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3相ブラシレスモータの3相のうちパルス電圧を印加する2相を選択する通電モードの切り替えによって前記3相ブラシレスモータを回転駆動する、ブラシレスモータの駆動装置であって、
前記3相のうちの2相にパルス電圧を印加することで非通電相に誘起される回転子の位置に応じたパルス誘起電圧と、前記通電モードに応じた閾値との比較に基づいて前記通電モードの切り替えタイミングを検出し、
前記ブラシレスモータの制御偏差及び前記制御偏差の積分値に基づいて前記パルス電圧の基本デューティ比を求め、
電圧検出の分解能を超える前記パルス誘起電圧を発生させる最小デューティ比と、前記基本デューティ比との大きい方を前記パルス電圧のデューティ比とし、
前記基本デューティ比が前記最小デューティ比よりも小さいときに前記制御偏差の積分値の更新を停止する、ブラシレスモータの駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
図1に示す自動車AT用油圧ポンプシステムでは、変速機7やアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、図外のエンジン(内燃機関)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1とを備えている。
【0010】
また、エンジンの制御システムとして、自動停止条件の成立時にエンジンを停止し、自動始動条件が成立するとエンジンを再始動するアイドルストップ制御機能を備えており、アイドルストップによってエンジンが停止している間は、機械式オイルポンプ6もその動作を停止するため、アイドルストップ中は、電動オイルポンプ1を作動させて、変速機7やアクチュエータ8に対するオイルの供給を行い、油圧の低下を抑制する。
電動オイルポンプ1は、直結したブラシレスモータ(3相同期電動機)2により駆動される。ブラシレスモータ2は、モータ制御装置(MCU)3により、AT制御装置(ATCU)4からの指令に基づいて制御される。
【0011】
モータ制御装置(駆動装置)3は、ブラシレスモータ2を駆動制御して電動オイルポンプ1を駆動し、電動オイルポンプ1は、オイルパン10のオイルを、オイル配管5を介して変速機7やアクチュエータ8に供給する。
エンジン運転中は、エンジン駆動の機械式オイルポンプ6により、変速機7やアクチェータ8にオイル配管9を介してオイルパン10のオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態(停止状態)であって、逆止弁11によって電動オイルポンプ1に向かうオイルの流れは遮断される。
【0012】
エンジンがアイドルストップによって停止すると、エンジン回転速度が低下し、機械式オイルポンプ6の回転速度が低下してオイル配管9内の油圧が低下するので、エンジンのアイドルストップに同期して、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に送信する。
起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を起動させて電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイルポンプ1によるオイルの圧送を開始させる。
【0013】
そして、機械式オイルポンプ6の吐出圧が低下する一方で、電動オイルポンプ1の吐出圧が設定圧を越えると、逆止弁11が開弁し、オイルは、オイル配管5、電動オイルポンプ1、逆止弁11、変速機7・アクチェータ8、オイルパン10の経路を通って循環するようになる。
尚、本実施形態では、ブラシレスモータ2が、油圧ポンプシステムの電動オイルポンプ1を駆動するが、この他、ハイブリッド車両などにおいてエンジンの冷却水の循環に用いる電動ウォータポンプを駆動するブラシレスモータなどであってもよく、ブラシレスモータ2が駆動する対象機器をオイルポンプに限定するものではない。
【0014】
図2は、モータ制御装置3及びブラシレスモータ2の詳細を示す。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212と、マイクロコンピュータを備えた制御器213とを備え、制御器213はAT制御装置4との間で通信を行う。
ブラシレスモータ2は、3相DCブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線215u,215v,215wを、図示省略した円筒状の固定子に備え、該固定子の中央部に形成した空間に永久磁石回転子(ロータ)216を回転可能に備える。
【0015】
モータ駆動回路212は、逆並列のダイオード218a〜218fを含んでなるスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続した回路と、電源回路219とを有しており、スイッチング素子217a〜217fは例えばFETで構成される。
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続され、スイッチング素子217a〜217fのオン/オフは、制御器213によるパルス幅変調(PWM)動作で制御される。
【0016】
制御器213は、ブラシレスモータ2の印加電圧(入力電圧)を演算し、該印加電圧に基づき、駆動回路212に出力するパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する回路であり、
図3に示すように、PWM発生器251、ゲート信号切替器252、通電モード決定器253、比較器254、電圧閾値切替器255、電圧閾値学習器256、非通電相電圧選択器257を備えている。
PWM発生器251は、印加電圧指令(指令電圧)に基づき、パルス幅変調されたPWM波を生成する回路である。
【0017】
通電モード決定器253は、モータ駆動回路212の通電モード(スイッチングモード)を決定するモード指令信号を順次出力するデバイスであり、比較器254が出力するモード切替トリガ信号をトリガとして通電モードを6通りに切り替える。
