(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960591
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】鋳造品の押湯切断装置
(51)【国際特許分類】
B22D 31/00 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
B22D31/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-289261(P2012-289261)
(22)【出願日】2012年12月30日
(65)【公開番号】特開2014-128831(P2014-128831A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】513003530
【氏名又は名称】明立工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【弁理士】
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】須 藤 彰
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−153364(JP,A)
【文献】
特開昭60−044173(JP,A)
【文献】
特開2000−317622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 31/00,B23K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造後に鋳物に付いた、水平断面形状が円形の押湯や湯口、或いはゲートなど不要な部分を切断する為のガス切断トーチからなる切断装置と、当該切断装置を保持して移動させる移動装置と、少なくとも当該移動装置の移動動作を制御する制御装置とからなる鋳造品の押湯切断装置であって、
当該制御装置は、切断装置を移動させる軌跡上に存在する4地点以上の位置情報を記憶する記憶手段と、記憶した4地点以上の位置情報から当該切断装置の移動軌跡を演算する軌跡演算手段とを具備し、
前記記憶手段は、切断装置が直線移動を開始する開始地点と、当該直線移動から円弧を描いて移動する円弧移動開始地点と、円弧移動で通過する円弧移動通過地点、円弧移動を終了する円弧移動終了地点を記憶し、
前記開始地点から円弧移動開始地点に向かう直線運動は、押湯や湯口等を切断するワークに対して真っ直ぐに近づく第一の直線運動と、当該直線運動から曲折して円弧運動を開始する地点まで移動する第二の直線運動とからなり、
前記切断装置の移動速度及び出力の少なくとも何れかは、円弧移動の領域毎に異なっており、
前記軌道演算手段の算出結果に従って動作される切断装置は、当該動作中においても、作業者が移動軌跡を手動で訂正できるように構成されると共に、前記移動装置によって移動されている最中にも、当該移動装置に対して軸周りに上下及び/又は左右方向に揺動自在に設けられている事を特徴とする鋳造品の押湯切断装置。
【請求項2】
前記制御装置における切断装置の位置情報の記憶は、当該切断装置を移動させ、移動した位置における位置情報を記憶する請求項1に記載の押湯切断装置。
【請求項3】
前記軌跡演算手段は、円弧移動開始地点、円弧移動通過地点および円弧移動終了地点、並びにX−Z軸、Y−Z軸及びX−Y軸の少なくとも何れかの制御軸情報から、切断装置における円弧移動の軌跡を算出すると共に、当該円弧移動前に開始地点から円弧移動開始地点までの直線移動軌跡を算出する、請求項1又は2に記載の押湯切断装置。
【請求項4】
前記制御装置の記憶手段は、更に切断装置の移動速度を、円弧移動の領域毎に異なる速度情報として保持しており、
前記制御装置は当該速度情報に基づいて、前記切断装置を円弧移動の領域毎に異なる速度で移動させる、請求項3に記載の押湯切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳造後に鋳物に付いた押湯や湯口、或いはゲートなど不要な部分を切断する為の押湯切断装置に関し、特に切断に際しての動作を簡易に設定でき、かつ設定後に於いては自動制御により押湯や湯口等を切断するようにした押湯切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳鋼品の湯口、押湯、湯道、堰などを切断する仕上げ作業は、特殊な知識と経験および熟練を要し、複数名の作業者により手作業で行われていた。そしてこの湯口や押湯等の切断はガスバーナを用いて行われていたことから、少なからず危険を伴う作業となり、また周囲に火花や鉄粉が飛び散る等、高温・高騒音環境下での作業となっていた。
