【実施例】
【0072】
1.患者および対照の選択
自閉症スペクトラム障害(ASD)を有するすべての小児は、自閉症の臨床専門家により検査を受けた。小児精神科医が、小児神経内科医または小児心理学者による検査も受けたすべての小児を調べた。すべての立ち会い医はDSM-IV基準(米国精神医学会精神障害の診断と統計の手引き)に基づく自閉症の診断に同意した。対照群は、同一の地域から募集された、神経疾患および/または神経精神疾患の徴候を持たない健常な小児から構成された。検査時点で過去2週間に何らかの種類の感染症を有した対照小児は本試験から除外した。
【0073】
年齢および性別に有意な差異はなかった。ASD群の小児は自閉症リハビリセンターから募集した。
【0074】
2.試料採取
静脈血を3mLヘパリン試験管(Vacutainer System; Becton-Dickinson Inc., Plymouth, UK)に採取して、直ちに4℃において1300gで10分間の遠心分離によって血漿を分離した。続いて、EDTA無添加の阻害剤カクテル(Thermo Scientific, USAからのHaltプロテアーゼ阻害剤)(10μL/mL血漿)および追加でPefablock SC(Pentapharm Ltd Switzerland)20μL/mLを、得られた血漿の試料に加えた。得られた血漿を少量ずつ小分けして、直ちにドライアイスで凍結処理して、その後、さらなる保管のために(−80℃)に移した。採血から凍結処理までの手順全体を20分以内に完了した。
【0075】
3.質量分析による分析(SELDI-TOF)
CM10プロテインチップアレイ表面を、BioRadからの標準プロトコルに従って調製した。8スポットのCM10プロテインチップアレイ(COOH官能基を有する)を緩衝液(低ストリンジェントな0.1M酢酸ナトリウム、pH 4)100μLで5分間、平衡化して、1回、反復した。血漿希釈液(1:50希釈)の調製にはリン酸ナトリウム緩衝液(25mM、pH- 7.0)を使用した。希釈した血漿をバイオプロセッサーのウェルに適用した。チップアレイを強振盪しながら45分間、インキュベートした。インキュベート後、試料を150μLの25mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH-7(希釈の緩衝液と同一)で3回洗浄処理して、その後、150μLの1mM HEPES(N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸)、pH 7で2回、素早くすすいだ。チップアレイをバイオプロセッサーから回収して、風乾した。その後、飽和CHCA(25mg/mL)の0.8μLを各スポットに加えて風乾させて、この工程をもう1回、反復した。その後、チップアレイをBioRadプロテインチップリーダーSELDIシステムパーソナルエディション(PCS 4000リーダー)により解析した。チップアレイの解析に先立って、約1000〜7000 Daの範囲の7つの異なるペプチドの混合物であるBioradの「オールインワンペプチド標準」を用いることによって外部較正を実施した。
【0076】
試験では、22名の対照および25名の患者からの試料を上記の通りSELDI-TOFにより分析した。測定したデータは自然対数により標準化した(表I、
図3)。
【0077】
健常な対照小児およびASDの群からのスペクトルにおいて、観察された分子量1865、1978および2021を有するいくつかの示差的に発現したペプチドが検出された。8名の対象(4名の異なる患者および4名の異なる対照)からの代表的なSELDI-TOFスペクトルを
図2に示す。
【0078】
(表I)約1865、1978および2021の分子量(MW)をそれぞれ有するマーカーの、標準化した(自然対数)ピーク強度
【0079】
4.示差的に発現したバイオマーカーの構造の決定
実施例3の示差的に発現したバイオマーカーの構造を、MALDI-TOFTOF MSを用いることによって決定し、LC-FTICR MS/MSの情報によって確認した。関心対象のペプチド(SELDI-TOFによって同定されて、対照群と自閉症群で有意に異なったもの)を同定して配列を決定した。
【0080】
