特許第5961114号(P5961114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961114
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】熱交換器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/40 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   F28F1/40 N
【請求項の数】18
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2012-542722(P2012-542722)
(86)(22)【出願日】2012年8月15日
(86)【国際出願番号】JP2012070772
(87)【国際公開番号】WO2013080611
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-265116(P2011-265116)
(32)【優先日】2011年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100172041
【弁理士】
【氏名又は名称】小畑 統照
(74)【代理人】
【識別番号】100172409
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 朗宏
(72)【発明者】
【氏名】枝 義弥
(72)【発明者】
【氏名】細川 俊之
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 崇
【審査官】 柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−055092(JP,A)
【文献】 特開2010−010418(JP,A)
【文献】 特開2007−173372(JP,A)
【文献】 特開平09−307036(JP,A)
【文献】 特開2009−299968(JP,A)
【文献】 特開昭58−132334(JP,A)
【文献】 特開昭62−218787(JP,A)
【文献】 特開昭59−038591(JP,A)
【文献】 特開2010−249426(JP,A)
【文献】 特開2009−155673(JP,A)
【文献】 特開2006−226613(JP,A)
【文献】 実開昭63−083562(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、前記密閉容器内に配置された複数のインナーフィンと、を備える熱交換器であって、
前記密閉容器が第1のアルミニウム合金から形成され、
前記複数のインナーフィンが第2のアルミニウム合金から形成され、
前記複数のインナーフィンが、前記熱交換器の冷却媒体の進行方向に対してオフセットされて配置され、
前記複数のインナーフィンが、前記熱交換器の厚み方向に複数積層され、
厚み方向に隣接された前記複数のインナーフィンが、前記複数のインナーフィンの互いの凸部同士が対向するように配置され、
対向されて配置された前記凸部同士の接合箇所が、前記冷却媒体の進行方向に対してずれるように配置された、
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記凸部同士の前記接合箇所の長さが、前記冷却媒体の進行方向における前記凸部の長さの10%以上50%以下である、
ことを特徴とする請求項に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁との間の接合が金属的接合である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器との間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記密閉容器が上部容器部材と下部容器部材とを備え、
前記上部容器部材と前記下部容器部材との間の接合が金属的接合である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記上部容器部材と前記下部容器部材との間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下である、
ことを特徴とする請求項に記載の熱交換器。
【請求項7】
第3のアルミニウム合金から形成される接合部材をさらに備え、
前記接合部材と前記上部容器部材の下面との間の接合が金属的接合であり、
前記接合部材と前記下部容器部材の上面との間の接合が金属的接合である、
ことを特徴とする請求項またはに記載の熱交換器。
【請求項8】
前記接合部材と前記上部容器部材の下面との間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下であり、
前記接合部材と前記下部容器部材の上面との間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下である、
ことを特徴とする請求項に記載の熱交換器。
【請求項9】
前記接合部材と前記複数のインナーフィンとの間の接合が金属的接合である、
ことを特徴とする請求項またはに記載の熱交換器。
【請求項10】
前記接合部材と前記複数のインナーフィンとの間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下である、
ことを特徴とする請求項に記載の熱交換器。
【請求項11】
前記接合部材が曲面部を有し、
前記接合部材の前記曲面部と前記複数のインナーフィンとが接合された、
ことを特徴とする請求項乃至10のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項12】
前記第2のアルミニウム合金のZn含有率が0.3質量%以上5重量%以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項13】
熱交換器の密閉容器内に複数のインナーフィンを配置する配置工程と、
前記密閉容器と前記複数のインナーフィンとを接合する接合工程と、
を含み、
前記密閉容器が第1のアルミニウム合金から形成され、
前記複数のインナーフィンが第2のアルミニウム合金から形成され、
前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金のMg含有率が0.5質量%以下であり、
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁との接触面にフッ化物系または塩化物系のフラックスを塗布し、
前記接合工程における雰囲気が、真空または非酸化性雰囲気であり、
前記接合工程で前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度と
前記配置工程において、
前記複数のインナーフィンを、前記熱交換器の厚み方向に複数積層し、
厚み方向に隣接された前記複数のインナーフィンを、前記複数のインナーフィンの互いの凸部同士が対向するように配置し、
対向されて配置された前記凸部同士の接合箇所が、前記熱交換器の冷却媒体の進行方向に対してずれるように配置する、
ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項14】
熱交換器の密閉容器内に複数のインナーフィンを配置する配置工程と、
前記密閉容器と前記複数のインナーフィンとを接合する接合工程と、
を含み、
前記密閉容器が第1のアルミニウム合金から形成され、
前記複数のインナーフィンが第2のアルミニウム合金から形成され、
前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金のMg含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、
前記接合工程における雰囲気が、真空または非酸化性雰囲気であり、
前記接合工程で前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度と
前記配置工程において、
前記複数のインナーフィンを、前記熱交換器の厚み方向に複数積層し、
厚み方向に隣接された前記複数のインナーフィンを、前記複数のインナーフィンの互いの凸部同士が対向するように配置し、
対向されて配置された前記凸部同士の接合箇所が、前記熱交換器の冷却媒体の進行方向に対してずれるように配置する、
ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項15】
前記配置工程が、接合部材を配置する工程をさらに含み、
前記接合部材が第3のアルミニウム合金から形成され、
前記第1のアルミニウム合金、前記第2のアルミニウム合金および前記第3のアルミニウム合金からなる群のうち少なくとも1つのアルミニウム合金のMg含有率が0.5質量%以下であり、
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁との接触面、前記接合部材と上部容器部材との接触面、および前記接合部材と下部容器部材との接触面からなる群から選択される少なくとも1つの接触面にフッ化物系または塩化物系のフラックスを塗布し、
前記接合工程における雰囲気が、真空または非酸化性雰囲気であり、
前記接合工程において、
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、および/または、
前記複数のインナーフィンと前記接合部材とを接合する温度を、前記第2のアルミニウム合金および/または前記第3のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、および/または、
前記接合部材と前記密閉容器とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第3のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、
ことを特徴とする請求項13に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項16】
前記配置工程が、接合部材を配置する工程をさらに含み、
前記接合部材が第3のアルミニウム合金から形成され、
前記第1のアルミニウム合金、前記第2のアルミニウム合金、および前記第3のアルミニウム合金からなる群のうち少なくとも1つのアルミニウム合金のMg含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、
前記接合工程における雰囲気が、真空または非酸化性雰囲気であり、
前記接合工程において、
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、および/または、
前記複数のインナーフィンと前記接合部材とを接合する温度を、前記第2のアルミニウム合金および/または前記第3のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、および/または、
