特許第5960554号(P5960554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960554
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】積層ガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/16 20060101AFI20160719BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   F16J15/16 A
   A61M5/315
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-190353(P2012-190353)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-47828(P2014-47828A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 勝志
(72)【発明者】
【氏名】八尾 英治
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/101669(WO,A1)
【文献】 特開平10−314305(JP,A)
【文献】 特開昭62−281122(JP,A)
【文献】 特開2011−254891(JP,A)
【文献】 特開2009−102615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジ内壁と摺接する環状リブを複数有するガスケットであって、
先端環状リブの摺接部断面が略直線状に拡径しており、該直線部の長さが摺動側面部長さに対して10〜55%であり、
該直線部の最小径r(mm)と、最大径R(mm)に対するシリンジ後端方向への略直線状の径の拡径率Xが0.1〜8.0%であることを特徴とする不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット。
【請求項2】
拡径率が0.5〜7.0%であることを特徴とする請求項1記載の不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット。
【請求項3】
拡径率X、直線部の最小径r(mm)が以下に示す式(1)
250≧r+30X (1)
および式(2)
40≦r+80X (2)
を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット。
【請求項4】
先端環状リブに位置するネジ上部に空洞を設けた請求項1〜3のいずれかに記載の不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット。
【請求項5】
シリンジ内径に対し、該直線部後端部の最大外径部における環状リブの圧縮率が1〜5%である請求項1〜4のいずれかに記載の不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット。
【請求項6】
不活性樹脂フィルムが、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合樹脂フィルム、又は、超高分子量ポリエチレンである請求項1〜5のいずれかに記載の不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット。
【請求項7】
不活性樹脂フィルムの厚さが25〜150μmである請求項1〜6のいずれかに記載の不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット
【請求項8】
ガスケット基材の材料がブチル系ゴムまたは熱可塑性エラストマーであり、JS A硬さが50〜70度、圧縮永久ひずみが20%以下である請求項1〜のいずれかに記載の不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット。
【請求項9】
