特許第5961135号(P5961135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961135
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20160719BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20160719BHJP
   B60C 11/01 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   B60C11/12 A
   B60C11/03 100C
   B60C11/01 B
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-85076(P2013-85076)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-205460(P2014-205460A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2014年10月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】久次米 智之
【審査官】 佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−276924(JP,A)
【文献】 特開2003−063212(JP,A)
【文献】 特開2009−012534(JP,A)
【文献】 特開2010−285035(JP,A)
【文献】 特開2012−051508(JP,A)
【文献】 特開2012−187939(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0094226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 11/01
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、
タイヤ赤道の両外側に配されタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン周方向溝と、
前記クラウン周方向溝のタイヤ軸方向外側に配されタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー周方向溝と、
前記一対のクラウン周方向溝間に挟まれるクラウン陸部と、
前記クラウン周方向溝とショルダー周方向溝とに挟まれる一対のミドル陸部と、
前記ショルダー周方向溝のタイヤ軸方向外側に位置する一対のショルダー陸部とを有する空気入りタイヤであって、
前記クラウン陸部には、前記クラウン周方向溝からタイヤ赤道に向かってのびるクラウン横溝が設けられ、
前記ミドル陸部には、前記ショルダー周方向溝から前記クラウン周方向溝に向かってタイヤ周方向に対して傾斜してのびるミドルサイプと、タイヤ周方向で隣り合う前記ミドルサイプ間を前記ミドルサイプと交差することなくのびるミドル横溝とが設けられ、
前記ショルダー陸部には、トレッド接地端からタイヤ軸方向内側に向かってのびるショルダー横溝と、タイヤ周方向で隣り合う前記ショルダー横溝間を前記ショルダー横溝と交差することなくのびるショルダーサイプとが設けられ、
前記クラウン横溝、ミドル横溝及びショルダー横溝は、前記クラウン陸部、ミドル陸部及びショルダー陸部をタイヤ軸方向に貫通することなく形成され、
前記ミドルサイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Emsと前記ミドルサイプ及びミドル横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Emaとの比Ems/Emaが、前記ショルダーサイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Essと前記ショルダーサイプ及びショルダー横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Esaとの比Ess/Esaよりも小さく、
かつ、前記クラウン横溝は、前記ショルダー横溝と同じ向きに傾斜してのび、
前記ミドルサイプは、前記ミドル陸部を貫通する第1ミドルサイプと、前記ミドル陸部を貫通しない第2ミドルサイプとを含み、
前記第1ミドルサイプは、タイヤ軸方向の内端で前記クラウン周方向溝に直接連通し、
前記第1ミドルサイプの内端とミドル横溝の溝中心線の外端とのタイヤ周方向の重なり距離L4は、前記第1ミドルサイプの外端とミドル横溝の溝中心線の内端とのタイヤ周方向の重なり距離L5よりも大きいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1ミドルサイプ、前記第2ミドルサイプ及び前記ショルダーサイプは、円弧状であることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ミドルサイプ及びショルダーサイプのタイヤ周方向に対する角度は、それぞれ、タイヤ軸方向の内端から外端に向かって漸増することを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ショルダー陸部には、前記ショルダー横溝のタイヤ軸方向の内端と前記ショルダー周方向溝との間を連通するショルダー補助サイプが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ミドル陸部には、タイヤ周方向で隣り合う前記ミドル横溝間に、少なくとも2本の前記ミドルサイプが設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記クラウン陸部には、サイプが設けられていないことを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ミドルサイプ及びショルダーサイプの各エッジ長さの合計は、前記クラウン周方向溝、ショルダー周方向溝、クラウン横溝、ミドル横溝、ショルダー横溝、ミドルサイプ及びショルダーサイプの各エッジ長さの合計の40〜70%であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記クラウン周方向溝及び前記ショルダー周方向溝は、直線状にのびることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
