特許第5960983号(P5960983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960983
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】操縦支援装置および操縦支援方法
(51)【国際特許分類】
   B64C 13/16 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   B64C13/16 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-283508(P2011-283508)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-132946(P2013-132946A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年10月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度経済産業省「航空機用先進システム基盤技術(先進パイロット支援システム)」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 忠
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 翔
(72)【発明者】
【氏名】笹本 貴宏
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−001930(JP,A)
【文献】 特開2011−097810(JP,A)
【文献】 梅沢翔,外6名,“1B12 先進パイロット支援システム研究開発5 〜知的操縦支援システム”,飛行機シンポジウム講演集(CD−ROM),一般社団法人日本航空宇宙学会,2011年10月,第49回,p.143-149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 13/04 − 13/22
B64C 13/38 − 13/50
B64C 27/56 − 27/57
G05D 1/00 − 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機に設けられ、パイロットの操縦を支援する操縦支援装置であって、
操縦桿における操作量である実操作量を検出する実操作量検出部と、
前記実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいてパイロットが所望する操作量を推定して推定操作量を生成する推定操作量判定部と、
前記推定操作量を実現するために必要となる駆動力を一度に印加せず、所定の増加率に従い該駆動力の絶対値を漸増させながら前記操縦桿に印加する操縦桿制御部と、
前記推定操作量と前記実操作量との差分を導出する差分導出部と、
前記差分が所定値以上となると前記駆動力の印加を解除させ、前記推定操作量を再度生成させる差分応答部と、
を備え、
前記操縦桿制御部が前記駆動力の漸増を開始した後、該駆動力を拒否する旨の操作入力があれば、前記差分応答部は、前記パイロットの操作継続意志無しと判定して該駆動力の印加を解除させ、該駆動力を拒否する旨の操作入力が所定時間なければ、前記操縦桿制御部は、該パイロットの操作継続意志有りと判定して該駆動力を印加することを特徴とする操縦支援装置。
【請求項2】
前記差分応答部は、前記差分が所定値を超えると、一旦、前記実操作量を相殺する方向に駆動力を生じさせ、該駆動力を所定の低減率に従って漸減することで該駆動力を解除させることを特徴とする請求項1に記載の操縦支援装置。
【請求項3】
操縦桿に加えられる力の合力である実操作力を検出する実操作力検出部をさらに備え、
前記実操作量を相殺する方向の駆動力は、前記実操作力と前記駆動力に基づいて算出されるパイロットの操作力と逆方向に絶対値が等しい力であることを特徴とする請求項2に記載の操縦支援装置。
【請求項4】
航空機においてパイロットの操縦を支援する操縦支援方法であって、
操縦桿における操作量である実操作量を検出し、
前記実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいてパイロットが所望する操作量を推定して推定操作量を生成し、
前記推定操作量を実現するために必要となる駆動力を一度に印加せず、所定の増加率に従い該駆動力の絶対値を漸増させながら前記操縦桿に印加し、
前記駆動力の漸増を開始した後、該駆動力を拒否する旨の操作入力があれば、前記パイロットの操作継続意志無しと判定して該駆動力の印加を解除し、該駆動力を拒否する旨の操作入力が所定時間なければ、該パイロットの操作継続意志有りと判定して該駆動力を印加して操縦フェーズに移行し
