(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る油中水(W/O)型エマルション接着剤(以下、単に「接着剤」とも記す。)の好ましい実施形態について説明する。
本発明によれば、接着剤を油中水型のエマルション形態とし、かつ、水相に接着成分を含ませるようにしたため、接着成分を取り囲む油相が蒸発しにくく、その結果、開放空間下に放置しても固化しにくいという効果が得られると考えられる。本発明では、標準沸点が高く揮発性の低い溶剤を用いるため、この保存安定性をさらに高めることができる。
【0011】
また、本発明では常温で固体の、酸価の高い樹脂が油相に含まれており、被着材に接着剤を塗布すると、溶剤の被着材内部への浸透に伴い該樹脂が溶剤から離脱して、一部の溶剤を保持したまま被着材表面に残ると考えられる。このようにして、揮発性の低い溶剤を保持した樹脂が被着材表面に残る結果、被着材表面からの溶剤の急激な減少を防ぐことができ、よって貼り直し可能時間を長く確保することができると考えられる。すなわち、溶剤が紙表面に残っている場合、この溶剤が水相からの水の蒸発や、接着成分と基材との密着を妨げることで、接着しにくくなる。被着材表面に残った溶剤は、毛細管現象により時間をかけて徐々に基材中に浸透していき、一定量の溶剤が浸透して減少すると、水相に含まれる接着成分と油相に含まれる樹脂が皮膜を形成して、接着すると考えられる。このように、油相に含まれる樹脂の量によって、貼り直し可能時間の長さのコントロールも可能である。
ここで、被着材に残存する溶剤が接着剤成分である水溶性高分子を溶解または膨潤させるものであると、それにより接着強度が低下する恐れがあるが、水溶性高分子との相溶性の低い、SP値が8〜10(cal/cm
3)
1/2の溶剤を用いることにより、接着強度の低下も抑制できると考えられる。
【0012】
接着剤の水相は、接着成分となる水溶性高分子を含む。接着成分とは、接着性を発現する成分であって、結着能および皮膜形成能を有し、接着剤皮膜を形成できる成分である。
接着性を発現する水溶性高分子であれば、特に限定されず、たとえば水性接着剤の接着成分として公知の高分子を使用することができる。水溶性高分子であるため、エマルションの安定性が保たれる。
具体的には、でんぷん、ニカワなどの天然高分子、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、水溶性セルロース、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子が挙げられる。複数種の水溶性高分子を組み合わせて、配合してもよい。これらは市販品を使用することができ、たとえばでんぷんであれば、ヤマト株式会社製または不易糊工業株式会社製等の各種でんぷんのりを好ましく使用できる。
【0013】
水溶性高分子の配合量は、特に限定はされないが、接着強度を確保する観点から、接着剤全量の中に10質量%以上であることがより好ましい。一方、開放下で放置した際の膜形成(放置乾燥性)を抑制し、かつ、固化するまでの時間を確保して貼り直し可能時間を長く得るために、接着剤中の水溶性高分子の含有量は30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが一層好ましい。
【0014】
なかでも、水溶性樹脂はポリビニルアルコール(PVA)を含むことが好ましい。PVAはSP値が高く、溶剤とともに紙表面に残った場合にも溶剤による溶解や膨潤が生じにくい。また、重合度の高いPVAを使用することで強靭な皮膜が得られるため、接着強度を高めることができる。PVAは、アセトアセチル化、アミノ化、カチオン化、アニオン化、シラノール変性など誘導体化されたものであってもよい。
PVAは、重合度とけん価度により、溶液にしたときの粘度その他の性質も変わり、低けん化度、低重合度のPVAは一般に、硬化膜の耐水性に劣る等の問題がある。しかし、本発明では、様々な重合度およびけん価度のPVAを好ましく使用することができる。これは、油相に配合した樹脂が被着材表面に残って接着剤皮膜の増強に貢献するため、重合度および/またはけん化度の低いPVAを使用した場合にも、接着剤の皮膜が十分な接着強度および耐水性を持つためである。
【0015】
