特許第5960910号(P5960910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960910
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】生体留置物デリバリーシステム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/95 20130101AFI20160719BHJP
   A61M 25/098 20060101ALI20160719BHJP
   A61F 2/82 20130101ALI20160719BHJP
【FI】
   A61F2/95
   A61M25/098
   A61F2/82
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-509636(P2015-509636)
(86)(22)【出願日】2013年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2013059851
(87)【国際公開番号】WO2014162398
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】川島 善夫
【審査官】 鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/034639(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第2198805(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/95
A61F 2/82
A61M 25/098
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺に延在するシャフト部と、
前記シャフト部の先端側に設けられて生体内に留置される生体留置物と、
前記生体留置物の基端側および先端側の少なくとも1方に設けられる造影性を備えた造影用マーカーと、を有し、
前記造影用マーカーは、前記シャフト部の軸方向位置において前記生体留置物と重なる位置または前記生体留置物の縁部と一致する位置から当該生体留置物に対して離れる離間方向へ前記生体留置物と重ならない位置まで配置され、当該離間方向側の曲げ剛性が、前記生体留置物と近接する側の曲げ剛性よりも低い生体留置物デリバリーシステム。
【請求項2】
前記シャフト部の外面に拡張可能に設けられ、前記生体留置物が装着されて当該生体留置物を拡張させるバルーンをさらに有する請求項1に記載の生体留置物デリバリーシステム。
【請求項3】
前記造影用マーカーは、前記離間方向へ向かって曲げ剛性が傾斜的に低下する請求項1または2に記載の生体留置物デリバリーシステム。
【請求項4】
前記造影用マーカーは、前記生体留置物の基端側に設けられる請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体留置物デリバリーシステム。
【請求項5】
前記造影用マーカーは、前記離間方向へ向かって巻回ピッチが広がるコイルにより形成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体留置物デリバリーシステム。
【請求項6】
前記造影用マーカーは、曲げ剛性を低下させるための孔およびスリットの少なくとも一方が形成された管状部材である請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体留置物デリバリーシステム。
【請求項7】
前記生体留置物は、ステントである請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体留置物デリバリーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばステント等の生体内に留置される生体留置物を、血管、胆管、気管、食道、尿道等の生体管腔を介して搬送するための生体留置物デリバリーシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば心筋梗塞や狭心症の治療では、冠動脈の病変部(狭窄部)にステント(生体留置物)を留置して、冠動脈内の空間を確保する方法が行われており、他の血管、胆管、気管、食道、尿道、その他の生体管腔に形成された狭窄部の改善についても同様の方法が行われることがある。ステントは、機能および留置方法によって、バルーン拡張型ステントと、自己拡張型ステントとに区別される。
