(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電気化学的酸化は、支持電解質を含む溶液に前記導電性高分子を作用電極として浸漬させ、前記作用電極に所定の電圧を印加することにより実施する請求項1に記載の色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法。
前記触媒層がさらに光酸発生剤を含み、光酸発生剤に光照射することにより酸を発生させ、これにより前記化学的酸化を行うことを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法。
前記色素増感太陽電池が、導電性高分子を酸化し得る少なくとも1種の酸化剤を含む電解液を備え、前記酸化剤によって前記化学的酸化を行うことを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の種々の実施態様について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更できる。
【0016】
≪対極活物質の再活性化方法≫
本発明の第一態様の色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法は、少なくとも一種類以上の導電性高分子からなる触媒層から構成される対極を有する色素増感太陽電池の対極活物質を再活性化する方法である。色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法を説明するに先立ち、導電性高分子からなる触媒層から構成される対極を有する色素増感太陽電池10の構成について、
図1を参照して説明する。
なお、
図1に示す色素増感太陽電池10の構成は、本発明の色素増感太陽電池の対極活物質の活性化方法並びにその方法を応用した色素増感太陽電池の再生方法、色素増感太陽電池用の触媒層、対極、電解液及び色素増感太陽電池を適用可能な構成の一例である。即ち、前記したような本発明の種々の態様を適用する色素増感太陽電池は、
図1に例示した色素増感太陽電池10の構成に限定されるものではなく、色素増感太陽電池10が単位セルとして幅方向(即ち、
図1に示すW方向)に複数連結された構成を有していてもよい。
【0017】
図1に示すように、色素増感太陽電池10は、作用電極11と、作用電極11に対向配置された対極12と、作用電極11と対極12との間に介在する電解液20と、を少なくとも備えて構成されている。電解液20の側方は、封止材21によって封止されている。
作用電極11と対極12には、不図示の外部回路が接続されている。
以下、各構成要素について順次説明する。
【0018】
作用電極11は、透明基材13と、透明導電膜14と、光電極15がこの順に積層された電極である。
【0019】
透明基材13は、透明導電膜14及び光電極15の基台となるものであり、光電極15に照射される光が透過可能な材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ソーダライムガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、バイコールガラス、無アルカリガラス、青板ガラス及び白板ガラス等のガラス、或いは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド等の樹脂が挙げられる。
【0020】
透明導電膜14は、スパッタリング法や印刷法により透明基材13の一方の板面上に形成されている。透明導電膜14には、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化インジウム/酸化亜鉛(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等が用いられる。
【0021】
光電極15は、色素増感太陽電池の発電層として機能するものであり、光電極を構成する半導体化合物としては、公知の金属酸化物、ペロブスカイト結晶を有する化合物等が挙げられ、これらの中から複数種の化合物を選択して用いてもよい。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられ、ペロブスカイト結晶を有する化合物としては、CH
3NH
3PbX
3(Xはハロゲン原子)等が挙げられる。不図示の半導体化合物は、粒子状であってもよい。半導体化合物は、半導体化合物に増感色素を担持させて構成されていてもよい。金属酸化物半導体粒子としては、ナノオーダーの多孔質層を形成し、下層の表面積よりも極めて大きな表面積が得られる点から、酸化チタン(TiO
2)粒子が好適である。
【0022】
増感色素は、光電極15に照射された光によって電子を放出するものである。放出された電子は、金属酸化物半導体粒子に受け渡されて透明導電膜14に円滑に移動し、不図示の外部回路に取り出される。このように照射された光によって電子を放出する増感色素としては、例えばルテニウム錯体、シアニンやクロロフィルといった有機色素が挙げられる。吸収する波長域が広い上に、光励起の寿命が長く、金属酸化物半導体粒子からなる多孔質層に受け渡された電子が安定する点から、増感色素としてはルテニウム錯体が好適である。ルテニウム錯体には、例えば、シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)、該シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩(以下、N719という)等がある。
【0023】
対極12は、対向基材16と、対向導電膜17と、導電性高分子触媒層18(触媒層)がこの順で積層された電極である。
【0024】
対向基材16は、対向導電膜17及び導電性高分子触媒層18の基台となるものであり、透明基材13と厚み方向に間隔をあけて配置されている。対向基材16の材質としては、透明基材13と同様のガラスや樹脂等が挙げられるが、特に限定されない。
【0025】
対向導電膜17は、スパッタリング法や印刷法により対向基材16の一方の板面上に形成されている。対向導電膜17には、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化インジウム/酸化亜鉛(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等が用いられる。なお、対極12には対向導電膜17が形成されていることが好ましいが、対向導電膜17は省略されていてもよい。
また、対向導電膜17は、必ずしも光透過性である必要はなく、上記の材料の他に、対向導電膜17を形成する材料としては、チタン、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀、銅等の金属を用いることもできる。
【0026】
導電性高分子触媒層18は、対向導電膜17の対向基材16に接する面とは反対側の面上に形成され、電解液20を介して光電極15と対向するように配置されている。また、導電性高分子触媒層18は、少なくとも一種類以上の導電性高分子を含み、電解液20に含まれる酸化還元対を還元するものである。導電性高分子触媒層18に含まれる導電性高分子としては、例えばポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げられる。導電性高分子は、これらの物質のうち何れか一種であってもよく、二種以上が混合されたものであってもよい。導電性高分子は、色素増感太陽電池10の製造前に予め正の電荷を帯びた酸化状態とされている。また、導電性高分子触媒層18には、カーボンナノチューブ等のカーボン材料のように導電性高分子以外の導電性材料が含まれていてもよい。また、導電性高分子の具体例として、本発明の第三態様の触媒層に関連して後述する一般式(1)で表されるチオフェン化合物の重合体、一般式(2)で表されるピロール化合物の重合体、及び一般式(3)で表されるアニリン化合物の重合体を挙げることができる。
導電性高分子触媒層18に含まれる導電性高分子の量としては、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。
【0027】
触媒層18の厚みは、特に制限されないが、過度に薄い触媒層であると充分な触媒能が発揮されない懸念があるため、例えば、0.001μm以上であることが好ましい。触媒層18の厚みの上限は特に制限されないが、過度に厚いと不経済であるため、通常は10μm以下であれば充分である。
