(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960835
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ヘモグロビンの測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/14 20060101AFI20160719BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
A61B3/14 M
A61B5/14 322
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-542903(P2014-542903)
(86)(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公表番号】特表2014-533567(P2014-533567A)
(43)【公表日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】ES2012070810
(87)【国際公開番号】WO2013076336
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2015年7月3日
(31)【優先権主張番号】P201131884
(32)【優先日】2011年11月23日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】514129545
【氏名又は名称】インストゥルメンタシオン イ オフタルモロヒア(インソフト,エセ.エレ.)
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス デ ラ ロサ,マヌエル
【審査官】
安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−206101(JP,A)
【文献】
特開2003−220019(JP,A)
【文献】
特開2004−167080(JP,A)
【文献】
米国特許第06305804(US,B1)
【文献】
特開2009−106532(JP,A)
【文献】
特開2010−158279(JP,A)
【文献】
特開2006−263127(JP,A)
【文献】
特開平09−313447(JP,A)
【文献】
特開2007−330557(JP,A)
【文献】
特開2011−179994(JP,A)
【文献】
特表2008−513067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/16
A61B 5/06−5/22
G01N 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体のヘモグロビン(Hb)の測定方法であって、
(a)眼底を撮影したカラー画像の比色分析を用いて視神経乳頭(10)を特定し、視神経(10)の網膜中心血管(11)と該中心血管を取巻く眼球の組織(12)とを特定する工程と、
(b)上記視神経乳頭(10)を通る網膜中心血管(11)内の反射された赤の光(R)の量を測定して、第1の測定値を確定し、この量をヘモグロビン(Hb)の最大参照値とする工程と、
(c)上記視神経乳頭(10)の組織(12)内の赤(R)の反射光の量を測定して、第2の測定値を確定する工程と、
(d)上記視神経乳頭(10)の組織(12)内のヘモグロビン(Hb)量を定量するために、第1および第2の測定値を比較し、第1の測定値または第2の測定値のうちの一方の測定値と、第2の測定値または第1の測定値のうちの他方の測定値との比率としてヘモグロビン(Hb)量を取得する工程と、
を含むことを特徴とするヘモグロビンの測定方法。
【請求項2】
上記視神経(10)の眼底のカラー画像は、専用の撮影装置によって撮影されたものであることを特徴とする請求項1に記載のヘモグロビン(Hb)の測定方法。
【請求項3】
上記第1の測定値および上記第2の測定値を、上記撮影されたカラー画像の頻度ヒストグラムから取得することを特徴とする請求項1に記載のヘモグロビン(Hb)の測定方法。
【請求項4】
上記第1の測定および上記第2の測定を実施する際に、赤(R)、緑(G)、および青(B)の各原色の反射光の強度を取得することを特徴とする請求項1に記載のヘモグロビン(Hb)の測定方法。
【請求項5】
