(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、シリカを10〜150質量部、シリカ100質量部に対して、メルカプト基を有するシランカップリング剤を1〜20質量部含む請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のゴム組成物の製造方法は、変性ジエン系ゴムを含むゴム成分と、シリカと、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを含むゴム組成物の製造方法であって、変性ジエン系ゴムと、シリカとを混練物の温度が160〜170℃になるまで混練する工程1と、メルカプト基を有するシランカップリング剤を混練機に投入し、工程1により得られた混練物と、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを混練物の温度が135〜155℃になるまで混練する工程2とを含む。
【0017】
従来、変性ジエン系ゴム、メルカプト基を有するシランカップリング剤、シリカを配合するゴム組成物では、これらの成分を同時に混練機に投入し、混練を行なっていた。この際に、変性ジエン系ゴムが有する官能基とシリカとの反応を充分に進行させるために、高温で混練を行なっていた。しかし、メルカプト基を有するシランカップリング剤の反応性が非常に高いことに起因して、高温で混練すると、シリカが凝集を起こしムーニー粘度が高くなって加工性が悪化し、また混練終了後にゴム組成物をロールでシーティングする際にゴム組成物がロールに密着したり、ロールからシーティングした際にシート切れが発生する等、ゴム組成物の生地が不良となったりして、工程に不具合が生じるという問題があった。
【0018】
一方、本発明では、工程1において、まず、変性ジエン系ゴムと、シリカとを特定の混練温度になるまで混練を行い、シリカと変性ジエン系ゴムとの反応を進行させる。この工程1では、変性ジエン系ゴムが有する官能基とシリカとの反応を充分に進行させるために、高温で(混練物の温度が160〜170℃になるまで)混練を行う。
【0019】
そして、その後、工程2において、メルカプト基を有するシランカップリング剤を投入して、シリカと変性ジエン系ゴムとの反応が充分に進行した混練物と、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを工程1よりも低い混練温度になるまで混練することにより、メルカプト基を有するシランカップリング剤を介してシリカとゴム成分とが結合する反応が進行する。
このように、工程2では、変性ジエン系ゴムが有する官能基とシリカとの反応を進行させる必要がないため、工程1よりも低い温度で(混練物の温度が135〜155℃になるまで)混練を行うため、メルカプト基を有するシランカップリング剤を配合した場合であっても、シリカの凝集を抑制でき、ムーニー粘度の上昇、及びスコーチタイムの低下を抑制でき、良好な加工性が得られる。またゴム組成物がロールに密着したり、ゴム組成物の生地が不良となったりすることを防止でき、工程に不具合が生じることも防止できる。また、シリカの分散性に優れたゴム組成物を得ることができ、低燃費性、ウェットグリップ性能、耐摩耗性、操縦安定性に優れたゴム組成物が得られる。
【0020】
<工程1>
工程1では、例えば、混練機を用いて、変性ジエン系ゴムと、シリカとを混練物の温度が160〜170℃になるまで混練される。混練機としては従来公知のものを使用でき、例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどが挙げられる。なお、以下に述べる混練工程でも同様の混練機を使用できる。
【0021】
工程1では、例えば、混練開始時の温度が10〜40℃のゴム組成物を、該ゴム組成物の温度(混練物の温度)が160〜170℃になるまで混練する(すなわち、排出温度を160〜170℃に設定する)ことが好ましい。160℃未満であると、変性ジエン系ゴムが有する官能基とシリカとの反応を充分に進行できない。一方、170℃を超えると、ゲル化して粘度が上昇し、加工ができなくなる。
【0022】
また、工程1では、高い温度で混練することにより、変性ジエン系ゴムが有する官能基とシリカとの反応を充分に進行でき、シリカの分散性をより向上できることから、混練物の発熱を促すために、混練機の回転数を40〜60rpmとすることが好ましい。
【0023】
また、シリカ等の薬品の分散性に優れるという理由から、充填率は65〜80%が好ましい。
【0024】
また、工程1の混練時間は特に限定されないが、好ましくは1〜30分間、より好ましくは2〜5分間である。
【0025】
工程1では、変性ジエン系ゴム、シリカ以外にも、変性ジエン系ゴム以外のゴム成分、オイル等を混練してもよい。ただし、メルカプト基を有するシランカップリング剤を工程1で混練すると、加工性が低下したり、工程に不具合が生じたりするおそれがあるため、工程1ではメルカプト基を有するシランカップリング剤を実質的に混練しないことが好ましい。
【0026】
ここで、工程1においてメルカプト基を有するシランカップリング剤を実質的に混練しないとは、最終的に得られるゴム組成物に含まれるメルカプト基を有するシランカップリング剤100質量%中、工程1において混練されるメルカプト基を有するシランカップリング剤の量が、好ましくは15質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0027】
