特許第5960654号(P5960654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5960654マグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型半導体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960654
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】マグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型半導体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20160719BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20160719BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20160719BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20160719BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   H01L35/14
   H01L35/34
   C01B33/06
   C22C23/00
   B22F3/14 D
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-154394(P2013-154394)
(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公開番号】特開2015-26672(P2015-26672A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2014年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】磯田 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】多田 智紀
(72)【発明者】
【氏名】藤生 博文
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−188368(JP,A)
【文献】 特開2008−160077(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2770069(EP,A1)
【文献】 Guangyu Jiang et al.,Improving p-type thermoelectric performance of Mg2(Ge,Sn) compounds via solid solution and Ag doping,Intermetallics,2013年 1月,Vol.32,pp.312-317
【文献】 Fedorov, M.I. et al.,Transport properties of Mg2X0.4Sn0.6 solid solutions (X=Si,Ge) with p-type conductivity,Physics of the Solid State,2006年,Vol.48, No.8,pp.1486-1490
【文献】 A.U. Khan et al.,High thermoelectric figure of merit of Mg2Si0.55Sn0.4Ge0.05 materials doped with Bi and Sb,Scripta Materialia,2013年 7月16日,Vol.69, No.8,pp.606-609,[online],[検索日 2014.10.02],情報源 Science Direct
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14−26
H01L 35/34
B22F 3/14
C01B 33/06
C22C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料のマグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムを液−固相反応せしめて一般化学式
MgSiSnGe :但し「X+Y+Z=1」、「X>0、Y>0、Z>0」
で示される半導体を焼結して製造するにあたり、該半導体は、室温においてp型であって、
Xについては、0.00<X≦0.25の範囲であり、このときにZは、
−1.00X+0.40≧Z≧−2.00X+0.10 :但しZ>0.00
で囲まれる範囲あり、また
Yについては、0.60≦Y≦0.95の範囲であり、このときにZは、
−1.00Y+1.00≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.60≦Y≦0.90、Z>0.00
−2.00Y+1.90≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.90≦Y≦0.95、Z>0.00
で囲まれる範囲であることの何れかであることを特徴とするマグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型半導体の製造方法。
【請求項2】
グネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型半導体であって、該p型半導体は、一般化学式
MgSiSnGe :但し「X+Y+Z=1」、「X>0、Y>0、Z>0」
で示される金属間化合物の焼結体からなり、該p型半導体は、室温においてp型であって、
Xについては、0.00<X≦0.25の範囲であり、このときにZは、
−1.00X+0.40≧Z≧−2.00X+0.10 :但しZ>0.00
で囲まれる範囲あり、また
Yについては、0.60≦Y≦0.95の範囲であり、このときにZは、
−1.00Y+1.00≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.60≦Y≦0.90、Z>0.00
−2.00Y+1.90≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.90≦Y≦0.95、Z>0.00
で囲まれる範囲であることの何れかであることを特徴とするマグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型半導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型の半導体およびその製造方法の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、MgSi系の材料にp型ドーパンド(例えばAg,Ga,Li)を添加し、キャリア濃度制御により比抵抗を低減させることで熱電性能の向上を図ることが試みられている。このようなものとして、例えば
・MgSi+Ag1at% ZT=0.1(560K):非特許文献1参照
・MgSi0.6Ge0.4+Ga0.8% ZT=0.36(625K):非特許文献2参照
・MgSi0.25Sn0.75+Ag20000Li5000ppm ZT=0.32(600K):特許文献1参照
がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M.Akasaka et al.,J.Appl.Phys.,104,013703,2008
【非特許文献2】H.Lhou−Mouko et al.,J.Alloys Compd.,509,p6503−6508,2011
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-37641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでp型半導体として有望なものとして
Mg(SiSn)、Mg(SiGe)
について研究がなされているが、これまでに実用化レベルにまで達したものは知られていない。ところでp型半導体Mg(SiSn)、Mg(SiGe)は、MgSiとの固溶体であり、GeおよびSnがp型伝導に寄与していることが推測される。そこで、ベース組成のSiサイトを変えることができる元素はMgと逆蛍石構造を形成しなければならず、このような金属元素としては14族の珪素(Si),ゲルマニウム(Ge),錫(Sn),鉛(Pb)に限られるが、Pbは有害金属であることから除外し、
