特許第5960718号(P5960718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960718
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】再剥離性の光起電力コーティング
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/048 20140101AFI20160719BHJP
   C09D 133/00 20060101ALN20160719BHJP
   C09D 7/12 20060101ALN20160719BHJP
   C09D 5/00 20060101ALN20160719BHJP
   C09D 9/00 20060101ALN20160719BHJP
【FI】
   H01L31/04 560
   !C09D133/00
   !C09D7/12
   !C09D5/00 Z
   !C09D9/00
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-544651(P2013-544651)
(86)(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公表番号】特表2014-509065(P2014-509065A)
(43)【公表日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】US2011064422
(87)【国際公開番号】WO2012082622
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年12月11日
(31)【優先権主張番号】61/424,510
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】セオドア ティサク
(72)【発明者】
【氏名】エドウィン ナンゲッサー
(72)【発明者】
【氏名】エドワード グリア
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−45951(JP,A)
【文献】 特開2001−302988(JP,A)
【文献】 特開2002−302640(JP,A)
【文献】 特表2001−521944(JP,A)
【文献】 特開平5−59309(JP,A)
【文献】 特開2007−262405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光起電力モジュールを保護するための方法において、光起電力モジュールの外部日光対面層に対し再剥離性のコーティングを適用するステップと、光起電力モジュールを作動させるステップと、光起電力モジュールからコーティングを除去するステップと、コーティングを光起電力モジュールに再度適用するステップと、を含む方法であって、
該再剥離性のコーティングが、高親水性付加コポリマー、水混和性有機合体剤または可塑剤、ならびに任意の構成成分として、多価金属化合物、レオロジー調整剤、アルカリ可溶性樹脂、およびワックス可溶性樹脂を伴うまたは伴わないワックス、ならびに任意にシランカップリング剤、を含む透明な水性アクリル組成物である、方法
【請求項2】
適用され再適用されるコーティングが、7.0〜9.6のpHを有する水性コーティング組成物から生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水性コーティング組成物が、約5〜50重量%の不揮発性固形分総含有量を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
コーティングは、乾燥状態にある場合、1.25〜1.7の屈折率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
コーティングがさらに、0.5μm〜20μmの粒子サイズを有する球状反射防止粒子を含む、請求項1に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光起電力モジュールで特に有用であるコーティング、そしてより詳細には光起電力モジュール用の再剥離性コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
