(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分の紡糸後の融点よりも高い紡糸後の融点を有する熱可塑性樹脂からなる第2成分とを含む複合繊維を含み、前記複合繊維の第1成分によって構成繊維間の少なくとも一部が接着されている不織布からなるセパレータ材料であり、
前記複合繊維の少なくとも一部は、複合繊維の長さ方向に垂直な面で切断した横断面の断面形状(以下、単に断面形状とも称す)において、3個以上16個以下の凸部を有する異形断面複合繊維であり、
前記異形断面複合繊維は第1成分と第2成分とからなり、前記第2成分が、断面形状において3個以上16個以下の凸部を有し、かつ前記第1成分が、横断面において、前記第2成分の少なくとも一部を被覆している異形断面複合繊維であり、
前記異形断面複合繊維の少なくとも一部が、その繊維表面の少なくとも一部に、前記凸部と凸部との間に形成された、繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有する、セパレータ材料。
前記異形断面複合繊維の単繊維強度が2.5cN/dtex以上であり、かつ前記セパレータ材料の下記の方法により測定した突き刺し強力が12N以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のセパレータ材料。
(突き刺し強力)
縦30mm、横100mmの大きさに裁断した試料を準備し、試料をカトーテック(株)製「KES−G5 ハンディー圧縮試験機」の円筒状貫通孔(直径11mm)を有する支持体の上に置き、さらに試料の上に縦46mm、横86mm、厚さ7mmのアルミ板の中央部に直径11mmの孔を有する押さえ板を、当該孔が支持体の円筒状貫通孔と一致するように載置した後、高さ18.7mm、底面直径2.2mm、先端部形状が直径1mmの球形である円錐形状の針を、2mm/秒の速度で押さえ板の中央に垂直に突き刺したときの荷重と、前記円錐形状の針によって試料が押され、変形した長さを測定し、測定した荷重のうち、前記針が試料を貫通する直前の、荷重が最大となっている値をその試料の突き刺し強力とする。
前記セパレータ材料は、前記異形断面複合繊維を5〜95質量%含み、繊度が0.5dtex以下である極細繊維を5〜50質量%含む、請求項1〜7のいずれかに記載のセパレータ材料。
前記扁平化した複合繊維において、変形する前の形状が、複合繊維の長さ方向に垂直な面で切断した横断面の断面形状において、3個以上16個以下の凸部を有する異形断面複合繊維であり、
前記異形断面複合繊維が、第1成分と第2成分とからなり、異形断面複合繊維の横断面において、第1成分が繊維表面の全部を占める鞘部を構成しており、第2成分が芯部を構成している、芯鞘型複合繊維である、請求項10または11に記載のセパレータ材料。
熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分の紡糸後の融点よりも高い紡糸後の融点を有する熱可塑性樹脂からなる第2成分とを含む複合繊維であって、複合繊維の長さ方向に垂直な面で切断した横断面の断面形状において、3個以上16個以下の凸部を有し、その繊維表面の少なくとも一部に、前記凸部と凸部との間に形成された、繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有する異形断面複合繊維を含むスラリーを湿式抄紙して繊維ウェブを得ること、
前記繊維ウェブに熱処理を施し、少なくとも前記異形断面複合繊維の前記第1成分によって繊維ウェブを構成する繊維同士を熱接着させて、熱接着不織布を得ること、
熱カレンダーロールを用いて、前記熱接着不織布の厚さを調整すること
を含み、
前記異形断面複合繊維は第1成分と第2成分とからなり、前記第2成分が、断面形状において3個以上16個以下の凸部を有し、かつ前記第1成分が、横断面において、前記第2成分の少なくとも一部を被覆している異形断面複合繊維である、
セパレータ材料の製造方法。
熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分の紡糸後の融点よりも高い紡糸後の融点を有する熱可塑性樹脂からなる第2成分とを含み、第1成分が第2成分の外側に位置して第2成分の全体を被覆している熱接着性複合繊維であり、
前記複合繊維は、複合繊維の長さ方向に垂直な面で切断した横断面の断面形状(単に断面形状とも称す)において、3個以上16個以下の凸部を有する異形断面形状を有し、
前記第2成分が、断面形状において3個以上16個以下の凸部を有し、かつ前記第1成分が、横断面において、前記第2成分の少なくとも一部を被覆しており、かつ
その繊維表面の少なくとも一部に、前記凸部と凸部との間に形成された、繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有する、セパレータ材料用熱接着性複合繊維。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセパレータ材料は、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分の紡糸後の融点よりも高い紡糸後の融点を有する熱可塑性樹脂からなる第2成分とを含む複合繊維を含み、前記複合繊維の第1成分によって構成繊維間の少なくとも一部が熱接着されている不織布からなるセパレータ材料であり、
前記複合繊維の少なくとも一部は、複合繊維の長さ方向に垂直な面で切断した横断面の断面形状(以下、単に断面形状とも称す)において、3個以上16個以下の凸部を有する異形断面複合繊維であり、
前記異形断面複合繊維の少なくとも一部が、その繊維表面の少なくとも一部に、前記凸部との間に形成された、繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有する、
セパレータ材料である。このセパレータ材料は、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分の紡糸後の融点よりも高い紡糸後の融点を有する熱可塑性樹脂からなる第2成分とを含む複合繊維であって、断面形状が3個以上16個以下の凸部を有する異形断面形状であり、その繊維表面の少なくとも一部に、前記凸部と凸部との間に形成された、繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有する異形断面複合繊維を熱接着させることにより得られる。そこでまず、本発明の不織布を作製するために用いる異形断面複合繊維について説明する。
【0016】
[異形断面複合繊維]
異形断面複合繊維は、その全体の断面形状が異形であり、3個以上16個以下の凸部を有し、かつ繊維表面の少なくとも一部に凸部と凸部との間に形成された繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有する。したがって、全体の断面形状が円形であるものは、ここでいう異形断面複合繊維ではない。凸部は、繊維の横断面において、繊維の中心から突出している部分を指す。凸部が3個以上存在することにより、断面形状の輪郭は全体として、凹凸の繰り返しを有するものとなる。凸部の数が3個未満であると、繊維同士の接着面積が広くならず、セパレータ材料の機械的特性を十分に向上させることができない。また、凸部の数が16個を超える断面形状の複合繊維を得ることは難しい。また、凸部の数が多すぎると、繊維が不織布において扁平化しにくく、突き刺し強力の大きいセパレータ材料を得ることが難しくなる。凸部の数は好ましくは3個以上8個以下であり、より好ましくは3個以上6個以下であり、最も好ましくは3個または4個である。
【0017】
凸部を3以上有することにより、凸部と凸部との間には凹部が存在し、この凹部は溝のように、繊維表面において、繊維の長さ方向に沿って延びる。そのような凹部は異形断面複合繊維全体にわたって延びる必要はなく、少なくとも一部にあればよい。即ち、異形断面複合繊維は、一部において異形でなくてもよく、円形となっていてもよい。
【0018】
凹部は、例えば、湾曲した2つの凸部に挟まれて形成された「く」の字形状を有する。「く」の字形状の凹部は、繊維の横断面を観察したときに鋭角を形成しているものであることが好ましく、その底面が線状である急峻な谷状であることがより好ましい。鋭角を形成している凹部は、構成繊維間に微細な空隙を形成して、セパレータ材料の保液性を向上させる。繊維の横断面において凹部が形成している角度は、凹部の底において、凹部を形成する2つの凸部に接する線を引いたときの、それらの線が形成する角度である。鋭角を形成する凹部の数は、1つの異形断面複合繊維において、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。最も好ましくは、全ての凹部が鋭角を形成している。
【0019】
異形断面複合繊維は、その横断面において、第1成分が第2成分の外側に位置して第2成分の全体を被覆し、かつ第1成分の輪郭が第2成分の輪郭と略相似形であることが好ましい。即ち、第1成分が鞘成分であり、第2成分が芯成分である、芯鞘型複合繊維であることが好ましい。そのような異形断面複合繊維は、熱接着成分である第1成分が広い面積にわたって、繊維同士を熱接着させるため、セパレータ材料の機械的特性をより向上させる。
【0020】
異形断面複合繊維の断面形状の例を
図1〜
図4に示す。これらの図はいずれも第1成分と第2成分とからなる複合繊維の横断面を示している。
図1は、凸部を4つ有する4葉形の断面形状を有する。
図1の複合繊維は、第1成分が第2成分の全体を被覆するいわゆる芯鞘型複合繊維であり、第1成分の輪郭と第2成分の輪郭は略相似形となっている。
図2は、凸部を8つ有する8葉形の断面形状を有する。
図2の複合繊維は、第1成分が第2成分の全体を被覆するいわゆる芯鞘型複合繊維であり、第1成分の輪郭と第2成分の輪郭は略相似形となっている。