MgSiSnGe :但し「X+Y+Z=1」、「X≧0、Y≧0、Z≧0」
の4元系にすることでp型熱電半導体の性能向上を図ることを試みた。
ところで3元系のMgSiSnであればMgSiとMgSnの二つの状態図を考慮すればよいが、前記4元系とした場合、さらにMgGe,Mg(SiSn),Mg(SiGe),Mg(SnGe)の四つの状態図を考慮しなければならず、また前記4元系の単相試料の作成自体、難しいという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、原料のマグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムを液−固相反応せしめて一般化学式
MgSiSnGe :但し「X+Y+Z=1」、「X>0、Y>0、Z>0」
で示される半導体を焼結して製造するにあたり、該半導体は、室温においてp型であって、
Xについては、0.00<X≦0.25の範囲であり、このときにZは、
−1.00X+0.40≧Z≧−2.00X+0.10 :但しZ>0.00
で囲まれる範囲あり、また
Yについては、0.60≦Y≦0.95の範囲であり、このときにZは、
−1.00Y+1.00≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.60≦Y≦0.90、Z>0.00
−2.00Y+1.90≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.90≦Y≦0.95、Z>0.00
で囲まれる範囲であることの何れかであることを特徴とするマグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型半導体の製造方法である。
請求項2の発明は、マグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型半導体であって、該p型半導体は、一般化学式
MgSiSnGe :但し「X+Y+Z=1」、「X>0、Y>0、Z>0」
で示される金属間化合物の焼結体からなり、該p型半導体は、室温においてp型であって、
Xについては、0.00<X≦0.25の範囲であり、このときにZは、
−1.00X+0.40≧Z≧−2.00X+0.10 :但しZ>0.00
で囲まれる範囲あり、また
Yについては、0.60≦Y≦0.95の範囲であり、このときにZは、
−1.00Y+1.00≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.60≦Y≦0.90、Z>0.00
−2.00Y+1.90≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.90≦Y≦0.95、Z>0.00
で囲まれる範囲であることの何れかであることを特徴とするマグネシウム、珪素、錫、ゲルマニウムからなるp型半導体である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1、2の発明とすることにより、p型半導体として有効性がある一般化学式
MgSiSnGe :但し「X+Y+Z=1」、「X0、Y0、Z0」
で示されるものを容易に製造できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】半導体を得るための工程図である。
図2】(A)(B)は半導体の秤量値を示した表図、組成を示した表図である。
図3】MgSi0.25SnGeのX線回折測定結果を示すグラフ図である。
図4】MgSiSnGeの組成(秤量値)と室温での熱電特性を示す表図である。
図5】(A)(B)(C)はGe組成とゼーベック係数α、熱伝導率κ、比抵抗ρとの関係を示すグラフ図である。
図6】XとZとの関係を記すグラフ図である。
図7】YとZとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、マグネシウム(Mg)、珪素(Si)、錫(Sn)、ゲルマニウム(Ge)の金属間化合物の焼結体からなるp型の半導体であって、一般化学式
MgSiSnGe :但し「X+Y+Z=1」、「X≧0、Y≧0、Z≧0」
で示される金属間化合物の焼結体であるが、まず、該金属間化合物の焼結体の製造については次のようにした。
Mg、Snについては約2〜10mm程度の大きさの粒状のものを用意し、またSi、Geについては粒径数十μm程度のパウダー状のものを用意し、これらを所定量秤量したものをカーボンボードに入れる。カーボンボードをカーボン蓋で蓋をし、0.1MPa(メガパスカル)のAr(アルゴン)−H(水素3重量%)の雰囲気下で絶対温度1173Kで4時間加熱し、液−固相反応をさせる。得られた固溶体を粉砕して粒径38〜75μmのパウダー状にし、これをホットプレスにて焼結する。焼結圧力は50MPa、焼結時間は1時間として統一し、焼結温度についてはそれぞれのSnの組成量Yによって決めた。焼結温度は、Y=0では1190K、Y=0.60、0.65では1040K、Y=0.75、0.90では930Kとした。
【0010】
このようにして得られた幾つかの焼結体の秤量値(モル比)と組成(モル比)を図2の表図に示す。これによると、焼結体の秤量値(図2(A))と組成(図2(B))とはほとんど変化がないことが認められる。
【0011】
さらに図3において、前記得られたMgSi0.25SnGeについてのX線回折測定結果を示す。X線回折によると、逆蛍石構造のMgSiとMgSnとのあいだに存在するすべての焼結体でピークを示しており、逆蛍石構造であることによるピークのみが観測され、酸化物、MgSi、MgGe、MgSnのピークは観測されず、これらによりすべての焼結体は単相であることが確認された。また他の焼結体についても同様の結果を得ている。
【0012】
つぎに、このようにして得られたMgSiSnGeの焼結体について、伝導型、ゼーベック係数α(μV/K)、熱伝導率κ(W/mK)、比抵抗ρ(Ωm)を図4の表図に示す。また図5にはGe組成とゼーベック係数α、熱伝導率κ、比抵抗ρとの関係をグラフ図で示す。
【0013】
そこで次に、図4の結果に基づいてXとZが変化したときの半導体の伝導型をプロットしたものが図6であり、YとZの関係が変化したときの半導体の伝導型をプロットしたものが図7である。このグラフ図から、p型とn型との伝導型の境界は直線的に変化していることが認められる。各グラフ図において○がp型、×がn型である。
【0014】
まず図6のXとZとの関係についてみるとp型半導体としてはXは、0.00≦X≦0.25の範囲であり、Xがこの範囲である場合に、p型半導体となるZの最大値Zmax、最小値ZminはXとの関係で直線的に変化しており、そこでZmaxの一次関数、Zminの各一次関数を求めたところ、
max=−1.00X+0.40
min=−2.00X+0.10 :但しZmin>0.00
となり、p型半導体としては図6の斜線で示される範囲、つまり、
−1.00X+0.40≧Z≧−2.00X+0.10 :但しZ>0.00
で囲まれる範囲となることが確認される。
【0015】
また図7のYとZの関係についてみるとp型半導体としてはYは、0.60≦Y≦0.95の範囲であり、Yがこの範囲である場合に、p型半導体となるZの最大値Zmax、最小値ZminはYとの関係で直線的に変化しており、そこでZmaxの一次関数、Zminの一次関数を求めたところ、
max=−1.00Y+1.00 :但し0.60≦Y≦0.90
max=−2.00Y+1.90 :但し0.90≦Y≦0.95
min=−1.00Y+0.75 :但しZmin>0.00
となり、p型半導体としては図7の斜線で示される範囲、つまり、
−1.00Y+1.00≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.60≦Y≦0.90、Z>0.00
−2.00Y+1.90≧Z≧−1.00Y+0.75 :但し0.90≦Y≦0.95、Z>0.00
で囲まれる範囲であることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、MgSiSnGeの組成のp型半導体を得ることに利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7