操縦フェーズにおいて、
前記推定操作量と前記実操作量との差分を導出し、
前記差分が所定値以上となると前記駆動力の印加を解除し、前記推定操作量を再度生成することを特徴とする操縦支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機において、パイロットの操縦を支援する操縦支援装置および操縦支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は、飛行自由度が高く、飛行速度も高いので、その飛行においてパイロットに多大な操作負担を強いることになり、ヒューマンエラーに起因する事故が生じ易くなっている。そこで、飛行中の安全性を確保すべく、パイロットの操作負担を軽減するために操縦支援装置(操縦支援システム)が構築されている。
【0003】
操縦支援装置では、パイロットが航空機の飛行状態を容易に把握できるように、表示態様や配置が工夫されている。また、操縦桿に対する操作量をフィードバックして操縦桿に外力を加え、操縦桿の操作容易性を高めることも行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7658349号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、操縦支援において、パイロットによる操作に単純に外力を追従させてしまうと、例えば、短時間のみ変位させる操作が操縦支援装置によって意図せず長時間維持されてしまい、却って適切な操作の弊害となるおそれがあった。
【0006】
この場合、パイロットの操縦桿に対する操作が短時間のみ変位させるだけの操作なのか、長時間連続して行う操作なのかといった、パイロットの操作意図を、操縦支援システムに伝達できれば問題は生じない。しかし、そのためには、別途のスイッチによる特別な操作入力が必要となり、操縦支援すべき装置が却って操作を煩雑かつ困難にしてしまうこととなる。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、パイロットの操作意図を装置側に簡易かつ確実に伝達することで、適切な操縦支援を実行することが可能な操縦支援装置および操縦支援方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、航空機に設けられ、パイロットの操縦を支援する操縦支援装置であって、操縦桿における操作量である実操作量を検出する実操作量検出部と、実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいてパイロットが所望する操作量を推定して推定操作量を生成する推定操作量判定部と、推定操作量を実現するために必要となる駆動力を一度に印加せず、所定の増加率に従い駆動力の絶対値を漸増させながら操縦桿に印加する操縦桿制御部と、推定操作量と実操作量との差分を導出する差分導出部と、差分が所定値以上となると駆動力の印加を解除させ、推定操作量を再度生成させる差分応答部と、を備え、操縦桿制御部が駆動力の漸増を開始した後、駆動力を拒否する旨の操作入力があれば、差分応答部は、パイロットの操作継続意志無しと判定して駆動力の印加を解除させ、駆動力を拒否する旨の操作入力が所定時間なければ、操縦桿制御部は、パイロットの操作継続意志有りと判定して駆動力を印加することを特徴とする。なお駆動力とは、操縦支援装置の操作力(操縦桿を動かすための力と航空機の各操縦舵面に空気力が加わることで発生するヒンジモーメントと釣り合うための力との合力)と反力(パイロットの操縦桿操作に対抗して操縦桿を保持するための力)の合力を指す。
【0009】
また、差分応答部は、差分が所定値を超えると、一旦、実操作量を相殺する方向に駆動力を生じさせ、駆動力を所定の低減率に従って漸減することで駆動力を解除させてもよい。
【0010】
操縦支援装置は、操縦桿に加えられる力の合力である実操作力を検出する実操作力検出部をさらに備え、実操作量を相殺する方向の駆動力は、実操作力と駆動力に基づいて算出されるパイロットの操作力と逆方向に絶対値が等しい力であってもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、航空機においてパイロットの操縦を支援する操縦支援方法であって、操縦桿における操作量である実操作量を検出し、実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいてパイロットが所望する操作量を推定して推定操作量を生成し、推定操作量を実現するために必要となる駆動力を一度に印加せず、所定の増加率に従い駆動力の絶対値を漸増させながら操縦桿に印加し、