変性ジエン系ゴムとしては、例えば、ジエン系ゴムの少なくとも一方の末端を、シリカと相互作用する官能基(好ましくは、窒素、酸素及びケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む官能基)を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ジエン系ゴムや、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ジエン系ゴムや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ジエン系ゴム(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ジエン系ゴム)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性ジエン系ゴム等が挙げられる。
【0028】
上記官能基としては、例えばアミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等があげられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。
【0029】
上記官能基が導入されるジエン系ゴム(上記変性ジエン系ゴムの骨格を構成するポリマー)としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。なかでも、NR、IR、BR、SBRが好ましく、NR、BR、SBRがより好ましい。
【0030】
変性ジエン系ゴムとしては、上記変性剤で末端が変性されたスチレンブタジエンゴム(変性SBR)を好適に使用できる。変性SBRとしては、例えば、特開2001−114938号公報に記載されているアルコキシ基を含有する有機ケイ素化合物で変性した変性SBR等があげられる。
【0031】
変性SBRのスチレン含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。5質量%未満の場合、キャップトレッド用として使用する場合に、十分なグリップ性能を得ることができないおそれがある。また、変性SBRのスチレン含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。60質量%を超えると、BRやNRとの相溶性が低下したり硬度が上昇し過ぎたり、耐摩耗性や転がり抵抗が悪化したりするおそれがある。
なお、本明細書において、スチレン含有量は、H
1−NMR測定によって算出される。
【0032】
また、特に、本発明の製造方法により得られるゴム組成物をトラック・バス用タイヤに使用する場合には、変性ジエン系ゴムとしては、主鎖に上記官能基を有する天然ゴム(主鎖が変性された天然ゴム(主鎖変性NR))も好適に使用できる。主鎖変性NRとしては、例えば、エポキシ化天然ゴム(ENR)等が挙げられる。なかでも、ENRを好適に使用できる。
【0033】
ENRとしては特に限定されず、市販のエポキシ化天然ゴムでも、天然ゴム(NR)をエポキシ化したものでもよい。天然ゴムをエポキシ化する方法は、特に限定されず、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などがあげられる(特公平4−26617号公報、特開平2−110182号公報、英国特許第2113692号明細書等)。過酸法としては例えば、天然ゴムに過酢酸や過ギ酸などの有機過酸を反応させる方法などがあげられる。なお、有機過酸の量や反応時間を調整することにより、様々なエポキシ化率のエポキシ化天然ゴムを調製することができる。
なお、本発明において、エポキシ化率とは、エポキシ化される前のゴム中の二重結合の総数に対するエポキシ化された二重結合の数の割合(モル%)のことである。また、エポキシ化率は、NMR測定によって算出される。
【0034】
エポキシ化される天然ゴムとしては、特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0035】
ENRのエポキシ化率は15モル%以上であり、好ましくは20モル%以上である。エポキシ化率が15モル%未満では、操縦安定性が充分に得られない傾向がある。また、エポキシ化率は65モル%以下であり、好ましくは50モル%以下、より好ましくは35モル%以下である。エポキシ化率が65モル%を超えると、混練り加工性、低発熱性、操縦安定性が悪化する傾向がある。
【0036】
上記変性ジエン系ゴム以外に使用できるゴム成分としては、例えば、上記ジエン系ゴムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、BR、NRが好ましい。
【0037】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。なかでも、良好な耐摩耗性が得られるという理由から、BRのシス含量は90質量%以上が好ましい。
【0038】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0039】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)、コロイダルシリカ等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0040】
シリカの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、好ましくは30m
