(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960941
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】乗り物用シート構造
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20160719BHJP
B60N 2/44 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
B29C45/14
B60N2/44
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2009-211815(P2009-211815)
(22)【出願日】2009年9月14日
(65)【公開番号】特開2011-56896(P2011-56896A)
(43)【公開日】2011年3月24日
【審査請求日】2012年9月11日
【審判番号】不服2015-7535(P2015-7535/J1)
【審判請求日】2015年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】598147400
【氏名又は名称】ジョンソン コントロールズ テクノロジー カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Johnson Controls Technology Company
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】安井 浩之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 淳
(72)【発明者】
【氏名】中島 篤志
(72)【発明者】
【氏名】アントニー・クメイド
【合議体】
【審判長】
吉村 尚
【審判官】
黒瀬 雅一
【審判官】
植田 高盛
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−190251(JP,U)
【文献】
国際公開第2008/047811(WO,A1)
【文献】
特開昭54−160465(JP,A)
【文献】
特開平2−195908(JP,A)
【文献】
特開2008−184144(JP,A)
【文献】
特開2007−8272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-2/72
A47C 7/00
A47C 7/02
A47C 7/40
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にナノレベルでアンカー状をなす凹部を形成したアルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄の何れかの金属製のシート構造部材の前記凹部にPPS或いはPBT或いはPAの合成樹脂が流れ込んで固化し、前記合成樹脂よりなり且つ連続した略ハニカム状をなす合成樹脂製の強度部材の脚部が形成されて、この脚部を前記シート構造部材に強固に支持してなることを特徴とする乗り物用シート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、船舶、航空機、鉄道車両等の乗り物用シート構造、特に強度を増したにもかかわらず、重量が軽減できる乗り物用シート構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗り物、特に自動車のシート構造としては、乗員を支持するシートバックの骨組みとなるシートバックフレームが、アルミニウム合金を鋳造してなる一つの鋳造品により構成されてなる。また、シートバックフレームの側端部近傍の車体側壁部に支持されるリトラクタの取付部位(支持部)からシートバックフレームの下端縁部まで上下方向に延びる部位が、車体前後方向に対して作用する荷重に対する補強部とされている(先行技術文献1。)ものが、従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−229688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる従来技術は、自動車が衝突したときなどに発生する大きな荷重にシートバックフレームが耐え得るように、高強度ハニカム構造など予め補強されてなるが、かかる金属材よりの補強或いは板厚増加などにより、シートバックフレームなどの重量が増加することになり、燃費を悪くするおそれがある、という課題がある。
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は、シートバックフレームなど金属製のシート構造部材に加わる衝撃荷重に十分耐え得る軽量な手段を備えた乗り物用シート構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1記載の乗り物用シート構造は、表面にナノレベルでアンカー状をなす凹部を形成したアルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄の何れかの金属製のシート構造部材