1本の前記ショルダー陸部に設けられている前記ショルダー横溝の本数は、1本の前記ミドル陸部に設けられている前記ミドル横溝の本数よりも少ないことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット性能や操縦安定性を犠牲にすることなく耐摩耗性を向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの摩耗性能を向上させるために、トレッドゴムにおけるブタジエンゴム(BR)成分量を増加させる方策や、トレッドパターンにおける溝深さを深く設計する方策が実施されている。しかしながら、トレッドゴムのブタジエンゴム成分量を増加させる場合にあっては、一般にウェットグリップ性能の低下を招くという問題があった。トレッドパターンの溝深さを深く設計する場合にあっては、排水性は向上するもののトレッドの剛性が低下し、操縦安定性に悪影響を及すという問題があった。
【0003】
下記特許文献1では、ウェット性能を損ねることなくヒールアンドトウ摩耗等の偏摩耗を抑制するために、副溝によりショルダー域を内陸域と外陸域に区分し、外陸域には横溝が隔設されるとともに、内陸域を途切れることなくタイヤ周方向に連続させた空気入りタイヤが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−100615号公報
【0005】
しかしながら、上記のような空気入りタイヤにあっても、横溝がタイヤ軸方向に貫通する外陸域において剛性が低下する傾向にあり、ウェット性能及び操縦安定性と耐摩耗性との両立について十分ではなく、さらなる改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ウェット性能及び操縦安定性を犠牲にすることなく耐摩耗性を向上させた空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち、請求項1記載の発明は、トレッド部に、タイヤ赤道の両外側に配されタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン周方向溝と、前記クラウン周方向溝のタイヤ軸方向外側に配されタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー周方向溝と、前記一対のクラウン周方向溝間に挟まれるクラウン陸部と、前記クラウン周方向溝とショルダー周方向溝とに挟まれる一対のミドル陸部と、前記ショルダー周方向溝のタイヤ軸方向外側に位置する一対のショルダー陸部とを有する空気入りタイヤであって、前記クラウン陸部には、前記クラウン周方向溝からタイヤ赤道に向かってのびるクラウン横溝が設けられ、前記ミドル陸部には、前記ショルダー周方向溝から前記クラウン周方向溝に向かってタイヤ周方向に対して傾斜してのびるミドルサイプと、タイヤ周方向で隣り合う前記ミドルサイプ間を前記ミドルサイプと交差することなくのびるミドル横溝とが設けられ、前記ショルダー陸部には、トレッド接地端からタイヤ軸方向内側に向かってのびるショルダー横溝と、タイヤ周方向で隣り合う前記ショルダー横溝間を前記ショルダー横溝と交差することなくのびるショルダーサイプとが設けられ、前記クラウン横溝、ミドル横溝及びショルダー横溝は、前記クラウン陸部、ミドル陸部及びショルダー陸部をタイヤ軸方向に貫通することなく形成され、前記ミドルサイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Emsと前記ミドルサイプ及びミドル横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Emaとの比Ems/Emaが、前記ショルダーサイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Essと前記ショルダーサイプ及びショルダー横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Esaとの比Ess/Esaよりも小さく、かつ、前記クラウン横溝は、前記ショルダー横溝と同じ向きに傾斜してのび、前記ミドルサイプは、前記ミドル陸部を貫通する第1ミドルサイプと、前記ミドル陸部を貫通しない第2ミドルサイプとを含み、前記第1ミドルサイプは、タイヤ軸方向の内端で前記クラウン周方向溝に直接連通し、前記第1ミドルサイプの内端とミドル横溝の溝中心線の外端とのタイヤ周方向の重なり距離L4は、前記第1ミドルサイプの外端とミドル横溝の溝中心線の内端とのタイヤ周方向の重なり距離L5よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記ミドルサイプ及びショルダーサイプは、円弧状であることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤである。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記ミドルサイプ及びショルダーサイプのタイヤ周方向に対する角度は、それぞれ、タイヤ軸方向の内端から外端に向かって漸増することを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤである。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記ショルダー陸部には、前記ショルダー横溝のタイヤ軸方向の内端と前記ショルダー周方向溝との間を連通するショルダー補助サイプが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0011】
請求項5記載の発明は、前記ミドル陸部には、タイヤ周方向で隣り合う前記ミドル横溝間に、少なくとも2本の前記ミドルサイプが設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0012】
請求項6記載の発明は、前記クラウン陸部には、サイプが設けられていないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0013】
請求項7記載の発明は、前記ミドルサイプは、前記ミドル陸部を貫通する第1ミドルサイプと、前記ミドル陸部を貫通しない第2ミドルサイプとを含むことを特徴とする請求項5に記載の空気入りタイヤである。
