(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに連携するバランス(2)及びエスケープ車(5000)を支える少なくとも1つの固定構造(7)を有するエスケープ機構(7000)のためのパレットレバー機構(3000)であって、
前記パレットレバー機構(3000)は、前記バランス(2)及び/又は前記エスケープ車(5000)の角度的な移動を制限又は伝達するように構成し、
前記パレットレバー機構(3000)は、前記エスケープ車(5000)と連係するパレット石(3002)と、少なくとも1つの双安定可撓性要素(5)とを有し、
前記バランス(2)との前記パレットレバー機構(3000)の連係は、前記パレットレバー(3000)の第1の部分(3100)のホーン(3001)によって達成され、
前記第1の部分(3100)は、少なくとも1つの前記双安定可撓性要素(5)によって前記パレット石(3002)を支える前記パレットレバー機構(3000)の第2の部分(3200)に接続されており、
前記双安定可撓性要素(5)は、ビーム(9)がSないしZ字の形をとるようなモードで座屈が発生する少なくとも1つの予応力を与えられたビーム(9)を有し、
前記パレットレバー機構(3000)は、前記ビーム(9)に対してその中間でノードを有させるピボット(90)を有する
ことを特徴とするパレットレバー機構(3000)。
一方における前記ホーン(3001)と前記バランス(2)との間の相互作用、及び/又は他方における前記パレット石(3002)と前記エスケープ車(5000)との間の相互作用は、非接触又は少ない接触で行われ、
前記ホーン(3001)及び/又は前記パレット石(3002)の第1の表面は、前記バランス(2)及び/又は前記エスケープ車(5000)の対向する第2の表面と反発するように連係するために、磁化され又は帯電しており、
前記第2の表面は、適切な材料で作られ及び/又は相補的な手法で磁化され又は帯電している
ことを特徴とする請求項1に記載のパレットレバー機構(3000)。
一方における前記ホーン(3001)及び前記バランス(2)の間の相互作用、及び/又は他方における前記パレット石(3002)と前記エスケープ車(5000)との間の相互作用は、非接触で達成される
ことを特徴とする請求項2に記載のパレットレバー機構(3000)。
前記ホーン(3001)及び/又は前記パレット石(3002)の前記第1の表面は、前記バランス(2)及び/又は前記エスケープ車(5000)の第2の対向面と反発するように連係するために磁化されており、
前記第2の対向面は、相補的に磁化されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のパレットレバー機構(3000)。
前記ホーン(3001)及び/又は前記パレット石(3002)の前記第1の表面は、前記バランス(2)及び/又は前記エスケープ車(5000)の前記第2の対向面と反発するように連係するために帯電しており、
前記第2の対向面は、相補的に帯電している
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のパレットレバー機構(3000)。
【背景技術】
【0005】
機械的な腕時計の設計者は、可能な限り大きなパワー残量が残るように努力しており、最も困難な使用条件においても、規則性、精度及びセキュリティを確保しつつ、常に、効率を改善しようとしている。規制アセンブリーとエスケープ機構は、この課題の主役である。
【0006】
具体的には、機械的な腕時計では、エスケープはいくつかの安全基準を満たさなければならない。安全装置の1つである反トリップ機構は、バランスの角度的な拡大によって正常な回転角度が超えられることを防ぐように設計されている。
【0007】
Montres Breguet SA名義の欧州特許EP1801668B1は、機構の構造がバランススタッフにマウントされたピニオンを有するような機構を提案している。このピニオンが歯車と噛み合い、その少なくとも1つのスポークは、バランスがその正常な回転角度を超えて駆動する場合に固定止めに当接する。しかし、この機構はバランスの慣性に影響し、その振動を妨げることがある。また、機構を形成するギアには摩擦があり、これも規制機構を妨げる。
【0008】
