特許第5960992号(P5960992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5960992-樹脂被覆金属板 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960992
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】樹脂被覆金属板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/00 20060101AFI20160719BHJP
   B26F 1/16 20060101ALI20160719BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   H05K3/00 M
   B26F1/16
   B32B15/08 101Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-8420(P2012-8420)
(22)【出願日】2012年1月18日
(65)【公開番号】特開2012-178550(P2012-178550A)
(43)【公開日】2012年9月13日
【審査請求日】2014年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-22982(P2011-22982)
(32)【優先日】2011年2月4日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100149021
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 有佳理
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 彰利
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 純也
(72)【発明者】
【氏名】山田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 法仁
【審査官】 中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−347602(JP,A)
【文献】 特開2005−169538(JP,A)
【文献】 特開2004−017190(JP,A)
【文献】 特開平08−155896(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/102544(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/00
B26F 1/00 − 3/16
B32B 1/00 − 43/00
B23B 35/00 − 49/06
B23Q 11/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、該金属板の少なくとも一方の面に形成された熱可塑性樹脂膜を有し、
前記熱可塑性樹脂膜が、融点が73℃〜85℃のエチレン−アクリル酸共重合体を含み、
前記熱可塑性樹脂膜は、熱可塑性樹脂中、前記エチレン−アクリル酸共重合体の含有量が50質量%以上であり、デスミア処理試験における分解率が100質量%のものであ
ことを特徴とするプリント配線基板の穴あけ加工用の樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記エチレン−アクリル酸共重合体中のアクリル酸含有量が、15質量%〜30質量%である請求項1に記載の樹脂被覆金属板。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂膜が、有機系固形潤滑剤を含有する請求項1又は2に記載の樹脂被覆金属板。
【請求項4】
前記金属板がアルミニウム板であり、
前記熱可塑性樹脂膜の厚さが、30μm〜200μmである請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板の小穴あけ加工を効率よく実施するために用いられる保護用当て板として好適な樹脂被覆金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板は、電子部品を搭載(実装)して電子部品間を電気的に接続する役割を有するものであり、電気製品の内部部品として非常に重要である。このプリント配線基板を製造するにあたっては、その製造工程の一つとして、積層基板の最上層と最下層間における通電を可能とするために、断面方向にスルーホール(貫通穴)を形成する工程がある。スルーホールはプリント配線基板にとって不可欠なものであり、また一般的にその数は多数に及ぶことから、このスルーホールを形成する工程は、プリント配線基板の製造において重要な位置を占めている。
【0003】