2/g以上、より好ましくは50m
2/g以上、更に好ましくは120m
2/g以上である。30m
2/g未満では、補強効果が小さく、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、シリカのN
2SAは、好ましくは400m
2/g以下、より好ましくは200m
2/g以下である。400m
2/gを超えると、シリカの分散性が低下し、充分な低燃費性、耐摩耗性が得られないおそれがある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0041】
<工程2>
工程2では、例えば、混練機を用いて、メルカプト基を有するシランカップリング剤を混練機に投入し、工程1により得られた混練物と、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを混練物の温度が135〜155℃になるまで混練される。
【0042】
工程2では、例えば、混練開始時の温度が10〜40℃のゴム組成物を、該ゴム組成物の温度(混練物の温度)が135〜155℃になるまで混練する(すなわち、排出温度を135〜155℃に設定する)ことが好ましい。135℃未満であると、メルカプト基を有するシランカップリング剤を介してシリカとゴム成分とが結合する反応を充分に進行できない。一方、155℃を超えると、シリカの凝集が発生し、加工性が悪化したり、工程に不具合が生じたりする。
【0043】
また、工程2では、混練物の発熱を抑制するために、混練機の回転数を20〜45rpmとすることが好ましい。
【0044】
また、シリカ等の薬品の分散性に優れるという理由から、充填率は65〜80%が好ましい。
【0045】
また、工程2の混練時間は特に限定されないが、好ましくは1〜30分間、より好ましくは1〜5分間である。
【0046】
工程2では、メルカプト基を有するシランカップリング剤以外にも、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、レジン等を投入、混練してもよい。
【0047】
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、下記式(1)で示される結合単位Aと下記式(2)で示される結合単位Bとを含むシランカップリング剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、メルカプト基を有するとは、SH基を有することを意味する。また、メルカプト基を有するシランカップリング剤と共に、メルカプト基を有さないシランカップリング剤(例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等)を使用してもよい。
【0048】
なかでも、下記式(1)で示される結合単位Aと下記式(2)で示される結合単位Bとを含むシランカップリング剤が好ましい。該シランカップリング剤を配合することにより、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等の従来タイヤ用ゴム組成物に配合されているスルフィド系のシランカップリング剤に比べて、より低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上できる。
【0049】
【化3】
【化4】
(式(1)、(2)中、R
1は水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基、又は該アルキル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。R
2は分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基を示す。R
1とR
2とで環構造を形成してもよい。)
【0050】
上記構造のシランカップリング剤は、結合単位Aと結合単位Bを有するため、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシランに比べ、加工中の粘度上昇が抑制される。これは結合単位Aのスルフィド部分がC−S−C結合であるため、テトラスルフィドやジスルフィドに比べ熱的に安定であることから、ムーニー粘度の上昇が少ないためと考えられる。
【0051】
また、結合単位Aと結合単位Bを有するため、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシランに比べ、スコーチ時間の短縮が抑制される。これは結合単位Bはメルカプトシランの構造を持っているが、結合単位Aの−C
7H
15部分が結合単位Bの−SH基を覆うためポリマーと反応しにくく、スコーチが発生しにくいためと考えられる。そのため、耐摩耗性の悪化を防止でき、低燃費性、ウェットグリップ性能、耐摩耗性をバランスよく向上できる。
【0052】
本発明の効果が良好に得られるという点から、上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの含有量は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。また、結合単位Bの含有量は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、好ましくは65モル%以下、より好ましくは55モル%以下である。また、結合単位A及びBの合計含有量は、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