Montres Breguet SA名義の欧州特許出願EP1666990A2は、バランスばねの伸びに基づいた別の反トリップ機構を開示しており、これにおいて、バランスばねの外側コイルに固定されるロッキングアームが、バランスと一体化されたフィンガーと、バランス棒と一体化された2つのカラムの間に挿入される。その正常な作動角度を超えてバランスばねが過度に伸びる場合にのみロックが発生する。この機構は、回転角度を一方の回転方向に制限するのみである。
【0009】
Nivarox名義の欧州特許出願EP2450756A1は、エスケープ機構用の反トリップデバイスであって、バランスと一体化されたカムパス内を運動するフィンガーを支えるピボット回転する車セットを有するものを開示している。このピボット回転する車セットは、双安定のレバー、特に、弾性的な双安定のレバーを備えたアームを有することがある。
【0010】
Enzler−Von−Gunten名義の欧州特許出願EP2037335A2は、パレット石及びパレットフォークが設けられた2つのアームを有するパレットレバーを開示しており、このアセンブリーは、2つの可撓性を有する固定用アームと単一片で作られており、この固定用アームは、パレットレバーの仮想的なピボット軸を定め、パレットレバーが曲がる際にピボット回転することを可能にし、これらの2つの細長片の中央の軸は、仮想軸線上で交差している。
【0011】
Rolex名義の国際特許出願WO2011/120180A1は、ブレーキレバーを備えたエスケープ車をロックするデバイスを開示しており、これは、仮想ピボットを定めるために2つの弾性要素及びブレーキレバーに横方向に作用する第3の弾性要素によって少なくともフレームにつながれた2個のパレット石を有する。
【0012】
Fragniere名義のスイス特許出願CH703333A2は、フォークとピボット軸の間で双安定の戻しばねがレバーアームに固定されたパレットレバーを開示している。
【0013】
Nivarox名義の国際特許出願WO2013/144236は、可動フレームが可撓性双安定細長片によって支えられた可撓性を有するエスケープ機構を開示している。
【0014】
Blancpain名義の欧州特許出願EP2431823A1は、磁化又は帯電された対向面を備えたレバーエスケープを開示している。
【0015】
FAR名義のフランス特許出願FR2258656A1は、クリック機構を備えたレバーエスケープを開示しており、これにおいて、パレットレバーと一体化された可撓性要素に磁場が与えられる。
【0016】
まとめると、既知の安全装置は、それぞれ以下のような再現することができる課題を少なくとも1つ有する。すなわち、規制メンバーの慣性が変わることによって振動が妨げられること、摩擦の影響の下で効率に悪影響を及ぼすこと、あるいは回転角度が一方の回転方向のみに制限されることである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る計時器用リミッター又は伝達機構の概略正面図を示す。これは、本発明に係る反トリップ機構の形態で作られており、ムーブメントの構造に固定され、この図においては2つのアームであるいくつかのアームの1つを介して交互に連係しており、バランスのピンを備えている。
【
図2】
図1と同様な機構の同様な図であるが、緩衝機構が加わっている。
【
図3】組み込まれたビームの3つの状態についての概略図を示す。すなわち、図中、3Aは安静モード、3BはC字形座屈の第1のモード、3CはSないしZ字形座屈の第2のモードである。
【
図4】可撓性ピボットの作用の下で前記3Cで示した第2のモードで座屈が発生している、組み込まれ予応力を与えられたビームの概略正面図を示す。
【
図5】単一片の実施形態において、ビームが偏心ねじによって予応力を与えられ座屈が発生するような、
図4の原理による本発明の実施形態の概略正面図を示す。
【
図6】
図6は、予応力の付与がケイ素フレームにおける酸化ケイ素製の袋状部によって達成されるような
図5の変種を示す。
図6A、6Bは、ケイ素の酸化の前後の断面の大きな差がある領域の詳細を示しており、これは、二酸化ケイ素が形成された後には大きく変更されており、小さな断面のまっすぐなビームが座屈応力を与えられている。
【
図7】
図7は、並列の酸化されたケイ素ビームのネットワークと、単一の予応力を与えられた座屈が発生しているビームの間の座屈抵抗の差を使用する別の予応力を与える原理を示す。
図7A、
図7B、
図7Cは、ビームを酸化させて座屈を発生させる方法の連続ステップを示す。
【
図8】可撓性緩衝領域を有する反トリップ止めアームを有する変種を示す。
【