光起電力モジュールの外部日光対面層とその環境の間の屈折率の差を削減するための永久コーティングは、一般に公知である。しかしながら、作動中、永久コーティングにはいくつかの欠点である。第1に、コーティングは、通常は複数年規模であるデバイスの寿命中、混濁も黄変もなく無傷の状態に維持しなければならない。第2に、全ての光起電力モジュールは最終的に塵埃、土壌皮膜および屋外にあることに付随する他の環境砕屑物をひきつける。したがって、光起電力モジュールは清浄する必要がある。当業者であれば認識する通り、光起電力モジュールの効率が比較的低いということは、光起電力モジュールがその当初の状態から混濁した、あるいは光起電力モジュールをその当初の状態まで清浄できなかったという事実が重大な効率損失を結果としてもたらすことを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって必要とされるのは、より容易な清浄、そして任意には反射防止特性を提供するコーティングである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
出願人は、光起電力モジュールの外部日光対面層に好適であり、除去および再適用できる、すなわち再剥離性であるコーティングを発現することによって、上述のニーズを有利に解決した。任意には、コーティングは、光起電力モジュールとその環境の間の屈折率を削減することができる。任意には、コーティングは自己剥離性である。
【0005】
一実施形態において、本発明は、光起電力モジュールを保護するための方法において、光起電力モジュールの外部日光対面層に対しコーティングを適用するステップと、光起電力モジュールを作動させるステップと、光起電力モジュールからコーティングを除去するステップと、コーティングを光起電力モジュールに再度適用するステップと、を含む方法を提供する。換言すると、本発明は、光起電力モジュールのための再剥離性コーティングを提供する。
【0006】
「光起電力モジュール」とは、光をエネルギーに転換するあらゆる電子デバイスである。一実施形態において、光起電力モジュールは、少なくとも1.0ft2、好ましくは少なくとも5.0ft2、より好ましくは少なくとも10ft2の外部表面積を有し、ここで上限は光起電力モジュールの製造規格によって制約されている。一実施形態において、光起電力モジュールは、標準的太陽照射の下で少なくとも100ピークワットを生成するのに充分なサイズのソーラーパネルである。
【0007】
一実施形態において、再剥離性コーティングは、高親水性付加コポリマー、水混和性有機合体剤または可塑剤、そして任意の構成成分として多価金属化合物、レオロジー調整剤、アルカリ可溶性樹脂および、ワックス可溶性樹脂を伴うまたは伴わないワックス、そして任意にはシランカップリング剤;同様に任意には、反射を削減する材料、を含む透明な水性アクリル組成物である。
【0008】
このような組成物は、湿潤剤および平滑化剤などの所望の添加剤を用いて調合され、7.0〜約10以上の最終アルカリ性pHに調整された場合、基材への適用後、乾燥して透明乃至拡散性のコーティングを形成する。その上、これらのコーティングのアルカリまたは洗剤溶液を用いた除去は、容易に実施される。
【0009】
任意には、本発明の組成物は、反射防止組成物、例えば、全体が参照により本明細書中に援用されている米国特許第7829626号(US7829626)、米国特許第7768602号(US7768206)、米国特許第4403003号(US4403003)中で開示されているものなどの、光沢を削減できる架橋されたまたは未架橋、単段または多段、勾配屈折率または単一屈折率の0.5〜20μmの粒子などの反射防止組成物を含む。
【0010】
一実施形態において、アクリル組成物は、平均分子量(5,000<Mw<10,000,000)を有するポリマーに基づき、風化作用の損傷に耐えるのに充分な耐久性を伴って透明な皮膜、土壌耐性そして非常に容易な除去可能性を提供するように最適化されている中程度に酸性官能化された(メタ)アクリレートまたはスチレン/メタクリレートコポリマーエマルジョンである。本明細書中で使用されている「(メタ)アクリル(の)」という用語は、アクリルまたはメタクリル(の)を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。「(メタ)アクリルアミド」という用語は、アクリルアミド(AM)またはメタクリルアミド(MAM)を意味する。「アクリルモノマー」には、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、AAおよびMAAのエステル、イタコン酸(IA)、クロトン酸(CA)、アクリルアミド(AM)、メタクリルアミド(MAM)、およびAMとMAMの誘導体、例えばアルキル(メタ)アクリルアミドが含まれる。