【0003】
そこで従前においては、少しでも作業者の肉体的、精神的負担を軽減する為の工夫が、種々提案されていた。例えば、特許文献1(特開平10−193097)では、吹管の駆動は駆動装置により行うが、この駆動装置の操作は手動により行うようにした鋳鋼製品用ガス切断マニプレータとして、X,Y,Z方向に移動自在に切断トーチを支持するマニプレータ本体と、該マニプレータ本体に電気的に連絡して、前記切断トーチをX,Y,Z方向の合成運動として移動させるジョイステックを含み、該ジョイステックの手動操作により鋳鋼素材を所望の切断速度で遠隔的に切断するようにした操作手段とを備えた遠隔操作型の鋳鋼製品用ガス切断マニプレータが提案されている。
【0004】
また特許文献2(特開平06−114553号公報)では、多関節ロボット装置を使用した自動ガウジング装置が提案されている。即ちこの文献では、基盤と、この基盤に取付けられ被作業物を取付ける定盤を備えた回転ポジショナと、前記基盤に取付けられた多軸多関節ロボット装置とを備え、前記ロボット装置には放電トーチが把持され、この放電トーチと前記被作業物との間に放電プラズマを発生させる電圧を印加する電源装置を備え、このロボット装置および前記回転ポジショナを連動して制御する動作制御装置と、前記電源装置を前記ロボット装置および前記回転ポジショナの動きに連動して制御する電源制御装置とを備えた自動ガウジング装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−193097号公報
【特許文献2】特開平06−114553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の様に、鋳鉄や鋳鋼素材にある押湯、湯口等を切断する為に、切断トーチを多軸多関節ロボットであるマニプレータで保持して動作させる技術は公知である。しかしながら、成型する製品の形状や大きさなどが都度異なる場合、即ち客先の個別仕様に基づいて都度受注生産されるような鋳鉄・鋳鋼製品の場合には、切断する製品ごとに、位置決め、作動の段取り等の動作指令をプログラムするか、或いは鋳鋼素材が変わるたびにプログラムの変更を行う繁雑な作業が必要である。よって、この様な場合には自動化によるメリットは実際には得られない事になる。
【0007】
そこで前記特許文献1では、切断トーチをX,Y,Z方向の合成運動として移動させるジョイステックを含み、該ジョイステックの手動操作により鋳鋼素材を所望の切断速度で遠隔的に切断できるように構成している。
しかしながら、ジョイステックにより切断トーチを移動させる場合であっても、正確に切断トーチを移動させるには慣れが必要であり、また当該切断トーチはジョイステックにより遠隔操作されるものであるから、実際の切断位置や切断状況の確認が困難である。
よって、本発明ではジョイステックなどによる操作の慣れを必要とせず、長年の経験を要せずして正確に切断トーチを移動させることのできる鋳造品の押湯切断装置を提供する事を第一の課題とする。
【0008】
また、この特許文献1に係る遠隔操作型の鋳鋼製品用ガス切断マニプレータにおいて、切断トーチは、ジョイステックの手動操作によって動作する事から、常に作業者が作業しなければならず、自動化されたものとはなっていない。
依って本発明では、切断トーチの動作の一部又は全部を自動化し、しかも当該自動的に動作させる為の設定を簡易に行う事のできる鋳造品の押湯切断装置を提供する事を第二の課題とする。
【0009】
更に、鋳造後に鋳物に付いた押湯や湯口、或いはゲートなど不要な部分を切断する際、その切断面に凹凸を生じさせることなく切断する為には、当該切断マニプレータ乃至は切断トーチの移動速度等、移動軌跡以外のパラメータの設定乃至は調整も重要である。