上記第2の測定値を、頻度ヒストグラムによって決定することを特徴とする請求項1に記載のヘモグロビン(Hb)の測定方法。
【請求項6】
上記第2の測定値を、上記撮影された画像の各点である画素ごとの特定の分析によって決定することを特徴とする請求項1に記載のヘモグロビン(Hb)の測定方法。
【請求項7】
視神経乳頭(10)の組織(12)内のヘモグロビン(Hb)量の定量を、下記式を用いて取得することを特徴とする請求項4に記載のヘモグロビン(Hb)の測定方法。
Hb量(%)=第1の測定(組織)/第2の測定(血管)×100
【請求項8】
ヘモグロビン(Hb)の測定装置であって、
眼底のカラー画像を撮影する手段と、
上記撮影した画像内で、視神経(10)の網膜中心血管(11)、およびこれらの血管(11)を取巻く眼球の組織(12)を特定する手段と、
視神経乳頭(10)を通る上記網膜中心血管(11)内、および上記組織(12)内の赤(R)の反射光量を測定する手段と、
上記血管(11)内の反射光量と、上記組織(12)内の反射光量とを比較する手段と、
上記組織からの反射光の測定値を、視神経乳頭(10)を通る中心血管(11)内からの反射光の測定値で割ることによって得られた比率として、視神経乳頭(10)の組織(12)内のヘモグロビン(Hb)量を推定する手段と、
を備えることを特徴とするヘモグロビン(Hb)の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の目的〕
本発明は、眼科学および検眼の分野に関し、より具体的には、網膜および視神経の疾病の診断に関する。
【0002】
本発明の主な目的は、特に緑内障をモニタリングおよび診断するために利用される、視神経乳頭内のヘモグロビン量を測定するための方法および装置を提供することにある。
【0003】
〔背景技術〕
緑内障は、視神経の眼潅流圧の影響から主に起こることが、一般に知られている。現在、インビボでの酸素測定は、画像分光法を用いた独立した実験に限られており、単色光システム、または、公知の照明または検出における分光組成法に基づいている。つまり、生体内の酸素測定は分光学の分野に属している。
【0004】
視神経円板または視神経乳頭の画像の分光分析は、含有されたヘモグロビンの「酸化」を測定するために主に利用されてきた。網膜および視神経乳頭の血管中の酸素飽和度を測定するためのこれらの技術は、本技術分野において長年にわたり広く知られてきた。これらの従来技術は、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの吸収が等しい(等吸収点)スペクトルの特定域内の反射光を測定し、吸収に違いがある他の領域の吸収と該測定結果を比較することに基づいている。
【0005】
より具体的には、Hickamら(1959)は、510nmおよび640nmのフィルターを使用して、2つの反射像(640/510)間の比率を計算した。その後、Laingら(1975)は、470〜515nmおよび650〜805nmの波長のフィルターを使用し、写真のネガを濃度計で数値化した。その後、Delori(1988)は3つの波長(558、569、および586nm)を使用し、Kockら(1993)は、660nmおよび940nmのLED装置を使用して940/660の比率を計算した。
【0006】
Beachら(1999)およびCrittinら(2002)の研究者は、600/569の比率を利用して、バックグラウンドを除いてから酸素飽和度を測定した。Schweitzerら(1999)は、網膜撮影機(眼底カメラ)のCCDセンサの前に画像の分光器を設置して、網膜内の動脈および静脈のスペクトルを得た。
【0007】
また、Bahram Khoobehiら(WO2005/092008)は、主に545nm〜570nmの間のスペクトルの異なる点の分析(ハイパースペクトル分析)を利用して、麻酔をかけられた動物の視神経の血管中および組織中の酸素飽和度の変化を測定した。Baptistaら(2006)およびDennisら(2011)によって、可変フィルターを用いて得られた単色光のシーケンシャル照明の利用にてインビボでヒトに適用される同様の方法が開発された。
【0008】
上記で引用したすべての分光分析法は、酸素飽和度が求められる血液量(ヘモグロビン量)の厳密な値を無視しているため、得られた結果は、計測が行われた血液量を直接反映していない、という欠点がある。そのため、これらの方法で得られた画像は、潅流が不十分の領域(萎縮した領域または血管組織がほとんどない領域)と、神経網膜辺縁部等の潅流が十分な領域とを明確に区別することができない。