AAとMAAのエステルとしては、アルキル、ヒドロキシアルキル、ホスホアルキルおよびスルホアルキルエステル、例えばメチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、ブチルメタクリレート(BMA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ヒドロキシブチルアクリレート(HBA)、メチルアクリレート(MA)、エチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、ベンジルアクリレート(BzA)およびホスホアルキルメタクリレート類(例えば、PEM)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。本発明のポリマー組成物は、架橋剤、例えば架橋モノマーを含んでいてよい。これらは、ポリマーを形成する反応プロセスにおいてポリマー分子の共有結合性の架橋、あるいはその他の形での永久架橋を形成することのできる多官能モノマーであるか、あるいはこれらは、予め形成されたポリマーエマルジョンの中または上で反応してポリマー皮膜の形成前に架橋を形成することができる。有用な共有結合性架橋モノマーの例としては、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、ヘキサン−l,6−ジオールジアクリレート、アセチルアセトキシエチルメタクリレート、メチロールメタクリルアミド、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートが含まれる。この列挙は例示的なものであり、皮膜形成前にエマルジョンポリマー中で分子間架橋を生成するための他の作用物質、架橋モノマーおよび架橋反応スキームも、当然本発明の範囲内に入るものである。
【0011】
「スチレン系モノマー」には、スチレン、α−メチルスチレン;2−、3−または4−アルキルスチレン類、メチル−およびエチル−スチレン類が含まれる。
【0012】
一実施形態においては、酸性官能基を亜鉛(ZnOまたは重炭酸亜鉛アンモニウム)と反応させて皮膜を架橋し、追加の耐久性および除去可能性を提供してもよい。認識できるように、ポリマー主鎖内の酸性官能基は、改善された粒子サイズ制御、エマルジョン安定性、(耐性の改善のための)皮膜に対するより高い親水性、そしてコーティング皮膜を除去するのに用いられるアルカリ溶液に対する皮膜感応性の増強を提供する。ポリマー主鎖内の酸性官能基は同様に、架橋性錯体の形で酸が結合(tied up)されるのでないかぎり、パネルを清浄する際に用いられるアルカリ溶液に対する低い耐性を結果としてもたらす。
【0013】
代替的には、他の架橋方法が企図されており、例えば、カルシウムおよびマグネシウムを含めた他の多価原子価の金属カチオンを使用してもよい。これらの架橋は、ポリマー分子量を増大させることによってコーティングの耐久性を改善し、実際、残留する任意の未架橋酸がアミン塩として膨潤することへの感応性を増強する(こうして、アミン含有剥離剤調合物を用いた皮膜の除去可能性が改善される)。
【0014】
水不溶性付加コポリマーを調製する上で最高50%の合計モノマー量で利用されてよい任意のモノエチレン性不飽和モノマーには、H2C=C−基を有するもの、例えばモノビニル芳香族化合物スチレンおよびビニルトルエン(o、mまたはp)、ならびにアクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンが含まれる。このようなモノマーは、粘性に影響を及ぼす場合があるが、通常光沢または分子量に影響を及ぼすことはなく、したがって、不可欠なものではない。最終的調合物のpHはアルカリ性であり、普通は7.5超であるため、ビニルエステル単位の潜在的加水分解は最小限におさえられる。「ビニルモノマー」という用語は、窒素または酸素などのヘテロ原子に連結されている炭素−炭素二重結合を含むモノマーを意味する。ビニルモノマーの例としては、酢酸ビニル、ビニルホルムアミド、ビニルアセタミド、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタムおよび長鎖ビニルアルカノエート類、例えばビニルネオデカノエートおよびビニルステアレートが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0015】