そこで本発明では、当該鋳物における不要な部分を切断する際には、切断マニプレータ乃至は切断トーチの移動軌跡についてのみ予め設定し、それ以外のパラメータは、切断状況を観察しながら任意に設定できるようにした鋳造品の押湯切断装置を提供する事を第三の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するべく、本発明では、鋳造後に鋳物に付いた押湯や湯口、或いはゲートなどの不要な部分を切断トーチ等の切断装置で切断する際、当該切断装置の移動軌跡を簡易に設定できるようにした鋳造品の押湯切断装置を提供する。
【0011】
即ち、本発明では前記課題の少なくとも何れかを解決する為に、鋳造後に鋳物に付いた押湯や湯口、或いはゲートなど不要な部分を切断する為の切断装置と、当該切断装置を保持して移動させる移動装置と、少なくとも当該移動装置の移動動作を制御する制御装置とからなる鋳造品の押湯切断装置であって、当該制御装置は、切断装置を移動させる軌跡上に存在する4地点以上の位置情報を記憶する記憶手段と、記憶した4地点以上の位置情報から当該切断装置の移動軌跡を演算する軌跡演算手段とを具備する鋳造品の押湯切断装置を提供する。
【0012】
かかる鋳造品の押湯切断装置では、切断装置を移動させる軌跡上に存在する4地点以上の位置情報を記憶手段に記憶させるだけで、軌跡演算手段が切断装置の移動軌跡を演算し、切断装置を動かすことができる。よって簡易に切断装置の移動軌跡を設定する事ができ、従前においては随時プログラムで規定していた移動軌跡の設定操作を大幅に簡略化する事ができる。
【0013】
上記切断装置は、従前において押湯や湯口等を切断する為に使用されている様々な切断装置、例えば切断トーチや、チップソー等の鋸刃によって構成する事ができ、特に鋸刃の交換の必要性を無くし、メンテナンスを容易にする上では、切断トーチを使用する事が望ましい。特に当該切断トーチは、後述する移動装置が門型フレーム等、十分に安定性を有し且つ堅牢なものである場合には、高出力の切断トーチを使用する事ができる。
【0014】
上記移動装置は走行台車、片持フレーム、門型フレーム等を使用する事ができる。特に移動装置が門型フレーム等、十分に安定性を有し且つ堅牢なものである場合には、前記当該切断トーチは高出力の切断トーチを使用する事ができる。かかる移動装置は、X軸方向に移動する走行フレーム、Y軸方向に移動する横行フレーム、及びZ軸方向に移動する昇降フレームを備えている事が望ましく、これにより切断装置を3次元方向に自在に移動させることができる。
【0015】
制御装置は、切断装置を移動させる軌跡上に存在する4地点以上の位置情報を記憶する記憶手段と、記憶した4地点以上の位置情報から当該切断装置の移動軌跡を演算する軌跡演算手段とを含んで構成される。
【0016】
前記記憶手段に記憶させる位置情報は、キーボード等の入力手段を用いて、任意の基準点からのX軸、Y軸、Z軸の位置情報を数値で入力する他、実際に切断装置を所定の位置まで移動させ、移動させた当該位置の位置情報を読み取って、これを記憶手段に記憶する事ができる。切断装置を移動させて取得する位置情報としては、当該切断装置の存在する場所を、移動装置等における任意の地点を基準としたX軸、Y軸、Z軸の位置情報として取得することができる。また移動装置がX軸方向に移動する走行フレーム、Y軸方向に移動する横行フレーム、及びZ軸方向に移動する昇降フレームを備えており、各フレームの動作により切断装置を移動させる場合には、各フレームの移動位置、移動距離を位置情報として記憶する事ができる。記憶手段としてはコンピュータを構成する不揮発性メモリであるROM(Read Only Memory)や揮発性メモリであるRAM(Random Access Memory)等の一次記憶装置や、ディスク等の二次記憶装置を使用する事ができる。
【0017】
軌跡演算手段は、コンピュータ等を構成する中央処理装置等、数値演算制御を実行する構成要素であり、プログラムに規定された処理に従って数値演算を行う。したがって、この軌跡演算手段は、少なくとも記憶手段に記憶した4地点の位置情報から切断装置の移動軌跡を演算する為のプログラムの指令に従って、当該演算処理を実行する事ができる。
【0018】