血漿試料100μLを緩衝液(25mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH 7.0)300μLおよびアセトニトリル(AcN)100μLで希釈して十分に混合した後、カットオフ10kDaのMicroconメンブレン(Millipore Bedford, MA, USA)を使用して限外濾過を実施した。限外濾過液をSpeed vac遠心分離器で乾燥処理して、続いて、緩衝液(25mMリン酸ナトリウム、pH 7.0)の10μLで再構成して、ZipTip(登録商標)C
18カラム(Millipore, Bedford, MA, USA)で脱塩した。再構成した試料5μLを、調製したSELDI-TOF CM-10ターゲット(Biorad, USA)に適用して、インキュベートし、洗浄処理して乾燥した。
【0081】
飽和Matrix CHCA(25mg/mL)1.0μLを試料スポットに加えて、風乾させ、この工程をもう1回、反復した。
【0082】
ペプチドの検証のために使用したMALDI-TOF-MSの装置はUltraflex II TOF/TOF(Bruker Daltonik GmbH, Bremen, Germany)であった。この装置はSmartBeam(商標)レーザーを備えていた。スペクトルはすべて、リフレクトロンモードを用いて取得した。MS/MSスペクトルを取得するために、レーザーで惹起した解離によるポストソース分解(PSD)TOF/TOFを実施した。
【0083】
MALDIアプローチのための選択の標的はSELDI-TOFターゲット(BioRad, USA)であった。SELDI-TOFターゲット上の調製したマトリックス/試料スポットをUltraflex IIに導入して、調製した試料スポットからのMSスペクトルを記録した。用いた較正は、外部近接較正(external near neighbor calibration)であった。較正に用いた試料は、質量が1000から5000 Daの範囲にわたるペプチドの混合物であった。取得したペプチドの質量(TOF MSデータ)から、後続の実験/配列決定に備えてペプチド候補を手作業で選択した。スペクトルはデータ処理ソフトウェア(FlexAnalysis(商標))で注釈を付けて、最後にデノボで配列解析を支援するソフトウェア(BioTools(商標))により解釈した。示差的に発現したペプチドの結果を以下の表IIに示す。
【0084】
(表II)示差的に発現したペプチドの構造決定
【0085】
5.示差的に発現したバイオマーカーの、診断における価値
実施例3で得られた結果(表I)の統計学的分析は、MedCalc(登録商標)ソフトウェア(MedCalc Software, Mariakerke, Belgium)などのコンピュータプログラムを用いて実施した。
【0086】
すべてのマーカーが対照群と自閉症群との間で統計学的な有意差(p<0.05)を示した(両側t検定)。表IIIを参照されたい。
【0087】
(表III)表IIに示すデータの統計学的分析
【0088】
新規のマーカー1978は、公知のマーカーである2021および1865では同等の判別力を有する、自閉症の対象と自閉症でない対象の区別において、大きな可能性を明確に示した。
【0089】
マーカー1978について、受信者動作特性(ROC)曲線を作成した(
図5)。比較のため、公知のマーカー2021についてもROC曲線を作成した(
図6)。
【0090】
上記のバイオマーカーの組み合わせの有用性を分析するために、臨床において病気の診断に用いることができると予想される判別に対する寄与に応じて、ピーク(対数値)に異なる重みを与えて、判別分析を用いた。
【0091】
(表IV)ROC曲線作成のためのマーカーの組み合わせに関する判別分析
【0092】
図7および8のROC曲線は、新規マーカー1978と公知のマーカーとの組み合わせが判別力の向上をもたらすことを明確に示している。
【0093】
6.自閉症患者では補体因子Iが過活性である。
この試験はMomeniら(Autism Research and Treatment Volume 2012 (2012), Article ID 868576, doi:10.1155/2012/868576)によって以前に刊行されている。該刊行物は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。一部の重要な部分を以下に再現する。
【0094】
6.1 材料および方法
6.1.1 参加者