前記接合部材と前記密閉容器とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第3のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、
ことを特徴とする請求項14に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項17】
前記接合工程において、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下である温度範囲とする時間を30秒間以上3600秒間以下とする、
ことを特徴とする請求項13または14に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項18】
前記接合工程において、前記第1のアルミニウム合金、前記第2のアルミニウム合金、および前記第3のアルミニウム合金からなる群から選択される少なくとも1つのアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下である温度範囲とする時間を30秒間以上3600秒間以下とする、
ことを特徴とする請求項15または16に記載の熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱したパワー半導体モジュール等を高効率で冷却するのに適した微細な流路構造を有する熱交換器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、パワー半導体モジュール、マイクロガスタービン、燃料電池、小型冷凍空調機器などのエネルギーシステムの開発が活発に行われている。このようなエネルギーシステムでは、車搭載用や家庭用に適した小型化の要請が大きく、これらを実現するための研究・開発が進められている。
【0003】
こういったエネルギーシステムの冷却には空冷型の熱交換器を用いることが一般的であったが、空冷型の熱交換器は熱交換効率が悪く、近年のエネルギーシステムの小型化に伴い、体積あたりの発熱量が増加し、より熱交換効率の高い水冷式の熱交換器が用いられようになってきた。
【0004】
水冷式の熱交換器においては、冷却水の流路が小さくなるほど、均一に冷却することができて、冷却水を効率的に活用することが可能になるが、単に流路を微細にしただけでは、伝熱面積が小さくなり、熱交換量が不十分となることがある。そのため、微細な流路を多数配置して、そこに冷媒を流すことによって十分な熱交換量を確保し、小型でも効率が高く、なおかつ十分な熱交換量を有する熱交換器がある。たとえば、微細な寸法のコルゲートフィンを使った熱交換器などである。
【0005】
しかし、コルゲートフィンを使った熱交換器よりも更に小型で高効率な熱交換器にするためには、微細な流路を多数配置し、この流路の間隔を狭くして伝熱部分の表面積を増やすだけでは十分ではないことが知られている。
【0006】
高効率な熱交換器として、特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載されているようなオフセットフィンがあり、その構造は、金属板を矩形状に曲折し、各波の稜線に沿って一定間隔で、各波の立ち上がり面と立下り面とに、その波の進行方向へ平行に切り起こしてオフセットした形状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−148493号公報
【特許文献2】特開2005−147572号公報
【特許文献3】特開2002−277190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、オフセットフィンは一般に高さを高くする成形が難しいので流路内の断面積が小さくなり、冷却フィンが1枚だけの単品では放熱する表面積が足りないので、冷却性能が不十分であることがあった。そのため、特許文献2および特許文献3のように積層して使用される例もあるが、板を介して放熱フィンを接合しているため、流路内でオフセットフィンが放熱に作用する表面積が小さくなり、熱交換器内のスペースが無駄になってしまうことがあった。
【0009】
また、アルミニウム合金の接合方法としては一般にろう付けが挙げられるが、接合するろう材で小さなへこみ(凹部)を埋めてしまうため、冷却用フィンの表面積が減ることがあった。
【0010】
また、表面積の増加や冷却水の攪拌を促進させるために、流路内のオフセットフィンのサイズを小さくすると、接合部材であるロウが流路に流れ込み、流路を塞いでしまうこともあった。
【0011】
さらに、水冷式の熱交換器において、特に内部循環する冷却水や使用環境などによって耐食性に懸念がある場合、容器に穴が開いてしまうと、内部の冷却水が漏れだして発熱素子を冷却することが出来なくなるので、腐食性能および防食性能も検討された材料により構成される必要もあった。
【0012】
そのため、十分な放熱面積を確保することができ、流路内に無駄なスペースや、冷却フィンが放熱する表面積のロスが無い水冷式の熱交換器が求められている。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱交換性に優れた熱交換器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる熱交換器は、
密閉容器と、前記密閉容器内に配置された複数のインナーフィンと、を備える熱交換器であって、
前記密閉容器が第1のアルミニウム合金から形成され、
前記複数のインナーフィンが第2のアルミニウム合金から形成され、
前記複数のインナーフィンが、前記熱交換器の冷却媒体の進行方向に対してオフセットされて配置され、
前記複数のインナーフィンが、前記熱交換器の厚み方向に複数積層され、
厚み方向に隣接された前記複数のインナーフィンが、前記複数のインナーフィンの互いの凸部同士が対向するように配置され、
対向されて配置された前記凸部同士の接合箇所が、前記冷却媒体の進行方向に対してずれるように配置された、
ことを特徴とする。
【0017】
前記凸部同士の前記接合箇所の長さが、前記冷却媒体の進行方向における前記凸部の長さの10%以上50%以下であってもよい。
【0018】
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁との間の接合が金属的接合であってもよい。
【0019】
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器との間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下であってもよい。
【0020】
前記密閉容器が上部容器部材と下部容器部材とを備え、
前記上部容器部材と前記下部容器部材との間の接合が金属的接合であってもよい。
【0021】
前記上部容器部材と前記下部容器部材との間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下であってもよい。
【0022】
第3のアルミニウム合金から形成される接合部材をさらに備え、
前記接合部材と前記上部容器部材の下面との間の接合が金属的接合であり、
前記接合部材と前記下部容器部材の上面との間の接合が金属的接合であってもよい。
【0023】
前記接合部材と前記上部容器部材の下面との間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下であり、
前記接合部材と前記下部容器部材の上面との間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下であってもよい。
【0024】
前記接合部材と前記複数のインナーフィンとの間の接合が金属的接合であってもよい。
【0025】
前記接合部材と前記複数のインナーフィンとの間の接合領域のフィレットの断面積が0.02mm以下であってもよい。
【0026】
前記接合部材が曲面部を有し、
前記接合部材の前記曲面部と前記複数のインナーフィンとが接合されてもよい。
【0027】
前記第2のアルミニウム合金のZn含有率が0.3質量%以上5重量%以下であってもよい。
【0028】
本発明の第2の観点に係る熱交換器の製造方法は、
熱交換器の密閉容器内に複数のインナーフィンを配置する配置工程と、
前記密閉容器と前記複数のインナーフィンとを接合する接合工程と、
を含み、
前記密閉容器が第1のアルミニウム合金から形成され、
前記複数のインナーフィンが第2のアルミニウム合金から形成され、
前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金のMg含有率が0.5質量%以下であり、
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁との接触面にフッ化物系または塩化物系のフラックスを塗布し、
前記接合工程における雰囲気が、真空または非酸化性雰囲気であり、
前記接合工程で前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度と
前記配置工程において、
前記複数のインナーフィンを、前記熱交換器の厚み方向に複数積層し、
厚み方向に隣接された前記複数のインナーフィンを、前記複数のインナーフィンの互いの凸部同士が対向するように配置し、
対向されて配置された前記凸部同士の接合箇所が、前記熱交換器の冷却媒体の進行方向に対してずれるように配置する、
ことを特徴とする。
【0029】
本発明の第3の観点に係る熱交換器の製造方法は、
熱交換器の密閉容器内に複数のインナーフィンを配置する配置工程と、
前記密閉容器と前記複数のインナーフィンとを接合する接合工程と、
を含み、
前記密閉容器が第1のアルミニウム合金から形成され、
前記複数のインナーフィンが第2のアルミニウム合金から形成され、
前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金のMg含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、
前記接合工程における雰囲気が、真空または非酸化性雰囲気であり、
前記接合工程で前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度と
前記配置工程において、
前記複数のインナーフィンを、前記熱交換器の厚み方向に複数積層し、
厚み方向に隣接された前記複数のインナーフィンを、前記複数のインナーフィンの互いの凸部同士が対向するように配置し、
対向されて配置された前記凸部同士の接合箇所が、前記熱交換器の冷却媒体の進行方向に対してずれるように配置する、
ことを特徴とする。
【0030】
前記配置工程が、接合部材を配置する工程をさらに含み、
前記接合部材が第3のアルミニウム合金から形成され、
前記第1のアルミニウム合金、前記第2のアルミニウム合金および前記第3のアルミニウム合金からなる群のうち少なくとも1つのアルミニウム合金のMg含有率が0.5質量%以下であり、