ガスケット成型金型の少なくとも摺動摺接部表面の中心線平均粗さがRa0.03μm以下に鏡面加工された成型金型を用いて、ガスケット基材及び不活性樹脂フィルムを成型する工程を含む請求項1〜8のいずれかに記載の不活性樹脂フィルムで積層されたガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性樹脂フィルムで積層されたガスケット、特に薬液が注射器に充填されたプレフィルドシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年 使用時の簡便性に優れ、誤用を無くす意味において、予め薬液が注射器に充填されたプレフィルドシリンジの使用が拡大している。これらのプレフィルドシリンジのゴム部材は使用されるまで薬液と直接、接するため、耐薬品性、耐ガス透過性、耐水蒸気透過性、耐老化性が優れたブチルゴム系のガスケットやノズルキャップが多用されている。
【0003】
しかしながら、バイオ製剤等の薬剤によっては、ゴム材質の原料ゴム、配合剤由来の溶出物、およびコート剤の脱落等の相互作用により、悪影響を受けることがある。たとえば、ブチル系ゴム部材では、ガスケットの摺動性改善、ノズルキャップの固着防止の目的で、シリンジ内壁、ガスケット、ノズルキャップのゴム表面に潤滑剤として、オイルタイプまたは硬化タイプのシリコーンが塗布されているため、製剤の種類によって、バレル内壁、ゴム部材からシリコーンコート剤が脱落して異物となり、製剤品質に重大な悪影響を与える場合がある。特にシリンジ内壁にはガスケットより多量のシリコーンコート剤が塗布されており、製剤との接液面積からもその影響は大きい。
【0004】
そこで、製剤の安定性にブチルゴムよりも優れているフッ素樹脂フィルム等をゴムに積層した製品が開発され、硝子製シリンジ又は樹脂製プレフィルドシリンジに提案されている。たとえば耐薬品性に優れたフッ素樹脂フィルムが使用され、中でも摩擦係数が最も小さいポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が使用されている。
【0005】
しかしながら、ガスケットの接液面、シリンジ内壁と接する摺動シール部にフッ素樹脂フィルムを積層したガスケットでは、気密性と摺動抵抗が課題となる。特にスカイビング法で製造されたフィルムは表面粗さが粗く、シリンジ内壁との気密性に問題が生じ易いという問題がある。気密性を悪くする要因として、積層されたフィルムの平滑性(表面粗さ)及び、シリンジ内径に対するガスケットの圧縮率に影響するシリンジ内径バラツキが挙げられる。
【0006】
そこで、特許文献1ではPTFEのキャスティング法フィルム、UHMWPEのインフレーション法フィルムが提案されているが、特殊な製法であり実用的ではない。また、表面粗さがRa0.05μm以下のPTFEフィルムを積層しても液モレに問題が生ずることがある。これはPTFEフィルムをPTFEの融点230℃以下である成型温度170℃で積層成型したにも拘らず、積層フィルムの表面には金型表面の微細な凹凸痕が転写されてシール性に影響するためである。また、シリンジ内径に対するガスケットの圧縮率に影響するシリンジ内径バラツキも大きな問題である。樹脂製シリンジでは±0.1mm以内の高精度であるが、硝子シリンジでは生地管の内径バラツキが大きく、5ml以下のサイズでも内径公差は±0.15mmと大きくなっている。
【0007】
特許文献2では、先端環状突起の中間まで積層された形状が提案されているが、打ち抜き刃の上刃の内側に積層されていない摺動部が縮径されて入り込む特殊な方法であり、1ml用等の小サイズのガスケットでは可能であるが、大きなサイズでは抜き刃に縮径されて入る部分の肉厚が大きくなってくるので、この方法では打ち抜きが困難となり製造できない。また、上刃の研磨により短くなるのでメンテナンスが問題となる。
【0008】
一方で、円柱状の環状リブを一つまたは複数設けたガスケットが提案されている。しかしながら、環状リブが円弧状の場合、摺動抵抗には優れるが、摺接面積が小さくなることから、気密性が劣るという問題がある。また、多くの先端環状リブは同一径の直線で設計されているが、シリンジ内径との圧縮率を大きくすると摺動抵抗値が高くなり、ガスケット打栓に支障する。又、圧縮率を小さく設計すると気密性の問題が生じる。この原因は、先端リブ部はムクのゴム部であり、ゴムが変形し難い状態のためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−314305号公報
【特許文献2】特表2004−525011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、不活性フィルムを積層成型しても、液密性と摺動抵抗に優れたガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、シリンジ内壁と摺接する環状リブを複数有するガスケットであって、