この移動軌跡の演算に関し、本来、2次元の座標面内で円弧運動を規定する場合には、少なくとも3地点の位置情報を取得すれば足りる。しかし本発明に於いて記憶手段が取得する位置情報は4地点以上である。これは外周が円形の押湯や湯口等を切断する為に、前記切断装置を円弧状に動かす際、当該円弧運動の前に、切断する押湯や湯口等に向かって直線状に移動させる為である。即ち、本発明に於ける前記記憶手段は、切断装置が直線移動を開始する開始地点と、当該直線移動から円弧を描いて移動する円弧移動開始地点と、円弧移動で通過する円弧移動通過地点、円弧移動を終了する円弧移動終了地点を記憶することが望ましい。そして前記軌跡演算手段は、円弧移動開始地点、円弧移動通過地点および円弧移動終了地点、並びにX−Z軸、Y−Z軸及びX−Y軸の少なくとも何れかの制御軸情報から、切断装置における円弧移動の軌跡を算出すると共に、当該円弧移動前に開始地点から円弧移動開始地点までの直線移動軌跡を算出する事が望ましい。
【0019】
当該切断装置の円弧運動を二軸制御で実施する為に、X−Z軸、Y−Z軸及びX−Y軸の少なくとも何れかの制御軸情報を取得すると共に、三地点における地点情報から円弧運動の軌跡を算出する事ができる。そして位置情報として、円弧運動の軌跡を算出する為の三地点の他に、切断装置が直線移動を開始する開始地点を使用していることから、円弧運動の前に直線運動を実施する様な軌跡を算出する事ができる。特にこの直線運動は、押湯や湯口等を切断するワークに対して真っ直ぐに近づく第一の直線運動と、当該直線運動から曲折して円弧運動を開始する地点まで移動する第二の直線運動とで構成する事が望ましい。
【0020】
また前記切断装置の移動に際して、前記制御装置は、切断手段の移動軌跡を制御するのみならず、移動速度も制御するように構成する事ができる。当該移動速度は、作業者が直接制御する他、制御装置に設定した値によって自動的に制御する事もできる。特に制御装置の管理下で移動速度を制御する際には、当該切断装置の移動速度を、円弧移動の領域毎に異なる速度とすることも望ましい。ワークにおける押湯や湯口等の切断対象部位の断面形状が円形である場合には、移動方向に切断幅(奥行き方向の幅)が異なることから、この切断幅に応じた最適な切断速度を実現する為である。この場合には、前記制御装置の記憶手段は、更に切断装置の移動速度を、円弧移動の領域毎に異なる速度情報として保持しており、前記制御装置は当該速度情報に基づいて、前記切断装置を円弧移動の領域毎に異なる速度で移動させるように構成するのが望ましい。かかる切断装置の移動速度の設定は、実際の移動速度を数値で指定する他、ワークの切断幅の入力値から自動的に設定されるように構成する事もできる。この場合には、当該鋳造品の押湯切断装置、望ましくはその制御装置は、切断幅に対応して移動速度を特定する為のテーブル等を備える事が望ましい。
【0021】
また、前記の切断装置としてガス切断トーチを使用する場合、その移動に伴って、当該ガス切断トーチの出力を制御する事も望ましい。この制御は当然作業者が手動で調整する他、前記制御装置の管理のもとで行う事ができる。例えば、前記のようにワークにおける押湯や湯口等の切断対象部位の水平断面形状が円形である場合において、移動方向に異なる切断幅(奥行き方向の幅)に応じて最適な出力として、無駄なく、且つ綺麗な切断面とする為である。この様に切断装置の移動に伴いガス切断トーチの出力を変化させる為には、前記制御装置の記憶手段は、更に切断装置(特にガス切断トーチ)の出力を、円弧移動の領域毎に異なる出力情報として保持しており、前記制御装置は当該出力情報に基づいて、前記切断装置を円弧移動の領域毎に異なる出力として移動させるように構成するのが望ましい。かかる切断装置の出力の設定は、ガス切断トーチにおける実際の出力を数値で指定する他、ワークの切断幅の入力値から自動的に設定されるように構成する事もできる。この場合には、当該鋳造品の押湯切断装置、望ましくはその制御装置は、切断幅に対応してガス切断トーチの出力を特定する為のテーブル等を備える事が望ましい。
【0022】
そして前記移動装置に対する切断装置の設置は、使用する切断装置の種類、即ち切断トーチや鋸刃(チップソー等)の種類に応じて適宜設定する事が望ましいが、当該切断装置は、移動装置に対して軸周りに上下及び/又は左右方向に揺動自在に設けられる事が望ましい。ワークの押湯や湯口等の切断部位を切断する向きを調整できるようにする為である。依って当該切断装置は、移動装置によって移動されている最中でも、ワークに対する上下方向及び/又は左右方向の向きを自在に変える事ができるように、移動装置に対しては切断装置揺動機構を介して取り付ける事ができる。かかる切断装置揺動機構は、モーターや油圧シリンダ等を用いて構成する事ができ、昇降フレームに対して切断装置を保持するものとして具体化する事ができる。