ASDを有する30名の小児および典型的な対照小児30名が本試験に参加した。ASD群は男児23名および女児7名を含み、平均年齢は4.5歳(年齢範囲 3〜9歳)であった。対照群は男児13名および女児17名を含み、平均年齢は6.0歳(年齢範囲 3〜12歳)であった(表V)。
【0095】
(表V)参加者の年齢/歳、性別および投薬
*ASDと対照との差。年齢についてはMann-WhitneyのU検定、年齢カテゴリーおよび性別についてはFisherの直接検定。
【0096】
ASD群の小児は、イラン、テヘランのUniversity of Social Welfare and Rehabilitation SciencesのAutism Rehabilitation Centreから募集した。親からインフォームドコンセントを取得した後、血液を採取した。ASDを有するすべての小児を自閉症の臨床専門家が検査した。小児精神科医および小児神経科医または小児心理学者がすべての小児を検査した。すべての立ち会い医がDSM-IV基準に基づく自閉症の診断に同意した。但し、欧州および米国/カナダで適用される自閉症診断観察尺度(ADOS)および自閉症診断面接-改訂版を用いる診断手順は、イランで適用される診断過程では用いられなかった。この欠陥は、2007年以降発表禁止の、米国小児科学会により述べられた自閉症におけるコア行動に精通した小児神経学者/小児精神科医による広範な臨床経験によって補われた。対照群は、ASDを有する小児と同一の地域から募集された神経発生的な疾患の徴候を示さない典型的に発育した健常な小児からなった。検査時点の過去2週間以内に何らかの種類の感染/感染症を有した小児は本試験から除外した。
【0097】
試験は、Iran University of Medical Sciences, Tehranの倫理委員会より承認された(MT/1247)。
【0098】
6.1.2 手順
6.1.2.1 血液試料の採取
血液試料は小児科の看護師が採取して、自閉症と診断された小児からの血液試料は小児精神病の分野において特別な訓練を受けた小児精神科医の監督下にて採取された。静脈血を3mLのEDTA試験管(Vacutainer System; Becton-Dickinson Inc., Plymouth, UK)に採取して、その後、直ちに4℃において1,300gで10分間の遠心分離によって血漿を分離した。続いて、阻害剤カクテル(血漿1mL当たり30μL)を得られた血漿試料に加えた(カクテル阻害剤溶液:2.0M Tris、0.9M Na-EDTA、0.2Mベンズアミジン、92μM E-64、および48μM ペプスタチン;Sigma, St. Louis, Mich, USA)。血漿は−80℃で保存した。
【0099】
6.1.2.2 アッセイ
蛍光発生基質の加水分解に基づく方法は、TsiftoglouおよびSim(Journal of Immunology, vol. 173, no.1, pp. 367-375, 2004)およびGuptaら(Journal of Autism and Developmental Disorders, vol. 26, no. 4, pp. 439-452, 1996)によって以前に説明されている。以下のアッセイ手順は、血漿中の補体因子I(fI)のアッセイに最適であることが見出された。血漿20μLを緩衝液(100mM リン酸緩衝液、pH 7.5、1mM EDTA、1mM DTTおよび1mM アジ化ナトリウムを含む)80μLと共に、温度平衡に達するように37℃で10分間、インキュベートした。続いて、25mMリン酸緩衝液、pH 7.4中、基質液(200μM Boc-Asp(OBz)-Pro-Arg-7-アミノ-4-メチルクマリン;Bachem, Bubendorf, Switzerland)100μLを加えて、混合液を37℃で60分間、インキュベートした(
図9 参照)。反応を1.5M 酢酸 1mLの添加によって阻害して、7-アミノ-4-メチルクマリンの遊離を分光蛍光光度計(Hitachi-f 2000;λ
ex;360nm;λ
em:440nm;スリット幅:2.5)で測定した。測定はすべて無作為化して二反復で実施した。基質の不在下での血漿の使用により、アッセイにおけるバックグラウンドの蛍光をモニターして、基質の存在下で得られる数値から引き算した。
【0100】
6.1.3 データの分析および統計