【0003】
バルーン拡張型ステントは、ステント自体に拡張機能がなく、ステントを目的部位に留置するために、バルーンカテーテルが使用される。バルーンカテーテルは、通常、長尺なシャフト部と、シャフト部の先端側に設けられて径方向に拡張可能なバルーンとを備えており、ステントは、収縮されているバルーンの外面に装着される。ステントを目的部位に留置する際には、ステントが装着されたバルーンを、細い生体管腔を経由して体内の目的場所まで到達させた後に拡張させることで、バルーンの拡張力によってステントを塑性変形させつつ拡張させて、目的部位の内面に密着させて固定する。
【0004】
このようなカテーテルには、通常、ステントの位置をX線透視下で視認できるように、ステントの基端側のシャフト部にX線造影用のマーカーが取り付けられる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/034639号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のバルーンカテーテルでは、造影用マーカーが、シャフト部の軸方向位置においてステントと重ならない位置に設けられており、硬い造影用マーカーとステントの間や、造影用マーカーの基端側でカテーテルがキンクして挿通性が低下するとともに、場合によっては、キンクによってステントが部分的に広がり、脱落する虞が生じる。
【0007】
また、硬い造影用マーカーの先端側の一部を、軸方向位置においてステントと重なる位置に設け、造影用マーカーの基端側の一部を、軸方向位置においてステントと重ならない位置に設けることで、造影用マーカーの一部がステントに入り込む構成とし、硬い造影用マーカーとステントの間のキンクを抑制することもできるが、このようにしても、造影用マーカーの基端側でカテーテルのキンクが生じ得る。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、造影用マーカーの端部で生じ得るキンクの発生を抑制でき、挿通性および安全性を向上できる生体留置物デリバリーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る生体留置物デリバリーシステムは、長尺に延在するシャフト部と、前記シャフト部の先端側に設けられて生体内に留置される生体留置物と、前記生体留置物の基端側および先端側の少なくとも1方に設けられる造影性を備えた造影用マーカーと、を有し、前記造影用マーカーは、前記シャフト部の軸方向位置において前記生体留置物と重なる位置または前記生体留置物の縁部と一致する位置から当該生体留置物に対して離れる離間方向へ前記生体留置物と重ならない位置まで配置され、当該離間方向側の曲げ剛性が、前記生体留置物と近接する側の曲げ剛性よりも低い生体留置物デリバリーシステムである。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した生体留置物デリバリーシステムは、造影用マーカーが、生体留置物と重なる位置または生体留置物の縁部と一致する位置から生体留置物に対して離れる離間方向へ生体留置物と重ならない位置まで配置されているため、軸方向位置において造影用マーカーとステントの間に隙間が生じずキンクを抑制できるとともに、造影用マーカーの離間方向側の曲げ剛性が、生体留置物と近接する側の曲げ剛性よりも低いため、造影用マーカーよりも離間方向側においても、造影用マーカーからの曲げ剛性の極端な変化を低減させてデリバリーシステムのキンクを抑制でき、挿通性および安全性を向上できる。
【0011】
前記シャフト部の外面に拡張可能に設けられ、前記生体留置物が装着されて当該生体留置物を拡張させるバルーンをさらに有するようにすれば、バルーンを有するシステムにおいて、造影用マーカーの端部で生じ得るキンクの発生を抑制できる。
【0012】
前記造影用マーカーは、前記離間方向へ向かって曲げ剛性が傾斜的に低下するようにすれば、造影用マーカーの曲げ剛性を滑らかに変化させて、造影用マーカーの離間方向側でのデリバリーシステムのキンクの発生をより効果的に抑制できる。
【0013】
前記造影用マーカーは、前記生体留置物の基端側に設けられるようにすれば、曲げ応力が作用しやすいステントの基端側におけるキンクを、効果的に抑制できる。
【0014】
前記造影用マーカーは、前記離間方向へ向かって巻回ピッチが広がるコイルにより形成されるようにすれば、曲げ剛性が段階的または傾斜的に変化する造影用マーカーを容易に形成できる。
【0015】
前記造影用マーカーは、曲げ剛性を低下させるための孔およびスリットの少なくとも一方が形成された管状部材であるようにすれば、曲げ剛性が段階的または傾斜的に変化する造影用マーカーを容易に形成できる。