【0014】
請求項8記載の発明は、前記ミドルサイプ及びショルダーサイプの各エッジ長さの合計は、前記クラウン周方向溝、ショルダー周方向主溝、クラウン横溝、ミドル横溝、ショルダー横溝、ミドルサイプ及びショルダーサイプの各エッジ長さの合計の40〜70%であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0015】
請求項9記載の発明は、前記クラウン周方向溝及び前記ショルダー周方向溝は、直線状にのびることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0016】
請求項10記載の発明は、1本の前記ショルダー陸部に設けられている前記ショルダー横溝の本数は、1本の前記ミドル陸部に設けられている前記ミドル横溝の本数よりも少ないことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、ミドル陸部における全エッジ長さのタイヤ軸方向成分Emaに対するサイプエッジ長さのタイヤ軸方向成分Emsの比Ems/Emaが、ショルダー陸部における全エッジ長さのタイヤ軸方向成分Esaに対するサイプエッジ長さのタイヤ軸方向成分Essの比Ess/Esaよりも小さく設定されているので、ミドル陸部からショルダー陸部にかけて、全エッジに対するサイプエッジの比率を増加させることができる。これにより、ショルダー陸部における接地面積が増加し、ウェット性能及び操縦安定性を高めつつ、ショルダー陸部の摩耗を抑制し耐摩耗性を向上しうる。
【0018】
ブレーキング時においては、トレッド部に生ずる前後力によりミドルサイプ及びショルダーサイプが閉じることにより、ミドルサイプ及びショルダーサイプによって区分された隣り合うブロック状部同士が当接して互いに支え合い、ブロック状部の剛性が高められる。この作用は、全エッジに対するサイプエッジの比率が大きいショルダー陸部において、より顕著に得られるので、接地圧の低いショルダー領域においても十分な接地面積を確保して、ウェット性能及び操縦安定性を高めつつ、耐摩耗性を向上しうる。
【0019】
クラウン横溝、ミドル横溝及びショルダー横溝は、各陸部をタイヤ軸方向に貫通することなく形成されているので、各陸部の剛性を維持することができ、上述した隣り合うブロック状部同士が互いに支え合ってブロック状部の剛性が高められる作用と相俟って、各陸部の剛性を高めて、耐摩耗性を向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
図2図1のトレッド部の展開図である。
図3図2のクラウン陸部の拡大展開図である。
図4図2のミドル陸部の拡大展開図である。
図5図2のショルダー陸部の拡大展開図である。
図6図1のトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。ここで、正規状態とは、タイヤを正規リム(図示省略)にリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0022】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば"標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0023】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0024】
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある)1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内方に配されるベルト層7とを具え、本実施形態では乗用車用のものが示されている。
【0025】
カーカス6は、例えば、1枚のカーカスプライ6Aにより構成されている。このカーカスプライ6Aは、ビードコア5、5間を跨る本体部6aの両端に、ビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されることによりビードコア5に係止される折返し部6bを一連に具えている。カーカスプライ6Aには、例えば、芳香族ポリアミド、レーヨンなどの有機繊維コードがカーカスコードとして採用されている。カーカスコードは、タイヤ赤道Cに対して、例えば、70〜90°の角度で配列されている。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外方に向かって先細状にのびるビードエーペックスゴム8が配されている。
【0026】
ベルト層7は、本実施形態では、ベルトコードがタイヤ赤道Cに対して、例えば、15〜45゜の角度で傾斜して配列された2枚のベルトプライ7A、7Bを、ベルトコードが互いに交差する向きにタイヤ半径方向で重ね合わされてなる。このベルトコードには、例えば、アラミド又はレーヨン等が好適に採用されている。
【0027】
図2は、本実施形態の空気入りタイヤ1のトレッド部2の展開図である。図2に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、そのトレッド部2に、タイヤ赤道Cの両側に配されかつタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン周方向溝(クラウン主溝)9と、このクラウン周方向溝9のタイヤ軸方向外側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー周方向溝(ショルダー主溝)10とが形成されている。
【0028】
クラウン周方向溝9及びショルダー周方向溝10により、トレッド部2が複数の領域に区画される。トレッド部2は、一対のクラウン周方向溝9、9間に挟まれるクラウン陸部11と、クラウン周方向溝9及びショルダー周方向溝10に挟まれる一対のミドル陸部12と、ショルダー周方向溝10のタイヤ軸方向外側に位置する一対のショルダー陸部13とを有している。
【0029】
各溝及び各陸部によって規定されるランド比は、好ましくは64%以上、より好ましくは66%以上であり、好ましくは、72%以下、より好ましくは70%以下である。これにより、ドライ性能及びウェット性能がバランス良く発揮されうる。なお、「ランド比」とは、トレッド接地端Te、Te間において、各溝全てを埋めた仮想接地面の全面積に対する、実際の接地面積の割合を意味している。
