特許第5960527号(P5960527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960527
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】保育器
(51)【国際特許分類】
   A61G 11/00 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   A61G11/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-152685(P2012-152685)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-14441(P2014-14441A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390022541
【氏名又は名称】アトムメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065950
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 勝
(72)【発明者】
【氏名】松原 一雄
(72)【発明者】
【氏名】松原 照巳
(72)【発明者】
【氏名】小林 心一
(72)【発明者】
【氏名】小林 健治
(72)【発明者】
【氏名】若林 啓介
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−099243(JP,A)
【文献】 実公昭28−005304(JP,Y1)
【文献】 特開平11−299841(JP,A)
【文献】 特開2000−041795(JP,A)
【文献】 特開2000−118264(JP,A)
【文献】 実開昭61−057922(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台上に臥床架を配置するとともに、前記臥床架の周囲を前側壁部、後側壁部、頭側壁部および脚側壁部で囲むようにした保育器において、
前記前側壁部、前記後側壁部、前記頭側壁部および前記脚側壁部の内の少なくとも1つの壁部がヒンジ機構によって外方に回動可能であり、
前記ヒンジ機構が前記基台上の取り付け枠によって取り付けられ、
前記前側壁部、前記後側壁部および前記脚側壁部の内の少なくとも1つの壁部が、その下縁に取り付けられた前記ヒンジ機構によって、このヒンジ機構の水平な軸線を中心に外方に回動されると、前記前側壁部、前記後側壁部および前記脚側壁部の内の前記少なくとも1つの壁部が下方に垂れ下がるようにして開放されるように構成され、
前記ヒンジ機構がヒンジ板と一対のヒンジピンとを備え、
前記前側壁部、前記後側壁部および前記脚側壁部の内の前記少なくとも1つの壁部の下縁に前記ヒンジ板が連設されるとともに、このヒンジ板の先端部にケースが設けられ、
このケース内に軸線方向に摺動可能に前記一対のヒンジピンが保持され、
前記軸線方向と直交する方向に突出する操作レバーが前記一対のヒンジピンにそれぞれ設けられるとともに、前記ケースには、前記一対のヒンジピンの間に、これら一対のヒンジピンが当接することができる当接突部が設けられ、
前記ヒンジピンが、前記取り付け枠に設けられている凹部に形成されているピン穴に係合するように、コイルばねによって付勢され、
前記操作レバーによって前記コイルばねの付勢力に抗して前記ヒンジピンを摺動させると、前記ヒンジピンが前記凹部に形成されている前記ピン穴から離脱して、前記前側壁部、前記後側壁部および前記脚側壁部の内の前記少なくとも1つの壁部が取り外されるように構成したことを特徴とする保育器。
【請求項2】
前記前側壁部、前記後側壁部および前記脚側壁部のそれぞれ前記ヒンジ機構によって外方に開くように回動可能であり、
前記前側壁部、前記後側壁部および前記脚側壁部のそれぞれが、前記凹部に形成されている前記ピン穴から前記ヒンジ機構の前記ヒンジピンを離脱させることによって、取り外し可能であるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の保育器。
【請求項3】
前記取り付け枠の前記凹部の入口部分に傾斜面が形成され、