なお、結合単位A、Bの含有量は、結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合も含む量である。結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合の形態は特に限定されず、結合単位A、Bを示す式(1)、(2)と対応するユニットを形成していればよい。
【0053】
R
1のハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素などが挙げられる。
【0054】
R
1の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0055】
R
1の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1−オクテニル基等が挙げられる。該アルケニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0056】
R
1の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基等が挙げられる。該アルキニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0057】
R
2の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基等が挙げられる。該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0058】
R
2の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基としては、ビニレン基、1−プロペニレン基、2−プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、1−オクテニレン基等が挙げられる。該アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0059】
R
2の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基等が挙げられる。該アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0060】
上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの繰り返し数(x)と結合単位Bの繰り返し数(y)の合計の繰り返し数(x+y)は、3〜300の範囲が好ましい。この範囲内であると、結合単位Bのメルカプトシランを、結合単位Aの−C
7H
15が覆うため、スコーチタイムが短くなることを抑制できるとともに、シリカやゴム成分との良好な反応性を確保することができる。
【0061】
上記構造のシランカップリング剤としては、例えば、Momentive社製のNXT−Z30、NXT−Z45、NXT−Z60等を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
<工程3>
次に、工程3では、例えば、混練機を用いて、工程2により得られた混練物と、加硫剤と、加硫促進剤とを混練物の温度が90〜110℃になるまで混練される。なお、工程2により得られた混練物の粘度が高い場合には、工程3に移る前に、工程2により得られた混練物を再度混練する再練工程を行なってもよい。
【0063】
工程3では、例えば、混練開始時の温度が10〜40℃のゴム組成物を、該ゴム組成物の温度(練り温度)が90〜110℃になるまで混練する(すなわち、排出温度を90〜110℃に設定する)ことが好ましい。90℃未満であると、加硫剤、加硫促進剤の分散が不充分となったり、また生地不良が発生したりするおそれがあり、一方、110℃を超えると、加硫が開始してしまうおそれがある。
【0064】
また、工程3では、ゴムの発熱を抑える(ゴムの加硫防止)という理由から、混練機の回転数を20〜45rpmとすることが好ましい。
【0065】
また、工程3の混練時間は特に限定されないが、好ましくは1〜30分間、より好ましくは1〜4分間である。
【0066】
加硫剤としては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できるが、硫黄原子を含むものが好ましい。
【0067】
本発明の効果が良好に得られるという点から、加硫剤としては、硫黄が好ましく、粉末硫黄がより好ましい。また、硫黄は、他の加硫剤と併用してもよい。他の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス社製のVulcuren KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)などの硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物などが挙げられる。
【0068】
加硫促進剤としては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0069】