【0030】
トレッド接地端Teとは、正規状態のタイヤに、正規荷重を付加しかつキャンバー角0゜で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地端を意味している。「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【0031】
クラウン周方向溝9は、例えば、タイヤ周方向に連続して直線状にのび、ウェット走行時、タイヤ赤道C付近に生じる水を排出する。クラウン周方向溝9の形状はこれに限定されず、ジグザグ状あるいはS字状にのびるものでもよい。
【0032】
クラウン周方向溝9の溝幅W1は、小さくなると、排水能力が低下するおそれがあり、大きくなると、乾燥路面での走行性能であるドライ性能が低下するおそれがある。このような観点から、溝幅W1は、タイヤ赤道Cから一方のトレッド接地端Teまでのタイヤ軸方向距離であるトレッド半幅TWhの好ましくは9%以上、より好ましくは10%以上であり、好ましくは13%以下、より好ましくは12%以下である。本実施形態の乗用車用タイヤの場合、溝幅W1は、8〜12mmが望ましい。同様の観点から、クラウン周方向溝9の溝深さd1は、7〜9mmが望ましい。
【0033】
ショルダー周方向溝10は、クラウン周方向溝9と同様、タイヤ周方向に連続して直線状にのびているが、ジグザグ状又はS字状にのびるものでもよい。
【0034】
ショルダー周方向溝10の溝幅W2は、小さくなると、排水能力が低下し、大きくなると、ミドル陸部12及びショルダー陸部13の接地面積が低下し、特に旋回性能が低下するおそれがある。このような観点から、溝幅W2は、トレッド半幅TWhの好ましくは10%以上、より好ましくは11%以上であり、好ましくは14%以下、より好ましくは13%以下である。同様の観点から、ショルダー周方向溝10の溝深さd2は、7〜9mmが望ましい。とりわけ、溝幅W2は、クラウン周方向溝9の溝幅W1よりも大きいことが望ましい。
【0035】
図3には、クラウン陸部11の拡大展開図が示される。図3に示されるように、クラウン陸部11は、一対のクラウン周方向溝9、9に挟まれ、タイヤ赤道C上をタイヤ周方向にのびている。
【0036】
クラウン陸部11の接地面での側縁11e、11e間のタイヤ軸方向の幅W3は、小さくなると、ドライ性能や耐摩耗性が低下するおそれがあり、大きくなると、ウェット性能が低下するおそれがある。このような観点から、幅W3は、好ましくはトレッド半幅TWhの22%以上、より好ましくは24%以上であり、好ましくは28%以下、より好ましくは26%以下である。
【0037】
クラウン陸部11には、クラウン周方向溝9からタイヤ赤道Cに向かって傾斜してのびるクラウン横溝(クラウン副溝)14が設けられるのが望ましい。これにより、クラウン周方向溝9の排水能力が高められ、ウェット性能が向上しうる。
【0038】
クラウン横溝14のタイヤ軸方向の外端14oは一方のクラウン周方向溝9に連通するとともに、タイヤ軸方向の内端14iは他方のクラウン周方向溝9に連通することなく終端するのが望ましい。すなわち、クラウン横溝14は、クラウン陸部11をタイヤ軸方向に貫通することなく形成されている。クラウン陸部11にはサイプが形成されていない。このような、クラウン陸部11は、ウェット性能を向上させつつ、クラウン陸部11の剛性を確保し、操縦安定性及び耐摩耗性を向上させる。本実施形態においては、クラウン陸部11にはサイプが形成されていないが、必要に応じて隣り合うクラウン横溝14、14の間にサイプが設けられていてもよい。
【0039】
クラウン横溝14のタイヤ軸方向の溝長さL1は、小さくなると、ウェット性能が向上しないおそれがあり、大きくなると、クラウン陸部11の剛性が低下して、操縦安定性及び耐摩耗性が低下するおそれがある。このような観点から、溝長さL1は、トレッド半幅TWhの好ましくは6%以上、より好ましくは7%以上であり、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下である。同様の観点から、クラウン横溝14の溝幅は2.5〜3.5mm、溝深さは4.5〜6.5mmが望ましい。
【0040】
クラウン横溝14の配設ピッチP1は、小さくなると、クラウン陸部11の剛性が低下して偏摩耗が発生し易くなるおそれがあり、大きくなると、ウェット性能が向上しないおそれがある。このような観点から、配設ピッチP1は、タイヤ外径の3%以上、より好ましくは4%以上であり、好ましくは7%以下、より好ましくは6%以下である。
【0041】
図4には、ミドル陸部12の拡大展開図が示されている。図4に示されるように、ミドル陸部12には、第1ミドルサイプ15と、ミドル横溝16と、第2ミドルサイプ17とが設けられている。
【0042】
ミドル陸部12の幅W4は、クラウン陸部11の幅W3よりも大きいのが望ましい。これにより、クラウン陸部11及びミドル陸部12の接地圧が適正化され、偏摩耗が抑制される。ミドル陸部12の幅W4は、小さくなると、ドライ性能が低下するおそれがある他、耐摩耗性が低下するおそれがあり、大きくなると、ウェット性能が低下するおそれがある。このような観点から、ミドル陸部12の幅W4は、好ましくはトレッド半幅TWhの24%以上、より好ましくは26%以上であり、好ましくは32%以下、より好ましくは30%以下である。本実施形態の乗用車用タイヤの場合、ミドル陸部12の幅W4は、20〜25mmが望ましい。
【0043】
第1ミドルサイプ15は、タイヤ軸方向の内端15iがクラウン周方向溝9に連通しかつタイヤ軸方向の外端15oがショルダー周方向溝10に連通している。このような第1ミドルサイプ15は、ウェット走行時、トレッド部2と路面との間に発生した水をタイヤ軸方向外側に排出し、ウェット性能を向上させる。ミドル陸部12の剛性及び排水能力をバランスさせるために、第1ミドルサイプ15のサイプ幅は、例えば、0.6〜1.0mm、サイプ深さは、例えば、2.0〜3.0mmが望ましい。
【0044】
第1ミドルサイプ15は、内端15iから外端15oに向かってタイヤ周方向に対する角度θ1が漸増する円弧状に湾曲している。このような第1ミドルサイプ15は、直進時の接地圧が相対的に大きいクラウン周方向溝9側では、角度θ1が小さくなるため、ミドル陸部12のタイヤ周方向の剛性が確保される。他方、旋回時に接地圧が相対的に大きくなるショルダー周方向溝10側では、角度θ1が大きく、ミドル陸部12のタイヤ軸方向の剛性が確保される。このため、ミドル陸部12の剛性が適切に確保され、操縦安定性及び耐摩耗性が向上しうる。さらに、このような円弧状の第1ミドルサイプ15は、直線状のサイプよりも大きいエッジ長さが得られる点でも好ましい。