駆動力の漸増を開始した後、駆動力を拒否する旨の操作入力があれば、パイロットの操作継続意志無しと判定して駆動力の印加を解除し、駆動力を拒否する旨の操作入力が所定時間なければ、パイロットの操作継続意志有りと判定して駆動力を印加して操縦フェーズに移行し操縦フェーズにおいて、推定操作量と実操作量との差分を導出し、差分が所定値以上となると駆動力の印加を解除し、推定操作量を再度生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パイロットの操作意図と操縦支援装置の操縦支援との合意を随時とることで、パイロットの操作意図を操縦支援装置に簡易かつ確実に伝達し、適切な操縦支援を実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】航空機とパイロットと操縦支援装置との関係を示した説明図である。
図2】操縦支援装置による操縦支援におけるフェーズの遷移を示した状態遷移図である。
図3】操縦支援装置の概略的な構成を述べた機能ブロック図である。
図4】操縦支援方法の処理の流れを示したフローチャートである。
図5】高度の推定操作量の他の導出手順を示した制御系を説明するための説明図である。
図6】トラフィックパターンにおけるパイロットの操作負担を検証するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(操縦支援の概略)
図1は、航空機1とパイロット2と操縦支援装置100との関係を示した説明図である。パイロット2は、操縦桿を通じて航空機1を操作する。また、操縦支援装置100は、主として、操縦桿を通じた操縦支援により、適切な飛行に必要な操作量をパイロット2と操縦支援装置100とで按分する。しかし、パイロット2の操作意図に拘わらず、所定の支援処理を単純に遂行するだけでは、適切な操作の弊害となるおそれがある。そこで、本実施形態では、別途のスイッチによる特別な操作入力を要さず、パイロット2の操作意図を操縦支援装置100に簡易かつ確実に伝達することで、操縦支援装置100による適切な操縦支援を実行し、安全性と利便性とを両立する。
【0017】
具体的に、操縦支援装置100は、操縦桿を通じて、パイロット2の操作意図を把握すると共に、操縦桿を通じて、その操作意図に従った支援動作である操縦支援をパイロット2に伝達する。このとき、パイロット2は、操縦桿を通じて、その操縦支援を許諾または拒否することができる。こうして、パイロット2による操作意図と操縦支援装置100による操縦支援との合意を随時とることが可能となる。
【0018】
また、パイロット2が操作意図を変更した場合においても、操縦支援装置100は、パイロット2の操作意図を効率的に把握し、操縦支援を追従させることが可能となる。ここでは、操縦桿を通じた触覚情報を積極的に用いることで、パイロット2にさらなる操作負担をかけることなく、適切な操縦支援を実現している。
【0019】
図2は、操縦支援装置100による操縦支援におけるフェーズの遷移を示した状態遷移図である。操縦支援装置100では、その操縦支援の態様により、「観察フェーズ」、「調整フェーズ」、「操縦フェーズ」といった3つの状態を遷移している。
【0020】
観察フェーズは、操縦桿の実際の操作量である実操作量と機体の飛行位置、機体速度、機体姿勢などの機体状態量とを検出して推定操作量を特定するフェーズである。操縦支援装置100では当該観察フェーズから開始される。調整フェーズは、特定された推定操作量に応じ、操縦桿に限定的に駆動力を印加すると共に、パイロット2がその操縦支援を許諾するか否かを読み取るフェーズである。操縦フェーズは、パイロット2の許諾を得て操縦桿に駆動力を印加すると共に、パイロット2の操作意図の変更の有無を判定するフェーズである。
【0021】
また、観察フェーズから調整フェーズへは以下の条件により遷移する。例えば、操縦支援装置100は、実操作量を通じてパイロット2の操作意図を検出し、その操作意図が所定の操作を継続するものであれば、パイロット2の操作意図として推定操作量を特定し、調整フェーズに移行する。このとき、操縦支援装置100は、推定操作量に従って操縦桿による操縦支援を行い、パイロット2の操作意図をくみ取ったことを伝達する。
【0022】
調整フェーズからは、以下の条件により観察フェーズまたは操縦フェーズへ遷移する。パイロット2は、操縦支援装置100の操縦桿を通じて操縦支援を受け、それが自身の意図する操作であるか否か判断し、操作意図に沿っていれば、その操作を維持することで許諾し、操作意図に沿っていなければ、操縦支援に反する操作を行うことで操縦支援を拒否する。操縦支援装置100は、操縦支援がパイロット2に許諾されるか拒否されるかを判定し、拒否されれば、観察フェーズに戻り、許諾されれば(所定時間、拒否する旨の操作入力がなければ)、操縦フェーズに遷移する。したがって、調整フェーズでは、限定的な処理、即ち、推定操作量の実現のために必要となる力である駆動力の絶対値を、0%から100%に所定時間をかけて徐々に大きくすることで、パイロット2の反応を認識し、操縦フェーズへのスムーズな遷移を行う。