【0016】
前記生体留置物は、ステントであるようにすれば、ステントを有するシステムにおいて、造影用マーカーの端部で生じ得るキンクの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る生体留置物デリバリーシステムの平面図である。
図2】生体留置物デリバリーシステムの先端部の縦断面図である。
図3】造影用マーカーの他の例を示す平面図である。
図4】造影用マーカーのさらに他の例を示す平面図である。
図5】造影用マーカーのさらに他の例を示す平面図である。
図6】造影用マーカーのさらに他の例を示す平面図である。
図7】造影用マーカーのさらに他の例を示す平面図である。
図8】造影用マーカーのさらに他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0019】
本実施形態に係る生体留置物デリバリーシステム10は、血管、胆管、気管、食道、尿道、またはその他の生体管腔に生じた狭窄部を治療するために用いるものである。なお、本明細書では、管腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0020】
生体留置物デリバリーシステム10は、図1に示すように、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられるバルーン30と、バルーン30に装着(マウント)されるステント70(生体留置物)と、シャフト部20の基端に固着されたハブ40とを有している。
【0021】
シャフト部20は、先端および基端が開口した管状体である外管50と、外管50の内部に配置される内管60とを備えている。外管50は、バルーン30を拡張するための拡張用流体が流通する拡張用ルーメン51が内部に形成されており、内管60には、ガイドワイヤー11が挿通されるガイドワイヤールーメン61が形成されている。拡張用流体は、気体でも液体でもよく、例えば、ヘリウムガス、COガス、Oガス等の気体や、生理食塩水、造影剤等の液体が挙げられる。
【0022】
内管60は、先端部が、図2に示すように、バルーン30の内部を貫通してバルーン30よりも先端側で開口しており、基端側が、図1に示すように、外管50の側壁を貫通して、外管50に接着剤または熱融着により液密に固着されている。
【0023】
ハブ40は、図1に示すように、外管50の拡張用ルーメン51と連通して拡張用流体を流入出させるポートとして機能する基端開口部41を備えており、外管50の基端部が接着剤、熱融着または止具(図示せず)等により液密に固着されている。
【0024】
外管50および内管60は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されるのが好ましく、そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0025】
ハブ40の構成材料としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体等が好適に使用できる。
【0026】
バルーン30は、拡張することで狭窄部を押し広げるとともに、バルーンの拡張力によってステント70を塑性変形させつつ拡張させて、目的部位の内面に密着させて固定するものである。バルーン30は、拡張した際に所定の範囲を効率よく押し広げられるよう、軸方向中央部に略円筒状で形成されてほぼ同一径の筒状部31を有している。バルーン30の筒状部31の先端側には、先端側へ向かって径がテーパ状に縮小して形成される第1の縮径部32が設けられ、基端側には、基端側へ向かって径がテーパ状に縮小して形成される第2の縮径部33が設けられている。
【0027】
第1の縮径部32の先端側は、内管60の外壁面に接着剤または熱融着等により液密に固着されており、第2の縮径部33の基端側は、外管50の先端部の外壁面に接着剤または熱融着等により液密に固着されている。したがって、バルーン30の内部は、外管50に形成される拡張用ルーメン51と連通し、この拡張用ルーメン51を介して、基端側から拡張用流体を流入可能となっている。バルーン30は、拡張用流体の流入により拡張し、流入した拡張用流体を排出することにより折り畳まれた状態となる。
【0028】
バルーン30は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されることが好ましく、そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0029】