【0045】
第1ミドルサイプ15の角度θ1は、小さくなると、排水性が低下するおそれがあり、大きくなると、ミドル陸部12のタイヤ周方向の剛性が低下するおそれがある。このような観点から、角度θ1は、内端15iにおいては30〜40°、外端15oにおいては55〜65°が望ましい。
【0046】
図2の展開図において、第1ミドルサイプ15の湾曲度合いを示す曲率半径R1は、小さくなるとミドル陸部12のタイヤ周方向の剛性を急激に変化させるおそれがあり、大きくなると、エッジ効果が十分に得られないおそれがある。このような観点から、曲率半径R1は、好ましくは30mm以上、より好ましくは50mm以上であり、好ましくは90mm以下、より好ましくは70mm以下である。
【0047】
第1ミドルサイプ15は、外端15oから内端15iまでのタイヤ周方向の長さL2が、該第1ミドルサイプ15の配設ピッチP2の0.6〜1.0倍に設定される。これにより、ミドル陸部12の剛性と排水性能とが高い次元でバランスされ、操縦安定性、耐摩耗性、及びウェット性能が両立する。第1ミドルサイプ15のタイヤ周方向の長さL2が、配設ピッチP2の0.6倍よりも小さくなると、ウェット性能が低下し、1.0倍よりも大きくなると、操縦安定性及び耐摩耗性が低下する。配設ピッチP2は、タイヤ外径の3〜7%が望ましい。
【0048】
ミドル横溝16は、タイヤ周方向で隣り合う第1ミドルサイプ15、15間を、該第1ミドルサイプ15と交差することなく周方向に対して傾斜してのびる。ミドル横溝16のタイヤ軸方向の外端16oがショルダー周方向溝10に連通するとともに、タイヤ軸方向の内端16iはクラウン周方向溝9に連通することなく終端する。すなわち、ミドル横溝16は、ミドル陸部12をタイヤ軸方向に貫通していない。このようなミドル横溝16は、ウェット性能を向上させつつ、ミドル陸部12の剛性を確保し、操縦安定性及び耐摩耗性を向上させる。
【0049】
ミドル横溝16は、内端16iから外端16oに向かってタイヤ周方向に対する角度θ2が漸増する円弧状に湾曲している。このようなミドル横溝16は、第1ミドルサイプ15同様、操縦安定性及び耐摩耗性を向上させつつ、ウェット性能を向上させる。ミドル陸部12の剛性と排水能力とをバランスさせるために、角度θ2は、40〜60°が望ましい。同様の観点から、ミドル横溝16の溝幅は、例えば、2.0〜4.0mm、溝深さは、例えば、4.0〜7.0mmが望ましい。
【0050】
図2の展開図において、ミドル横溝16の湾曲度合いを示す曲率半径R2は、小さくなると、排水能力が低下するおそれがあり、大きくなると、エッジ効果が低下するおそれがある。このような観点から、曲率半径R2は、好ましくは、25mm以上、より好ましくは45mm以上であり、好ましくは75mm以下、より好ましくは55mm以下である。
【0051】
ミドル横溝16の外端16oから内端16iまでのタイヤ周方向の長さL3は、第1ミドルサイプ15のタイヤ周方向の長さL2よりも小さく設定されている。これにより、ミドル横溝16の剛性に対する影響が限定され、ミドル陸部12の剛性が確保される。
【0052】
ミドル横溝16の長さL3は、小さくなると、ウェット性能が向上しないおそれがあり、大きくなると、ミドル陸部12の剛性が低下して偏摩耗が発生するおそれがある。このような観点から、長さL3は、第1ミドルサイプ15の配設ピッチP2の50%以上、より好ましくは60%以上であり、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。
【0053】
タイヤ周方向で隣り合う第1ミドルサイプ15とミドル横溝16とは、タイヤ軸方向で互いに重複している。第1ミドルサイプ15及びミドル横溝16が重複することで、さらにウェット性能が向上する。
【0054】
第1ミドルサイプ15とミドル横溝16とが重複する範囲が小さくなると、十分なウェット性能の向上効果が期待できないおそれがあり、大きくなるとミドル陸部12の剛性が低下するおそれがある。このような観点から、第1ミドルサイプ15の内端15iとミドル横溝16の外端16oとのタイヤ周方向の重なり距離L4、及び第1ミドルサイプ15の外端15oとミドル横溝16の内端16iとのタイヤ周方向の重なり距離L5は、第1ミドルサイプ15の配設ピッチP2は、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上であり、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下である。
【0055】
ミドル陸部12には、タイヤ周方向で隣り合う第1ミドルサイプ15とミドル横溝との間に、第2ミドルサイプ17が設けられるのが望ましい。このような第2ミドルサイプ17は、ミドル陸部12の剛性を均一化しつつ、第1ミドルサイプ15及びミドル横溝16の排水能力を高めうる。ミドル陸部12の剛性を均一化するために、第2ミドルサイプ17のサイプ幅は、例えば、0.6〜1.0mm、サイプ深さは、例えば、2.0〜3.0mmが望ましい。
【0056】
第2ミドルサイプ17は、タイヤ軸方向の外端17oがショルダー周方向溝10に連通するとともに、タイヤ軸方向の内端17iがミドル横溝16の内端16iよりもタイヤ軸方向外側で終端するのが望ましい。すなわち、第2ミドルサイプ17は、ミドル陸部12をタイヤ軸方向に貫通していない。このような第2ミドルサイプ17は、ミドル陸部12のタイヤ赤道側の剛性を大きく低下させることなく、排水性能を向上させうる。
【0057】
第2ミドルサイプ17は、内端17iから外端17oに向かってタイヤ周方向に対する角度θ3が漸増する円弧状であるのが望ましく、本実施形態では第1ミドルサイプ15に沿ってのびている。このような第2ミドルサイプ17により、ミドル陸部のタイヤ軸方向の剛性が、タイヤ軸方向の外側程大きく確保され、操縦安定性が向上しうる。角度θ3は、ミドル陸部12の剛性及び排水能力の観点から、45〜70°が望ましい。
【0058】
第2ミドルサイプ17の曲率半径R3は、小さくなると、排水性能が低下するおそれがあり、大きくなると、エッジ効果が低下するおそれがある。このような観点から、曲率半径R3は、好ましくは30mm以上、より好ましくは50mm以上であり、好ましくは90mm以下、より好ましくは70mm以下である。