一般的にプリント配線基板は、銅箔からなる導体層とガラス繊維を織ったクロスにエポキシ樹脂などを含浸硬化した絶縁層とを相互に積層した複合材料からなるが、これら各構成材料の物性には相違がある。そのため、ドリルによりスルーホールを形成する際に、材料間の界面剥離や割れ等を生じることがある。また、前記複合材料の表面にはガラス繊維製クロスの凹凸に由来する周期的な凹凸が存在するため、ドリル穴あけ加工の際に穴の位置精度が悪化し易い。そこで、材料の割れを抑制したり、穴の位置精度を高めたりするために、ドリルによりスルーホール(貫通穴)を形成する際には、前記複合材料の片面又は両面に保護用当て板が配置される。
【0004】
このような保護用当て板として、例えば、アルミニウム箔の片面に、水溶性ポリマー(ポリエチレンオキサイド)と水溶性滑剤(ポリグリセリンモノステアレート)を含む層が形成された小孔開け用滑剤シート(引用文献1(実施例2)参照)が提案されている。しかし、水溶性ポリマーを用いているため皮膜自体がベタツキやすく、梅雨期、夏場等の高温多湿状態下では一層皮膜表面のベタツキが起こり、取扱いや作業性に支障をきたすという欠点があった。
【0005】
また、融点が260℃、引張弾性率が1960MPaであるポリエステルフィルム又は融点が180℃、引張弾性率が1050MPaであるポリプロピレンフィルムとアルミニウム箔と重ね合わせた穴あけ加工用シート(特許文献2(実施例1〜6)参照)や、滑材を含有するポリエチレン樹脂層の両外層に滑材を含有しないポリエチレン樹脂層を設けて3層構造とした熱可性樹脂フィルムとアルミニウム箔とを貼り合せてなり、前記ポリエチレンの融点が90〜180℃であるプリント配線板穴明け加工用シート(特許文献3(段落[0005]、[0008])参照)が提案されている。
【0006】
さらに、金属板の少なくとも一方の面が熱可塑性樹脂で被覆された樹脂被覆金属板であって、熱可塑性樹脂が非水溶性であり、所定の融解ピーク温度、溶融粘度及びデュロメータD硬さを有する樹脂被覆金属板(特許文献4、5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−169400号公報
【特許文献2】特開2004−9270号公報
【特許文献3】特開2001−150215号公報
【特許文献4】特開2004−17190号公報
【特許文献5】特開2005−169538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プリント配線基板を製造する場合、上記のようにスルーホールを形成した後、加工穴の内壁部に銅メッキ処理を施す。この時、一般的には、銅メッキ処理を施す前に、プリント配線基板を構成している樹脂に対してメッキが付き易くするようにデスミア処理が行われる。デスミア処理は、ドリル加工後のプリント配線基板を膨潤液、酸化液、還元液と順次浸漬して、加工穴内壁部に付着している樹脂残渣(ドリルの摩擦熱によって融着したプリント配線基板を構成する樹脂由来の残渣、保護用当て板に使用された樹脂残渣)を除去し、かつ加工穴内壁表面をエッチングして次工程での銅メッキを付き易くするものである。
【0009】
このデスミア処理において、加工穴内壁部に付着している樹脂残渣を完全に分解除去できなければ、次工程の銅メッキ処理において、加工穴内壁部にメッキを付着させる妨げとなり、ひいては導通不良を起こす原因となる。特に、プリント基板が内層銅箔を有する多層基板においては重大な問題となる。そのため、保護用当て板に使用される樹脂は、デスミア工程で容易に分解除去できることが重要となるが、従来技術で開示されている非水溶性の熱可塑性樹脂に関してはこの点の対応は一切考慮されていない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、プリント配線基板の穴あけ加工用の樹脂被覆金属板において、被覆樹脂として使用される非水溶性の熱可塑性被覆樹脂が、プリント配線基板の加工穴内壁部に付着した場合でも、この樹脂残渣を一般的なデスミア処理で容易に分解除去することができる樹脂被覆金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することができた本発明のプリント配線基板の穴あけ加工用の樹脂被覆金属板は、金属板と、該金属板の少なくとも一方の面に形成された熱可塑性樹脂膜を有し、前記熱可塑性樹脂膜が、融点が70℃〜85℃のエチレン−アクリル酸共重合体を含むことを特徴とする。
【0012】