【0009】
上述した点に関して、組織の潅流(組織への酸素供給)は、該組織の酸化と同程度またはそれ以上に、確実に血液量に左右されることに留意すべきである。そのため、これらの既存の方法では、視神経潅流の完全かつ十分な情報が得られない。したがって、ヘモグロビンの酸素飽和度を求めるだけでなく、視神経内に存在するヘモグロビン量も求める必要がある。
【0010】
〔発明の概要〕
本発明は、上述した課題を解決し、視神経の潅流領域と非潅流領域とを特定および明確に区別することを可能とする、視神経組織内、より具体的には視神経乳頭のヘモグロビン量の測定方法および測定装置を提供し、それによって、緑内障に関する疾病あるいは緑内障をモニタリングおよび診断する非常に有用かつ有益な手段を構築する。さらに、本方法は、老化したまたは「白内障」の水晶体を有する患者の水晶体透明度の損失の影響を考慮することが可能なので、ヘモグロビンの概算およびヘモグロビンの総量の最終結果に影響することなく分光吸収および光拡散の影響が補正される。
【0011】
個体の「生体外」のヘモグロビン(Hb)の測定方法が本発明の目的であり、この方法は、専用のカメラ(眼底カメラまたは網膜撮影機)を用いて得られた眼底のデジタル画像内の赤、青、緑(R、G、B)の原色の特定に主に基づく。この色の特定を介して、動脈、静脈、神経網膜環等の視神経の異なる部分のヘモグロビン量を定量することが可能となり、最終的に視神経乳頭に存在する視神経組織の色の性質と、ヘモグロビン量との間の直接的な関係を構築する。その結果、緑内障に関する疾病の診断が可能になる。
【0012】
眼底の他の領域と異なり、視神経乳頭は赤色の性質をもたらす1つの色素のみを大量に含有しており、この色素が血管内でヘモグロビンになる。別の重要な特徴は、視神経乳頭の組織は、篩板の後方の神経線維の軸索を取巻く「ミエリン」によって構成される白地上の比較的薄い層であることである。そのため、視神経乳頭の色は、該視神経乳頭が含有するヘモグロビンによって本質的に左右される。
【0013】
さらに、視神経乳頭は2種類の血管、具体的には、視神経乳頭へ潅流し、神経の栄養摂取と関係のない網膜中心動脈および網膜中心静脈の分枝である大血管と、栄養摂取および酸化を担い、視神経組織の残りの部分に存在する小血管および毛細血管のネットワークと、を有している。
【0014】
したがって、ヘモグロビンの赤色は、可視スペクトルの短波長光の優先的吸収、および長波長の低吸収に左右される。短波長光の吸収が増えた場合に、特にヘモグロビン量がより多く現れる。ヘモグロビンによるいくつかの波長光(赤)の総吸収量が減少しても、吸収は酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとで異なるので、下記に見られるように、両者を区別することが可能である、ということが明らかにされるべきである。
【0015】
様々な技術(CCD、CMOS等)を用いた眼底の画像の撮影装置(写真用カメラまたはビデオカメラ)は、可視分光の様々な波長の反射光量を測定する。例えば、同じ画像内の3つの画像または3つの色組成を捉える検知器(1つは青(B)、もう1つは緑(G)、3つ目は赤(R)に焦点を当てる)を用いると、ヘモグロビンの濃度が高い領域では、反射光は主に赤(R)であり、緑(G)がはるかに少なく、青(B)がさらに少ないことが分かる。反対に、ヘモグロビン(Hb)濃度が低い領域では、緑(G)および青(B)の反射光が特に大きく増加するのが観測される。
【0016】
より具体的には、本発明のヘモグロビン(Hb)の測定方法は、
眼底を撮影したカラー画像の比色分析を用いて視神経乳頭を特定し、視神経の網膜中心血管と該中心血管を取巻く眼球自体の組織とを特定する工程と、
上記視神経乳頭を通る上記網膜中心血管内の反射された赤の光(R)の量を測定して、第1の測定値を確定し、この量をヘモグロビン(Hb)の最大参照値として確定する工程と、
上記眼球自体の組織内の反射された赤の光(R)の量の測定として、第2の測定値を確定する工程と、
上記視神経乳頭の組織内のヘモグロビン(Hb)量を定量するために第1および第2の測定値を比較し、第2の測定値に対する第1の測定値の比率としてヘモグロビン(Hb)量を得る工程、とを含む。
【0017】
好ましい実施形態によると、(a)工程の比色分析による特定は、MATLABに基づいたソフトウェアプログラムによって実施される。