図3は、凸部を4つ有する4葉形の断面形状を有する。
図3の複合繊維は、第1成分が凸部の先端にのみ位置するものである。
図4の複合繊維は、凸部を4つ有する4葉形の断面形状(十字断面)を有する。
図4の複合繊維は、第2成分の断面が略円形であり、第2成分の外周を覆う第1成分が4つの凸部を構成しているものである。
【0021】
図示した断面形状は例示であり、異形断面複合繊維の断面形状は他の形状であってよい。例えば、
図4に示す複合繊維の変形例において、凸部は6つ又は8つ形成されていてもよく、凸部の数が3つであってもよい。あるいは、図示した複合繊維において、第3成分がさらに含まれていてよい。その場合、円形の繊維断面を有する第3成分が、第2成分の中心部に配置されていてよく、あるいは第2成分の輪郭と略相似形である輪郭を有する第3成分が第2成分の内部に配置されていてよい。
【0022】
あるいは、異形断面複合繊維は、その断面形状が全体として、3個以上16個以下の凸部を有する限りにおいて、第2成分が2個以上に分割した形態で存在してよい。例えば、
図1に示す異形断面複合繊維において、第1成分が繊維断面の輪郭を規定する途切れのない膜を形成し、その膜で囲まれた空間に第2成分が配置されている場合には、第2成分の凸部(葉部)の一部が分離した形態で、存在していてよい。その場合、第2成分の分離した凸部と他の第2成分との間に空隙が形成されることとなる。そのような空隙は、異形断面複合繊維が熱処理されたときに、異形断面複合繊維およびこれを含む繊維束の扁平化を促進する。
【0023】
異形断面複合繊維が、図示したように、第1成分と第2成分とからなる場合において、その横方向の断面において、凸部先端から繊維の中心に直線を引いたとき、繊維中心から凸部先端までの長さをL
1とし、第2成分の凸部先端から繊維の中心に直線を引いたときの、繊維中心から第2成分の凸部先端までの長さをL
2としたとき、L
2/L
1は0.25以上であることが好ましい。L
1は、凸部の見かけの長さに相当し、L
2は、第2成分(高融点成分)の凸部の長さに相当する。L
2/L
1が大きいほど、第2成分の突出長さが大きく、凸部の先端付近まで第2成分が存在している。そのため、熱接着などの熱加工を施しても凸部が大きく変形することがなく、また、凸部の形状が失われにくい。したがって、そのような繊維を用いると、繊維間を熱接着するために熱加工を行っても、凸部形状が維持されやすい、すなわち異形断面複合繊維の表面積が大きい状態が維持されるため、構成繊維間の熱接着が進みやすい。その結果、熱接着後の不織布、即ち、セパレータ材料の機械的特性がより向上する。L
2/L
1は0.5以上であることがより好ましく、0.75以上であることが特に好ましく、0.8以上であることが最も好ましい。L
2/L
1の上限は特に限定されないが、溶融紡糸時の生産性、繊維断面形状の明瞭性、また異形断面複合繊維の熱接着性を考慮すると0.98以下が好ましく、0.95以下がより好ましい。
【0024】
異形断面複合繊維の横方向の断面において、異形断面複合繊維の凸部先端と繊維の中心を結ぶ直線と、隣り合う凹部と凹部の接線との交点を求め、前記交点から凸部先端までの長さをL
3としたとき、L
3/L
1は0.25以上であることが好ましい。L
3は、異形断面複合繊維の凸部の真の長さに相当する。L
3/L
1が大きいほど、異形断面複合繊維の表面積が広くなるため、より広い面積で他の繊維と熱接着する。したがって、L
3/L
1が大きいほど、熱接着後の不織布、即ち、セパレータ材料の機械的特性がより向上しうるだけでなく、熱接着処理により複合繊維が扁平化しやすくなる。また、凸部が繊維ウェブ形成時、および熱処理時に加わるシェア(せん断力)および圧力等によって、変形(特に、不織布の面方向)するので、扁平化し易く、繊維同士の接着面積が大きくなる傾向にある。L
3/L
1は0.4以上であることがより好ましく、0.45以上であることが特に好ましく、0.5以上であると最も好ましい。L
3/L
1の上限は特に限定されないが、溶融紡糸時の生産性、繊維断面形状の明瞭性を考慮すると0.95以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下が特に好ましく、0.75以下が最も好ましい。
【0025】
異形断面複合繊維の横方向の断面において、凸部は、その幅方向の寸法(突出している方向と直交する方向)が一定でなく、凸部の先端から根元までの間に幅方向の寸法が最大となるような形状を有していることが好ましい。即ち、凸部はその先端と根元の両端で幅方向の寸法が小さくなるような形状(例えば、つぼみのような形状、マッシュルームのような形状)を有することが好ましい。凸部がそのような形状を有していると、凸部先端に近づくにつれて凸部の幅が細くなる形状のものよりも繊維の断面形状がより明瞭なものに維持されやすく、また、熱加工によって繊維を扁平化させても、隣り合う凸部同士がそれぞれの幅が最大になる部分同士で熱接着する。そのため、熱加工後も、凸部と凸部との間の凹部が消滅しにくくなり、熱加工後も保液性、通気性が保たれやすくなると考えられる。また、そのような形状の凸部を有する異形断面複合繊維は、凸部の根元から変形されて、扁平化しやすい。そのような形状の凸部を有する異形断面複合繊維の横方向の断面において、凸部の幅が最大になる部分から、異形断面複合繊維の中心部までの距離をL
4としたとき、L
4/L
1は好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.25以上であり、特に好ましくは0.3以上であり、最も好ましくは0.4以上である。L
4/L
1の上限は特に限定されないが、溶融紡糸時の生産性、繊維断面形状の明瞭性、及び、得られる熱接着不織布(特に電池セパレータ用の、繊維間が熱接着した湿式不織布)の保液性、通気性を考慮すると0.8以下が好ましく、0.75以下がより好ましく、0.7以下が特に好ましく、0.6以下が最も好ましい。
【0026】
L
1、L
2、L
3およびL
4の求め方を説明する模式図を
図15(a)に示し、繊維の中心の求め方を説明する模式図を
図15(b)に示す。
図15(a)は、
図1に示す異形断面複合繊維である。異形断面複合繊維の横断面において、
図15(a)に示すように、繊維の凸部の寸法および形状が略同じであり、かつ断面形状が上下左右において対称である場合に、それぞれの凸部において、凸部の根元を結ぶ線分の中点と、凸部の先端とを結ぶ直線を引くと、当該直線は一点で交わるので、その交点を繊維の中心とする。それ以外の場合には、
図15(b)に示すように、それぞれの凸部において、凸部の根元を結ぶ線分の中点と、凸部の先端とを結ぶ直線を引いたときに、当該直線によって形成される三角形のうち、最も面積の大きい三角形に内接する円の中心を、繊維の中心Cとする。
【0027】
異形断面複合繊維は、
図1〜
図4に示すように、低融点の熱可塑性樹脂からなる第1成分と、高融点の熱可塑性樹脂からなる第2成分とから構成してよく、2つの成分で構成することが溶融紡糸の点からも好ましい。そこで、以下の説明においては、第1成分と第2成分とからなる異形断面複合繊維を主に説明する。但し、本発明のセパレータ材料を構成する異形断面複合繊維は2成分から成るものに限定されず、3以上の成分で構成されてよい。異形断面複合繊維が3以上の成分からなる場合、以下の説明において、第1成分とあるのは、最も融点の低い熱可塑性樹脂からなる成分であって、熱処理により溶融または軟化して、熱接着成分として繊維同士を接合する成分を指し、第2成分とあるのは、熱接着成分以外の成分をまとめて指すものとする。
【0028】
異形断面複合繊維の機械的特性は熱処理に付された後も繊維形状を維持する第2成分に依存する。また、第1成分は異形断面複合繊維が熱処理に付されると、溶融または軟化して、構成繊維間を熱接着させる。第1成分の熱接着により、構成繊維間の空隙が部分的に埋められてセパレータ材料はより緻密なものになるため、第1成分は繊維間の熱接着に起因する機械的特性の向上に寄与している。したがって、異形断面複合繊維において、第2成分と第1成分の容積比(複合比もしくは
図1、
図2および
図4に示すような芯鞘型複合繊維の場合には芯鞘比とも称す)は特に限定されないものの、異形断面複合繊維そのものの機械的特性と、前記第1成分による構成繊維間の熱接着力が最も高められるように、選択することが好ましい。したがって、異形断面複合繊維の複合比(第2成分/第1成分)は、容積比で85/15〜30/70であることが好ましい。複合比が85/15〜30/70であることによって、異形断面複合繊維の機械的特性に起因するセパレータ材料の機械的強度と、構成繊維間の熱接着に起因するセパレータの機械的特性が両立され、突き刺し強力や引張強力の高いセパレータ材料が得られる。
【0029】
複合比が30/70よりも小さくて、第1成分が多いと、構成繊維間が強く熱接着されるものの、第2成分の占める割合が少なくなりすぎることによって、異形断面複合繊維そのものの単繊維強度が低下する。また、第1成分が多いと、セパレータ材料の空隙率が低下しすぎることに起因して保液性および通気度が低下するという不都合が生じることがあり、その結果、セパレータ材料を電池に組み込んだときの電池特性が低下することがある。一方、複合比が85/15よりも大きくて、第2成分が多くなりすぎると、異形断面複合繊維そのものの機械的特性は高くなるものの、セパレータ材料の構成繊維間が充分に熱接着されなくなる。そのため、繊維間が十分に熱接着されないことに起因して機械的特性が低下する、ならびに構成繊維間が充分に緻密にならないことに起因して空隙率が大きくなるという不都合が生じることがある。そのような不都合もまた、セパレータ材料を電池に組み込んだときの電池特性を低下させることがある。異形断面複合繊維の複合比(第2成分/第1成分)は、容積比で80/20〜40/60であることがより好ましく、75/25〜50/50が特に好ましく、73/27〜55/45が最も好ましい。