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁との接触面、前記接合部材と上部容器部材との接触面、および前記接合部材と下部容器部材との接触面からなる群から選択される少なくとも1つの接触面にフッ化物系または塩化物系のフラックスを塗布し、
前記接合工程における雰囲気が、真空または非酸化性雰囲気であり、
前記接合工程において、
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、および/または、
前記複数のインナーフィンと前記接合部材とを接合する温度を、前記第2のアルミニウム合金および/または前記第3のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、および/または、
前記接合部材と前記密閉容器とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第3のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度としてもよい。
【0031】
前記配置工程が、接合部材を配置する工程をさらに含み、
前記接合部材が第3のアルミニウム合金から形成され、
前記第1のアルミニウム合金、前記第2のアルミニウム合金、および前記第3のアルミニウム合金からなる群のうち少なくとも1つのアルミニウム合金のMg含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、
前記接合工程における雰囲気が、真空または非酸化性雰囲気であり、
前記接合工程において、
前記複数のインナーフィンと前記密閉容器の内壁とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、および/または、
前記複数のインナーフィンと前記接合部材とを接合する温度を、前記第2のアルミニウム合金および/または前記第3のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度とする、および/または、
前記接合部材と前記密閉容器とを接合する温度を、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第3のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下となる温度としてもよい。
【0032】
前記接合工程において、前記第1のアルミニウム合金および/または前記第2のアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下である温度範囲とする時間を30秒間以上3600秒間以下としてもよい。
【0033】
前記接合工程において、前記第1のアルミニウム合金、前記第2のアルミニウム合金、および前記第3のアルミニウム合金からなる群から選択される少なくとも1つのアルミニウム合金の液相率が5%以上35%以下である温度範囲とする時間を30秒間以上3600秒間以下としてもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、熱交換性に優れた熱交換器およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本実施形態に係る熱交換器の構成を模式的に示す斜視図である。
図2図1の熱交換器のA−A’断面模式図である。
図3】本実施形態に係る熱交換器に使用されるインナーフィンの全体形状を模式的に示す斜視図である。
図4】本実施形態に係る熱交換器に使用されるインナーフィンの断面形状を模式的に示す断面図である。
図5A】本実施形態に係るインナーフィン同士の接合部のフィレット形状とその断面積の大きさを模式的に示す断面図である。
図5B】本実施形態に係るインナーフィン同士の接合部で、フィンがわずかにずれた場合のフィレット形状とその断面積の大きさを模式的に示す断面図である。
図5C】関連技術に係るインナーフィン同士の接合部のフィレット形状とその断面積の大きさを模式的に示す断面図である。
図5D】関連技術に係るインナーフィン同士の接合部で、フィンがわずかにずれた場合のフィレット形状とその断面積の大きさを模式的に示す断面図である。
図6】Al−Si合金の2元系合金の状態図を模式的に示す図である。
図7】(a)は図5の2元系合金の液相の生成過程の一つの過程を模式的に説明する図である。(b)は図5の2元系合金の液相の生成過程の一つの過程を模式的に説明する図である。(c)は図5の2元系合金の液相の生成過程の一つの過程を模式的に説明する図である。(d)は図5の2元系合金の液相の生成過程の一つの過程を模式的に説明する図である。
図8】(a)は図5の2元系合金の液相の生成過程の一つの過程を模式的に説明する図である。(b)は図5の2元系合金の液相の生成過程の一つの過程を模式的に説明する図である。(c)は図5の2元系合金の液相の生成過程の一つの過程を模式的に説明する図である。(d)は図5の2元系合金の液相の生成過程の一つの過程を模式的に説明する図である。
図9】密閉容器の内部にインナーフィンが1枚配置された変形例を模式的に示す図である。
図10A】密閉容器が接合用板を介して接合され、その両側にインナーフィンが2枚配置された変形例を模式的に示す図である。
図10B】インナーフィンが2枚配置された変形例を模式的に示す図である。
図11A】密閉容器が接合用板を介して接合され、その両側にインナーフィンが2枚ずつ積層された変形例を模式的に示す図である。
図11B】インナーフィンが4枚積層された変形例を模式的に示す図である。
図12】本実施形態に係る熱交換器のインナーフィンの積層構造および熱交換器内の冷却水の流れ方を模式的に示す斜視図である。
図13】本実施形態に係る熱交換器において、冷却水の進行方向と平行な方向に位置をずらしてインナーフィンを積層配置した状態を模式的に示す図である。
図14】密閉容器がインナーフィンを兼ねた接合用板を介して接合され、その両側にインナーフィンが2枚ずつ積層された変形例を模式的に示す図である。
図15A】実施例および比較例に係る熱交換器に使用される密閉容器を構成する部材の熱交換器外側から見た模式図である。
図15B】実施例および比較例に係る熱交換器に使用される密閉容器を構成する部材のインナーフィンを入れる側から見た模式図である。
図16】実施例および比較例に係る熱交換器における冷却水流量と熱性能との関係を示すグラフ図である。
図17】実施例に係る熱交換器におけるインナーフィンのずらし量と対ずらし無しの冷却性能向上との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態に係る熱交換器100およびその製造方法について説明する。
【0037】
本明細書において、「金属的接合」とは、2つ以上のアルミニウム合金が金属的に接合され、接合部の金属組織が、該アルミニウム合金に由来するアルミニウム合金の金属組織のみを含むことを指す。
【0038】
図1および図2に示すように、水冷式のアルミニウム合金製の熱交換器100は、密閉容器102と、密閉容器内に設けられた放熱用の複数のインナーフィン104と、冷却水入口106と、冷却水出口108と、を備える。密閉容器102は、上部容器部材110と、下部容器部材112と、接合部材114と、を備える。
【0039】
インナーフィン104、冷却水入口106、冷却水出口108、上部容器部材110、下部容器部材112、接合部材114の材料としては、以下に限定されるものではないが、たとえば、Al−Si系アルミニウム合金、Al−Si−Mg系アルミニウム合金、Al−Cu系アルミニウム合金、Al−Cu−Mg系アルミニウム合金などが用いられる。ここで、上部容器部材110および下部容器部材112を形成するアルミニウム合金(第1のアルミニウム合金)、インナーフィン104を形成するアルミニウム合金(第2のアルミニウム合金)および接合部材を形成するアルミニウム合金(第3のアルミニウム合金)は、それぞれ別の合金であってもよいし、同じ合金であってもよい。
【0040】
図2に示すように、上部容器部材110は下に凹となる領域を有し、下部容器部材112は上に凹となる領域を有する。すなわち、上部容器部材110の凹部および下部容器部材112の凹部が密閉容器102の内側にあり、密閉容器102の内部に、接合部材114の一部およびインナーフィン104を配置する空間が確保されている。上部容器部材110および下部容器部材112はそれぞれ、その接合面にフランジ(図示せず)を有する。フランジの形状および材質は本実施形態の効果を奏する範囲で適宜選択される。上部容器部材110のフランジと接合部材114の上面とが金属的に接合され、下部容器部材112のフランジと接合部材114の下面とが金属的に接合されることによって、接合部材114を介して上部容器部材110と下部容器部材112とが金属的に接合され、密閉容器102の気密性が保たれる。密閉容器102は、冷却流体が流れ込む冷却水入口106と、冷却流体が流れ出す冷却水出口108を除いて密閉されている。そのため、冷却水などが熱交換器100の外部に漏れ出すことを防ぐことができる。また、冷却水入口106と冷却水出口108の形状は、本実施形態の効果を奏する範囲で、使用状況や製造方法を考慮して適宜選択される。
【0041】
本実施形態において、熱交換器100の冷却用のインナーフィン104はオフセットされている(オフセットフィン)。すなわち、図3に示すように、インナーフィン104は、第2のアルミニウム合金製の金属板を矩形状に曲折し、各波の稜線1に沿って、一定間隔で、各波の立ち上がり面2と立下り面3とに、その波の進行方向へ平行に切り起こしてオフセットしたものであり、インナーフィン104は、熱交換器100の冷却水(冷却媒体)の進行方向(D1)に対して直角にオフセットされている(D2:インナーフィンのオフセットの方向)。すなわち、熱交換器100の内部において、冷却水は一直線に進むのではなく、冷却水流路(1つのインナーフィンの側面とそれに隣接する別のインナーフィンの側面との間)を冷却水が通過した後、オフセットされて設置されたまた別のインナーフィンに当たり、D2の正方向および負方向に向けて冷却水が進路を変える。次に、進路を変えられた冷却水が別のインナーフィンの側面に当たり、冷却水出口に向かう方向(D1)に進路を変える。これを繰り返して、冷却水は、熱交換器100内の複数のインナーフィンに接触しながら、冷却水出口方向に向かう。金属板の板厚、曲折された後の矩形の寸法、オフセットの寸法(幅)、各波の稜線の長さ等については、本実施形態の効果を奏する範囲で、使用条件に応じて適宜選択される。
【0042】
熱交換器100のインナーフィン104がオフセット構造を有することによって、水冷式の熱交換器である熱交換器100において、熱交換器100の内部を流れる水と熱交換するインナーフィン104近傍とに発生する温度境界層を分断させることができる。
【0043】
