(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961102
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造
(51)【国際特許分類】
A61B 90/25 20160101AFI20160719BHJP
【FI】
A61B90/25
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-262299(P2012-262299)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-108116(P2014-108116A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390013033
【氏名又は名称】三鷹光器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】土居 正雄
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 登志夫
【審査官】
毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−141251(JP,A)
【文献】
特開平10−272143(JP,A)
【文献】
特開2005−052679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 90/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アームと、
該第1アームに位置固定された水平回動軸のまわりに回動自在に支持される第2アームであって、その一端に重量物が支持され、その他端には該水平回動軸のまわりに重量バランスを均衡させる調整手段が設けられたものとを具備する医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造であって、
前記水平回動軸を介して前記第2アームに位置固定されその先端に係合部を有するレバーと、
前記水平回動軸に回転自在に支持され且つ前記係合部を所定のクリアランスを介して挟持する一対の挟持部を有する回転プレートと、
前記一対の挟持部に設けられ且つ前記係合部との当接時に前記調整手段に重量バランスを均衡させる信号を出力する接触検出器と、
前記第1アームに固定され、回転プレートの一部と係合して回転プレートをロック自在なクラッチ手段と、
前記クリアランス内に設けられ、重量バランスの非均衡時の圧力により変形可能な弾性力を有する弾性部材とを設け、
通常時には弾性部材を介して回転プレートがレバーに追従回転する状態となり、
バランス調整時にはクラッチ手段が回転プレートをロックし、係合部が弾性部材を変形させることにより接触検出器と当接して調整手段に信号を出力することを特徴とする医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造。
【請求項2】
調整手段が、前記第2アームの他端側に設けられたカウンタウェイトを移動自在にした構造であることを特徴とする請求項1記載の医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造。
【請求項3】
前記接触検出器は前記係合部が前記一対の挟持部の一方に近接した状態、前記一対の挟持部の他方に近接した状態、およびいずれにも近接していない状態を検出して重量バランスを均衡させるための均衡情報信号を出力することを特徴とする請求項1または2記載の医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造。
【請求項4】
前記接触検出器は前記一対の挟持部に設けられた一対のスイッチであることを特徴とする請求項3記載の医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療分野では手術顕微鏡等の重量物を任意の空中位置に吊り下げて支持するバランシングスタンドが使用されている。手術顕微鏡やその付属機器等の重量物を横アームの一端側に支持し、そして他端側に設けられたカウンタウェイトによりバランスを調整するようにした構造である。横アームは中間部に水平回動軸が設けられ、この水平回動軸を中心に土台となる縦アームに対して回転自在に支持されている。
【0003】