【0030】
前記異形断面複合繊維は、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分の紡糸後の融点よりも高い紡糸後の融点を有する熱可塑性樹脂からなる第2成分とを含む。第1成分は、低融点成分ということもでき、熱接着成分として機能する。第2成分は、高融点成分ともいうことができ、熱接着処理後の不織布において繊維形態を保持して、不織布の機械的特性を確保する。第2成分の紡糸後の融点は、第1成分の紡糸後の融点よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことが好ましく、25℃以上高いことがより好ましい。第1成分および第2成分の融点は、DSCにより得た融解熱量曲線から求めることができる。融解熱量曲線においては、二以上のピークが出現することがある。その場合には、最大のピークを示す温度を、融解ピーク温度、即ち融点とする。一般に、紡糸前の熱可塑性樹脂の融点の関係は、紡糸後の熱可塑性樹脂の融点の関係とほぼ同じである。即ち、第2成分の紡糸前の融点が、第1成分のそれよりも高い場合に、一般には、第2成分の紡糸後の融点は、第1成分のそれよりも高い。したがって、第1成分および第2成分を構成する熱可塑性樹脂は、紡糸前の融点を考慮して選択すればよい。
【0031】
前記異形断面複合繊維に使用する熱可塑性樹脂は、前記の通り、第2成分の紡糸後の融点が第1成分の紡糸後の融点よりも高いものである限りにおいて特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどのポリエステル系樹脂;低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなど、通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合される各種ポリエチレン系樹脂、通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合されるアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックなどの各種ポリプロピレン系樹脂、各種ポリメチルペンテン系樹脂、各種ポリブテン-1系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂などの各種ポリオレフィン系樹脂;ナイロン6,ナイロン66,ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチックである。異形断面複合繊維は、これらの樹脂から選択される1または2以上の樹脂を含む第1成分と、これらの樹脂から選択される1または2以上の樹脂を含む第2成分とからなる。
【0032】
セパレータ材料を、水酸化カリウム水溶液のような強アルカリ性の電解液を含浸させて電池に組み込む場合、異形断面複合繊維の第1成分および第2成分はそれぞれ、耐アルカリ性の高いポリオレフィン系樹脂から選択した樹脂で構成されることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂として、各種α−オレフィンの単独重合体や共重合体、三元共重合体(ターポリマーとも称す)を挙げることができる。具体的なポリオレフィン系樹脂の例として、ポリ(4−メチルペンテン−1)、および4−メチルペンテン−1と他のオレフィンとの共重合体等のポリメチルペンテン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂(チーグラ・ナッタ触媒で重合したポリプロピレン、およびメタロセン触媒で重合したポリプロピレンを含む)、ポリエチレン系樹脂(高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を含み、チーグラ・ナッタ触媒で重合したポリエチレンのほか、メタロセン触媒で重合したポリエチレンも含む)、ポリブテン−1、エチレン−プロピレン共重合樹脂、エチレン−プロピレン−ブテン共重合樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂が挙げられる。
【0033】
前述のとおり、第1成分および第2成分はともに、ポリオレフィン系樹脂(前記したもののほか、公知となっているポリオレフィン系樹脂を含む)を使用して構成することが好ましい。異形断面複合繊維の生産性や単繊維強度といった機械的特性を考慮すると、前記異形断面複合繊維を構成するポリオレフィン系樹脂の組み合わせとしては、第2成分/第1成分が、ポリプロピレン系樹脂/ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂/エチレン−プロピレン共重合樹脂、ポリプロピレン系樹脂/エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/ポリエチレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/エチレン−プロピレン共重合樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂/ポリエチレン系樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂/エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、で表されるポリオレフィン系樹脂である組み合わせが好ましく、ポリプロピレン系樹脂/ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂/エチレン−プロピレン共重合樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/ポリエチレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/ポリプロピレン系樹脂の組み合わせが特に好ましく、ポリプロピレン系樹脂/ポリエチレン系樹脂が最も好ましい。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンのホモポリマー、プロピレンと炭素数2〜20のα−オレフィンの1種または2種との共重合体、及びプロピレンのホモポリマーと他の熱可塑性樹脂との混合物などが挙げられる。共重合体および混合物の場合には、樹脂成分中にプロピレンを85モル%以上含んでいるものをポリプロピレン系樹脂と称す。前記ポリプロピレン系樹脂の物性は特に限定されない。ポリプロピレン系樹脂が溶融紡糸可能であれば、そのQ値(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)や融点、メルトフローレートは特に限定されない。
【0035】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレンのホモポリマー、エチレンと炭素数2〜20のα−オレフィンの1種または2種との共重合体、及びエチレンのホモポリマーと他の熱可塑性樹脂との混合物などが挙げられる。共重合体および混合物の場合、樹脂成分中にエチレンを85モル%以上含んでいるものをポリエチレン系樹脂と称す。前記ポリエチレン系樹脂の物性は特に限定されない。ポリエチレン系樹脂が溶融紡糸可能であれば、そのQ値(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)や融点、メルトフローレートは特に限定されない。
【0036】
エチレン−プロピレン共重合樹脂としては、エチレンとプロピレンとからなる共重合体、もしくはエチレンとプロピレンとからなる共重合体と他の熱可塑性樹脂との混合物などが挙げられる。混合物の場合、樹脂成分中にエチレンとプロピレンをあわせて50モル%以上、好ましくは85モル%以上含んでいるものをエチレン−プロピレン共重合樹脂と称す。前記エチレン-プロピレン共重合樹脂の物性は特に限定されない。エチレン−プロピレン共重合樹脂が溶融紡糸可能であれば、そのエチレン含有量、Q値、融点、およびメルトフローレートは特に限定されない。
【0037】
ポリメチルペンテン系樹脂としては、4−メチルペンテン−1のホモポリマー、4−メチルペンテン−1と炭素数2〜20のα−オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デカン−1、テトラデカン−1、オクタデカン−1等)の1種または2種との共重合体、および4−メチルペンテン−1のホモポリマーまたは4−メチルペンテン−1と他のオレフィンとの共重合体と他の熱可塑性樹脂との混合物などが挙げられる。共重合体または混合物の場合、樹脂成分中に4−メチルペンテン−1を85モル%以上含んでいるものをポリメチルペンテン系樹脂と称す。前記ポリメチルペンテン系樹脂の物性は特に限定されない。ポリメチルペンテン系樹脂が溶融紡糸可能であれば、その融点、メルトフローレート、および引張弾性率等は特に限定されない。前記異形断面複合繊維に使用できるポリメチルペンテン系樹脂は、例えば三井化学(株)製「TPX」(登録商標)である。