先端環状リブの摺接部断面が略直線状に拡径しており、該直線部の長さが摺動側面部長さに対して10〜55%であり、
該直線部の最小径r(mm)と、最大径R(mm)に対するシリンジ後端方向への略直線状の径の拡径率Xが0.1〜8.0%であることを特徴とする不活性樹脂フィルムで積層されたガスケットに関する。拡径率Xは、0.5〜7.0%がより好ましい。
【0012】
拡径率X、直線部の最小径r(mm)が以下に示す式(1)
250≧r+30X (1)
および式(2)
40≦r+80X (2)
を満たすことが好ましい。
【0013】
先端環状リブに位置するネジ上部に空洞を設けることが好ましい。
【0014】
シリンジ内径に対し、該直線部後端部の最大外径部における環状リブの圧縮率が1〜5%であることが好ましい。
【0015】
不活性樹脂フィルムが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合樹脂フィルム(ETFE)、又は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)であることが好ましい。
【0016】
不活性樹脂フィルムの厚さが25〜150μmであることが好ましい。
【0017】
ガスケット成型金型の少なくとも摺動摺接部表面の中心線平均粗さがRa0.03μm以下に鏡面加工された成型金型によって成型されることが好ましい。
【0018】
ガスケット基材の材料がブチル系ゴムまたは熱可塑性エラストマーであり、JIS A硬さが50〜70度、圧縮永久ひずみが20%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシリンジ内壁と摺接する環状リブを複数有する不活性フィルムで積層されたガスケットでは、先端環状リブの摺接部断面が略直線状に拡径しており、該直線部の長さが摺動側面部長さに対して10〜55%であり、該直線部の最小径に対して特定の割合でシリンジ後端方向に直線状に拡径しているため、生産性に優れる簡便な一段成型により液密性と摺動抵抗に優れたガスケットを提供することができる。また、シリンジ内壁およびガスケットに使用されているシリコーン等の潤滑コート剤を完全に無くす、または製剤品質へ悪影響を与えない程度の極微量に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のシリンジ内壁と摺接する環状リブを複数有するガスケットの断面図である。
図2】従来のガスケットの断面図である。
図3】従来のガスケットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に実施形態を掲げ、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0022】
本発明のシリンジ内壁と摺接する環状リブを複数有するガスケットは、先端環状リブの摺接部断面が略直線状に拡径しており、該直線部の長さが摺動側面部長さLに対して10〜55%であり、該直線部の最小径r(mm)と、最大径R(mm)に対するシリンジ後端方向への略直線状の径の拡径率Xが0.1〜8.0%であることを特徴とする。図1(a)〜(e)には、本発明のガスケットの断面図を示す。1が先端環状リブ、2が環状リブ、3が空洞である。
ここで、図1(a)に示すように、摺動側面部長さLとは先端環状リブの角よりロッド挿入後端部までの最短長さをいい、側面に沿った長さではない。なお、後端部の密着防止突起は含まない長さをいう。
【0023】
本発明のガスケットは、シリンジ内壁と摺接する環状リブを複数有する。複数とは、2つ以上有することであり、2以上であれば特に限定されない。図1(a)〜(c)、(e)には環状リブが2つの態様を、図1(d)には環状リブが3つの態様を示す。
【0024】
一般に、従来のゴム単身のガスケットと比べて、フィルムを積層したガスケットでは、ガスケットの打栓性(シワ、斜め打栓)、液密性、摺動性の機能性を両立させる設計が難しく、本発明では拡径率Xを0.1〜8.0%とし、ガスケット環状リブ径が5〜40mmのガスケットの場合、略直線部の長さを1〜8mmとすることで、これらを両立することができる。
【0025】
直線部の長さは摺動側面部長さLに対して、10〜55%であるが、13〜50%が好ましく、15〜45%であることがより好ましい。また、略直線部の長さは、ガスケット環状リブ径が5〜40mmのガスケットの場合、1〜8mmが好ましく、1.5〜5.0mmがより好ましい。ここで、長さは摺動面に沿った実測の長さではなく、図1(a)〜(e)に示すように、ゴム栓の中心線に投影した場合の長さとなる。
【0026】