【0059】
ミドル陸部12には、タイヤ周方向で隣り合うミドル横溝16、16で区分されるミドルブロック状部がタイヤ周方向に隔設して複数個設けられる。少なくとも1つのミドルブロック状部には、第1ミドルサイプ15及び第2ミドルサイプ17のうち少なくとも1本が設けられるのが望ましく、より好ましくはミドルサイプ及びミドル補助サイプが少なくとも1本ずつ設けられるのが望ましい。複数個のミドルブロック状部のうち、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上のミドルブロック状部に、第1ミドルサイプ15及び第2ミドルサイプ17が少なくとも1本ずつ設けられるのが望ましい。
【0060】
第1ミドルサイプ15、ミドル横溝16、第2ミドルサイプ17は、本実施形態のように、同一方向に傾斜しかつ同一方向に凸となる円弧状であるのが望ましい。これにより、ミドル陸部12の剛性が均一化され、操縦安定性が向上しうる他、偏摩耗が抑制される。なお、ミドル陸部12における第1ミドルサイプ15又は第2ミドルサイプ17が省略されていてもよい。
【0061】
図5には、ショルダー陸部13の拡大展開図が示される。図5に示されるように、ショルダー陸部13には、ショルダー横溝(ショルダー副溝)18がタイヤ周方向に隔設されている。タイヤ周方向で隣り合うショルダー横溝18、18間には、ショルダーサイプ19が設けられている。
【0062】
ショルダー陸部13の幅W5は、ミドル陸部12の幅W4よりも大きく形成されるのが望ましい。これにより、ミドル陸部12及びショルダー陸部13の接地圧が適正化され、偏摩耗が抑制される。ショルダー陸部13の幅W5は、小さくなると、操縦安定性や耐摩耗性が低下するおそれがあり、大きくなると、ウェット性能が低下するおそれがある。このような観点から、ショルダー陸部13の幅W5は、好ましくはトレッド半幅TWhの44%以上、より好ましくは46%以上であり、好ましくは52%以下、より好ましくは50%以下である。
【0063】
ショルダー横溝18は、少なくともトレッド接地端Teからタイヤ軸方向内側にのびるのが望ましく、より好ましくはショルダー陸部13のタイヤ軸方向外側の端縁13oからのびている。これにより、ショルダー陸部13のタイヤ軸方向の内側に比較して、外側の剛性が相対的に小さくなり、ワンダリング性能が向上しうる。
【0064】
ショルダー横溝18は、ショルダー周方向溝10に連通することなく終端する。すなわち、ショルダー横溝18は、ショルダー陸部13をタイヤ軸方向に貫通しない内端18iを有するのが望ましい。これにより、ショルダー陸部13のタイヤ軸方向内側の剛性が確保され、特に旋回時の操縦安定性が向上しうる。同様の観点から、ショルダー横溝18の溝幅は、例えば、2.0〜5.0mm、溝深さは、例えば、4.0〜7.0mmが望ましい。
【0065】
ショルダー横溝18は、隣り合うミドル陸部12のミドル横溝16と同方向に凸である円弧状であるのが望ましい。これにより、ミドル陸部12及びショルダー陸部13の剛性が均一化され、偏摩耗が抑制される。
【0066】
ショルダー横溝18の内端18iと、ショルダー陸部13のタイヤ軸方向内側の端縁13iとの間には、両者に連通するショルダー補助サイプ20が設けられるのが望ましい。これにより、ショルダー陸部13の剛性が確保されつつ、ショルダー周方向溝10の排水性が高められ、操縦安定性及び耐摩耗性が犠牲にされることなくウェット性能が向上しうる。
【0067】
ショルダーサイプ19は、タイヤ軸方向の内端19iがショルダー周方向溝10に連通するのが望ましい。これにより、ショルダー周方向溝10の排水性がさらに高められる。ショルダーサイプ19のタイヤ軸方向の外端19oは、少なくともトレッド接地端Teに位置するのが望ましく、より好ましくはショルダー陸部13のタイヤ軸方向の外側の端縁13oに連通する。これにより、ウェット走行時にショルダー陸部13と路面との間に発生する水が、効率的にタイヤ軸方向外側に排出され、ウェット性能が向上しうる。
【0068】
ショルダー陸部13には、タイヤ周方向で隣り合うショルダー横溝18、18の間で区分されたショルダーブロック状部が複数個設けられる。少なくとも1つのショルダーブロック状部には、ショルダーサイプが少なくとも1本設けられるのが望ましく、より好ましくは少なくとも2本設けられる。好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上のショルダーブロック状部に、ショルダーサイプ19が少なくとも2本ずつ設けられるのが望ましい。これにより、サイプによる吸水効果と、サイプの端縁によるエッジ効果が相俟って、より一層ウェット性能が向上しうる。
【0069】
ショルダーサイプ19は、好ましくは円弧状にのびるのが望ましく、より好ましくは第1ミドルサイプ15と同じ方向に凸となる円弧状であるのが望ましい。これにより、ショルダーサイプ19及び第1ミドルサイプ15が協働して、タイヤ軸方向に摩擦力が生じるエッジ効果を発揮し、ウェット走行時の旋回性が向上しうる。ショルダーサイプ19の湾曲度合いを示す曲率半径R4は、第1ミドルサイプ15の曲率半径R1よりも小さく形成されることが望ましい。これにより、ショルダー陸部13のエッジ効果がより一層発揮される。
【0070】
ショルダーサイプ19の曲率半径R4は、小さくなると、ウェット性能が低下するおそれがあり、大きくなると、操縦安定性が低下するおそれがある。このような観点から、曲率半径R4は、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上であり、好ましくは70mm以下、より好ましくは60mm以下である。
【0071】
タイヤ周方向に隣り合うショルダー横溝18、18間には、外端がショルダー陸部13のタイヤ軸方向外側の端縁13oに連通し、かつ長さがショルダー横溝18より短いショルダー副溝21が設けられるのが望ましい。これにより、ショルダー陸部13の剛性が均一化され、より一層ワンダリング性能が向上しうる。
【0072】
図6は、図2と同等の空気入りタイヤ1のトレッド部2の展開図である。本実施形態の空気入りタイヤ1は、ウェット性能や操縦安定性を犠牲にすることなく、耐摩耗性を向上させるために、トレッド2における第1ミドルサイプ15、第2ミドルサイプ17、ショルダーサイプ19及びショルダー補助サイプ20のエッジ長さとミドル横溝16、ショルダー横溝18及びショルダー副溝21のエッジ長さとの関係が、以下に示されるように規定されている。
