(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0012】
本発明の光学積層体の製造方法は、樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸および染色して、該樹脂基材上に偏光膜を作製する工程と、上記積層体をヨウ化物を含む洗浄液に浸漬させて洗浄する工程と、上記積層体の樹脂基材側表面における洗浄液の付着量が0.005g/m
2以下となるように洗浄液を除去した上で、上記積層体を乾燥する工程と、を含む。以下、各々の工程について説明する。
【0013】
A.偏光膜の作製工程
A−1.積層体
図1は、本発明の好ましい実施形態による積層体の部分断面図である。積層体10は、樹脂基材11とポリビニルアルコール系樹脂層12とを有する。積層体10は、長尺状の樹脂基材11にポリビニルアルコール系樹脂層12を形成することにより作製される。ポリビニルアルコール系樹脂層12の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、樹脂基材11上に、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」という)を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層12を形成する。
【0014】
上記樹脂基材の形成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
【0015】
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0016】
後述する延伸において水中延伸方式を採用する場合、上記樹脂基材は水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することが可能となり、空中延伸時よりも延伸性に優れ得る。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。1つの実施形態においては、樹脂基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。一方、樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような樹脂基材を用いることにより、製造時に寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、樹脂基材の吸水率は、例えば、形成材料に変性基を導入することにより調整することができる。吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0017】
樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、120℃以下であることがより好ましい。1つの実施形態においては、樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような樹脂基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。別の実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、樹脂基材が変形しなければ、60℃より低いガラス転移温度であってもよい。なお、樹脂基材のガラス転移温度は、例えば、形成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0018】
樹脂基材の延伸前の厚みは、好ましくは20μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、水中延伸において、樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0019】
上記PVA系樹脂層を形成するPVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0020】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜5000、さらに好ましくは1500〜4500である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0021】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0022】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。また、添加剤としては、例えば、易接着成分が挙げられる。易接着成分を用いることにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させ得る。その結果、例えば、基材からPVA系樹脂層が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色、水中延伸を良好に行うことができる。
【0023】
上記易接着成分としては、例えば、アセトアセチル変性PVAなどの変性PVAが用いられる。アセトアセチル変性PVAとしては、下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有する重合体が好ましく用いられる。
【0025】
上記式(I)において、l+m+nに対するnの割合(変性度)は、好ましくは1%〜10%である。
【0026】
アセトアセチル変性PVAのケン化度は、好ましくは97モル%以上である。また、アセトアセチル変性PVAの4重量%水溶液のpHは、好ましくは3.5〜5.5である。
【0027】
変性PVAは、上記塗布液に含まれるPVA系樹脂全体の重量の3重量%以上となるように添加されることが好ましく、さらに好ましくは5重量%以上である。一方、当該変性PVAの添加量は、30重量%以下であることが好ましい。
【0028】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0029】
上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0030】
PVA系樹脂層の延伸前の厚みは、好ましくは3μm〜40μm、さらに好ましくは5μm〜20μmである。
【0031】
PVA系樹脂層を形成する前に、樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。これらの中でも、易接着層を形成(コーティング処理)することが好ましい。易接着層を形成する材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが用いられ、ポリビニルアルコール系樹脂が特に好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂およびその変性物が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の変性物としては、上記アセトアセチル変性PVAが挙げられる。なお、易接着層の厚みは、0.05〜1μm程度とするのが好ましい。このような処理を行うことにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。その結果、例えば、基材からPVA系樹脂層が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色、水中延伸を良好に行うことができる。