先端環状リブの摺接部断面は略直線状であればよく、断面全体が完全な直線状である必要はない。たとえば図1(e)に示すように、摺動部の前端側が直線状に拡径し、後端側が直線状で拡径していない略直線状であってもよい。この場合、直線部長さとは、拡径している直線部と拡径していない直線部の長さを合わせた長さとなる。
なお、先端環状リブの直線部の開始点は、使用するシリンジのバレル内径に対して−3%以上であることが好ましい。
【0027】
打栓性と摺動性、液漏れの設計バランスにおいて、拡径率Xは0.1〜8.0%であり、0.5〜7.0%が好ましい。
より好ましい拡径率Xは、シリンジサイズによっても異なり、バレルの内径が6mm程度の1mlシリンジでは0.7〜8.0%が好ましく、1.5〜6.5%がより好ましい。バレルの内径が12mm程度の5mlシリンジでは0.3〜6.5%が好ましく、0.7〜4.5%がより好ましい。バレルの内径が32mm程度の100mlシリンジでは0.15〜7.1%が好ましく、0.5〜4.5%がより好ましい。
【0028】
本発明のガスケットでは、該直線部の最小径r(mm)と、最大径R(mm)に対するシリンジ後端方向への略直線状の径の拡径率X(%)が以下に示す式(1)
250≧r+30X (1)
および式(2)
40≦r+80X (2)
を満たすことが好ましい。好ましい拡径率はガスケットの直径に依存する傾向があり、直径が小さい場合には拡径率は相対的に大きくなる必要があり、直径が大きい場合には拡径率は相対的に小さくても充分であることから、式(1)および(2)は、この直径と拡径率の関係を表したものである。式(1)において、切片は250であるが、180が好ましく、165がより好ましく、150がさらに好ましい。また、式(2)において、切片は40であるが、60が好ましく、65がより好ましく、70がさらに好ましい。
【0029】
先端環状リブに位置するネジ上部には、先端環状リブの最大径部が内方向に撓むことにより、摺動抵抗値が低下するという理由で、空洞を設けることが好ましい。空洞の形状は特に限定されないが、ネジ部山径より小さい円柱状または環状に設けることができる。空洞は1つでも、複数設けても良い。図1(c)では空洞を1つ設けた態様を、図1(d)では空洞を環状に設けた態様を示す。
【0030】
環状リブの最大径の圧縮率は、シリンジ内径に対して1〜5%が好ましく、2〜4%がより好ましい。1%未満では、液密性、気密性が劣り、5%を超えると、バレルへの打栓が困難となり、環状リブ表面のフィルムにシワが発生し液密性が劣る、又、摺動抵抗も高くなる傾向がある。一方、環状リブの最小径の圧縮率は、シリンジ内径に対して−3〜4%が好ましく、−1.6〜3%がより好ましい。−3%未満では、拡径率が大きくなって、打栓性および液密性が問題となり、4%を超えると、打栓性および摺動抵抗が問題となる傾向がある。
【0031】
後端側の環状リブは1つでも、複数設けてもよい。後端の環状リブ径は、先端環状リブ最大径に対し±3%以内であることが好ましく、±2%以内がより好ましい。
【0032】
成型に用いる不活性樹脂フィルムの厚さは、25〜150μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。25μm未満では、成型時のフィルム破れが多く発生する傾向があり、150μmを超えると、成型品の寸法安定性及びコストアップとなり経済的でなくなる傾向がある。
【0033】
不活性樹脂フィルムを構成する樹脂としては特に限定されないが、良好な耐薬品性が得られるという点から、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、及び/又はオレフィン系樹脂が好ましい。また、医療用容器の滅菌法として、蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、ガンマ線滅菌が行われるが、PTFEはガンマ線に対する耐性が低い。よって、ガンマ線滅菌に対する耐性が高いETFE、変性ETFE、PCTFEが特に好ましい。
【0034】
ここで、ETFEとは、エチレンとテトラフルオロエチレンを30/70〜70/30のモル比で共重合したものであり、改質目的でさらに他の成分を共重合した変性ETFEがある。他の成分としては、フッ素含有オレフィンや炭化水素系オレフィンが挙げられる。具体的には、プロピレン、部点などのα−オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロブチルエチレン、トリフルオロクロロエチレンなどの含フッ素オレフィン、エチレンビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、含フッ素アクリレート類などがあり、2〜10モル%程度共重合されて、ETFEを改質する。