なお、本発明では、上記各工程を上記温度範囲で実施することが好適であるが、工程2の混練開始時の温度や工程3の混練開始時の温度を上記温度範囲に調整するために、工程1と工程2との間、及び、工程2と工程3との間に、冷却工程を導入することとしてもよい。冷却する方法は、特に限定されず、例えば、空気(冷気)との接触により冷却する方法、金属板等に接触させ冷却する方法、水槽で冷却する方法等があげられる。また、工程1、工程2で調製されたゴム組成物を次工程の混練開始時の温度になるまで放置して冷却してもよい。
【0070】
(加硫工程)
工程3で得られた未加硫ゴム組成物を公知の方法で加硫することにより、ゴム組成物が得られる。加硫温度は、本発明の効果が良好に得られるという点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上であり、また、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。加硫時間は、本発明の効果が良好に得られるという点から、好ましくは5〜30分間である。
【0071】
上記製造方法などにより得られるゴム組成物は、ゴム成分100質量%中の変性ジエン系ゴムの含有量は、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは50〜80質量%である。また、上記製造方法などにより得られるゴム組成物をトラック・バス用タイヤに使用する場合には、ゴム成分100質量%中の変性ジエン系ゴムの含有量は、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは30〜50質量%である。変性ジエン系ゴムの含有量が上記範囲内であると、良好なゴム物性(例えば、低燃費性、ウェットグリップ性能)が得られる。
【0072】
ゴム成分として、BRを配合する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜20質量%である。BRの含有量が上記範囲内であると、良好なゴム物性(例えば、低燃費性、ウェットグリップ性能)が得られる。
【0073】
ゴム成分として、NRを配合する場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%である。また、上記製造方法などにより得られるゴム組成物をトラック・バス用タイヤに使用する場合には、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。NRの含有量が上記範囲内であると、良好なゴム物性(例えば、低燃費性、ウェットグリップ性能)が得られる。
【0074】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。10質量部未満では、充分なウェットグリップ性能、低燃費性が得られない傾向がある。また、シリカの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下である。150質量部を超えると、シリカの再凝集により加工性が悪化し、さらに耐摩耗性も低下する傾向がある。
【0075】
メルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量は、シリカの含有量100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満では、充分なシリカの分散性が得られず、低燃費性、ウェットグリップ性能、耐摩耗性が得られない傾向がある。また、メルカプト基を有するシランカップリング剤の含有量は、シリカの含有量100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、加工性が悪化したり、工程に不具合が生じたりするおそれがある。また、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0076】
本発明の製造方法により得られるゴム組成物は、上述の成分以外に、カーボンブラック等の補強性充填剤、オイル等の軟化剤、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等、タイヤ工業において一般的に用いられている各種材料が適宜配合されていてもよい。
【0077】
本発明の製造方法により得られるゴム組成物は、例えば、タイヤの各部材(特に、トレッド)に好適に使用できる。
【0078】
本発明の製造方法により得られるゴム組成物を用いて通常の方法により空気入りタイヤを製造できる。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形することにより未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧して製造することができる。
【0079】
空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、軽トラック用タイヤに好適に使用できる。
【実施例】
【0080】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0081】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:旭化成社製の「Y031」(末端が変性されたスチレンブタジエンゴム、スチレン含有量:26質量%)
NR:TSR
BR:JSR社製の「BR730」(シス含量:95質量%)
ENR:MRB(マレーシア)社製ENR25(エポキシ化率:25モル%)
シリカ:エボニックデグッサ社製の「ウルトラシルVN3」(N
2SA:175m