さらに、従来のPVA水性接着剤では、その粘度調整等の観点から使用に適さなかったような高けん化度および/または高重合度のPVAであっても、幅広く好ましく使用することができる。これは、エマルション接着剤においては、水溶液の粘度、すなわち水相の粘度が高くなっても、エマルション全体の粘度に大きく影響を与えることはないためであり、したがって、水溶液の粘度への影響を考慮することなくPVAを選択し使用することができる。
水相の粘度調整が不要であるという同じ理由に基づき、低けん化度、低重合度のPVAを高濃度で使用して、耐水性等をさらに高めることもできる。このように、PVAの配合量は、使用するPVAの種類に応じて適宜設定することが好ましい。
【0016】
水への溶解性を確保して安定なエマルションを形成するとともに、被着材に塗布した際のエマルションの崩壊性を確保する観点から、けん化度が70モル%以上のPVAを用いることが好ましい。完全けん化型のPVAを使用することもできるが、より好ましくは中間けん化型のPVAが使用される。
【0017】
PVAの重合度についても、特に限定されないが、接着剤皮膜の強度の観点から、重合度250以上のものを用いることが好ましく、500以上のものを用いることがより好ましく、1000以上のものを用いることがさらに好ましい。一般に、重合度が2000以上のPVAを用いると、水溶液が高粘度となって作業性に劣るため、水性接着剤として使用されることは少ない。これに対し、上記のようにエマルション接着剤においては、水相の粘度が高くなっても問題はないため、たとえば重合度3000以上のように、水性接着剤用としては不適であるような重合度の高いPVAを用いることもできる。それにより、接着剤皮膜の強度が大きくなり、基材上に薄く塗布しても十分な接着強度を発揮させることができる。PVAの重合度の上限値についても、特に限定されないが、開放空間下に一定期間放置した場合の接着剤の固化を抑制するには、7000以下程度であることが好ましく、6000以下であることがより好ましい。
PVAは、公知の製法に従って合成してもよいし、市販されている様々なPVAを用いることができる。異なるけん化度および/または重合度のPVAを複数種組み合わせて使用してもよい。
【0018】
ポリビニルピロリドン(PVP)についても、様々な分子量のものを用いることができる。PVPの分子量が大きいほど接着剤皮膜の強度が大きくなり、基材上に薄く塗布しても十分な接着強度を発揮させることができることから、分子量4万以上のPVPを使用することが好ましい。PVPの分子量の上限値についても、特に限定されないが、開放放置した場合の固化を抑制する観点から、130万以下とすることが好ましい。ここで、「分子量」は、GPC(標準ポリスチレン換算)で測定した質量(重量)平均分子量を意味する。
【0019】
水相には、水溶性高分子の他に必要に応じて、湿潤剤、電解質、防黴剤、酸化防止剤、水蒸発防止剤、pH調整剤などの公知の水溶性添加物を1種以上、含有させることができる。
【0020】
次に、油相について説明する。
油相は、30℃で固体の、酸価が11〜100の樹脂(以下、固体樹脂とも記す。)を含む。酸価は、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表される(KOHmg/g)。酸価は、JIS K2501に定められる測定方法により測定できる。固体樹脂の酸価が11以上であると、接着剤の貼り直し可能時間を長く確保することができ、また、酸価が100以下であると、最終的な接着強度を確保することができるため好ましい。
【0021】
油相には、エマルション安定化(保存安定性)のために樹脂を配合することが好ましいが、本発明者らの検討によると、油相に配合される樹脂が液体であると、油相の樹脂が溶剤とともに被着材内部に浸透し、その結果、被着材表面に形成される水溶性高分子の皮膜に数μm〜数十μmの大きさの不均一な隙間が生じてしまうことが判明した。また、被着材内部に浸透しないような粘性の高い液体樹脂であると、被着材表面において水溶性樹脂の接着阻害を引き起こしてしまうことも判明した。
これに対し、通常の使用環境下(30℃以下)で固体の樹脂であれば、被着材内部に浸透することはなく表面に残り、あたかも水相粒子の隙間を埋めるかのように固体樹脂が存在することにより、水溶性高分子とともに隙間のない均一な接着剤皮膜を形成することができ、その結果、接着強度を向上させることができる。