【0018】
上記第1の測定値および上記第2の測定値が、撮影されたカラー画像の頻度ヒストグラムから得られることも好ましい。上記測定値が、赤(R)、緑(G)、および青(B)の各原色の反射光の強度を含むことが好ましい。
【0019】
上記第2の測定値を、上記撮影された画像の各点である画素ごとの頻度ヒストグラムまたは分光分析のいずれかによって決定することが可能であると考えられる。
【0020】
本発明の別の目的によると、ヘモグロビン(Hb)の測定装置は、以下の記載のように、基本的には、
視神経の眼底のカラー画像を撮影する手段と、
視神経の網膜中心血管、およびこれらの血管を取巻く眼球の組織を特定する手段と、
視神経乳頭を通る上記網膜中心血管内および上記組織内の、赤(R)の反射光量を測定する手段と、
上記血管内の反射光量と、上記組織内の反射光量とを比較する手段と、
上記視神経乳頭を通る上記網膜の上記中心血管からの反射光量の測定値と上記組織からの反射光量の測定値の比率として、上記視神経乳頭の上記組織内のヘモグロビン(Hb)量を推定する手段と、を備えている。
【0021】
したがって、酸素測定法で用いられる「分光」分析法に対して、本発明の上記方法は、画像を撮影する時に用いられる入射光の分光組成についての事前知識を必要としない「比色」分析に基づくものである。また、使用される写真用カメラの画像の分光曲線を得る必要もなく、等吸収点の特定の波長を用いる必要もないことから、本方法は有用性、操作性、および適用可能性という点において有利である。
【0022】
最後に、本方法による結果は、爪の酸素測定によって補正でき、全体の潅流による影響の概算(血液量および酸化)を得ることができる。
【0023】
したがって、注目すべきことに、本発明は、視神経乳頭内のヘモグロビンを測定する方法であって、照明システムの強度および分光組成、水晶体の老化によって生じる異なる波長の吸収の変化、水晶体の光拡散の影響、並びに使用される検出装置の分光感度特性等の視神経の画像の色に影響を与える異なる変数を補正可能な方法を提供する。
【0024】
〔図面の簡単な説明〕
本明細書を補足し、実用的な実施形態の好ましい一例に基づいて本発明の特徴についての理解を助ける目的で、本明細書には以下の一連の図が添付されているが、単に例示目的であり、本発明を限定するものではない。
【0025】
図1は、視神経乳頭の断面を示す概略図である。
【0026】
図2は、視神経乳頭内の血管の種類を示す、網膜撮影機によって得られた患者の眼底の画像に見られる視神経の概略図である。
【0027】
図3A、3B、3C、3Dは、様々な視神経組織内の赤、緑、青(R、G、B)の原色の特徴を示す頻度ヒストグラムである。
【0028】
図4A、4Bは、白内障の手術前の視神経乳頭を通る網膜中心血管によって反射した光の水晶体による拡散および吸収の影響を示す頻度ヒストグラム、および手術後の、上記水晶体の影響が抑制された、上記ヒストグラムと同じヒストグラムである。
【0029】
図5A、5Bは、白内障の手術前の視神経の組織によって反射した光の水晶体による拡散および吸収の影響を示す頻度ヒストグラム、および手術後の、白内障の水晶体の影響が除去された、上記ヒストグラムと同じヒストグラムである。
【0030】
〔発明の好ましい形態〕
上で列挙した図面を参照して、好ましい実施形態の一例を下記に記載するが、これは本発明の保護範囲を限定することを意図するものではない。
【0031】
具体的には、
図1は、ミエリン(20)を含有し視神経(10)線維の軸索を取巻く別の白い層上に構築された薄膜によって構成される視神経乳頭(10)の組織を示しており、ここでは、視神経線維が脳に向かって篩板(30)を通っている状態である。したがって、視神経乳頭(10)の色は、基本的に該視神経乳頭(10)が含有するヘモグロビン(Hb)量に左右される。つまり、ヘモグロビン(Hb)の赤(R)の色の性質は、ヘモグロビンが可視スペクトルの短波長光の吸収が多く、長波長(緑(G)および青(B))の吸収が少ないことによる。
【0032】
図2は、専用の撮影装置によって撮影された、個体の眼底に見られる視神経乳頭(10)の画像を概略的に示している。この眼底の画像において、視神経乳頭(10)内には2種類の血管、具体的には、(a)網膜の潅流が主な機能であり、視神経(10)の栄養摂取と関係のない網膜中心静脈または網膜中心動脈の分枝であるいくつかの大血管(11)と、(b)栄養供給および酸素供給を行う視神経(10)組織の残りの部分全体に存在する微細な血管(12)および毛細血管のネットワークと、を有している。