この傾斜面に前記ヒンジピンを接触させながら前記ケースを前記取り付け枠の前記凹部に押し込むと、前記傾斜面によって前記ヒンジピンが前記コイルばねに抗して押し込まれるとともに、所定の押し込み位置で前記ヒンジピンが前記凹部の前記ピン穴内に前記コイルばねによって押し込まれて取り付けられるように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の保育器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保育器に係り、とくに基台上に臥床架を配置するとともに、側方を前側壁部、後側壁部、頭側壁部、および脚側壁部で囲むようにした保育器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新生児や未熟児を保護しながら保育する保育器が、例えば特開2005−103262号公報や特開2010−99243号公報に開示されているように、従来から用いられている。この種の保育器は、新生児や未熟児を横たわらせる臥床架の周囲を前側壁部、後側壁部、頭側壁部、および脚側壁部の4つの壁部を連ねて囲むとともに、これら4つの壁部で囲まれた臥床架の上方を天面フードによって覆うようにしている。したがって、臥床架、4つの壁部および天面フードで囲まれたエンクロージャ内の限定された空間の温度や湿度などを制御することで、新生児や未熟児の保護や保育などのために必要な温度や湿度などを得ることができる。なお、エンクロージャ内の環境をできるだけ維持しながら、必要に応じて新生児や未熟児に対して外部から処置を施すことができるように、壁部に手入れ窓を形成したり、壁部を開放可能なように構成したりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−103262号公報
【特許文献2】特開2010−99243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような保育器においては、処置者がエンクロージャ内の児の処置を行なうときに、手入れ窓からのアクセスに不都合がある場合には、開放式の壁部を開放して児に対するアクセスを行なうようにしていた。壁部の開放は、壁部の下端側にヒンジを取り付け、このヒンジを中心として側方であって、外方に回動させて開放することが一般的に行われている。ところが外方に開放させるようにすると、開放された処置窓が側方に出っ張るために、処置者の身体に触れて処置者に対して邪魔になる可能性がある。また、処置者が、壁部が側方に出っ張る分だけエンクロージャ内の児に近接することができず、処置性が低下する可能性があった。なお、保育器の壁部の清拭や消毒を行なう妨げになる可能性もあった。
【0005】
本願発明は、特許文献1、2の保育器における上述のような欠点を、比較的簡単な構成でもって、効果的に是正し得るようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、基台上に臥床架を配置するとともに、前記臥床架の周囲を前側壁部、後側壁部、頭側壁部、および脚側壁部で囲むようにした保育器において、前記前側壁部、後側壁部、頭側壁部、および脚側壁部の内の少なくとも1つの壁部がヒンジ機構によって外方に回動可能であって、しかも、前記ヒンジ機構が取り外し機構を備え、前記回動可能な前記少なくとも1つの壁部が取り外し可能であることを特徴とする保育器に関するものである。
【0007】
本発明の第1の観点においては、前記前側壁部、後側壁部、および脚側壁部が回動可能であって、しかも、取り外し機構によって取り外し可能にしている。また、本発明の第2の観点においては、前記ヒンジ機構が前記基台上の取り付け枠によって取り付けられ、前記前側壁部、後側壁部、および脚側壁部の内の少なくとも1つの壁部がその下縁に取り付けられたヒンジ機構によってこのヒンジ機構の水平な軸線を中心に外方に回動可能に支持され、外方に回動されると前記少なくとも1つの壁部が下方に垂れ下がるようにして開放されるようにしている。
【0008】
本発明の第3の観点においては、前記少なくとも1つの壁部の下縁にヒンジ板が連設されるとともに、このヒンジ板の先端部にケースが設けられ、このケース内に軸線方向に摺動可能にヒンジピンが保持されており、前記ケース内における前記ヒンジピンの軸線方向の移動機構によって前記取り外し機構が構成され、前記ヒンジピンの摺動動作によって前記少なくとも1つの壁部の取り付けと取り外しとが切り換えられるようにしている。上記第3の観点の第1の態様は、前記ヒンジピンに前記軸線方向と直交する方向に突出する操作レバーが設けられるとともに、前記ヒンジピンがコイルばねによって前記取り付け枠の凹部のピン穴に係合するように付勢され、前記操作レバーによって前記コイルばねの付勢力に抗して前記ヒンジピンを摺動させると、前記ヒンジピンが前記凹部のピン穴から離脱して前記少なくとも1つの壁部が取り外されるようにしている。
【0009】