この固体樹脂は、油相の溶剤に溶解していることが好ましい。樹脂が溶剤に溶解していることにより、樹脂が溶剤を保持したまま基材表面に残りやすくなるためである。
【0022】
さらに、油相に樹脂を添加・溶解させることで油相の粘度が高められ、エマルションの安定性が向上するとの効果も得られる。樹脂を含まず溶剤のみを油相とした場合、油相の粘度(汎用型応力制御レオメータ(AR−G2、ディー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、測定条件25℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから10Paまで増加させることにより測定)が5〜100mPa・s程度と低いため、水相粒子が合一しやすく、エマルションの安定性が低下してしまい好ましくない。これに対し、溶剤に樹脂を溶解させることで、油相の粘度を500mPa・s以上に高めることができ、水相粒子の合一を防ぐことができる。
また、樹脂を添加することで接着剤の固形分濃度が上がり、十分に乾燥させた際の接着強度を向上させることが可能である。一方で、系に含まれる固形分濃度が上がることで、放置乾燥した際の固化が促進される可能性がある。したがって、接着剤に含まれる固形分(少なくとも水溶性高分子と固体樹脂を含む)は、40質量%以下とすることが好ましく、35質量%以下とすることがより好ましく、30質量%以下とすることが一層好ましい。
【0023】
固体樹脂の種類については、30℃で固体であり且つ酸価が11以上100以下であれば特に限定はされないが、たとえば、ロジンエステル樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂、マレイン酸樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、アクリル樹脂等を好ましく使用できる。酸価および/または種類の異なる樹脂を複数種組み合わせて使用してもよい。
【0024】
固体樹脂の含有量は、油相の粘度を確保して安定なエマルションとし、かつ、溶剤を保持して長い貼り直し可能時間を得るために、接着剤全量に対し2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。一方、固体樹脂の含有量が多すぎると接着強度が向上して、剥離時に材料破壊が生じて貼り直しが困難となる恐れがあることから、固体樹脂の含有量は、接着剤全量に対し6質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明の所期の効果を阻害しない範囲内で、上記固体樹脂以外のその他の樹脂を油相に配合することもできる。併用可能な樹脂としては、たとえば、エチレン−酢酸ビニル樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(塩酢ビ樹脂)、キシレン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、フマル酸樹脂等が挙げられる。
【0026】
接着剤の油相は、水相粒子の外相となり、水相からの水分の蒸発を抑制する機能を奏することが必要である。したがって油相には、開放放置した場合にも揮発しにくい溶剤として、標準沸点(1気圧下での沸点)が300℃以上の溶剤を使用する。一方、油相の溶剤は、基材に塗布した場合には、適度な貼り直し可能時間を確保しつつ基材に浸透および蒸発することで飛散するものであることが好ましく、これにより、水相粒子の合一が進んで接着剤皮膜が形成される。そのため、油相の溶剤として、標準沸点が400℃以下のものを選択することが好ましい。
【0027】
さらに、上述のように、上記固体樹脂を溶解可能であるとともに、水溶性高分子との相溶性の低い溶剤を用いることが好ましい。こうした観点から、SP値が8〜10(cal/cm
3)
1/2の溶剤を使用する。
SP値は溶剤への固体樹脂の溶解性を評価する値であり、Fedorの推算法により計算される。すなわち、物質の各官能基の凝集エネルギー密度の合計ΣE
cohとモル分子容の合計ΣVより、次式(1)のように定義することができる。
[数式1]
δ(SP値)=(ΣE
coh/ΣV)
1/2 ・・・(1)
(「溶解性パラメーター適用事例集」(メカニズムと溶解性の評価・計算例等を踏まえて)、97〜100頁、(株)情報機構、2007年3月15日発行参照)