【0028】
触媒層18は、緻密な層であってもよいし、多孔質層であってもよい。多孔質層であると、電解液20との接触面積が増えるため、触媒層18の触媒能を向上させることができる。
【0029】
緻密な触媒層18を形成する方法としては、例えば、導電性高分子を含む溶液を対向導電膜17の表面上に塗布して乾燥させる方法や、対向導電膜17を、導電性高分子のモノマーを含む溶液中に浸漬させた状態で電圧を印加する電解重合法等が挙げられる。
【0030】
多孔質化された触媒層18を形成する方法としては、例えば、導電性微粒子の多孔体の表面上に電解重合法によって導電性高分子を被覆する方法や、導電性高分子を含む溶液中に貧溶媒を添加する貧溶媒誘起相分離法等が挙げられる。
【0031】
電解液20は、作用電極11と対極12と封止材21によって囲まれた空間内に注入されており、色素増感太陽電池10において電気を流すための酸化還元反応を生ずる酸化還元対を含む溶液である。このような酸化還元対としては、例えばヨウ素とヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、ヨウ化リチウム等のヨウ化物塩との組合せ(ヨウ化物イオン(I
−)/三ヨウ化物イオン(I
3−))や臭素と臭化ジメチルプロピルイミダゾリウム、臭化リチウム等の臭化物塩との組み合わせ(臭化物イオン(Br
−)/三臭化物イオン(Br
3-))が挙げられる。電解液20の溶媒としては、例えば、アセトニトリルやプロピオニトリル等のニトリル系非水溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン系非水溶媒、エチルメチルイミダゾリウムテトラシアノボレートやエチルメチルイミダゾリウムジシアナミド等のイオン液体が挙げられる。また、電解液20はポリアクリロニトリル等のゲル化剤によってゲル化されていても構わない。
上記のハロゲンの電解液20中の濃度は、1〜500mMであることが好ましく、5〜300mMであることがより好ましく、10〜200mMであることが特に好ましい。上記のハロゲン化物塩の電解液20中の濃度は、0.1〜10Mであることが好ましく、0.2〜5Mであることがより好ましく、0.5〜3Mであることが特に好ましい。
また、上記のハロゲンとハロゲン化物塩のモル比は、1:1〜1:1000であることが好ましく、1:5〜1:500であることがより好ましく、1:10〜1:200であることが特に好ましい。
【0032】
封止材21の材質としては、例えば光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂との混合物等が挙げられる。
【0033】
色素増感太陽電池10において、
図1に示す矢印の方向から「発電光」が入射すると、光電極15の増感色素は光を吸収し、金属酸化物半導体粒子に電子を放出し、酸化状態になる。放出された電子は、金属酸化物半導体粒子からなる多孔質層中を移動して透明導電膜14に至る。その後、電子は作用電極11に接続された配線を通り、外部回路を介して対極12の対向導電膜17又は導電性高分子触媒層18に移動する。その一方で、酸化された増感色素は電解液20に含まれる酸化還元対から電子を受け取り、還元される。また、酸化還元対は酸化され、導電性高分子触媒層18側へと移動し、導電性高分子触媒層18に含まれる導電性高分子により還元される。このような酸化還元反応が繰り返し継続されることで色素増感太陽電池10に電流が流れる。
【0034】
色素増感太陽電池10の初期状態では、導電性高分子触媒層18に含まれている導電性高分子は酸化状態とされている。一方、製造後は、色素増感太陽電池10において、電解液20中の酸化還元対との接触によって導電性高分子触媒層18に備えられた導電性高分子が還元され、電荷を帯びていない中性状態、或いは、負の電荷を帯びた還元状態になる。この中性状態又は還元状態になった導電性高分子は触媒能及び電気伝導性を発揮し得ないため、還元が進行するに従い電池性能が低下してしまう。
【0035】
次いで、本発明の第一態様の色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法について説明する。
本発明の色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法は、色素増感太陽電池10の導電性高分子触媒層18に含まれる導電性高分子(以下、単に導電性高分子という)が色素増感太陽電池10の長期間の使用等によって還元された際に、導電性高分子を化学的酸化又は電気化学的酸化によって再酸化する方法である。尚、本発明でいう「再活性化」とは、色素増感太陽電池10の製造後一定期間経過後に、導電性高分子触媒層18の導電性高分子の還元が進行することで発電性能が低下した色素増感太陽電池10の前記対極を、前記導電性高分子の再酸化により再生すること、又は導電性高分子触媒層18において還元された導電性高分子を逐次再酸化することにより電池の発電性能を維持することを意味するものとする。
以下、導電性高分子を化学的酸化によって再酸化する方法と、電気化学的酸化によって再酸化する方法の各々について、説明する。
【0036】
<導電性高分子を化学的酸化によって再酸化する方法>
ここでは、酸化剤を溶かした溶液に導電性高分子を浸漬することにより、導電性高分子を再酸化する例について説明する。酸化剤を溶かした溶液に導電性高分子を浸漬する時間は、例えば1分〜10分程度とすることができる。
【0037】
酸化剤は、導電性高分子の特性を損ねることなく、導電性高分子を酸化させることが可能な物質であればよい。このような物質としては、例えば塩化鉄(III)や塩化鉄(III)水和物等の無機化合物や、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等のスルホン酸やトリフルオロ酢酸、プロピオン酸等の有機酸及びトリス(4−プロモフェニル)アミンヘキサンクロロアンチモネートが挙げられる。汎用溶媒への溶解性が高く、酸化作用が高い点から、酸化剤としては塩化鉄(III)や塩化鉄(III)水和物を用いることが好ましい。
【0038】
酸化剤の溶媒としては、酸化剤を溶解可能で、導電性高分子からなる導電性高分子触媒層18を溶出させない溶媒が挙げられ、例えばアセトニトリル、エタノール、アセトン、トルエン等の汎用有機溶媒を用いることができる。
【0039】
本方法では、導電性高分子に酸化剤を溶かした溶液を直接塗布してもよく、蒸発させて蒸気として当ててもよい。
【0040】
また、光酸発生剤を含有する触媒層を使用し、前記光酸発生剤に光照射することにより酸を発生させ、これにより前記化学的酸化を行ってもよい。前記触媒層の具体的な構成及び材料並びに光照射の方法については、本発明の第三態様の触媒層に関連して後述する。
【0041】
さらに、導電性高分子を酸化し得る少なくとも1種の酸化剤を含む電解液を使用し、前記酸化剤によって前記化学的酸化を行ってもよい。前記電解液の組成及び使用できる酸化剤については、本発明の第七態様の電解液に関連して後述する。
【0042】
<導電性高分子を電気化学的酸化によって再酸化する方法>
ここでは、支持電解質を含む溶液に導電性高分子を作用電極として浸漬させ、該作用電極に所定の電圧を印加することにより、導電性高分子を再酸化する例について説明する。
支持電解質を含む溶液に導電性高分子を浸漬する時間は、例えば1分〜10分程度とすることができる。作用電極に印加する所定の電圧は、参照電極の材質を勘案して設定することが好ましい。参照電極の材質が銀である場合は、作用電極に印加する電圧を例えば−1.0V〜1.0Vとすることができる。
【0043】
支持電解質は、汎用溶媒に溶解し易く、溶媒に対して十分なイオン伝導性を与える物質であればよい。このような物質としては、例えばテトラエチルアンモニウムパークロレート、テトラブチルアンモニウムパークロレート等の過塩素酸塩や、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸等のテトラフルオロホウ酸塩及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム等のトリフルオロメタンスルホン酸塩が挙げられる。
【0044】
支持電解質の溶媒としては、支持電解質を溶解可能で、導電性高分子からなる導電性高分子触媒層18を溶出させない溶媒を用い、例えばアセトニトリル、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジクロロメタン、メタノール等を用いることができる。