ステント70は、バルーン30の拡張力により塑性変形しつつ拡張する、いわゆるバルーン拡張型ステントであり、バルーン30の筒状部31上に収縮された状態で装着される。
【0030】
ステント70は、線材が波状に折り返しながら環状に形成される環状部71が、軸方向に複数配置され、互いに隣接する環状体71が接続されることで全体として円筒状に構成されている。そして、各環状部71の折り返し部が展開されるように塑性変形することで、径が大きくなるように拡張可能である。なお、ステントの構成は、上記の構成に限定されず、例えば網目状などの公知のものが使用できる。
【0031】
ステント70を構成する材料としては、生体適合性を有する金属が好ましく、例えば、ステンレス鋼等の鉄ベース合金、タンタル(タンタル合金)、プラチナ(プラチナ合金)、金(金合金)、コバルトクロム合金等のコバルトベース合金、チタン合金、ニオブ合金等が挙げられる。
【0032】
そして、内管60には、X線造影性または超音波造影性を有する先端側マーカー81および基端側マーカー82が固定されている。
【0033】
先端側マーカー81は、基端側の一部が、収縮された状態のステント70の先端部と軸方向位置において重なるとともに、先端側の一部がステント70とは重ならない先端方向まで延びて配置される。先端側マーカー81は、造影性を有する線材が巻回されたコイルで構成されており、基端側ほど巻回ピッチ(隣接する線材の間隔)が狭く、先端側へ向かって巻回ピッチが徐々に広くなっている。したがって、先端側マーカー81の曲げ剛性が、ステント70から離れる先端方向(離間方向)へ向かって傾斜的に低下する。先端側マーカー81の径は、0.5〜1.0mmが好ましいが、これに限定されない。先端側マーカー81のステント70と重なる部位の長さL1は、0〜1.0mmが好ましいが、これに限定されない。先端側マーカー81のステント70と重ならない部位の長さL2は、0.5〜3.0mmが好ましいが、これに限定されない。なお、重なる部位の長さL1=0mmにおいては、先端側マーカー81の基端側の縁部が、ステント70の先端側の縁部と軸方向位置において一致することを意味し、このような構成も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0034】
基端側マーカー82は、先端側の一部が、収縮された状態のステント70の基端部と軸方向位置において重なるとともに、基端側の一部がステント70とは重ならない基端方向まで延びて配置される。基端側マーカー82は、造影性を有する線材が巻回されたコイルで構成されており、先端側ほど巻回ピッチが狭く、基端側へ向かって巻回ピッチが徐々に広くなっている。したがって、基端側マーカー82の曲げ剛性が、ステント70から離れる基端方向(離間方向)へ向かって傾斜的に低下する。基端側マーカー82の径は、0.5〜1.0mmが好ましいが、これに限定されない。基端側マーカー82のステント70と重なる部位の長さL3は、0〜1.0mmが好ましいが、これに限定されない。基端側マーカー82のステント70と重ならない部位の長さL4は、0.5〜3.0mmが好ましいが、これに限定されない。なお、重なる部位の長さL3=0mmにおいては、基端側マーカー82の先端側の縁部が、ステント70の基端側の縁部と軸方向位置において一致することを意味し、このような構成も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
先端側マーカー81および基端側マーカー82の材料は、X線造影用マーカーとしては、金、白金、イリジウム、タングステンあるいはそれらの合金、銀―パラジウム合金からなる群のうち少なくともいずれか1つの金属もしくは2つ以上の合金から形成されたものが好適である。超音波造影用マーカーとしては、上述した金属の他、ステンレス鋼なども使用できる。
【0036】
次に、本実施形態に係る生体留置物デリバリーシステム10の作用を、血管に挿入して狭窄部を治療する場合を例として説明する。
【0037】
まず、血管の狭窄部を治療する前に、バルーン30および拡張用ルーメン51内の空気をできる限り抜き取り、バルーン30および拡張用ルーメン51内を拡張用流体に置換しておく。このとき、バルーン30は、折り畳まれた状態となっている。
【0038】
次に、患者の血管に、例えばセルジンガー法によりシースを留置し、ガイドワイヤールーメン61内にガイドワイヤー11を挿通させた状態で、ガイドワイヤー11および生体留置物デリバリーシステム10をシースの内部より血管内へ挿入する。続いて、ガイドワイヤー11を先行させつつ生体留置物デリバリーシステム10を進行させ、バルーン30を狭窄部へ到達させる。