図9】本発明に係る反トリップデバイスを備えたムーブメントを有する腕時計の形態の計時器についての部分的な概略図を示す。
【
図10】反トリップ機構の仮想的な双安定ピボットが移動することができる構成を示す。
【
図11】バランスピンの平面において反トリップシステムのアームを保持するために少なくとも2つの高さレベルを有する反トリップ機構の詳細を示す。すなわち、アームが前記ピンと連係する上側の第1のレベルと、ガードピンがバランスの切り欠きと連係する、より低い第2のレベルである。
【
図12】
図7Aの構造の変種において、ケイ素の酸化によって変形することができる構造である。
【
図13】本発明に係る反トリップ機構を作るための単結晶石英構造の断面図を示す。
【
図14】点線に沿った断面で垂直方向の向きに位置する磁石によって行われる反トリップ機構のバランスピンとアームの間の反発機能を有する本発明の機構を示す。
【
図15】磁場の平面を向いている同様な実施形態を示す。
【
図16】
図10と同様な概略図であるが、ムーブメントが任意の種類であって双安定であるような、より一般的な場合についての図である。
【
図17】
図17A及び17Bは、コイルにおいて酸化物の成長との遭遇 (の前及び後に)によって発生する予応力を示す。
【
図18】
図18A及び18B(及び
図19A及び19Bにおけるその詳細)は、酸化ケイ素成長時(の前及び後)にジグザグ輪郭の頂角を開くことによって得られた予応力を示す。
【
図20】
図20A及び20Bは、非常に低い曲率半径の領域における酸化された壁の曲率半径を変えること(の前及び後)によって得られた角度変化を示す。
【
図21】単一の質量の両端と連係する可撓性双安定細長片についての概略図である。
【
図22】計時器用リミッター又は伝達機構がバランスとエスケープ車の間のパレットレバー機構であるような別のアプリケーションの平面図を示す。
【
図23】パレットレバーの2つの部分間の可撓性接続細長片がその両端からの中間点でピボット回転されるような
図22の変種を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、計時器用ムーブメント10の車セット2000の角度的な移動を制限又は伝達する計時器用リミッター又は伝達機構1000であって、前記車セット2000は、少なくとも1つの突起ピン又は歯4000、特に、放射状に突出する歯5001又は軸方向に突起するピン4を有するものに関する。本発明によると、この計時器用リミッター又は伝達機構1000は、制限又は伝達手段6000を有し、これらは、少なくとも1つの多重安定可撓性要素、特に、双安定要素5を介して、ムーブメント10の別の部品又はムーブメント10の剛構造要素7に固定される。
【0025】
特定のアプリケーションにおいて、この計時器用リミッター又は伝達機構1000は、反トリップ機構1であり、これは、計時器用バランス2が空転することを防ぐように意図されている。計時器用バランス2は、スタッフ3及びピン4、又は前記スタッフ3から突出する同様な要素を有する。
【0026】
本発明によると、反トリップ機構1は、少なくとも1つの単一片の双安定可撓性要素を有し、これは、以下において、反トリップ止めメンバー6を支える「双安定可撓性要素5」と呼ぶ。また、可撓性で弾性的な接続要素を介して、計時器用ムーブメント10の底板、棒などの剛構造要素7に固定されている。この計時器用ムーブメント10には、バランス2を有する規制メンバーが組み込まれている。
【0027】
特定の変種において、この構造7は、バランス2のスタッフとの自律アライメントのシステムを有する。
【0028】
この双安定可撓性要素5は、少なくとも1つの反トリップ止めメンバー6を支えており、その一端63又は64は、バランス2の角度的な位置に応じて、バランス2がその通常の角度的な移動から逸脱する場合に、ピン4の軌道と干渉して、止めメンバーとして機能することがある。
【0029】
図1は、特定の好ましいアプリケーション(これに限定されない)において、フロー図をもたらす。これにおいて、双安定可撓性要素5及び少なくとも1つの反トリップ止めメンバー6はともに、モノリシックな部品を形成する。この例(これに限定されない)において、反トリップ止めメンバー6は、2つのアーム61、62を有し、これらに対応する端63、64は、それぞれバランス2の位置に応じて、バランス2がその通常の角度的な移動から逸脱する場合に、ピン4の軌道と干渉して止めメンバーとし機能する。2つのアーム61,62を備えたこの実施形態は、図示したように、前記バランスの両方の回転方向においてバランス2の回転角度を制限する。