【0073】
すなわち、本発明では、ミドル陸部12におけるミドルサイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Emsとミドルサイプ及びミドル横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Emaとの比Ems/Emaが、ショルダー陸部13におけるショルダーサイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Essとショルダーサイプ及びショルダー横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Esaとの比Ess/Esaよりも小さくなるように、各サイプ及び横溝の諸元が規定される。
【0074】
図6に示されるように、第1ミドルサイプ15のエッジ長さのタイヤ軸方向成分をL10、第2ミドルサイプ17のエッジ長さのタイヤ軸方向成分をL11とすると、ミドルサイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Emsは、Ems=ΣL10+ΣL11と表される。ここで、「Σ」は、タイヤ全周に亘って、各エッジ長さのタイヤ軸方向成分を足し合わせたものとする(以下においても同様とする)。サイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分を足し合わせる際には、サイプを挟んで対向する2つのエッジについて、タイヤ軸方向成分を計算するものとする。
【0075】
ミドル横溝16のエッジ長さのタイヤ軸方向成分をL15とすると、ミドル横溝16のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Emgは、Emg=ΣL5と表される。横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分を足し合わせる際には、横溝を挟んで対向する2つのエッジについて、タイヤ軸方向成分を計算するものとする。
【0076】
従って、ミドル陸部12におけるミドルサイプ及びミドル横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分(全エッジ長さのタイヤ軸方向成分)の合計Emaは、Ema=Ems+Emgと表される。なお、クラウン周方向溝9及びショルダー周方向溝10がジグザク状に蛇行している場合は、それらのエッジ長さのタイヤ軸方向成分を適宜加算してもよい。
【0077】
同様に、ショルダーサイプ19のエッジ長さのタイヤ軸方向成分をL20、ショルダー補助サイプ20のエッジ長さのタイヤ軸方向成分をL21とすると、ショルダーサイプのエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Essは、Ess=ΣL20+ΣL21と表される。
【0078】
ショルダー横溝18のエッジ長さのタイヤ軸方向成分をL25、ショルダー副溝21のエッジ長さのタイヤ軸方向成分をL26とすると、ショルダー横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Esgは、Esg=ΣL25+ΣL26と表される。
【0079】
従って、ショルダー陸部13におけるショルダーサイプ及びショルダー横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分(全エッジ長さのタイヤ軸方向成分)の合計Esaは、Esa=Ess+Esgと表される。なお、接地端Teのタイヤ軸方向外側に配設されるショルダー副溝21は、通常接地しないので、ショルダー横溝のエッジ長さのタイヤ軸方向成分の合計Esgの計算にあたっては、ショルダー副溝21のエッジ長さのタイヤ軸方向成分L26を考慮しない。ショルダー副溝21が接地端Teのタイヤ軸方向内側にのびる場合は、適宜ショルダー副溝21のエッジ長さのタイヤ軸方向成分L26を考慮してもよい。
【0080】
以上のような構成を有する本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、ミドル陸部12における全エッジ長さのタイヤ軸方向成分Emaに対するサイプエッジ長さのタイヤ軸方向成分Emsの比Ems/Emaが、ショルダー陸部における全エッジ長さのタイヤ軸方向成分Esaに対するサイプエッジ長さのタイヤ軸方向成分Essの比Ess/Esaよりも小さく設定されているので、ミドル陸部12からショルダー陸部13にかけて、全エッジに対するサイプエッジの比率を増加させることができる。これにより、ショルダー陸部13における接地面積が増加し、ウェット性能及び操縦安定性を高めつつ、ショルダー陸部13の摩耗を抑制し耐摩耗性を向上しうる。
【0081】
ブレーキング時においては、トレッド部2に生ずる前後力により第1ミドルサイプ15、第2ミドルサイプ17、ショルダーサイプ19及びショルダー補助サイプ20が閉じることにより、各サイプによって区分された隣り合うブロック状部同士が当接して互いに支え合い、ブロック状部の剛性が高められる。この作用は、全エッジに対するサイプエッジの比率が大きいショルダー陸部13において、より顕著に得られるので、接地圧の低いショルダー領域においても十分な接地面積を確保して、ウェット性能及び操縦安定性を高めつつ、耐摩耗性を向上しうる。
【0082】
クラウン横溝14、ミドル横溝16、ショルダー横溝18及びショルダー副溝21は、それぞれクラウン陸部11、ミドル陸部12及びショルダー陸部13をタイヤ軸方向に貫通することなく形成されているので、各陸部の剛性を維持することができ、上述した隣り合うブロック状部同士が互いに支え合ってブロック状部の剛性が高められる作用と相俟って、各陸部の剛性を高めて、耐摩耗性を向上しうる。
【0083】
上記効果によってウェット性能や操縦安定性が向上するため、十分なウェット性能や操縦安定性を確保しつつ、トレッドゴムの配合におけるブタジエンゴムの成分量を増加させ、さらなる耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0084】
本実施形態の空気入りタイヤ1においては、ウェット性能及び操縦安定性と耐摩耗性とをより高いレベルで両立させるために、トレッド2におけるサイプエッジ長さの合計Esと全エッジ長さの合計Eaとの関係が最適化されている。サイプエッジ長さの合計Esを算出する際には、サイプを挟んで対向する2つのエッジについて計算するものとする。周方向溝及び横溝のエッジ長さの計算においても、同様である。