【0023】
操縦フェーズから観察フェーズへは、以下の条件により遷移する。即ち、操縦支援装置100は、調整フェーズ同様、パイロット2によって操縦支援と異なる操作意図が操縦桿を通じて入力されるか否か判定し、操縦支援と操作意図とが異なれば、観察フェーズに戻る。
【0024】
航空機1では、以上説明した、観察フェーズ、調整フェーズ、操縦フェーズを繰り返すことで、パイロット2の操作意図と、操縦支援装置100の操縦支援との合意を図り、適切な操縦支援を実行する。以下、上記の動作を実現するための操縦支援装置100の構成を述べ、その後、操縦支援方法を説明する。
【0025】
(操縦支援装置100)
図3は、操縦支援装置100の概略的な構成を述べた機能ブロック図である。ここでは、本実施形態の目的である操縦支援に必要な構成のみを説明し、本実施形態に関係のない構成については説明を省略する。
【0026】
飛行機構110は、翼が機体に固定されている固定翼と、推進力を得る内燃機関(例えば、ジェットエンジンやレシプロエンジン)とで構成され、推進力により翼周りに揚力を生じさせることで、機体が大気中に浮上した状態を維持する。ただし、揚力を生じさせる機構はかかる場合に限らず、回転可能に設けられた回転翼(ローター)により揚力を得たり、推進力を得ることも可能である。また、飛行機構110では、補助翼や昇降舵を通じてバンク角(ロール角)、機首角(ピッチ角)、内燃機関の出力等を調整することで、飛行方位(ヨー角)、高度、飛行速度を制御することも可能である。
【0027】
飛行状態センサ112は、航空機1に設けられた航法センサ等の様々なセンサを通じて、飛行位置(経度、緯度、高度を含む)、機体速度、機体姿勢、機体が受ける風力、風向き、天候、機体周囲の気圧、温度、湿度等の現在の飛行状態を検出する。特に本実施形態では、飛行位置、機体速度、機体姿勢であるバンク角、機首角、飛行方位を利用する。
【0028】
操縦桿114は、棒状またはハンドル状に形成され、パイロット2の操作入力や後述する操縦桿駆動部120の駆動力を受け、飛行機構110を動作させる。例えば、操縦桿114がパイロット2に対して前後に傾倒されると、その実操作量に応じ、操縦桿114とケーブルで直結された蛇面が変位して機体の姿勢が変化し、ひいては高度変化率が変化する。したがって高度変化率は、操縦桿114の実操作量に対応して変化し、実操作量が0になると、それに伴って0となる。
【0029】
また、本実施形態において、操縦桿114は、パイロット2と操縦支援装置100とのインターフェースとして機能する。パイロット2は、操縦桿114を通じて操縦支援装置100に操作意図を伝達し、操縦支援装置100は、操縦桿114を通じてパイロット2に操縦支援を伝達する。パイロット2は、かかる操縦支援を許諾するか拒否するかの意志も操縦桿114を通じて操縦支援装置100に伝達する。
【0030】
実操作量検出部116は、ポテンショメータ等で構成され、操縦桿114の実際の位置を操作量(エルロン、エレベータ、スロットル)として検出する。
【0031】
実操作力検出部118は、フォースセンサ等で構成され、操縦桿114に実際に加えられている力の合力を実操作力として検出する。操縦桿114に加えられる力としては、パイロット2による操作入力と後述する操縦桿駆動部120が印加する駆動力とがある。
【0032】
操縦桿駆動部120は、アクチュエータ等で構成され、操縦桿114の操作側に相対する端部を支点に、操縦桿114に駆動力を印加し、パイロット2が操作入力を行うが如く、操縦桿114を傾倒する。
【0033】
表示部122は、指示器、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成され、飛行状態や実操作量をパイロット2に伝達する。
【0034】
中央制御部124は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成され、操縦支援装置100全体を管理および制御する。また、中央制御部124は、推定操作量判定部130、操縦桿制御部132、差分導出部134、差分応答部136として機能する。
【0035】
推定操作量判定部130は、実操作量検出部116が検出した実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいてパイロットが所望する操作量を推定し、推定操作量を生成する。
【0036】