尚、通電モードとは、3相のうちでパルス電圧を印加する2相の選択パターンを示す。
ゲート信号切替器252は、モータ駆動回路212の各スイッチング素子217a〜217fがどのような動作でスイッチングするかを、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定し、該決定に従い、6つのゲートパルス信号をモータ駆動回路212に出力する。
【0018】
電圧閾値切替器255は、非通電相のパルス誘起電圧と閾値との比較に基づく通電モードの切り替え制御における前記閾値を順次切り替えて発生する回路であり、閾値の切り替えタイミングは、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づき決定される。
非通電相電圧選択器257は、モード指令信号に従い、ブラシレスモータ2の3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相の電圧の検出値を選択し、比較器254及び電圧閾値学習器256に出力する回路である。
尚、非通電相の端子電圧は、厳密にはグランドGND−端子間の電圧であるが、本実施形態では、中性点の電圧を別途検出し、この中性点の電圧とGND−端子間電圧との差を求めて、端子電圧Vu,Vv,Vwとしている。
【0019】
比較器254は、電圧閾値切替器257が出力する閾値と非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧検出値(パルス誘起電圧の検出値)とを比較することで、通電モードの切り替えタイミングを判定し、係る判定結果に基づき、通電モード決定器253にモード切替トリガを出力する。
尚、パルス誘起電圧は、2相に対するパルス電圧の印加によって非通電相に誘起される電圧であって、回転子の位置(磁極位置)により磁気回路の飽和状態が変化することから、回転子の位置に応じた誘起電圧が非通電相に発生することになり、非通電相の誘起電圧から回転子位置を推定して、通電モードの切り替えタイミングを検出することができる。
【0020】
また、電圧閾値学習器256は、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる閾値を更新して記憶するデバイスである。
切り替えタイミングの判定のために検出する非通電相のパルス誘起電圧は、ブラシレスモータ2の製造ばらつき、電圧検出回路の検出ばらつきなどによって変動するため、係る誘起電圧のばらつきに対して、閾値として固定値を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤って判定することになってしまう。
そこで、電圧閾値学習器256は、通電モードの切り替えタイミングに相当する磁極位置でのパルス誘起電圧を検出することで、閾値を実際の切り替えタイミングで発生する誘起電圧に近づける補正を行い、電圧閾値切替器257が記憶している閾値を、補正結果に書き換える。
【0021】
図4は、各通電モードにおける各相への電圧印加状態を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)において、3相から選択された2相に対してパルス電圧(パルス状の電圧)を印加する。
【0022】
本実施形態では、U相のコイルの角度位置を、回転子(磁極)の基準位置(角度0deg)とし、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う回転子の角度位置(磁極位置)を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う回転子の角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う回転子の角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う回転子の角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う回転子の角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う回転子の角度位置を330degに設定している。
【0023】
通電モード(1)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
通電モード(2)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
【0024】
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
【0025】
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
【0026】
尚、上記通電制御の場合、例えば通電モード(1)では、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流すようにしたが、下段のスイッチング素子217dの駆動するPWM波と逆位相のPWM波で上段のスイッチング素子217cを駆動し、下段のスイッチング素子217dがオンであるときに、上段のスイッチング素子217cをオフさせ、下段のスイッチング素子217dがオフであるときに、上段のスイッチング素子217cをオンさせるようにする相補制御方式で、各通電モード(1)〜(6)での通電制御を行わせることができる。
上記のように、6つの通電モード(1)〜(6)を、電気角60deg毎に切り替えることで、各スイッチング素子217a〜217fを、240deg毎に120deg間通電することから、
図4に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
【0027】
図5のフローチャートは、モータ制御装置3によるブラシレスモータ2の駆動制御の概略を示す。
ステップS301では、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる閾値の学習条件、換言すれば、電圧閾値学習器256の作動条件が成立しているか否かを判断する。