図1は、バランス2に対する干渉の位置を点線で示す。この干渉によって、バランス2の角度的な移動が制限される。
【0030】
双安定可撓性要素5は、ここにおいて、特定の場合(これに限定されない)において、これらの可撓性を有し弾性的な接続要素を有するものとして図示しており、これは、少なくとも2つの薄い細長片51、52で形成されており、そのそれぞれは、剛構造要素7に第1の端において固定されており、第2の端を介して可撓性要素の本体に接続されている。
図1の特定の場合において、2つの薄い可撓性細長片51、52は、その第2の端を介してV字形の可撓性要素の本体に接続され、仮想ピボット50を定めて、これを中心に反トリップ止めメンバー6がピボット回転することができる。したがって、
図1及び2の場合には、本発明に係る双安定可撓性要素5は、可撓性双安定ピボットを与える。この実施形態は排他的ではなく、
図10は、反トリップ止めメンバー6が移動することができるような場合の図である。
図16は、ムーブメントが任意の種類であってもよく双安定であるような、より一般的な場合を示す。
【0031】
好ましくは、少なくとも2つの可撓性要素5、特に2つの可撓性細長片51、91、52、92は、剛構造要素7に対して、あるいは双安定可撓性要素5のフレーム56に対して予応力を与えられてマウントされ、座屈が発生する。
【0032】
双安定可撓性要素5又は可撓性細長片51、52のそれぞれは、与えられる応力に依存して、いくつかの状態を占めることができる。これらの細長片のそれぞれは、座屈によって働くように構成が計算され、
図3に示すように、座屈モードに応じて、いくつかの幾何学的構成を採ってもよい。すなわち、3Aでは、安静モード、3Bでは、C字形の凹面又は凸面形状において第1の座屈モード、3Cでは、SないしZ字形の座屈モードのようにである。双安定可撓性要素5は、本発明の範囲から逸脱せずに、ここで図示した可撓性細長片51、52とは形が異なる可撓性要素を有することができる。
【0033】
また、双安定可撓性要素5は、特定の実施形態において、剛構造要素7と単一片で作ることもできる。
【0034】
図8に示す特定の実施形態において、過度な衝撃を防ぐために、反トリップ機構1の止めメンバー6のアーム61、62に可撓性要素65、66をもたせることができる。
【0035】
この双安定可撓性要素5は、シリコン技術、「LIGA」、MEMSなどで作ることができ、バランス2の慣性と比べて非常に低い慣性を有し、その作動はバランス2の振動をわずかに妨げる程度である。
【0036】
図2は、双安定可撓性要素5の可撓性細長片51、52を保護する緩衝機構を示す。この機構は、反トリップ止めメンバー6がバランス2の振幅を制限しなければならない場合に有用ないし必要である。その目的は、アーム61、62と当接して連係する緩衝止めメンバー81、82における衝撃を吸収することであり、これらの衝撃を可撓性細長片51、52に伝達しないようにして前記細長片を折らないようにすることである。
図5は、可撓性ピボットと共軸の緩衝止めメンバー83を示す。この例の実施形態において、緩衝止めメンバー81及び82は、実質的に円筒状の突起を有し、これらは、アーム61、62内の実質的に相補的な形の溝と連係する。
【0037】
可撓性双安定ピボット5は、いくつかの法則に従って作ることができる。
図3は、この特定の場合において考えられた双安定状態の原理を紹介するものである。応力が与えられたビーム9の固有座屈モードを使用する。具体的には、3Cに示す第2のモードを使用する。
【0038】
図4に示すように、好ましい一実施形態において、ビーム9が第2のモードで座屈が発生するために、ピボット90は、ビーム9にその中間(追加されるピボットの回転中心)でノードを有させる。「中間」は、1つの特定の変種のみを表す厳密な幾何学的構成の中間ではなく、ビーム9の端どうしの間の中間点を意味する。これによって、双安定ピボット5の回転中心50は、追加されるピボット90の回転中心と一致する。
【0039】
図5は、この原理に従って作られた完全な反トリップ機構1を示す。可撓性双安定ピボット5は、ビーム9がSないしZ字の形をとるような前記第2のモードで座屈を発生させる少なくとも1つの予応力を与えられたビーム9を有し、ピボット90は、前記ビーム9に、好ましくはその中間における中央領域においてノードを有させる。好ましくは、
