの周方向複数箇所(図示する例では直径方向に相対する二箇所)に開口された連通孔12を介して前記内部流路11と環状流路10とが連通するようになっている。
【0007】
そして、前記ボルト9が螺着されるシリンダ1下部のねじ孔は、オイル6を導く油通路13(
図3参照)を兼ねたものとなっており、この油通路13から導かれたオイル6が前記ボルト9の内部流路11を通って連通孔12から環状流路10に流出し、該環状流路10から前記オイル噴射パイプ7にオイル6が供給されるようになっている。
【0008】
また、先の
図3では説明の便宜上から図示を省略しているが、
図4に示してある通り、前記ボルト9の内部流路11には、環状流路10側から内部流路11側へのオイル6の逆流を阻止する逆止弁14が構成されており、この逆止弁14は、内部流路11の途中に形成された弁座15に対しバネ16により弁体17を押圧して流路を閉塞するようになっているが、内部流路11から環状流路10に向かうオイル6の流れに対しては、前記バネ16の弾撥力に抗して弁体17が弁座15から離間されることで内部流路11と環状流路10とが連通孔12を介して開通するようになっている。
【0009】
尚、この種のオイル噴射装置に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−291904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述の如き従来のオイル噴射装置5においては、環状流路10に対し前記ボルト9の内部流路11を通して周方向二箇所の連通孔12からオイル6を供給するようにしていたため、ボルト9の締め付け状態により連通孔12の開口位置が周方向に異なり、該連通孔12が周方向のどの位置に開口するかに応じてオイル噴射パイプ7へのオイル6の流れ状況が変化し、オイル噴射パイプ7の噴孔7aから噴射されるオイル6の流量がばらつくという問題があった。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、ボルトの締め付け状態に拘わらずオイル噴射パイプの噴孔から噴射されるオイルの流量のばらつきを防止し得るオイル噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、先端に噴孔を開口したオイル噴射パイプと、該オイル噴射パイプの基端を支持して上向きに延在せしめる本体部と、該本体部を貫通してシリンダ下部に固定せしめるボルトとを備え、該ボルトの前記本体部との貫通部に
て前記ボルトの外周面と前記本体部の内周面との間に形成される環状流路に対し前記ボルトの内部を通してオイルを供給し且つ前記環状流路から前記オイル噴射パイプにオイルを供給して前記噴孔からピストンの裏面に噴射し得るように構成したオイル噴射装置であって、環状流路におけるオイル噴射パイプとの接続位置に半径方向外側に膨らむバッファ部を形成したことを特徴とするものである。
【0014】
而して、このようにすれば、ボルトの締め付け状態に応じて該ボルトの内部から環状流路へのオイルの流入位置が周方向に変化しても、ボルトの内部から環状流路に供給されたオイルがバッファ部に一旦貯められてからオイル噴射パイプに送り出されることになるため、バッファ効果によりオイル噴射パイプの噴孔から噴射されるオイルの流量の変動が平準化される。
【発明の効果】
【0016】
上記した本発明のオイル噴射装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0017】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、ボルトの内部から環状流路に供給されたオイルをバッファ部に一旦貯めてからオイル噴射パイプに送り出すことによって、バッファ効果によりオイルの流量の変動を平準化してオイル噴射パイプの噴孔から噴射されるオイルの流量のばらつきを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す一部を切り欠いた平面図である。
【
図3】
図2のオイル噴射装置の固定状態を示す一部を切り欠いた斜視図である。
【
図5】従来例を示す一部を切り欠いた平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、
図2〜
図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、
図1中に符号の記載が無いものについては、先の
図2〜
図5を参照することとする。
【0022】
本形態例のオイル噴射装置18においては、先の
図2〜
図5で説明したものと略同様に、先端に噴孔7a(
図2参照)を開口したオイル噴射パイプ7と、該オイル噴射パイプ7の基端を支持して上向きに延在せしめる本体部8と、該本体部8を貫通してシリンダ1下部に固定せしめるボルト9とにより構成されているが、該ボルト9のロッド部9aの基端側の括れ部9cにより前記本体部8との貫通部に形成される環状流路10が、そのオイル噴射パイプ7との接続位置にて半径方向外側に膨らむバッファ部19を有しており、しかも、オイル噴射パイプ7の基端の軸心7xが環状流路10の接線方向に
沿わせて配置されるようになっている。
【0023】
ここで、前記オイル噴射パイプ7は、ピストン2(
図2参照)の上側内部に環状に形成されたクーリングギャラリーのオイル入口へ向けオイル6を噴射注入し得るように設けられているが、近年においては、エンジンの馬力やトルクの向上に伴い熱負荷も増大する傾向にあり、クーリングギャラリーのオイル入口へオイル6を噴射注入するだけでなく、ピストン2に連結されるコンロッド4(
図2参照)の小端部4aや、その近傍のピストン2裏面なども同時にオイル6で冷却したいという要望が高まってきているため、本形態例においては、コンロッド4の小端部4a付近へもオイル6を噴射し得るようサブオイル噴射パイプ20を備えた例としてある。
【0024】
また、オイル6の流路構成については、先の
図2〜
図5での説明と変わるところはなく、ボルト9が螺着されているシリンダ1下部の油通路13(
図3参照)から前記ボルト9の内部流路11にオイル6が導かれ、前記ボルト9の括れ部9cの周方向複数箇所(図示する例では直径方向に相対する二箇所)に開口している連通孔12を介し前記内部流路11から環状流路10へとオイル6が流入し、オイル噴射パイプ7とサブオイル噴射パイプ20とに供給されて夫々の噴孔7aからピストン2の裏面に向け噴射されるようになっている。
【0025】
尚、ボルト9の内部流路11には、前述と同様の逆止弁14(
図4参照)が構成されているが、これについては既に詳細に説明しているので、本形態例におけるボルト9の内部の逆止弁14の機構についての説明は割愛する。
【0026】
而して、このようにすれば、ボルト9の締め付け状態により連通孔12の開口位置が周方向に変わり、これによりボルト9の内部流路11から環状流路10へのオイル6の流入位置が周方向に変化しても、ボルト9の内部から環状流路10に供給されたオイル6がバッファ部19に一旦貯められてからオイル噴射パイプ7に送り出されることになるため、バッファ効果によりオイル噴射パイプ7の噴孔7aから噴射されるオイル6の流量の変動が平準化される。
【0027】
従って、上記形態例によれば、ボルト9の内部流路11から環状流路10に供給されたオイル6をバッファ部19に一旦貯めてからオイル噴射パイプ7に送り出すことによって、バッファ効果によりオイル6の流量の変動を平準化してオイル噴射パイプ7の噴孔7aから噴射されるオイル6の流量のばらつきを防止することができる。
【0028】
また、特に本形態例においては、オイル噴射パイプ7の基端の軸心7xを環状流路10の接線方向に
沿わせて配置しているので、環状流路10からオイル噴射パイプ7の基端へのオイル6の流れの抵抗を少なくすることができ、これにより流路損失が低減することでオイル6の噴射流量の増大を図ることができる。
【0029】
尚、本発明のオイル噴射装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、サブオイル噴射パイプは必要に応じて備えれば良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
1 シリンダ
2 ピストン
6 オイル
7 オイル噴射パイプ
7a 噴孔
7x 軸心
8 本体部
9 ボルト
10 環状流路
11 内部流路
18 オイル噴射装置
19 バッファ部