【0038】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂としては、エチレンとビニルアルコールとからなる共重合体、もしくはエチレンとビニルアルコールとからなる共重合体と他の熱可塑性樹脂との混合物などが挙げられる。混合物の場合、樹脂成分中にエチレンとビニルアルコールをあわせて50モル%以上、好ましくは85モル%以上含んでいるものをエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂と称す。前記エチレン-ビニルアルコール共重合体においては、エチレン含有量が20モル%以上70モル%以下であることが好ましい。より好ましいエチレン含有量は25モル%以上60モル%以下であり、特に好ましいエチレン含有量は35モル%以上50モル%以下である。エチレン含有量が30モル%未満であると、繊維製造時の延伸性に劣り、エチレン含有量が70モル%を超えると、繊維自体の親水性に劣る。上記エチレン含有量を満たすエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる、またはこれを含むエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂であれば、その他は特に限定されず、前記異形断面複合繊維に好ましく使用することができる。前記異形断面複合繊維に使用できるエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、例えば日本合成化学工業(株)製「ソアノール」(登録商標)である。
【0039】
前記異形断面複合繊維の単繊維強度は特に限定されない。単繊維強度が2.5cN/dtex以上であることが好ましい。単繊維強度が2.5cN/dtex以上であると、突き刺し強力や引張強力のより高いセパレータ材料が得られるためである。尤も、異形断面複合繊維の単繊維強度が2.5cN/dtex未満であっても、横方向の繊維断面が円形であって、単繊維強度が同程度の複合繊維を使用する場合と比較して、高い突き刺し強力や引張強力のセパレータ材料を得ることができる。前記異形断面複合繊維の単繊維強度はより好ましくは3.5cN/dtex以上7cN/dtex以下であり、特に好ましくは4.5cN/dtex以上6.5cN/dtex以下であり、最も好ましくは4.8cN/dtex以上6.2cN/dtex以下である。なお、単繊維強度とはJIS L 1015に準じ、引張試験機を用い、試料のつかみ間隔を20mmとして引張試験を行い、破断したときに測定される荷重値を、測定した繊維の繊度で除することにより求められる、1デシテックスあたりの強度である。
【0040】
前記異形断面複合繊維の繊度は特に限定されないが、繊度が0.1dtex以上4.4dtex以下であることが好ましい。異形断面複合繊維の繊度が前記範囲を満たすことで、地合いが均一なセパレータ材料が得られるためである。異形断面複合繊維の繊度は0.2dtex以上2.2dtex以下であることがより好ましく、0.4dtex以上1.2dtex以下であることが特に好ましく、0.5dtex以上1.0dtex以下であることが最も好ましい。
【0041】
前記異形断面複合繊維の繊維長は特に限定されない。湿式抄紙法を用いて不織布を製造する場合は繊維長が0.5mm以上25mm以下であることが好ましい。繊維長が0.5mm以上であると、繊維の脱落が発生することがなく、また、得られるセパレータ材料の表面の毛羽立ちが抑えられる。繊維長が25mm以下であると、湿式抄紙法によって不織布を製造する際、スラリー中における繊維の分散性が低下することがなく、均一な不織布が得られやすい。異形断面複合繊維の繊維長は1mm以上20mm以下であることがより好ましく、3mm以上10mm以下であることが特に好ましく、3mm以上6mm以下であることが最も好ましい。
【0042】
前記異形断面複合繊維は、以下の方法で製造することができる。まず複数成分の異なる熱可塑性樹脂、好ましくは2成分のポリオレフィン系樹脂を用意し、公知の溶融紡糸機で、異形断面を与える所定の複合ノズルを用いて溶融紡糸する。このとき異形断面複合繊維の繊維断面形状を考慮し、それぞれの樹脂の溶融粘度を、押出機のせん断力や紡糸温度などを調整することによって調整することが好ましい。溶融させた熱可塑性樹脂から紡糸フィラメント(未延伸糸)を得る。紡糸フィラメントの繊度は2dtex以上10dtex以下が好ましい。
【0043】
次いで、紡糸フィラメントは、必要に応じて延伸される。紡糸フィラメントは、延伸温度80℃以上160℃以下、延伸倍率1.5倍以上8倍以下の条件で延伸される。延伸方法は特に限定されない。高温の熱水などの高温の液体で加熱しながら延伸を行う湿式延伸、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行う乾式延伸、100℃以上の水蒸気を常圧にて若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸などの公知の延伸処理を行うこともできる。得られた延伸フィラメントには、必要に応じて繊維処理剤が付与され、必要があれば捲縮付与処理が施される。その後、所定の繊維長に切断して異形断面複合繊維として用いられる。
【0044】
以上において、本発明のセパレータ材料の原料繊維となる異形断面複合繊維を説明した。本発明のセパレータ材料は、この異形断面複合繊維のみで構成してよく、あるいはこの異形断面複合繊維と他の繊維と混合して構成されてよい。以下に、本発明のセパレータを構成しうる他の繊維について説明する。
【0045】
[極細繊維]
本発明のセパレータ材料には、他の繊維として、好ましくは繊度が0.5dtex以下の極細繊維が含まれる。本発明のセパレータ材料が、前記異形断面複合繊維の他に前記極細繊維を含むことでより微細な繊維間空隙を形成することができる。その結果、得られるセパレータ材料は、緻密で地合の良好なものとなり、電池に組み込んだときの耐ショート性(特にセパレータ材料の緻密性に起因する耐ショート性)を向上させることができる。また、セパレータ材料の比表面積が増加するので、スルホン化処理やフッ素ガス処理あるいはコロナ放電処理などの親水化処理において、比較的弱い条件で処理しても十分な親水性を得ることができ、電池のサイクル寿命を向上させ、内圧、内部抵抗の上昇を抑制することができるほか、親水化処理による不織布の強力劣化を抑制することができる。前記極細繊維の繊度は0.005dtex以上0.4dtex以下であることが好ましく、0.01dtex以上0.3dtex以下であることがより好ましく、0.05dtex以上0.15dtex以下であることが特に好ましい。
【0046】
前記極細繊維の繊維長は特に限定されない。湿式抄紙法を用いて不織布を製造する場合は繊維長が0.5mm以上25mm以下であることが好ましい。繊維長を0.5mm以上とすると、繊維の脱落が発生することがなく、また、得られるセパレータ材料表面が毛羽立ちが抑制される。繊維長が25mm以下とすると、湿式抄紙法によって不織布を製造する際、スラリー中における繊維の分散性が低下することがなく、均一な不織布が得られやすい。本発明のセパレータ材料に使用する極細繊維の繊維長は1mm以上20mm以下であることがより好ましく、3mm以上10mm以下であることが特に好ましく、3mm以上6mm以下であることが最も好ましい。
【0047】
前記極細繊維は前記繊度の範囲を満たせば、その製造方法は限定されない。極細繊維はいわゆる海島構造の断面を有する複合繊維から海成分を溶脱して得られる極細繊維であってよい。あるいは、極細繊維は、メルトブローン法、或いはエレクトロスピニング法で比較的長い繊維長の極細繊維を製造した後、適度な繊維長、例えば前記の繊維長となるように切断、選別したものであってよい。しかし、比較的容易に製造できる点や所望の性質を有する極細繊維が製造しやすい点から、前記極細繊維は、2種類の樹脂成分からなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維であることが好ましい。分割型複合繊維の分割前の繊度は、分割処理によって発生する極細繊維が前記繊度の範囲を満たせば特に限定されないが、好ましくは0.1dtex以上4dtex以下であり、より好ましくは0.5dtex以上3.3dtex以下であり、0.8dtex以上2.2dtex以下が特に好ましい。
【0048】
前記分割型複合繊維は分割処理によって異なる樹脂成分で構成される極細繊維を複数発生させるものであれば特に限定されず、2成分の分割型複合繊維であってもよく、3成分以上の樹脂成分に分割可能な分割型複合繊維であってもよい。分割型複合繊維の生産性、分割性を考慮すると、異なる2種類の樹脂成分からなる分割型複合繊維が好ましい。極細繊維に使用する樹脂成分としては、熱可塑性樹脂であれば特に限定することなく使用できる。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどのポリエステル系樹脂;低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなど、通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合される各種ポリエチレン系樹脂、通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合されるアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックなどの各種ポリプロピレン系樹脂、各種ポリメチルペンテン系樹脂、各種ポリブテン-1系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂などの各種ポリオレフィン系樹脂;ナイロン6,ナイロン66,ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチックである。
【0049】
セパレータ材料を、水酸化カリウム水溶液のような強アルカリ性の電解液を含浸させて電池に組み込む場合、極細繊維は、耐アルカリ性の高いポリオレフィン系樹脂で構成されることが好ましい。
【0050】
前記分割型複合繊維の断面形状は限定されず、分割処理によって2種類以上の極細繊維を発生しうる公知の分割型複合繊維の断面形状であれば、いずれの断面形状であってもよい。断面形状は、例えば、
図14(a)に示す中空部分のあるオレンジ状断面(以下、単に中空オレンジ状断面とも称す)や、