水平回動軸にはクラッチ手段が設けられており、通常時は回転がロックされている。横アームを回動させて一端側に支持された重量物を任意の高さ位置に移動させる場合は、クラッチ手段を解放して横アームを回動させる。水平回動軸を中心とした横アームの両側の重量バランスが均衡していれば、横アームを移動させた後に手を離しても、あたかも無重力状態にいるように停止し、その位置で手術顕微鏡の向きなどを自由に変化させることができる。手術顕微鏡の位置及び向きが最適に調整された後は、水平軸に設けられたクラッチ手段を再びロックしてその状態を維持する。
【0004】
水平回動軸を中心とした重量バランスは、水平回動軸の回転角度を検出するエンコーダと、そのエンコーダからの信号を受けてカウンタウェイトを制御するコンピュータとから構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−52679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の技術にあっては、エンコーダとコンピュータの組み合わせによりバランス調整するため、装置が大型になり、制御も複雑になり、信頼性の観点からも好ましくない。特に横アームが多関節で回転角度を検出する水平回動軸の数が多い場合は更に複雑になる。
【0007】
本発明は、このような従来の技術に着目してなされたものであり、エンコーダとコンピュータを使用せず且つ水平回動軸ごとに独立した調整が可能な医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、第1アームと、該第1アームに位置固定された水平回動軸のまわりに回動自在に支持される第2アームであって、その一端に重量物が支持され、その他端には該水平回動軸のまわりに重量バランスを均衡させる調整手段が設けられたものとを具備する医療用バランシングスタンドの自動バランス調整構造であって、前記水平回動軸を介して前記第2アームに位置固定されその先端に係合部を有するレバーと、前記水平回動軸に回転自在に支持され且つ前記係合部を所定のクリアランスを介して挟持する一対の挟持部を有する回転プレートと、前記一対の挟持部に設けられ且つ前記係合部との当接時に前記調整手段に重量バランスを均衡させる信号を出力する接触検出器と、前記第2アームに固定され、回転プレートの一部と係合して回転プレートをロック自在なクラッチ手段と、前記クリアランス内に設けられ、重量バランスの非均衡時の圧力により変形可能な弾性力を有する弾性部材とを設け、通常時には弾性部材を介して回転プレートがレバーに追従回転する状態となり、
バランス調整時にはクラッチ手段が回転プレートをロックし、係合部が弾性部材を変形させることにより接触検出器と当接して調整手段に信号を出力することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、調整手段が、他方のアームの他端側に設けられたカウンタウェイトを移動自在にした構造であることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記接触検出器は前記係合部が前記一対の挟持部の一方に近接した状態、前記一対の挟持部の他方に近接した状態、およびいずれにも近接していない状態を検出して重量バランスを均衡させるための均衡情報信号を出力することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記接触検出器が前記一対の挟持部に設けられた一対のスイッチであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、エンコーダとコンピュータを利用せずに単にオンオフするだけのスイッチを利用した構造のため、装置全体の小型化を図ることができ、バランス調整も容易である。各水平回動軸ごとに独立した調整が可能なため、制御する回動軸の数が増えても相互に連携する必要がなく、各軸が独立してバランス調整することにより全体のバランス調整が可能である。
【0013】
通常時はクリアランス内に弾性部材が存在するため、第2アームの操作回転に応じて、レバーと回転プレートは弾性部材を介して一体的に追従回転して、他方のアームの回転を邪魔しない。バランスが調整された状態では、第2アームは第1アームに対して水平回動軸を中心に軽い力で回転し、手を離してもその位置で停止する。止めた状態をクラッチ手段によりロックしても良い。クラッチ手段によりロックされた状態ではクリアランスに存在する弾性部材の第2アームが大きくがたつくことはない。従ってクラッチ手段によりロックすれば、バランシングスタンドの保管や輸送の際にも他方のアームがしっかりと固定される。
【0014】
第2アームのバランスが不均衡になった場合は、クラッチ手段で回転プレートをロックする。すると重量バランスの非均衡時の圧力により弾性部材が変形して係合部が一方のスイッチ側に移動し、そのスイッチと当接する。
【0015】