【0045】
上記説明した「導電性高分子を化学的酸化によって再酸化する方法」又は「導電性高分子を電気化学的酸化によって再酸化する方法」を実施することにより、色素増感太陽電池10の長期間の使用等によって還元された導電性高分子が再生される。
【0046】
≪色素増感太陽電池の再生方法≫
次いで、本発明の第二態様の色素増感太陽電池の再生方法について、
図2及び
図3を参照し、説明する。
本発明の色素増感太陽電池の再生方法は、
図1に示す対極12を構成する導電性高分子触媒層18をなす少なくとも一種類以上の導電性高分子が還元状態又は中性状態にある色素増感太陽電池10の再生方法である。即ち、本発明の色素増感太陽電池の再生方法は、少なくとも導電性高分子触媒層18の導電性高分子を化学的酸化又は電気化学的酸化によって再酸化する工程を備えている。ここでは、導電性高分子を再酸化する工程に加え、色素増感太陽電池10から対極12を取り出す工程と、対極12を用いて色素増感太陽電池10を再組み立てする工程と、を備えた色素増感太陽電池の再生方法について説明する。
以下、各工程について説明する。
【0047】
<色素増感太陽電池から対極を取り出す工程>
図2に示すように、封止材21を厚み方向において二つの封止材21A,21Bに切断し、対極12を色素増感太陽電池10から取り出す。
【0048】
<対極に備えられている導電性高分子を化学的酸化又は電気化学的酸化によって再酸化する工程>
本工程では、色素増感太陽電池10の対極12の導電性高分子触媒層18をなす導電性高分子に対し、上述した本発明の第一態様に係る色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法における「導電性高分子を化学的酸化によって再酸化する方法」又は「導電性高分子を電気化学的酸化によって再酸化する方法」を実施する。各方法の説明は省略する。本工程により、対極12に備えられ且つ還元状態又は中性状態にあった導電性高分子が酸化状態へと再酸化され、導電性高分子の触媒活性及び電気伝導性が初期性能まで復元される。
【0049】
<対極を用いて色素増感太陽電池を再組み立てする工程>
次に、
図3に示すように、再酸化された導電性高分子を備えた対極12の導電性高分子触媒層18と作用電極11の光電極15とを対向させるようにして、作用電極11に対して所定の間隔をあけて対極12を配置し、熱処理等により封止材21A,21Bを接合する。その後、封止材21の一部に、電解液20を注入するための注入孔22を形成する。
なお、注入孔22は、
図3の破線で図示されているように対極12の一部に形成してもよい。続いて、作用電極11と対極12と封止材21によって囲まれて形成された空間Sに、電解液20を注入孔22から注入する。本工程により、対極12を用いて、色素増感太陽電池10が再度組み立てられる。
【0050】
以上の工程により、対極12を構成する導電性高分子触媒層18をなす少なくとも一種類以上の導電性高分子が再酸化された色素増感太陽電池10が得られる。
【0051】
上記説明したように、本発明の第一態様に係る色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法では、少なくとも一種類以上の導電性高分子からなる導電性高分子触媒層18から構成される対極12を有する色素増感太陽電池10の導電性高分子を化学的酸化又は電気化学的酸化によって再酸化する。
これにより、色素増感太陽電池10の長期間の使用等によって還元された導電性高分子を化学的酸化又は電気化学的酸化によって酸化状態、即ち、正の電荷を帯び、正孔が存在する状態とし、再生できる。その結果、導電性高分子を含む触媒層の触媒活性及び電気伝導性を、導電性高分子が還元される前の初期性能まで復元できる。
【0052】
本発明の第一態様に係る色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法において、化学的酸化を、酸化剤を溶かした溶液に導電性高分子を浸漬することにより実施した場合、溶液中の酸化剤が導電性高分子から電子を引き抜くことによって、酸化剤は還元され、導電性高分子は酸化される。従って、室温プロセスで簡易に、導電性高分子を再生し、導電性高分子触媒層の触媒活性及び電気伝導性を、導電性高分子が還元される前の初期状態まで復元できる。
【0053】
本発明の第一態様に係る色素増感太陽電池の対極活物質の再活性化方法において、電気化学的酸化を、支持電解質を含む溶液に導電性高分子を作用電極として浸漬させ、更に参照電極、補助電極を浸漬後、作用電極に所定の電圧を印加することにより実施した場合、作用電極で電子引き抜きによる酸化反応、補助電極で電子受け渡しによる還元反応が生じ、作用電極である導電性高分子は酸化される。従って、導電性高分子を再生し、導電性高分子触媒層の触媒活性及び電気伝導性を、導電性高分子が還元される前の初期性能まで復元できる。
【0054】
また、本発明の色素増感太陽電池の再生方法は、対極12を構成する導電性高分子触媒層18をなす導電性高分子を化学的酸化又は電気化学的酸化によって再酸化する工程を備えている。
これにより、色素増感太陽電池10の長期間の使用等により還元された対極12の導電性高分子触媒層18の導電性高分子を上記説明した化学的酸化又は電気化学的酸化によって再酸化し、導電性高分子触媒層18の触媒活性及び電気伝導性を高めることができる。
従って、導電性高分子触媒層18の導電性高分子が還元されることで発電性能が低下した色素増感太陽電池10の発電性能を初期性能まで確実に復元し、色素増感太陽電池10を再生できる。その結果、色素増感太陽電池10の使用期間を長期化できる。
尚、前述の光酸発生剤含有触媒層を使用する場合、色素増感太陽電池10を分解することなく、対極を構成する触媒層に光照射するという簡便な方法(本発明の第六態様)によって、発電性能を回復させることができる。
また、前述の酸化剤含有電解液を使用する場合には、色素増感太陽電池10使用時に、還元された導電性高分子が、電解液中に含まれる酸化剤により逐次再酸化されることにより電池の発電性能の低下を防止することができるため、通常、上述したような再生方法を実施することは不要である。
【0055】
《触媒層》
本発明の第三態様の触媒層は、色素増感太陽電池用の触媒層であって、1種以上の導電性高分子、及び光酸発生剤を含む触媒層である。
触媒層の形態としては、例えば導電性基板の表面に形成された形態が挙げられる。この触媒層は緻密な層であってもよいし、多孔質層であってもよい。また、触媒層の厚みは特に制限されず、例えば0.001μm〜10μmに設定することができる。
【0056】
(導電性高分子)
前記触媒層を構成する導電性高分子としては、電解液中に含まれる酸化還元対に電子を供給できるものであれば特に制限されず、例えば、本発明の第一態様の対極活物質の再活性化方法に関連して上述したような公知の導電性高分子が適用できる。
導電性高分子は、チオフェン化合物の重合体、ピロール化合物の重合体およびアニリン化合物の重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
チオフェン化合物の重合体として、例えば、下記一般式(1)で表されるチオフェン化合物が重合したものが挙げられる。
【化4】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数6又は8のアリール基、カルボキシル基、エステル基(R’OOC−(R’は、炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。))、アルデヒド基、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、又はスルホ基を表す。R
1及びR
2が前記アルキル基又はアリール基である場合、前記アルキル基又はアリール基はアゾ基又はスルホニル基を介してチオフェン環に結合していてもよい。R
1及びR
2が前記アルキル基又はアルコキシ基である場合、前記アルキル基又はアルコキシ基の末端の炭素原子同士が結合して環を形成していてもよい。]
【0057】
前記アルキル基は直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
前記アルキル基の炭素原子数は1〜8が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3が更に好ましい。
【0058】
前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。
