特許第5960596号(P5960596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5960596免疫抑制活性を有するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960596
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】免疫抑制活性を有するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20160719BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20160719BHJP
   C12N 15/02 20060101ALI20160719BHJP
   C12N 5/20 20060101ALI20160719BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20160719BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20160719BHJP
【FI】
   C07K16/18ZNA
   C07K16/46
   C12N15/00 C
   C12N5/20
   !C07K7/08
   !C12P21/08
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-529630(P2012-529630)
(86)(22)【出願日】2011年8月19日
(86)【国際出願番号】JP2011068793
(87)【国際公開番号】WO2012023614
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-185406(P2010-185406)
(32)【優先日】2010年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-972
(73)【特許権者】
【識別番号】507330730
【氏名又は名称】学校法人 城西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐 藤 秀 次
(72)【発明者】
【氏名】後 藤 武
(72)【発明者】
【氏名】後 藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】中 野 敏 明
(72)【発明者】
【氏名】大 森 直 哉
(72)【発明者】
【氏名】江 貴 真
(72)【発明者】
【氏名】島 田 弥 生
(72)【発明者】
【氏名】森 健 二
(72)【発明者】
【氏名】宮 城 孝 満
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/001673(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/044555(WO,A1)
【文献】 特開2004−149507(JP,A)
【文献】 国際公開第92/011029(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0252751(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/025580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 5/12
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SSVLYGGPPSAA(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドまたは該ペプチドと薬学上許容可能な担体との結合体と結合する、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
RASSSVSYMH(配列番号2)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR1、ATSNLAS(配列番号3)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR2、およびQQWSSNPWT(配列番号4)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR3を含んでなる軽鎖可変領域を含んでなり、
GYNMN(配列番号7)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR1、NINPYYGSTSYNQKFKG(配列番号8)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR2、およびSPYYSNYWRYFDY(配列番号9)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR3を含んでなる重鎖可変領域を含んでなる、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域が、配列番号6の第23番〜第128番で表されるアミノ酸配列を含んでなる、請求項1に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域が、配列番号11の第20番〜第141番で表されるアミノ酸配列を含んでなる、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
ATP合成酵素活性をダウンレギュレーションする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体が、キメラまたはヒト化抗体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記薬学上許容可能な担体が、キーホールリンペットヘモシアニン、オボアルブミンまたはウシ血清アルブミンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
受託番号NITE BP-972のもと寄託されたハイブリドーマMouse-Mouse hybridoma SSV-C93-3により産生される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記抗原結合断片が、Fab、Fab’、(Fab’)、FvまたはscFvである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
受託番号NITE BP-972のもと寄託されたハイブリドーマMouse-Mouse hybridoma SSV-C93-3。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2010年8月20日に出願された日本国特許出願2010−185406号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、優れた免疫抑制活性を有するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片およびそれらを産生するハイブリドーマに関する。