多価金属化合物は、コーティング調合物中で使用される場合、金属錯体か金属キレートのいずれかであり得る。多価金属イオンは、ベリリウム、カドミウム、銅、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウム、アルミニウム、ビスマス、アンチモン、鉛、コバルト、鉄、ニッケルまたは、例えば水中で少なくとも約1重量%というかなりの水中溶解度を有する酸化物、水酸化物、または塩基性、酸性または中性の塩を介して組成物を添加できる他のあらゆる多価金属のイオンであってよい。多価金属およびアニオンの選択は、最終的な調合済みコーティングの適切な透明度を保証するために、結果として得られる金属錯体の溶解度により支配される。亜鉛、カドミウム、ジルコニウム、カルシウムおよびマグネシウムが、特に好ましい多価金属イオンである。亜鉛、カドミウムおよびジルコニウム金属のアンモニアおよびアミン錯体(そして特にNH3で配位されたもの)が特に有用である。このように錯化できるアミンとしては、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルアミノエタノールおよびエチレンジアミンが含まれる。アルカリ性pH範囲内で可溶化できる有機酸の多価金属錯体(塩)も同様に利用してよい。アセテート、グルタメート、ホルメート、カルボネート、サリチレート、グリコレート、オクテート、ベンゾエート、グルコネート、オキサレートおよびラクテートなどのアニオンが、満足のいくものである。配位子内にグリシンまたはアラニンのような二座アミノ酸がある多価金属キレートも同じく利用可能である。多価金属化合物は、金属がその架橋機能に役立つように利用可能である、すなわちそれが解離して多価金属含有イオンを形成することができるようなものでなければならない。
【0016】
好ましい多価金属化合物、錯体およびキレートとしては、酢酸亜鉛、炭酸ジルコニウムアンモニウム、テトラ酪酸ジルコニウム、乳酸ナトリウムジルコニウム、酢酸カドミウム、グリシン酸亜鉛、グリシン酸カドミウム、炭酸亜鉛、炭酸カドミウム、安息香酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、グリコール酸亜鉛およびグリコール酸カドミウムが含まれる。多価金属化合物は、粉末などの乾燥形態でコーティング組成物に添加されてよいが、アンモニアなどの一時的配位子を用いて、多価金属化合物を最初に可溶化することが好ましい。本発明の目的では、配位子は、その少なくとも一部分が、通常の皮膜形成条件下で揮発する傾向をもつ場合に、一時的なものとみなされる。アンモニアは多価金属化合物と錯化し得ることから、グリシン酸亜鉛などの化合物は、希釈アンモニア水溶液中で可溶化された場合、グリシン酸亜鉛アンミンと命名され得る。
【0017】
多価金属化合物が使用される場合、それは、付加ポリマーのポリマー酸性官能基に対する多価金属の比が約0.05から0.5まで、好ましくは約0.2から0.3まで変動するような量で利用される。これは、Zn++対−−COOHまたは−−COONH4基などの金属比として表現され、0.5という比率が化学量論的比である。
【0018】
一実施形態において、再剥離性コーティングは、重量パーセントベースで以下のものを含む、7.0〜9.6のpHを有する水性コーティング組成物である:
a)以下のものを含む約1〜20%のアルカリ可溶性付加ポリマー:
i)(メタ)アクリル酸、イタコン酸およびマレイン酸からなる群から選択される少なくとも1つの親水性モノマーの繰り返し単位、約10〜25%:
ii)アルキルが1〜8個の炭素原子を有する、アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも1つの疎水性モノマー、約60〜75%;および
iii)アルキルが1〜6個の炭素原子を有する、スチレンおよびモノアルキルスチレンからなる群から選択される少なくとも1つの疎水性モノマーの繰り返し単位、15〜25%;
b)スチレン−アクリル酸比が約2:1〜約3:1であり、重量平均分子量が約8000であり、酸価が約210である、スチレンおよびアクリル酸のアルカリ可溶性コポリマー、約1〜13%;
c)一時的溶剤、約1〜15%;
d)永久的可塑剤、約1〜3%;
e)非イオン性またはアニオン性のフルオロカーボン表面活性剤、約0.01〜0.05%;
h)消泡剤、約0.0003〜0.003重量%;および
i)組成物の不揮発性固形分総含有量を約5〜50重量%にするのに充分な量の水。
【0019】
任意には、さらに0.5〜20μmの球状反射防止粒子または他の反射防止組成物を含む。
【0020】
任意には、シランカップリング剤または他の接着促進剤。
【0021】
別の実施形態では、再剥離性コーティングは、重量パーセントベースで以下のものを含む、7.0〜9.6のpHを有する水性コーティング組成物である:
a)皮膜形成ポリマーに対して乾燥重量で約0〜70%の球状ポリマー粒子;
b)疎水性レオロジー調整剤約0〜5%;
c)アルカリ可溶性増粘剤約0〜5%;
d)a)が存在する場合には、(ベントナイトまたはラポナイトなどの)粘土増粘剤、約0.1〜0.8%;
e)合体溶剤、約0〜40%;
f)シランカップリング剤、約0〜2.5%;