【発明の効果】
【0023】
上記本発明に係る鋳造品の押湯切断装置によれば、ワークの押湯や湯口等の切断部位を切断する為の切断装置の移動軌跡を簡易に設定する事ができ、よって多品種少量生産に対応した運用を簡易かつ最適に実施する事ができる。
【0024】
更に、ワークにおける押湯や湯口等の切断に際して、切断装置の移動は、予め簡易な手法により設定されている事から、自動的に行う事ができ、作業者は切断作業領域から離れた場所で、当該切断装置の移動速度等を調整するだけで済む。依って、高温かつ高騒音の作業環境を大幅に改善する事ができる。
【0025】
そして当該切断装置の移動速度の調整も制御装置の管理下で自動的に行うようにした場合には、作業者は当該作業の進行具合の確認だけで済む事から、作業者の労力を大幅に削減する事もできる。
【0026】
更に、前記切断装置を、移動装置により移動されている最中にも上下方向及び/又は左右方向に移動できるように構成する事で、ワークに対する最適な向きで切断装置を移動させる事ができ、切断箇所及び切断面の滑らかさを最適なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施の形態に係る鋳造品の押湯切断装置を示す(A)全体斜視図、(B)X方向正面図
【
図3】本実施の形態における移動軌跡の算出手順を示すフローチャート
【
図4】位置情報を記録する地点(ポイント)の例を示す略図
【
図5】(A)は切断装置を動かす軌跡の例を示す略図、(B)は記録したポイント間のパターンを設定する画面の略図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本実施の形態に係る鋳造品の押湯切断装置50を、図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、本実施の形態に係る鋳造品の押湯切断装置50を示す(A)全体斜視図、(B)X方向正面図であり、
図2は制御手段の構成を示すブロック図であり、
図3は本実施の形態における移動軌跡の算出手順を示すフローチャートであり、
図4は位置情報を記録する地点(ポイント)の例を示す略図であり、
図5(A)は切断装置20を動かす軌跡の例を示す略図であり、(B)は記録したポイント間のパターンを設定する画面の略図である。
【0029】
先ず
図1を参照しながら本実施の形態に係る鋳造品の押湯切断装置50の全体構成を説明する。当該押湯切断装置50では、門型に形成されて、X,Y,Z方向に移動可能な移動装置10と、この移動装置10によって移動される切断装置20と、この移動装置10及び切断装置20の動作をコントロールする制御装置30とで構成されている。
【0030】
当該移動装置10としては、門型フレームが使用されており、当該門型フレームは、X軸方向に移動する走行フレーム12、Y軸方向に移動する横行フレーム14、及びZ軸方向に移動する昇降フレーム16とで構成されている。特に、走行フレーム12が門型に形成されており、Y軸方向の両側が接地している事から、当該移動装置10全体の堅牢性を高める事ができ、よって十分に出力の高い切断装置20であっても問題なく使用する事ができる。かかる移動装置10は、その移動位置を制御できるように構成されており、例えばサーボモーターを使用して移動するように構成する事ができる。そして走行フレーム12、横行フレーム14、及び昇降フレーム16の各フレームの移動地点乃至は移動距離を管理する事により、当該移動装置10の移動を管理する事ができ、よって制御装置30により移動装置10の移動を管理する事ができる。
【0031】
本実施の形態に於いて、切断装置20はガス切断トーチ20を使用している。よって鋸刃の交換の手間を無くし、ワークの切断部位における切断時間の短縮化を図り、更に切断面における凹凸を無くして滑らかな切断面を実現する事ができる。かかるガス切断トーチ20は、その出力を任意のタイミングで調整できる様にしても良く、例えばガス切断トーチ20の移動中に、任意のタイミング乃至は切断箇所毎に出力を変更できる事も望ましい。この場合、ガス切断トーチ20の出力の変更は、例えば当該ガス切断トーチ20に供給するガス等の量を変更する事によっても実現可能である。
【0032】