前記アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0059】
前記一般式(1)で表されるチオフェン化合物の具体例として、下記式(1−1)〜(1−4)で表される化合物が挙げられる。
【0061】
また、ピロール化合物の重合体として、例えば下記一般式(2)で表されるピロール化合物が重合したものが挙げられる。
【0062】
【化6】
[式中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数6又は8のアリール基、カルボキシル基、エステル基(R’OOC−(R’は、炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。))、アルデヒド基、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、又はスルホ基を表す。R
3及びR
4が前記アルキル基又はアリール基である場合、前記アルキル基又はアリール基はアゾ基又はスルホニル基を介してピロール環に結合していてもよい。R
3及びR
4が前記アルキル基又はアルコキシ基である場合、前記アルキル基又はアルコキシ基の末端の炭素原子同士が結合して環を形成していてもよい。]
【0063】
前記アルキル基は直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
前記アルキル基の炭素原子数は1〜8が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3が更に好ましい。
【0064】
前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。
前記アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0065】
前記一般式(2)で表されるピロール化合物の具体例として、下記式(2−1)〜(2−4)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
また、アニリン化合物の重合体として、例えば下記一般式(3)で表されるアニリン化合物が重合したものが挙げられる。
【0068】
【化8】
[式中、R
5〜R
8は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数6又は8のアリール基、カルボキシル基、エステル基(R’OOC−(R’は、炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。))、アルデヒド基、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、又はスルホ基を表す。R
5〜R
8が前記アルキル基又はアリール基である場合、前記アルキル基又はアリール基はアゾ基又はスルホニル基を介してベンゼン環に結合していてもよい。R
5及びR
6、或いは、R
7及びR
8が前記アルキル基又はアルコキシ基である場合、前記アルキル基又はアルコキシ基の末端の炭素原子同士が結合して環を形成していてもよい。]
【0069】
前記アルキル基は直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
前記アルキル基の炭素原子数は1〜8が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3が更に好ましい。
【0070】
前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。
前記アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0071】
前記一般式(3)で表されるアニリン化合物の具体例として、下記式(3−1)〜(3−4)で表される化合物が挙げられる。
【0073】
前記触媒層を構成する導電性高分子には、その導電性を高めるための公知のドーピング処理が施されていてもよい。例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、パラトルエンスルホン酸(PTS)等のスルホン酸、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲン、過塩素酸(ClO
4−)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド(TFSI)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)等がドーパントとして導電性高分子に添加されていてもよい。
【0074】
前記触媒層に含まれる1種類以上の導電性高分子は、電解液に含まれる酸化還元対を還元するものである。このような導電性高分子の具体例としては、例えばポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げられる。触媒層に含まれる導電性高分子は、一種であってもよく、二種以上であってもよい。触媒層中の導電性高分子は、色素増感太陽電池の製造前に正の電荷を帯びた酸化状態とされていることが好ましい。
【0075】
前記触媒層に含まれる1種以上の導電性高分子は、1種単独で含まれていてもよいし、2種が併用されて含まれていてもよいし、3種以上が併用されて含まれていてもよい。併用される導電性高分子の種類の上限は特に制限されないが、通常10種以下とすればよい。
2種又は3種以上を併用する場合、例えば、前記チオフェン化合物が重合した導電性高分子、前記ピロール化合物が重合した導電性高分子、及び前記アニリン化合物が重合した導電性高分子からなる群から選ばれる任意の2種又は3種以上の導電性高分子を組みわせて使用してもよい。2種又は3種以上の導電性高分子の混合比は、導電性を考慮して適宜設定すればよい。
【0076】
(光酸発生剤)
前記触媒層を構成する光酸発生剤は、紫外線等の光照射によって酸を発生することが可能であれば特に制限されず、公知の光酸発生剤が適用できる。具体例としては、ビス-パラトルエンスルホニルジアゾメタン、ビス-tert-ブチルスルホニルジアゾメタン等のスルホン系の光酸発生剤、ジフェニル-4-メチルフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニル-2,4,6-トリメチルフェニルスルホニウムパラトルエンスルホネート、4-メトキシフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート等のスルホニウム系の光酸発生剤、ビス-4-tert-ブチルフェニルヨードニウムビスパーフルオロブタンスルホニルイミド等のヨードニウム系の光酸発生剤等が挙げられる。前記触媒層を構成する光酸発生剤は1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0077】
前記触媒層に含有される光酸発生剤は、300nm以上の波長領域の光を吸収するものであることが好ましい。その理由は、前記波長域の光を後述する再生光として照射することにより、対極を構成する基材(例えばFTOガラス、ITO−PETフィルム、ITO−PENフィルム等)に再生光が吸収される可能性を低減し、光酸発生剤(触媒層)に十分な量の光を照射することが容易になるからである。
【0078】
前記触媒層において、(前記光酸発生剤の総質量)/(前記導電性高分子の総質量)の比は、0.01〜10が好ましく、0.05〜5がより好ましく、0.1〜1が更に好ましい。
前記質量比が0.01以上であると、光照射によって充分な量の酸を発生させることができる。前記質量比が10以下であると、過剰量の光酸発生剤が触媒層の電気伝導性を低下させることを避けられる。
【0079】
前記触媒層の総質量に対する前記導電性高分子の総質量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
10質量%以上であると、触媒層の触媒能及び電気導電性を充分に高めることができる。前記導電性高分子の総質量の上限は特に制限されず、例えば90質量%以下とすることができる。
【0080】
前記触媒層の総質量に対する前記光酸発生剤の総質量は、1〜90質量%が好ましく、5〜70質量%以上がより好ましく、10〜50質量%以上が更に好ましい。
1質量%以上であると、紫外線照射によって十分な量の酸を発生させることができる。90質量%以下であると、過剰量の光酸発生剤が触媒層の電気伝導性を低下させることを避けられる。