ここで、実操作量の統計値は、例えば、所定時間(例えば、3〜5秒)内の実操作量の標準偏差である。したがって、推定操作量判定部130は、中央制御部124のRAMに、過去所定時間分の実操作量を保持させ、実操作量を新たに検出する毎に標準偏差を求める。標準偏差を求める式は既存の一般式を用いることができるので、ここではその詳細な説明を省略する。ただし、標準偏差を求める上で必要な移動平均(相加平均)や、実操作量と移動平均との差分の2乗の積算値は、前回導出された値から、実操作量に関する最も古い値を減算し、最新の値を加算することで処理負荷を軽減することができる。また、機体状態量は、飛行位置(経度、緯度、高度を含む)、機体速度、機体姿勢であるバンク角、機首角、飛行方位であり、その統計値は標準偏差である。機体状態量の統計値は実操作量の統計値と同様に求めることができる。
【0037】
推定操作量判定部130は、かかる実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の移動平均値を、推定操作量の候補とする。そして、以下の条件を満たした場合に、その推定操作量の候補を推定操作量として特定する。
【0038】
次に、推定操作量判定部130は、実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいて、パイロット2による推定操作量での操作継続意志が有るか否か、即ち、パイロット2が現在の実操作量による飛行状態をしばらく維持したいと考えているかどうかを判定する。かかる推定操作量判定部130は、主として観察フェーズで動作する。
【0039】
実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値を通じて判定する例として、高度変化率/高度および飛行速度の保持操作を挙げる。推定操作量判定部130は、実操作量の標準偏差が、予め定められた第1閾値(例えば、5°)以下であり、高度変化率の標準偏差が第2閾値(例えば、100ft/min)以下であり、その時点の高度変化率が第3閾値(例えば、400ft/min)以上であれば、推定操作量判定部130は、パイロット2が、かかる高度変化率を維持したいと考えている(操作継続意志)と判定する。そして、高度変化率の推定操作量として、その時点の高度変化率の移動平均値を設定する。一方で、実操作量の標準偏差および高度変化率の標準偏差が、予め定められた第1閾値および第2閾値以下であり、その時点の高度変化率が第3閾値以下であれば、推定操作量判定部130は、パイロット2が、かかる高度を維持したいと考えていると判定する。そして、高度の推定操作量として、その時点の高度の移動平均値を設定する。また、同様に、スロットルに対する実操作量の標準偏差が、予め定められた第4閾値(例えば、5°)以下であり、その時点の飛行速度の標準偏差が第5閾値(例えば、マッハ0.2)以下であれば、推定操作量判定部130は、パイロット2が、その時点の飛行速度を維持したいと考えていると判定する。そして、推定操作量として、その時点の飛行速度の移動平均値を設定する。
【0040】
また、推定操作量判定部130は、バンク角が第6閾値(例えば、バンク角1.5°)以下であるかを判定し、バンク角が第6閾値以下であれば、その場合は、その時点のバンク角をパイロット2が維持したいバンク角と考えている(操縦継続意思)と判定する。そして、推定操作量として、その時点のバンク角の移動平均値を設定する。また実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値を通じて判定する例として、図5(a)に示すトラフィックパターンにおける複数経路からの経路選択操作を挙げる。推定操作量判定部130は、第1エリアでは観察フェーズにおいて、機体ピッチ角速度の移動平均値が、予め設定しておいた第7閾値(例えば、1deg/sec)以上であるかを判定し、その場合は、パイロット2が滑走路への着陸を中断し元のトラフィックパターンへ戻る飛行経路を選択したと判定する。また、推定操作量判定部130は、第2エリアでは観察フェーズにおいて、機体バンク角の移動平均値が、予め設定しておいた第8閾値(例えば1.5°)以上であるかを判定し、その場合は、パイロット2が右旋回の飛行経路を選択したと判定する。また、バンク角が予め設定しておいた第9閾値(例えば−1.5°)以下である場合には、パイロット2が左旋回の飛行経路を選択したと判定する。さらに、第9閾値より大きく第8閾値より小さいと判定された場合、推定操作量判定部130は、パイロット2がトラフィックパターンの直線経路を選択したと判定する。
【0041】