【背景技術】
【0003】
臓器移植医療においては、臓器移植後の拒絶反応を抑制するため、従前種々の免疫抑制剤が使用されている。このような免疫抑制剤としては、例えば、タクロリムス(FK506)、シクロスポリンAなどを挙げることができる(Jpn J Pharmacol,71, 89-100, 1996)。しかしながら、従前の免疫抑制剤にあっては、ガン細胞の増殖促進、骨髄機能抑制などの強い副作用、感染症、さらには永続投与の必要性などが問題となっている(非特許文献1:Transplantation, 58, 170-178, 1994)。
【0004】
また、一般的に免疫抑制剤の退薬時期を判断することは困難である。例えば、免疫抑制剤の投与を継続しなくても組織が生着することがある。このような場合に不用意に免疫抑制剤の投与を継続すれば、患者に対して単に毒性によるダメージを与えるおそれがある。
一方、免疫抑制剤の投与を中断することにより、生着していた組織が拒絶に転じる可能性もある。この場合、免疫抑制剤の投与を再開しても拒絶は免れない場合が多い。
【0005】
一方、臓器移植に関する種々の研究がなされている。例えば、ラット同所性肝移植(OLT:orthotopic liver taransplantation)の系において、移植片の生着率が高いドナーDAラット肝(MHC haplotype RT1a)をレシピエントPVGラット(RT1c)に移植した場合、免疫抑制剤を投与することなしに移植片が生着することが報告されている(非特許文献2:Transplantation, 35, 304-311,1983)。
【0006】
また、DAラット肝を移植したレシピエントPVGラットの血清(post-OLT serum)を、拒絶反応が生じる組み合わせの移植モデル系に1回術前投与することにより、移殖片の拒絶反応が抑制されることが報告されている(非特許文献3:J. Surg. Res., 80, 58-61, 1998)。
【0007】
また、抗ヒストンH1ポリクローナル抗体を、拒絶反応が必ず生じるDA(RT1a)およびLWISラット(RT1l)の心移植系(in vivo)に術後投与することにより、拒絶反応が抑制され、レシピエントが生存することが開示されている(非特許文献4:Transplantation, 77, 1595-1603, 2004)。
【0008】
また、本発明者らの一部は、PVGラット由来移植後初期血清を用いることにより混合リンパ球培養反応(MLR;mixed lymphocyte reaction)が抑制されること、および抗ヒストンH1抗体がMLR抑制活性を示すことを開示している(特許文献1:特開2004−149507号公報)。
【0009】
また、本発明者らの一部は、抗ヒストンH1モノクローナル抗体を製造したこと、および、ハイブリドーマ16G9(受託番号FERM BP−10413)の産生する抗ヒストンH1モノクローナル抗体が、ファージディスプレイ法により得られた配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドと結合することを開示している(特許文献2:WO2006/025580号公報)。
【0010】
また、本発明者らの一部は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドを抗原とするポリクローナル抗体を製造したことを報告している(特許文献3:US-2009-0081247-A1)
【0011】
しかしながら、臓器移植における移植拒絶抑制に利用しうる、優れた免疫抑制活性を有するモノクローナル抗体を創出することが依然として求められているといえる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Transplantation, 58, 170-178, 1994
【非特許文献2】Transplantation, 35, 304-311,1983
【非特許文献3】J. Surg. Res., 80, 58-61, 1998
【非特許文献4】Transplantation, 77, 1595-1603, 2004
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−149507号公報
【特許文献2】WO2006/025580号公報
【特許文献3】US-2009-0081247-A1
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、今般、顕著な免疫抑制活性を有する、新規なモノクローナル抗体およびその抗原結合断片、およびそれらを産生するハイブリドーマを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0015】
したがって、本発明は、顕著な免疫抑制活性を有する、新規なモノクローナル抗体およびその抗原結合断片、およびそれらを産生するハイブリドーマの提供を目的とする。
【0016】
そして、本発明のモノクローナル抗体または抗原結合断片は、SSVLYGGPPSAA(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドまたは該ペプチドと薬学上許容可能な担体との結合体と結合し、かつ、
ヒストンH1への結合親和性よりも、コアヒストンに対する結合親和性が高いことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明のハイブリドーマは、上記モノクローナル抗体または抗原結合断片を産生するものである。
【0018】
本発明のモノクローナル抗体は、顕著な免疫抑制活性を有し、臓器移植における移植拒絶抑制に有利に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のモノクローナル抗体(以下、「SSVmAb」ともいう)のアイソタイプの同定試験の結果を示す。
図2】本発明のモノクローナル抗体(SSVmAb)に関して、ヒストンH1、ヒストンH2A、H2B、H3またはH4への結合親和性を比較した試験の結果を示す。
図3】参考例;受託番号FERM BP−10413のもと寄託されたハイブリドーマ16G9の産生するモノクローナル抗体(以下、「16G9mAb」ともいう)に関して、ヒストンH1、ヒストンH2A、H2B、H3またはH4への結合親和性を比較した試験の結果を示す。
図4】本発明のモノクローナル抗体(SSVmAb)および16G9mAbを用いた混合リンパ球反応(MLR)試験の結果を示す。
図5】本発明のモノクローナル抗体(SSVmAb)および16G9mAbのT細胞に対する反応性をフローサイトメトリーにより比較した結果を示す。
図6】Aは、本発明のモノクローナル抗体(SSVmAb)および対照試薬(Isotype IgG1)に関する、ATP合成酵素をsiRNAによりノックダウンしていない脾臓細胞を用いたMLR試験の結果を示す。Bは、本発明のモノクローナル抗体(SSVmAb)および対照試薬(Isotype IgG1)に関する、ATP合成酵素をsiRNAによりノックダウンした脾臓細胞を用いたMLR試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