【0033】
より具体的には、この眼底の画像に対応する頻度ヒストグラムによって、赤(R)、緑(G)、および青(B)の3原色の反射光の異なる強度を定量することが可能である。本発明では、得られたヒストグラムは、
図3A〜
図5Bに示すように、0〜255の階調で作成されており、0が最小光量の値で、255が最大である。これらのヒストグラムは上記画像の各領域の明確な特徴を示している。
図3Aに示す動脈のヒストグラムでは、赤(R)の反射光ははるかに多く、緑(G)ははるかに少なく、青(B)はさらに少ない。反対に、
図3Bに示すように、静脈は酸化ヘモグロビン(Hb)の含有量が少ないので、赤(R)の反射光は少なく、青(B)と緑(G)はほぼ同量で殆ど無い。
【0034】
また、
図3Cの頻度ヒストグラムは、神経網膜環等の視神経(10)組織のいくつかの領域を示しており、該領域はヘモグロビン(Hb)が少ないので、網膜中心血管よりも多くの青(B)および緑(G)を反射する。ヘモグロビンの量が少なければ少ないほど、緑(G)および青(B)の反射量が多くなる。
【0035】
最後に、
図3Dは、血管組織が萎縮または欠損した領域(陥凹または空洞)では、青(B)および緑(G)色の割合が著しく増加していることを示しており、該領域は画像内で白く見える。
【0036】
白い容器内にて異なる濃度または密度で希釈した赤血球を用いて、この方法で取得した写真画像によってヘモグロビン量を定量できることを、実験で証明することが可能である。眼底用に使用したものと同様の画像取得システムを用いて取得した、赤、緑、および青(R、G、B)の原色の量を操作して、R−G、R−B、R−(G+B)、(R−G)/R、R+B−(2G)、(R−G)/G等の様々な式による結果が、ヘモグロビン(Hb)量に比例してほぼ直線状になっていることが確認できる。
【0037】
また一方で、視神経(10)組織の明確で再現性のある値を得るために、参照基準を確立する必要がある。これは、これらの式の結果が、神経内に存在するヘモグロビン(Hb)の量または体積に左右されるだけでなく、入射光の強度および分光組成、ならびに水晶体による吸収にも左右され、それが短波長光(青紫)に根本的に影響し、緑の程度が減少するので、参照基準を確立する必要性が生じるからである。上記参照値は同じ変数にしなければならないので、眼内での値にする必要がある。
【0038】
網膜の大中心血管(11)のヘモグロビン(Hb)量は、視神経(10)組織のヘモグロビン(Hb)の定量によって、最大かつ一定であると考えられるので、この参照値は、上記大中心血管が視神経乳頭(10)を通る時の網膜の大中心血管(11)内にて見出された。したがって、血管(11)の色の特性の代表値は、下記に記載の方程式中の下の分母に位置する。
【0039】
つまり、視神経乳頭(10)の各点または各領域のヘモグロビン(Hb)量は、組織(12)および血管(11)の色の性質を明らかにするために、同一の式を用いて測定可能である。そのため、上記組織の各点のヘモグロビン(Hb)量は、第1の測定(組織)の第2の測定(血管)に対する割合として示される。
【0040】
Hb量(%)=第1の測定(組織)/第2の測定(血管)×100
本発明でR=255となる組織内の飽和状態の赤の画素、または好ましい実施形態でB=0となる血管内の露出不足の画素の存在によって得られる結果が変わってしまうことを考慮すると、結果を補正するためには、画像を露出過剰または露出不足にしてはならない。したがって、専門家は、画像が適切であるか、またはより高い、あるいはより低い照度を適切に用いて再度撮影すべきかをユーザに示すために、該画像を撮影後すぐに分析するべきである。
【0041】
上記を行うために、実際には、撮影装置または網膜撮影機によって撮影された眼底の画像に、数学的アルゴリズムを適用して構成要素を区分し、網膜の大中心血管(11)および視神経(10)の乳頭端部を特定する。その結果、専門家は得られた結果の裏付け、および手動での補正を行うことが可能となる。この方法では、視神経乳頭(10)の2つの主な領域、具体的には、大中心血管(11)と、神経節細胞および栄養血管の軸索から主に成る網膜の組織(12)と、が明確になる。
【0042】
次に、選択された数式の値を計算する。本実施形態では、赤(R)の要素の値から緑(G)の要素の値を引き、このR−Gの数式を血管(11)に対応する頻度ヒストグラムの画素に当てはめ、その結果を組織(12)内のヘモグロビン(Hb)量を計算するための参照値とする。