また、前記移動装置10に対する切断装置20は、横行フレーム14の延伸方向(Z軸方向)に、当該横行フレーム14に対して昇降自在に設けた昇降フレーム16に設ける事ができる。特に本実施の形態では、切断装置20であるガス切断トーチ20を、前記昇降フレーム16の下端に、上下方向に回動自在であり、且つ左右方向にも回動自在に設けている。当該ガス切断トーチ20の回動に際しては、サーボモーター等を使用する事ができる。
【0033】
そして本実施の形態に係る鋳造品の押湯切断装置50では、上記移動装置10や切断装置20の動作をコントロールする為の制御装置30を伴って構成される。そしてこの制御装置30は、
図2のブロック図に示すような構成要素を伴う事ができる。
【0034】
即ちプログラムの指令に従って数値演算処理を実行するCPU501、各種の情報を所持するメモリ502、情報入力手段としての各種スイッチ508やタッチパネル509、これらの情報入力手段からの信号を受信して、その信号パターンに応じて所定の指令をCPU501やメモリ502に伝える入力機器インタフェース507、CPU501における処理結果や入植手段による入力結果を出力するディスプレイ506、このディスプレイ506に対して描画情報を出力するディスプレイコントローラ505、外部記憶装置510、外部機器との情報通信を行うインタフェースであるネットワークインタフェース504、プログラムの実行時に前記メモリに読み出す情報を保持する外部記録媒体駆動装置511、およびこれらの構成要素を互いに接続するバス512を含んで構成されている。
【0035】
かかる制御装置30においては、実際に切断装置20を移動させながら情報入力手段を操作する事により、切断装置20を移動させる軌跡上に存在する4地点以上の位置情報を、前記メモリ502や外部記憶装置510に記憶する。そしてCPU501ではプログラムの指令に従って数値演算処理を実行し、この記憶した4地点上の位置情報から当該切断装置20の移動軌跡を演算する。かかる位置情報の記録や切断装置20の移動軌跡の算出は、
図3又は
図4のフローチャートに示す手順によって実施する事ができる。
【0036】
図3のフローチャートに示す実施形態では、最初に動力盤メインブレーカーをONにする等の運転準備処理を行う。この運転準備処理では、切断装置20を手動で移動できるモードとしておくことが望ましい。この運転準備処理により押湯切断装置50の運転準備が行われると、次に切断時において切断装置20を動かす軌跡に沿って、4か所以上のポイント(位置情報)を記憶する位置記憶処理を実施する。
【0037】
この位置記憶処理で記憶する際のポイントの例は、例えば
図4に示すように、ポイントP1〜P6までの6ポイントとする事ができる。かかるポイントの記憶は、ガス切断トーチ20を実際に移動させ、当該ガス切断トーチ20における吹き出し口の位置と、ワークの切断部位と距離や位置を見ながら移動させる事により、実際の移動軌跡に沿って移動させる事ができる。
【0038】
特にこの実施の形態では断面積が円形となる押湯や湯口部分を切断する例を示しており、P1〜P2まで直線移動し、ポイントP2に於いて軌跡を曲折させて、ポイントP2〜P3まで直線移動するようにし、そしてポイントP3〜P5までを円弧移動し、再びポイントP5〜P6まで直線移動するように構成している。かかる切断装置20の移動は実際に手で動かす他、移動装置10を手動パルサー等により動かして行う事ができる。またこの例では、X−Y軸方向の移動として記載しているが、更にZ軸方向への移動を伴う事ができる。そしてポイントの記録に際しては、各ポイントごとにX−Y軸方向の座標として記憶する事ができる。
【0039】
上記位置記憶処理を実行した後は、この記憶したポイントを読み出しながら各ポイント間の移動パターンを指定するパターン設定処理を実行する。例えば、
図5(A)に示すような軌跡で切断装置20を移動する場合、各ポイントまでの移動パターンは、例えば
図5に示すような画面で設定する事ができる。
【0040】
即ち、
図5(A)において、任意の地点であって良い切断装置20の待機位置からポイントP1まで移動させるパターンは直線補間である事から、ステップS1として、直線補間を指定した上で、前記位置記憶処理で記憶したポイントP1を移動点として設定する。次にポイントP1からP2まで移動するステップS2も