また、本発明の第3の観点の第2の態様は、前記取り付け枠の凹部の入口部分に傾斜面が形成され、この傾斜面に前記ヒンジピンを接触させながら前記少なくとも1つの壁部のケースを前記取り付け枠の凹部に押し込むと前記凹部の壁面によって前記ヒンジピンが前記コイルばねに抗して押し込まれるとともに、所定の押し込み位置で前記ヒンジピンが前記凹部のピン穴内に前記圧縮コイルばねによって押し込まれて取り付けられるようにしている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、エンクロージャ内の児にアクセスする場合においては、少なくとも1つの壁部を外方に回動させるようにすればよい。また、上記の開放のための回動によってもなお壁部が邪魔な場合には、取り外し機構によってこの壁部を取り外すことが可能になり、これによってエンクロージャ内の児に対するアクセスが容易になり、処置者の姿勢が上記の壁部で邪魔されることがなくなる。
【0011】
請求項2の発明によれば、前側壁部と後側壁部と脚側壁部とが回動可能であって、しかも、取り外し機構によって取り外し可能であるために、処置者がエンクロージャ内の児の処置を行なう際に、上記の各壁部が邪魔にならない。また、このように三方の壁部が回動可能でしかも、取り外し可能な構成によると、壁部の内側面の清拭、消毒等の動作が容易になる。
【0012】
請求項3の発明によれば、前側壁部、後側壁部、および脚側壁部の内の少なくとも1つの壁部は、その下縁のヒンジ機構によって外方に回動可能に支持されるために、外方に回動されると少なくとも1つの壁部が下方に垂れ下がるようにして開放されることになる。従って開放された壁部とフードの外側面との間の横方向(側方方向)の寸法がほとんどなく、開放されたフードから外方に壁部が突出することがなくなって処置者に対して邪魔になることがなく、近接性が向上する。
【0013】
請求項4の発明によれば、壁部のヒンジ板の先端側のケース内に設けられたヒンジピンがケースに対して軸線方向に摺動可能に保持され、これによって取り外し機構が構成される。従ってヒンジ機構内に取り外し機構を組込むことが可能になり、簡潔でしかも、スペースを要しない取り外し可能なヒンジ機構によって壁部を下方に回動させ、かつ必要に応じて取り外すことが可能になる。
【0014】
請求項5の発明によれば、操作レバーによってコイルばねの付勢力に抗してヒンジピンを摺動させることによって、ヒンジ機構がピン穴から離脱して壁部が取り外されるようになり、操作レバーの操作による壁部の取り外しが可能になる。
【0015】
請求項6の発明によれば、取り外した壁部のケースを取り付け枠の凹部に押し込むことによって、ヒンジピンを傾斜面によって後退させて凹部のピン穴内にヒンジピンを挿入することによって、取り外した壁部を再び取り付けることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を閉鎖型保育器兼用の開放型保育器に適用した一実施の形態における保育器の、閉鎖状態での正面図である。
図2図1に示す保育器の斜視図である。
図3】前側壁部の構造を示す側面図である。
図4】同壁部の図3におけるA〜A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を閉鎖型保育器兼用の開放型保育器に適用した−実施の形態を、「1、保育器全体の概略的な構成」、「2、壁部の取り付け構造」および「3、壁部の回動動作および取り外し動作」に項分けして、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
1、保育器全体の概略的な構成
【0019】
保育器1は、図1および図2に示すように、平面的に見てほぼ長方形状などの基台2と、この基台2のほぼ外周囲に沿って立設されているほぼ直方体形状などのエンクロージャ3とを備えている。そして、基台2上には、臥床架(図示せず)が配置されている。また、この臥床架上に配置されている児用のマット(図示せず)の上面には、必要に応じて薄いシーツ(図示せず)が敷かれてから、未熟児などの児が、上記児用マット上に横たわらされて、診察、処置、保育などを施される。さらに、エンクロージャ3は、全体としてほぼ透明であってよく、前側の壁部(換言すれば、エンクロージャ3の幅方向における一方の側の壁部)4、後側の壁部(換言すれば、エンクロージャ3の幅方向における他方の側の壁部−図示せず)、頭側の壁部(換言すれば、エンクロージャ3の長さ方向における一方の側の壁部または基端部側の壁部)5および脚側の壁部(換言すれば、エンクロージャ3の長さ方向における他方の側の壁部または先端部側の壁部)6をそれぞれ備えている。そして、前側の壁部4、後側の壁部、頭側の壁部5および脚側の壁部6によって、平面的に見てほぼ長方形状などの周囲枠部が構成されている。また、前側の壁部4、後側の壁部、脚側の壁部6は、児に対する診察、処置などを任意の方向から行えるようにするために、ほぼ下方に向かって開放され得るように構成されている。さらに、前側の壁部4、後側の壁部などには、左右一対などの手入れ窓7が配置されていてよい。なお、上述のように、前側の壁部4、後側の壁部および脚側の壁部6が完全に開放されたときには、保育器1を蘇生処置用装置としても用いることができる。