【0039】
この際に、先端側マーカー81の基端側の一部が、ステント70の先端部と軸方向位置において重なっており、先端側マーカー81がステント70の先端部に入り込んだ状態となっているか、若しくはステント70の先端部の縁部と一致した状態となっているため、軸方向位置において硬いステント70と先端側マーカー81に挟まれる部位(具体的には、バルーン30及び内管シャフト60のみの部位)が存在しない。このため、例えば末梢の曲がりくねった血管に生体留置物デリバリーシステム10を通過させる際などに曲げ応力が作用する場合において、ステント70および先端側マーカー81の間における生体留置物デリバリーシステム10のキンクが抑制される。さらに、先端側マーカー81のステント70とは重ならない部位の曲げ剛性が、先端側へ向かって低くなっているため、先端側マーカー81よりも先端側において、先端側マーカー81からの曲げ剛性の極端な変化が低減されて、生体留置物デリバリーシステム10のキンクが抑制される。
【0040】
さらに、基端側マーカー82の先端側の一部が、ステント70の基端部と軸方向位置において重なっており、基端側マーカー82がステント70の基端部に入り込んだ状態となっているか、若しくはステント70の基端側の縁部と一致した状態となっているため、軸方向位置において硬いステント70と基端側マーカー82に挟まれる部位(具体的には、バルーン30及び内管シャフト60のみの部位)が存在しない。このため、例えば末梢の曲がりくねった血管に生体留置物デリバリーシステム10を通過させる際などに曲げ応力が作用する場合において、ステント70および基端側マーカー82の間における生体留置物デリバリーシステム10のキンクが抑制される。さらに、基端側マーカー82のステント70とは重ならない部位の曲げ剛性が、基端部へ向かって低くなっているため、基端側マーカー82よりも基端側において、基端側マーカー82からの曲げ剛性の極端な変化が低減されて、生体留置物デリバリーシステム10のキンクが抑制される。基端側マーカー82の近傍は、先端側マーカー81の近傍よりも曲げ応力が作用しやすいため、特に高い効果が期待される。
【0041】
このように、先端側マーカー81および基端側マーカー82によってキンクが抑制されることで、生体留置物デリバリーシステム10の挿通性を向上できるとともに、キンクによるステント70の予期しない広がりが抑えられてステント70の脱落を予防でき、安全性が向上する。
【0042】
次に、バルーン30が狭窄部に位置した状態で、ハブ40の基端開口部41より、インデフレーター、シリンジ、またはポンプ等を用いて拡張用流体を所定量注入し、拡張用ルーメン51を通じてバルーン30の内部に拡張用流体を送り込み、折り畳まれたバルーン30を拡張させる。これにより、バルーン30の筒状部31が、狭窄部を押し広げるとともにバルーン30の外周に装着されたステント70を塑性変形させながら押し広げ、狭窄部をステント70によって押し広げた状態で良好に維持することができる。
【0043】
この後、拡張用流体を基端開口部41より吸引して排出し、バルーン30を収縮させて折り畳まれた状態とする。このとき、ステント70は拡張した状態のまま狭窄部に留置される。この後、シースを介して血管よりガイドワイヤー11およびシャフト部20を抜去し、手技が終了する。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る生体留置物デリバリーシステム10は、長尺に延在するシャフト部20と、シャフト部20の先端側に設けられて生体内に留置されるステント70(生体留置物)と、ステント70の基端側および先端側に設けられる造影性を備えた先端側マーカー81(造影用マーカー)および基端側マーカー82(造影用マーカー)と、を有し、先端側マーカー81および基端側マーカー82は、シャフト部20の軸方向位置においてステント70と重なる位置またはステント70の縁部と一致する位置からステント70に対して離れる離間方向へステント70と重ならない位置まで配置され、当該離間方向側の曲げ剛性が、ステント70と近接する側の曲げ剛性よりも低くなっている。このため、先端側マーカー81とステント70の間、および基端側マーカー82とステント70の間に、軸方向への隙間が形成されずキンクを抑制できるとともに、先端側マーカー81の先端側、および基端側マーカー82の基端側においては、曲げ剛性の極端な変化が低減されて、これらの部位におけるキンクの発生をも抑制できる。これにより、生体留置物デリバリーシステム10の挿通性および安全性を向上できる。
【0045】