の前記凹部にPPS或いはPBT或いはPA
の合成樹脂が流れ込んで固化し、前記合成樹脂よりな
り且つ連続した略ハニカム状をなす合成樹脂製の強度部材の脚部
が形成されて、この脚部を前記シート構造部材に強固に支持してなる
B.ことを特徴とする面にナノレベルでアンカー状をなす凹部を形成したアルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄の何れかの金属製のシート構造部材
の前記凹部にPPS或いはPBT或いはPA
の合成樹脂が流れ込んで固化し、前記合成樹脂よりな
り且つ連続した略ハニカム状をなす合成樹脂製の強度部材の脚部
が形成されて、この脚部を前記シート構造部材に強固に支持してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、表面にナノレベルでアンカー状をなす凹部を形成したアルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄の何れかの金属製のシート構造部材
の前記凹部にPPS或いはPBT或いはPA
の合成樹脂が流れ込んで固化し、前記合成樹脂よりな
り且つ連続した略ハニカム状をなす合成樹脂製の強度部材の脚部
が形成されて、この脚部を前記シート構造部材に強固に支持してなるため、アルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄の何れかの金属製のシート構造部材の強度が著しく増大したにもかかわらず、表面にナノレベルでアンカー状をなす凹部を形成してなるので、凹部に流れ込んで一体化した強度部材が合成樹脂製であるので、軽量に出来るし、シート構造部材自体を薄板にできる、という効果を奏する。また、アンカー状をなす凹部内に前記強度部材が確実に流れ込んで、強固な固定が可能となる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1に係る乗り物用シート、特にその構造部材を示す斜視図。
【
図2】
図1のSA−SA線に沿った模式的断面説明図。
【
図3】
図2のB部の電子顕微鏡的に拡大した断面説明図。
【
図4】
図1に示すシート構造部材を型内に入れて強度部材を射出成形する状況を模式的に示す閉型状態の断面図。
【
図5】
図4の可動型を開成し、第2可動型との間に存在する射出成形された強度部材を備えたシート構造部材を模式的に示す開型状態の断面図。
【
図6】
図5の第2可動型からシート構造部材を取り外した状態を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明において、シートバックフレームなど金属製のシート構造部材に加わる衝撃荷重に十分耐え得る軽量な手段を備えた乗り物用シート構造を提供するという目的を、表面にナノレベルでアンカー状をなす凹部を形成したアルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄の何れかの金属製のシート構造部材
の前記凹部にPPS或いはPBT或いはPA
の合成樹脂が流れ込んで固化し、前記合成樹脂よりな
り且つ連続した略ハニカム状をなす合成樹脂製の強度部材の脚部
が形成されて、この脚部を前記シート構造部材に強固に支持してなることで、実現した。以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1に係る構造を、
図1〜
図3を用いて説明する。この実施例1の乗り物としての自動車用シート構造1は、シートバック2と、シートクッション3とを図示しないリクライニング装置により支持してなり、前記シートバック2は、シート構造部材4と、該シート構造部材4に配された図示しない緩衝材と、前記シート構造部材4及び緩衝材を覆う表皮とよりなり、図示しないヘッドレストが、該シートバック2の上部に支持されてなる。符号9は、シートベルトリトラクタである。
【0023】
前記シート構造部材4は、正面から見て(
図1に示す)略逆L字状に形成されてなるパイプ状の第1部材5と、該第1部材5の右側RHを上下に渡って配され且つ前記第1部材5及び後述する第3部材6に溶接支持されてなる第2部材7と、該第2部材7及び第1部材5それぞれの下端部に溶接支持されてなる第3部材6とよりなる。第2部材7には、
図1に示すように、前記第2部材7の上端部から下端部まで複数の連続した略ハニカム状の強度部材11が固持されてなる。
【0024】
前記第2部材7は、鉄板よりなり、表面の錆や油脂を除去した後、
図3に示すように、前記第2部材7の表面7a全体にナノレベル、具体的には20〜50ナノ(ナノは10億分の1)メートルの凹部12を成形する。該凹部12は、アンカー状に形成されてなる。