具体的には、電源投入直後、又は、電動オイルポンプ1の停止直後など、ブラシレスモータ2の駆動要求が発生していないことを、閾値の学習条件とする。
【0028】
学習条件が成立していれば、ステップS302(閾値学習手段)へ進んで、閾値の学習を実施する。
以下に、閾値の学習処理の一例を示す。
例えば、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を学習する場合には、まず、回転子216を通電モード(3)に対応する角度に位置決めする。
【0029】
通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinを各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度90degまで回転することになる。
そして、通電モード(3)に対応する電圧印加を行ってから、回転子216が角度90degまで回転するのに要する時間の経過を待って、角度90degへの位置決めが完了したものと推定する。
【0030】
尚、通電モード(3)に対応する相通電を行った場合に回転子216が引き付けられる角度90degは、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置である。
角度90degへの回転子216の位置決めが完了すると、次いで、通電モード(3)に対応する電圧印加パターンから、通電モード(4)に対応する電圧印加パターン、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。
【0031】
そして、通電モード(3)に対応する印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での非通電相であるW相の端子電圧Vwを検出し、該端子電圧Vwに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を更新して記憶する。
即ち、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えは、前述のように、角度90degで行わせるように設定されていて、角度90degになったか否か、換言すれば、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングになったか否かは、通電モード(4)における非通電相であるW相の端子電圧Vwに基づいて判断する。
【0032】
ここで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置(90deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(3)から通電モード(4)に切り替えれば、通電モード(4)に切り替えた直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置90degにおける非通電相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(4)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる閾値V4-5を更新して記憶する。そして、通電モード(4)の非通電相であるW相の端子電圧Vwが、閾値V4-5を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=閾値V4-5になったとき)、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを実行させるようにする。
【0033】
他の通電モードの切り替えに用いる閾値も同様にして、更新学習を行える。
尚、閾値の更新処理においては、通電モードの切り替えを行う角度位置での非通電相の端子電圧Vを、そのまま閾値として記憶させても良いし、また、前回までの閾値と、今回求めた非通電相の端子電圧Vとの加重平均値を新たな閾値として記憶させても良いし、更に、過去複数回にわたって求めた非通電相の端子電圧Vの移動平均値を、新たな電圧閾値として記憶させても良い。
また、今回求めた非通電相の端子電圧Vが、予め記憶している正常範囲内の値であれば、今回求めた非通電相の端子電圧Vに基づく閾値の更新を行い、前記正常範囲から外れている場合には、今回求めた非通電相の端子電圧Vに基づく閾値の更新を禁止し、閾値を前回値のまま保持させるとよい。
【0034】
また、閾値の初期値として設計値を記憶させておき、閾値の学習を1度も経験していない未学習状態では、閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判断させるようにする。
また、非通電相の電圧が基準電圧に対してマイナス側に振れる(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替において共通の閾値を設定し、非通電相の電圧が基準電圧に対してプラス側に振れる、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の閾値を設定することができる。
【0035】
更に、例えば、前述のようにして学習した閾値V4-5を、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の閾値とし、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替においては、閾値V4-5と絶対値が同じ閾値を共通の閾値として用いることができる。
但し、閾値の学習手段を上記のものに限定するものではなく、公知の種々の学習処理を適宜採用できる。
【0036】
上記のようにして、ステップS302で、モード切り替えタイミングの判定に用いる閾値を学習した場合、及び、ステップS301で学習条件が成立していないと判断した場合には、ステップS303へ進む。
ステップS303では、電動オイルポンプ1(ブラシレスモータ2)の駆動要求が発生しているか否かを判断する。本実施形態の場合、アイドルストップ要求の発生が、電動オイルポンプ1の駆動要求の発生を示すことになる。