図5の場合には、可撓性双安定ピボット5は、2つの予応力を与えられたビーム91、92(これらは双方でビーム9を形成する)を、ここで2つの偏心ねじ94及び95を使用して応力を与えることによって、座屈を発生させることによって作られる。剛構造要素7に又は双安定可撓性要素5のフレーム56に固定された第3のビーム93は、ビーム91、92で形成されたビーム9に第2のモードで変形させて、第3のビーム93は、
図4のピボット90の役割を果たす。緩衝止めメンバー83は、可撓性双安定ピボット5の回転中心50に位置する。
【0040】
図11は、反トリップシステムのアーム62、61をバランスピン4の平面において保持する少なくとも2つの高さレベルを有する反トリップ止めメンバー6を示す。すなわち、ピン4と連係するアーム61、62がある上側の第1のレベルと、バランス2の切り欠き21と連係する針67がある、より低い第2のレベルである。
【0041】
いずれの接触もなくし又はいずれの接触圧力も減少させるために、本発明に係る反トリップ機構1は、好ましいことにさらに、反トリップ機構1のバランス2とアーム61、62の間で反発力又はトルクを発生させる手段を有することができる。
【0042】
図14は、この反発機能がピン4及びアーム61、62の端63、64上で垂直方向に位置する磁石によって行われる場合を示す。
図15は、同様な実施形態であって磁場の平面を向いているものを示す。同図はこれらの磁石のN極及びS極を示した。
【0043】
同様な場所で、磁石の代わりに、又は磁石に加えて、これらの反発力を働かせるためにエレクトレットを使用することができる(静電荷を使用する)。
【0044】
これは、反トリップ機構1の効率を増加させて、バランス2の動作の妨げを可能な限り小さくするためである。反トリップ機構1の動作は、以下のとおりである。
− 第1段階において傾く際に、バランス2は双安定可撓性要素5にエネルギーを供給する。
− 第2の段階において一旦平衡点を過ぎると、機構はエネルギーの一部をバランス2に戻して、小さなインパルスを作る。
【0045】
機構は、スイス式レバーのホーンと同様な方法で作動する。すなわち、リリースがあり、次に、インパルスがある。
【0046】
特定の実施形態では、バランス2及び/又は反トリップ止めメンバー6の少なくともアーム61、62又は好ましい一実施形態において単一片である場合の反トリップ機構1全体は、酸化ケイ素を成長されるかさせないかにかかわらず、シリコン技術でシリコンウェハーから作られ、場合に応じて、一方では、磁石又は磁性粒子を、他方では、エレクトレットを含有する表面層を有する。この特定の層は、直流電気の方法、陰極スパッタ、又は他の適切なマイクロ技術的構造化方法によって作ることができる。
【0047】
双安定可撓性要素5がシリコン技術で作られる好ましい場合においては、ビーム91、92を形成する細長片における応力の発生が、ケイ素の酸化を介して発生することがある。実際に、
図6に示すように、ケイ素から成長させる場合、酸化ケイ素は大きな体積を占める、この場合は、SiO
2のポケット54、55がシリコンフレーム56において作られるからである。
図5又は
図6の例は、このフレーム56が、任意の通常の機械的な緊締技術によって非常に単純な手法で、構造7を形成したり、これに接続したりすることができることを示している。
【0048】
図6A、6Bは、ケイ素の酸化の前後の断面に大きな違いがある領域の詳細を示しており、その断面は、ビームが延長部分を作っている頭Tよりも小さな断面のまっすぐなビームPが座屈応力を与えられるように、二酸化ケイ素が作られた後に大きく変更されている。
【0049】
図7に示すように、これらの細長片において座屈応力を達成する別の手段は、特定形状のケイ素構造の酸化による。ケイ素の酸化は、酸化されたビームの長さを増加させる効果がある表面の応力を作る。
図7は、並列の酸化ケイ素製ビームのネットワークと、単一の予応力を与えられた座屈ビームとの間で、座屈抵抗差を利用する別の予応力を利用した原理を示しており、左側部分において、並列の構造94が、並列ビーム95の群を有しており、これは、酸化の後に(点線で示すように)座屈を発生させて曲がらせるような単純な機構を示しており、右側部分において、応力を与えられる可撓性要素9を示している。この可撓性要素9は、この場合はビーム9、91、92などであり、変形することを必要とされ、並列の構造94の座屈抵抗は、応力を与えられる可撓性要素96よりもはるかに大きい。
図7A、
図7B、
図7Cは、フレームCにおける2つの開口F1、F2の間で配置されたビームPを酸化して座屈を発生させる方法の連続ステップを示す。