g)組成物の不揮発性固形分総含有量を約5〜50重量%にするのに充分な量の水。
【0022】
パネル上にコーティングされた場合、本発明の組成物は、わずかに不透明で拡散性のコーティングを提供する。基材に適用すると、それは、通常の湿度および温度条件下で20〜30分以内で薄い保護皮膜になるまで乾燥し、この皮膜は基材の外観を保つ。組成物でコーティングされた基材は、汚染に対する優れた保護および(反射防止材料を含む場合)大幅に改善された反射防止特性を提供する。組成物は、ソーラーパネルを清浄しその反射防止特性を同時に回復させ、コーティングは、一般的なアンモニア/アミン清浄溶液を用いて容易に除去可能である。組成物は、貯蔵中に通常遭遇する温度および湿度条件下で優れた貯蔵安定性を有する。好ましくは、本発明を構成する皮膜は、光起電力モジュールの外部日光対面層上に本発明の水性エマルジョンをコーティングし、コーティングを乾燥させることによって生成される。好ましくは、湿ったコーティングは、10〜250μm、好ましくは20〜150μm、好ましくは40〜100μmの厚みを有する。
【0023】
本発明の別の実施形態は、先に被着され乾燥したコーティング組成物を分散させると同時に乾燥した組成物を新しい被覆で置き換えるように設計され、低い分子量(5000〜100,000)および高い酸価(100〜230)をもつアルカリ可溶性ポリマーとアンモニア(またはアミン)水の7.0超で約9.5未満のpHを提供するのに充分な濃度の溶液を含む、光起電力モジュールの表面に適用するための自己剥離性水性コーティング組成物である。酸価は、ポリマー1グラムあたりの水酸化カリウムのミリグラム数で表現される:すなわち、酸価(mgKOH/ポリマー1グラム)=(VxN×56.1)/P(なお式中、V=ポリマー滴定に必要とされる水酸化カリウム溶液のミリリットル数であり、N=水酸化カリウム溶液の規定度であり、P=使用されるポリマーのグラム数である)。従来の添加剤、ならびに任意には反射防止組成物と共に、溶剤、平滑化剤、可塑剤、表面活性剤、消泡剤およびワックスの水性分散体を、コーティング組成物中で使用してもよい。さらに、自己剥離性特性を提供する組成物中に、必要に応じて金属配位子錯体を使用することができる。このような組成物を、光起電力モジュールの外部日光対面層上に適用し、乾燥させる。
【0024】
さらに別の実施形態において、再剥離性コーティングは、約−0.50×106〜約−3.00×106dynes per(cm2)(℃)という応力係数対温度曲線の勾配を有するポリウレタン分散体を含む。特に好ましい分散体は、その全体が参照により本明細書に援用されている米国特許出願公開第2008/0096995号(US2008/0096995)(米国出願番号第11/665,119号)中に記載されたポリウレタンの分散体である。これらの天然油ポリオール系ポリウレタンは、脂肪酸から誘導される少なくとも1つのヒドロキシメチル含有ポリエステルポリオールがイソシアネート反応性材料に含まれることを理由として、持続可能性を含めた多くのメリットを有する。利用される脂肪酸は、多くの脂肪、例えばカノーラ油、シトラスシード油(citrus seed oil)、ココアバター、コーン油、綿実油、大麻油、オリーブ油、パーム油、落花生油、菜種油、米ぬか油、サフラワー油、胡麻油、大豆油、ヒマワリ油、ラード、鶏油または牛脂に由来してよい。理論により束縛はされないものの、ポリウレタン分散体が提供する固有の官能基は、ポリウレタン分散体の内部に最適な範囲の架橋が存在することに由来すると考えられており、ここで、これらの分散体から皮膜が形成された場合に耐久性が提供されるが、剥離剤溶液とポリマー官能基の相互作用によって生成される膨潤力が皮膜の無欠性を分断して容易に除去されるのを防ぐほどの耐久性はない。本発明の精神は、架橋の量の調整を包含しているということが理解される。例えば、架橋の増加は、乾燥したコーティング組成物の引張強度を増大させることができ、耐久性および耐洗剤性を促進する。一方で、架橋を削減すると、除去可能性を増大させることができる。したがって、特定の利用分野のために、バランスをとってよい。以上で仮定したように、生産的な架橋範囲は、コーティングの除去可能性と相関関係を有する。一実施形態において、本発明において有用であるポリウレタン分散体のための応力係数対温度曲線の勾配の好ましい範囲は、約−0.50×106〜約−3.00×106dynes per(cm2)(℃)、より好ましくは約−1.00×106〜約−2.75×106、より好ましくは約−1.50×106〜約−2.50×106、より好ましくは約−1.65×106〜約−2.40×106、そして最も好ましくは約−1.80×106〜約−2.30×106である。一実施形態において、好ましい除去可能なポリウレタン分散体は、亜鉛を含まず、アルキルフェノールエトキシレート(「APEO」)表面活性剤を含まない、pH9.2でポリマー固形分が34.6%のポリウレタン分散体である。別の好ましい除去可能なポリウレタン分散体は、亜鉛を含まず、APEO表面活性剤を含まない、pH9.4でポリマー固形分が35.9%のポリウレタン分散体である。再剥離性コーティングは、光起電力モジュールの外部日光対面層上に適用され、乾燥させられる。