寄託
本発明のハイブリドーマMouse-Mouse hybridoma SSV-C93-3は、原寄託日を2010年8月17日として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8バイオテクノロジー本部)において、受託番号NITE BP-972のもと寄託されている。
【0021】
モノクローナル抗体およびハイブリドーマ
本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、SSVLYGGPPSAA(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドまたは該ペプチドと薬学上許容可能な担体との結合体と結合し、かつ、リンカーヒストン(ヒストンH1)に対する結合親和性よりも、コアヒストン対する結合親和性が高いことを一つの特徴とするものである。かかる反応性を有するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片が、顕著な免疫抑制活性を有することは意外な事実である。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、上記抗体またはその抗原結合断片は、SSVLYGGPPSAA(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドまたは該ペプチドと薬学上許容可能な担体に対するものである。
【0023】
また、本発明の好ましい態様によれば、コアヒストンは、ヒストンH2A、H2B、H3またはH4であり、より好ましくはH2A、H3またはH4である。
【0024】
また、本発明の抗体またはその抗体結合断片は、重鎖および/または軽鎖を含むことができる。各軽鎖および重鎖はそのN-末端に可変領域を有することができ、各可変領域では4つのフレームワーク領域(framework region)(FR)と、3つの相補性決定領域(CDR)とを交互に含んでいてよい。可変領域中の残基はKabatらによって考えられた系に従って慣用的に番号付けられている。この系はKabatら、1987、Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Departement of Health and Human Services, NIH,USAに述べられている。特に示さない限り本明細書でこの番号付け体系が使用される。このようなKabatらの方法に基づく番号付けは、例えば、Webサイトhttp://www.bioinf.org.uk/abysis/tools/analyze.cgiを用いて簡易に行うことができる。
【0025】
Kabat残基命名法はアミノ酸残基の直線的番号付けと必ずしも直接一致しない。実際の直線的アミノ酸配列は、基本可変領域構造の構造的要素、フレームワークまたはCDRのいずれにせよ、その短縮または挿入に対応して、厳格なKabat番号付けにおけるよりも少ないまたは追加のアミノ酸を有することがある。残基の正確なKabatの番号付けは、与えられた抗体について、「標準的」Kabat番号付けされた配列と抗体の配列中の相同性残基を整列させることによって決定されるであろう。
【0026】
一つの態様によれば、本発明の抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域は、RASSSVSYMH(配列番号2)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR1、ATSNLAS(配列番号3)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR2、およびQQWSSNPWT(配列番号4)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR3を含んでなる。さらに好ましい態様によれば、上記軽鎖可変領域は、配列番号6の第23番〜第128番で表されるアミノ酸配列を含んでなる。
【0027】
また、別の態様によれば、本発明の抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域は、GYNMN(配列番号7)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR1、NINPYYGSTSYNQKFKG(配列番号8)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR2、およびSPYYSNYWRYFDY(配列番号9)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR3を含んでなる。さらに好ましい態様によれば、上記重鎖可変領域は、配列番号11の第20番〜第141番で表されるアミノ酸配列を含んでなる。
【0028】
また、本発明のより一層好ましい態様によれば、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、RASSSVSYMH(配列番号2)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR1、ATSNLAS(配列番号3)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR2、およびQQWSSNPWT(配列番号4)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR3を含んでなる軽鎖可変領域と、GYNMN(配列番号7)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR1、NINPYYGSTSYNQKFKG(配列番号8)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR2、およびSPYYSNYWRYFDY(配列番号9)で表わされるアミノ酸配列からなるCDR3を含んでなる重鎖可変領域を含んでなる重鎖可変領域とを含んでなる。
【0029】
また、本発明のより一層好ましい態様によれば、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、配列番号6の第23番〜第128番で表されるアミノ酸配列を含んでなる軽鎖可変領域と、配列番号11の第20番〜第141番で表されるアミノ酸配列を含んでなる重鎖可変領域とを含んでなる。
【0030】
また、本発明の好ましい態様によれば、上記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、ATP合成酵素活性をダウンレギュレーションすることができる。また、本発明のより好ましい態様によれば、上記ATP合成酵素はミトコンドリアのATP合成酵素である。
【0031】
本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片の上記結合親和性およびATP合成酵素活性のダウンレギュレーション活性は、例えば、本願明細書の試験例2および4に記載の手法により確認される。
【0032】