【0043】
最後に、組織(12)の頻度ヒストグラムの画素において、R−Gの差を計算し、該R−Gの差を血管(11)のR−Gの値で割り、その結果に100を掛ける。この方法で、入射光の分光組成の強度の変化が補正される。最終的に、ヘモグロビン(Hb)の濃度は、疑似カラー画像、頻度ヒストグラム、平均領域濃度等として示される。
【0044】
上記の全てに加え、考慮しなければならない重要な要素は、眼底の画像内における、水晶体によって生じた色の変化の補正である。これは、水晶体の老化が進むと、該水晶体は、短波長の放射線の青(B)を主に吸収し、緑(G)の程度が減少するためである。この変化が、血管(11)と組織(12)との色の性質に影響するが、上記補正によって、ヘモグロビン(Hb)量の計算に大きな変更が生じることはない。しかし、白内障の症状としての水晶体の透明度の損失によっても、眼底の画像内の光の拡散が増加し、それによって、組織(12)から光が到達すると、血管(11)の緑(G)の要素が増加する。
【0045】
より具体的には、
図4Aは白内障の患者の血管(11)の頻度ヒストグラムを示している。
図4Aでは、赤(R)と緑(G)の要素間の距離(D1)が短くなり、青(B)と緑(G)の要素間の距離(D2)が長くなっている。
図4Bは、上記患者の白内障の手術後の頻度ヒストグラムを示している。
図4Bは、拡散が減少した結果、緑(G)の要素が減少したことによって、水晶体による吸収が除去された時の青(B)の要素の値の増加を示しており、この結果、赤(R)と緑(G)の要素間の距離(D3)が長くなっている。ここでの原色(R、G、B)の要素の増加または減少は、頻度ヒストグラムの横軸に対して示されていることに留意すべきである。
【0046】
図5Aおよび5Bは、組織(12)の頻度ヒストグラムにおいて、同等の現象が生じていることを示している。白内障の患者の頻度ヒストグラムでは、緑(G)および青(B)の要素の拡散および吸収によって、赤(R)と緑(G)の要素間の距離(D4)、および緑(G)と青(B)の要素間の距離(D5)がそれぞれ長くなり、それが増加した距離(D4)において血管からの光の拡散による赤(R)の要素を増加させる一因にもなってしまう(
図5A参照)。補正が行われない場合、この問題を引き起こす相対的に赤くなった画像により、組織内のヘモグロビン(Hb)量を過大に推定してしまう。
【0047】
図5Bの頻度ヒストグラムは、上記白内障の患者の手術の時の、赤(R)と緑(G)の要素間の距離(D6)、および、緑(G)と青(B)の要素間の距離(D7)が、対応する距離(D4、D5)と比較して減少していることを示しており、その結果、この領域はより白く見える。
【0048】
血管(11)および組織(12)への水晶体の両方の影響は比例するので、血管(11)の頻度ヒストグラムの緑(G)と青(B)との間の距離(D2)の計測により、組織(12)への水晶体の吸収−拡散の影響の度合いの見積もりを導き出すことができる。その結果、ヘモグロビン(Hb)量の概算への水晶体の吸収−拡散の影響を補正することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図2】視神経乳頭内の血管の種類を示す、網膜撮影機によって得られた患者の眼底の画像に見られる視神経の概略図である。
【
図3A】視神経組織内の赤、緑、青(R、G、B)の原色の特徴を示す頻度ヒストグラム。
【
図3B】別の視神経組織内の赤、緑、青(R、G、B)の原色の特徴を示す頻度ヒストグラムである。
【
図3C】さらに別の視神経組織内の赤、緑、青(R、G、B)の原色の特徴を示す頻度ヒストグラムである。
【
図3D】またさらに別の視神経組織内の赤、緑、青(R、G、B)の原色の特徴を示す頻度ヒストグラムである。
【
図4A】白内障の手術前の、視神経乳頭を通る網膜中心血管によって反射した光の水晶体による拡散および吸収の影響を示す頻度ヒストグラムである。
【
図4B】水晶体の影響が抑制された、手術後の、白内障の手術前の視神経乳頭を通る網膜中心血管によって反射した光の水晶体による拡散および吸収の影響を示す頻度ヒストグラムである。
【
図5A】白内障の手術前の、視神経の組織によって反射した光の水晶体による拡散および吸収の影響を示す頻度ヒストグラムである。
【
図5B】白内障の水晶体の影響が除去された、手術後の、視神経の組織によって反射した光の水晶体による拡散および吸収の影響を示す頻度ヒストグラムである。