図7Aは、炉に置かれた時におけるケイ素エッチング形状形成に起因する基本構造を示す。
図7Bは、既知の方法で数時間1100℃で構造を維持することによる開口F1及びF2内の酸化ケイ素SiO
2の成長、したがって、ビームPの成長を示している。これにおいて、二酸化ケイ素SiO
2の成長が、部品の外部に向かって、ケイ素の部分的な消費によって生じており、結果的に、薄いビームPにおいて、この1100℃の処置時に時間とともにケイ素の割合が減少すると、二酸化ケイ素SiO
2の割合が増加する。
図7Cは、約20℃までの周囲温度まで冷やした後の構造の縮みを示している。ビームPと並列のフレームCの横方向のメンバーM1、M2は、ケイ素と少量の二酸化ケイ素で実質的に形成されており、ビームPよりも多く縮む。このビームPは、ケイ素よりも膨脹係数が低い二酸化ケイ素から実質的に作られる。結果的に、ビームPは座屈応力を与えられ、双安定状態をとる。
【0051】
また、
図17A及び
図17Bは、コイルにおける酸化物成長に伴って発生する予応力を示す。
【0052】
図18A及び
図18b(及び
図19A及び
図19Bにおけるその詳細)は、同じ原理に従ってジグザグな輪郭の頂角を開くことによって得られる予応力を示しており、酸化ケイ素の成長によって、これらの頂角を開かせ、ムーブメントは、この構造のZ字状ないしジグザグな幾何学的構成によって増幅される。
図20A及び
図20Bは、曲率半径が非常に小さい領域における酸化された壁の曲率半径を変えることによって得られた角度変動を示している。
【0053】
したがって、本発明は、さらに、可撓性双安定細長片が形成される方法に関する。
【0054】
図21に示す第1の変種では、可撓性双安定細長片5は、少なくとも1つの質量、具体的には、単一の質量MUの両端E1、E2と連係する。この場合において、本方法は、以下の一連の動作を行う。
− 小さな断面の細いビームPが大きな断面(前記小さな断面よりも少なくとも10倍大きい)の少なくとも1つの質量MUの2つの端E1、E2の間に接続を形成するように、ケイ素成分Sがエッチングされ、前記少なくとも1つの質量MUが剛フレームCを形成する。
− この部品Sに対して、炉内において数時間1100℃の温度を維持することによって、既知の二酸化ケイ素SiO
2の成長方法が適用される。
− この数時間の持続時間は、二酸化ケイ素SiO
2で作られたビームPの区画と、ケイ素で作られたビームPの区画の間の第1の比RAが1以上であるように調整される。これによって、ケイ素をビームPで完全に酸化することができ、可撓性要素5になる。二酸化ケイ素SiO
2で作られた質量MUの区画と、ケイ素で作られた質量MUの区画の間の第2の比RBは、第1の比RAよりはるかに低い。RA/RB比は、2〜1000であり、好ましくは、10〜1000であり、好ましいアプリケーションでは、100以上である。
− 約20℃の周囲温度まで冷却されて、これによって、少なくとも1つの質量MUの冷却時に座屈を発生させることによってビームPを変形する。この質量MUは、冷却時の縮みがビームPの縮みよりも大きい。
【0055】
図7A、
図7B、
図7Cは、少なくとも2つの質量を伴って可撓性双安定細長片を作る方法の第2の変種の実装を示している。この方法は、以下の一連の動作を行う。
− 小さな断面を有する細いビームPが、それぞれが大きな断面を有する(小さな断面よりも少なくとも10倍大きい)少なくとも2つの質量M1、M2の間の接続を形成するように、ケイ素部品Sがエッチングされ、前記2つの質量M1、M2は、一緒に又は他の構造要素とともに、剛フレームCを形成する。
− この部品Sには、炉において数時間1100℃の温度を維持することによる既知の二酸化ケイ素SiO
2の成長方法が適用される。
− この数時間の持続時間は、二酸化ケイ素SiO
2で作られたビームPの区画と、ケイ素で作られたビームPの区画の間の第1の比RAが1以上であるように調整される。これによって、ケイ素をビームPで完全に酸化することができ、可撓性要素5になる。二酸化ケイ素SiO
2で作られた質量M1、M2それぞれの区画と、ケイ素で作られた対応する質量の区画の間の第2の比RBは、第1の比RAよりはるかに低い。このRA/RB比は、2〜1000であり、好ましくは、10〜1000であり、好ましいアプリケーションでは、100以上である。
− 2つの質量M1及びM2の冷却時に座屈を発生させることによってビームPを変形するように、約20℃の周囲温度まで冷却される。これらの質量M1及びM2の冷却時の縮みは、ビームPの縮みよりも大きい。