【0037】
ここで、電動オイルポンプ1の駆動要求が発生すれば、ステップS304へ進み、そのときの通電モードでの非通電相の電圧を閾値と比較することで、次の通電モードへの切り替えタイミングを判定し、通電モードを順次切り替えることで、ブラシレスモータ2を駆動させるセンサレスのモータ駆動制御を実施する。
尚、ブラシレスモータ2の起動は、例えば通電モード(3)に応じた電圧印加によって90degの位置に位置決めした後、通電モード(5)に切り替えて、ブラシレスモータ2を回転させ始め、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置である150degになったことを、通電モード(5)における非通電相であるV相の電圧が、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる閾値を横切ったときに判定し、通電モード(6)への切り替えを行う。その後、非通電相の電圧と閾値とを比較して、通電モードを順次切り替えるようにする。
【0038】
一方、電動オイルポンプ1の駆動要求が発生していない場合は、ステップS304を迂回して本ルーチンを終了させる。
ここで、前記ステップS304におけるモータ駆動制御の詳細を、
図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0039】
ステップS351では、ブラシレスモータ2の目標回転数(rpm)を演算する。
本実施形態の電動オイルポンプ1を回転駆動するブラシレスモータ2では、例えば、
図7に示すように、オイル温度(ATF油温)が高いほど目標回転数(目標モータ回転速度)をより高い回転数に設定する。
ブラシレスモータ2がエンジンに冷却水を循環させるウォータポンプを駆動する場合には、冷却水温度が高いほど目標回転数(目標モータ回転速度)をより高い回転数に設定することができる。
【0040】
ステップS352では、ステップS351で演算した目標回転数と実際のモータ回転数(rpm)とに基づいて印加電圧(入力電圧)の指令値を演算する。
例えば、目標回転数と実際の回転数との偏差に基づく比例積分制御(PI制御)によって、下式に従って印加電圧(入力電圧)の指令値を決定する。
印加電圧=回転数偏差*比例ゲイン+回転数偏差積分値*積分ゲイン
回転数偏差=目標回転数−実回転数
【0041】
但し、印加電圧の指令値の決定方法を、目標モータ回転数に基づくものに限定するものではなく、例えば、電動オイルポンプ1の目標吐出圧と実吐出圧との偏差に基づき、印加電圧の指令値を決定する方法や、要求トルクに基づき印加電圧の指令値を決定する方法など、公知の決定方法を適宜採用できる。また、目標値に実際値を近づけるための印加電圧の演算処理を、比例積分制御に限定するものではなく、比例積分微分制御(PID制御)など公知の演算処理方法を適宜採用できる。
【0042】
ステップS353では、モータ印加デューティ(デューティ比)の制限値Dutyminを決定する。前記制限値Dutyminは、相通電をPWM制御するときのデューティ比の下限値である。制限値(下限値)Dutyminの決定方法については後で詳細に説明する。
ステップS354(デューティ制限手段)では、ステップS352で決定した印加電圧(入力電圧)、及び、ステップS353で決定した制限値Dutyminを基にモータ印加デューティ(デューティ比)を決定する。
【0043】
まず、基本デューティ(%)を、基本デューティ=印加電圧/電源電圧*100として算出する。
そして、基本デューティ(%)が制限値Dutymin(Dutymin>0%)よりも大きい場合には、基本デューティをそのまま最終的なモータ印加デューティとし、基本デューティ(%)が制限値Dutyminよりも小さい場合には、制限値Dutyminをモータ印加デューティとすることで、モータ印加デューティが制限値Dutyminを下回ることがないように制限する。
【0044】
尚、基本デューティが制限値Dutyminよりも小さく、制限値Dutyminをモータ印加デューティとした場合には、目標回転数と実回転数との偏差に基づく印加電圧の要求よりも実際の印加電圧が高くなる。
しかし、後述するように、制限値Dutyminを下回るモータ印加デューティで制御した場合、センサレス制御において通電モードの切り替えタイミングを誤って判断し、脱調する可能性があるので、ブラシレスモータ2の駆動要求がある状態では、回転数偏差に基づく印加電圧の要求を満たすよりも、脱調の抑制を優先すべきであり、上記のようにして、モータ印加デューティが制限値Dutyminを下回ることがないように制限する。
尚、基本デューティ(%)が制限値Dutyminよりも小さく、制限値Dutyminをモータ印加デューティとしている場合には、比例積分制御(PI制御)における回転数偏差積分値が蓄積して過大となることを抑制するために、回転数偏差積分値の更新を停止するなどの対策を施すことが好ましい。
【0045】
また、本実施形態のような油圧ポンプシステムの場合、モータ回転数を高精度に制御することは要求されず、また、要求よりも高い印加電圧を与えるから、要求量以上のオイル吐出量を確保でき、油圧低下や潤滑不足などが生じることを抑制できる。また、ブラシレスモータ2がウォータポンプを駆動する場合には、少なくとも要求量以上の冷却水循環量を確保でき、エンジン過熱の発生を抑制できる。
【0046】
ステップS355では、そのときの通電モードにおける非通電相の電圧を検出する。具体的には、通電モード(1)の場合はW相の電圧を検出し、通電モード(2)の場合はV相の電圧を検出し、通電モード(3)の場合はU相の電圧を検出し、通電モード(4)の場合はW相の電圧を検出し、通電モード(5)の場合はV相の電圧を検出し、通電モード(6)の場合はU相の電圧を検出する。このような非通電相の選択は、非通電相電圧選択器257が通電モード決定器253からの信号に基づいて行う。
【0047】
ここで、非通電相の端子電圧の検出期間を、通電モード(3)を例に
図8を参照して説明する。通電モード(3)では、V相にパルス幅変調動作によって指示電圧に相当する電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流すから、電圧検出相はU相であり、このU相の端子電圧を、V相上段のスイッチング素子217fのオン期間で検出する。