血漿中fI活性は対数正規分布を示し、従って、ASD群と対照群の差の分析時には対数値を用いた。年齢(中央値の5歳を用いて二分した)および性別について調整するために、要因ANOVAを用いた。<0.05の値を統計学的に有意と判断した。Statistica 8.0(StatSoft(著作権)、Tulsa, Okla, USA)を用いた。血漿fI活性のアッセイ内およびアッセイ間の変動は、次式を用いて1回の測定の標準誤差(S
方法)として表した:
式中、diはi回目の対の測定の差であり、nは差の数である。S
方法は変動係数(%)として表された。
【0101】
6.2 結果
ASD群の小児の血漿fIが有意に高い活性を示した(幾何学平均(95%信頼限界):対照群:361(135〜967)に比べて、523(154〜1776);ANOVA P=0.015、年齢および性別について調整した;
図10a)。
【0102】
性別および年齢に関して統計学的に有意な相互作用は見出されず、fI活性と年齢または性別の間に有意な関連性は見出されなかった(ANOVA;性別に関してp=0.25および2つの年齢群に関して0.42、
図10b)。ASD群では重度の自閉症を有する数人の小児が運動亢進および暴力的な行動を抑制するためにRisperdalの投薬下にあり、数名は注意力を向上させるためにRitalinの投薬下にあった(表V)。実験計画を調節する目的で投薬を中止することは倫理的に問題であった。実験者らは
図10aに示すデータとASD群の小児が受けていた投薬のタイプを関連付けた。実験者らは投薬と散布図のデータの分布の間にいかなる明らかな関連性も認めなかったが、パターンにおけるいくつかの差が投薬の影響を受け得たことを排除することはできない。
【0103】
数値はASDを有する小児において統計学的に有意に高く、性別との弱い相関性があった。しかし、年齢群の間には統計学的な有意差は見出されなかった。
【0104】
方法上のアッセイ内誤差は小さく、0.5%であった。アッセイ間の方法上の誤差は13%であった。実験者らは、ほぼ同一年齢の対照群に比べて、ASDを有する小児において有意に高い補体因子I酵素活性を見出した。このことは、実験者らが知る限り、ASDを有する小児におけるfI活性の機能障害に関する最初の報告である。統計学的に有意ではなかったが、男児は女児よりも高いfI活性を示す傾向があり、対照群とASD群の差は、
図10に示す通り、小児の年齢が低ければ低いほどより明白であった。補体系の経路における調節因子としてのfIの役割に起因して、fIの異常はASDの発症において役割を担っている可能性がある。この経路の異常により、個人は様々な炎症に対してより脆弱となる。
【0105】
7. 補体因子I阻害剤を用いた自閉症の治療
スラミン
自閉症と診断された患者に、週1回の静脈内注射当たり0.1gから開始して、スラミンを投与する。必要ならば、用量を0.1gずつ段階的に増量して注射1回当たり1gまで増量する。投与は、監督臨床医によって個別にさらに調整される。重度の副作用がある場合は、用量を下げるか治療を中断する。機能の改善は、上記の6.1.1で記載したパラダイムに基づいて週1回の評価によりベースラインと比較して追跡調査する。治療のコース期間中、ベースラインと比較して、機能における有意な改善を観察する。
【0106】
FUT-175(6-アミジノ-2-ナフチルp-グアニジノベンゾエートジメタンスルホネート)
自閉症と診断された患者にFUT-175を経口投与する。投与は0.1mg/kg/日(1日2回用量に分割)で開始して、必要ならば0.25mg/kg/日(1日2回または4回用量の分割)に、その後、0.5mg/kg/日(1日4回用量に分割)に増量する。投与は監督臨床医によって個別にさらに調整される。機能の改善は、上記の6.1.1で記載したパラダイムに基づいて週1回の評価によりベースラインと比較して追跡調査する。治療のコース期間中、ベースラインと比較して、機能における有意な改善を観察する。
【0107】
エラフィン
自閉症と診断された患者に、10mgを1日2回から開始して、エラフィンを静脈内注射により投与する。必要ならば、用量は注射1回当たり20mg、100mg、200mgおよび続いて400mgまで増量する。投与は監督臨床医によって個別にさらに調整される。重度の副作用がある場合は、用量を下げる、または治療を中断する。機能の改善は、上記の6.1.1で記載したパラダイムに基づいて週1回の評価によりベースラインと比較して追跡調査する。治療のコース期間中、ベースラインと比較して、機能における有意な改善を観察する。