温度境界層とは、熱交換器100内部における水温の急変領域である。熱交換器100の内部を流れる冷却水と、冷却水に接するインナーフィン104との間に温度差があるとき、冷却水の温度はインナーフィン104から十分離れたところでは主流温度(すなわち、熱交換器100に注入された際の冷却水の温度に近い温度)であるが、インナーフィン104に近づくにつれて急激に冷却水の温度が変わり、インナーフィン104の表面近傍における冷却水の温度はインナーフィン104の表面温度と等しくなる。このような温度の急変領域が温度境界層と呼ばれている。熱交換器100において、インナーフィン104がオフセットされていることによって、温度境界層を、冷却水が流れる方向で分断する事が可能となる。そのため、インナーフィン104に常に冷たい冷却水を当てるようにすることができるため、熱交換器100の熱交換性能を向上させることができる。
【0044】
また、インナーフィン104がオフセットされていることにより、インナーフィン104にせん断された表面が現れ、冷却水と熱交換するために用いられ得るインナーフィン104の表面積を増加させることができる。そのため、インナーフィン104を同じ体積で比べた場合、単位体積あたりの放熱面積を向上させることができるので、熱交換器100の熱交換性能を向上させることができる。
【0045】
また、熱交換器100の熱交換性能を向上させるためには、熱交換器100の単位体積あたりの放熱面積を上げることが好ましい。そのためには、オフセットのピッチ長さPおよびフィン高さHを小さくして放熱面積を増加させることが好ましい(図4)。フィン高さを小さくした場合には、効率よく単位体積内にインナーフィン104を配置させるため、インナーフィン104を積層して配置することが好ましい。インナーフィン104の積層の枚数は、本実施形態の効果を奏する範囲で、熱交換器100の使用条件に応じて適宜選択される。
【0046】
熱源となる半導体素子(図示せず)は密閉容器102の外壁と接するように配置され、半導体素子と密閉容器とは、熱伝導の観点からみて十分に接合される。また、密閉容器102と、密閉容器102内側の冷却水と熱交換する冷却用のインナーフィン104との間の接合は、後述されるように、金属的接合である。さらに、接合部材114とインナーフィン104との間の接合も金属的接合である。
【0047】
また、積層されたインナーフィン104同士の接触が熱伝導の観点からみて十分であることによって、発熱素子からの熱が熱交換器100内部に積層配置されたインナーフィン104の全てに伝導されやすくなる。そのため、熱交換器100においては、オフセットされたインナーフィン104の凸部同士が、後述されるように、金属的に接合されることによって、発熱素子から、密閉容器102およびその内部に複数積層して配置されるオフセットされたインナーフィン104への熱伝導の経路をより確実に確保することができる。インナーフィン104の凸部同士は全くずれがなく相対(対向)していてもよいし、わずかにずれていてもよい。
【0048】
オフセットされたインナーフィン104の凸部は板材が曲げ加工されて成形されるので、インナーフィン104の凸部同士が、全くずれがなく対向する場合も、わずかにずれる場合も、凸部の曲がり部に円弧状にRが残る(図5Aおよび図5B)。このため、オフセットされたインナーフィン104を凸部同士が相対するように積層した場合およびわずかにずれて積層した場合、その接合部において、あるいは、オフセットされたインナーフィン104と密閉容器102との接合部において、凸部のRのところに窪みが残る。この窪みの部分の表面積Aも伝熱面積として熱交換器の冷却性能に寄与する。
【0049】
オフセットされたインナーフィン104によって区画された1列目のインナーフィン104の流路の中央部には、インナーフィン104の表面に比べて比較的温度が低く、まだ十分に熱交換されていない冷却水が流れている。インナーフィン104に上記の窪みRがあることによって、この温度の低い冷却水は、オフセットされた2列目のフィンのところでは、ちょうど窪みRの部分を流れることになる。窪みRの部分の表面積Aが確保されることによって、この温度の低い冷却水が熱交換に、より大きく寄与するために有効に活用することができ、熱交換器100の熱交換の効率を向上させることができる。一方、ろう付法のように、この窪みの部分が、たとえば、ろう付け後のフィレット121(ろう材等の接合部材で埋められる部分)で無くなってしまうと(図5Cおよび図5D)、温度の低い冷却水を有効に活用することによる熱交換効率の向上を図ることが難しくなる。
通常のろう付け法でも、ろう材量を少なくすることでフィレット断面積を小さくできる場合もあるが、接合部全てを同様なフィレット断面積で接合させる事が難しく、また接合不良箇所が生じる懸念もあることから、少ないろう材量で接合させることは一般的でない。このため、ろう付けの場合のフィレット断面積は0.05mm程度である。
一方、本実施形態に係る金属的接合領域近傍における、冷却水の進行方向におけるフィレットの断面積は、本実施形態の効果を奏する範囲で、フィレットの断面積は小さければ小さいほどよく、以下に限定されるものではないが、好ましくは0.001mm以上0.02mm以下であり、より好ましくは0.001mm以上0.01mm以下、より一層好ましくは0.001mm以上0.006mm以下であり、そのため、本実施形態においては、熱交換器100の冷却水流路内を冷却水がスムースに流れるとともに、窪みRの部分にも冷却水が流れることにより、温度の低い冷却水を有効に活用することができる。
さらに凸部の窪みRの大きさは、本実施形態の効果を奏する範囲で、製造容易性等に応じて、適宜選択される。
【0050】
以下、本実施形態に係る金属的接合のメカニズムについて述べる。ここでは、インナーフィン104と密閉容器102との間の金属的接合のメカニズムについて述べるが、インナーフィン104同士の金属的接合、インナーフィン104と接合部材114との金属的接合などの本明細書における他の金属的接合についても同様のメカニズムである。
【0051】
本実施形態に係るアルミニウム合金材の接合においては、一方の被接合部材であるインナーフィン104(第2のアルミニウム合金)の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比(以下、「液相率」と記す)が5%以上35%以下となる温度で接合される。本明細書において、液相率は以下のように表される。
液相率(%)=(被接合部材内部の液相の質量)/(被接合部材の全質量)×100
液相率が35%を超えると、生成する液相の量が多過ぎて(すなわち、固相の量が少なすぎて)被接合部材であるインナーフィン104がその形状を維持出来なくなり、インナーフィン104が大きな変形を起こしてしまう。一方、液相率が5%未満であると、被接合部材であるインナーフィン104の表面への液相の供給量が少なくなってしまい、インナーフィン104と密閉容器102との間の接合が困難になってしまう。そのため、本実施形態においては、被接合部材内部の液相の質量の比が5%以上35%以下となる温度において、インナーフィン104と密閉容器102との金属的な接合が行われる。なお、上記金属的接合における好ましい液相率は5%以上30%以下であり、より好ましい液相率は10%以上20%以下である。
【0052】
加熱中における実際の液相率を測定することは、極めて困難である。そこで、本明細書においては、アルミニウム合金の状態図を利用して、アルミニウム合金の組成と接合温度とを用いた平衡計算によって液相率を規定するものとする。たとえば、Thermo−Calc(Thermo−Calc Software AB社製)などの熱力学平衡計算ソフトを用いることによって、アルミニウム合金組成と加熱時の最高到達温度(接合温度)とから液相率が計算される。
【0053】
以下、液相の生成メカニズムについて説明する。図6に代表的な2元系共晶合金であるAl−Si合金の状態図を模式的に示す。Si濃度がc1であるアルミニウム合金材を加熱すると、共晶温度(固相線温度)Teを超えた付近の温度T1で液相の生成が始まる。共晶温度Te以下では、図7(a)に示すように、結晶粒界で区分されるマトリクス中に晶析出物が分布している。ここで液相の生成が始まると、図7(b)に示すように、晶析出物分布の偏析の多い結晶粒界が溶融して液相となる。次いで、図7(c)に示すように、アルミニウム合金のマトリクス中に分散する主添加元素成分であるSiの晶析出物粒子や金属間化合物の周辺が球状に溶融して液相となる。更に図7(d)に示すように、マトリクス中に生成したこの球状の液相は、界面エネルギーにより時間の経過や温度上昇と共にマトリクスに再固溶し、固相内拡散によって結晶粒界や表面に移動する。
【0054】
温度がT2に上昇すると、図6の状態図に示すようにアルミニウム合金内の液相量が増加する。図6に示すように、一方のアルミニウム合金材のSi濃度が最大固溶限濃度より小さいc2の場合には、固相線温度Ts2を超えた付近で液相の生成が始まる。但し、c1の場合と異なり、溶融直前の組織は図8(a)に示すように、マトリクス中に晶析出物が存在しない場合がある。この場合、図8(b)に示すように粒界でまず溶融して液相となった後、図8(c)に示すようにマトリクス中において局所的に溶質元素濃度が高い場所から液相が発生する。図8(d)に示すように、マトリクス中に生成したこの球状の液相は、c1の場合と同様に、界面エネルギーにより時間の経過や温度上昇と共にマトリクスに再固溶し、固相内拡散によって結晶粒界や表面に移動する。温度がT3に上昇すると、状態図より液相量は増加する。このように、本実施形態に係る接合は、アルミニウム合金材内部の部分的な溶融によって生成される液相を利用するものであり、良好な接合と形状維持との両立を実現できる。
【0055】
以下、液相が生じた後から接合に至るまでの金属組織の挙動を説明する。前述のように、本実施形態に係る接合において、アルミニウム合金材からなるインナーフィン104の表面に生成するごく僅かな液相は、フラックス等の作用によって酸化皮膜が破壊された相手側のアルミニウム合金材(密閉容器102)との隙間を埋める。次に、両方のアルミニウム合金材の接合界面近傍にある液相が密閉容器102内へと移動していき、それに伴い、接合界面に接しているインナーフィン104の固相であるα相の結晶粒が密閉容器102を構成するアルミニウム合金内に向かって成長していく。一方、密閉容器102を構成するアルミニウム合金材の結晶粒もインナーフィン104を構成するアルミニウム合金材側へと成長していく。
【0056】
密閉容器102を構成するアルミニウム合金材が液相を生成しない合金の場合には、接合界面付近の密閉容器102中に、インナーフィン104を構成するアルミニウム合金材の組織が入り込んだような組織となって接合される。したがって、接合界面には、インナーフィン104を構成するアルミニウム合金材と、密閉容器102を構成するアルミニウム合金材以外の金属組織が生じない。また、インナーフィン104を構成するアルミニウム合金材だけでなく密閉容器102を構成するアルミニウム合金材も液相を生成する合金の場合には、両方のアルミニウム合金材が完全に一体化した組織となり、接合界面が判別できないほどとなる。