また、推定操作量判定部130は、実操作量の統計値より機体状態量の統計値を優先して判定に用いる。これは、実操作量の統計では、複数の実操作量を判定しなければならない場合があり、かつ、操縦桿114の遊びによって操作量を特定し難い場合があるからである。したがって、推定操作量判定部130は、まず、機体状態量の統計値を判定し、操作継続意志を得られなかった場合に、機体状態量および実操作量の統計値を判定する。
【0042】
なお、上記した各閾値は、例示に過ぎず、パイロット2の経験やシミュレーションに基づいて、任意に設定できるのは言うまでもない。また、各閾値は、各シミュレータ試験における設定値の平均値を自動的に計算して設定することができる。また、移動平均値を計算する時間幅も、同様に任意に設定できる。
【0043】
操縦桿制御部132は、推定操作量判定部130が、パイロット2による操作継続意志有りと判定すると、操縦桿駆動部120を通じて推定操作量を実現するために必要となる駆動力を操縦桿114に印加する。かかる操縦桿制御部132は、主として調整フェーズおよび操縦フェーズで動作する。また、推定操作量を実現するための操縦桿114の具体的な駆動制御は、PID制御等、既存の様々な制御理論を採用することができる。さらに、駆動力のうちの操縦支援装置の操作力の強さは、機体舵面のヒンジモーメント分として必要な荷重を加味することにより、さらに正確な数値を導出したりすることで、決定できる。また駆動力のうちの反力の強さは、パイロット2の経験に基づいて直接数値を設定したり、各シミュレータ試験における設定値の平均値を自動的に計算することで、決定できる。
【0044】
ただし、操縦支援として、操縦桿114を容易に変位できないように、既に駆動力を印加している場合、操縦桿制御部132は、その駆動力を減少または増加させることで当該機能を果たす。ここで、操縦桿制御部132は、駆動力を一度に変化させず、所定の変化率をもって徐々に変化させるとしてもよい。これは、駆動力を徐々に変化させることで、パイロット2が、推定操作量判定部130の生成した推定操作量が、自身の意図する操作であるか否か判断しやすくし、操作意図に沿っていなければ、操縦支援を拒否しやすいようにするためである。
【0045】
こうして、パイロット2は、自身が操作する操縦桿114を通じ、操縦支援装置100の操縦支援が為されたことを直感的に把握することが可能となる。
【0046】
なお、推定操作量を実現するために印加する駆動力の絶対値には所定の上限値が設けられ、パイロット2が操縦桿114にその上限値を上回る操作入力をすることによって、操縦支援装置100の操縦支援の拒否を示すことができる。
【0047】
差分導出部134は、推定操作量判定部130による推定操作量と実操作量との差分(実操作量から推定操作量を引いた値)を導出する。かかる差分導出部134は、主として調整フェーズおよび操縦フェーズで動作する。ここで、差分が大きいことは、操縦支援装置100の操縦支援が、パイロット2の操作意図と異なることを示すこととなる。
【0048】
差分応答部136は、差分導出部134が導出した差分が、所定値を超えると、即ち、パイロット2が操縦支援を拒否する、または、操作意図を変更すると、駆動力の印加を解除させる。所定値は、例えば、実操作量が推定操作量を上回ったことを示す0とすることができる。かかる差分応答部136は、主として調整フェーズおよび操縦フェーズで動作する。
【0049】
また、差分応答部136は、駆動力の印加を一度に解除させず、一旦、パイロット2が操縦桿114に加える操作力を相殺する(打ち消す)方向に駆動力を生じさせ、その駆動力を所定の低減率に従って漸減してもよい。これは、駆動力を一度に解除することで、操縦桿114に操作力を加えているパイロット2が超過した操作を行わないようにするためである。この際一旦加える相殺方向の駆動力は、パイロット2の操作力と逆方向に絶対値が等しい力とすることが好ましい。このようにすることで、パイロット2の操作力と駆動力とが釣り合うため、パイロット2の超過操作を防止できる。なお、このときのパイロット2の操作力は、実操作力検出部118で検出される実操作力から操縦桿制御部132が印加する駆動力を減じることによって求めることができる。
【0050】
このような操縦支援装置100によって、パイロット2は、操縦桿114に印加された駆動力を通じて操縦支援装置100の操縦支援を把握でき、また、それを許諾し、もしくは、拒否して新たな操作意図を操縦支援装置100に伝達することが可能となる。
【0051】
(操縦支援方法)
図4は、操縦支援方法の処理の流れを示したフローチャートである。当該操縦支援方法が開始されると、最初に、観察フェーズを実行すべく、初期値として観察フラグがON、調整フラグがOFFされる(S200)。
【0052】
(観察フェーズ)
まず、中央制御部124は、観察フラグがONになっているか否か判定し(S202)、観察フラグがONになっていれば(S202におけるYES)、観察フェーズに遷移する。