【0032】
積層体の樹脂基材側表面の水接触角は、通常60°〜80°、例えば65°〜75°である。水接触角は、液滴法で測定される。
【0033】
A−2.積層体の延伸
積層体の延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸である。
【0034】
積層体の延伸方向は、適宜、設定され得る。1つの実施形態においては、長尺状の積層体の長手方向に延伸する。この場合、代表的には、周速の異なるロール間に積層体を通して延伸する方法が採用される。別の実施形態においては、長尺状の積層体の幅方向に延伸する。この場合、代表的には、テンター延伸機を用いて延伸する方法が採用される。
【0035】
延伸方式は、特に限定されず、空中延伸方式でもよいし、水中延伸方式でもよい。好ましくは、水中延伸方式である。水中延伸方式によれば、上記樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
【0036】
積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、例えば、上記自由端延伸と固定端延伸とを組み合わせてもよいし、上記水中延伸方式と空中延伸方式とを組み合わせてもよい。また、多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
【0037】
積層体の延伸温度は、樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定され得る。空中延伸方式を採用する場合、延伸温度は、好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、積層体の延伸温度は、好ましくは170℃以下である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0038】
水中延伸方式を採用する場合、延伸浴の液温は、好ましくは40℃〜85℃、より好ましくは50℃〜85℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。延伸浴への積層体の浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分である。
【0039】
水中延伸方式を採用する場合、積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することが好ましい(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
【0040】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜10重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を作製することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0041】
後述の染色により、予め、PVA系樹脂層に二色性物質(代表的には、ヨウ素)が吸着されている場合、好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜15重量部、より好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
【0042】
積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上である。このような高い延伸倍率は、例えば、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。なお、本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
【0043】
好ましい実施形態においては、上記積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸した後、上記ホウ酸水中延伸および後述の染色を行う。このような空中延伸は、ホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な延伸として位置付けることができるため、以下「空中補助延伸」という。
【0044】
空中補助延伸を組み合わせることで、積層体をより高倍率に延伸することができる場合がある。その結果、より優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。例えば、上記樹脂基材としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた場合、ホウ酸水中延伸のみで延伸するよりも、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とを組み合せる方が、樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することができる。当該樹脂基材は、その配向性が向上するにつれて延伸張力が大きくなり、安定的な延伸が困難となったり、破断したりする。そのため、樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することで、積層体をより高倍率に延伸することができる。
【0045】
また、空中補助延伸を組み合わせることで、PVA系樹脂の配向性を向上させ、そのことにより、ホウ酸水中延伸後においてもPVA系樹脂の配向性を向上させ得る。具体的には、予め、空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水中延伸の際にPVA系樹脂がホウ酸と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となった状態で延伸されることで、ホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなるものと推定される。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。
【0046】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは3.5倍以下である。空中補助延伸の延伸温度は、PVA系樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。延伸温度は、好ましくは95℃〜150℃である。なお、空中補助延伸と上記ホウ酸水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。