図14(b)に示す中空部分のない、いわゆる中実のオレンジ状断面(以下、単に中実オレンジ状断面とも称す)、特開2000−328348号公報、及び特開2002−88580号公報で開示されているC型のオレンジ状断面(以下、単にC型オレンジ状断面とも称す)であってよい。あるいは、断面形状は、
図14(c)に示すように、オレンジ状断面において、一成分が芯鞘型複合繊維になっている中空複合分割型(以下、単に中空複合分割型オレンジ状断面とも称す)や、
図14(d)に示す中実複合分割型のオレンジ状断面(以下、単に中実複合分割型オレンジ状断面とも称す)、また多層バイメタル状の断面形状であってよい。分割型複合繊維の生産性、分割性を考慮すると、中空オレンジ状断面、中実オレンジ状断面、C型オレンジ状断面、中空複合分割型オレンジ状断面、中実複合分割型オレンジ状断面が好ましく、中空オレンジ状断面、C型オレンジ状断面、中空複合分割型オレンジ状断面がより好ましい。分割数は特に限定されず、4〜32が好ましく、4〜24が好ましく、8〜16が特に好ましい。
【0051】
前記分割型複合繊維は前記の通り、複数成分の異なるポリオレフィン系樹脂で構成されると、得られるセパレータ材料が電解質やアルカリに対して耐性の高いものとなるため好ましい。分割型複合繊維に用いることができるポリオレフィン系樹脂の具体的な例は、先に異形断面複合繊維に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。
【0052】
前述のとおり、分割型複合繊維を構成する各成分はいずれも、ポリオレフィン系樹脂(前記したもののほか、公知のポリオレフィンから系樹脂を含む)からなることが好ましい。分割型複合繊維の生産性や分割性を考慮すると、前記分割型複合繊維が2つの樹脂成分の組み合わせからなる場合において、ポリオレフィン系樹脂の好ましい組み合わせは、例えば、ポリプロピレン系樹脂/ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂/ポリメチルペンテン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂/エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリプロピレン系樹脂/エチレン−プロピレン共重合樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/ポリエチレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/エチレン−プロピレン共重合樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂/エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂/ポリエチレン系樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂/エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である。より好ましい組み合わせは、ポリプロピレン系樹脂/ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂/ポリメチルペンテン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂/エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である。
【0053】
前記の各種熱可塑性樹脂、好ましくは前記の各種ポリオレフィン系樹脂から異なる熱可塑性樹脂を2種類組み合わせて本発明のセパレータ材料に使用する分割型複合繊維とすることができる。その断面形状は前記の通り、特に限定されていないが、中空、中実、C型のオレンジ状断面の分割型複合繊維とする場合、異なる熱可塑性樹脂からなる樹脂成分の容積比は30:70〜70:30であることが好ましい。樹脂成分の容積比が30:70〜70:30になることで、分割型複合繊維を溶融紡糸する際、繊維断面形状がいびつな形状になったり断面形状が崩れたりすることなく溶融紡糸が行える。また、この範囲の容積比を用いると、分割後に一方の樹脂成分からなる極細繊維の繊度が極端に大きくなることもない。前記樹脂成分の容積比は40:60〜60:40であることが好ましく、50:50、すなわち樹脂成分が同容積であることが最も好ましい。
【0054】
分割型複合繊維を複合分割型の複合繊維とする場合、分割後に芯鞘型複合繊維となる樹脂成分の芯成分、および分割処理後に極細単一繊維となる樹脂成分に、選択した2種類の異なる熱可塑性樹脂のうち融点がより高い熱可塑性樹脂が配されることが好ましい。そのように樹脂の配置は、紡糸性、及び得られる複合分割型複合繊維の熱接着性の面から好ましい。この場合、融点が高い熱可塑性樹脂と、融点が低い熱可塑性樹脂を、高融点熱可塑性樹脂:低融点熱可塑性樹脂=80:20〜40:60(容積比)となるように溶融紡糸をすることが好ましい。それにより、繊維断面形状がいびつな形状になったり断面形状が崩れたりすることなく溶融紡糸が行える。また、この範囲の容積比を用いると、分割処理によって得られる2種類の極細繊維のうち、一方の樹脂成分からなる極細繊維の繊度が極端に大きくなることがない。分割型複合繊維の断面形状が複合分割型である場合、各熱可塑性樹脂成分の容積比は、高融点熱可塑性樹脂:低融点熱可塑性樹脂=75:25〜45:55であることがより好ましく、70:30〜50:50であることが特に好ましい。
【0055】
前述のとおり、前記分割型複合繊維の繊維断面は、繊維長さ方向に連続する空洞部分を有さない、いわゆる中実断面であってもよく、あるいは連続する空洞部分を有する中空断面やC字断面であってもよい。紡糸性や分割型複合繊維の分割性等を考慮すると、本発明のセパレータ材料に使用する分割型複合繊維は、繊維断面において、繊維長さ方向に連続する空洞部分を有する中空断面の繊維であることが好ましい。前記中空部分は空洞になっていれば中心(同心)に位置しなくても偏心していてもよい。分割型複合繊維の生産性から考慮すると、中空部分は同心に位置することが好ましい。また、中空部分の形状も円形、楕円形、異形のいずれであってもよい。また中空部分の中空率は、繊維断面積の5%以上40%以下の範囲であることが好ましい。中空率のより好ましい範囲は、8%以上30%以下であり、特に好ましくは10%以上25%以下である。中空率が5%未満であると、各構成成分を中空部分に露出させることが困難となる。中空部分を40%を超えるように設けることは、生産性の点から困難となる傾向にある。
【0056】
前記分割型複合繊維は、以下の方法で製造することができる。まず複数成分の異なる熱可塑性樹脂、好ましくは2成分のポリオレフィン系樹脂を用意し、公知の溶融紡糸機で、所望の分割型複合ノズル(例えば中空分割型複合ノズル)を用いて溶融紡糸する。このとき分割型複合繊維の断面構造、分割後の極細繊維の繊維断面形状、及び分割性を考慮し、それぞれの樹脂の溶融粘度を押出機のせん断力や紡糸温度などを調整することによって調整する。それにより、繊維断面において1方の成分が他成分を巻き込んだりしないようにセクションを調整することが好ましい。溶融させた熱可塑性樹脂から紡糸フィラメント(未延伸糸)を得る。紡糸フィラメントの繊度は2dtex以上12dtex以下が好ましい。
【0057】
次いで、紡糸フィラメントは、必要に応じて延伸される。紡糸フィラメントは、熱媒中にて80℃以上160℃以下、延伸倍率1.5倍以上8倍以下の条件で延伸される。延伸方法は特に限定されない。高温の熱水などの高温の液体で加熱しながら延伸を行う湿式延伸、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行う乾式延伸、100℃以上の水蒸気を常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸などの公知の延伸処理を、1段階で実施してよい。あるいは、公知の延伸方法による延伸処理を複数回に分けて行う、いわゆる多段延伸処理を実施してよい。得られた延伸フィラメントは、必要に応じて繊維処理剤が付与され、必要があれば捲縮付与処理が施され、所定の繊維長に切断されて得られる。
【0058】
前記分割型複合繊維から極細繊維を形成することは、後述するように、繊維ウェブ及び不織布製造の過程において、繊維に外部から力を加えて、分割型複合繊維を分割することにより行う。繊維の分割は、例えば、高圧水流を噴射する、またはニードルパンチをすることにより実施することができる。あるいは、繊維の分割は、湿式抄紙法により不織布を製造する場合には、抄紙の際に行う離解処理時に受ける衝撃を利用して実施することができる。分割型複合繊維から極細繊維を形成する場合、セパレータ材料には、未分割の分割型複合繊維、即ち、一部または全部が分割していない分割型複合繊維が含まれていてよい。そのような一部または全部が分割していない分割型複合繊維の含有量は、所望のセパレータ材料が得られる限りにおいて、特に制限されない。
【0059】
本発明のセパレータ材料は、前記において説明した異形断面複合繊維のみ、またはこれと極細繊維(極細繊維が分割型複合繊維から形成される場合には、極細繊維と未分割の分割型複合繊維)のみから形成されてよく、あるいはこれらの繊維に加えて、さらに他の繊維を含んでよい。以下に、この「さらに他の繊維」について説明する。
【0060】
[混合繊維]