【0020】
図1および図2に示す基台2は、ほぼ水平方向に延在するフレーム8に取り付け支持されている。そして、このフレーム8は、メイン支柱11に支持されている。また、このメイン支柱11は、それぞれが車輪12付きの合計で例えば4本の腕部を有する左右一対のベース13に取り付け支持されている。さらに、これら一対のベース13は、共通の連結部材9によって、互いに連結されている。そして、この連結部材9には、メイン支柱11が立設されている。また、図1および図2に示すメイン支柱11に取り付け支持されているフレーム8には、図2に示すように互いにほぼ左右対称であってよい左右一対のサブ支柱14a、14bが共通の連結部材22を介して取り付け支持されている。そして、これら左右一対のサブ支柱14a、14bは、頭側の壁部5から外方側に遠ざかる方向に向かってエンクロージャ3から離間した状態でもって、頭側の壁部5よりもさらに外方側に配置されている。
【0021】
エンクロージャ3は、図1および図2に示すように、天面フード15をさらに備えている。そして、左右一対のサブ支柱14a、14bのうちの図2における例えば左側の加熱器用サブ支柱14aには、図2に示すように、加熱器16が支持軸17によって取り付け支持されている。また、図2における例えば右側の天面フード用サブ支柱14bには、天面フード15が支持腕18によって取り付け支持されている。この場合、天面フード15は、ほぼ四角錐台形状などであってよく、また、その下面が開放された中空体であってよい。したがって、エンクロージャ3は、前記周囲枠部と、この周囲枠部の上端開口を選択的に覆うことができる天面フード15とを備えている。そして、図1および図2に示す閉鎖型の状態での保育器1においては、エンクロージャ3は、ごく小さいほぼ小屋形状に構成されている。なお、左右一対のベース13のうちの前側のベース13には、左右一対のフットスイッチ19a、19bが互いに隣接して配設されている。そして、操作者が左側のフットスイッチ19aを足などで押圧操作したときには、フレーム8がメイン支柱11に対して下降するので、このフレーム8に取り付けられている基台2などが同様に下降する。また、操作者が右側のフットスイッチ19bを足などで押圧操作したときには、フレーム8がメイン支柱11に対して上昇するので、このフレーム8に取り付けられている基台2などが同様に上昇する。
【0022】
図1および図2に示す加熱器用サブ支柱14aおよび天面フード用サブ支柱14bのそれぞれは、固定支柱21および可動支柱(図示せず)から成っている。そして、左右一対のサブ支柱14a、14bの固定支柱21の下端部は、共通の連結部材22を介してフレーム8に取り付け支持されている。また、上記一対の可動支柱は、従動歯車、駆動用チェーン、駆動歯車、電動モータなどの昇降駆動機構(いずれも図示せず)によって、固定支柱21内を上下方向にそれぞれ往復駆動(換言すれば、昇降駆動であって、固定支柱21に対して伸縮可能に駆動)されるように構成されている。そして、天面フード15が上昇位置まで移動したときには、保育器1は、開放型保育器として機能する。また、天面フード15が図1および図2に示すように下降位置まで移動したときには、保育器1は、閉鎖型保育器として機能する。さらに、この閉鎖型保育器として機能するときには、加熱器16は、その使用状態(この場合には、使用状態であっても少量の熱線しか放射されない。)においては上昇位置(図示せず)に留まり、その不使用状態においては図1および図2に示す下降位置まで移動していてよい。
【0023】
基台2の脚側の壁部6側には、図2に示すように、開閉用ドア25が配設されている。そして、この開閉用ドア25は、加湿器としての加湿ユニット(図示せず)を保育器本体26の基台2に装着したり取り出したりするのに用いられる開口24を開閉することができる。また、天面フード15用のサブ支柱14aの固定支柱21には、図1および図2に示すように、操作ユニット兼用の表示ユニット31(以下、本明細書においては、単に、「表示ユニット31」ともいう。)が支柱21に対して着脱可能にかつ支柱21に沿ってほぼ上下方向に往復動可能に取り付けられている。
【0024】
2、壁部の取り付け構造
【0025】
つぎに、この実施の形態の保育器1の側面の開放および取り外しの構造について説明する。保育器1の基台2上に設けられているエンクロージャ3は、前側の壁部4、後側の壁部(図示せず)、頭側の壁部5、脚側の壁部6を備え、これらの壁部3〜6によって四囲を囲まれている。そして前側の壁部4、後側の壁部、脚側の壁部6にはそれぞれ手入れ窓7が設けられており、必要に応じてこの手入れ窓7を開いて中に手を挿入して児に対する処置を行なうことができるようにてしている。さらにこの保育器1においては、上記前側の壁部4、後側の頭側、脚側の壁部6をそれぞれ下端側のヒンジを中心として外方に回動させて垂下させるようにし、さらに垂下した壁部4、6については、これらを取り外しできるようにしている。