【実施例】
【0025】
以下の実施例は単に例示を目的としたものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0026】
実施例1:皮膜形成ポリマー
【表1】
【0027】
撹拌器と凝縮器が備わった反応装置に、1035gの脱イオン水を投入した。窒素を水に通して30分間バブリングした。次に、反応装置を窒素ブランケットし、混合物Aを投入した。反応装置の混合物温度を20℃未満にした状態で、混合物B、CおよびDを急速にかつ連続して反応装置に添加した。10分以内で、重合開始に伴って温度は上昇し、70℃前後でピークに達した。ピーク温度から10分後に、混合物Eとそれに続いて混合物Fを添加した。反応装置内の材料を、60℃まで冷却させ、混合物Gそしてそれに続いて混合物HとIを添加した。5分後に、混合物JとKを別個に計量しながら30分かけて反応装置内に供給し、その間バッチを冷却した。次に中和剤を添加して、重合酸を部分的に中和し、その後ポリマー試料を100メッシュのふるいを通して濾過して、凝塊を除去した。
【0028】
このポリマーの一次ガラス転移温度は、10℃/minの加熱速度で示差走査熱量測定法を用いて、−41.3℃と測定された。
【0029】
実施例2: 皮膜形成ポリマー
以下の混合物を、実施例1由来の手順にしたがって調製した:
【表2】
【0030】
実施例3: エマルジョンポリマー種の合成
調製剤3A
この実施例は、本発明の好ましい反射防止組成物であるコア/シェル粒子を調製する上で使用するためのエマルジョンポリマーの調製を例示するものである。別段の指摘がないかぎり、「投入した」または「添加した」という用語は、全ての混合物を一度に添加することを表わす。以下の混合物を調製した:
【表3】
【0031】
撹拌器と凝縮器を備え、窒素ブランケットされた反応装置に混合物Aを投入し、82℃まで加熱した。反応装置の中味に対し、15%の混合物Bと25%の混合物Cを添加した。温度を82℃に維持し、反応混合物を1時間撹拌し、その後、残りの混合物Bおよび混合物Cを、撹拌しながら90分間かけて反応装置に計量しつつ供給した。撹拌を2時間82℃で続行し、その後反応装置の中味を室温まで冷却した。結果として得られたエマルジョン粒子の平均直径は、Brookhaven Instruments Company、750 Blue Point Road、Holtsville、NY 11742製のBI−90Plus計器を用いた光散乱によって測定したところ、0.2μmであった。
【0032】
調製例3B:
【表4】
【0033】
混合物A2を、反応装置に添加し、撹拌しながら88℃まで加熱した。反応装置内の空気を窒素で置換した。反応装置の温度が88℃で安定化した時点で、混合物B2を反応装置内に投入した。その後、乳化した混合物C2およびD2ならびに混合物E2を、撹拌しながら240分間かけて反応装置に添加した。90分間88℃で撹拌を続行した。反応装置の中味を65℃まで冷却した。混合物F2およびG2を添加し、反応装置の中味を1時間、撹拌しながら65℃に維持し、その後、反応装置の中味を室温まで冷却した。結果として得たエマルジョン粒子は、Brookhaven Instrumentsの粒子サイズ分析装置BI−90により測定したところ、0.75μmの直径を有していた。
【0034】
実施例4:5μmの勾配屈折率粒子
この実施例では、ステージIにおいてn−ブチルアクリレートとアリルメタクリレートを用い、後続するステージIIでメチルメタクリレートとエチルアクリレートを共重合させることで、実施例3Bのエマルジョン中の粒子を膨張させて直径5μmの発散レンズを作り上げる。脱イオン水を用いて、以下の混合物A3−G3を調製した:
【表5】
【0035】
反応装置に対してA4を添加し、撹拌しながら76℃まで加熱した。反応装置内の空気を窒素で置換した。反応装置の温度が76℃で安定化した時点で、混合物B4を反応装置内に投入した。混合物C4をホモジナイザーで乳化し、20%を反応装置内に投入した。反応装置を0.5時間、60〜65℃で撹拌した。混合物D4をホモジナイザーで乳化し、反応装置内に投入した。60〜65℃で23分間撹拌した後、発熱重合が発生した。ピーク温度に達した後、混合物C4の残りの80%を48分かけて添加しながら、撹拌を続行した。27.5%の混合物F4を投入した。混合物E4、F4の残りおよびG4を次に別個に反応装置内に、45分間かけて添加した。温度は75〜80℃に維持し、撹拌を一時間続行してから、反応装置を室温まで冷却した。結果として得たポリマーに対し、エマルジョンの総重量に基づいて1.5%の増粘剤Bを添加し、7〜9pHに達するまで、トリエチルアミンを逐次添加することによってpHを増大させる。