【0035】
変性ETFEとしては、接着性を付与する官能基を有するETFEを好適に使用することができ、該官能基としては、カルボキシル基、無水カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基、エステル基、アミド基、アルデヒド基、アミノ基、シアノ基、炭素−炭素二重結合、スルホン酸基、エーテル基などが挙げられる。また、変性ETFEの市販品としては、旭硝子(株)製のフルオンAH−2000などが挙げられる。
【0036】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、塩素化ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンの共重合体等が挙げられ、ポリエチレン(特に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE))が好ましい。また、オレフィン系樹脂は、フッ素を含んでいてもよい。
【0037】
不活性フィルムは、ゴム等との接着性を高める処理を行うことが好ましい。接着性を高める処理としては、化学処理法、フィルムの表面を粗面化する処理や、これらを組み合わせたものが挙げられ、具体例としては、ナトリウム処理、グロー放電処理、大気圧下又は真空下でのプラズマ処理(放電処理)、エキシマレーザー処理(放電処理)、イオンビーム処理が挙げられる。
【0038】
ガスケット基材の弾性材料としては特に限定されず、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの弾性材料は、単独でも複数の成分をブレンドして使用することもできる。なかでも、加硫により、弾性が得られる材料が好ましい。また、加硫材料の場合、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤など、ゴム工業の公知の配合剤を適宜添加できる。
【0039】
ガスケット基材のJ1S A硬さは特に限定されないが、50〜70度が好ましく、55〜65度がより好ましい。50度未満では、摺動時のガスケットの変形による漏れや、吸引時にプランジャーロッドがガスケットからはずれる場合がある。一方、70度を超えると、成型圧力を高くする必要があり、フィルムが破れ易く、脱型が困難になる傾向がある。
また、圧縮永久ひずみも特に限定されないが、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。20%を超えると、打栓、滅菌及び保管中に環状リブが縮径して圧縮率不足となり、バレル内壁との液密性、気密性を保つことが出来なくなる傾向がある。
ここで、圧縮永久ひずみとは、25%圧縮、70±1℃、22時間の条件で測定したときの値である。
【0040】
本発明のガスケットは、密封式混練機、オープンロール混練機などを用いて、所定配合比で配合材料を混練した混練物を、カレンダーまたはシート成型機で未加硫ゴムシートを作製し、次に、一定重量、サイズの未加硫ゴムシートと不活性フィルムを重ねて金型に置き、真空プレスで成型することにより、積層ガスケットの成型シートを得ることができる。
【0041】
成型条件は特に限定されず、適宜設定すればよいが、成型温度は、好ましくは155〜200℃、より好ましくは165〜180℃であり、成型時間は、好ましくは1〜20分間、より好ましくは3〜15分間、さらに好ましくは5〜10分間である。
【0042】
使用する金型は、褶動面形成部の鏡面仕上げにより、該当部のカットオフ値0.08mmで測定した算術平均粗さRaが0.03μm以下の平滑な金型表面が形成されていることが好ましい。このような金型を使用することによって、積層成型されたゴム部材は、元のフィルムの表面粗さより小さい成型品を得ることができる。Raは、好ましくは0.02μm以下、より好ましくは0.015μm以下である。なお、本発明において、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601−2001に準拠して測定される。
【0043】
この後、ガスケットの成型品から不要部分を、切断・除去した後、洗浄、滅菌、乾燥および外観検査を行ってガスケットの完成品を得る。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0045】
