(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸音材は、網状に展開して前記スリットを拡開し、隣接するスリット間の網部に捩れを生じさせることにより、前記段差を設定したことを特徴とする請求項1に記載の車両用内装材。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態をトリム材として自動車のバックドアトリムを例に採って図面と共に詳述する。
【0011】
図1に示す第1実施形態のバックドアトリム10は、
図2に例示したバックドアの略下半部を構成するドア本体1に配設される。
【0012】
図2では便宜的にドア本体1のみを示しているが、このドア本体1の上縁部(ドアウエスト部)の車幅方向両側にドアフレームが立設され、該ドアフレームにウィンドウパネルを固着してバックドアの略上半部が構成される(ドアフレーム,ウィンドウパネルは何れも図示省略)。
【0013】
このドア本体1は、ドアアウタパネル2とドアインナパネル3とで閉断面に形成してあって、バックドアトリム10はドアインナパネル3の全面を覆ってその周縁部の複数ヶ所で例えばクリップにより止着固定される。
【0014】
バックドアトリム10は、適宜の合成樹脂材をもって射出成形等により型成形され、その裏面には吸音材11を配設してある。
【0015】
吸音材11は、フェルト,グラスウール,樹脂繊維の集合体、あるいはポリウレタンのような連続気泡を持つ発泡体といった多孔質材料が選択的に用いられる。
【0016】
このような多孔質材料は、一般に、面密度が300g/m
2〜1200g/m
2、厚さが5mm〜30mmのものを使用することで、優れた吸音性能が得られることが知られている。
【0017】
また、吸音材11として、上述の多孔質材料を単体として用いる他、多孔質材料の表面に、例えば、面密度15〜300g/m
2の低通気性不織布や、面密度30〜100g/m
2のポリエチレンフィルム、といった表面保護材を設けた多層構造のものを用いることができる。
【0018】
本実施形態では、上述の吸音材11としてフェルトを用いており、
図6(A)にも示すようにこのフェルト生地に千鳥配列に直線のスリット12Aを形成して、該スリット12Aの切欠縁に
図3に示すように段差δを設定することにより、吸音材11の表面を凹凸形状に形成してある。
【0019】
直線のスリット12Aの千鳥配列の形成は、多数の直線刃を千鳥配列に設けた図外の刃型により容易に押切成形することができる。
【0020】
そして、上述のスリット12Aの切欠縁の段差δは、この刃型をフェルト生地に突き刺した際、および、フェルト生地から抜き出した際に、摩擦力によりフェルト生地が刃に引き連れられて表面に飛び出すことによって形成される。
【0021】
従って、この段差δは各スリット12Aで一様ではなく、様々に段差δが異なって吸音材11の表面の凹凸形状が形成される。
【0022】
このスリット12Aは、例えば、スリット全長l:10〜200mm、スリット行間隔a:5〜50mm、スリットとスリットの間隔b:5〜50mmとして千鳥配列に形成される。
【0023】
また、このスリット12Aの形成は上述の刃型による押切成形の他、例えば、NCカッターやウォータージェットなどの加工手段を採用することができ、その加工方法は特に限定されるものではない。
【0024】
このようにして形成された吸音材11は、バックドアトリム10の裏面に張設されるが、その固定は、超音波溶着、ホットメルト,両面接着テープ,粘着剤等による接着、クリップやフック等による掛着固定、等を選択的に用いることができる。
図1,
図2における符号Pは、例えば、フック掛着による固定点を示している。
【0025】
以上の構成からなる本実施形態によれば、千鳥配列したスリット12Aの切欠縁に段差δを設定して、吸音材11の表面を凹凸形状とすることにより、スリット12Aの厚み方向の木口(端面)が突出することによって、該吸音材11の音を吸収する表面積が増大することに加えて、この段差δによってバックドアトリム10の裏面との間に遮音層となる背後空気層Sが形成される。
【0026】
これにより、吸音材11の厚みや敷設面積の増大化、あるいは高価な吸音素材の使用を伴うことなく吸音性能を高めることができる。