【0056】
別の変種実施形態において、反トリップ機構1の構造は、単結晶石英で作られている。
図13に示すように、中央の単結晶石英コアの上面及び下面は、周囲温度よりも高い温度で作られ、かつ、係数αが石英の係数α
x,yよりも低いような堆積物で覆われる。この石英の係数α
x,yは7.5ppm/℃である。
【0057】
ここで図示した反トリップ機構1は、バランスの回転方向を両方の回転方向において制限し、バランス2の振動を非常にわずかしか妨げない。
【0058】
本発明は、反トリップ機構がない腕時計用機構においても使用することができる。
【0059】
別の特定のアプリケーションでは、この計時器用リミッター又は伝達機構1000は、具体的には、エスケープ機構用のパレットレバー機構3000であり、バランス2及びエスケープ車5000と連係する同じ原理のスイス式レバーである(これに限定されない)。エスケープ車5000の歯5001と連係するパレット石3002を有するこのパレットレバー3000は、少なくとも1つの多重安定可撓性要素、特に、双安定要素5を有する。パレットレバー3000は、本願と同一出願人の欧州特許出願EP12183559.9に従って一定の力を有する可撓性レバーの実施形態によって作ることができる。バランス2とのパレットレバー3000の連係は、前記の反トリップ止めメンバー6のアーム61、62の端63、64と同様なホーン3001によって達成され、これにおいて、ホーン3001はパレットレバー3000の第1の部分3100によって支えられている。この第1の部分3100は、少なくとも1つの可撓性要素5、具体的には、可撓性の多重安定細長片、特に、双安定細長片5によって、固定構造7、又は好ましくはエスケープ車5000の歯5001と連係するパレット石3002を支えるパレットレバーの第2の部分3200に接続される。同様に、これらのパレット石3002は、好ましいことに、前記アーム61、62と同様な方法で形成され、少なくとも1つの可撓性の多重安定細長片、特に、双安定細長片5に、固定構造7又は好ましくはホーン3001を有するパレットレバーの第1の部分3100に接続されている。この変種では、第1の部分3100及び第2の部分3200はそれぞれ、自分のムーブメントを有しており、それらの運動学的な接続は、好ましいことに、一又は複数の可撓性要素5に限定される。
【0060】
特定の好ましい手法において割合と効率を改善するために、一方におけるホーン3001とバランス2の間の相互作用と、及び/又は他方におけるパレット石3002とエスケープ車5000の間の相互作用は、非接触、又は少ない接触で達成される。この目的のために、ホーン3001及び/又はパレット石3002の影響を受けた表面は、バランス及び/又はエスケープ車の対向面との反発力で連係するように磁化又は帯電される。その対向面は、適切な材料で作られており、及び/又は、好ましいことに相補的な手法で磁化又は帯電される。Swatch Group Research and Development Ltd名義の国際特許出願PCT/EP2011/057578は、この種の非接触ないし減衰した接触伝達を開示している。その可撓性の多重安定細長片を有する機構、特にパレットレバーとの組み合わせによって、必要な利点を与えることができる。
【0061】
より具体的には、このパレットレバー機構3000は、ペア7100を支える少なくとも1つの固定構造7を有するエスケープ機構7000のために提供され、前記ペア7100は、互いに連携するバランス2及びエスケープ車5000を有する。パレットレバー機構3000は、ペア7100と連係して、バランス2及び/又はエスケープ車5000の角度的な移動を伝達する。
【0062】
本発明によれば、このパレットレバー3000は、少なくとも1つの多重安定可撓性要素5を有する。バランス2とのパレットレバー3000の連係は、パレットレバー3000の第1の部分3100のホーン3001によって達成される。第1の部分3100は、この種の可撓性要素5によって固定構造7又はエスケープ車5000と連係するパレット石3002を有するパレットレバー3000の第2の部分3200に接続される。第2の部分3200は、この種の可撓性要素5によって固定構造7又は第1の部分3100へと接続される。この可撓性要素5は、第1の部分3100のもの又は別の可撓性要素と同じであることができる。
【0063】