前記エチレン−アクリル酸共重合体のアクリル酸含有量は15質量%〜30質量%であることが好ましい。前記熱可塑性樹脂は、デスミア処理試験における分解率が100質量%のものであることが好ましい。前記熱可塑性樹脂膜は、有機系固形潤滑剤を含有することが好ましい。前記金属板はアルミニウム板が好ましく、前記熱可塑性樹脂膜の厚さは、30μm〜200μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被覆樹脂として使用される非水溶性の熱可塑性被覆樹脂が、プリント配線基板の加工穴内壁部に付着した場合でも、一般的なデスミア処理でこの樹脂残渣を容易に分解除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】分解試験に用いた円筒状容器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の樹脂被覆金属板は、金属板に被覆される熱可塑性樹脂として、融点が70℃〜85℃のエチレン−アクリル酸共重合体(以下、「分解性アクリル酸共重合体」と称することがある。)を用いることを特徴とする。前記エチレン−アクリル酸共重合体とは、エチレンとアクリル酸との共重合体である。
【0016】
本発明の樹脂被覆金属板に使用される分解性アクリル酸共重合体は、一般的なデスミア処理で容易に分解する。そのため、本発明の樹脂被覆金属板を保護用当て板として用いてプリント配線基板のドリル加工を行った場合に、加工穴の内壁に樹脂被覆金属板に由来する樹脂残渣が付着した場合でも、デスミア処理によって容易に樹脂残渣を除去することができる。また、前記分解性アクリル酸共重合体は非水溶性であるため、樹脂皮膜がべとつかず、樹脂被覆金属板の取扱いや作業性が良好となる。なお、本発明において「非水溶性」とは、25℃の水に1時間浸漬した場合に、浸漬前の質量に対して、浸漬・乾燥後の質量が減少していないものをいう。
【0017】
前記分解性アクリル酸共重合体の融点は、70℃以上85℃以下である。融点が85℃を超えると、デスミア処理における分解性が低下し、樹脂残渣を除去できないおそれがある。一方、融点が70℃未満では、融点が低すぎるとドリルや加工穴内壁への融着量が増加し、樹脂残渣の除去に長時間を要する傾向がある。前記共重合体の融点は、73℃以上が好ましく、より好ましくは75℃以上であり、82℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下である。なお、融点はJIS K7121に準拠して測定する。
【0018】
前記分解性アクリル酸共重合体は、構成成分である単量体中のアクリル酸含有量が15質量%以上であることが好ましく、より好ましくは17質量%以上、さらに好ましくは19質量%以上であり、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは23質量%以下である。前記アクリル酸含有量が15質量%以上であれば、デスミア処理における分解性がより向上し、樹脂残渣をより確実に除去できるようになる。また、アクリル酸含有量が30質量%以下であれば、融点を所望の範囲に調整しやすい。なお、共重合体中のアクリル酸含有量は、分光測定装置を用いた赤外分光法により測定できるが、市販品を用いる場合にはカタログ値を参照すればよい。
【0019】
前記分解性アクリル酸共重合体は、メルトフローレイト(MFR)(125℃、2.16kgf)が10g/10min以上70g/10min以下であることが好ましい。なお、分解性アクリル酸共重合体のMFRはASTM D1238、JIS K7210又はISO 1133に準拠して測定すればよく、市販品を用いる場合にはカタログ値を参照すればよい。
【0020】
上記のような特性を満足する分解性アクリル酸共重合体は、「プリマコール(登録商標)」シリーズとして、ダウケミカル社から市販されており入手可能である。
【0021】
前記熱可塑性樹脂は、後述するデスミア処理試験における分解率が100質量%であることが好ましい。前記分解率が100質量%であれば、一般的なデスミア処理においても、熱可塑性樹脂が完全に分解されるため、加工穴内壁に付着している樹脂残渣を完全に除去することができる。なお、分解性を有さない樹脂であっても、デスミア処理の際の加熱で融解するが、加工穴の内径が小さい(例えば、0.5mm以下)場合には、却って加工穴を塞いでしまうことがある。
【0022】
前記熱可塑性樹脂膜は、本発明の効果を損なわない程度であれば、分解性アクリル酸共重合体以外の他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂(共重合ポリアミド等)等が挙げられる。前記他の熱可塑性樹脂として、市販品を用いてもよく、例えば、エムスケミージャパン社から市販されている「グリルテックス」(共重合ポリアミド)等が挙げられる。
【0023】
前記他の熱可塑性樹脂は、メルトフローレイト(MFR)(150℃、2.16kgf)が1g/10min以上であることが好ましく、より好ましくは2g/10min以上、さらに好ましくは3g/10min以上であり、10g/10min以下であることが好ましく、より好ましくは7g/10min以下、さらに好ましくは5g/10min以下である。なお、他の熱可塑性樹脂のMFRは上記分解性アクリル酸共重合体と同様に測定すればよく、市販品を用いる場合にはカタログ値を参照すればよい。
【0024】