また、シャフト部20の外面に拡張可能に設けられ、ステント70が装着されて当該ステント70を拡張させるバルーン30をさらに有するため、バルーン30を有するシステムにおいて、先端側マーカー81および基端側マーカー82の端部で生じ得るキンクの発生を抑制できる。
【0046】
また、先端側マーカー81は、先端方向へ向かって曲げ剛性が傾斜的に低下し、基端側マーカー82は、基端方向へ向かって曲げ剛性が傾斜的に低下するため、曲げ剛性を滑らかに変化して、先端側マーカー81の先端側、および基端側マーカー82の基端側でのキンクの発生をより効果的に抑制できる。
【0047】
また、基端側マーカー82は、ステント70の基端側に設けられるため、曲げ応力が作用しやすいステント70の基端側のキンクを、効果的に抑制できる。
【0048】
また、先端側マーカー81は、先端方向へ向かって巻回ピッチが広がるコイルにより形成され、基端側マーカー82は、基端方向へ向かって巻回ピッチが広がるコイルにより形成されるため、曲げ剛性が傾斜的に変化するマーカーを容易に形成できる。
【0049】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、造影用マーカーである先端側マーカー81および基端側マーカー82の一方のみが設けられてもよい。
【0050】
また、生体内に留置される生体留置物は、ステント70に限定されず、例えば心房中隔欠損(ASD)に留置されてASDを閉鎖するためのASDクロージャー、血管内に留置されて血液中に混入した血栓等を取り除く血管フィルター等であってもよい。生体留置物を生体内に留置する際に、バルーンが不用であれば、生体留置物デリバリーシステムは、バルーンを備えなくてもよい。
【0051】
また、図3に示す変形例のように、管状部材からなる造影用マーカー90に、軸方向へ延びるスリット91,92を形成することで、曲げ剛性を変化させてもよい。この場合、長さの異なる複数のスリット91,92を形成することで、段階的に曲げ剛性を変化させることができる。また、図4に示すように、スリット101の幅を軸方向へ傾斜的に変化させることで、曲げ剛性を傾斜的に変化させることもできる。なお、このような管状部材からなる造影用マーカーは、例えば、軸方向へ延びる切れ目を有する半割れ形状(周方向に不連続な形状)で形成し、切れ目から内管60に被せた後に切れ目を閉じるように変形させることで、内管60に取り付けることができる。
【0052】
また、図5に示す他の変形例のように、管状部材からなる造影用マーカー110に、複数の孔部111〜116を形成することで、曲げ剛性を変化させてもよい。この場合、造影用マーカー110の軸方向位置に応じて、孔の大きさ、形状、および数等を変化させることで、曲げ剛性を段階的に、若しくは傾斜的に変化させることができる。
【0053】
また、図6に示すさらに他の変形例のように、造影用マーカー120を、曲げ剛性が異なる複数の部位121,122,123,124を軸方向に並べて接合して形成してもよい。このとき、例えば、第1の部位121では白金99%とし、第2の部位122では白金80%および白金よりも柔らかい(縦弾性係数の低い)銅20%の合金とし、第3の部位123、第4の部位124では、白金含有量をさらに段階的に減少させた銅との合金とすることで、曲げ剛性を段階的に変化させることができる。なお、曲げ剛性が異なる部位の数は、特に限定されない。また、材料の混合比率を造影用マーカーの軸方向に沿って無段的(傾斜的)に変化させることで、曲げ剛性を傾斜的に変化させることもできる。また、混合する材料の種類は、混合した際に造影性を発揮できるのであれば、特に限定されない。したがって、例えば樹脂に粒子状の造影性材料を混合してもよい。
【0054】
また、図7に示すさらに他の変形例のように、造影用マーカー130を、曲げ剛性の異なる複数の部位131,132,133,134を軸方向に並べ、互いに接合せずに形成してもよい。このとき、隣接する部位同士の間には、隙間が設けられても設けられなくてもよい。
【0055】
また、図8に示すさらに他の変形例のように、造影用マーカー140の肉厚を軸方向に沿って変化させて、曲げ剛性を段階的に、若しくは傾斜的に変化させることもできる。
【符号の説明】
【0056】
10 生体留置物デリバリーシステム、
20 シャフト部、
30 バルーン、
50 外管、
60 内管、
70 ステント(生体留置物)、
81 先端側マーカー(造影用マーカー)、
82 基端側マーカー(造影用マーカー)、
90,100,110,120,130,140 造影用マーカー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8