【0053】
そして、推定操作量判定部130は、実操作量検出部116が検出した実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値を導出する(S204)。次に、推定操作量判定部130は、実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいて、パイロット2による推定操作量での操作継続意志が有るか否か、即ち、パイロット2が現在の実操作量による飛行状態をしばらく維持したいと考えているかどうかを判定する(S206)。ここで、パイロット2による操作継続意志有りと判定されると(S206におけるYES)、推定操作量判定部130は、機体状態量の統計値を目標推定状態量に代入し、目標推定状態量を更新する(S208)。ここで目標推定状態量は、推定操作量を導出するために用いられる。そして、推定操作量判定部130は、観察フラグをOFF、調整フラグをONして(S210)、調整フェーズへの遷移準備を行う。パイロット2による操作継続意志が確認されないと(S206におけるNO)、フラグが維持され、そのまま観察フェーズが継続される。
【0054】
(調整フェーズ)
上記観察フラグ判定ステップ(S202)において、観察フラグがONになっていないと(S202におけるNO)、中央制御部124は、調整フラグがONになっているか否か判定する(S212)。調整フラグがONになっていれば(S212におけるYES)、調整フェーズに遷移する。
【0055】
そして、推定操作量判定部130は、実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいて推定操作量を導出する(S214)。例えば、高度変化率/高度の推定操作量として、上記では、その移動平均値を推定操作量としたが、かかる場合に限らず、ステップS208で更新した目標推定状態量(特に高度)と機体状態量を用いて高度の推定操作量を以下のように導出することもできる。
【0056】
図5は、高度の推定操作量の他の導出手順を示した制御系を説明するための説明図である。ここで、推定操作量判定部130は、高度の目標推定状態量と、高度および高度変化率の機体状態量とを用い、高度の機体状態量から高度の機体状態量を減算し、その減算結果を積分ゲインKと比例ゲインKとでPI制御する。また、高度変化率の機体状態量を微分ゲインKで乗じて、上記PI制御の結果に加算する(PID制御)。こうして、高度の推定操作量を得ることができる。
【0057】
操縦桿制御部132は、推定操作量判定部130が推定した推定操作量を実現するために必要となる駆動力を限定的に(例えば、最終的に必要な駆動力になるよう駆動力の絶対値を漸増させて)操縦桿114に印加する(S216)。次に、差分導出部134は、推定操作量と実操作量との差分を導出する(S218)。差分応答部136は、差分が所定値以上であるか否か判定し(S220)、所定値以上であれば、即ち、操縦支援を拒否する意志があると判定すると(S220におけるYES)、駆動力の印加を解除させる(S222)。また、差分応答部136は、観察フラグをON、調整フラグをOFFして(S224)、観察フェーズへの遷移準備を行う。このとき、差分応答部136は、駆動力の印加を一度に解除させず、一旦、パイロット2が操縦桿114に加える操作力を相殺する(打ち消す)方向に駆動力を生じさせ、その駆動力を所定の低減率に従って漸減してもよい。
【0058】
差分が所定値以上ではなければ(S220におけるNO)、中央制御部124は、当該調整フェーズが開始されてから、所定時間(例えば、5秒)が経過したか否か判定し(S226)、所定時間が経過していたら(S226におけるYES)、観察フラグをOFF、調整フラグをOFFして(S228)、操縦フェーズへの遷移準備を行う。ここでは、観察フラグおよび調整フラグがいずれもOFFすることで操縦フェーズに遷移する。所定時間が経過していないと(S226におけるNO)、そのまま調整フェーズが継続される。
【0059】
なお、この推定操作量と実操作量との差分に基づく判定は、上述の観察フェーズにおいて応用することも可能である。すなわち、上述の観察フェーズの説明において、パイロット2が推定操作量での操作継続に合意するか否かの判定を、実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいて行うとしたが、これに代えて、推定操作量と実操作量との差分が所定値以内か否かに基づいて行うことも可能である。当該差分が所定値以内であれば、パイロット2が現在の実操作量による飛行状態をしばらく維持したいと考えていると判断することができ、調整フェーズへの遷移準備を行う。この際用いる所定値は、調整フェーズで用いるものと必ずしも同じである必要はない。