また、通電モードの切り替え直後は、転流電流が発生し、係る転流電流の発生区間で検出した電圧を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤判断することになってしまう。そこで、通電モード切替直後の電圧検出値については、初回から設定回にわたって切り替えタイミングの判断には用いないようにする。前記設定回は、モータ回転数及びモータ電流(モータ負荷)に応じて可変に設定することができ、モータ回転数が高く、モータ電流が高いほど、前記設定回を大きな値に設定する。
【0048】
ステップ356では、低速センサレス制御の実施条件であるか否かを判断する。非通電相に発生する誘起電圧(速度起電圧)の信号をトリガに通電モードの切り替えを行うセンサレス制御では、モータ回転速度が低い領域では、誘起電圧(速度起電圧)が低くなって切り替えタイミングを精度良く検出することが難しくなるので、モータの低回転域では、パルス誘起電圧と閾値との比較に基づき、切り替えタイミングの判断を行うセンサレス制御を行う。
【0049】
従って、ステップS356では、速度起電圧をトリガとするモード切り替え判断を行える速度域であるか否かを、モータ回転速度が、設定速度よりも高いか否かに基づき判断する。即ち、前記設定速度は、速度起電圧をトリガとする切り替え判断を行えるモータ回転速度の最小値であり、予め実験やシミュレーションによって決定して記憶しておく。
尚、モータ回転速度は、通電モードの切り替え周期に基づき算出される。また、前記設定速度として、例えば、低速センサレス制御への移行を判断する第1設定速度と、低速センサレス制御の停止を判断する第2設定速度(>第1設定速度)とを設定し、センサレス制御の切り替えが短時間で繰り返されることを抑制することが好ましい。
【0050】
ステップS356で、低速センサレス制御の実施条件であると判断した場合、換言すれば、モータ回転速度が設定速度以下である場合には、ステップS357(モード切替判定手段)へ進み、非通電相の電圧と閾値(ステップS302で学習した閾値)とを比較し、非通電相の電圧が閾値を横切ったときに、通電モードの切り替えタイミングを判定してステップS359へ進み、次の通電モードへの切り替えを実施する。
【0051】
具体的には、そのときに通電モード(1)であった場合には、非通電相であるW相の電圧が、閾値V1-2以下になったときに、通電モード(2)への切り替えタイミングであると判断し、そのときに通電モード(2)であった場合には、非通電相であるV相の電圧が、閾値V2-3以上になったときに、通電モード(3)への切り替えタイミングであると判断し、そのときに通電モード(3)であった場合には、非通電相であるU相の電圧が、閾値V3-4以下になったときに、通電モード(4)への切り替えタイミングであると判断し、そのときに通電モード(4)であった場合には、非通電相であるW相の電圧が、閾値V4-5以上になったときに、通電モード(5)への切り替えタイミングであると判断し、そのときに通電モード(5)であった場合には、非通電相であるV相の電圧が、閾値V5-6以下になったときに、通電モード(6)への切り替えタイミングであると判断し、そのときに通電モード(6)であった場合には、非通電相であるU相の電圧が、閾値V6-1以上になったときに、通電モード(1)への切り替えタイミングであると判断する。
【0052】
一方、ステップS356で、低速センサレス制御の実施条件ではないと判断した場合、換言すれば、モータ回転速度が設定速度よりも高い場合には、ステップS358へ進み、非通電相の電圧が零レベルを横切った時点から更に30deg回転したと判断した時点を、次の通電モードへの切り替えタイミングとして検出する、高速センサレス制御を実施する。
詳細には、30degをそのときのモータ回転速度に基づいて時間に換算し、ゼロクロス時点から30degに相当する時間が経過した時点で、次の通電モードへの切り替えタイミングを判定し、ステップS359へ進んで、次の通電モードに切り替える。
【0053】
ステップS360では、通電モードの切り替え周期に基づき、モータ回転速度(回転数rpm)を演算する。
ここで、ステップS353における制限値(下限値)Dutyminの決定方法を詳細に説明する。
例えば、
図9に示すように、PWM制御においてキャリア周期毎に増減を繰り返すPWMカウンタの谷(カウンタ値が減少から増大に転じる点)、換言すれば、パルス印加電圧のパルス幅PWの中央付近を、非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合、パルス電圧の印加直後(立ち上がり直後)の非通電相のパルス誘起電圧が振れる期間(電圧振れ時間)が前記パルス幅PWの1/2よりも長いと、パルス誘起電圧が振れている間に、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることになってしまい、非通電相のパルス誘起電圧を精度良く検出することができない。
【0054】
また、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換処理に要する時間(A/D変換開始から完了までのA/D変換時間)が、前記パルス幅PWの1/2よりも長いと、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまい、この場合も、非通電相のパルス誘起電圧を精度良く検出することができず、ブラシレスモータ2が脱調してしまう可能性がある。
そこで、制限値Dutymin(%)を式(A)に従って演算する。
式(A)…Dutymin=max(電圧振れ時間、A/D変換時間)*2/キャリア周期*100
【0055】
上記の式(A)によると、電圧振れ時間とA/D変換時間との長い方の2倍を最小パルス幅PWminとすることになり、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