溶剤のSP値は、8〜9(cal/cm
3)
1/2であることが一層好ましい。
【0028】
SP値が8(cal/cm
3)
1/2以上の溶剤を選択することで、溶剤と固体樹脂との溶解性が高まり、溶剤からの固体樹脂の析出を抑制し、開放放置した場合の固化の抑制につながる。具体的に一例を挙げて説明すると、ロジンエステル樹脂(重量平均分子量:10000〜45000)のSP値は7〜10(cal/cm
3)
1/2、アルキルフェノール樹脂(重量平均分子量:10000〜500000)のSP値は8〜12(cal/cm
3)
1/2、脂肪族(C5留分)系石油樹脂(重量平均分子量:1500〜5000)のSP値は8〜10(cal/cm
3)
1/2となる。SP値が8以上の溶剤を使用することで、樹脂と溶剤のSP値が一致、もしくは非常に値が近くなるため、樹脂の溶剤への溶解性を高めることが可能である。
【0029】
一方、SP値が10(cal/cm
3)
1/2以下の溶剤を使用することで、水溶性高分子との相溶性を下げることができる。具体的に一例を挙げて説明すると、水溶性樹脂であるPVA(けん化度60〜100%、重合度2000〜5000)のSP値は15〜20(cal/cm
3)
1/2、ポリビニルピロリドン(重量平均分子量:40000〜360000)のSP値は12〜14(cal/cm
3)
1/2である。溶剤のSP値が高く、水溶性樹脂のSP値に近い場合、残存する溶剤が水溶性樹脂を溶解または膨潤させ、接着強度が低下するため、好ましくない。SP値が10(cal/cm
3)
1/2以下の溶剤を選択することで、溶剤と水溶性樹脂との相溶性が低くなり、水溶性樹脂の溶解または膨潤を防ぐことができる。
【0030】
油相の溶剤として、2種以上の溶剤を混合して使用することも可能であるが、接着剤を開放放置した際のエマルションの安定性をより高めるためには、SP値が8〜10(cal/cm
3)
1/2である溶剤を1種のみ使用することが最も好ましい。溶剤を2成分以上混合して使用する場合の2成分系混合溶剤のSP値(δ
12)は、下式に従って計算し、算出したSP値が8〜10(cal/cm
3)
1/2の場合のみ使用が可能である。なお、3成分以上の系についても同様に計算するものとする。
[数式2]
δ
12=X
1δ
1+X
2δ
2 ・・・(2)
(δ
1 ,δ
2 :各溶剤のSP値、X
1,X
2:各溶剤の質量分率を示す。)
【0031】
さらに、SP値が上記範囲の溶剤は、固体樹脂の溶解性に優れるとともに、水と混合した際に水への溶解性が20g/L以下である「非水性溶剤」であるため、溶剤を含む油相に水相成分を徐々に添加して乳化を行うことで、安定性のよいW/O型エマルションを容易に作製することができる。
【0032】
溶剤としては上記の特性(標準沸点およびSP値)を満たすものであれば、特に限定はされず、たとえばエステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、パラフィン系炭化水素系溶剤、イソパラフィン系炭化水素系溶剤、ナフテン系炭化水素系溶剤等の炭化水素系溶剤などの種々の溶剤を用いることができる。
【0033】
固体樹脂の溶解性の観点から、特にエステル系溶剤が好ましく用いられ、エステル系溶剤のなかでも、飽和または不飽和の脂肪族カルボン酸のエステルが最も好ましく用いられる。また、被着材に塗布した際の溶剤の浸透性、すなわち溶剤の粘度の観点から、カルボン酸はモノカルボン酸、ジカルボン酸であることが好ましい。カルボン酸は、炭素数8〜20程度のものが好ましく、直鎖であっても分岐鎖であっても、どちらでもよい。
エステルを構成するアルコール部分も、特に限定されず、炭素数1〜18のアルキル基であることが好ましい。このアルキル基は、分岐鎖を有していてもよいし、遊離の水酸基を有していてもよい。
カルボン酸エステル全体の炭素数は、特に限定されないが、12〜30程度であることが好ましく、15〜20程度であることが最も好ましい。
【0034】
アルコール系溶剤についても、上記SP値のものであれば特に限定はされず、モノオールに限らずポリオールを用いることもでき、不飽和基を含むものであってもよい。その炭素数は、10〜20程度であることがより好ましく、15〜18程度であることが一層好ましい。
【0035】
より具体的には、これらに限定されることはないが、たとえば、
セチルアルコール(9.54(cal/cm