【0047】
A−3.染色
上記積層体の染色は、代表的には、PVA系樹脂層に二色性物質(好ましくは、ヨウ素)を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
【0048】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部〜20重量部、より好ましくは0.1重量部〜10重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃〜50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒〜5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%〜44%となるように、浸漬時間を設定する。
【0049】
染色処理は、任意の適切なタイミングで行い得る。上記水中延伸を行う場合、好ましくは、水中延伸の前に行う。
【0050】
A−4.その他の処理
上記積層体は、延伸、染色以外に、そのPVA系樹脂層を偏光膜とするための処理が、適宜施され得る。偏光膜とするための処理としては、例えば、不溶化処理、架橋処理等が挙げられる。なお、これらの処理の回数、順序等は、特に限定されない。
【0051】
上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。好ましくは、不溶化処理は、上記水中延伸や上記染色処理の前に行う。
【0052】
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜60℃である。好ましくは、架橋処理は上記水中延伸の前に行う。好ましい実施形態においては、染色処理、架橋処理および水中延伸をこの順で行う。
【0053】
A−5.偏光膜
上記偏光膜は、実質的には、二色性物質が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは、代表的には25μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7μm以下、特に好ましくは5μm以下である。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上、特に好ましくは43.0%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0054】
B.洗浄工程
洗浄工程においては、上記偏光膜の作製工程で得られた樹脂基材上に偏光膜が積層された積層体をヨウ化物を含む洗浄液に浸漬させて洗浄する。ヨウ化物の具体例は上述のとおりであり、好ましくはヨウ化カリウムである。1つの実施形態において、洗浄液は、ヨウ化カリウム水溶液である。洗浄液中のヨウ化物濃度は、好ましくは0.5重量%〜10重量%、好ましくは0.5重量%〜5重量%、より好ましくは1重量%〜4重量%である。洗浄液の温度は、通常、10℃〜50℃、好ましくは20℃〜35℃である。浸漬時間は、通常、1秒〜1分、好ましくは10秒〜1分である。洗浄が不十分であると得られる偏光膜からホウ酸が析出する場合がある。
【0055】
C.乾燥工程
乾燥工程においては、上記洗浄工程で洗浄された積層体の樹脂基材側表面における洗浄液の付着量が0.005g/m
2以下、好ましくは0.003g/m
2以下、より好ましくは0.002g/m
2以下となるように洗浄液を除去した上で、当該積層体を乾燥する。樹脂基材側表面に0.005g/m
2を超える量で洗浄液が付着している積層体を乾燥処理に供すると、視認可能な大きさの凹凸欠点(例えば、径が150μm以上の凹凸欠点)が生じる場合がある。
【0056】
なお、洗浄工程の終了後、乾燥処理に供されるまでの時間は、一般に、60秒以内であり、また、積層体の搬送は室温下で行なわれるので自然乾燥等による洗浄液の濃度変化を考慮する必要はないが、上記洗浄液の除去は、積層体が洗浄浴を通過後すぐ(例えば30秒以内、好ましくは15秒以内)に行われることが好ましい。
【0057】
上記洗浄液の除去は、任意の適切な方法で行われる。洗浄液の除去は、例えば、上記積層体の樹脂基材側表面の洗浄液を拭き取ること、または、該表面に気体を吹付けることによって行われ得る。
【0058】
洗浄液の拭き取りは、吸水ロール、液切りロール、ブレード等の任意の適切な拭き取り手段を用いて行われる。拭き取り手段は、単独で用いられてもよく、一種の拭き取り手段を複数用いてもよく、二種以上の拭き取り手段を組み合わせて用いてもよい。
図2および
図3はそれぞれ、拭き取りによって積層体の樹脂基材側表面の洗浄液を除去する乾燥工程の一例を説明する概略図である。
【0059】
吸水ロールが用いられる場合(
図2参照)、例えば、洗浄浴100に浸漬後の上記積層体10の搬送に応じて回転するように吸水ロール20を積層体10の樹脂基材11側表面に接触させる。吸水ロールは、代表的には、表面がスポンジ、不織布、織布等の多孔質材料で形成されている。スポンジとしては、ウレタンスポンジ、ゴムスポンジ、ポリオレフィンスポンジが挙げられる。ロール径は、例えば、80mm〜110mmである。なお、図中の110は搬送ロールである。
【0060】
液切りロールが用いられる場合(
図2および
図3参照)、例えば、上記積層体10を挟むように一対の液切りロール30を対向配置する。上記積層体10の搬送に応じて液切りロール30が回転しながら積層体10を表裏から挟圧し、これにより液切りが行われる。液切りロールは、代表的にはゴム製である。また、液切りロールは、クラウン形状を有していてもよい。クラウン形状を有することにより、積層体の幅方向に渡って均一に液切りを行うことができる。
【0061】
ブレード40を用いる場合(
図3参照)、代表的には、長手方向に搬送される上記積層体10の樹脂基材11側表面にブレード40をその先端が摺接するように配置する。このように配置することにより、積層体10の搬送に応じてその樹脂基材10側表面からブレード40によって水が拭き取られる。ブレードの形成材料としては、ゴム、樹脂、金属等が挙げられる。ブレードの上記積層体と摺接する部分は、傷の発生を回避する観点から、曲線形状に面取り加工されていてもよい。
【0062】
積層体の樹脂基材側表面への気体の吹付けは、市販のエアブロー装置を用いて行われ得る。
図4は、気体の吹付けによって積層体の樹脂基材側表面の洗浄液を除去する乾燥工程の一例を説明する概略図である。エアブロー装置50は、積層体10の樹脂基材11側表面に対するエアーの噴射角度が好ましくは25°〜65°となるように配置される。エアブローの条件は、樹脂基材の種類等に応じて適切に設定され得る。エアーの圧力は、例えば20〜25KPaである。エアーの風速は、例えば20〜60m/minである。なお、図示例のように、拭き取り手段(図示例では、吸水ロール20および液切りロール30)とエアブロー装置50とを組み合わせて用いてもよい。