また、本発明のモノクローナル抗体は、好ましくは、キメラ抗体、ヒト型化抗体または完全ヒト型抗体である。これら抗体は、例えば、Morrison,S.L., Oi, V.T., “immunoglobulin genes” Academic Press(London), 260-274(1989)、Roguska, M.L. et. Al., Humanization of murine monoclonal antibodies through variable domain resurfacing, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 969-973(1994)、Tomizuka, K. et.al. Functional expression and germline transmission of a human chromosome fragment in chimaeric mice, Nature Genet., 16, 133-143(1997)、Winter, G. et.al., Making antibodies by phage display technology, Ann. Rev. Immunol., 12, 433-455(1994)、Griffiths, A.D. et. al., Isolation of high affinity human antibodies directly from large synthetic repertoires, EMBO. J., 13, 3245-3260(1994)等に記載の当該技術分野の公知技術に基づき、当業者は製造することができる。
【0033】
また、本発明の好ましい態様によれば、上記抗原結合断片は、好ましくは、Fab、Fab’、(Fab’)、FvまたはscFvである。
【0034】
また、本発明の別態様によれば、上記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片を産生するハイブリドーマが提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、ハイブリドーマはMouse-Mouse hybridoma SSV-C93-3である。
【0035】
本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片、およびハイブリドーマは、例えば、次のようにして製造することができる。すなわち、まず、本発明のハイブリドーマは、SSVLYGGPPSAA(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドまたは該ペプチドと薬学上許容可能な担体との結合体を感作抗原として使用し、この感作抗原にて免疫した哺乳動物の形質細胞(免疫細胞)を、哺乳動物のミエローマ細胞と融合させ、得られるハイブリドーマをクローニングし、そのハイブリドーマ中から選別することによりを得ることができる。そして、本発明のモノクローナル抗体は、本発明のハイブリドーマを培養し、これが産生する抗体を回収することにより得ることができる。
【0036】
哺乳動物を免疫する方法としては、当該技術分野における一般的投与法を用いることができ、具体的には、腹腔内注射、脾臓内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、経口投与、経粘膜投与、経皮投与などを挙げることができるが、好ましくは腹腔内注射、脾臓内注射である。感作抗原の投与間隔は、感作抗原の投与量および哺乳動物の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、1ヶ月間に数回毎とすることができる。
【0037】
免疫される哺乳動物は、特に限定されないが、細胞融合に使用するミエローマ細胞との適合性などを考慮して選択することが好ましく、例えば、マウス、ラット、ハムスターなどを挙げることができるが、好ましくはマウスである。
また、免疫細胞としては、好ましくは脾細胞を使用する。
【0038】
本発明に用いるミエローマ細胞としては、例えば、P3(P3X63Ag8.653)(J.Immunol., 123,1548, 1978)、p3−U1(Current Topics in Micro-biology and Immunology, 81, 1-7,1978)、NS−1(Eur. J. Immunol., 6,511-519, 1976)、MPC−11(Cell, 8, 405-415, 1976)、Sp2/0−Ag14(Nature, 276, 269-270, 1978)、FO(J. Immunol. Meth.,35, 1-21, 1980)、S194(J. Exp. Med., 148, 313-323, 1978)、およびR210(Nature, 277, 131-133, 1979)などが挙げられるが、好ましくはP3またはp3−U1であり、より好ましくはP3である。
【0039】
免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、例えば、ミルシュタインら(Milstein et. al.)の方法(Methods Enzymol., 73, 3-46, 1981)などに準じて行うことができる。具体的には、細胞融合は、例えば、融合促進剤の存在下、培地中にて免疫細胞とミエローマ細胞とを混合することにより実施することができる。そして、細胞融合において、適宜培地を添加して遠心分離する操作を繰り返してハイブリドーマを生成することができる。
【0040】
細胞融合に用いる培地としては、例えば、RPMI−1640培地、MEM培地などの細胞融合において通常使用される培地が挙げられる。また、牛胎児血清(FBS)などの血清補液を適宜併用することができる。
また、細胞融合温度は、好ましくは25〜37℃であり、より好ましくは30〜37℃である。
また、ミエローマ細胞と免疫細胞との混合比率は、好ましくは1:1〜1:10程度である。
【0041】
融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)などを挙げることができるが、好ましくはPEGである。PEGの分子量は適宜選択することができ、例えば、平均分子量1,000〜6,000程度とすることができる。また、培地中のPEGの濃度は、好ましくは約30〜60%(W/V)である。
また、所望によりジメチルスルホキシドなどの補助剤を培地に適宜添加することができる。
【0042】
本発明のハイブリドーマの選択は、細胞融合により得られるハイブリドーマを、例えば、HAT培地などの通常の選択培地にて培養し、通常の限界希釈法を用い、例えば、SSVLYGGPPSAA(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドまたは該ペプチドと薬学上許容可能な担体との結合体に対する抗体価など指標としてスクリーニングすることにより実施することができる。HAT培地による培養期間は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(未融合細胞)が死滅するのに充分な時間であり、通常、数日〜数週間とすることができる。このようにして得られる本発明のハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することができる。