【0057】
一方、インナーフィン104を構成するアルミニウム合金材としてろう材をクラッドしたブレージングシートを用い、密閉容器102を構成するアルミニウム合金材として液相を生成しない合金を用いて、ろう付法によって接合した場合には、接合部にフィレットが形成され、共晶組織が見られる。すなわち、本実施形態に係る接合方法によって形成される接合組織とは異なるものとなる。ろう付法では接合部を液相のろうが埋めてフィレットを形成するため、接合部には周囲と異なる共晶組織が形成される。また、溶接法においては、接合部が局部的に溶融するため、他の部位とは異なる金属組織となる。それに対して、本実施形態に係る金属的接合においては、接合部の金属組織がインナーフィン104を構成するアルミニウム合金材および密閉容器102を構成するアルミニウム合金材だけで構成され、あるいは、インナーフィン104を構成するアルミニウム合金材と密閉容器102を構成するアルミニウム合金材とが一体化したもので構成される点で、ろう付や溶接による接合組織と相違する。
【0058】
接合組織が一体化していることに加えて、このような接合挙動のため、本実施形態に係る接合工程の後においては、接合部近傍の形状変化がほとんど発生しない。すなわち、溶接法におけるビードや、ろう付法におけるフィレットのような接合後の形状変化が、本実施形態に係る金属的接合にはほとんど発生しない。そのため、溶接法やろう付法と同様に金属同士の結合による金属的接合が可能でありつつ、溶接法やろう付け法などの他の金属接合方法とは異なり、熱交換器100の冷却水の流路のコーナー部近傍(金属的接合された接合領域近傍)に冷却水の流れを阻害する突起物などがほとんど形成されないため、冷却水の流れをスムースに保つことが可能となる。また、たとえば、ブレージングシート(ろう材クラッド率が片面5%)を用いてドロンカップタイプの積層型熱交換器を組み立てた場合、ろう付け加熱後には溶融したろう材が接合部に集中するため、積層した熱交換器の高さが5〜10%減少する。したがって、ろう付法を用いる場合、製品設計において、その減少分を考慮する必要がある。一方、本実施形態に係る接合においては、接合後における寸法変化が極めて小さいため、高精度の製品設計が可能となる。
【0059】
また、アルミニウム合金からなる密閉容器102およびインナーフィン104の表層に形成されている酸化皮膜を破壊することによって、密閉容器102とインナーフィン104との間の接合がより容易になる。本実施形態においては、以下に限定されるものではないが、酸化被膜を破壊するために、たとえば、以下に示す方法が採用される。
【0060】
(1)フラックスによる酸化皮膜の破壊
本破壊方法においては、酸化皮膜を破壊するために、密閉容器102とインナーフィン104との接合部にフラックスを塗布する。フラックスは、以下に限定されるものではないが、たとえば、アルミニウム合金のろう付で用いるKAlFやCsAlFなどのフッ化物系フラックス、または、たとえば、KClやNaClなどの塩化物系フラックスなどが用いられる。これらのフラックスは、インナーフィン104の液相が溶融する前に、または接合温度に至る前に溶融し、インナーフィン104の表層および密閉容器102の内部表層に形成された酸化皮膜と反応して、酸化皮膜を破壊する。さらに、本方法においては、インナーフィン104の表層および密閉容器102の内部表層への酸化皮膜の形成を抑制するために、たとえば、真空、または窒素ガスやアルゴンガスなどの非酸化性雰囲気中で、インナーフィン104と密閉容器102とを接合する方法が用いられる。特にフッ化物系のフラックスを用いる場合は、酸素濃度を250ppm以下に抑え、露点を−25℃以下に抑えた非酸化性ガス雰囲気中で接合するのが好ましい。本明細書において、「真空」とは、真空の状態だけでなく、面接合や閉塞空間における接合のように、インナーフィン104と密閉容器102との間の接合面に空気の流入がほとんどない状態をも含むものとする。
【0061】
また、フッ化物系のフラックスを用いる場合、インナーフィン104および/または密閉容器102のアルミニウム合金中のMg含有率を0.01質量%以上0.5質量%以下とすることによって、フッ化物系のフラックスとMgとが反応してフッ化物系フラックスの酸化皮膜破壊作用がより一層向上し得る。そのため、フッ化物系のフラックスを用いる場合には、インナーフィン104を構成するアルミニウム合金および密閉容器102を構成するアルミニウム合金のいずれのMg含有率も0.01質量%以上0.5質量%以下とすることがより一層好ましい。なお、本実施形態に係る効果を奏する範囲で、アルミニウム合金に含有される他の元素の種類や含有量は適宜選択される。
【0062】
(2)Mgのゲッター作用による酸化皮膜の破壊
インナーフィン104および密閉容器102の両方のアルミニウム合金材にMgが所定量添加されている場合は、インナーフィン104と密閉容器102との接合部にフラックスを塗布しなくても、酸化皮膜が破壊されて、インナーフィン104と密閉容器102との接合が、より容易になる。アルミニウム合金材に所定のMgが含有されている場合、真空フラックスレスろう付と同様に、アルミニウム合金が溶融して液相が表層に出てくる際に、アルミニウム合金中から蒸発するMgのゲッター作用によって酸化皮膜が破壊されるためである。なお、本方法においては、フラックスを塗布しないことによって、Mgのゲッター作用をより高めることができるため、フラックスを塗布しない方がより一層好ましい。
【0063】
Mgのゲッター作用によって酸化皮膜を破壊する場合、酸化皮膜の形成を抑制するために、非酸化性雰囲気(窒素ガス、アルゴンガスなど)中で接合することが好ましい。また、真空中でインナーフィン104と密閉容器102とを接合することも好ましい。たとえば、面接合や閉塞空間においてインナーフィン104と密閉容器102とを接合する場合には、接合面への酸素の流入がほとんど無いため、インナーフィン104および密閉容器102の、ごく周囲の雰囲気によって酸化皮膜が成長したとしても、酸化皮膜の厚さがMgのゲッター作用によって十分破壊しうる厚さにしかならず、インナーフィン104と密閉容器102とを良好に接合することができるからである。非酸化性雰囲気中や乾燥空気中での接合の場合には、露点をマイナス25℃以下とすることがより好ましい。
【0064】
Mgのゲッター作用により酸化皮膜を破壊するためには、インナーフィン104を形成するアルミニウム合金が、0.2質量%以上5.0質量%以下のMgを含有するアルミニウム合金であることが好ましい。Mg含有率が0.2質量%以上であることによって、十分なゲッター作用を得ることができ、より良好な接合を得ることができる。一方、Mg含有率が5.0質量%以下であることによって、接合部分の表面において、Mgが雰囲気中の酸素と反応して生成される酸化物(MgO)の量を低減することができ、より一層良好な接合を得ることができる。本実施形態の効果を奏する範囲で、インナーフィン104を形成するアルミニウム合金および密閉容器102を形成するアルミニウム合金に含有される他の元素の種類や含有量は適宜選択される。
【0065】
本実施形態に係る接合方法においては、密閉容器102内にインナーフィン104を設置した後(設置工程)、通常、被接合部材であるインナーフィン104および密閉容器102は炉内で加熱される(接合工程)。本実施形態の効果を奏する範囲で、炉の形状や方式は適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、1室構造のバッチ炉、自動車用熱交換器の製造などに用いられる連続炉などを用いることができる。本実施形態に係る接合方法においては、酸化皮膜を破壊するために接合部にフラックスを塗布し、かつ、酸化皮膜の形成を抑制するために、窒素などの非酸化性ガスの雰囲気中で接合することが、より好ましい。なお、アルミニウム合金材にMgが添加されている場合は、接合部にフラックスを塗布しなくても、真空あるいは非酸化性雰囲気の炉を用いることによって、アルミニウム合金表面の酸化皮膜をMgのゲッター作用により除去し、良好な接合を得ることが可能である。
【0066】
本実施形態に係るインナーフィン104と密閉容器102との接合においては、接合部およびその近傍において酸化皮膜が破壊された後、インナーフィン104と密閉容器102との間に液相が充填され、インナーフィン104と密閉容器102との接合がなされる。本実施形態においては、この液相は、一方の被接合部材であるインナーフィン104を形成するアルミニウム合金材中において生成される。液相率が5%以上35%以下である時間が30秒間以上3600秒間以下であることが、より好ましい。30秒間以上であることによって液相が接合部に十分に充填され、3600秒間以下であることによってインナーフィン104の変形をより抑制することができる。より一層好ましくは、液相率5%以上35%以下の時間が60秒間以上1800秒間以下であると、さらに十分な充填が行われ、より確実な接合がなされるとともに、インナーフィン104の変形をより一層抑制することができる。なお、本実施形態に係る接合においては、液相は接合部の極近傍においてのみ移動するので、液相の充填に必要な時間は接合部の面積の大きさには依存しない。なお、他方の被接合部材である密閉容器102を形成するアルミニウム合金材中においても液相が生成してもよく、密閉容器102を形成するアルミニウム合金材中の液相率が5%以上35%以下である時間も、インナーフィン104同様、30秒間以上3600秒間以下であることがより好ましく、より一層好ましくは60秒間以上1800秒間以下である。
【0067】
一方の被接合部材であるインナーフィン104のアルミニウム合金材として、Si元素を必須成分として含有するAl−Si合金やAl−Si−Mg合金を用いてもよい。このようなアルミニウム合金では、Siの含有量X(質量%)が0.6質量%以上3.5質量%以下のものが、より好ましい。Siの含有量Xが0.6質量%以上であることによって、インナーフィン104の液相率が5%以上35%以下となる温度範囲を十分に確保することが可能となり、より安定した接合が可能となる。また、Siの含有率Xが3.5質量%以下であることによって、固相線温度=共晶温度で発生する液相の量が35%よりも十分に低く、かつ、5%よりも高い範囲となり、固相線温度から液相率35%となる温度までの温度範囲がより広くなり、より安定した接合が可能となる。また、より一層好ましいSiの含有量Xは、1.2質量%以上3.0質量%以下であり、より一層安定した接合が可能となる。
【0068】
また、上記Al−Si合金またはAl−Si−Mg合金は、0.05質量%以上0.5質量%以下のCu、0.05質量%以上1.0質量%以下のFe、0.3質量%以上5.0質量%以下のZn、0.1質量%以上1.8質量%以下のMn、および0.01質量%以上0.3質量%以下のTiから選択される群のうち、1種または2種以上の元素をさらに含有してもよい。
【0069】