【0081】
(助剤)
前記触媒層には、導電性高分子以外の導電性材料が含まれていてもよい。このような導電性材料としては、例えばカーボンナノチューブ、アセチレンブラック等のカーボン材料が挙げられる。前記導電性材料の含有量は、触媒層を構成する導電性高分子を100質量部とすると、10〜500質量部程度が好ましい。
【0082】
《対極》
本発明の第四態様の対極は、色素増感太陽電池用の対極であって、第三態様の触媒層が表面に形成された基材を有する。
【0083】
前記基材の形態は特に制限されず、例えば板状の基板、フィルム等の形態が挙げられる。前記基材は、光透過性であってもよいし、非光透過性であってもよいが、色素増感太陽電池を構成する触媒層に対して、光照射することが容易である観点から、前記基材は光透過性であることが好ましい。
【0084】
前記基材の表面は、導電性であってもよいし、非導電性であってもよい。その表面に形成される触媒層自身が導電性であるため、基材の表面が非導電性であったとしても、対極として十分に機能し得る。なお、対極の導電性を高める観点からすると、導電性高分子が形成される前記表面は導電性であることが好ましい。
【0085】
少なくとも表面が導電性である光透過性の基板としては、例えば、ガラス基板又は透明樹脂基板の表面に透明導電膜が形成された透明導電性基板が挙げられる。また、前記非光透過性の基板としては、金属基板又は光透過性の無い樹脂基板が例示できる。なお、樹脂基板の光透過性は、基板の厚みによって変わり得る。
【0086】
前記樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド等の樹脂が挙げられる。
【0087】
前記基材の表面に形成される触媒層の厚みは特に制限されないが、過度に薄い触媒層であると充分な触媒能が発揮されない懸念があるため、例えば0.001μm以上の厚みであることが好ましい。触媒層の厚みの上限は特に制限されないが、過度に厚いと不経済であるため、通常は10μm以下であれば充分である。
【0088】
前記基材の表面に形成される触媒層は、緻密な層あってもよいし、多孔質層であってもよい。多孔質層であると、電解液との接触面積が増えるため、触媒層の触媒能を向上させることができる。
多孔質層の比表面積はガス吸着法で測定した場合、0.1m
2/g以上であることが好ましく、1m
2/g以上であることがより好ましく、3m
2/g以上であることが更に好ましい。
【0089】
緻密な触媒層を形成する方法としては、例えば、導電性高分子及び光酸発生剤を含む溶液を前記基材の表面上に塗布して乾燥させる方法が挙げられる。
【0090】
多孔質化された触媒層を形成する方法としては、例えば、前記基材の表面上に予め酸化チタン微粒子等の金属酸化物半導体からなる多孔質層を公知の焼成法又は粒子吹き付け法により形成し、この多孔質層に導電性高分子及び光酸発生剤を含む溶液を含浸させて乾燥させる方法が挙げられる。
【0091】
他の形成方法として、導電性高分子を構成するモノマー分子を含む溶液に前記多孔質層が形成された基材を浸漬し、当該多孔質層内に前記モノマー分子を拡散させた状態で当該多孔質層に通電する電解重合法によって、当該多孔質層内で導電性高分子を合成してもよい。この電解重合法によれば、多孔質層内の深部にも導電性高分子を配置することができる。その後、光酸発生剤を含む溶液を当該多孔質層内に含浸させ、溶媒を除いて乾燥させることにより、当該多孔質層の表面および内部に導電性高分子と光酸発生剤とが共存する触媒層を形成することができる。前記モノマー分子としては、例えば、前述したチオフェン化合物、ピロール化合物、アニリン化合物等が挙げられる。
【0092】
《色素増感太陽電池》
本発明の第五態様の色素増感太陽電池は、前述した第四態様の対極と、増感色素を有する光電極と、酸化還元対を含む電解液と、を備える。
図10に、第五態様の一例として色素増感太陽電池10の断面図を示す。
図10に示す色素増感太陽電池10の構成、材料及び機能は、基本的に
図1に示す色素増感太陽電池10に関して上記した通りであるが、触媒層18は、前述した第三態様の触媒層である。
【0093】
《色素増感太陽電池の再生方法》
本発明の第六態様の色素増感太陽電池の再生方法は、触媒層を構成する導電性高分子の少なくとも一部が還元状態又は中性状態にある、前述した第五態様の色素増感太陽電池を再生する方法であって、前記触媒層に含まれている光酸発生剤に光照射することにより、前記導電性高分子を再酸化する方法である。
【0094】
例えば、
図10に示す色素増感太陽電池10を再生する場合、
図10に示す矢印「再生光」の方向から、光酸発生剤から酸を発生させることが可能な波長域の光(例えば紫外線)を照射することにより、対極12を構成する光透過性の対向基材16及び対向導電膜17を透過した再生光が触媒層18に到達する。再生光を吸収した光酸発生剤は酸を発生し、同じ触媒層18に含まれる導電性高分子を酸化状態に戻す。この結果、触媒層18の触媒能及び電気伝導性が回復され、電池性能が好ましくは初期状態にまで復元される。
【0095】
前記再生光(紫外線等)の光源としては、太陽光よりも強い光を照射することが可能であればよく、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、殺菌灯およびレーザー光等が挙げられる。照射時間は、触媒層18に含まれる導電性高分子の還元状態、使用する光源、光酸発生剤の種類及び使用量等により異なるので一概には規定できないが、10〜600秒が好ましく、30〜300秒がより好ましい。
【0096】
色素増感太陽電池10の通常の使用形態(発電)においては、
図10に示す矢印「発電光」の方向から、太陽光等の発電用の光(発電光)が入射するため、作用電極11及び電解液20を透過して触媒層18に到達する発電光は減衰している。このため、通常の使用形態(再生を意図していない使用形態)において、触媒層18に含まれる光酸発生剤が消費され尽くす恐れはない。なお、仮に、発電光が触媒層18に到達して、光酸発生剤から酸を放出させたとしても、その酸は、導電性高分子の酸化状態を維持することに寄与するので、少量の発電光が触媒層18に到達することは問題にならない。
【0097】
《電解液》
本発明の第七態様の電解液は、導電性高分子を酸化し得る、少なくとも1種の酸化剤を含む電解液である。より詳細には、本実施形態の電解液は、色素増感型太陽電池を構成する、導電性高分子からなる触媒層を再び酸化させることが可能な酸化剤と、色素増感型太陽電池において電気を流すための酸化還元反応を生じる酸化還元対と、溶媒とからなる溶液である。
【0098】
(酸化剤)
酸化剤は、導電性高分子を酸化し得る物質であれば、特に限定されるものではない。酸化剤としては、例えば、酸素気体、塩素気体、臭素気体、オゾン等を含む単体ガスの群、塩化鉄(III)六水和物、無水塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)九水和物、無水硝酸第二鉄および過塩素酸鉄(III)等を含む無機酸の群、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸およびプロピオン酸を含む有機酸の群、並びに、トリス(4−ブロモフェニル)アミンヘキサンクロロアンチモネートからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、汎用の溶媒への溶解性が高く、導電性高分子に対する酸化作用が高い点から、単体ガスの群および無機酸の群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、酸素気体、臭素気体、塩化鉄(III)を用いることがより好ましい。
【0099】
酸化剤が単体ガスの群から選択される少なくとも1種の場合、酸化剤の含有量は、電解液全体を1Lとしたとき、1mg/L〜50mg/Lであることが好ましく、5mg/L〜50mg/Lであることがより好ましく、10mg/L〜50mg/Lであることがさらに好ましい。
電解液全体に対する酸化剤の含有量が1mg/L%未満では、酸化還元対によって還元された導電性高分子を、再び酸化させることが難しくなる。一方、電解液全体に対する酸化剤の含有量が50mg/Lを超えると、酸化還元対の酸化還元反応を阻害して、電気が流れなくおそれがある。
なお、酸化剤が単体ガスの群から選択される少なくとも1種の場合、電解液に単体ガスをバブリングすることによって、電解液に単体ガスを含有または溶解させる。