実施例で使用したフッ素樹脂フィルムの内容を以下に示す。
不活性樹脂フィルム
変性PTFEスカイビング法フィルム:日本バルカー工業(株)製 商品名「ニューバルフロン」(フィルム厚さ70μm、中心線平均表面粗さ0.11μm)
ガスケット基材
塩素化ブチルゴム材質 (JIS A 硬さ58度、圧縮永久ひずみ14%)
【0046】
実施例1〜9および比較例1〜7
塩素化ブチルゴム製未加硫ゴムシートに、PTFEフィルム(スカイビング法、厚さ70μ、片面接着処理)に未加硫ゴムシートを重ねて成型金型上に置き、真空プレスで175℃10分成型し加硫接着させた。得られたガスケットを用いて以下の試験を行った。ここで、ガスケット後端側の環状リブの径は、先端環状リブ最大径の0.5〜1.5%であった。
なお、1mL用COP樹脂シリンジ用のバレルの内径は6.35mm、摺動部長さは7.0mm、5mL用COP樹脂シリンジ用のバレルの内径は12.45mm、摺動部長さは9.5mm、100mL用COP樹脂シリンジ用のバレルの内径は32.06mm、摺動部長さは14.0mmである。
【0047】
(ガスケット打栓性)
ガスケットネジ部に一定長さの冶具を嵌めた状態で、接液側を上にして置き、シリンジを真直ぐに挿入して打栓した。次にノズルより、メチレンブルーで着色した水を充填した後、15時間放置した。先端環状リブの斜め打線状況は目視で確認し、先端環状リブのシワ発生状況は先端環状リブ部を10倍に拡大して確認した。1mlおよび5mlではn=20で、100mlはn=10で評価し、判定した。
○:斜め打栓、シワ発生率が10%以下
△:斜め打栓、シワ発生率が10〜30%
×:斜め打栓又はシワ発生率30%以上
【0048】
(摺動抵抗)
プランジャーロッド及び注射針を装着し、オートグラフでスピード100mm/分で最大目盛りの10%まで吐出し、移動平均値を求めた。n=10で測定し、以下の基準で評価した。
【0049】
【表1】
【0050】
(液漏れ)
「滅菌済み注射筒基準」平成10年12月11日 医薬発1079号厚生省医薬安全局長通知に準ずる。
各サイズのガスケットサンプル、ノズルキャップ、5ml用注射筒、プランジャーを準備する。ガスケットネジ部にネジより長い冶具を嵌めた状態で、接液面を上にして置き、シリンジを真直ぐに挿入して打栓した。次にノズルより、メチレンブルーで着色した水を公称容量目盛りの3/4の位置まで充填した。ノズルキャップ、プランジャーを取り付け、注射筒を下に向けてプランジャーに規定の圧力(1mlシリンジ:490kPa、5mlシリンジ:343kPa、100mlシリンジ:196kPa)を10秒間かけた。1日放置後、10倍に拡大し、ガスケット谷部(先端環状リブと後端環状リブの間)への漏れを観察した。1mlおよび5mlはn=20で、100mlはn=10で評価し、判定した。
○:漏れを認めない。
△:筋状の微小な漏れを認める。
×:明らかに漏れを認める。
【0051】
これらの評価結果を表2〜4に示す。
なお、表中、リブの長さの割合(%)、先端リブの拡径率X(%)、および圧縮率(%)は、たとえば実施例1を参考にすると以下のようにして計算した。
リブの長さの割合(%)=(先端環状リブの長さ)÷(摺動部長さ)×100
=4.0÷9.5×100=42(%)
先端リブの拡径率X(%)=((最大径)−(最小径))÷(最小径)×100
=(12.85−12.75)÷12.75×100
=0.78(%)
最大径圧縮率(%)=((最大環状リブ径)−(バレル内径))÷(最大環状リブ径)×100
=(12.85−12.45)÷12.85×100=3.11(%)
最小径圧縮率(%)=((最小環状リブ径)−(バレル内径))÷(最小環状リブ径)×100
=(12.75−12.45)÷12.75×100=2.35(%)
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
従来のガスケットである比較例1〜7のガスケットでは、特に打栓性に問題があり、その結果、摺動性と液漏れに影響を及ぼしている。一方、本発明のガスケットでは、先端環状リブの摺接部断面が略直線状であり、該直線部の長さがガスケット全長に対して、10〜55%であり、該直線部の最小径に対して特定の割合でシリンジ後端方向に略直線状に拡径しているため、実施例1〜9に示されるように、ガスケット打栓性、摺動抵抗、液漏れのいずれにおいても優れていた。
【符号の説明】
【0056】
1 先端環状リブ
2 環状リブ
3 空洞
L 摺動側面部の長さ
l 先端環状リブ摺接部の長さ
図1
図2
図3