【0060】
(操縦フェーズ)
上記調整フラグ判定ステップ(S212)において、調整フラグがONになっていないと(S212におけるNO)、操縦フェーズに遷移する。推定操作量判定部130は、上記ステップS214同様、実操作量および機体状態量のいずれか一方または両方の統計値に基づいて推定操作量を導出する(S230)。操縦桿制御部132は、推定操作量判定部130が推定した推定操作量を実現するために必要となる駆動力を操縦桿114に印加する(S232)。次に、差分導出部134は、推定操作量と実操作量との差分を導出する(S234)。差分応答部136は、差分が所定値以上であるか否か判定し(S236)、所定値以上であれば、即ち、パイロット2が操作意図を変更すると(S236におけるYES)、駆動力の印加を解除させ(S238)、観察フラグをON、調整フラグをOFFして(S240)、観察フェーズへの遷移準備を行う。差分が所定値以上でなければ(S236におけるNO)、そのまま操縦フェーズが継続される。
【0061】
(効果の検証)
以下、操縦支援装置100や操縦支援方法の効果を検証する。図6は、トラフィックパターンにおけるパイロット2の操作負担を検証するための説明図である。特に図6(a)は、航空機1を飛行させるトラフィックパターンを、図6(b)は、かかるトラフィックパターンを飛行したときのパイロットA〜Fによる、本実施形態を採用していないシミュレーションと比較した、本実施形態を採用した場合のシミュレーションにおけるNASA−TLX(NASA - Task Load indeX)の総合値(AWWL:Adaptive Weighted WorkLoad)の減少量ΔAWWL、および、セカンダリタスク選択反応時間計測法(CRTT)の反応時間の平均値(ART:Average Reaction Time)の減少量ΔARTを示している。
【0062】
ここで、ARTは、任意の点灯に反応する時間を示し、操作に集中せざるを得ない場合、即ち、操作負担が大きい場合、その時間が長くなる。また、AWWLは、WWL(Weighted WorkLoad)を改修したものであり、パイロット2の操作負担の高さを表すことができる。AWWLが小さくなるとパイロット2の操作負担が少ないということになる。
【0063】
評価用フライトシミュレータにおいて、6人のパイロットA〜Fは、図6(a)に示すトラフィックパターンに従い、飛行場到着、場周経路、飛行場着陸、および待機旋回/ショートアプローチ/エクステンド/ゴーアラウンド等、周囲の状況に応じた突発的な管制指示を想定して模擬飛行を行った。図6(b)には、本実施形態を採用していないシミュレーションと比較した、本実施形態を採用した場合のシミュレーション結果が示されている。
【0064】
ここでは、全てのパイロットA〜Fについて、減少量が大凡正の値となり、本実施形態が、操作負担を低減させ、安全性と簡便性の向上に有効であることを確かめることができた。
【0065】
以上、説明したように本実施形態の操縦支援装置100や操縦支援方法によれば、パイロットの操作意図と装置側の操縦支援との合意を随時とることで、パイロットの操作意図を操縦支援装置100に簡易かつ確実に伝達し、適切な操縦支援を実行することが可能となる。また、このように、操作負担が軽減されることで、安全性を高めることができる。
【0066】
また、コンピュータを、操縦支援装置100として機能させるためのプログラムや当該プログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能なフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD、DVD、BD等の記憶媒体も提供される。ここで、プログラムは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理手段をいう。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0068】
また、上述した操縦支援方法は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、航空機において、パイロットの操縦を支援する操縦支援装置および操縦支援方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
100 …操縦支援装置
112 …飛行状態センサ
114 …操縦桿
116 …実操作量検出部
118 …実操作力検出部
120 …操縦桿駆動部
124 …中央制御部
130 …推定操作量判定部
132 …操縦桿制御部
134 …差分導出部
136 …差分応答部
図1
図2
図3
図4
図5
図6