【0043】
また、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体結合断片を回収する方法としては、例えば、ハイブリドーマを常法に従って培養してその培養上清からモノクローナル抗体等を得る方法、またはハイブリドーマをこれと適合性のある哺乳動物に投与して増殖させその腹水からモノクローナル抗体等を得る方法などを挙げることができる。ここで、前者の方法は高純度の抗体を得るのに好ましく、一方、後者の方法は抗体を大量に生産にするのに好ましい。
【0044】
さらに、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体結合断片は、塩析法、ゲル濾過法、アフィニティークロマトフラフィーなどの方法により、高純度に精製することができる。
【0045】
本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、上述の通り、顕著な免疫抑制活性を有している。本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、そのまま用いてもよく、薬学的に許容される添加剤などとともに、医薬組成物として用いてもよい。したがって、本発明の一つの態様によれば、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含んでなる、医薬組成物が提供される。また、本発明の好ましい態様によれば、上記医薬組成物は、免疫抑制剤として用いられる。また、本発明の別の態様によれば、医薬組成物の製造における、本発明のモノクローナル抗体の使用が提供される。
【0046】
本発明の医薬組成物は、心臓、腎臓、肝臓、骨髄、皮膚などの臓器の移植による拒絶反応の抑制またはその発生リスクの低減のために、さらには自己免疫疾患などの治療のために有利に利用することができる。本発明の医薬組成物は、例えば、本発明のモノクローナル抗体を、注射用生理食塩水、注射用蒸留水、注射用緩衝溶液などに溶解して調製することができる。さらに、本発明の免疫抑制用組成物には、適当な溶剤、溶解補助剤、保存剤、安定剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、等張化剤、緩衝剤、賦形剤、増粘剤、着色剤、公知のキャリア(各種リポソーム、ポリアミノ酸キャリア、合成高分子、天然高分子など)などを含有させることができる。
【0047】
また、本発明の別の態様によれば、免疫抑制を必要とする哺乳動物の治療方法であって、有効量の本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を投与することを含んでなる、方法が提供される。ここで、「治療」とは、確立された病態を改善することを意味する。また、本発明の別の態様によれば、移植拒絶の発生リスクを軽減する方法であって、有効量の本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を、臓器移植を受けた哺乳動物に投与することを含んでなる、方法が提供される。
【0048】
また、一つの態様によれば、上記哺乳動物は、臓器移植を受けたものである。上記哺乳動物および移植臓器のドナーとしては、ヒト、ブタ、ヒヒなどが挙げられるが、好ましくはヒトである。
また、移植される臓器としては、例えば、肝臓、心臓、腎臓、皮膚などが挙げられる。
【0049】
また、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、臓器移植に用いられる他の免疫抑制剤と組み合わせて同時または逐次に哺乳動物に投与してもよい。かかる他の免疫抑制剤としては、特に限定されないが、例えば、シクロフォスファミドなどのアルキル化剤、 アザチオプリン、メソトレキサート、ミゾリビンなどの代謝拮抗剤、シクロスポリン、タクロリムスなどのT細胞活性阻害剤、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリンなどのステロイド剤、バシリキシマブ、ムロモナブなどのリンパ球表面機能阻害剤またはそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0050】
また、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、全身的または局所的に投与することができ、具体的な投与方法としては、点滴、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、経口投与、経粘膜投与、経皮投与などが挙げられる。
【0051】
また、本発明のモノクローナル抗体または抗原結合断片の有効量は、特に限定されず、哺乳動物の種類、性質、性別、年齢等に応じて当業者によって、適宜決定される。例えば、かかる有効量としては、0.05〜40mg/体重kg/日、好ましくは0.1〜1.0mg/体重kg/日を1回または数回等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1:モノクローナル抗体(SSVmAb)の製造
抗原物質の製造
抗原物質としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドおよびKLHの結合体を使用した。
【0054】
抗原物質の調製においては、まず、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、Fmocペプチド固相合成法(製造装置;ABI430型アプライバイオシステムズ社製)により合成した。さらに、上記ペプチドおよびKLH(SIGMA社製)の結合体は、上記ペプチド 5mg、KLH 約20mgおよびグルタルアルデヒド 30μg(片山化学工業株式会社)をリン酸緩衝液(pH 8.0)中、室温で約6時間撹拌して合成した。
【0055】
ハイブリドーマの製造
免疫
PBS中に抗原物質を溶解させた溶液 0.8mL(抗原物質濃度:0.5mg/mL)とフロイトコンプリートアジュバンド(和光純薬株式会社製)0.8mLとを混合し、懸濁液(抗原濃度:0.25mg/mL)を得た。次に、この懸濁液0.2mLをBALB/cマウスに腹腔内投与した。さらに、この懸濁液を2週間毎に同量にてマウスに投与した。そして、投与開始から16週間後、PBS中抗原を溶解させた溶液 0.2mL(抗原濃度:600〜1000mg/mL)をマウス腹腔内へ最終投与した。なお、投与の際には、眼底静脈より採血を行ってELISAにより抗体価を測定した。最終投与の4日後、全採血を行い、得られた血液を遠心分離(2000rpm、20分)し、抗血清を得て以下の実験のコントロール抗血清として用いた。また、全採血後、ラットより脾臓を摘出し、得られた脾細胞を以下の細胞融合に用いた。
【0056】
細胞融合