尚、PWM制御においてキャリア周期毎に増減を繰り返すPWMカウンタの山(カウンタ値が増大から減少に転じる点)を非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合や、PWM切替りタイミングを非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合にも、上記のようにして制限値Dutyminを算出する。
【0056】
また、電圧振れ時間及びA/D変換時間は、予め実験やシミュレーションで求めた値を用いることができる他、電圧振れ時間をステップS353において計測し、計測結果に基づき、制限値Dutyminを決定することができる。
また、非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)を任意のタイミングに設定できる場合には、
図10に示すように、電圧振れ時間が経過した直後からA/D変換処理を開始させるようにすれば、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)を可及的に短いパルス内で行わせることができると共に、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0057】
具体的には、式(B)に従って制限値Dutymin(%)を演算する。
式(B)…Dutymin=(電圧振れ時間+A/D変換時間)/キャリア周期*100
即ち、電圧振れ時間とA/D変換時間との総和よりも長いパルス幅PWとし、電圧振れ時間の経過直後からA/Dを開始させるようにすれば、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0058】
また、非通電相のパルス誘起電圧は、モータ印加デューティ(デューティ比)によって大きさが変化し、
図11に示すように、モータ印加デューティが小さくなると、非通電相のパルス誘起電圧も小さくなり、モータ印加デューティが小さいと電圧検出の分解能を下回る電圧になってしまい、通電モードの切り替えタイミングの判定が不能になってしまう可能性がある。
そこで、電圧検出回路で検出可能なパルス誘起電圧(電圧検出の分解能を上回る電圧)を発生させるモータ印加デューティの最小値を、前記制限値(下限値)Dutyminとすることが好ましい。
【0059】
ここで、前述の式(A)又は式(B)で演算した制限値Dutyminと、電圧検出の分解能に基づき設定した制限値Dutyminとのうち、より大きなデューティ比を最終的な制限値Dutyminとすることができる。
このようにして制限値Dutyminを設定すれば、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制でき、更に、パルス誘起電圧として検出可能な電圧を発生させて通電モードの切り替えタイミングの判定を行えることになり、ブラシレスモータ2における脱調の発生を抑制できる。
【0060】
従って、上記油圧ポンプシステムであれば、アイドルストップ中に、電動オイルポンプ1からのオイル供給を安定的に行わせて、油圧低下を効果的に抑制でき、また、ブラシレスモータ2でウォータポンプを駆動する場合には、冷却水の循環を安定的に行わせてエンジンの過熱を抑制できる。
尚、モータ印加デューティの制限値Dutyminに基づく制限に加えて、連続的にパルス電圧を印加する時間を長くするために、キャリア周期を増大側(キャリア周波数を低下側)に変更してもよい。
【0061】
また、前記通電モードの切り替えタイミングを判断するための閾値を学習する際には、モータ印加デューティ(デューティ比)を前記制限値Dutyminとした状態で学習を実施させることが好ましい。
これは、前記制限値Dutyminよりも大きなモータ印加デューティを設定している状態で閾値を学習させると、
図11に示したようにモータ印加デューティが小さいほどパルス誘起電圧が小さくなるから、モータ印加デューティが学習時よりも小さくなった場合に、パルス誘起電圧が閾値を横切らず、通電モードの切り替えが不能になってしまう可能性があるためである。
【0062】
従って、モータ印加デューティを、最小値である前記制限値Dutyminとした状態で、閾値を学習させるようにし、たとえモータ印加デューティが最小値になったとしても、パルス誘起電圧が閾値に達し、通電モードの切り替えタイミングを判定できるようにする。
また、上記のように、前記制限値Dutyminのデューティ比でパルス電圧を印加させている状態で、通電モードの切り替えタイミングを判断するための閾値の学習を実施した場合には、モータ温度やモータ電源電圧の変化に対し、下記のようにして制限値Dutyminを補正するとよい。
【0063】
図12に示すように、閾値を学習したときのモータ印加デューティ(デューティ比)をA1(A1=Dutymin)、閾値を学習したときのモータ温度をT1とすると、モータ温度がT1よりも高いT2になると、通電モードの切り替えタイミング(切り替えを行う磁極位置)での実際のパルス誘起電圧の絶対値は低下する。即ち、デューティ比をDutyminに固定した状態で、モータ温度が上昇すると、通電モードの切り替えタイミングでの実際のパルス誘起電圧の絶対値が低下するので、モータ温度が低いときに学習した閾値を、モータ温度がより高い条件でそのまま用いると、パルス誘起電圧が閾値に達しなくなり、通電モードの切り替えタイミングを判定できなくなってしまう可能性がある。
【0064】
そこで、学習時のモータ温度T1よりも高いモータ温度T2になった場合には、モータ温度の上昇分によるパルス誘起電圧のレベル低下を補うように、制限値Dutyminを増大補正して、モータ印加デューティが制限値Dutyminに設定される場合でのパルス誘起電圧を増大させ、学習時におけるパルス誘起電圧付近に保持されるようにする。換言すれば、デューティ比を制限値Dutymin(下限値)としたときの通電モードの切り替えタイミングにおけるパルス誘起電圧のモータ温度による変化を抑制する方向に、制限値Dutyminを変更する。
【0065】
具体的には、学習時からの温度上昇代に対するデューティ増大補正量の相関を予め求めて記憶しておき、そのときのモータ温度T2と学習時のモータ温度T1との差からデューティの増大補正量を求め、該増大補正値で制限値Dutyminを増大補正する。