本発明のセパレータ材料は、本発明の効果が失われない範囲内において、前記異形断面複合繊維及び前記極細繊維(極細繊維が分割型複合繊維から形成される場合には、極細繊維と未分割の分割型複合繊維)以外のさらに他の繊維(以下、この繊維を便宜的に混合繊維とも称す)を含んでいてもよい。前記混合繊維はその種類が特に限定されず、ラミー(苧麻)、リネン(亜麻)、ケナフ(洋麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、ヤシ、パーム、コウゾ、ミツマタ、バガス等の天然繊維やビスコースレーヨン、テンセル(登録商標)、リヨセル(登録商標)、キュプラなどの半合成繊維(再生繊維ともいう)であってもよい。混合繊維は、合成樹脂からなる繊維であることが好ましい。
【0061】
混合繊維に使用できる合成樹脂からなる繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの公知のポリエステルからなる単一繊維、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどの公知のポリエチレン系樹脂からなる単一繊維、通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合されるアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックなど公知のポリプロピレン系樹脂からなる単一繊維、若しくはこれらのポリオレフィンのモノマー同士の共重合樹脂、又はこれらのポリオレフィンを重合する際にメタロセン触媒(カミンスキー触媒ともいう)を使用したポリオレフィンなど公知のポリオレフィン系樹脂からなる単一繊維、ナイロン6、ナイロン66,ナイロン11、ナイロン12などの公知のポリアミドからなる単一繊維、アクリルニトリルからなる(ポリ)アクリルの単一繊維、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチックの単一繊維、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エンジニアリング・プラスチックの単一繊維、または異なる種類の樹脂同士、もしくは同一の種類の異なるポリマー成分からなる樹脂(例えばポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレート)同士を複合した複合繊維が挙げられる。
【0062】
前記混合繊維が合成樹脂からなる複合繊維である場合、その複合状態は特に限定されない。例えば、複合繊維は、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、柑橘類の房状の樹脂成分が交互に配置されている分割型複合繊維や海島型複合繊維であってもよい。本発明のセパレータ材料にはアルカリ性電解液に対する耐久性が求められることがあるので、前記混合繊維としてはポリオレフィン系樹脂からなる単一繊維や、ポリオレフィン系樹脂からなる複合繊維が好ましい。混合繊維は、より好ましくはポリオレフィン系樹脂からなる単一繊維(特に、単繊維強度が4.0cN/dtex以上のポリオレフィン系高強度単一繊維)、ポリオレフィン系樹脂からなり、単繊維強度が4.0cN/dtex以上の高強度複合繊維(例えば繊維断面が円形の高強度複合繊維)、または低熱収縮性の熱接着性複合繊維である。
【0063】
前記混合繊維は、その断面形状、素材(例えば、合成樹脂の種類、数)、あるいは複数の樹脂成分からなる複合繊維である場合は、合成樹脂の組み合わせや構成樹脂の複合形態が特に限定されないことは前記の通りである。また、混合繊維の繊度、繊維長、断面形状、および混合繊維が複合繊維である場合の複合比も、特に限定されるものではない。しかし、前記混合繊維が、異形断面複合繊維の好ましい繊度の範囲や好ましい繊維長の範囲と大きく異なると、湿式抄紙法によって湿式繊維ウェブおよび湿式不織布を生産する際に生産性が低下することがあるだけでなく、本発明の効果が損なわれることがある。そのため、前記混合繊維の繊度も0.2dtex以上5.6dtex以下であることが好ましく、0.5dtex以上3.3dtex以下であることがより好ましい。また、湿式抄紙法により不織布を作製する場合、前記混合繊維の繊維長は、0.5mm以上25mm以下であることが好ましく、1mm以上20mm以下であることがより好ましく、3mm以上10mm以下であることが特に好ましく、3mm以上6mm以下であることが最も好ましい。
【0064】
本発明のセパレータ材料は、前記異形断面複合繊維のみから構成してよく、または前記異形断面複合繊維と、他の繊維(例えば、前記極細繊維および/または前記混合繊維)とから構成してよい。以下に、本発明のセパレータ材料について説明する。
【0065】
[セパレータ材料]
本発明のセパレータ材料は、異形断面複合繊維を含み、異形断面複合繊維の第1成分によって繊維同士が熱接着されている。異形断面複合繊維は、前述のとおり、3個以上16個以下の凸部を有しているために、熱接着処理、特に加圧を伴う熱接着処理(例えば、後述するシリンダードライヤー(ヤンキードライヤー)および熱ロール加工機を用いた熱接着処理)に付されると、繊維それ自体(特に熱接着処理後に残る第2成分)が扁平化されやすい。また、繊維それ自体が異形であること、および繊維それ自体が扁平化することに起因して、広い面積で繊維同士が熱接着されるため、セパレータ材料において、複数本の繊維が束状に熱接着されて、扁平化された繊維束を形成しやすい。
【0066】
扁平化は1本の異形断面複合繊維において生じ、あるいは異形断面複合繊維を含む2以上の繊維が束状に熱接着された繊維束において生じる。繊維束は、異形断面複合繊維のみからなってよく、または異形複合繊維と、他の繊維(例えば、極細繊維、極細繊維を発生し得る繊維(例えば分割型複合繊維)および混合繊維から選択される1または複数の繊維)とが、異形断面複合繊維の第1成分によって熱接着されてなるものであってよい。扁平化の度合いは、異形断面複合繊維のみからなる繊維束において大きくなる傾向にある。扁平化された繊維または繊維束は、好ましくはその長さ方向が、セパレータ材料の主表面と平行となるように配置されて、セパレータ材料中に存在する。そのように扁平化された繊維または繊維束が配置されると、セパレータ材料の厚さ方向に突き抜けようとする異物に対して、広い面積を有する部分がこれを阻止するので、セパレータ材料の突き刺し強力が向上する。そのような配置は、湿式抄紙法によりセパレータ材料を製造することにより、より達成されやすい。
【0067】
異形断面複合繊維それ自体、および異形断面複合繊維を含む繊維束の横断面が扁平化される理由として、不織布の製造段階、特に熱接着処理において、
・異形断面複合繊維の凸部が変形する、
・凸部の根元部分にひび割れが生じて繊維全体が変形する、
・第2成分においてのみ、凸部の根元部分にひび割れが生じる、および/または一部の凸部が分割することにより、第2成分が変形し、それに第1成分が追随して変形する、
・凸部の一部が完全に分離して再配置される
こと等が考えられる。これらの現象は、繊維全体の断面が円でなく、第1および第2成分が全体として異形繊維断面を構成していることにより生じやすくなると考えられる。
【0068】
セパレータ材料においてはまた、セパレータ材料を厚さ方向に垂直に切断して得られる切断面を観察したときに、異形断面複合繊維の一部において、凸部が完全に分離して断面積の小さな樹脂成分(この樹脂成分は、断面積の小さい繊維になっていると推測されるが、切断面においては面積の小さい断面像として観察される)として存在することがある。そのような繊維は、凸部が第1成分と第2成分を有している場合には、極細複合繊維のごとく機能して、セパレータ材料の機械特性、特に引張強力を向上させると考えられる。但し、不織布において、そのような繊維が多く存在すると、扁平化された繊維の数が少なくなり、セパレータ材料の突き刺し強力が低くなることがある。
【0069】
セパレータ材料においては、前述のように異形断面複合繊維が変形または分離することがあるために、不織布を構成する前の異形断面複合繊維に存在している凹部が認められにくくなることがある。しかし、通常、凹部が完全に消失することはなく、熱処理した後の不織布においても、その少なくとも一部は残っている。
【0070】
異形断面複合繊維が扁平化している場合等において、本発明のセパレータ材料の構成は次の通りである。すなわち、本発明のセパレータ材料は、熱可塑性樹脂からなる第1成分と、第1成分の紡糸後の融点よりも高い紡糸後の融点を有する熱可塑性樹脂からなる第2成分とを含む複合繊維を含み、前記複合繊維の第1成分によって構成繊維間の少なくとも一部が熱接着されている不織布からなるセパレータ材料であり、前記複合繊維の少なくとも一部は、横断面が扁平形状である複合繊維であり、ならびに/あるいは前記複合繊維の少なくとも一部は、前記横断面が扁平形状である複合繊維を複数含み、全体として横断面が扁平形状を有する繊維束を形成しており、前記扁平形状である複合繊維の少なくとも一部がその繊維表面の少なくとも一部に、繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有しているセパレータ材料である。
【0071】
このセパレータ材料において、前記複合繊維は扁平形状を有することを特徴とする。これは、例えば、複合繊維の断面形状が丸断面ではなく、異形断面、具体的には、凸部を3個以上16個以下、好ましくは凸部を3個以上8個以下、より好ましくは3個以上6個以下、特に好ましくは3個または4個の凸部を有する多葉断面形状であることに起因する。断面形状が多葉断面形状である複合繊維を含む抄紙後の湿式不織布に対し、ヤンキードライヤーを用いて乾燥処理を施す際や、カレンダーロールを用いた厚さ加工を施す際に、多葉断面を形成する凸部が左右どちらかに折れ曲がるようになり、複合繊維全体として扁平化する。扁平化の際には、折れ曲がった凸部が分離し、これが極細繊維を構成することもある。
【0072】
前記扁平形状の複合繊維の一部は、単独で存在することもあるし、扁平形状の複合繊維同士が熱接着して繊維束を形成することもある。本発明で使用している複合繊維は異形断面形状の複合繊維であり、繊維表面に低融点の第1成分からなる層が存在することから繊維同士で熱接着しやすい。そのため、繊維束が形成されることが多い。