特定の変種における好ましい方法において、一方におけるホーン3001とバランス2の間の相互作用、及び/又は他方におけるパレット石3002とエスケープ車5000の間の相互作用は、非接触で、又は少ない接触で達成される。有利な変種では、ホーン3001及び/又はパレット石3002の第1の表面は、バランス2及び/又はエスケープ車5000の第2の対向面と反発するように連係するために磁化又は静電気が与えられる。これらは、適切な材料に作られ、及び/又は相補的な方法で磁化又は静電気が与えられる。
【0064】
特定の変種において、一方におけるホーン3001とバランス2の間の相互作用、及び/又は他方におけるパレット石3002とエスケープ車5000の間の相互作用が、非接触で達成される。
【0065】
特定の変種において、ホーン3001及び/又はパレット石3002の第1の表面が磁化されて、相補的に磁化されるバランス2及び/又はエスケープ車5000の第2の対向面と反発するように連係する。
【0066】
特定の変種において、ホーン3001及び/又はパレット石3002の第1の表面が帯電され、相補的に帯電されるバランス2及び/又はエスケープ車5000の第2の対向面と反発するように連係する。
【0067】
特定の変種では、少なくとも1つの多重安定可撓性要素5は、予応力を与えられてマウントされ、剛構造要素7に対して座屈が発生する。
【0068】
特定の変種では、少なくとも1つの可撓性要素5は、前記第2のモードで座屈が発生する少なくとも1つの予応力を与えられたビーム9を有し、
図23に示すように、ビーム9はSないしZ字の形をとり、これによって、パレットレバー機構3000は、ビーム9がその中間でノードを有させるピボット90を有する。
【0069】
特定の変種では、少なくとも1つの可撓性要素5は、2つの予応力を与えられた座屈が発生していたビーム91、92を有する。この第2の実施形態において、剛構造要素7に固定された第3のビーム93は、これらの2つのビーム91、92で作られたビーム9が変形させ、この第3のビーム93がピボット90を形成する。
【0070】
特定の変種では、少なくとも1つの可撓性要素5はケイ素で作られており、2つのビーム91、92に予応力を与える酸化ケイ素SiO
2製のポケット54、55を有するフレーム56を有する。
【0071】
特定の変種では、少なくとも1つの可撓性要素5は、前記第2のモードで座屈が発生していた少なくとも1つの予応力を与えられたビーム9、91、92を有し、ビーム9、91、92は、SないしZ字の形をとる。この可撓性双安定ビーム5は、ケイ素で作られており、並列ビーム95の群を有する並列の構造94を有し、これらは、酸化されており(すなわち、ケイ素の酸化による膨張を経た)、少なくとも1つのビーム9、91、92で形成される予応力を与えられた可撓性要素96の座屈が発生する曲がりを確実にし、この並列の構造94の座屈抵抗は、予応力を与えられた可撓性要素96よりもはるかに大きい。
【0072】
特定の変種では、少なくとも1つの可撓性要素5は、剛構造要素7とともに単一片で作られる。
【0073】
特定の変種では、少なくとも1つの可撓性要素5は可撓性細長片である。
【0074】
特定の変種において、パレットレバー3000の第1の部分3100及び/又は第2の部分3200の構造は、中央の単結晶石英コアを有し、その上面及び下面は、係数αが7.5ppm/℃である石英の係数α
x,yよりも低い堆積物で覆われる。
【0075】
本発明は、さらに、バランス2を備えた少なくとも1つの規制メンバーを有する計時器用ムーブメント10に関し、これは、本発明に係る計時器用リミッター又は伝達機構1000、特にパレットレバー機構3000を少なくとも1つ有する。この場合には、ムーブメント10が前記計時器用リミッター又は伝達機構1000の双安定可撓性要素5に固定される剛構造要素7を有するか、あるいは前記双安定可撓性要素5が実際にこの剛構造要素7を形成するかである。
【0076】
本発明は、さらに、特に腕時計である計時器100であって、この種のムーブメント10を少なくとも1つ有するもの、あるいはこの種の計時器用リミッター又は伝達機構1000、特にパレットレバー機構3000を少なくとも1つ有するものに関する。
【0077】
可撓性双安定ピボットに対応する従来のピボット及びばねに基づく均等な機構も、本発明の一部を形成すると考えられる。
【0078】
本デバイスを作るために用いられる技術は、シリコン技術に限定されず、「LIGA」、「DRIE」、「MEMS」及び他のマイクロ製造方法をも含む。