【0026】
前側の壁部4の具体的な構造は、図3に示される。この壁部は、内外2枚の壁板から構成されており、外側壁板33と内側壁板34とを、所定の空間を離した状態で互いに結合している。なお、外側壁板33および内側壁板34は、ともに透明なアクリル樹脂板から構成されている。また、外側壁板33と内側壁板34との連結構造は、適宜ビス等によって行なわれるようになっており、両側の壁板33、34間の空間が上下方向に連通された空気流動空間を形成している。このような空気流動空間は、下部であって、基台2の内部に設けられた送風機によって圧送される空気を上方に向って流動させる空間になっている。
【0027】
外側壁板33の上部であって、この手入れ窓7の位置には窓が形成され、この窓の外周囲に対応するように楕円形の枠体38が設けられている。楕円形の枠体38は透明なアクリル樹脂板の窓板を備えており、側端のヒンジ39によって回動可能に支持されている。そしてこの楕円形の枠体38の端部にロック機構40が取り付けられており、このロック機構40によって楕円形の枠体38が手入れ窓7を閉じた状態でロックされるようにしている。また、前側の壁部4の両側部であって、上方位置にはラッチ41が取り付けられており、このラッチ41が頭側の壁部5および脚側の壁部6の端部の受け金42によって受けられ、前側の壁部4が閉じた状態で維持されるようにしている。
【0028】
つぎに、この前側の壁部4の下端に取り付けられているヒンジ機構について説明する。基台2の上部であって、外側部にはその四囲を囲むように取り付け枠46が取り付けられている。取り付け枠46には図4に示すようなヒンジ機構47が設けられており、このようなヒンジ機構47によって図1に示す前側の壁部4の下端であって、その左右両端の部分がそれぞれ回動可能であって、外方に開くように支持されている。すなわち前側の壁部4の下端部にはヒンジ板48が連設されるとともに、このヒンジ板48の先端側の部分に円筒状のケース49が設けられている。なお、円筒状のケース49の内周面には条溝50が複数個形成された空洞が形成されている。そしてこのようなケース49の軸線方向の両側にはそれぞれ軸線方向に摺動可能にヒンジピン51が収納されている。このようなヒンジピン51の端部とこのケース49の中間の当接突部52との間に圧縮コイルばね53が介装されている。圧縮コイルばね53は、両側のヒンジピン51をそれぞれ外方に押圧するようにしており、ヒンジピン51の先端部をピン穴60に押し込むように付勢している。そしてヒンジピン51には側方に突出するように操作レバー54が植設されており、この操作レバー54はケース49の摺動用開口55内を摺動するようにし、これによって操作レバー54によるヒンジピン51の軸線方向の摺動を可能にしている。
【0029】
このようなヒンジ機構47が取り付け枠46の凹部58に受入れられるようになっている。この凹部58の入口部分であって、その両側の部分には傾斜面59が形成されている。傾斜面59はヒンジピン51に対してカムとしての作用を与え、取り付け枠46に対して前側の壁部4を挿入すると、ヒンジピン51の先端側の部分が傾斜面59によって押されて凹部58の垂直な壁面を移動し、この後ピン穴60に至ると、圧縮コイルばね53によってヒンジピン51がピン穴60に係合されて取り付けされるようになっている。
【0030】
3、壁部の回動動作および取り外し動作
【0031】
前側の壁部4を図2において鎖線で示すように外方に回動させる場合には、天面フード15を上昇させてから、この前側の壁部4の両端のラッチ41を受け金42から外し、この状態で、前側壁部4を側方であって、外方に倒すようにして、下側のヒンジ機構47のヒンジピン51の水平な軸線を中心として回動させる。ここで前側の壁部4は、ヒンジ機構47によって外方に180度回動されるようになっており、完全に回動されると、前側の壁部4がヒンジ機構47を上端として下方に垂下し、このときに基台2の外周部に対してその突出量L図2参照)は極めて小さな値になっていることが好ましい。従って、前側の壁部4を開放して垂下した状態においては、この壁部4が側方に出っ張ることがなく、処置者の姿勢の邪魔になることがなく、処置性の向上が図られる。
【0032】