また、酸化剤が単体ガスの群から選択される少なくとも1種の場合、これらの単体ガスは、電解液中でも分子として存在する。
また、単体ガスが酸素気体の場合、電解液中の溶存酸素量は、例えば、溶存酸素計によって計測される。
【0100】
酸化剤が無機酸の群および有機酸の群から選択される少なくとも1種の場合、酸化剤の含有量は、電解液全体を100質量%としたとき、0.001質量%〜10質量%であることが好ましく、0.005質量%〜5質量%であることがより好ましく、0.01質量%〜1質量%であることがさらに好ましい。
電解液全体に対する酸化剤の含有量が0.001質量%未満では、酸化還元対によって還元された導電性高分子を、再び酸化させることが難しくなる。一方、電解液全体に対する酸化剤の含有量が10質量%を超えると、酸化還元対の酸化還元反応を阻害して、電気が流れなくおそれがある。
なお、酸化剤が無機酸の群および有機酸の群から選択される少なくとも1種の場合、これらの酸は、電解液中で解離し、イオンとして存在する。
【0101】
(酸化還元対及び溶媒)
酸化還元対及び溶媒としては、本発明の第一態様の対極活物質の再活性化方法に関連して上述したものと同様のものを使用することができる。
【0102】
本実施形態の電解液によれば、少なくとも1種の酸化剤を含むので、色素増感型太陽電池等に適用した場合、電解液に含まれる酸化還元対によって還元された、触媒層を構成する導電性高分子を、電解液に含まれる酸化剤によって再び酸化させることができる。すなわち、導電性高分子を酸化剤によって再び酸化させることにより、色素増感型太陽電池の発電性能(光電変換効率)の劣化を防止することができる。
ところで、電解液に酸化剤を含有させておくことにより、電解液に含まれる酸化還元対によって、触媒層を構成する導電性高分子が酸化状態から中性状態へと還元された場合、直ちに(自動的に)電解液に含まれる酸化剤によって、その導電性高分子が再び酸化される。
【0103】
《色素増感型太陽電池》
本発明の第八態様の色素増感型太陽電池は、第七態様の電解液と、半導体を有する作用電極と、対極と、を備え、作用電極と対極との間に、電解液が挟持されてなる。第八態様の色素増感型太陽電池の各部材や基本的構成については、
図1に参照して上述したものと同様とすることができる。
【0104】
本実施形態の色素増感太陽電池10によれば、電解液20として、第七態様の電解液を含むので、触媒層18に導電性高分子を用いていても、長期間使用した場合における発電性能の劣化を防止することができる。また、触媒層18を構成する導電性高分子が、電解液20に含まれる酸化還元対によって還元されることによって、発電性能が劣化することがないので、色素増感太陽電池10を分解して、触媒層18を再生する作業が不要となるので、色素増感太陽電池10の維持費や管理費を削減することができる。
【0105】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上述した本発明の種々の態様は、本発明の目的を損なわない限り、適宜組み合わせることも可能である。
【0106】
本発明において、導電性高分子がどの程度、還元状態にあるかを確認する手法としては例えば分光スペクトルを用いた方法が挙げられる。導電性高分子は酸化状態、中性状態、還元状態で分光スペクトルの形状が異なる為、導電性高分子触媒層の分光スペクトルを測定することで、還元状態を定量的に判断することが可能である。従って、本発明の各種実施形態において、どの程度、還元処理されたかを求めることが可能である。
【実施例】
【0107】
次に、本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)
<作用電極の形成>
透明基材13として、板面にFTO膜が形成されたガラス基板を用意した。FTO膜上に、平均粒径14nmのTiO
2粒子:19質量%、エチルセルロース:9質量%、テルピネオール:72質量%からなるペーストを、サイズ4mm×4mmでスクリーン印刷法により成膜し、空気雰囲気下、500℃で30分間焼成することで、TiO
2粒子からなる多孔質層を形成した。その後、アセトニトリルとtert−ブタノールとを質量比1:1で混合した混和液に、増感色素としてN719を0.3mMの濃度で溶解させた増感色素溶液中に、TiO
2粒子からなる多孔質層及びFTO膜を備えたガラス基板を20時間浸漬させた後、アセトニトリルで洗浄することで増感色素を多孔質層の表面に吸着させた。これにより、透明基材13上に透明導電膜14と光電極15が積層された作用電極11を作製した。
【0109】
<対極の形成>
次に、作用電極11と同じ材質でFTO膜が形成されたガラス基板を用意し、電解液20を注入するための注入孔22として、FTO膜及びガラス基板を貫通する注入孔を形成した。これにより、
図4Aに示すように、FTOからなる対向導電膜17が積層されたガラスからなる対向基材16を形成した。なお、
図4A,
図4B及び
図5においては、電解液注入用の注入孔の図示を省略する。続いて、FTO膜上に、スルホン酸塩をドーパントとして含むポリアニリン:10質量%、トルエン:90質量%からなるポリアニリン溶液をスピンコート(回転数:3000rpm、20秒)により成膜した。その後、ホットプレート上で100℃、10分間の加熱処理を行うことで、導電性高分子であるポリアニリンを含む導電性高分子触媒層18を形成した。これにより、
図4Bに示すように、対向基材16上に対向導電膜17と導電性高分子触媒層18が積層された対極12を作製した。
【0110】
次に、
図5に示すように、上記方法で作製した対極12を、ヨウ素:0.05Mと、1,3−ジメチル−2−プロピルイミダゾリウムヨージド:1.0Mとを含むγ−ブチロラクトン溶液に浸漬し、導電性高分子の還元化を促進するために85℃に加熱することで対極12の導電性高分子触媒層18の導電性高分子を還元した。この際、浸漬時間が0時間(浸漬前)、100時間、300時間、500時間毎の対極12を対極12A〜12Dとして取り出し、それぞれアセトニトリルで洗浄、乾燥させた。
【0111】
<色素増感太陽電池の組み立て>
次に、
図6A〜
図6Dに示すように、上述のようにして還元処理された導電性高分子触媒層18と作用電極11の光電極15とを対向させるようにして、対極12A,12B,12C,12Dの各々を作用電極11に対して所定の間隔をあけて配置し、作用電極11と対極12との間の空間の側方に不図示の封止材を配置して熱処理等により該封止材を硬化させた。その後、不図示の注入孔から、作用電極11と対極12と封止材によって囲まれた空間に電解液20を注入し、色素増感太陽電池10A〜10Dを作製した。電解液20には、ヨウ素:0.03M、1,3−ジメチル−2−プロピルイミダゾリウムヨージド:0.6M、ヨウ化リチウム:0.10M、tert−ブチルピリジン:0.5Mを、溶媒であるアセトニトリルに溶解させたものを用いた。
【0112】
<色素増感太陽電池の発電性能の評価>
次に、ソーラーシミュレーター(型番:XES−301S、株式会社三永電機製作所製)を用い、色素増感太陽電池10A〜10Dの光電変換効率、短絡電流密度、開放電圧、曲線因子の各項目を測定することにより、色素増感太陽電池10A〜10Dの発電性能を評価した。
【0113】
<色素増感太陽電池からの対極の取り出し>
次に、上述した色素増感太陽電池の再生方法における「色素増感太陽電池から対極を取り出す工程」と同様にして、γ−ブチロラクトン溶液に500時間浸漬して還元させた導電性高分子が備えられた色素増感太陽電池10Dから対極12Dを取り出した。
【0114】
<化学的酸化による導電性高分子の再酸化>
次に、
図7に示すように、取り出した対極12Dを塩化鉄(六水和物):0.01Mを含むアセトニトリル溶液に5分間浸漬し、対極12Dの導電性高分子触媒層18の導電性高分子を化学的酸化によって再酸化した。これにより、還元状態から再酸化された導電性高分子を備えた対極12Eを作製した。
図8は、ヨウ素:0.05Mと、1,3−ジメチル−2−プロピルイミダゾリウムヨージド:1.0Mとを含むγ−ブチロラクトン溶液に浸漬する前の対極12D、ヨウ素:0.05Mと、1,3−ジメチル−2−プロピルイミダゾリウムヨージド:1.0Mとを含むγ−ブチロラクトン溶液に500時間浸漬した対極12D、対極12Dを塩化鉄(六水和物):0.01Mを含むアセトニトリル溶液に5分浸漬した対極12Eの写真である。
【0115】
<色素増感太陽電池の再組み立て・発電性能の評価>