係合部がスイッチに当接すると、バランスの不均衡状態が検出されて、スイッチから調整手段にバランスを均衡させるための信号が出力され、不均衡状態が是正される。調整手段でバランスの調整が行われた後には再度通常時の状態に戻される。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、調整手段が移動自在なカウンタウェイトのため、構造が簡単である。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、接触検出器が3つの均衡情報信号を出力するだけで調整手段を制御するため構造がシンプルで安定性および信頼性の高い制御を実現することができる。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、一対のスイッチにより調整手段を制御することができるので迅速なフィードバック制御を行うことができ制御系をコンパクトに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好適な実施形態に係るバランシングスタンドを示す側面図。
【
図4】レバー及び回転プレートの構造を示す一部断面の正面図。
【
図6】
図5のレバー及び回転プレート部分を示す拡大断面図。
【
図7】レバー及び回転プレートが横アームの回動と一緒に回動している状態を示す
図2相当の正面図。
【
図8】弾性部材が変形して係合部がスイッチに当接している状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜
図8は、本発明の好適な一実施形態を示す図である。
【0021】
図1はバランシングスタンドを示す図である。符号1は基準となる縦アーム(第1アーム)であり重力方向と一定の位置関係にある部位、典型的にはフロアなどに位置固定されている。この縦アーム1の上端には、横アーム(第2アーム)2の中間部が回動自在に支持されている。横アーム2には水平回動軸3が一体形成され、その水平回動軸3がベアリング4を介して縦アーム1の上部を貫通している。したがって、水平回動軸3の主軸は縦アーム1に対して水平に位置固定され、横アーム2は水平回動軸3のまわりに回転自在に支持される。
【0022】
横アーム2の一端には「重量物」としての手術顕微鏡5、側視鏡6、カメラ7が吊り下げ支持されている。側視鏡6とカメラ7は、手術顕微鏡5に対して着脱自在に取付けられており、これらを取り外すことにより、「重量物」の重さが変化する。
【0023】
横アーム2の他端にはモータ8により移動自在なカウンタウェイト9が設けられている。このモータ8とカウンタウェイト9により、「調整手段」が構成されている。
【0024】
横アーム2の水平回動軸3が貫通している縦アーム1の上部はカバー10(
図5参照)にて覆われている。このカバー5の内部には、回転プレート11がベアリング4を介して水平回動軸3に対して回転自在に取り付けられている。
【0025】
回転プレート11を貫通した水平回動軸3の先端にはレバー12が固定され、水平回動軸3と一体的に回動する。したがって、レバー12は水平回動軸3を介して横アーム2に位置固定されており、レバー12の姿勢(角度)は横アーム2の姿勢を反映する。
【0026】
レバー12には横アーム2を水平にした状態で下方へ突出する係合部13が一体形成されている。一方、回転プレート11の係合部13に対応する両側位置には、係合部13を所定のクリアランスCを設けた状態で挟持する一対の挟持部14が形成されている。
【0027】
挟持部14にはクリアランスCに合致する幅の弾性部材15が接着されている。弾性部材15は円筒形状で硬質ゴム製である。回転プレート11は縦アーム1にも横アーム2にも固定されていないが、弾性部材15を介してレバー12の係合部13と当接することにより水平回動軸3のまわりの自由回動が制限される。
【0028】
更に両挟持部14には1対のスイッチS1、S2が設けられている。スイッチS1、S2は接触検出器で弾性部材15の中空部内へ向けて検知部(たとえば押しボタン)を有し検知部の移動や変形を検出する。スイッチS1、S2は検知部の移動量等が所定値を越えたときにONまたはOFFすることによりレバー12との接触状態を検出しその信号を出力する。すなわち接触検出器は、スイッチS1が接触状態を検出する第1の非均衡状態と、スイッチS2が接触状態を検出する第2の非均衡状態と、いずれのスイッチも接触状態を検出しない均衡状態の3つの状態に応じた均衡情報信号を出力する。スイッチS1、S2の出力は制御部18を介して前記カウンタウェイト9のモータ8に接続されている。制御部18は接触検出器からの均衡情報信号に基づいてモータ8を駆動し均衡状態をフィードバック制御する。
【0029】