すなわち、0.6質量%以上3.5質量%以下のSiを必須元素として含有し、0.2質量%以上2.0質量%以下のMgを含有し、0.05質量%以上0.5質量%以下のCu、0.05質量%以上1.0質量%以下のFe、0.3質量%以上5.0質量%以下のZn、0.1質量%以上1.8質量%以下のMnおよび0.01質量%以上0.3質量%以下のTiからなる群から選択される1種または2種以上の元素を選択的添加元素としてさらに含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Si−Mg系アルミニウム合金を用いたインナーフィン104を用いてもよい。特に、インナーフィン104に0.3質量%以上5.0質量%以下のZnを添加することによって、インナーフィン104と密閉容器102との間に電位差が生じ、犠牲防食作用によって、密閉容器102の耐食性をより一層向上させ、熱交換器100の熱交換性能および安全性をより一層向上させることができる。Znの含有率が0.3質量%以上であることによって、インナーフィン104と密閉容器102との間に電位差を生じさせて、犠牲防食作用を機能させるために十分なZnをインナーフィン104が有することとなり、Znの含有率が5.0質量%以下であることによって、インナーフィン104自体の耐食性が維持される。
【0070】
上記選択的添加元素を含有するAl−Si合金またはAl−Si−Mg合金からなる合金材を一方の被接合部材(インナーフィン104)として他方の接合部材(密閉容器102)と接合する場合、接合時における一方の被接合部材(インナーフィン104)の温度T(℃)を、
660−39.5X≦T≦660−15.7X、かつ
T≧577
(X=Siの含有率(質量%))
となるように制御することが、より一層好ましい。こうすることによって、より一層良好な接合が得られる。
【0071】
一方の被接合部材であるインナーフィン104のアルミニウム合金材として、Cu元素を必須成分として含有するAl−Cu合金やAl−Cu−Mg合金を用いてもよい。このようなアルミニウム合金においては、Cuの含有量Y(質量%)が0.7質量%以上15.0質量%以下であることが、より好ましい。Cuの含有量Yが0.7質量%以上であることによって、インナーフィン104の液相率が5%以上35%以下となる温度範囲を十分に確保することが可能となり、より安定した接合が可能となる。また、Cuの含有率Yが15.0質量%以下であることによって、固相線温度=共晶温度で発生する液相の量が35%よりも十分に低く、かつ、5%よりも高い範囲となり、固相線温度から液相率35%となる温度までの温度範囲がより広くなり、より安定した接合が可能となる。また、より一層好ましいCu含有量Yは、1.5質量%以上12.0質量%以下であり、より一層安定した接合が可能となる。
【0072】
また、上記Al−Cu合金又はAl−Cu−Mg合金は、0.05質量%以上0.8質量%以下のSi、0.05質量%以上1.0質量%以下のFe、0.2質量%以上1.0質量%以下のZn、0.1質量%以上1.8質量%以下のMn、および0.01質量%以上0.3質量%以下のTiからなる群から選択される1種又は2種以上の元素をさらに含有してもよい。
【0073】
すなわち、0.7質量%以上15.0質量%以下のCuを必須元素として含有し、Mg含有量が0.2質量%以上2.0質量%以下であり、0.05質量%以上0.8質量%以下のSi、0.05質量%以上1.0質量%以下のFe、0.2質量%以上1.0質量%以下のZn、0.1質量%以上1.8質量%以下のMn、および0.01質量%以上0.3質量%以下のTiからなる群から選択される1種又は2種以上の元素を選択的添加元素としてさらに含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるAl−Cu−Mg系アルミニウム合金を用いてもよい。
【0074】
上記選択的添加元素を含有するAl−Cu合金又はAl−Cu−Mg合金からなるアルミニウム合金材を一方の被接合部材(インナーフィン104)として他方の接合部材(密閉容器102)と接合する場合、接合時における一方の被接合部材(インナーフィン104)の温度T(℃)を、
660−15.6Y≦T≦660−6.9Y、かつ
T≧548
(Y=Cuの含有率(質量%))
となるように制御することが、より一層好ましい。こうすることによって、より一層良好な接合が達成される。
【0075】
また、本実施形態に係る接合においては、液相を生成するアルミニウム合金材の固相線温度と液相線温度との差を10℃以上200℃以下とすることが、より好ましい。固相線温度を超えると液相の生成が始まるが、固相線温度と液相線温度との差が10℃以上であることによって、固体と液体とが共存する温度範囲が大きくなり、発生する液相の量を制御することがより容易となる。したがって、この差を10℃以上200℃以下とすることが、より好ましく、液相率が5%以上35%以下にある固相線温度と液相線温度との温度差が20℃以上200℃以下であることが、より一層好ましく、本実施形態の効果を奏する範囲で、固相線温度と液相線温度の差が大きくなるほど、適切な液相量に制御することが容易になる。
【0076】
上記数値範囲を満たす組成を有する2元系の合金としては、以下に限定されるものではないが、たとえば、Al−Si系合金、Al−Cu系合金、Al−Mg系合金、Al−Zn系合金、Al−Ni系合金などが挙げられる。上記数値範囲を満たすためには、上述のような共晶型合金の方が固液共存領域を大きく有するのでより有利であるが、たとえば、他の、全率固溶型、包晶型、偏晶型などの他の合金であっても、固相線温度と液相線温度との差が10℃以上200℃以下であることによって、より良好な接合が可能となる。また、上記の2元系合金は主添加元素以外の添加元素を含有することができ、3元系合金や4元系合金、さらに5元以上の多元系の合金を用いることも可能である。多元系合金としては、以下に限定されるものではないが、たとえば、Al−Si−Mg系合金、Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Zn系合金、Al−Si−Cu−Mg系合金などが挙げられる。
【0077】
以上に説明したように、インナーフィン104がオフセットされていることと、インナーフィン104と密閉容器102とが金属的に接合されつつ、インナーフィン104と密閉容器102との間の接合領域の冷却水の進行方向におけるフィレットの断面積が0.02mm以下であること、および/または、インナーフィン104同士等、他の接合箇所が金属的に接合されつつ、該接合領域の冷却水の進行方向におけるフィレットの断面積が0.02mm以下であることによって、微細な流路構造を有しつつ、優れた熱交換効率を有する熱交換器100を得ることができる。
【0078】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。たとえば、本実施形態においては、製造容易性を考慮して密閉容器102が上部容器部材110と下部容器部材112とからなる分割構造を有する形態について説明したが、密閉容器102が一体構造を有していてもよい。
【0079】
また、本実施形態においては、接合部材114を介して、上部容器部材110と下部容器部材112とが接合される形態について説明したが、上部容器部材110と下部容器部材112とが直接接合されてもよい。
【0080】
また、本実施形態においては、図2に示すように、インナーフィンが熱交換器100に多数配置されている形態について説明したが、図9に示すように、密閉容器102内部にインナーフィンが1枚のみ配置され、金属的に接合されてもよい。また、図10Aに示すように、密閉容器102が接合部材114を介して接合され、その両側にインナーフィン104が配置され、金属的に接合されてもよい(一層配置)。また、図10Bに示すように、密閉容器102の内側にインナーフィン104が2枚配置されてもよい(二層配置)。また、図11Aに示すように、密閉容器102が接合部材114を介して接合され、その両側にインナーフィン104が2枚ずつ、互いの凸部同士が対向するように積層して配置され、金属的に接合されてもよい(四層配置)。また、図11Bに示すように、密閉容器102の内側にインナーフィン104が4枚、互いの凸部同士が対向するように積層して配置され、金属的に接合されてもよい(四層配置)。
【0081】
図12は、インナーフィンが4層積層された状態を斜め方向から見た模式図であり、図13は、インナーフィンが4層積層された状態を横から見た模式図である。図12および図13に示すように、冷却水の進行方向(D1の方向)と垂直な方向にオフセットされて配置された4層のコルゲート状のインナーフィンを、さらに、冷却水の進行方向(D1の方向)に対して前後にずらして積層配置して、冷却水の上下方向の移動を可能にしてもよい。すなわち、対向されて配置されたインナーフィン104の凸部同士の接合箇所が、隣接する層間において、冷却水の進行方向に対して平行な方向に前後にずれて配置されるようにインナーフィン104を積層してもよい。たとえば、図13に示すr=20%におけるインナーフィンの積層においては、第1層(L1)のインナーフィンBの凸部の上面と第2層(L2)のインナーフィンCの凸部の下面とが重なり合っている箇所(インナーフィンBの凸部とインナーフィンCの凸部との接合箇所)が、図13に示すr=0%におけるインナーフィンの積層とは異なり、冷却水の進行方向と平行な方向にずれている。
こうすることによって、積層方向に隣接する層の間での冷却水の移動も可能となる(図12の矢印D3の方向)。すなわち、第1層(L1)から第2層(L2)、第2層(L2)から第3層(L3)、第3層(L3)から第4層(L4)へのそれぞれの冷却水の移動が可能になり、熱源である半導体素子に近い側の冷却水の温度の過度な上昇が一層抑制される。そのため、熱源から離れた側にある冷却水と熱源に近い側の冷却水との間の温度差の増大が一層抑制され、熱交換器100の冷却性能の向上に一層顕著な効果を得ることができる。
【0082】
熱交換器100の厚み方向に積層されたインナーフィン104の凸部同士の接合箇所の長さ(T1)と、冷却水の進行方向におけるインナーフィン104の凸部の長さ(T2)との比rは、本発明の実施形態の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、インナーフィン104の凸部同士の接合箇所の長さが、冷却水の進行方向におけるインナーフィン104の凸部の長さの10%以上50%以下が、より好ましい。
【0083】
ここで、インナーフィン104の凸部同士の接合箇所の長さと、冷却水の進行方向における凸部の長さとの比rは以下の式で表される。
r(%)=(T1/T2)×100
T1:インナーフィン104の凸部同士の接合箇所の長さ
T2:冷却水の進行方向におけるインナーフィン104の凸部の長さ
たとえば、図13のr=20%のインナーフィンの積層においては、インナーフィンBの凸部の上面とインナーフィンCの凸部の下面とが重なり合う箇所(インナーフィンBの凸部とインナーフィンCの凸部との接合箇所)の長さは、インナーフィンBの凸部の長さ(図13においては、図13中、水平方向のインナーフィンBの長さ)の20%である。
【0084】