【0063】
洗浄液の除去後の積層体の乾燥は、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥等の任意の適切な乾燥方法によって行われる。好ましくはオーブン等の加熱手段60を用いた加熱乾燥である。乾燥温度は、例えば30℃〜100℃、好ましくは40℃〜100℃である。乾燥時間は、乾燥温度に応じて適切に設定され得、例えば、10秒〜10分である。
【0064】
D.光学積層体
上記乾燥工程を経て得られる本発明の光学積層体は、樹脂基材とその片側に形成された偏光膜とを備える。本発明の光学積層体は、代表的には、巻取装置によってロール状に巻き取られて、保管または積層体の偏光膜側に光学機能フィルム(例えば、保護フィルム)を積層する工程等に供される。本発明の光学積層体は、上記のとおり、樹脂基材側表面における洗浄液の付着が低減された状態で乾燥されるので、樹脂基材側表面におけるヨウ化物の析出が抑制され得る。その結果、得られた光学積層体をロール状に巻き取った場合でも、析出物に起因する偏光膜の変形(結果として、凹凸欠点につながる)が抑制され得る。
【0065】
光学機能フィルムが積層された光学機能フィルム積層体([樹脂基材/偏光膜/光学機能フィルム]の構成を有する)は、そのまま偏光板として用いられ得る。あるいは、当該光学機能フィルム積層体から樹脂基材を剥離して、該剥離面に別の光学機能フィルム(例えば、保護フィルム)を積層して[光学機能フィルム/偏光膜/光学機能フィルム]の構成を有する偏光板を得ることもできる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
1.厚み
デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC−351C」)を用いて測定した。
2.ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて測定した。
3.水接触角
協和界面科学株式会社製 自動接触角計 DM500を使って測定し、FAMAS(接触角測定アドインソフトウェア)を使って解析した。
4.凹凸欠点の評価
SHARP製32インチテレビ(型番:LC32−SC1)およびPanasonic製32インチテレビ(型番:THL32C3)のバックライト側および視認側の偏光膜を剥離し、該偏光膜の代わりに実施例または比較例で得られた光学積層体を粘着剤を用いてバックライト側および視認側に貼り合せた。暗室内で液晶表示装置を点灯させ黒表示状態にし、視認領域における長径が150μm以上の輝点数をカウントした。
5.積層体の樹脂基材側表面の水分量の測定
一定時間、積層体の樹脂基材側表面に吸水ロールを接触させ、水分を吸収させた後、重量を測定し、重量の変化量から単位面積あたりの水分量を測定した。
【0067】
[実施例1]
樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.60%、Tg80℃、弾性率2.5GPaの非晶質ポリエチレンテレフタレート(A−PET)フィルム(三菱化学社製、商品名「ノバクリア」、厚み:100μm)を用いた。
樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:55W・min/m
2)を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)90重量部およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)10重量部を含む水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み10μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。得られた積層体の樹脂基材側表面の水接触角は、60°であった。
【0068】
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行った(水中延伸)。ここで、積層体が破断する直前まで延伸した(最大延伸倍率は6.0倍)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
【0069】
次いで、
図2に示すようにして積層体の樹脂基材側表面の洗浄液を除去した。具体的には、一対のゴム製の液切りロールを用いて洗浄浴から搬送されてきた積層体の液切りを行い、次いで、3本の吸水ロール(ウレタンスポンジ材料で形成されたφ80mmのロール)を積層体の樹脂基材側表面に接するように配置し、積層体の搬送に応じてロールを回転させることにより、洗浄液を拭き取った。
【0070】
その後、60℃に維持したオーブン内に積層体を搬送し、5分間加熱して、厚み5μmの偏光膜を有する光学積層体を作製した。次いで、得られた光学積層体を巻き取り装置でロール状に巻き取った。なお、洗浄液の除去直後(3本目の給水ロールを通過直後)の積層体の樹脂基材側表面における水分量(洗浄液の付着量)は、0.0016g/m
2であった。
【0071】
[実施例2]
吸水ロールの代わりにエアブロー装置を用いて積層体の樹脂基材側表面の洗浄液を除去したこと以外は実施例1と同様にして、光学積層体を作製し、巻き取り装置でロール状に巻き取った。洗浄液の除去は、具体的には、以下のようにして行った。すなわち、一対のゴム製の液切りロールを用いて洗浄浴から搬送されてきた積層体の液切りを行い、次いで、エアブロー装置(日立産機システム社製、製品番号「VB−060−E2」)をエアーの噴射角度が積層体の樹脂基材側表面に対して約45°であり、噴射口と該表面との距離が約2cmとなるように配置して、エアーを噴射した。エアーの圧力は、23kPaであった。また、エアーの風速は、30m/minであった。なお、洗浄液の除去直後(エアー噴射直後)の積層体の樹脂基材側表面の水分量(洗浄液の付着量)は、0.0045g/m
2であった。
【0072】
[比較例1]
液切りロールを用いて液切りを行った後、さらなる洗浄液の除去を行うことなく積層体をオーブン内に搬送したこと以外は実施例1と同様にして光学積層体を作製し、巻き取り装置でロール状に巻き取った。オーブンに搬送される直前の積層体の樹脂基材側表面の水分量(洗浄液の付着量)は、0.0064g/m
2であった。
【0073】
各実施例および比較例における凹凸欠点の評価を表1に示す。なお、パネル視認領域における品質は以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
良:暗室内で液晶表示装置を点灯させて黒表示状態にした際に、視認領域において長径が150μm以上の輝点がない。
不良:暗室内で液晶表示装置を点灯させて黒表示状態にした際に、視認領域において長径が150μm以上の輝点がある。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示されるとおり、積層体の樹脂基材側表面における洗浄液の付着量を所定の範囲まで低減した状態で積層体を乾燥することにより、凹凸欠点を減少させることができた。