なお、前記熱可塑性樹脂膜は、熱可塑性樹脂中、分解性アクリル酸共重合体の含有量が50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。特に、熱可塑性樹脂として分解性アクリル酸共重合体のみを含むことが好ましい。
【0025】
前記熱可塑性樹脂膜は、熱可塑性樹脂に加えて、有機系固形潤滑剤を含有することが好ましい。潤滑剤を含有することにより、プリント配線基板にドリルでスルーホールを形成する際のドリル加工性がより向上する。前記有機系固形潤滑剤は、融点が150℃以下であるものが好ましい。前記有機系固形潤滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス系、パラフィンワックス系、脂肪酸アミド系、ポリエチレングリコール系(分子量200〜40000)等が挙げられる。
【0026】
前記有機系固形潤滑剤の添加量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、30質量部以上が好ましく、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは60質量部以上である。有機系固形潤滑剤の添加量が多いほどドリル加工性が向上する。一方、有機系固形潤滑剤の添加量が多くなりすぎると熱可塑性樹脂膜自体の強度が不足し、フィルム成型に支障がでる傾向があるため、前記添加量は、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0027】
前記金属板としてはアルミニウム基板を使用することが好ましい。具体的には、純アルミニウム系と、3000系合金及び5000系合金等のアルミニウム合金があるが、最も好ましくは純アルミニウム系である。アルミニウム基板の厚さは20μm以上が好ましく、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは70μm以上であり、300μm以下が好ましく、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。アルミニウム基板の厚さが20μm未満であると、ハンドリング性が悪くなり、穴あけ加工時のドリルの穴位置精度が低下する。また、アルミニウム基板の厚さが300μmを超えると、上述の方法での生産性が制限され、経済性の点で劣ることになる。
【0028】
本発明の樹脂被覆金属板の製造方法としては、工業的に使用される公知の方法であれば、特に限定されるものではない。具体的には、樹脂膜を構成する熱可塑性樹脂と好ましくは有機系固形潤滑剤とをロールやニーダー、その他の混錬手段を使用し、適宜加熱して、好適には所定の粘度の均一な原料樹脂とし、ロール法やカーテンコート法などで、金属板上に塗布(被覆)する方法;また、原料樹脂をプレスやロール、またはT−ダイ押出機等を使用し、予め所望の厚さのシートに成形し、これを金属板に重ね、プレスやロール等で加熱・加圧し、必要に応じて接着剤等により、接着(被覆)する方法(ラミネート法)等が挙げられる。
【0029】
前記熱可塑性樹脂膜の厚さは20μm以上が好ましく、より好ましくは25μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。熱可塑性樹脂膜の厚さが厚いほど、ドリル加工性が向上する。一方、熱可塑性樹脂膜が厚すぎてもドリル加工性の向上は飽和となり、却って加工穴内壁への樹脂残渣の付着量が増加してしまうため、前記厚さは、400μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0031】
実施例1
熱可塑性樹脂として、エチレン−アクリル酸共重合体〔ダウケミカル社製「プリマコール」、融点78℃、アクリル酸含量21質量%、MFR14g/10min(125℃、2.16kgf)、非水溶性〕(以下、「EAA1」という)を用い、下記の押出装置にて厚さ100μmの樹脂フィルムを製膜した。
この樹脂フィルムを、加熱した厚さ100μmの純アルミニウム板(JIS H4000 合金番号:1N30)に融着させながらラミネートして樹脂被覆金属板を作製した。
なお、押出装置は下記のとおりである。
押出装置 押出機:40mm単軸押出機、L/D=28
スクリュー:フルフライトコンスタントピッチ
ダイス:単層Tダイス、巾500mm、コートハンガー型
【0032】
実施例2
熱可塑性樹脂を、エチレン−アクリル酸共重合体〔ダウケミカル社製「プリマコール」、融点75℃、アクリル酸含量20質量%、MFR65g/10min(125℃、2.16kgf)、非水溶性〕(以下、「EAA2」という)に変更したこと以外は実施例1と同様にして押出装置にて100μm厚の樹脂フィルムを製膜した。この樹脂フィルムを、加熱した厚さ100μmの純アルミニウム板(JIS H4000 合金番号:1N30)に融着させながらラミネートして樹脂被覆金属板を作製した。
【0033】
実施例3