【0027】
図4,
図5は、本発明の第2実施形態を示している。
【0028】
本実施形態では、前述の第1実施形態における吸音材11を、
図6(B)にも示すように網状に展開してスリット12Aを拡開し、隣接するスリット12A間の網部11aに捩れを生じさせることにより、上述のスリット12Aの厚み方向の木口(端面)を積極的に表面に露出させると共に、前記段差δを積極的に生じさせている。
【0029】
このスリット12Aの拡開は、前述の千鳥配列のスリット形成条件とした場合に、最大幅w:1〜100mmとすることができる。
【0030】
また、吸音材11の拡張前の設定面積を100%とした場合に、100%〜200%に拡張させることができる。
【0031】
また、吸音材11の元々の設定厚みを100%とした場合に、拡張によりスリット12A間の網部11aが捩れて反り上がることによる厚みの増幅率を100%〜200%とすることができ、背後空気層Sを含めた場合には300%以上となる場合もある。
【0032】
この第2実施形態の構造によれば、第1実施形態の吸音材11に較べて網状に展開拡張して、スリット12Aを拡開し、かつ、スリット12A間の網部11aを捩れさせて段差δを大きくしているので、表面積を格段に増大させると共に背後空気層Sを増大させることができる。
【0033】
しかも、
図5に矢印で示すように、広げられたスリット12Aを通過してバックドアトリム10の裏面で反射した騒音を吸音材11の裏面側でも吸収させることができる。
【0034】
この結果、第1実施形態の吸音性能を凌駕する吸音効果を発揮させることができる。
【0035】
図7,
図8は、何れもこの第2実施形態の吸音材11を用いたバックドアトリム10と、スリット加工を施していないフェルト生地の吸音材11Aを用いた比較例のバックドアトリム10との吸音性能を示すものである。
【0036】
図7は、(A)図に示す第2実施形態の吸音材11と、(B)図に示す比較例の吸音材11Aを、同じ材料投入量(同一の厚み寸法,同一の基準面積)として、(A)図に示す吸音材11は基準面積を100%とした場合に、120%に拡張して展開したものである。
図7(C)は、これら(A),(B)に示した吸音材11,11Aを用いた構造の250Hz〜6300Hzの騒音レベルにおける吸音力を示しており、b線に示す比較例の吸音力に較べて、a線に示すように本実施形態の吸音力が向上しているのが判る。
【0037】
図8は、(A)図に示す第2実施形態の吸音材11は120%に拡張して所定の設定面積に展開する一方、(B)図に示す比較例の吸音材11Aを(A)図の吸音材11と同一の設定面積としたものである。
図8(C)は、これら(A),(B)に示した吸音材11,11Aを用いた構造の250Hz〜6300Hzの騒音レベルにおける吸音力を示しており、b線に示す比較例の吸音力に較べて、a線に示すように本実施形態の吸音力が向上しているのが判る。
【0038】
これらのことから、第2実施形態の構造によれば、吸音材11が比較例11Aと同じ材料投入量であれば、設定面積をスリット12Aを拡開して拡張展開することで吸音力を大幅に向上できることが理解される。
【0039】
また、設定面積が同じ場合には、比較例よりも少ない材料投入量で、同じ吸音力を確保できることが理解される。
【0040】
前記各実施形態では、何れもスリット12Aは直線のものを採用しているが、この他、
図9の変形例(A)に示す三角波線のスリット12B、変形例(B)に示す波形線のスリット12C、変形例(C)に示す十字線のスリット12D等に任意に形成することができる。
【0041】
これら変形例に示すスリット12B〜12Dとした場合、直線のスリット12Aに較べてスリット全長が増大し、各スリットの厚み方向の木口(端面)も増加することとなって断面積が増大して、音を吸収する面積を増大させることができる。
【0042】
なお、本発明は前記実施形態の構造に限定されるものではなく、吸音材11を部分的に拡張展開して用いるようにしてもよい。また、スリット12は、前記変形例の他、矩形波線に形成したものであってもよい。更に、トリム材は、サイドドアトリム,リャサイドトリム,ルーフトリム等であってもよい。