図12に示した例では、デューティ比A1をデューティ比A2に補正する。
これにより、閾値の学習時におけるモータ温度から上昇変化しても、パルス誘起電圧と閾値との比較に基づき通電モードの切り替えタイミングを判定して、通電モードの切り替えを順次行える。
【0066】
尚、モータ温度は、本実施形態の油圧ポンプシステムの場合には、オイル温度などで代表させることができ、オイル温度はセンサで直接的に検出できる他、エンジンの運転条件から推定することが可能である。また、モータ(巻線)の温度を検出するセンサを設けてもよい。
また、モータ温度を検出又は推定する手段を備えず、モータ温度が不明である場合には、モータ温度が最高温度になっても、パルス誘起電圧と閾値との比較に基づき通電モードの切り替えタイミングを判定できるように、制限値Dutyminを予め増大補正する。
【0067】
また、モータ温度が学習時よりも低下した場合には、通電モードの切り替えタイミングでの実際のパルス誘起電圧が増大変化することになり、この場合には、制限値Dutyminを減少補正すれば、学習時におけるパルス誘起電圧付近に保持することになる。但し、パルス誘起電圧が増大変化する場合には、閾値との比較に基づき通電モードの切り替え判定が行えるので、少なくともモータ温度の上昇変化に対する制限値Dutyminの増大補正を行えば、脱調の発生を抑制できる。
尚、モータ印加デューティを制限値Dutyminとして、パルス誘起電圧のレベル判定に用いる閾値を学習する場合に、モータ温度毎に閾値を学習させることができ、この場合、モータ温度の変化に対応する制限値Dutyminの補正を省略することが可能である。
【0068】
一方、モータの電源電圧も、通電モードの切り替えタイミング(切り替えを行う磁極位置)での実際のパルス誘起電圧の絶対値に影響を与え、
図13に示すように、モータ電源電圧が学習時よりも低下すると、通電モードの切り替えタイミング(切り替えを行う磁極位置)での実際のパルス誘起電圧の絶対値は低下し、パルス誘起電圧が閾値に達しないことで通電モードの切り替えタイミングを判定できなくなってしまう可能性がある。
そこで、学習時のモータ電源電圧よりも低い電源電圧になった場合には、モータ電源電圧の低下分によるパルス誘起電圧のレベル低下を補うように、制限値Dutyminを増大補正して、モータ印加デューティが制限値Dutyminに設定される場合でのパルス誘起電圧を増大させ、学習時におけるパルス誘起電圧付近に保持されるようにする。換言すれば、デューティ比を制限値Dutymin(下限値)としたときの通電モードの切り替えタイミングにおけるパルス誘起電圧の電源電圧による変化を抑制する方向に、制限値Dutyminを変更する。
【0069】
具体的には、学習時からの電源電圧の低下代に対するデューティ増大補正量の相関を予め求めて記憶しておき、そのときの電源電圧と学習時の電源電圧との差からデューティの増大補正量を求め、該増大補正値で制限値Dutyminを増大補正する。
図13に示した例では、デューティ比A1をデューティ比A3に補正する。
これにより、閾値の学習時からモータ電源電圧が低下しても、パルス誘起電圧と閾値との比較に基づき通電モードの切り替えタイミングを判定して、通電モードの切り替えを順次行える。
【0070】
また、モータ電源電圧が学習時よりも増加した場合には、通電モードの切り替えタイミングでの実際のパルス誘起電圧が増大変化することになり、この場合には、制限値Dutyminを減少補正すれば、学習時におけるパルス誘起電圧付近に保持することになる。但し、パルス誘起電圧が増大変化する場合には、閾値との比較に基づき通電モードの切り替え判定が行えるので、少なくともモータ電源電圧の低下に対する制限値Dutyminの増大補正を行えば、脱調の発生を抑制できる。
尚、モータ印加デューティを制限値Dutyminとして、パルス誘起電圧のレベル判定に用いる閾値を学習する場合に、モータ電源電圧毎に閾値を学習させることができ、この場合、モータ電源電圧の変化に対応する制限値Dutyminの補正を省略することが可能である。
また、モータ温度に基づく補正と、電源電圧に基づく補正とを双方を、制限値Dutyminに対して施せば、モータ温度及び電源電圧の変化があっても、パルス誘起電圧と閾値との比較に基づき通電モードの切り替えタイミングを判定して、通電モードの切り替えを順次行える。
【0071】
ところで、上記実施形態では、目標回転速度と実際の回転速度との偏差に基づいて決定した印加電圧(入力電圧)をデューティ比に変換し、係るデューティ比が制限値Dutyminを下回ることがないように制限したが、
図14のフローチャートのステップS354−1及びステップS354−2に示すように、モータ運転条件に基づき、モータ印加デューティを制限値Dutyminに切り替えることができる。
尚、
図14のフローチャートは、ステップS354−1及びステップS354−2以外の各ステップにおいて、
図6のフローチャートで説明した処理を同様にして行うので、ステップS354−1及びステップS354−2以外の各ステップでの処理内容の説明は省略する。
【0072】
ステップS354−1では、モータ印加デューティを制限値Dutyminに切り替える必要があるか否かを判断する。
具体的には、ブラシレスモータ2の負荷が小さい場合に、モータ印加デューティを制限値Dutyminに切り替えるものとし、ブラシレスモータ2の負荷が小さい運転条件とは、例えば、ブラシレスモータ2の目標回転数(rpm)が規定回転数以下でかつモータ電流が規定電流以下であるときである。
【0073】
従って、ブラシレスモータ2の目標回転数(rpm)が規定回転数以下でかつモータ電流が規定電流以下であれば、モータ印加デューティを制限値Dutyminに切り替える必要があると判断し、ステップS354−2へ進む。
ステップS354−2では、目標回転速度と実際の回転速度との偏差に基づいて決定した印加電圧(入力電圧)に基づくデューティ比に代えて、モータ印加デューティを制限値Dutyminに切り替える。
【0074】