インナーフィン104の凸部同士の接合箇所の長さを、冷却水の進行方向におけるインナーフィン104の凸部の長さの10%以上50%以下とすることによって、熱源から離れた側にある冷却水と熱源に近い側の冷却水との温度差の過度な増大が、より一層抑制され、熱交換器100の冷却性能の向上に、より一層顕著な効果を得ることができる。
【0085】
また、本実施形態においては、接合部材114が平面形状を有し、平面状の接合に寄与する機能を有する形態について説明したが、図14に示すように、インナーフィン104と接合される部分がフィンと同様の形状に曲面を有するように成形されて(曲成されて)、放熱用のフィンとしての機能を有していてもよい。すなわち、接合部材114が、インナーフィン104同様に、各波の稜線1に沿って、一定間隔で、各波の立ち上がり面2と立下り面3とに、その波の進行方向へ平行に切り起こしてオフセットされて、フィンと同様の形状を有し、放熱する機能を有していてもよい。図14に示す熱交換器100においては、密閉容器102がインナーフィンを兼ねた接合部材114を介して接合され、その両側にインナーフィン104が2枚ずつ、互いの凸部同士が相対するように積層して配置され、金属的に接合されるとともに、接合部材114の凸部がインナーフィン104の凸部と相対するように配置され、それぞれ金属的に接合されている(五層配置)。こうすることによって、各部材が有効に働いて、流路内断面積のスペースが増加するため、より一層好ましい熱交換効率を得ることができる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0087】
本実施例に用いた熱交換器は、以下の3つの形状のうちのいずれか1つを有した。
形状1:図11Aに示すような、接合部材を有する構成であった。
形状2:図11Bに示すような、接合部材を有しない構成であった。
形状3:図9に示すような、接合部材を有さず、密閉容器の内側にインナーフィンが1枚ある構成であった。
【0088】
図15Aおよび図15Bに、本実施例で用いた熱交換器の各部分の寸法の位置を示す。図15Aは実施例および比較例に係る熱交換器に使用される密閉容器を構成する部材の熱交換器外側の模式図である。図15Bは実施例および比較例に係る熱交換器に使用される密閉容器を構成する部材のインナーフィンを入れる側の模式図である。
【0089】
表1に示す合金番号1〜22の合金成分の鋳塊を作製した後、熱間圧延および冷間圧延を行って、厚さ0.1mmの圧延板と、厚さ0.2mmの圧延板とを得た。作製した圧延板を用いて、以下の部材の加工を行った。表1において、「−」は、当該元素が不純物として、微量に、合金1〜合金22にそれぞれわずかに含まれていることを示す。
【0090】
【表1】
【0091】
厚さ0.1mmの冷間圧延板をプレス加工して、オフセットされたインナーフィン(高さh=0.5mm、P=0.8mm、1つのオフセットフィン長さ=5mm)を得た。熱交換器に配置するインナーフィンの外形(全体寸法)は、幅Wが35mmであり、長さLが60mmであった。
【0092】
厚さ0.2mmの冷間圧延板を絞り成形して、図15Aに示す形状の容器部材を得た。容器部材の外形は、幅wが40mmであり、長さL65mmであった。また、内側にインナーフィンを配置できるように、高さtを1.2mmとした。
【0093】
形状1の熱交換器を製作する際には、厚さ0.1mmの冷間圧延板を加工して接合部材を製作し、容器部材のフランジ部の間に配置した。インナーフィンは接合部材の両側に二枚、互いの凸部同士が相対するように配置して、合計四枚を積層させた。
【0094】
形状2の熱交換器を製作する際には、接合部材を用いず、容器部材の内側にインナーフィンを四枚、互いの凸部同士が相対するように配置した。
【0095】
接合後に内部へ冷却水を入れて評価するため、冷却水入口および冷却水出口として、容器部材の流路方向の両側に、外径4mm・肉厚1mmのアルミニウム製パイプを配置した。次に、これらの部材を組み合わせて、表2および表3に示す接合条件で加熱して熱交換器を作製した。接合のための加熱は、真空または窒素雰囲気の炉中で所定の温度まで昇温後、所定の時間保持した後、冷却した。なお、昇温速度は、520℃以上で10℃/分とした。また、保持中の温度は接合温度±1℃以内となるように制御した。なお、表2および表3に記載の平衡液相率は、Thermo−Calc(Thermo−Calc Software AB社製)によって、それぞれの合金組成および接合温度から求めた。表2および表3中、「F」はKAlF系のフラックスを塗布したことを表し、「C」はCsAlF系のフラックスを塗布したことを表す。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
(接合性評価:実施例1〜41、比較例1〜11)
以下、水漏れ、接合率、流路断面形状の3つの観点から、実施例1〜41、比較例1〜11の熱交換器の接合性を評価した。
【0099】
(水漏れ試験)
容器部材の接合による密閉性を評価するため、試作した熱交換器の口金部分に冷却水を流すホースを取り付け、圧力0.5MPaで冷却水を流し、容器外側への水漏れの有無を評価した。評価の判定方法は、十分な接合で水が漏れなかったものを○、接合が不十分で水が漏れたものを×とした。なお、水漏れ試験で「×」となった熱交換器については、接合部の断面評価を実施しなかった。表3において、「−」は、接合部の断面評価を実施しなかったことを示す。
【0100】
(接合率)
接合状態を評価するため、製作した熱交換器について流路方向に対して垂直の面を3つの断面について切り出した。3つの断面は、容器とインナーフィンとの接合部位の断面、積層されたインナーフィン同士の接合部位の断面、接合部材とインナーフィンとの接合部位の断面であった。これらの断面を金属顕微鏡で観察し、接合状態の評価を行った。評価の判定方法は、各接合部位を各20箇所観察し、設計接合部長さに対する接合された長さの比率の合計を接合率とし、接合率80%以上を◎、50%以上80%未満を○、50%未満を×とした。本実施例において、接合率を以下のように定義した。
接合率(%)=接合された長さ(mm)/設計接合部の長さ(mm)
【0101】
(流路断面形状)
流路のろう詰まり等による断面積の変化を評価するため、上記流路方向に対して、上記3つの断面内におけるインナーフィン同士で構成された流路部分を各20箇所観察し、流路内の断面積を画像処理により測定した。評価は流路内断面健全率で表し、流路内断面健全率80%以上を◎、50%以上80%未満を○、50%未満を×とした。
本実施例において、流路内断面健全率を以下のように定義した。
流路内断面健全率(%)=接合後の流路内断面積(m)/設計流路内断面積(m
【0102】
(結果)
表2に示すように、実施例1〜41では容器部材同士の接合が十分であり、水漏れ試験で内部の水が漏れ出す事は無かった。また、接合部分の断面観察の結果、容器部材の接合率および流路内断面健全率も高かった。
一方、表3に示すように、比較例1、3〜5、7〜9、11は、容器部材の接合が不十分であったため、水漏れ試験で内部の水が漏れ出した。
比較例1、5においては、接合温度が低かったため、接合に必要な十分な液相が得られず、接合が不十分であったため、水漏れ試験で内部の水が漏れ出した。
比較例3においては、接合時の雰囲気が大気中であったため、フラックスによる接合面の酸化膜の除去ができず、接合することができなかったため、水漏れ試験で内部の水が漏れ出した。
比較例7においては、接合時の雰囲気が大気中であり、比較例8では接合部材およびインナーフィンのMg量が少ないため、Mgによるゲッター作用が働かず、接合することができなかったため、水漏れ試験で内部の水が漏れ出した。
比較例4、9においては、接合部材およびインナーフィン両方の液相率が低かったため、接合部材とインナーフィンとを接合することができなかったため、水漏れ試験で内部の水が漏れ出した。
比較例11は、形状2の容器部材のフランジ部分で接合する構成であるが、容器部材に液相が生じず、接合することができなかったため、水漏れ試験で内部の水が漏れ出した。
比較例2、6、10においては、接合後の水漏れ試験で内部の水が漏れ出すことは無かったが、流路内断面健全率が低かった。
比較例2、6においては、インナーフィンの液相率が大きすぎたため、インナーフィンの流路内断面に液相が溜まって冷却水の流路を塞いだため、流路内断面健全率が低かった。
比較例10においては、インナーフィンのMg量が多すぎたためにMgの酸化皮膜が生成してしまい、流路内断面健全率が低かった。
【0103】
(耐食性評価:実施例42〜58)
熱交換器の耐食性を評価するため、表4に示す容器部材とインナーフィンとの組み合わせによって形状1および形状2の熱交換器を作製した。以下、特に説明するものを除き、合金塊、熱交換器などの作製方法は、実施例1〜41、比較例1〜11と同様であった。接合条件は表2に示す熱交換器番号で示した条件で行った。作製した熱交換器の耐食性評価として、OY水を用いた内部循環試験を672時間(4週間)実施した。
【0104】
【表4】
【0105】
(OY水の組成)
OY水の組成は、Clが195ppm、SO2−が60ppm、Fe3+が30ppm、Cu2+が1ppm、残りは水であった。
【0106】
(内部循環試験の試験条件)
80℃のOY水を8時間、熱交換器内に循環させた後、常温のOY水を16時間、熱交換器内に循環させることを1サイクルとして、28サイクルにわたって実施した。
【0107】
(水漏れ試験)
OY水を用いた内部循環試験後、容器接合部分の密閉性を評価するため、熱交換器の口金部分に冷却水を流すホースを取り付け、圧力0.5MPaで冷却水を流して水漏れ有無を評価した。評価の判定方法は、容器部材部材から水が漏れなかったものを◎、腐食によって容器部材から水がにじむ程度を○とした。
【0108】
(流路壁健全率)
インナーフィンの腐食状態を評価するため、試作した熱交換器について流路方向に対して垂直の断面を3つ切り出し(容器とインナーフィンとの接合部位の断面、積層されたインナーフィン同士の接合部位の断面、接合部材とインナーフィンとの接合部位の断面)、流路の断面形状を金属顕微鏡によって観察した。観察箇所はインナーフィンで構成された流路を各20流路観察し、流路壁に穴が開いて流路が短絡している箇所の数を測定した。評価は流路壁健全率で表し、流路壁健全率90%以上を◎、流路壁健全率80%以上を○、流路壁健全率80%未満を×とした。本実施例において、流路壁健全率を以下のように定義した。
流路壁健全率(%)=(全流路観察箇所−流路壁短絡箇所)/全流路観察箇所
【0109】
(結果)
表4に示すように、実施例42〜50においては、インナーフィンのZn含有量が0.3質量%以上5.0質量%以下であったため、容器接合部分および容器の耐食性が、より一層良好であり、水漏れ試験で内部の水が漏れ出すことは無かった。またインナーフィンの流路断面観察の結果、流路壁健全率は90%以上で、より一層良好な耐食性を示した。
実施例51〜52、55、57においては、容器接合部分および容器の耐食性が良好であった。また、インナーフィンの流路断面観察の結果、流路壁健全率は80%で、良好な耐食性を示した。