【0025】
前記第2部材7の上端部には、前記シートベルトリトラクタ9を後ろ側RRの面に支持するリトラクタブラケット8が一体に成形されてなる。符号
14は、前記シートベルトリトラクタ9に巻き取られてなるシートベルト(図示省略)を乗員の肩部を適正に支持可能なる様にガイドするガイド部材である。符号13,13は、前記ヘッドレストのスティを支持するように、前記第1部材5の上部に支持してなるホルダーである。符号10は、前記第1部材5の側部に支持されて、図示しないリクライニング装置のアッパー部材を支持してなるサイドプレートである。
【0026】
前記強度部材11は、硬質合成樹脂のPPS(ポリフエニレンサルファイド)よりなり、
図6に示す成形型20の固定型21と、可動型22との間の第2可動型23内に前記第2部材7を支持した状態で、射出成形することで、前記第2部材7の表面7aの粗面、即ち、凹部12の形成されたところに、硬質合成樹脂であるPPS(ポリフエニレンサルファイド)が流れ込むことで、脚部11aが
図2に模式的に示す楔状をなし、実際的には、電子顕微鏡で見ると、
図3に示す例のように凹部12内に流れ込んで固化することで形成されてなる強度部材11が形成され、該強度部材11の脚部11aを第2部材7に強固に支持してなる。符号24は、前記硬質合成樹脂であるPPS(ポリフエニレンサルファイド)の射出手段である。
【0027】
次に、この実施例1の作用を説明する。
【0028】
表面7aを粗した金属製のシート構造部材4の第2部材7を成形型20内に入れて、射出成形することで、粗面に合成樹脂製の強度部材11の脚部11aを強固に支持してなるので、前記強度部材11が強固にシート構造部材4の第2部材7に支持してあることで、シート構造部材4の第2部材7の強度が著しく増大したにもかかわらず、強度部材11が合成樹脂製であるので、軽量に出来るし、シート構造部材4の第2部材7自体を薄板にできる、という効果を奏する。
【0029】
また、前記強度部材11は、硬質合成樹脂のPPS(ポリフエニレンサルファイド)よりなることにより、金属製のシート構造部材4の第2部材7に合成樹脂の強度部材11が確実に一体化できる、という効果を奏する。
【0030】
更に、前記シート構造部材4の第2部材7は、鉄材よりなり、表面7aの粗面の凹部12内に前記強度部材11の脚部11aが確実に流れ込んで、強固な固定が可能となる、という効果を奏する。
【0031】
更に、前記強度部材11は、複数の連続した略ハニカム状をなすことにより、前記シート構造部材4の第2部材7に加わった衝撃荷重が分散し、確実な衝撃の吸収が出来る、という効果を奏する。
【0032】
更に、前記シート構造部材4の第2部材7の粗面は、ナノレベルの凹部12であることにより、前記シート構造部材4の第2部材7の表面を触った人にとって、そこに凹部12があることを感じさせないので、簡単な表面処理でよく、製造原価が安価になる、という効果を奏する。
【0033】
更に、前記シート構造部材4の第2部材7に加わる荷重点は、シートベルトリトラクタ9の支持部であるリトラクタブラケット8により、自動車の急制動等によって大きな荷重がシートベルトを介してリトラクタ9の支持部であるリトラクタブラケット8に加わっても、該支持部であるリトラクタブラケット8を支持するシート構造部材4の第2部材7が合成樹脂製の強度部材11によって強固にされているので、充分保持できる、という効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
前記実施例1では、荷重点として、リクライニング装置の支持部として説明したが、リクライニング装置の支持部に限定されるものではなく、リクライニング装置の支持部であってもよく、自動車の急制動等によって大きな荷重がシートバック2を介して図示しないリクライニング装置の支持部に加わっても、該支持部を支持するシート構造部材4の第2部材7が合成樹脂製の強度部材11によって強固にされているので、充分保持できる。
【0035】
また、前記実施例1では、シート構造部材4の第2部材7の材料について、鉄板として説明しているが、鉄板に限らず、アルミニウム、マグネシウム、銅、ステンレス、チタン、黄銅であっても良い。
【0036】
更に、前記実施例1では、合成樹脂製の強度部材11について、PPS(ポリフエニレンサルファイド)として説明しているが、PPS(ポリフエニレンサルファイド)に限らず、PBT(ポリブチレンテレフタレート)或いはPA(ポリアミド)であっても良い。
【0037】
更に、前記実施例1では、自動車用シート構造として説明しているが、自動車用に限らず、船舶、航空機、鉄道車両等の乗り物用シート構造であっても良い。
【符号の説明】
【0038】
1 自動車用シート構造
2 シートバック
4 シート構造部材
7 シート構造部材の第2部材
7a 第2部材の表面
9 シートベルトリトラクタ
11 強度部材
11a 強度部材の脚部
12 凹部