2/g、DBP吸油量:210ml/100g)
シランカップリング剤:Momentive社製の「NXT−Z45」(結合単位Aと結合単位Bとの共重合体(メルカプト基を有するシランカップリング剤)(結合単位A:55モル%、結合単位B:45モル%))
アロマチックオイル:出光興産社製の「ダイアナプロセスAH−24」
酸化亜鉛:三井金属鉱業社製の「酸化亜鉛」
ステアリン酸:日油社製のステアリン酸「椿」
老化防止剤:住友化学社製の「アンチゲン6C」(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業社製の「サンノックN」
硫黄:軽井沢硫黄社製の粉末硫黄
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業社製の「ノクセラーCZ」
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業社製の「ノクセラーD」
【0082】
実施例及び比較例
表1に示す混練条件にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、充填率70%にて、まずゴム成分、シリカ、アロマチックオイル(比較例1〜3はシランカップリング剤も)を混練(回転数:50rpm)した(工程1)。なお、ゴム組成物の混練開始時の温度は30℃であった。
次に、表1に示す混練条件にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、充填率70%にて、工程1により得られた混練物と、シランカップリング剤(比較例1、2はシランカップリング剤を新たに投入せず)、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックスを混練(回転数:30rpm)した(工程2)。なお、ゴム組成物の混練開始時の温度は30℃であった。
次に、表1に示す混練条件にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、工程2により得られた混練物と、硫黄、加硫促進剤を混練(回転数:25rpm)し、未加硫ゴム組成物を得た(工程3)。なお、ゴム組成物の混練開始時の温度は30℃であった。
次に、得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
なお、各例において、ゴム成分100質量部(SBR70質量部、NR20質量部、BR10質量部)に対して、シリカが50質量部、シランカップリング剤が2質量部、アロマチックオイルが10質量部、酸化亜鉛が2.5質量部、ステアリン酸が2.5質量部、老化防止剤が2.5質量部、ワックスが3.0質量部、硫黄が1.5質量部、加硫促進剤CZが2.0質量部、加硫促進剤DPGが1.8質量部となるように配合した。また、工程1、2の両方においてシランカップリング剤を投入した比較例3では、シリカ、シランカップリング剤は、工程1、2においてそれぞれ半量ずつ投入した。
【0083】
(ロール密着性及び生地不良)
工程1、2において、混練終了後にバンバリーミキサーからゴム組成物をロールでシーティングする際にゴム組成物がロールに密着したか否かによりロール密着性を評価した(○:密着せず、×:密着)。
さらに、ロールからシーティングした際にシート切れが発生したか否かにより、生地不良か否かを判断した(○:生地良好、×:生地不良)。
結果を表1に示す。なお、いずれも○が良好であり、工程に不具合が生じないことを示す。
【0084】
得られた未加硫ゴム組成物を用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(ムーニー粘度及びスコーチタイム)
JIS K6301に基づき、(株)島津製作所製のMV202を用いて、130℃でムーニー粘度(ML
1+4)およびスコーチタイムを測定した。ムーニー粘度は、小さいほど加工性に優れており、スコーチタイムは大きいほど加工性に優れていることを示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1より、変性ジエン系ゴムと、シリカとを混練物の温度が160〜170℃になるまで混練する工程1と、メルカプト基を有するシランカップリング剤を混練機に投入し、工程1により得られた混練物と、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを混練物の温度が135〜155℃になるまで混練する工程2とを含む製造方法により製造した実施例では、メルカプト基を有するシランカップリング剤を配合した場合であっても、シリカの凝集を抑制でき、ムーニー粘度の上昇、及びスコーチタイムの低下を抑制でき、良好な加工性が得られた。またゴム組成物がロールに密着したり、ゴム組成物の生地が不良となったりすることを防止でき、工程に不具合が生じることも防止できた。
【0088】
一方、比較例1ではシランカップリング剤を工程1で投入して170℃でゴム組成物を排出したため、工程1においてシリカの凝集により生地不良となった。また、比較例2ではシランカップリング剤を工程1で投入し、工程1、工程2共に低温でゴム組成物を排出したが、工程1でシリカの凝集による生地不良及び未反応分によるロールへの密着が発生し、工程2でも同様の状態であった。また、比較例3ではシランカップリング剤を工程1、工程2で分割投入し、低温でゴム組成物を排出したが、工程1ではロールへの密着、工程2ではシリカの凝集による生地不良及びロールへの密着が発生した。また、比較例4ではシランカップリング剤を工程2で投入し、工程2において高温でゴム組成物を排出したところ、工程2において、シリカの凝集が発生して生地不良となった。また、比較例5ではシランカップリング剤を工程2で投入し、工程2の排出温度を125℃にしたところ、未反応分によって工程2においてロールへの密着が発生した。また、比較例6ではシランカップリング剤を工程2で投入し、工程1の排出温度を150℃にしたところ、未反応分によって工程1でロールへの密着が発生した。