【0085】
すなわち、第1ミドルサイプ15、第2ミドルサイプ17、ショルダーサイプ19及びショルダー補助サイプ20の各エッジ長さの合計(サイプエッジ長さの合計Es)は、クラウン周方向溝9、ショルダー周方向溝10、クラウン横溝14、ミドル横溝16、ショルダー横溝18、第1ミドルサイプ15、第2ミドルサイプ17、ショルダーサイプ19及びショルダー補助サイプ20の各エッジ長さの合計(全エッジ長さの合計Ea)の40〜70%に規定されている。
【0086】
サイプエッジ長さの合計Esが全エッジ長さの合計Eaの40%未満の場合、接地面積が減少するとともに、サイプの端縁によるエッジ効果が十分に得られなくなるおそれがある。一方、サイプエッジ長さの合計Esが全エッジ長さの合計Eaの70%を超える場合と、クラウン周方向溝9、ショルダー周方向溝10、クラウン横溝14、ミドル横溝16及びショルダー横溝18による排水性能が低下するおそれがある。本実施形態では、トレッド2におけるサイプエッジ長さの合計Esと、全エッジ長さの合計Eaとの関係が最適化されているので、ウェット性能及び操縦安定性と耐摩耗性とをより高いレベルで両立しうる。
【0087】
既に述べたように、全エッジ長さの合計Eaに対するサイプエッジ長さの合計Esを相対的に増加させる手法は、ウェット性能及び操縦安定性と耐摩耗性との両立を図るうえで有効な方策である。しかしながら、その反面、各ブロック状部の剛性は低下する傾向にあり、操縦安定性や耐摩耗性に影響を及すおそれがある。そこで、実施形態では、全エッジ長さの合計Eaに対するサイプエッジ長さEsの合計の比率Es/Eaに応じて、ブロック状部の繰り返し数であるパターンピッチ数が調整される。これにより、ブロック状部の剛性が最適化される。
【0088】
すなわち、全エッジ長さの合計Eaに対するサイプエッジ長さの合計Esの比率が上述した範囲内にある空気入りタイヤ1において、1本のミドル陸部12に設けられているミドル横溝16の本数は、好ましくは56〜72とされ、1本のショルダー陸部13に設けられているショルダー横溝18の本数は、好ましくは56〜72とされる。ミドル横溝16及びショルダー横溝18の本数が56未満の場合、ミドル横溝16及びショルダー横溝18による排水効果が低下するおそれがある。一方、ミドル横溝16及びショルダー横溝18の本数が72を超える場合、ミドル横溝16、16及びショルダー横溝18、18によって区分される各ブロック状部の剛性が低下するおそれがある。本実施形態にあっては、全エッジ長さの合計Eaに対するサイプエッジ長さの合計Esの比率Es/Eaとパターンピッチ数との関係が適切なので、ブロック状部の剛性が最適化され、優れた操縦安定性と耐摩耗性を得ることができる。
【0089】
本発明にあっては、ミドル陸部12からショルダー陸部13にかけて、全エッジに対するサイプエッジの比率が増加されているので、ショルダー陸部13における各ブロック状部の剛性が低下する傾向にある。このような剛性低下を防止するために、1本のショルダー陸部13に設けられているショルダー横溝18の本数は、1本のミドル陸部12に設けられているミドル横溝16の本数よりも少ないのが望ましい。すなわち、ショルダー陸部13のパターンピッチ数は、ミドル陸部12のパターンピッチ数よりも大きい。このように、ミドル陸部12とショルダー陸部13における全エッジに対するサイプエッジの比率に応じて、パターンピッチ数を調整することにより、ショルダー陸部13におけるブロック状部の剛性低下が確実に抑制され、優れた操縦安定性と耐摩耗性を得ることができる。
【0090】
以上、本発明の空気入りタイヤが詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【実施例】
【0091】
図1の基本構造をなすサイズ195/60R14の空気入りタイヤが、表1乃至3の仕様に基づき試作され、耐摩耗性能、操縦安定性能及びウェットブレーキ性能がテストされた。表2の各試供タイヤにおいて、Ems/Ema及びEss/Esaは、表1の実施例1の仕様と同じである。表3の各試供タイヤにおいて、全エッジ長さの合計に対するサイプエッジ長さの合計の比率は、表2の実施例1の仕様と同じである。表1乃至3を通して、実施例1は、共通仕様のタイヤである。テスト方法は、以下の通りである。
【0092】
<耐摩耗性能>
リム14×7Jに装着された試供タイヤが、内圧230kPaの条件にて、排気量1300ccの乗用車の全輪に装着され、5000km走行後のクラウン周方向溝の溝深さが測定された。結果は、比較例1を100とする指数であり、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
【0093】
<操縦安定性能>
上記車両にて、ドライアスファルト路面のテストコースをドライバー1名乗車で走行し、旋回時のハンドル応答性、剛性感及びグリップ等に関する特性が、ドライバーの官能により評価された。結果は、比較例1を100とする指数であり、数値が大きい程、操縦安定性能が優れていることを示す。
【0094】
<ウェットブレーキ性能>
車両にて、水膜1.4〜1.6mmのウェットアスファルト路面に60km/hで進入し、完全制動するまでの制動距離が測定された。結果は、比較例1を100とする指数であり、数値が大きい程、ウェットブレーキ性能が優れていることを示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
表1乃至3から明らかなように、実施例の空気入りタイヤは、比較例に比べて、耐摩耗性能を犠牲にすることなく、操縦安定性能及びウェット性能が有意に向上していることが確認できた。これにより、例えば、トレッドゴムにおけるブタジエンゴムの成分量を増加させた場合、タイヤの耐摩耗性能は、飛躍的に向上しうる。
【符号の説明】
【0099】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
9 クラウン周方向溝
10 ショルダー周方向溝
11 クラウン陸部
12 ミドル陸部
13 ショルダー陸部
14 クラウン横溝
15 第1ミドルサイプ
16 ミドル横溝
17 第2ミドルサイプ
18 ショルダー横溝
19 ショルダーサイプ
20 ショルダー補助サイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6