3)
1/2)、ステアリルアルコール(9.45(cal/cm
3)
1/2)、オレイルアルコール(9.67(cal/cm
3)
1/2)等のアルコール類;
イソノナン酸イソノニル(SP値:8.13(cal/cm
3)
1/2)、ラウリン酸ヘキシル(8.62(cal/cm
3)
1/2)、ラウリン酸イソプロピル(8.54(cal/cm
3)
1/2)、ミリスチン酸イソプロピル(8.54(cal/cm
3)
1/2)、ミリスチン酸イソオクチル(8.54(cal/cm
3)
1/2)、パルミチン酸イソステアリル(8.55(cal/cm
3)
1/2)、オレイン酸メチル(8.63(cal/cm
3)
1/2)、オレイン酸エチル(8.63(cal/cm
3)
1/2)、オレイン酸イソプロピル(8.56(cal/cm
3)
1/2)、オレイン酸ブチル(8.62(cal/cm
3)
1/2)、リノール酸メチル(8.64(cal/cm
3)
1/2)、リノール酸イソブチル(8.79(cal/cm
3)
1/2)、リノール酸エチル(8.63(cal/cm
3)
1/2)、イソステアリン酸イソプロピル(8.47(cal/cm
3)
1/2)、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン(9.06(cal/cm
3)
1/2)、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル(9.18(cal/cm
3)
1/2)等のエステル系溶剤;が好ましく挙げられる。なお、かっこ内の数値は溶剤のSP値を示している。
【0036】
以上の特性を満たす特定の溶剤は、開放放置した場合の固化を抑制する観点から、接着剤全量中に6質量%以上含まれることが好ましく、9質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることが一層好ましい。一方、溶剤の量は接着剤全量中に35質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが一層好ましい。紙等の被着材に塗布した際に、溶剤は被着材に浸透し、水相の接着剤成分のみが被着材表面に残ることが好ましいところ、溶剤の量が35質量%よりも多く含まれていると、溶剤が被着材に浸透しきれず被着材表面に残り、接着剤皮膜と被着材との密着性を阻害して、接着強度が低下する恐れがある。
【0037】
油相には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記の特定の溶剤以外の、その他の有機溶剤を含んでいてもよい。併用できるその他の溶剤としては、モーターオイル、スピンドル油、マシン油、流動パラフィン等の鉱物油、オリーブ油、ひまし油、サラダ油等の植物油;芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素の混合溶剤、パラフィン系炭化水素系溶剤、イソパラフィン系炭化水素系溶剤、ナフテン系炭化水素系溶剤等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。これらのその他の溶剤は、単独で用いるほか、適宜、2種以上を混合して使用することができる。
上記その他の溶剤を併用する場合、油相を構成する全溶媒中に上記特定の溶剤は60質量%以上含まれることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0038】
油相には、固体樹脂の溶解性を向上させるために、溶解補助剤を用いてもよい。溶解補助剤としては、固体樹脂の溶剤への溶解を容易にするような添加剤であれば、特に制限されるものではないが、たとえばアルキルベンゼン、塩素化パラフィン、フタル酸エステル、高級脂肪酸などを好ましくあげることができる。このような溶解補助剤は、単独で用いても良いし、2種類以上を適宜混合して用いても良い。
【0039】
W/O型エマルションを構成するために、油相中に乳化剤を用いることが好ましい。特に限定はされないが、非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。安定なW/O型エマルションを作製するには、非イオン性界面活性剤の中でも、HLBが10以下のものが特に好ましく用いられる。ここで言うHLBとは、Hydrophile Lipophile Balance の略で、乳化剤中の親水基と親油基のバランスを示す数値である。HLB値が高いほど親水性の乳化剤であり、HLB値が低いほど親油性の乳化剤であることを示している。なお、HLBが10以上の乳化剤を使用すると、乳化剤の親水性が強くなるため、W/O型エマルションに比べてO/W型エマルションを作製しやすくなり、好ましくない。