図5(A)に示すように直線移動である事から、直線補間を指定した上で、移動点としてポイントP2を指定する。更に、ポイントP2からポイントP3までの移動であるステップS3は、切断装置20をY軸方向にも移動させながら移動する直線移動であり、よって直線補間を指定した上で移動点としてポイントP3を指定する。次にポイントP3からポイントP5まで移動するステップS4は、ポイントP4を通過する円弧補間移動になる。そこで当該円弧運動の制御軸を指定する事になる。この実施の形態では、円弧補間移動は2軸制御を行っていることから、その制御軸であるX−Z軸、Y−Z軸、X−Y軸の何れかを選択する。
図5(A)の移動はX−Y軸制御である事から、該当する「X−Y制御」の欄を選択する。そして移動点としてポイントP5を指定し、その通過点であるポイントP4を補助点として指定する。最後に、円弧移動の終点であるポイントP5からポイントP6まで切断装置20を直線移動させることから、ステップS5として直線補間を指定した上で、移動点としてポイントP6を指定する。
【0041】
以上の様な位置記憶処理及びパターン設定処理を行う事により、前記位置記憶処理で記憶した各ポイントまでの移動パターンを設定する事ができ、その結果、当該切断装置20の移動軌跡を算出する事ができる。
【0042】
更に本実施の形態では、上記の処理により算出した切断装置20の移動軌跡に於いて、各ポイントまでの移動ステップ(ステップS1〜S5)毎に移動速度を設定する移動速度設定処理を実施するように構成している。即ち、各ステップ毎に切断装置20の移動速度を設定することで、切断装置20の移動軌跡と移動速度を特定する事ができ、その結果、当該切断装置20の動作を自動的に行う事ができる。ただし、この移動速度設定処理は必ずしも必要では無く、当該切断装置20の移動は作業者が確認しながら行っても良い。
【0043】
以上のような処理により、少なくとも切断装置20の移動軌跡が算出される事から、連続運転処理を実行する事により、ワークにおける押湯や湯口等の不要部分を切断する自動運転処理を行う事ができる。
【0044】
なお、前記の移動軌跡を算出する一連の処理に於いて、予め位置記憶処理を行わずに、パターン設定処理の実施に際して、前記位置記憶処理を実行するように構成しても良い。即ち、前記
図5(B)に示す様な設定画面を表示しながら、切断時において切断装置20を動かす軌跡に沿って切断装置20を移動させ、移動の前又は後において直線補間か或いは円弧補間かを指定すると共に、移動した地点を移動点として指定するように構成する事もできる。この場合、各移動地点の読み出し等の処理が不要になり、作業者も実際の作業に沿った形で、移動軌跡を規定するシーケンスを作成乃至は設定する事ができる。この様に算出した移動軌跡を特定するシーケンス乃至はデータは、記憶手段に保存し、任意に読み出して使用できるように構成する事も望ましい。
【0045】
更に、本実施の形態に係る押湯切断装置50では、上記の各処理を実行する事によりガス切断トーチ20等の切断装置20の移動軌跡を算出し、その算出結果に従って切断装置20を動作させる事ができるが、当該動作中(切断装置20の移動中)においても、作業者が移動軌跡を手動で訂正できるように構成する事ができる。更に切断装置20を移動装置10に対して揺動乃至は回動自在に設ける事により、当該切断装置20の向き、即ちワークに対する上下方向(V方向)、左右方向(W方向)の向きを任意に調整できるように構成する事も望ましい。
【0046】
その他、上述した本実施の形態は、本発明に係る押湯切断装置50の1例を示したものであって、パターン設定処理を実行する画面や、各ポイントの選定等は任意に設定する事ができる。
依って、本発明に係る押湯切断装置50は、本発明の要旨を逸脱しない範囲に於いて、任意に変更して実施する事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る押湯切断装置は、鋳造後に鋳物に付いた押湯や湯口、或いはゲートなど不要な部分を切断する為の押湯切断装置において実施する事ができる。更に、当該押湯切断装置に限らず、予め軌跡を設定して切断する各種の装置としても利用する事ができる。
【0048】
また、当該押湯切断装置を使用する作業現場の作業環境を改善する為の装置としても使用する事ができる。
【符号の説明】
【0049】
10 移動装置
12 走行フレーム
14 横行フレーム
16 昇降フレーム
20 切断装置(ガス切断トーチ)
30 制御装置
50 押湯切断装置