上記の脾細胞およびミエローマ細胞(P3X63-Ag.8.653)を脾細胞:ミエローマ細胞=10:1〜10にて混合して遠心分離(1500rpm,5分)した。遠心分離した後、アスピレーターを用いて上清を除去し、得られた細胞ペレットに37℃のポリエチレングリコール4000(50%PBS溶液)1mLを1分間かけて添加して混合液とした。この混合液を37℃にて1分間静置した後、37℃のIMDM培地(計9mL)を30秒毎に1 mLずつ加えた後、遠心分離(1500rpm、5分)した。遠心分離後、上清を吸引除去し、37℃の15%FCS(JRH BIOSCIENCES製)含有IMDM(GIBCO製)培地を適量添加した。得られた懸濁液を96ウェル培養プレートに100mLずつ分注を行い、37℃/5%COインキュベーターにて1日培養した。さらにHAT培地(HAT粉末(HAT MEDIA SUPPLEMENT(×50)、SIGMA製)を無血清IMDM培地10mLに溶かし、10%FCS含有IMDM培地にて50倍希釈したものである。)を100mL添加し、37℃/5%COインキュベーターにて培養した。HAT培地の交換は2〜3日毎に行い、10日後にはHT培地(HT粉末(HT MEDIA SUPPLEMENT、SIGMA製)を無血清IMDM培地10mLに溶かし、10%FCS含有IMDM培地にて50倍希釈したものである。)に切り替え、3日間、37℃/5%COインキュベーターにて培養を行った。以後2〜3日ごとに培地(HT培地)の交換を行った。細胞増殖を顕微鏡により確認した後、培養上清(約100 mL)を回収した。この培養上清を用いて、抗体価測定によるハイブリドーマのスクリーニングを行った。
【0057】
ハイブリドーマ細胞のスクリーニング
抗体価測定
上記抗原物質(5mg)を含む緩衝液(Baicarbonate buffer:100 mM NaHCO3-NaOH、pH9.2〜9.5、ペプチド濃度:1μg/mL) を1ウェル当り50μLずつ96ウェル平底プレートへ添加し、室温にて2時間静置してコーティングした。プレートを洗浄バッファー(PBST)にて3回洗浄し、ブロッキングバッファー(3%スキムミルク1%BSA、PBS)を200〜250μL/ウェルにて加え、4℃にて一昼夜反応させた後、3回洗浄した。そして、ハイブリドーマの培養上清を100μL/ウェルにて加え、37℃にて4時間または4℃にて一昼夜反応させた。プレートを3回洗浄した後、希釈バッファー(10 mM Tris-HCl ( pH 8.0 )、0.9 % ( W/V ) NaCl、0.05 % ( W/V ) Tween20)にて10000倍希釈したビオチン標識抗マウスIgG(Biotion-labeled anti-mouse IgG 、SIGMA)を50μL/ウェルにて加え、室温にて2時間反応させた。その後6回洗浄した後、希釈バッファーにて1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識ストレプタリジン(Streptaridin)を50μL/ウェルにて加え、室温にて1〜2時間反応させた。その後6回洗浄を行い、蛍光基質バッファー(Attophos substrate buffer、ロシュダイアグノスティックス社製)を50μL/ウェル加えてプレートを遮光し発色させた。蛍光強度はCytoFluorII(パーセプティブ社製)にて測定した。
【0058】
ハイブリドーマの選別
上記抗体価測定にて陽性の結果を示したウェル(1×10細胞/mL)に15%FCS10%HCF(Hybridoma cloning factor、オリジン社製)含有IMDM培地を加えて、約200細胞/ウェル となるように96ウェル培養プレートに分注し、37℃5%COインキュベーターにて培養を行った。そして、上記と同様に抗体価測定を行い、抗体産生量の多いハイブリドーマを選択した。
【0059】
さらに限界希釈を行い、選択したハイブリドーマが0.5〜1細胞/ウェルになるように15%FCS10%HCF含有IMDM培地で希釈し、37℃/5%COインキュベーターにて約3〜4日間培養した後、上記と同様に抗体価測定を行い、抗体産生量の多いハイブリドーマを選択した。さらに限界希釈を繰り返し、上記抗原物質に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得た。このうち、抗体価が最も高いハイブリドーマを選択してMouse-Mouse hybridoma SSV-C93-3と命名した。
【0060】
モノクローナル抗体の取得
ハイブリドーマMouse-Mouse hybridoma SSV-C93-3は、15%FCS含有RPMI培地を用いて培養した(1×10細胞/mL)。次に、ハイブリドーマ培養液を回収し、死細胞片を除くためにフィルターでろ過した。次に、終濃度40%となるように、培養上清に硫酸アンモニウムを加え、40℃で1時間撹拌した。次に、遠心分離(3000g、30分、4℃)を行い、上清を捨て沈殿を回収した。この沈殿を上記培養上清の1/10量のPBSで溶解し、PBSを外液として一晩透析した。
次に、上記沈殿を20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で2倍希釈し、1Mトリス-HCl緩衝液とともに、HiTrapNHS活性化カラムに添加した。さらに、0.1Mグリシン−HCl溶液(pH2.7)で抗体の溶出し、フラクションチューブに回収した。
【0061】
試験例1:SSVmAbのアイソタイプの同定
実施例1のモノクローナル抗体(SSVmAb)のアイソタイプを同定するため、Mouos Monoclonal Antibody Isotyping Reagents(シグマ)を用いたアイソタイプ同定試験を行った。
結果は、図1に示される通りであり、IgG1が最も高い値を示した。
【0062】
また、マウスIgG1(eBioscience社)および実施例1のモノクローナル抗体(SSVmAb)を2−メルカプトエタノールで還元し、SDS-PAGEで処理したところ、いずれも同様の位置 (50 KD、25KD)に重鎖および軽鎖に相当するバンドが確認された。一方、マウスIgG1の代わりにマウスIgM(eBioscience社)を用いて同様の実験を行ったところ、同様のバンドは確認されなかった。
図1およびSDS-PAGEの結果から、実施例1のモノクローナル抗体(SSVmAb)のアイソタイプはIgG1であることが確認された。
【0063】
試験例2: SSVmAbのコアヒストンに対する親和性の確認
WO2006/025580号公報には、免疫抑制に用いることができ、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなるペプチドと結合する抗H1モノクローナル抗体として、ハイブリドーマ16G9(受託番号FERM BP−10413)の産生するモノクローナル抗体(16G9mAb)が報告されている。
そこで、WO2006/025580号公報に記載の抗体(16G9mAb)を参考例1とし、実施例1のモノクローナル抗体(SSVmAb)との抗原に対する親和性の比較を行った。
抗原としては、参考例1(16G9mAb)の抗原であるヒストンH1、およびヒストンH1類似抗原であるコアヒストンH2A、H2B、H3およびH4を選択した。
【0064】
ヒストンH1またはコアヒストンと、SSVmAbとの親和性をELISAで決定した。