次に、対極12Eを用い、上述の「色素増感太陽電池の組み立て」と同様にして、色素増感太陽電池10Eを組み立てた。また、上述の「色素増感太陽電池の発電性能の評価」を行う際に使用したソーラーシミュレーターを用い、色素増感太陽電池10Eの光電変換効率、短絡電流密度、開放電圧、曲線因子の各項目を測定することにより、色素増感太陽電池10Eの発電性能を評価した。
【0116】
(実施例2)
対極12に備えられた導電性高分子の再酸化を、化学的酸化に替えて電気化学的酸化によって実施したこと以外は、実施例1と同様の工程を実施した。以下、「電気化学的酸化による導電性高分子の再酸化」と、その後に行う「色素増感太陽電池の再組み立て・発電性能の評価」について説明し、それ以外の実施例1と同様の工程についての説明は省略する。
【0117】
<電気化学的酸化による導電性高分子の再酸化>
図9に示すように、
図6A〜
図6Dに示す色素増感太陽電池10Dの対極12Dの導電性高分子触媒層18を作用電極とし、支持電解質としてのLiTFSI(リチウムビストリフルメタンスルホニルイミド):10
−1Mを含むアセトニトリル溶液に浸漬した。その後、白金線と銀線をそれぞれ補助電極と基準電極として、ポテンショスタット(IVIUM社製)により作用電極である導電性高分子触媒層18に1.0Vの電圧を120秒間印加し、対極12Dの導電性高分子触媒層18の導電性高分子を電気化学的酸化によって再酸化した。これにより、還元状態から再酸化された導電性高分子を備えた対極12Fを作製した。
【0118】
<色素増感太陽電池の再組み立て・発電性能の評価>
次に、対極12Fを用い、上述の「色素増感太陽電池の組み立て」と同様にして、色素増感太陽電池10Fを組み立てた。また、上述の「色素増感太陽電池の発電性能の評価」を行う際に使用したソーラーシミュレーターを用い、色素増感太陽電池10Fの光電変換効率、短絡電流密度、開放電圧、曲線因子の各項目を測定することにより、色素増感太陽電池10Fの発電性能を評価した。
【0119】
(比較例1)
「化学的酸化による導電性高分子の再酸化」を行わないこと以外は、実施例1と同様の工程を実施した。即ち、γ−ブチロラクトン溶液に500時間浸漬して還元させた対極12Dをアセトニトリルで洗浄、乾燥させて対極12G(図示略)とした後、対極12Gを用いて色素増感太陽電池10Gを組み立てた。その後、上述の「色素増感太陽電池の発電性能の評価」を行う際に使用したソーラーシミュレーターを用い、色素増感太陽電池10Gの光電変換効率、短絡電流密度、開放電圧、曲線因子の各項目を測定することにより、色素増感太陽電池10Gの発電性能を評価した。
【0120】
(実施例1,2及び比較例1における色素増感太陽電池の発電性能の評価結果について)実施例1,2及び比較例1における色素増感太陽電池10A〜10Gの発電性能の評価結果を表1に示す。なお、表1の再酸化による光電変換効率の回復率は、色素増感太陽電池10Aの光電変換効率に対する色素増感太陽電池10E〜10Gの光電変換効率の比率により算出した。
【0121】
【表1】
【0122】
表1に示すように、実施例1の色素増感太陽電池10Eでは、対極12Dの再酸化による光電変換効率の回復率が0.97となり、1に近い値が得られた。色素増感太陽電池10Eの短絡電流密度、開放電圧、曲線因子についても、色素増感太陽電池10Aにおける各項目と同程度の結果が得られた。これは、γ−ブチロラクトン溶液に500時間浸漬することで還元された導電性高分子が、アセトニトリル溶液に5分浸漬されたことで化学的酸化により再酸化され、再生したことによる。また、導電性高分子が再生したことで、対極12Eの導電性高分子触媒層18の触媒活性及び電気伝導性が、導電性高分子が還元される前の初期性能まで略回復されたことによる。
【0123】
また、実施例2の色素増感太陽電池10Fにおいても、対極12Dの再酸化による光電変換効率の回復率が0.98となり、1に近い値が得られた。色素増感太陽電池10Fの短絡電流密度、開放電圧、曲線因子についても、色素増感太陽電池10Aにおける各項目と同程度の結果が得られた。これは、γ−ブチロラクトン溶液に500時間浸漬することで還元された導電性高分子が、LiTFSI:10
−1Mを含むアセトニトリル溶液に浸漬されると共に、白金線と銀線をそれぞれ補助電極と基準電極として、作用電極である導電性高分子触媒層18に電圧が印加されたことで電気化学的酸化により再酸化され、再生したことによる。また、導電性高分子が再生したことで、対極12Fの導電性高分子触媒層18の触媒活性及び電気伝導性が、導電性高分子が還元される前の初期性能まで略回復されたことによる。
【0124】
これらの実施例に対し、比較例1の色素増感太陽電池10Gでは、光電変換効率が殆ど回復していない。色素増感太陽電池10Gの短絡電流密度、開放電圧、曲線因子についても、色素増感太陽電池10Aにおける各項目の値に比べて何れも低い値となった。これは、γ−ブチロラクトン溶液に500時間浸漬することで還元され且つ色素増感太陽電池10Gの対極12Gに備えられた導電性高分子が、化学的酸化による再酸化、電気化学的酸化による再酸化の何れもなされず、還元状態のままで再生されなかったことによる。
【0125】
以上説明した実施例1,2における色素増感太陽電池の発電性能の評価結果より、本発明によれば、色素増感太陽電池の長期間の使用等によって還元された導電性高分子を再酸化することで、該導電性高分子からなる触媒層から構成される対極を再生し、触媒層の触媒活性及び電気伝導性を導電性高分子が還元される前の初期性能まで復元すると共に、色素増感太陽電池の発電性能を初期性能まで確実に復元し、色素増感太陽電池を再生できることを確認した。
【0126】
(実施例3)
<光電極の作製>
酸化チタン粒子(粒径Φ14nm)19質量%、エチルセルロース9質量%、テルピネオール72質量%からなるペーストを用いて、多孔質膜の形成を行った。透明導電基板として、FTO膜を配した表面抵抗10オーム(Ω)のガラス基板を用い、上記ペーストをスクリーン印刷法で4mm×4mmの面積で、FTO膜上に塗布した後、空気雰囲気下500℃で30分間焼成して、透明導電膜上に多孔質層(膜厚10μm)を形成した。
アセトニトリルとtert-ブタノールの1:1の混和液に増感色素N719を0.3mMの濃度で溶解した色素溶液中に、前記多孔質層を備えた基板を20時間浸漬させた後、アセトニトリルで洗浄し、増感色素を多孔質層に吸着させてなる発電層を備えた光電極を作製した。
【0127】
<対極の作製>
FTO膜が形成されたガラス基板に、後工程において電解液を注入するための注入孔を形成した。このガラス基板上に、スピンコート(回転数3000rpm20秒)によって、導電性高分子及び光酸発生剤を含む溶液を塗布し、ホットプレート上で60℃5分間の加熱処理を行うことにより、FTO膜上に導電性高分子及び光酸発生剤から成る触媒層を形成した。
前記溶液中、溶液の総質量に対して、導電性高分子(スルホン酸塩をドーパントとして含むポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT))の含有量は85質量%であり、光酸発生剤(イルガキュアPAG103(IR 103、BASF社製))の含有量は15質量%であった。また、溶媒としてメタノールを使用した。
【0128】
<電解液の調製>
溶媒であるγ−ブチロラクトンに、ヨウ素を0.05M、1,3−ジメチル−2−プロピルイミダゾリウムヨージドを1.0Mの濃度となるように溶解させることにより、電解液を調製した。
【0129】
<色素増感太陽電池(DSC)の組み立て>
触媒層を備えた対極と、発電層を備えた光電極とを、封止材を挟み込む形で対面配置させ、加熱処理で封止材を硬化させることにより、DSCセルを組み立てた。次に対極に形成した前記注入孔から、光電極、対極及び封止材によって囲まれた空間に電解液を注入し、注入孔を封止した。
【0130】
<色素増感太陽電池の発電性能の評価>
ソーラーシミュレーター(型番:XES−301S、株式会社三永電機製作所製)を使用し、作製したDSCセルについて、光強度100mW/cm
2の疑似太陽光照射下における、光電変換効率(発電効率)を測定した。この結果を表2の「発電効率(85℃前)」の欄に示す。
【0131】
<色素増感太陽電池の耐熱試験(加速試験)>
次に、発電効率を測定したDSCセルを85℃の電気炉中に300時間置いた後、その発電性能を上記と同様に測定した。この結果を表2の「発電効率(85℃後)」の欄に示す。
【0132】
<色素増感太陽電池の再生試験>