熱可塑性樹脂として、EAA1を50質量部、共重合ポリアミド〔エムスケミージャパン社製「グリルテックス」(共重合ポリアミド:融点120℃、MFR3.6g/10min(150℃、2.16kgf)〕(以下「PA」という)を50質量部配合し、実施例1と同様の押出装置にて100μm厚の樹脂フィルムを製膜した。この樹脂フィルムを、加熱した厚さ100μmの純アルミニウム板(JIS H4000 合金番号:1N30)に融着させながらラミネートして樹脂被覆金属板を作製した。
【0034】
実施例4
熱可塑性樹脂としてEAA1を67質量部、PAを33質量部、有機系固形潤滑剤として、ポリエチレングリコール〔三洋化成工業社製「PEG」(ポリエチレングリコール:分子量8000)〕(以下、「潤滑剤1」という)33質量部及びパラフィンワックス〔日本精蝋社製「PALVAX」(パラフィンワックス)〕(以下、「潤滑剤2」という)33質量部を配合し、実施例1と同様の押出装置にて100μm厚の樹脂フィルムを製膜した。この樹脂フィルムを、加熱した厚さ100μmの純アルミニウム板(JIS H4000 合金番号:1N30)に融着させながらラミネートして樹脂被覆金属板を作製した。
【0035】
実施例5
熱可塑性樹脂として、EAA1を67質量部、EAA2を33質量部、有機系固形潤滑剤として、潤滑剤1を33質量部、潤滑剤2を33質量部配合し、実施例1と同様の押出装置にて100μm厚の樹脂フィルムを製膜した。この樹脂フィルムを、加熱した厚さ100μmの純アルミニウム板(JIS H4000 合金番号:1N30)に融着させながらラミネートして樹脂被覆金属板を作製した。
【0036】
比較例1
熱可塑性樹脂を、エチレン−アクリル酸共重合体〔三井デュポンポリケミカル社製「ニュクレル(登録商標)AN4221C」、融点94℃、アクリル酸含量12.0質量%、MFR10g/10min(125℃、2.16kgf)、非水溶性〕(以下「EAA3」という)に変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆金属板を作製した。
【0037】
比較例2
熱可塑性樹脂を、エチレン−アクリル酸共重合体〔三井デュポンポリケミカル社製「ニュクレルAN4225C」、融点104℃、アクリル酸含量5質量%、MFR8g/10min(125℃、2.16kgf)、非水溶性〕(以下「EAA4」という)に変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆金属板を作製した。
【0038】
比較例3
熱可塑性樹脂を、PAに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆金属板を作製した。
【0039】
樹脂特性の評価
融点
樹脂の融点(融解ピーク温度)は、JISK7121(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して測定した。すなわち、当該「プラスチックの転移温度測定方法」は、示差走査熱量計(DSC、パーキンエルマー社製DSC7型)を使用し、アルミニウム製サンプルパンに封入した20mg程度の樹脂フィルム片を、窒素雰囲気下、0℃から250℃を10℃/分の速度で昇温して測定することにより行った。得られた熱量曲線において、曲線がベースラインから離れ再度ベースラインに戻るまでの部分を融解ピークとし、その融解ピークの頂点における温度を融点(融解ピーク温度)とした。
【0040】
デスミア処理試験
実施例及び比較例で作製した樹脂フィルムと同様の組成比となるように原料を混合し、実施例1と同様の押出装置を用いて50μm厚の樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを10mm角に切断し、樹脂フィルム試験片を作製した。この樹脂フィルム試験片を2枚のフッ素樹脂製(100メッシュサイズ)のシートでサンドイッチ状に挟み、四方をSUS304製クリップで止めて積層体1を作製した。この積層体1を、容器中間部にSUSメッシュ(目開き150μm)製の試料台2が附設されたSUS304製の底付き円筒状容器3内の前記試料台2上に静置した(図1参照)。
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)25質量%水溶液にNaOHを添加してpH13に調整し膨潤液を作製した。この膨潤液を80℃に加温し、この中に上記円筒状容器を5分間浸漬した(膨潤処理)。膨潤処理後、容器を取り出し、水に浸漬し、超音波洗浄を1分間行った。次いで、KMnO4濃度60g/L、NaOH濃度30g/Lの酸化エッチング液を調製し、80℃に加温して、この中に上記円筒状容器を7分間浸漬した(酸化エッチング処理)。酸化エッチング処理後、容器を取り出し、水に1分間浸漬させた。次いで、硫酸(濃度98質量%)50mL/L、グリオキサール水溶液(濃度40質量%)75ml/Lの還元液を50℃に加温して、上記円筒状容器を5分間浸漬させた(還元処理)。膨潤処理、酸化エッチング処理及び還元処理を行った後、分解されずに残存した樹脂を回収した。具体的には、積層体を取り出してフッ素樹脂製シート間に残っている残存樹脂フィルムを回収し、さらに、SUS304製の円筒状容器内に残っている溶液を濾過し、融解してフッ素樹脂製シートの孔を通り抜けた後、分解することなく固化した熱可塑性樹脂を回収した。回収した残存樹脂フィルム及び濾取物を50℃で1時間乾燥して、残渣物の質量測定を行った。