96wellマイクロプレートをヒストンH1、H2A、H2B、H3またはH4でコートした。それぞれのヒストンは、100mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.3)に溶解させたものを用いた。そのプレートをPBS-tween20(0.05%)で洗浄し、3%スキムミルクと1%BSAで1時間ブロッキングした。SSVmAb 5μg/mLを各wellに添加し、1時間インキュベーションした。結合したSSVmAbをペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートanti mouse IgG1 Ab(シグマ)を用いて検出し、1時間インキュベーションした。結合したSSVmAbをABTS[2,2’-azino-bis(3-ethylbenzothiazoline-sulfonic acid) ]基質溶液を用いた検出し、Multiskan Ascent(Thermo Fisher Scientific Inc., Waltham, MA)を用いて405nmの吸光度を測定した。
【0065】
結果は、図2および3に示される通りであった。
図2に示される通り、実施例1(SSVmAb)では、ヒストンH1に対する親和性よりも、ヒストンH2A、H2B、H3またはH4に対する親和性が高かった。
一方、図3に示される通り、参考例1(16G9)では、ヒストンH2A、H2B、H3およびH4に対する親和性よりも、ヒストンH1に対する親和性の方が高かった。
【0066】
試験例3:MLR試験
無処理のDAラット由来の脾臓リンパ球(応答細胞)およびマイトマイシンC(協和発酵工業株式会社製)処理を行ったLEWラット由来の脾臓リンパ球(刺激細胞)を用いた。応答細胞は10%FCS−RPMI培地にて5×10細胞/mLに調整し、刺激細胞は10%FCS−RPMI培地にて8×10細胞/mLに調整した。この応答細胞懸濁液および刺激細胞懸濁液をそれぞれ100μLを96穴丸底プレート(Nunc Brand Products社製)に播種した後、混合培養開始時に参考例1のモノクローナル抗体16G9mAb(0.1、2、4または6μg/mL/ウェル)または実施例1のモノクローナル抗体SSVmAb(4μg/mL/ウェル)を添加し、37℃,5%CO/95% airの条件下にて3.5日以上培養した。また、陽性対照として、免疫抑制剤タクロリムス(FK506:藤沢薬品社製、1nM/ウェル)を添加した。さらに、培養終了15時間前にブロモデオキシウリジン(BrdU)10μLを添加した。そして、BrdUラベリング&ディテクションキットIII(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を用いて、細胞内DNAに取り込まれたBrdU量を指標として、免疫抑制物質により処理された細胞の増殖能を測定し、免疫抑制レベルの指標とした。
【0067】
結果は、図4に示される通りであった。
実施例1(SSVmAb)では、BrdU量取り込みを示す吸光度は、参考例1(16G9mAb)およびタクロリムス(FK506)のそれより低かった。特に、実施例1(SSV mAb)の吸光度0.552±0.114(平均±S.E.)と、同添加量(4μg/mL/ウェル)の参考例1(16G9mAb)の吸光度1.351±0.389(平均±S.E.)とを比較すると、実施例1の平均値は、参考例1のそれの約41%程度であった。
【0068】
試験例4:モノクローナル抗体(SSVmAb)T細胞に対する反応性の確認
以下の手法により、C57BL/6マウス(5週齢、メス、日本チャールズリバー社製)より脾臓を摘出し、全脾細胞を調製した。
まず、5 mlのRPMI1640培地(Sigma-Aldrich社製R-8758)を入れた5 ml培養ディッシュ(BD Bioscience社製FALCON 351007)中で脾臓を解剖用ハサミとピンセットにて良くほぐして脾細胞を懸濁後、15 ml遠心チューブ(BD Bioscience社製FALCON 352096)に移した。続いて5 mlディッシュ上をphosphate-buffered saline(PBS, Invitrogen社製20012-027)にて数回洗浄し、これらも先の細胞懸濁液に加えて静置後、上清を別の15 ml遠心チューブに回収した。さらに残渣の不溶性脾臓組織にも再びRPMI1640培地5 mlを加えて静置後上清のみを回収し、これと上記の細胞懸濁液を合わせて1,500 rpm, 5 minの遠心分離を行った。回収した細胞にlysis buffer(150 mM NH4Cl/15 mM NaHCO3/0.1 mM EDTA-Na2, pH 7.3)2 mlを加えてタッピングにより溶血後、PBS 10 mlを加えて1,500 rpm, 5 minにて3回遠心洗浄した細胞を全脾細胞とした。
【0069】
次に、以下に記載の手法に準じて、本脾細胞から全T細胞をPan T Cell Isolation Kit, mouse(Miltenyi Biotec社製130-090-861)を用い、磁気ソーティング(MACS)により精製した。
まず、脾細胞をMACS buffer (0.5% bovine serum albumin (BSA, ナカライテスク社製08777-36)/PBS)にて 5 x 107 cells/200μlの割合で懸濁し、50μl Biotin-antibody cocktail / 5 x 107 cellsを添加して4 ℃, 10 minインキュベートした。これを150 μl MACS buffer / 5 x 107 cellsに懸濁後、100μl anti-biotin micro beads /5 x 107 cellsを添加して4 ℃, 15 minインキュベートした。これにMACS buffer(10 ml)を添加して1500 rpm, 5 min遠心洗浄後、回収細胞をMACS buffer 500μlに懸濁した。MACSカラム (MSカラム、Miltenyi Biotec社製130-042-201) をマグネット(MiniMACS separation Unit、Miltenyi Biotec社製130-090-312)にセットして500μl MACS bufferにてカラムを平衡化後、上述の細胞懸濁液を供した。素通り画分500μlおよびその後のMACS bufferによるカラム洗浄画分(1.5 ml)を回収して精製未刺激T細胞とした(純度約97%)。
【0070】
上記の未刺激と16G9 mAbまたはSSV mAbとの反応性をフローサイトメトリー(FACS)により解析した。
まず、各T細胞サンプル(1 x 106 cells)を89μlのFACS buffer (0.5% FBS/PBS/0.02% NaN3)に懸濁後、1μgのanti-mouse CD16/32-blocks Fc binding(eBioscience社製14-0161-85)を加えて4℃, 20 minインキュベートした。これに1次抗体として16G9 mAbまたはSSV mAb (100μg/ml)10μlを加えて4℃, 60 minインキュベートした。FACS bufferにて細胞を2回遠心洗浄後、2次抗体(Biotin-conjugated rat anti-mouse IgM mAb(eBioscience社製13-5780-85)またはBiotin-conjugated rat anti-mouse IgG1 mAb(BD Biosciences社製553441)、各1μg/ml)を100μl加えて4℃, 30 minインキュベートした。再びFACS bufferにて細胞を2回遠心洗浄後、Streptavidin-PE-Cy7(BD Biosciences社製556463、 1μg/ml)を100μl加え、これにFITC-conjugated rat anti-mouse CD3 mAb(BD Biosciences社製553062)を終濃度1 μg/mlになるように添加して4℃, 30 minインキュベートした。FACS bufferにて2回遠心洗浄および40 μmセルストレーナー(BD Bioscience社製FALCON 352340)にてろ過処理後、各サンプルをFACSCaliburフローサイトメーターおよびCellQuestソフトウェア(BD Bioscience社製)に供して16G9 mAbまたはSSV mAb陽性/CD3陽性T細胞数を解析した。