【0040】
このような非イオン系界面活性剤として、
高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸;
ポリオキシエチレン2〜30モル付加(以下POE(2〜30)と略して記載)オレインエーテル、POE(2〜35)ステアリルエーテル、POE(2〜20)ラウリルエーテル、POE(1〜20)アルキルフェニルエーテル、POE(6〜18)ベヘニルエーテル、POE(5〜25)2−デシルペンタデシルエーテル、POE(3〜30)2−デシルテトラデシルエーテル、POE(8〜16)2−オクチルデシルエーテル等のエーテル型界面活性剤;
POE(4〜60)硬化ヒマシ油、POE(3〜14)脂肪酸モノエステル、POE(6〜30)脂肪酸ジエステル、POE(5〜20)ソルビタン脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤;
POE(2〜30)グリセリルモノイソステアレート、POE(10〜60)グリセリルトリイソステアレート、POE(7〜50)硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE(12〜60)硬化ヒマシ油トリイソステアレート等のエーテルエステル型界面活性剤;(上記のエーテル型界面活性剤、エステル型界面活性剤、およびエーテルエステル型界面活性剤をまとめて、「エチレンオキシド付加型界面活性剤」ともいう。)
ソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(ポリオレイン酸ポリグリセリル、ポリリシノール酸ポリグリセリル、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、デカグリセリルテトラオレート、ヘキサグリセリルトリイソステアレート、ジグリセリルジイソステアレート、グリセリルモノオレエートなど)等の多価アルコール脂肪酸エステル型界面活性剤;が挙げられる。
これらの非イオン系界面活性剤は、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0041】
さらに油相には、顔料、染料等の着色剤、顔料分散剤、無機充填剤などを配合することもできる。
上記以外の任意成分を配合してもよく、任意成分は、該成分の溶解特性等に応じて、水相と油相のうちの適切な相に配合することができる。
【0042】
接着剤の水相と油相の比率は、特に限定はされないが、たとえば、油相成分を10〜70質量%、水相成分を90〜30質量%のように構成することができる。エマルションの安定性の観点から、水相の分量は85質量%以下であることがより好ましく、接着剤皮膜の硬さを確保して接着強度をより高める観点からは、水相は60質量%以上であることがより好ましい。
W/O型エマルション接着剤は、油相成分に水相成分を徐々に添加して乳化させることにより製造することができる。
【0043】
接着剤を適用する被着材(基材)は、特に限定されないが、接着剤塗布後に油相が被着材内部に浸透しやすいことが好ましく、したがって紙等の浸透性基材であることが好ましい。紙の種類は特に限定されず、普通紙、上質紙、コート紙、アート紙などに幅広く適用することができる。
接着剤の用途についても、特に限定されない。印刷後の後処理用として使用することが好ましいが、印刷前に使用してもよいし、印刷物以外に用いてもよい。
【0044】
接着剤の適用方法は、特に限定されず、シリンジ、ディスペンサー、ノズル、アプリケーター、コーター、ハンドポンプなど、様々な塗布装置を使用することができる。
冊子作製や封書作製をするために、後処理装置(フィニッシャー)に塗布機構を組み込み、インラインで必要箇所にパターニングして接着剤を塗布することもできる。
上記のように本発明に係る接着剤は、貼り直し可能時間を長く確保することができることを特徴とするが、必要に応じて加熱により乾燥を促進してより早く接着強度を発現させるようにして、貼り直し可能時間を任意に調整しつつ用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