【0089】
表2に示す混練条件にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、充填率70%にて、まずゴム成分、シリカ、アロマチックオイル(比較例7〜9はシランカップリング剤も)を混練(回転数:50rpm)した(工程1)。なお、ゴム組成物の混練開始時の温度は30℃であった。
次に、表2に示す混練条件にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、充填率70%にて、工程1により得られた混練物と、シランカップリング剤(比較例7、8はシランカップリング剤を新たに投入せず)、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックスを混練(回転数:30rpm)した(工程2)。なお、ゴム組成物の混練開始時の温度は30℃であった。
次に、表2に示す混練条件にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、工程2により得られた混練物と、硫黄、加硫促進剤を混練(回転数:25rpm)し、未加硫ゴム組成物を得た(工程3)。なお、ゴム組成物の混練開始時の温度は30℃であった。
次に、得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
なお、各例において、ゴム成分100質量部(ENR30質量部、NR50質量部、BR20質量部)に対して、シリカが75質量部、シランカップリング剤が6質量部、アロマチックオイルが20質量部、酸化亜鉛が3.0質量部、ステアリン酸が2.0質量部、老化防止剤が2.0質量部、ワックスが2.0質量部、硫黄が1.5質量部、加硫促進剤CZが1.3質量部、加硫促進剤DPGが0.5質量部となるように配合した。また、工程1、2の両方においてシランカップリング剤を投入した比較例9では、シリカ、シランカップリング剤は、工程1、2においてそれぞれ半量ずつ投入した。
【0090】
(ロール密着性及び生地不良)
工程1、2において、混練終了後にバンバリーミキサーからゴム組成物をロールでシーティングする際にゴム組成物がロールに密着したか否かによりロール密着性を評価した(○:密着せず、×:密着)。
さらに、ロールからシーティングした際にシート切れが発生したか否か、ヤケが発生したか否か、配合物(特に、シリカ)の分散不良が発生したか否かにより、生地不良か否かを判断した(○:生地良好、×:生地不良)。
結果を表2に示す。なお、いずれも○が良好であり、工程に不具合が生じないことを示す。
【0091】
得られた未加硫ゴム組成物を用いて以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0092】
(ムーニー粘度及びスコーチタイム)
JIS K6301に基づき、(株)島津製作所製のMV202を用いて、130℃でムーニー粘度(ML
1+4)およびスコーチタイムを測定した。ムーニー粘度は、小さいほど加工性に優れており、スコーチタイムは大きいほど加工性に優れていることを示す。
【0093】
【表2】
【0094】
表2より、変性ジエン系ゴムと、シリカとを混練物の温度が160〜170℃になるまで混練する工程1と、メルカプト基を有するシランカップリング剤を混練機に投入し、工程1により得られた混練物と、メルカプト基を有するシランカップリング剤とを混練物の温度が135〜155℃になるまで混練する工程2とを含む製造方法により製造した実施例では、メルカプト基を有するシランカップリング剤を配合した場合であっても、シリカの凝集を抑制でき、ムーニー粘度の上昇、及びスコーチタイムの低下を抑制でき、良好な加工性が得られた。またゴム組成物がロールに密着したり、ゴム組成物の生地が不良となったりすることを防止でき、工程に不具合が生じることも防止できた。
【0095】
一方、比較例7ではシランカップリング剤を工程1で投入して170℃でゴム組成物を排出したため、工程1においてシリカの凝集により生地不良となった。また、比較例8ではシランカップリング剤を工程1で投入し、工程1、工程2共に低温でゴム組成物を排出したが、工程1でシリカの凝集による生地不良及び未反応分によるロールへの密着が発生し、工程2でも同様の状態であった。また、比較例9ではシランカップリング剤を工程1、工程2で分割投入し、低温でゴム組成物を排出したが、工程1ではロールへの密着、工程2ではシリカの凝集による生地不良及びロールへの密着が発生した。また、比較例10ではシランカップリング剤を工程2で投入し、工程2において高温でゴム組成物を排出したところ、工程2において、シリカの凝集が発生して生地不良となった。また、比較例11ではシランカップリング剤を工程2で投入し、工程2の排出温度を125℃にしたところ、未反応分によって工程2においてロールへの密着が発生した。また、比較例12ではシランカップリング剤を工程2で投入し、工程1の排出温度を150℃にしたところ、未反応分によって工程1でロールへの密着が発生した。