続いて、耐熱試験後に発電効率を測定したDSCセルに対して、UVスポットキュア(ウシオ電機社製)を用いて紫外光を照射した。この際、触媒層を構成する導電性高分子に対する照射効率を高めるために、対極側から紫外光を照射した。その後、再び発電性能を評価した。この結果を表2の「発電効率(紫外光有)」の欄に示す。
また、後述する実施例4〜7及び比較例2の結果を表2に併記した。
【0133】
【表2】
【0134】
(実施例4)
実施例3で使用した、「スルホン酸塩をドーパントとして含むポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン」を、「スルホン酸塩をドーパントとして含むポリアニリン」に変更した。それ以外は実施例3と同様に実施した。
【0135】
(実施例5)
実施例3で使用した、「スルホン酸塩をドーパントとして含むポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン」を、「テトラシアノテトラアザナフタレンをドーパントとして含むポリピロール」に変更した。それ以外は実施例3と同様に実施した。
【0136】
(実施例6)
実施例3で使用した、「イルガキュアPAG103」を、「イルガキュアPAG121(BASF社製)」に変更した。それ以外は実施例3と同様に実施した。
【0137】
(実施例7)
実施例3で使用した、「イルガキュアPAG103」を、「イルガキュアPAG290(BASF社製)」に変更した。それ以外は実施例3と同様に実施した。
【0138】
(比較例2)
イルガキュアPAG103を含有させなかった以外は、実施例3と同様に実施した。
【0139】
以上の結果を考察する。まず、85℃で長時間保管する加速試験によって、初期の発電性能が劣化している。これは、触媒層を構成する導電性高分子が電解液中の酸化還元対によって化学的に還元された又は中性化されたためであると考えられる。その後、触媒層に紫外光を照射することによって、その発電性能が大幅に回復している。これは、実施例3〜7のDSCセルにおいては、触媒層に含まれる光酸発生剤から放出された酸の作用により、導電性高分子が酸化状態に戻ったためであると考えられる。一方、比較例2のDSCセルの触媒層には光酸発生剤が含まれていないため、紫外線を照射しても発電性能は回復していない。
【0140】
以上から、本発明にかかる触媒層及び対極を備えた色素増感太陽電池は、長期間に亘る電解液と触媒層との接触によって、触媒層を構成する導電性高分子が中性化又は還元されて発電性能が低下したとしても、光酸発生剤から酸を放出させ得る光(再生光)を触媒層に照射することによって、その発電性能を回復させられることが明らかである。
【0141】
(実施例8)
<発電層(作用電極)の形成>
透明導電基板として、板面にFTO膜が形成された、表面抵抗10オーム(Ω)のガラス基板を用意した。
FTO膜上に、平均粒径14nmのTiO
2粒子:19質量%、エチルセルロース:9質量%、テルピネオール:72質量%からなるペーストを、サイズ4mm×4mmでスクリーン印刷法により成膜し、空気雰囲気下、500℃で30分間焼成することで、TiO
2粒子からなる多孔質層を形成した。
その後、アセトニトリルとtert−ブタノールとを質量比1:1で混合した混和液に、増感色素としてN719を0.3mMの濃度で溶解させた増感色素溶液中に、TiO
2粒子からなる多孔質層およびFTO膜を備えたガラス基板を20時間浸漬させた後、アセトニトリルで洗浄することで増感色素を多孔質層の表面に吸着させた。これにより、透明導電基板上に透明導電膜と光電極が積層された作用電極を作製した。
【0142】
<触媒層(対極)の形成>
次に、作用電極と同じ材質でFTO膜が形成されたガラス基板を用意し、電解液を注入するための注入孔として、FTO膜およびガラス基板を貫通する注入孔を形成した。これにより、FTO膜からなる対向導電膜が積層されたガラスからなる対向基材を形成した。
続いて、FTO膜上に、スルホン酸塩をドーパントとして含むポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT):1〜2質量%と、メタノール:98〜99質量%とからなるPEDOT溶液をスピンコート(回転数:3000rpm、20秒)により成膜した。その後、ホットプレート上で80℃、5分間の加熱処理を行うことで、導電性高分子であるPEDOTを含む触媒層を形成した。これにより、対向基材上に対向導電膜と導電性高分子からなる触媒層が積層された対極を作製した。
【0143】
<酸化剤を含有する電解液の形成>
溶媒としてのγ−ブチロラクトンに、酸化還元対として、ヨウ素0.05Mと、1,3−ジメチル−2−プロピルイミダゾリウムヨージド1.0Mとを溶解させて、電解液を調製した。
続いて、この電解液に酸素気体を10分間バブリングすることによって、電解液に酸素(酸化剤)を含有させた。この時、電解液中の溶存酸素量を、溶存酸素計によって計測した。その結果、電解液中の溶存酸素量は10g/L(水飽和率換算)であった。
【0144】
<色素増感太陽電池の組み立て>
上述のようにして作製した発電層と触媒層とを対向させるようにして、対極を作用電極に対して所定の間隔をあけて配置し、作用電極と対極との間の空間の側方に封止材を配置し、熱処理等により、その封止材を硬化させた。その後、対極に形成した注入孔から、作用電極と対極と封止材によって囲まれた空間に、上述のようにして作製した電解液を注入し、その後、注入穴を、封止材を熱硬化することで塞ぎ、色素増感太陽電池を作製した。
【0145】
<色素増感太陽電池の発電性能の評価>
ソーラーシミュレーターを用い、光強度100mW/cm
2の疑似太陽光照射下における、光電変換効率を測定することにより、色素増感太陽電池の発電性能を評価した。結果を表3に示す。
【0146】
<色素増感太陽電池の85℃耐熱試験(触媒層の耐熱加速試験)>
色素増感太陽電池を電気炉中に、85℃で500時間保管した。
その後、上述のようにして、色素増感太陽電池の光電変換効率を測定した。結果を表3に示す。
また、85℃耐熱試験前後の光電変換効率の測定結果から、85℃耐熱試験前の光電変換効率に対する85℃耐熱試験後の光電変換効率((85℃耐熱試験後の光電変換効率)/(85℃耐熱試験前の光電変換効率)×100(%))を算出し、光電変換効率の維持率とした。結果を表3に示す。
【0147】
(実施例9)
<触媒層(対極)の形成>において、ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)溶液の代わりに、ポリアニリン溶液を用いた以外は、実施例8と同様にして、実施例9の色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池について、実施例8と同様にして、色素増感太陽電池の発電性能の評価、および、色素増感太陽電池の85℃耐熱試験を行った。結果を表3に示す。
【0148】
(実施例10)
<酸化剤を含有する電解液の形成>において、電解液に酸素気体をバブリングする代わりに、電解液に塩化鉄(III)を1mmol/L含有させた以外は、実施例1と同様にして、実施例3の色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池について、実施例8と同様にして、色素増感太陽電池の発電性能の評価、および、色素増感太陽電池の85℃耐熱試験を行った。結果を表3に示す。
【0149】
(比較例3)
<酸化剤を含有する電解液の形成>において、電解液に酸素気体をバブリングしなかった以外は、実施例8と同様にして、比較例3の色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池について、実施例8と同様にして、色素増感太陽電池の発電性能の評価、および、色素増感太陽電池の85℃耐熱試験を行った。結果を表3に示す。
【0150】
(比較例4)
<酸化剤を含有する電解液の形成>において、電解液に酸素気体をバブリングしなかった以外は、実施例9と同様にして、比較例3の色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池について、実施例8と同様にして、色素増感太陽電池の発電性能の評価、および、色素増感太陽電池の85℃耐熱試験を行った。結果を表3に示す。
【0151】
【表3】
【0152】
表3の結果から、実施例8〜10では、電解液中に酸化剤として、酸素または塩化鉄(III)を含有しているので、光電変換効率の維持率が高いことが分かった。
一方、比較例3および4では、電解液中に酸化剤を含有していないので、光電変換効率の維持率が低いことが分かった。