【0073】
単独で存在している扁平形状の複合繊維、または扁平化形状の複合繊維を2本以上含み、熱接着している扁平形状の繊維束を、走査型電子顕微鏡などを用いて観察すると、扁平形状になっている複合繊維および繊維束を観察できる。
【0074】
前記扁平形状の複合繊維は、その断面におけるアスペクト比が1.4以上6.0以下であることが好ましい。ここで、複合繊維の断面におけるアスペクト比とは、複合繊維の断面における長辺と短辺の比(長辺/短辺)である。複合繊維の断面における長辺とは、複合繊維の断面において、複合繊維断面の外周上における異なる2点間を結ぶ線分の中で、最も長さが長い線分のことを指す。そして、本発明でいう、複合繊維の断面における短辺とは複合繊維の断面において、複合繊維断面の外周上における異なる2点間を結ぶ線分であって、前記長辺に垂直に交わる線分の中で最も長いものを指す。扁平形状の複合繊維において、断面形状のアスペクト比が1.4未満であると、通常の丸断面繊維と変わらないものとなり、突き刺し強力が低下するおそれがある。アスペクト比が6.0よりも大きいと、複合繊維の断面形状がアスペクト比の大きすぎる扁平断面形状となることによって構成繊維間が狭くなり、通気度が低下するおそれがある。また、そのように大きいアスペクト比を与える異形断面複合繊維を紡糸・延伸することが難しくなる。扁平形状になっている複合繊維の断面のアスペクト比は1.4以上6.0以下であることが好ましく、1.5以上5.0以下であることがより好ましく、1.6以上4.0以下であることがさらにより好ましく、1.8以上3.5以下であることが特に好ましい。
【0075】
前記扁平形状である複合繊維は、前記アスペクト比を満たしつつ、5μm以上30μm以下の長辺、および1.5μm以上18μm以下の短辺を有することが好ましい。長辺が5μm未満であったり、短辺が1.5μm未満であったりすると、前記アスペクト比が満たされにくくなり、セパレータ材料の突き刺し強力が低下するおそれがある。また、そのように短い長辺および/または短辺の扁平形状の複合繊維を与える異形断面複合繊維を紡糸および/または延伸することが困難になることがある。長辺が30μmよりも大きくなったり、短辺が18μmよりも大きくなったりすると、やはり前記アスペクト比を満たしにくくなる。また、繊維の長辺及び/または短辺が大きくなると、第2成分の断面積が大きくなりすぎて通気度などが低下するおそれがある。複合繊維の断面形状においては、長辺が8.0μm以上28μm以下、短辺が2.0μm以上16μm以下であるとより好ましく、長辺が8.0μm以上24μm以下、短辺が3μm以上14μm以下であると特に好ましく、長辺が10μm以上20μm以下、短辺が4μm以上12μm以下であると最も好ましい。
【0076】
前記に示した、断面形状のパラメータ(断面の長辺、短辺、およびアスペクト比)を満たす、扁平形状の複合繊維は、第1成分が第2成分の周囲を被覆した芯鞘型複合繊維であって、その断面形状(第1成分の輪郭)が3個以上16個以下、好ましくは3個以上8個以下、より好ましくは3個以上6個以下、特に好ましくは3個または4個の凸部を有する多葉断面形状である異形断面を有し、第2成分の断面形状も異形断面複合繊維そのものの輪郭(即ち、第1成分の輪郭)と略相似形である複合繊維から容易に得られる。そのような異形断面複合繊維は外力を受けて、変形および/または分離して、容易に扁平化される。
【0077】
なお、扁平形状の複合繊維の長辺、短辺、及びアスペクト比の測定は、セパレータ材料の切断面を、走査型電子顕微鏡などを用いて観察し、観察される繊維および繊維束の中から、その横断面が他の繊維から独立して(即ち、他の繊維と熱接着等しておらず)、明確な輪郭を規定している複合繊維を抽出して行う。長辺、短辺、及びアスペクト比の測定の対象となる扁平形状の複合繊維は、
図11において記号2aで示す複合繊維である。抽出した複合繊維の断面形状における輪郭から長辺、短辺を測定し、アスペクト比を求める。測定は、扁平形状の複合繊維を、異なる20点以上の点数で計測し、その平均値を扁平形状の長辺、短辺、アスペクト比とする。
【0078】
前記構成のセパレータ材料は、前記変形した複合繊維および/又は、変形した複合繊維を含む繊維束の少なくとも一部が、その繊維表面及び/または繊維束表面の少なくとも一部に、繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有していることを特徴とする。セパレータ材料の製造時には前記のように圧力を加える工程があり、異形断面複合繊維が変形することで凹部も変形し、凹部が消滅しやすくなる。しかし、通常、凹部が完全に消失することはなく、熱処理した後の不織布においても、その少なくとも一部は残っている。即ち、変形した複合繊維の繊維表面および/または、変形した複合繊維を含む繊維束の表面には、異形断面複合繊維の凹部に起因する、長さ方向に沿って延びる凹部が存在する。そのような凹部は、セパレータ材料を構成する繊維表面に多数の微細な空隙を形成する。そのような微細な空隙は、電解液を保持するため、セパレータ材料の保液率を高くし、内部抵抗の値を低くすると考えられる。
【0079】
セパレータ材料は、前述のとおり、繊度が0.5dtex以下の極細繊維を含むことが好ましい。セパレータ材料が、前記扁平化した複合繊維および/又は、扁平化した複合繊維を含む繊維束を含む場合においても、これらの繊維の他に、極細繊維を含むことが好ましい。前記極細繊維を含むことでより微細な繊維間空隙を形成することができる。その結果、得られるセパレータ材料は、緻密で地合の良好なものとなり、電池に組み込んだときの耐ショート性(特にセパレータ材料の緻密性に起因する耐ショート性)を向上させることができる。また、セパレータ材料の比表面積が増加するので、スルホン化処理やフッ素ガス処理あるいはコロナ放電処理などの親水化処理において、比較的弱い条件で処理しても十分な親水性を得ることができ、電池のサイクル寿命を向上させ、内圧、内部抵抗の上昇を抑制することができるほか、親水化処理による不織布の強力劣化を抑制することができる。前記極細繊維の繊度が0.5dtexよりも大きくなると、複合繊維の繊維径に対して極細繊維の繊維径が十分に小さいものではないため、前記効果、例えば緻密性の向上が得られにくくなることがある。前記極細繊維の繊度は0.005dtex以上0.4dtex以下であることが好ましく、0.01dtex以上0.3dtex以下であることがより好ましく、0.05dtex以上0.15dtex以下であることが特に好ましい。
【0080】
図5、
図6、
図7、
図9および
図11に、本発明のセパレータ材料の一例の断面であって、異形断面複合繊維およびこれの繊維集合体の横断面を示す電子顕微鏡写真を示す。
図5のセパレータ材料は、
図1に示す4つの凸部を有する複合繊維からなり、他の繊維を含まないものであり、
図5のセパレータ材料は、
図2に示す8つの凸部を有する複合繊維からなり、他の繊維を含まないものであり、
図7のセパレータ材料は、
図3に示す4つの凸部を有する複合繊維からなり、他の繊維を含まないものである。
図5、6および7のセパレータ材料は、後述する実施例1、5および4にそれぞれ相当する。
図9のセパレータ材料は、
図1に示す4つの凸部を有する複合繊維と、極細繊維を発生する分割型複合繊維とを、質量比で70:30(異形断面複合線:分割型複合繊維)で混合して製造したセパレータ材料であり、後述する実施例10に相当する。
図11のセパレータ材料は、
図1に示す4つの凸部を有する複合繊維と、極細繊維を発生する分割型複合繊維とを、質量比で70:30(異形断面複合線:分割型複合繊維)で混合し、大型の湿式抄紙機で製造したセパレータ材料であり、後述する実施例10Aに相当する。これらの写真においては、異形断面複合繊維およびそれを含む繊維束の横断面が扁平化している状態、および異形断面複合繊維の凸部と凸部との間に形成された凹部が繊維の長さ方向に沿って延びていることが観察される。
【0081】
図5に示す、4つの凸部を有する複合繊維からなり、他の繊維を含まないセパレータ材料においては、異形断面複合繊維の凸部が倒れ、隣り合う2つの凸部同士が融着し、繊維の断面形状が扁平な形に変形していることが観察される。
図5では、これらの変形した複合繊維が多数観察され、その多くは変形した複合繊維を2本以上含み、変形した複合繊維同士で融着した繊維束を形成している。これらの変形した複合繊維、または変形した複合繊維が形成する繊維束において、その断面部分に周囲の輪郭部分よりやや暗く、扁平な形状の像として観察されているのが、異形断面複合繊維を構成している第2成分である。
【0082】
前記第2成分は前記第1成分よりも高融点の樹脂からなるため、第1成分の融点を超える温度に曝されても、外からの力が加えられない限りにおいて、変形および流動しにくく、繊維形状を保つ。本発明のセパレータ材料に使用する複合繊維は、好ましくは第1成分と第2成分の輪郭が略相似形の複合繊維である。このような複合繊維を使用すると、熱により第1成分が変形したり流動したりしても元の形状である凸部が維持される。この状態で力が加わると、輪郭において凸部を有する第2成分における前記凸部が左右どちらかに折れ曲がり、
図5に示すような形状の扁平形状の複合繊維および繊維束が観察される。力は、後述する構成繊維間を熱接着させる熱処理において、または厚さ調整加工工程において、加えられる。
図5に示す本発明のセパレータ材料においては、扁平形状の複合繊維の長辺は15.72μm、短辺は7.44μm、アスペクト比が2.11である。
【0083】
使用している異形断面複合繊維が有する凸部の個数、及び断面形状によっては、異形断面複合繊維を使用したセパレータ材料において、各凸部が分離して形成された繊維が集合したような見かけを有する繊維が観察される。かかる繊維は、セパレータ材料を製造する際に異形断面複合繊維に加わる外力(例えばパルパーによる開繊時の外力やヤンキードライヤーを通過する際の圧力、またカレンダーロールを通過する際の圧力が挙げられる)により、各凸部が分離することにより生じる。