<実施例1>
固体樹脂としてロジンエステル樹脂(1)(荒川化学工業株式会社製「ペンセルD-125」、酸価:13 (KOH mg/g)、常温(30℃)で固体)5gを、ラウリン酸ヘキシル(コグニクスジャパン株式会社製「セチオールA」、SP値:8.62(cal/cm
3)
1/2、標準沸点:335℃)13gに溶解させたものに、乳化剤としてポリリシノレイン酸ポリグリセリル−6(日光ケミカルズ株式会社製「NIKKOL Hexaglyn PR-15」)2gを添加し、5分間攪拌することで油相を得た。水溶性高分子としてポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「PVA405」、けん化度81.5mol%、重合度500)20gを、水60gに溶解してPVA水溶液を作製し、これを水相とした。前記水相を前記油相に20分間かけて連続的に添加して乳化を行い、W/O型エマルション接着剤を得た。水相を添加する間、油相はバッチ式卓上サンドミル(カンペ社製、高粘度攪拌翼使用、回転数2100rpm)で常に攪拌し、添加終了後さらに10分間攪拌を行った。
【0046】
<実施例2>
固体樹脂としてアルキルフェノール樹脂(荒川化学工業株式会社製「タマノル100S」、酸価:85〜100 (KOH mg/g)、常温(30℃)で固体)を使用した以外は、実施例1と同様の手順で接着剤を作製した。
【0047】
<実施例3>
固体樹脂として脂肪族(C5留分)系石油樹脂(日本ゼオン株式会社製「Quiontone D200」、酸価:17 (KOH mg/g)、常温(30℃)で固体)を使用した以外は、実施例1と同様の手順で接着剤を作製した。
【0048】
<実施例4>
上記石油樹脂3gを、上記ラウリン酸ヘキシル15gに溶解した以外は、実施例3と同様の手順で接着剤を作製した。
【0049】
<実施例5>
上記石油樹脂2gを、上記ラウリン酸ヘキシル16gに溶解した以外は、実施例3と同様の手順で接着剤を作製した。
【0050】
<実施例6>
水溶性高分子としてポリビニルピロリドン(和光純薬株式会社製「K-90」、分子量:360000)24gを、水56gに溶解してPVP水溶液を作製し、これを水相とした以外は、実施例3と同様の手順で接着剤を作製した。
【0051】
<実施例7>
水溶性高分子としてでんぷん糊(ヤマト株式会社製)を、固形分20gとなるように調整して使用した以外は、実施例3と同様の手順で接着剤を作製した。
【0052】
<実施例8>
油相の溶剤としてイソステアリン酸イソプロピル(日光ケミカルズ株式会社製「NIKKOL IPIS」、SP値:8.47(cal/cm
3)
1/2、標準沸点:368℃)を使用した以外は、実施例3と同様の手順で接着剤を作製した。
【0053】
<実施例9>
水溶性高分子の配合量を固形分で24g、固体樹脂の配合量を5gとする他は実施例7と同様にして接着剤を作製した。
【0054】
<比較例1>
油相の溶剤としてナフテン系石油系炭化水素溶剤(JX日鉱日石エネルギー株式会社製「AFソルベント6号」、SP値7.00(cal/cm
3)
1/2、標準沸点:306℃)を使用した以外は、実施例4と同様の手順で接着剤を作製した。
【0055】
<比較例2>
油相の溶剤として1−ドデカノール(SP値9.81(cal/cm
3)
1/2、標準沸点:260〜262℃)を使用した以外は、実施例4と同様の手順で接着剤を作製した。
【0056】
<比較例3>
油相の溶剤としてクエン酸トリ2−エチルヘキシル(SP値13.18(cal/cm
3)
1/2、沸点537℃、日本サーファクタント工業株式会社製)を使用した以外は、実施例4と同様の手順で接着剤を作製した。
【0057】
<比較例4>
固体樹脂としてロジンエステル樹脂(2)(ハリマ化成株式会社製「ネオトール 101N」、酸価:8.9(KOHmg/g)、30℃で固体)を使用した以外は、実施例1と同様の手順で接着剤を作製した。
【0058】
<比較例5>
上記石油樹脂7gを、上記ラウリン酸ヘキシル11gに溶解した以外は、実施例3と同様の手順で接着剤を作製した。
【0059】
<比較例6>
固体樹脂を使用せず、上記イソステアリン酸イソプロピルを18g用いた他は、実施例8と同様にして接着剤を作製した。