尚、回転プレート11の裏側には水平回動軸3の貫通部周辺に沿って円形のフランジ19が形成され、縦アーム1側にはそのフランジ19を必要時に挟んで水平回動軸3のまわりの回動をロックするクラッチ20が固定されている。このフランジ19とクラッチ20により「クラッチ手段」が構成されている。
【0031】
通常時はクラッチ20は解放され、回転プレート11は回動可能である。その状態で、クリアランスCには弾性部材15が存在するため、回転プレート11はレバー12と一体となり横アーム2(水平回動軸3)に追従回転する。回転プレート11がフリーに動く状態では弾性部材15が変形しないため、スイッチS1、S1は作動しない。
【0032】
ドクターが手術顕微鏡5の上下位置を変更するために、横アーム2を回転させる場合は、手術顕微鏡5の図示せぬボタンを押してクラッチ20をフリーにする。そして手術顕微鏡5を手で持ちながら横アーム2を自由に回転させる。重量バランスが保たれているため回転操作も軽い力で行うことができる。
【0033】
ドクターが必要な位置で手術顕微鏡5から手を離しても、横アーム2は重量バランスが保たれているため、その空中位置で停止する。手術顕微鏡5の図示せぬボタンから指を離すことにより、クラッチ20が回転プレート11のフランジ19をロックし、横アーム2のその位置はその状態で固定される。
【0034】
クラッチ20がロックされた状態では、レバー12と回転プレート11との間に弾性部材15が存在するため、横アーム2は大きく回転しない。
【0035】
次に手術顕微鏡5側で側視鏡6やカメラ7の着脱により重量が変化する場合はバランス調整を行う必要がある。
【0036】
重量物の重量[kg]が変更される前は重量バランスが実現している。その状態でクラッチ20をロックしてカメラ7等の着脱を行う。すると水平回動軸3のまわりの重量バランスがくずれるため水平アーム2にトルクが発生して回動しようとする。トルクによって生じた非均衡時の圧力により弾性部材15が変形してたとえば係合部13が一方のスイッチS2側に移動し、そのスイッチS2と当接する。
【0037】
係合部13がスイッチS2に当接すると、バランスの不均衡状態(第2の非均衡状態)が検出されて、スイッチS2から制御部18に第2の非均衡状態の信号が出力される。制御部18は均衡情報信号としての第2の非均衡状態の信号を検知するとカウンタウェイト9のモータ8に信号を出力し、カウンタウェイト9の位置を不均衡が是正される方向へ移動させるようにフィードバックする。バランスが均衡状態となると、係合部13がスイッチS2を押さなくなるため均衡状態の信号が制御部18に出力されるので、カウンタウェイト9はその位置で停止して、横アーム2は水平回動軸3を中心としたバランス均衡状態に戻る。いずれかの非均衡状態がわずかにでも発生すると水平回動軸3のまわりのトルクが発生して水平アーム2が回動するため確実に接触検出器で検出することができる。
【0038】
その後、クラッチ20が再度フリーとなって、係合部13と挟持部14との間の弾性部材15が非変形状態(初期状態)となり、再度通常使用状態に戻る。
【0039】
この実施形態によれば、エンコーダやコンピュータを使用せず、単にスイッチS1、S2のON、OFFだけで3つの均衡情報を検出して横アーム2の水平回動軸3を中心としたバランス調整が行えるため、バランシングスタンド全体の小型化を図ることができる。またバランス調整の制御も容易であり迅速かつ高い安定性および信頼性のあるバランス調整が実現される。
【0040】
仮に横アームが多関節構造で複数の水平回動軸を持つ場合も、水平回動軸3を中心としたバランス調整を水平回動軸3個々に独立して行えるため、個々が独立してバランス調整することにより、全体の調整も図ることができる。
【0041】
以上の各実施形態では、弾性部材15を挟持部14側に接着する例を示したが、弾性部材15の微小変形でもスイッチS1、S2が作動するようにすれば、弾性部材15は係合部13と挟持部14の両方に接着しても良い。
【0042】
また、接触検出器はスイッチS1、S2を2つ設ける例を示したが、1つでもレバー12の回転方向を検出可能な構造のものは、それを1つだけ設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 縦アーム(第1アーム)
2 横アーム(第2アーム)
3 水平回動軸
5 手術顕微鏡(重量物)
6 側視鏡(重量物)
7 カメラ(重量物)
8 モータ(調整手段)
9 カウンタウェイト(調整手段)
11 回転プレート
12 レバー
13 係合部
14 挟持部
15 弾性部材
19 フランジ(クラッチ手段)
20 クラッチ(クラッチ手段)
C クリアランス
S1、S2 スイッチ(接触検出器)