なお、本実施の形態においては、保育器1の基台2の周囲を囲む前側の壁部4のみならず、反対側の後側の壁部についても同様の構成になっている。また、脚側の壁部6についても同様の構成になっており、この脚側の壁部6を外方に回動して下方に垂下させることができるようになっている。図1において鎖線で示す状態は、脚側の壁部6を側方に回動させて下方に垂下した状態を示している。このときの脚側の壁部6の外側部に対する突出量Lもまた極めて小さな値になっていることが好ましい。なお、前側の壁部4の反対側の後側の壁部および脚側の壁部6を外方に回動して下方に垂下させる場合にも、前述したように天面フード15を予め上昇させておく。
【0033】
つぎに、上記前側の壁部4を下方に垂下させた状態でさらに取り外す動作について説明する。この動作は、前側の壁部4を下側のヒンジ機構47を用いて図2において鎖線で示すように下方に垂下させた後に、上記ヒンジ機構47の上面に露出する操作レバー54を手または指で押すことによって達成される。操作レバー54を摺動用開口55内において、それらを互いに近接するように圧縮コイルばね53に抗して押すと、ヒンジピン51の先端部が取り付け枠46の凹部58の垂直な壁面のピン穴60から離脱する。従ってこの状態で、前側の壁部4を上記ヒンジピン51の摺動方向と直交する方向に引っ張り、取り付け枠46の凹部58からヒンジ機構47のケース49を取り外す。これによって前側の壁部4が取り付け枠46から取り外されるようになる。このように前側の壁部4を側方に回動させて垂下した後さらにヒンジ機構47に設けられている取り外し機構を利用して取り外すことにより、前側の壁部4が保育器1から分離されることになる。従って、この前側の壁部4を保育器1から分離して清拭したり消毒したりすることができる。さらにこの前側の壁部4を取り外した開口を利用して、保育器1のエンクロージャ3内をも清拭したり消毒したりすることが可能になる。なお、必要であれば、上記の前側の壁部4を取り外した状態で基台2の臥床架に横たわる児の処置を行なうこともできる。なお、上述の取り外しの構造は、前側の壁部4のみならず、後側の壁部および脚側の壁部6についても同様になっている。従って、前側の壁部4、後側の壁部、および脚側の壁部6をそれぞれ取り外して三方を開放状態にすることもできる。また、本実施の形態においては、頭側の壁部5は固定式になっているが、取り外し可能な構成にしたり、サブ支柱14a、14bが存在しない保育器であれば、頭側の壁部5を他の壁部と同様の外方に回動および取り外し可能な構成にしたりしてもよい。
【0034】
つぎに、取り外された前側の壁部4の組立ての動作について説明する。この保育器1から分離された前側の壁部4の下端のヒンジ板48およびケース49を、取り付け枠46の凹部58内に挿入することによって行われる。前側の壁部4の取り付け枠46の凹部58内に、ヒンジ板48の先端側のケース49を押し込む。このときに圧縮コイルばね53によって両側に突出しているヒンジピン51を傾斜面59によってケース49内に押し込むようにする。凹部58の両側の垂直な壁面によってヒンジピン51は没入した状態で組立てられる。そして所定の位置まで押し込むと、ヒンジピン51の中心部がピン穴60の中心部と一致した位置で、ヒンジピン51を押圧する壁面が存在しなくなるために、ヒンジピン51は圧縮コイルばね53によって互いに離間するように水平方向に突出し、ピン穴60によって回動自在に支持される。これによって前側の壁部4が側方に回動可能な状態でヒンジ機構47によって取り付けられることになる。従ってこの状態で、前側の壁部4を上方に回動させて図1に示すように前側の開口部を塞ぐようにすればよい。なお、後側の壁部、および脚側の壁部6についても、同様にして取り付けられる。
【0035】
以上本願発明を図示の実施の形態によって説明したが、本願発明は上記実施の形態によって限定されることなく、本願発明の技術的思想の範囲内において各種の変更が可能である。例えば上記実施の形態においては、前側の壁部4のみならず、この前側の壁部4と反対側の後側の壁部についても回動可能であって、しかも、取り外し可能に構成されている。しかるに後側の壁部については固定式とし、回動および取り外しが不能としてもよい。
【0036】
また、上記実施の形態においては、前側壁部4の両端の下縁にヒンジ機構47が取り付けられているが、前側壁部4の下端の中央に単一のヒンジ機構を取り付けるようにしてもよい。これによってコストの低減が図られる。
【0037】
また、上記実施の形態における天面フード15については、支持腕18に支持された状態で上部開口を塞ぐようにしているが、この天面フード15についても、回動式とし、さらに支持腕18とともに、あるいは支持腕18から取り外し可能としてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 保育器
2 基台
4 前側の壁部
6 脚側の壁部
46 取り付け枠
47 ヒンジ機構
48 ヒンジ板
49 ケース
51 ヒンジピン
53 圧縮コイルばね
54 操作レバー
58 凹部
59 傾斜面
60 ピン穴
図1
図2
図3
図4