【0060】
<評価方法>
実施例および比較例で得られた接着剤について、静置保存安定性、放置乾燥性、接着性試験、および剥離試験を以下のように行った。結果を表1に示す。
1.静置保存安定性試験
接着剤を密閉容器内に50g量り取り、乳化工程から10日後に、遊離水の有無を目視で確認した。
○:乳化工程から10日経過後も遊離水の発生なし。
×:乳化工程から10日未満で遊離水が発生。
【0061】
2.放置乾燥性
非吸収性基材である金属板上に、接着剤を厚さ3mm、直径3mmの円形に塗布し、常温(30℃)で放置した。1時間ごとに接着剤表面に皮膜が形成されているか否かを目視にて確認した。
◎:放置24時間後も接着剤表面に皮膜が形成されなかった。
○:放置5時間後も接着剤表面に皮膜が形成されなかった。
×:放置5時間以内に接着剤表面に皮膜が形成された。
表1には、皮膜形成が確認された時間を併せて示す。
【0062】
3.接着性試験(1)(常温放置での接着性)
紙基材(理想用紙薄口、62g/m
2)を幅50mm、長さ100mmに切り出し、紙の一端から80mmの長さまで、幅50mm、膜厚100μmで接着剤を塗布した。同じ形状の紙基材を上からもう1枚、互いに全面が重なるように重ねて基材同士を接着し、これを試験片とした。試験片を常温で70分間放置後、接着剤が塗布されていない試験片の端部を、テンシロン万能試験機RTC-1210Aを使用し、引張速度300mm/分で180度反対方向に引っ張って剥離し、接着性を評価した(T型剥離試験:JIS K6854)。剥離した際に紙基材が破れる被着材破壊が生じた場合を「接着した」と判断した。一方、紙基材は破れずに接着剤の硬化膜が破れる凝集破壊、または接着剤と基材間において剥がれが生じる界面破壊が発生した場合には「接着しなかった」とした。
〇:紙基材同士が接着した。
×:紙基材同士が接着しなかった。
【0063】
4.接着性試験(2)(加熱時の接着性)
接着性試験(1)と同様の方法で試験片を作製した。試験片を作製直後に140℃で10秒間加熱したのち、上記同様に引っ張って接着性を評価した。
【0064】
5.剥離試験
接着性試験(1)と同様の手順で試験片を作製し、15分間放置した。放置後、上記同様に引っ張って剥離させ、紙基材が破れることなく剥離が可能であるかどうかを評価した。
〇:15分放置後も紙基材が破れることなく剥離が可能であった。
×:15分放置後、剥離する際に紙基材が破れ、剥離できなかった。
【0065】
6.接着性試験(3)(貼り直し試験)
上記剥離試験において、15分放置後に一度剥がした紙基材同士を再度貼り合わせ、常温(30℃)で15分間放置した。放置後、上記同様のT型剥離試験を行い、一度剥離して貼り直した後の測定値と、貼り直し前(接着剤を塗布後に貼り合わせてから15分放置した場合)の測定値を比較した。比較例1、2および4では剥離ができなかったため、この貼り直し試験は行わなかった。
◎:紙基材同士が接着し、貼り直し前と比べ接着強度の低下が生じなかった。
〇:紙基材同士が接着したが、貼り直し前に比べ接着強度が低下した。
×:紙基材同士が全く接着しなかった。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示されるように、実施例の接着剤は、全ての評価結果において優れていた。
これに対し、油相成分として標準沸点は300〜400℃の範囲内であるがSP値の低い溶剤を用いた比較例1、油相成分としてSP値は8〜10(cal/cm
3)
1/2の範囲内であるが標準沸点の低い溶剤を用いた比較例2、油相成分としてSP値および標準沸点の高い溶剤を用いた比較例3、酸価の低い樹脂を用いた比較例4、樹脂の配合量の多い比較例5、および樹脂を用いなかった比較例6では、本発明の効果が奏されないことが確認された。特に、比較例1では、溶剤のSP値が低いために固体樹脂の溶解性が確保できず、固体樹脂の溶剤からの離脱(固体樹脂の析出)が早く生じた結果、安定性、放置乾燥性、剥離試験の結果が不良になったと考えられる。一方、比較例2では溶剤の沸点が低く、溶剤の飛散が生じやすかったため、放置乾燥性、剥離試験の結果が不良になったと考えられる。比較例3では、溶剤の沸点が高いため放置乾燥性は良好である(乾燥しにくい)が、溶剤のSP値が高く水溶性高分子を溶解または膨潤しやすいため、接着強度が低下し、エマルションの安定性も損なわれたと考えられる。