樹脂フィルム試験片の初期質量と乾燥後の残渣物質量(残存樹脂フィルムと濾取物の合計質量)から、以下の式より分解率を算出し、樹脂フィルムの組成及びデスミア処理試験結果を表1に示した。
【0041】
【数1】
【0042】
【表1】
【0043】
試験例
実施例及び比較例で作製した樹脂被覆金属板についてドリル加工を行った後、デスミア処理を行い、加工穴内壁のスミアを評価した。
【0044】
ドリル加工後の穴内壁部の切粉残渣調査
ドリル加工は、FR−4製、1.6mm厚の4層銅箔張プリント配線基板(外層の銅箔厚み:18μm、内層銅箔厚み:35μm)に対して行った。具体的には、前記樹脂被覆金属板を熱可塑性樹脂膜がドリルに接する側に置き、その下に4層銅箔張プリント配線基板を4枚重ねにして置き、更にその下にバックアップボード(厚さ1.5mm、ベークラ
イト板)を配置して、穴あけ加工を行った。なお、ドリル加工による穴内壁部への切粉残りの発生を促進させるために、ドリル径を太くし、送り量と回転数を低く抑え、さらにドリルマシーンの集塵能力をゼロとして加工を実施した。
【0045】
ドリル加工は、以下に示す条件により行った。
(ドリル加工条件)
ドリルマシーン:ND−6T210−2(日立ビアメカニクス(株)製)
ドリルビット:直径1.00mm(ユニオンツール(株)製、UM30)
回転数:80,000rpm
送り速度:1.0m/分
引き抜き速度:25.4m/分
隣接加工穴中心間距離:1.5mm
ドリルヒット数:5000ヒット
【0046】
(デスミア処理)
ロームアンドハース電子材料株式会社製のサーキュポジット200MLBプロセスに則ってデスミア工程を以下のような条件で実施した。
(1)膨潤工程
脱イオン水(70体積%)、サーキュポジットMLBコンディショナー211(20体積%)及びサーキュポジットZ(10体積%)を十分に混合して、膨潤液を調製した。この膨潤液を50℃に加温し、ドリル加工後のプリント配線基板を5分間浸漬した。
(2)酸化エッチング工程
脱イオン水(60体積%)、サーキュポジットMLBプロモーター213B(15体積%)及びサーキュポジットMLBプロモーター213A−1(10体積%)を十分に混合して酸化エッチング液を調製した。この酸化エッチング液を80℃に加温し、膨潤工程後のプリント配線基板を5分間浸漬した。
(3)還元工程
脱イオン水(80体積%)及びサーキュポジットMLBニュートライザー216−2(20体積%)を混合し還元液を調製した。この還元液を45℃に加温し、酸化エッチングを施したプリント配線基板を5分間浸漬した。
【0047】
(加工後の穴内壁部の調査)
穴内壁部の評価は、最上層の基板について実施した。5000ヒット全てをレーザーマイクロスコープ((株)キーエンス製、「VK−9500/9510」)で切粉残渣の有
無を調査した。結果を表2に示した。
【0048】
【表2】
【0049】
また、実施例4、5で作製した樹脂被覆金属板については、ドリル加工性能についても評価した。
【0050】
ドリル加工は、0.8mm厚の両面銅箔張プリント配線基板(三菱ガス化学製:BT-
HL832HS、外層の銅箔厚み:18μm)に対して行った。具体的には、樹脂被覆金属板を熱可塑性樹脂膜がドリルに接する側に置き、その下に両面銅箔張プリント配線基板を3枚重ねにして置き、更にその下にバックアップボード(厚さ1.5mm、ベークライ
ト板)を配置して、穴あけ加工を行った。
(ドリル加工条件)
ドリルマシーン:ND−6T210−2(日立ビアメカニクス(株)製)
ドリルビット:直径0.20mm((株)タンガロイ製 DSM)
回転数:200,000rpm
送り速度:3.0m/分
引き抜き速度:25.4m/分
隣接加工穴中心間距離:0.4mm
ドリルヒット数:5000ヒット
【0051】
(穴位置精度)
ドリル加工後、穴検査機(日立ビアメカニクス(株)製、「HT-1AM」)を用いて
、最下基板裏面の5000ヒットの穴について、中心設定位置からの変位量を測定し、変
位量平均値及び標準偏差(σ)を求めた。表3に、最大変位量、変位の平均値+3σを示した。
(内壁粗さ)
穴内壁粗さは、4951〜5000ヒットの50穴の穴断面をクロスカットして上述のレーザー顕微鏡を用いて、50穴の最大粗さを測定した。
【0052】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の樹脂被覆金属板は、例えば、小径穴あけ加工を行う際に積層された複数枚のプリント配線基板の少なくともドリル進入側に配置される保護用あて板として使用される。
【符号の説明】
【0054】
1:積層体、2:試料台、3:円筒状容器
図1