実施例53においては、容器接合部分および容器の耐食性が良好であった。また、インナーフィンの流路断面観察の結果、流路壁健全率は80%で、より一層良好な耐食性を示した。
実施例54、56、58では水が漏れ出す事はなかったが、インナーフィンのZn量が多すぎたためフィンの腐食が大きく、流路壁の健全率が低かった。
水冷式の熱交換器において、特に内部循環する冷却水や使用環境などによって耐食性に懸念がある場合、容器に穴が開いてしまうと、内部の冷却水が漏れだして発熱素子を冷却することが出来なくなるので、耐食性評価で良好な性能を示す材料構成とする必要がある。ただ、耐食性の懸念が少ない場合は、その状況に合わせた必要十分な耐食性を有する材料構成とすればよい。実施例54、56、58は、耐食性以外の評価項目は良好であるので、耐食性の懸念が少ない場合の材料構成として採用することは問題ない。
【0110】
(実施例59〜61、比較例12〜14)
(冷却性能評価)
熱交換器の冷却性能評価のため、表5に示す容器部材とインナーフィンとの組み合わせにより、形状1〜3の熱交換器を作製した。接合条件は、表2および表5に示す熱交換器番号で示した条件で行った。以下、特に示されない限り、合金塊の作製方法および実施例59〜61の熱交換器の作製方法は、実施例1〜41、比較例1〜11と同様であった。表5中、「F」はKAlF系フラックスを接合面に塗布したことを表し、「BRシート」は、芯材A3003の両面にA4045を片側5%のクラッド率で両面にクラッドしたものを接合部材として用いたことを表す。
【0111】
【表5】
【0112】
比較例12、13においては、容器部材に合金番号22のアルミニウム合金を用いて、インナーフィンと接合部材とをBRシートで接合した。BRシートには、芯材A3003アルミニウム合金の両面にA4045アルミニウム合金を片側5%のクラッド率で両面にクラッドしたものを使用した。窒素雰囲気の炉中で610℃まで昇温して加熱した後、5分間保持した後に冷却することで、インナーフィン、容器部材、接合部材が接合された。
【0113】
比較例12のインナーフィンのオフセットフィン形状は、高さ2mm、オフセット幅P=3.6mmであった。比較例13のインナーフィンのオフセットフィン形状は、高さ0.5mm、オフセット幅P=0.8mm、フィン長さ5mmであった。比較例14においては、容器部材およびインナーフィンに合金22を用いた。比較例14のインナーフィンのオフセットフィン形状は、高さ0.5mm、オフセット幅P=0.8mm、フィン長さ5mmであった。比較例12および比較例13においては、ろう付法によって接合された。比較例14の熱交換器の構成は、容器部材の内側にインナーフィンが4枚入った構成とし、容器部材のフランジ部分およびインナーフィン同士をエポキシ系接着剤で接着した。
【0114】
作製した熱交換器の冷却性能を測定するため、熱交換器の口金部分と液送ポンプとをホースで繋ぎ、冷却水(入口温度:20±1℃)を、流量0.4リットル/分、0.8リットル/分、1.2リットル/分の条件で流した。この時、発熱素子を模した銅ブロックに加熱用のヒーターを入れた熱源を載せ、800Wの熱を加え、銅ブロック直下の容器部材側の温度を測定した。測定した温度から冷却水の温度を引いた値ΔT(K)を冷却性能として、冷却水の流量と冷却性能との関係を図16に示す。
【0115】
図16に示すように、実施例59〜61の熱交換器は冷却水の流量増加に伴ってΔTが低下し、十分な冷却性能を備えていることがわかった。一方、比較例12〜14の熱交換器は、いずれも実施例59〜61の熱交換器よりもΔTが大きく、冷却性能が劣ることがわかった。
比較例12は、ろう付法による接合で、ろう付け可能なフィン形状のためオフセットフィン形状が大きく、流路断面積が大きいため、放熱フィンに必要な面積が足りず、冷却性能が劣ることがわかった。
比較例13は、ろう付け接合するにはオフセットフィンの形状が大きく、積層されたオフセットフィンの接合部のR部分が、ろうで埋まり、放熱フィンに必要な面積が足りず、冷却性能が劣ることがわかった。
比較例14は、フィン同士、およびフィンと容器部材とが、エポキシ系接着剤で接合されているため、フィン同士、および容器部材とフィンとの間の熱伝導効率が低く、発熱ヒーターの入熱を十分に冷却する事が出来なかった。
【0116】
これらの熱交換器の冷却性能評価後、冷却水の流路方向に対して垂直の断面を3つ切り出し、積層されたインナーフィン同士の接合部位を金属顕微鏡によって各20箇所観察した。観察画像から画像処理装置によってフィレット断面積を計測し、実施例59〜61ではその最大断面積が0.003mm以上0.006mm以下であることが観察されたが、比較例13では0.05mmと大きなフィレットであることが観察された。
【0117】
(実施例62〜75)
実施例62〜75に用いられた熱交換器は、図11Bに示すような、接合部材を有しない複数のインナーフィンが積層された構成であった。
【0118】
図15Aおよび図15Bに、本実施例で用いた熱交換器の各部分の寸法の位置を示す。図15Aは実施例62〜75に係る熱交換器に使用される密閉容器を構成する部材の熱交換器外側の模式図である。図15Bは実施例62〜75に係る熱交換器に使用される密閉容器を構成する部材のインナーフィンを入れる側の模式図である。
【0119】
表1に示す合金番号1および合金番号22の合金成分の鋳塊を作製した後、熱間圧延および冷間圧延を行って、厚さ0.1mmの圧延板および厚さ0.2mmの圧延板を得た。作製した圧延板を用いて、以下の部材の加工を行った。合金番号1の鋳塊から得られた圧延板から容器部材を作製し、合金番号22の鋳塊から得られた圧延板から後述のフィン1〜フィン4を作製した。
【0120】
厚さ0.1mmの冷間圧延板をプレス加工して、オフセットされたコルゲート状のインナーフィン(高さh=0.5mm、P=0.8mm)を得た。1つのオフセットフィン長さについては、表6に示すように、5mm、10mm、2.5mmのものをそれぞれ得た。また、フィンの凸部同士を冷却水の進行方向に平行な方向に前後にずらして積層配置できるように、フィン部材の端部寸法を表6に示す寸法に加工した(フィン1、フィン2、フィン3、フィン4)。実施例62〜75で用いられるフィン1〜フィン4の端部寸法が、オフセット長さLと同じ寸法となるように加工した。熱交換器内に配置されたインナーフィン群の全体外形(全体寸法)は、幅Wが35mmであり、長さLが60mmであった。その他、インナーフィンの寸法は表6に示す通りであり、「内−内」はインナーフィンの内壁間の長さを示し、「外−外」はインナーフィンの外壁間の長さを示す。
【0121】
【表6】
【0122】
厚さ0.2mmの冷間圧延板を絞り成形して、図15Aに示す形状の容器部材を得た。容器部材の外形は、幅wが40mmであり、長さLが65mmであった。また、内側にインナーフィンを配置できるように、高さtを1.2mmとした。
【0123】
熱交換器を製作する際には、容器部材の内側に4枚のインナーフィンを互いの凸部同士が相対するように積層し、実施例62〜72においては、冷却水の進行方向と平行な方向に対する隣接する層間でのインナーフィンの凸部のずらし量が表6に示す数値(12%〜48%)となるように配置され、実施例73〜75においては、隣接する層間でのインナーフィンの凸部のずらし量が表6に示すように0%となるように配置された。
【0124】
接合後に内部へ冷却水を入れて評価するため、冷却水入口および冷却水出口として、容器部材の流路方向の両側に、外径4mm・肉厚1mmのアルミニウム製パイプを配置した。次に、これらの部材を組み合わせて、表2の実施例1と同様の接合条件で加熱して熱交換器を作製した。接合のための加熱は、真空または窒素雰囲気の炉中で所定の温度まで昇温後、所定の時間保持した後、冷却した。なお、昇温速度は、520℃以上で10℃/分とした。また、保持中の温度は接合温度±1℃以内となるように制御した。
【0125】
(冷却性能評価)
作製した熱交換器の冷却性能を測定するため、熱交換器の口金部分と液送ポンプとをホースで繋ぎ、冷却水(入口温度:20±1℃)を、流量0.8リットル/分の条件で流した。この時、発熱素子を模した銅ブロックに加熱用のヒーターを入れた熱源を載せ、800Wの熱を加え、銅ブロック直下の容器部材側の温度を測定した。測定した温度から冷却水の温度を引いた値ΔT(K)を冷却性能として表6に示し、オフセットずらし量と冷却性能との関係を図17に示す。
【0126】
(結果:実施例62〜66、73)
実施例73はインナーフィンの凸部のずらしが無い実験であった。実施例73の冷却性能ΔTを基準とし、対ずらし無し冷却性能向上(%)を算出した。以下に換算式を示す。
「対ずらし無し冷却性能向上」=([ずらし有りの冷却性能ΔT]−[ずらし無しの冷却性能])÷[ずらし無しの冷却性能]×100
表6および図17に示すように、実施例62〜66においては、「対ずらし無しの冷却性能向上」が有り、冷却性能が10%〜14%向上することがわかった。
【0127】
(結果:実施例67〜69、74)
実施例74はインナーフィンの凸部のずらしが無い実験であった。実施例74の冷却性能ΔTを基準とし、対ずらし無し冷却性能向上(%)を算出した。換算式は実施例73と同様であった。
表6および図17に示すように、実施例67〜69においては、「対ずらし無し冷却性能向上」が有り、冷却性能が10%〜17%向上することがわかった。
【0128】
(結果:実施例70〜72、75)
実施例75はインナーフィンの凸部のずらしが無い実験であった。実施例75の冷却性能ΔTを基準とし、対ずらし無し冷却性能向上(%)を算出した。換算式は実施例73と同様であった。
表6および図17に示すように、実施例70〜72においては、「対ずらし無しの冷却性能向上」が有り、冷却性能が11%〜16%向上することがわかった。
【0129】
実施例62〜75の実験結果より、冷却水の進行方向と平行な方向に対する隣接する層間でのインナーフィン凸部のずらし量が10%以上50%以下の場合に、熱交換器の冷却性能がより一層向上することがわかった。
【0130】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2011年12月2日に出願された日本国特許出願第2011−265116号に基づく。本明細書中にその明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、熱交換器およびその製造方法に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0132】
1 稜線
2 立ち上がり面
3 立ち下がり面
100 熱交換器
102 密閉容器
104 インナーフィン
106 冷却水入口
108 冷却水出口
110 上部容器部材
112 下部容器部材
114 接合部材
120 インナーフィン
121 フィレット
A 表面積
図1
図2
図3
図4
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図13
図14
図15A
図15B
図16
図5A
図5B
図5C
図5D
図12
図17