【0071】
結果は、図5に示される通りであった。
参考例1(16G9 mAb)および実施例1(SSV mAb)を比較すると、CD3陽性T細胞に対する反応性に有意差は認められず、これら抗体は同等の反応性を示した(student t-test、p<0.05)。
【0072】
試験例5:SSV mAbによるダウンレギュレーションのターゲットの特定
実施例1(SSV mAb)によりダウンレギュレーションされる候補タンパク質をプロテオーム解析にて7種同定した。
そして、7種の候補タンパク質うち、ATP合成酵素が実施例1(SSV mAb)のターゲット抗原であることを以下の手法により確認した。
まず、サーモフィッシャー社のAccell siRNAキットを用いて、ミトコンドリアATP合成酵素のノックダウンされたBalb/cマウス由来のT細胞を取得した。
次に、試験例2の手法に準じて、得られたT細胞を用いて、実施例1(SSV mAb) を試験物質としてMLR試験を行った。
ここで、対照試薬としてはIsotype IgG1(eBioscience社)を用いた。また、コントロール試験として、ATP合成酵素をノックダウンしていないマウス由来のT細胞を用いた同様の試験を行った。
【0073】
結果は、図6AおよびBに示される通りであった。
図6Aに記載の通り、ATP合成酵素をノックダウンしない場合には、実施例1(SSV mAb)は、Isotype IgG1と比較して有意に細胞増殖を阻害していた。
一方、図6Bに記載の通り、ATP合成酵素をノックダウンした場合には、細胞増殖の阻害に関し、実施例1(SSV mAb)とIsotype IgG1との間には有意差は認められなかった。
図6AおよびBでは、ATP合成酵素のノックダウンによりSSV mAbの免疫抑制活性が低下しており、SSV mAb が、免疫抑制の際に、ATP合成酵素活性をダウンレギュレーションしていることが示唆される。
【0074】
試験例6:SSV mAbの軽鎖および重鎖の可変領域配列の同定
ハイブリドーマcDNAの合成
FastPure RNA Kit(TaKaRa社製)を使って、試験例1で取得したハイブリドーマ(Mouse-Mouse hybridoma SSV-C93-3)1.6×107cellsからtotal RNAを調製した。Poly (A)+ Isolation Kit from Total RNA(NIPPON GENE製)を使って、240 μgのtotal RNAからmRNAを調製した。Etachinmate(NIPPON GENE社製)を使ってエタノール沈殿を行い、mRNAを沈殿した。75% エタノールで洗浄した後、mRNAを乾燥した。これにRNase free waterを10 μL加え、mRNAを溶解した。得られたmRNA溶液は-80℃で保存した。 SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を使って、1 μgのSSVハイブリドーマmRNAから5’-RACE用のcDNAを合成した。得られたcDNA溶液は-20℃で保存した。
【0075】
SSV mAb 軽鎖および重鎖における相補性決定領域(CDR)の同定
マウスIgG1 重鎖定常領域の塩基配列をもとに、プライマー 5’- CAC CAT GGA GTT AGT TTG GGC AGC AG -3’ (配列番号12)を作製した。マウス軽鎖κ定常領域の塩基配列をもとにプライマー 5’- CAC GAC TGA GGC ACC TCC AGA TG -3’(配列番号13)を作製した。それぞれのプライマーとUniversal Primer A Mix(SMARTer RACE cDNA Amplification Kit付属プライマー)を用いて、cDNAをテンプレートとした5'-RACEを行った。RACE反応はAdvantage2 PCR Kit(Clontech社製)を用いた。反応液をアガロース電気泳動し、約600 bpの重鎖5’-RACE産物および約550 bpの軽鎖5’-RACE産物を、E.Z.N.A. Gel Extraction Kit(OMEGA bio-tek社製)を用いてゲルから精製した。これをpGEM-T Easy Vector(Promega社製)に連結し、Competent high E.coli DH5α(TOYOBO社製)を形質転換した。得られた形質転換体から、E.Z.N.A. Plasmid Miniprep KitI(OMEGA bio-tek社製)を用いてプラスミドを調製した。調製したプラスミドをテンプレートとして、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いてサイクル反応を行った。
【0076】
次に、DNAシークエンサー(Applied Biosystems製)を用いて、軽鎖および重鎖可変領域の塩基配列を解析した。
その結果、軽鎖可変領域の塩基配列は、配列番号5の第67番〜第384番で表されるものであった。
また、重鎖可変領域の塩基配列は、配列番号10の第58番〜第423番で表されるものであった。
なお、翻訳開始コドンとKabatらの方法により決定したFR(定常領域)1の位置に基づき、配列番号5の第1番〜第66番は軽鎖シグナルペプチドの塩基配列であり、および配列番号10の第1番〜第57番は重鎖のシグナルペプチドの塩基配列であると推定した。
【0077】
次に、得られた塩基配列から軽鎖および重鎖の可変領域のアミノ酸配列を推定し、Kabatらの方法に従ってCDR領域を同定した。
【0078】
その結果、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は、配列番号6の第23番〜第128番で表されるものであった。ここで、配列番号6の第1番〜第22番は軽鎖シグナルペプチドのアミノ酸配列である。
また、軽鎖可変領域可変領域のアミノ酸配列のうち、CDR1はRASSSVSYMH(配列番号2)で表わされ、CDR2はATSNLAS(配列番号3)で表わされ、CDR3はQQWSSNPWT(配列番号4)で表わされることを確認した。
【0079】
また、重鎖の可変領域のアミノ酸配列は、配列番号11の第20番〜第141番で表されるものであった。ここで、配列番号11の第1番〜第19番は重鎖シグナルペプチドのアミノ酸配列である。
また、重鎖可変領域のアミノ酸配列のうち、CDR1はGYNMN(配列番号7)で表わされ、CDR2はNINPYYGSTSYNQKFKG(配列番号8)で表わされ、CDR3はSPYYSNYWRYFDY(配列番号9)で表わされることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]