【0036】
実施例5:PV ARCコーティングの調合
増粘剤A:AcrysolTM RM−825
ソーラーセル効率の改善を判定するために、以下の調合物を調製した。
【表6】
反射防止粒子は実施例4由来のものであった。
【0037】
実施例6:カップリング剤を含むPV ARCコーティングの調合
結合剤A:N(ベータ−アミノエチル)ガンマ−アミノプロピルトリメトキシ−シラン
増粘剤B:AcrysolTM ASE−60
【表7】
全ての調合物において、結合剤は実施例2由来のものである。反射防止粒子は実施例4由来のものであった。
【0038】
実施例7:皮膜形成ポリマー
エマルジョン重合ポリマーを、(重量部で)29%のBA/52%のMMA/19%のMAAで作製し、ゲル浸透クロマトグラフィによる測定で約30,000のMwを提供するのに充分な連鎖移動剤(3−メルカプトプロピオン酸)を利用して米国特許第3,037,952号(US3,037,952)に記載の通りに調製した。エマルジョンの最終pHは、5.0〜6.0であり、エマルジョンの最終総固形分は約38%であった。組成物のTgは、示差走査熱量測定法を用いて85℃であると評価された。このポリマーのpHは、調合前に希水酸化アンモニウムを用いて8〜9に調整した。
【0039】
実施例8:皮膜形成ポリマー
エマルジョン重合ポリマーを、エマルジョンの総重量に基づき(重量部で)28%のBA/62%のMMA/10%のMAAおよび0.69%のZnで作製し、組成の一部として水酸化カリウムを使用しなかったという点を除いて、米国特許第4,517,330号(US4517330)に記載の通りに調製した。エマルジョンの最終pHは、約7.6〜8.3であり、エマルジョンの最終総固形分は約38%であった。組成物のTgは、示差走査熱量測定法を用いて87℃であると評価された。Znの添加前の組成物のMwは、ゲル浸透クロマトグラフィによる測定で約338,000であると評価され、組成物にZnを添加した後は3,000,000超であると評価された。
【0040】
実施例9:PV ARCコーティングの調合
【表8】
全ての調合物において、結合剤は実施例7由来のものである。反射防止粒子は実施例4由来のものであった。溶剤混合物は、8gのジエチレングリコールモノエチルエーテル+12gのジプロピレングリコールメチルエーテルであった。
【0041】
実施例10:PV ARCコーティングの調合
【表9】
全ての調合物において、結合剤は実施例8由来のものである。反射防止粒子は実施例4由来のものであった。溶剤混合物は、8gのジエチレングリコールモノエチルエーテル+12gのジプロピレングリコールメチルエーテルであった。
【0042】
プラスチック製の塗料容器(容積容量250ml)の中に、実施例5、6、9および10に記載された材料を添加し、機械式実験室用トップミキサーを用いて完全に均質化されるまで撹拌した。完全に均質化した後、調合物を、♯38の丸形線材を用いて、ガラスプレート(PPG製の6’’×6’’のSolarPhireTMブランド、厚み3.2mm)に適用した。コーティングは、最低2日間、周囲条件にて乾燥させた。完全乾燥の後、ソーラーガラスに適用したコーティングを、表面光沢(分光光沢度計、Micro−tri−gloss、カタログ番号4520、BYK Gardner社を使用)、反射率(積分球分光計、X−Rite 8400およびX−Rite Color Master Software、バージョン5.1.1、X−Rite社を使用)、および相対的太陽スペクトル透過率(単結晶シリコン太陽電池および太陽電池シミュレータ(QuickSunTM120CA、Endeas OY)を使用)について査定した。コーティングの光沢を測定するために、ガラスプレートを、Penopec1B黒/白チャートに対し置き、チャートの黒色部分に対し、20、60および85度の分光光沢について測定を行なった。反射率を測定するためには、ガラスプレートのコーティングされた面を分光計の積分球部分に対して設置し、黒色背景をプレートの未コーティング面に対し設置した。分光反射率を含めた設定を用いて測定を行ない、550nmでの反射率を記録した。ソーラーパワーの決定のためには、単結晶シリコンPV電池(78.5cm2の円形電池)に浸漬液(屈折率1.5215、コード5040 Cargille研究所)を適用し、ガラスの未コーティング面を浸漬液上に設置し(こうして全ての空隙が除去された)、各試料プレートを異なる場所で2回測定して、短絡電流(Jsc)を決定した。未コーティングのプレートをブランク基材として使用し、効率の増加%についての計算は以下の通りに行った:((コーティング済みプレートのJsc−未コーティングプレートのJsc)/未コーティングプレートのJsc)*100