即ち、ブラシレスモータ2の負荷が小さい運転条件では、制限値Dutyminを下回るような低いモータ印加デューティで目標回転数(rpm)に実回転数を近づけることができ、そのままのモータ印加デューティでブラシレスモータ2を駆動制御すると、パルス誘起電圧の振れ期間内でパルス誘起電圧をサンプリングし、パルス誘起電圧を誤検出したり、電圧検出の分解能を下回るパルス誘起電圧になったりして、通電モードの切り替えタイミングの判定が不能になってしまう可能性がある。
そこで、目標回転数(rpm)に実回転数を近づけるために要求されるデューティ比が制限値Dutyminを下回るような低負荷領域である場合、予めモータ印加デューティを制限値Dutyminに切り替えることで、パルス誘起電圧の振れ期間内でパルス誘起電圧をサンプリングし、パルス誘起電圧を誤検出したり、電圧検出の分解能を下回るパルス誘起電圧になったりして、通電モードの切り替えタイミングの判定が不能になることを抑制する。
【0075】
従って、制限値Dutyminをモータ印加デューティとする低負荷領域であるか否かを判断する規定回転数及び規定電流は、目標回転数(rpm)に実回転数を近づけるために要求されるデューティ比が制限値Dutyminを下回るような運転領域を判定できるように予め適合される。
図15は、
図14のフローチャートに示した処理を実施した場合の目標モータ回転速度、モータ電流、モータ印加デューティの変化の例を示すタイムチャートである。この
図15に示すように、目標モータ回転数が規定回転数以下でかつモータ電流が規定電流以下の条件が揃えば、そのときのデューティ比とは無関係に一律に制限値Dutyminに切り替え、目標モータ回転数が規定回転数以下でかつモータ電流が規定電流以下の条件を脱すれば、目標回転数(rpm)に実回転数を近づけるために要求されるデューティ比をモータ印加デューティとする状態に復帰させる。
【0076】
また、本実施形態のように、車載用のオイルポンプ1を駆動するブラシレスモータ2の場合、極低温から100℃程度の高温までの温度範囲で使用される可能があるため、オイルの粘度変化によるポンプ負荷の変化が大きい。
ここで、極低温時(負荷が大きい場合)でのポンプ吐出量の応答性を確保するために、ブラシレスモータ2の相通電におけるPWM制御におけるゲインを大きくすると、高温時(負荷が小さい場合)に吐出量を大きく低下させる指示を与えた場合、過度の補正を行ってしまう結果、ブラシレスモータ2(オイルポンプ1)を停止させてしまう可能性がある。
しかし、上記のようにして、ブラシレスモータ2の相通電をPWM制御するときのデューティを制限値Dutymin以上に制限すれば、高温時(負荷が小さい場合)に吐出量を大きく低下させる指示を与えても、デューティが制限値Dutyminよりも小さくならず、ブラシレスモータ2(オイルポンプ1)が停止してしまうことを避けることが可能であり、これによって油圧の低下を抑制できる。
【0077】
また、パルス誘起電圧の振れ期間内でパルス誘起電圧をサンプリングしたり、A/D変換の途中でパルス電圧の印加が途絶えたりして、パルス誘起電圧を誤検出し、通電モードの切り替えタイミングの判定が不能になることを抑制するためには、パルス電圧の印加時間を長くすればよく、パルス電圧の印加時間をより長くする方法として、後述するパルスシフトを実施するとよい。
上記のパルスシフトは、1周期における電圧印加時間の総和であるデューティ比を変更することなく、連続する電圧印加時間を長くする手段であり、係るパルスシフトを実施した上で、前述の制限値Dutyminによるデューティ比の制限を実施すれば、制限値Dutyminを低く抑制して、デューティ比の可変範囲を広く確保できる。
【0078】
図16は、一般的なPWM生成を示す。
図16において、三角波キャリアの中間値Dの値が電圧=0であり、また、電圧指令値をBとし、V相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D+Bを比較した結果を用い、W相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D−Bを比較した結果を用いている。
即ち、V相の上段スイッチング素子は、三角波キャリアよりも電圧指令値D+Bが高い期間においてONとなり、W相の下段スイッチング素子は、三角波キャリアが電圧指令値D−Bよりも高い期間においてONとなる。
【0079】
しかし、
図16に示すPWM生成では、デューティが小さいとV相とW相とが共に通電している時間であるパルス電圧の印加時間(
図16中の斜線の期間)が短く、非通電相に誘起される電圧を精度良く検出することが難しい。
そこで、
図17に示すパルスシフトを実施することで、
図16に示したPWM生成と同一のデューティで2相が共に通電している連続時間(パルス電圧の印加時間)をより長くし、非通電相(開放相)に誘起される電圧の検出精度を向上させることができる。
【0080】
図17に示すパルスシフトでは、三角波キャリアの山・谷(上昇・下降)のタイミングで、電圧指令値に対して補正を行っている。
具体的には、三角波キャリアの上昇期間では、電圧指令値を電圧=DからXだけ離れるように、電圧指令値D+BについてはD+B+A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B−A(但し、A=X−B)に補正し、三角波キャリアの下降期間では、電圧指令値を電圧=Dに近づけるように、電圧指令値D+BについてはD+B−A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B+A(但し、A=X−B)に補正している。
【0081】
上記の電圧指令値の補正によって、三角波キャリアの下降期間でV相とW相とが共に通電している時間が短くなる分だけ、三角波キャリアの上昇期間でV相とW相とが共に通電している時間が長くなり、デューティ(1周期におけるオン時間)を変えずに、2相が共に通電している連続時間(パルス電圧の印加時間)を長くすることができ、パルス誘起電圧の振れ期間内でパルス誘起電圧をサンプリングしたり、A/D変換中に電圧印加が途絶えることを抑制できる。
以上、好ましい実施形態を具体的に説明したが、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。