【0043】
【表10】
(注:未コーティングガラスのIscは、8回の反復測定の平均で、2.032であった)。
【0044】
除去可能性についての試験を、ガラス基材に対しコーティングを適用してから2日後に実施した。これらの試験のために、コーティング済みのガラス基材を、コーティングを基材に適用した時点から試験実施の直前まで、42°Fに設定されたオーブン内で保管した。
【0045】
コーティングの除去可能性を判定するための方法では、乾燥した皮膜の除去を再現可能な形で決定する手段として、Abrasion Tester器具(Byk Additives & Instruments、Columbia、Maryland、USA製のPB−8112ナイロンブラシを装備したPacific Scientific、Gardner/Neotec Instrument Division、Silver Spring、Maryland、USA製の型式番号AG−8100)と共に、市販の床剥離溶液が利用された。異なるコーティングの相対的除去特性を識別するために、皮膜を完全に除去するためにブラシがコーティング済み表面の上を前後に移動するサイクル数を除去可能性の尺度として採用した。使用した市販の床剥離剤は、FREEDOM(登録商標)(Diversey Inc.Sturtevant、Wis.53177 USA)であり、これには、ジエチレングリコールフェニルエーテルおよびエチレングリコールフェニルエーテルなどの溶剤、モノエタノールアミンなどのアミンおよびナトリウムキシレンスルホネートなどの表面活性剤を含む、ポリマー皮膜を膨潤させるための多数の試薬が含まれていた。市販の床剥離剤を清浄な水道水で希釈し、1部分のFREEDOM(登録商標)剥離剤と4部分の清浄水道水の希釈溶液を作製した。コーティング済みガラス基材を、ブラシが乾燥した皮膜の長辺に対し直角に走行するような形で、Abrasion Tester器具上に設置した。パネル上に5mLの希釈剥離剤溶液を置き、次にAbrasion Tester機を起動させて、パネル上をブランが前後に揺動できるようにした。以下の評価システムを使用した:完全除去に必要とされたサイクル数:10未満(除去し易さ優)、10超20未満(良)、20超50未満(可)、50超(不可)。
【0046】
【表11】
【0047】
本発明が本明細書中で具体的に開示され例示された実施形態に限定されないことが了解される。本発明のさまざまな修正が、当業者にとっては明らかである。このような変更および修正は、添付のクレームの範囲から逸脱することなく加えることができる。
【0048】
さらに、列挙された各々の範囲は、全て範囲の組合せおよび下位組合せ、ならびにその中に含まれる具体的数値を含む。さらに、本明細書中で引用または記載されている各特許、特許出願および刊行物は、その全体が参照により本明細書に援用されている。
【0049】
本開示は以下も含む。
[1] 光起電力モジュールを保護するための方法において、光起電力モジュールの外部日光対面層に対しコーティングを適用するステップと、光起電力モジュールを作動させるステップと、光起電力モジュールからコーティングを除去するステップと、コーティングを光起電力モジュールに再度適用するステップと、を含む方法。
[2] 適用され再適用されるコーティングが、7.0〜9.6のpHを有する水性コーティング組成物から生成される、上記[1]に記載の方法。
[3] 水性コーティング組成物が、約5〜50重量%の不揮発性固形分総含有量を有する、上記[2]に記載の方法。
[4] コーティングが(メタ)アクリレート系である、上記[1]に記載の方法。
[5] コーティングが、約−0.50×106〜約−3.00×106dynes per(cm2)(℃)という応力係数対温度曲線の勾配を有するポリウレタン分散体である、上記[1]に記載の方法。
[6] コーティングがさらに反射防止組成物を含む、上記[1]に記載の方法。
[7] コーティングは、乾燥状態にある場合、1.25〜1.7の屈折率を有する、上記[1]に記載の方法。
[8] i)少なくとも0.3%の酸含有量または、
ii)−60℃〜90℃のTg、
のうちの少なくとも1つを有する(メタ)アクリレートから形成されたコーティングを有する光起電力モジュール。
[9] コーティングがさらに、0.5μm〜20μmの粒子サイズを有する球状反射防止粒子を含む、上記[8]に記載の光起電力モジュール。