図5に示すセパレータ材料では、4つの凸部を有する異形断面複合繊維(4葉異形断面複合繊維)が変形し、4本の極細繊維が融着したような見かけを有する繊維も観察される。そのような繊維は、各凸部を形成していた部分のうち、高融点で変形しにくい第2成分が、同じ異形断面複合繊維の他の凸部を形成していた第2成分から分離し、1本の繊維のように存在している。1本の異形断面複合繊維から、各凸部のうちの一つに分かれたようになるため、凸部の一部が分離した異形断面複合繊維は、元の繊度よりも細い繊度の繊維が複数本集合したような構造となる。
図5に示すセパレータ材料では、擬似的に1本の繊維のように存在する第2成分が含まれ、この第2成分は、元の異形断面複合繊維よりも細くなり、極細繊維のようになっていることが観察される。
【0084】
図9のセパレータ材料は、
図5に示すセパレータ材料に使用した異形断面複合繊維と同じ異形断面複合繊維と、極細繊維を発生する分割型複合繊維とを、質量比で70:30(異形断面複合繊維:分割型複合繊維)で混合して製造したセパレータ材料である。これは、後述する実施例10に相当する。このセパレータ材料においても異形断面複合繊維が扁平化し、一部は繊維束を形成していることが確認できる。そして、
図5に示すセパレータ材料と同様、扁平形状の複合繊維が観察できる。扁平形状の複合繊維は、長辺が14.59μm、短辺が7.08μm、アスペクト比が2.06である断面形状を有している。第2成分の一部は、
図5に示すセパレータ材料と同様、異形断面複合繊維を構成していた凸部の一部が分離した、擬似的に1本の繊維のように存在する第2成分が含まれ、この第2成分は、元の異形断面複合繊維よりも細くなり、極細繊維のようになっていることが観察される。
【0085】
図11のセパレータ材料は、
図5に示すセパレータ材料に使用した異形断面複合繊維と同じ異形断面複合繊維と、極細繊維を発生する分割型複合繊維とを、質量比で70:30(異形断面複合繊維:分割型複合繊維)で混合し、大型の湿式抄紙機で製造したセパレータ材料であり、
図12は
図11の一部を拡大したものである。これは、後述する実施例10Aに相当する。このセパレータ材料においても異形断面複合繊維が扁平化し(
図11および
図12中 記号200 参照)、一部は繊維束を形成している(
図11中 記号2C参照)ことが確認できる。そして、
図5〜7および
図9に示すセパレータ材料と同様、繊維の長さ方向に沿って延びる凹部(
図11中 記号2B参照)を有している。本発明のセパレータ材料に含まれる変形した複合繊維の少なくとも一部は、変形する前において異形断面複合繊維である。そのため、セパレータ材料中の繊維が繊維の長さ方向に沿って延びる凹部を有するようになる。セパレータ材料中に多数存在する前記凹部は、本発明のセパレータ材料を用いて製造した各種二次電池において、電解液を保持する役割をする。その結果、セパレータ材料の保液率が高められる。また、前記多数の凹部は、セパレータ材料中の電解液の局所的な保持、いわゆる偏在を無くす、または少なくして、均一な状態でセパレータ全体に電解液が保持されることを可能にし、セパレータの液枯れを発生させにくくなる。このセパレータ材料では、また、扁平形状の複合繊維(
図11中 記号2a参照)は、長辺が16.87μm、短辺が7.52μm、アスペクト比が2.24である断面形状を有している。そして、
図5〜7および
図9に示すセパレータ材料と同様、第2成分の一部は元の断面形状を失い、異形断面複合繊維の凸部を形成していた第2成分が、同じ繊維の他の凸部を形成していた第2成分から分離し、擬似的に1本の繊維のように存在する(
図12 記号2A参照)。このような形状の第2成分は、元の異形断面複合繊維よりも細くなり、極細繊維のようになっていることが観察される。
【0086】
図5〜7、
図9および
図11に示すセパレータ材料、特に
図5、
図9および
図11に示すセパレータ材料では、扁平形状の第2成分の向きが、ある程度配向している。即ち、第2成分の断面における長辺がセパレータ材料の厚さ方向に対して垂直方向に近い方向と平行であり、短辺がセパレータ材料の厚さ方向に対して平行に近い方向となる。前記扁平形状の第2成分がこのように配列することで、セパレータを貫通する方向で異物が刺さった場合、より多くの第2成分が異物の進入を阻止するようになると考えられる。このように比較的高融点の第2成分が、擬似的に、断面形状が扁平形状を有する極細繊維のように存在し、特定の方向に配向するため、セパレータ材料の突き刺し強力が大幅に向上すると考えられる。後述するように、通常の丸断面の複合繊維ではこのような複合繊維の大きな変形や、繊維の一部が極細繊維のように働くといった構造は観察されない。
【0087】
図8、
図10および
図13は、異形断面複合繊維を含まないセパレータ材料の断面であって、具体的には芯部および鞘部ともに円形である(即ち、同心円構造の)芯鞘型複合繊維を用いて作製したセパレータ材料の断面を示す顕微鏡写真である。これらの図は、
図5〜7、
図9および
図11との比較のためのものである。
図8のセパレータ材料は、異形断面を有しない芯鞘型複合繊維のみからなり、他の繊維を含まないものであり、後述する比較例1に相当する。
図8に示す、円断面の複合繊維を使用したセパレータ材料では、複合繊維の断面形状における長辺が12.16μm、短辺が10.08、アスペクト比が1.21となっており複合繊維の大きな変形や、それに伴う第2成分の扁平化は起きていないことが観察できる。また第2成分が擬似的に複数のより細い繊維であるように観察されることもない。したがって、
図5および
図11に示す、異形断面複合繊維における第2成分の扁平化や、異形断面複合繊維における各凸部を形成していた第2成分による擬似的な細繊度化は、異形断面複合繊維を使用したセパレータのみに観察されるといえる。
図10のセパレータ材料は、異形断面を有しない芯鞘型複合繊維と、極細繊維を発生する分割型複合繊維とを、質量比で70:30(円形芯鞘型複合繊維:分割型複合繊維)で混合して製造したセパレータ材料であり、後述する比較例4に相当する。このセパレータ材料においても複合繊維を構成する第2成分の扁平化は見られず、複合繊維の断面形状における長辺が15.24μm、短辺が11.62、アスペクト比が1.31となっており複合繊維の大きな変形は起きていないことが観察できる。また第2成分が擬似的に複数のより細い繊維であるようには観察されない。また、
図13のセパレータ材料は、異形断面を有しない芯鞘型複合繊維と、極細繊維を発生する分割型複合繊維とを、質量比で70:30(円形芯鞘型複合繊維:分割型複合繊維)で混合し、大型の湿式抄紙機で製造したセパレータ材料であり、後述する比較例4Aに相当する。このセパレータ材料においても複合繊維を構成する第2成分の扁平化は見られず、複合繊維の断面形状における長辺が13.54μm、短辺が10.82、アスペクト比が1.25となっており複合繊維の大きな変形は起きていないことが観察できる。また第2成分が擬似的に複数のより細い繊維であるようには観察されない。
【0088】
本発明のセパレータ材料が有し得る断面の特徴について、さらに説明する。
図5〜
図7、
図9および
図11に示すセパレータ材料では第2成分が多葉形状を有する複合繊維を使用している。第2成分が多葉形状であるため、セパレータ材料の切断面において、第2成分の元の形状が残っているまたは第2成分の一部が分離することなく変形(例えば、扁平化)した繊維(断面写真では第2成分の本来の形状が維持された、またはこれが変形している切断面像として観察される)と、第2成分の一部(例えば、1つの凸部)が分離した繊維(断面写真では第2成分本来の形状を残していない、さらに断面積の小さな切断面像として観察される)とが観察される。元の異形断面複合繊維が4つの凸部を有する4葉形複合繊維である場合(
図5、
図7、
図9および
図11)、セパレータ材料中には、第2成分が分離せずに、元の形状が残っている又は元の形状から変形(例えば扁平化)した繊維と、第2成分の一部(例えば、1つの凸部)が分離してなる繊維とが混在していると考えられ、分離していない第2成分が構成する繊維の断面画像として、断面積が小さな樹脂成分が4つ、根元で結合した断面像が観察され、第2成分の一部(例えば、1つの凸部)が分離した繊維の断面画像として、分離していない前記第2成分が構成する繊維の断面よりもさらに断面積の小さな断面像が観察される。元の異形断面繊維が8葉形複合繊維である場合(
図6)、セパレータ材料中には、分離していない第2成分が構成する繊維と、第2成分の一部(例えば、1つの凸部)が分離してなる繊維とが混在する可能性があると考えられ、分離していない第2成分が構成する繊維の断面画像として、断面積が小さな樹脂成分が8つ、根元で結合した断面像が観察され、第2成分の一部(例えば、1つの凸部)が分離した繊維の断面画像として、分離していない前記第2成分が構成する繊維の断面よりもさらに断面積の小さな断面像が観察される。即ち、異形断面複合繊維を含むセパレータ材料においては、分離していない第2成分が構成する繊維、及び/または第2成分の一部(例えば、1つの凸部)が分離した繊維が存在すると考えられ、それはセパレータ材料断面の断面画像では、第2成分が本来の形状を維持している、またはこれが変形している切断面像、及び/または2成分本来の形状を残していない、さらに断面積の小さな切断面像が観察されることから確認できる。これに対し
図8に示す同心円構造の芯鞘型複合繊維を使用したセパレータ材料の切断面においては、第2成分が分割されておらず、また、芯鞘型複合繊維の元の形状が多葉形状に例示される異形断面でもない。そのため、
図8においては、セパレータ材料の断面で観察される第2成分本来の形状を残した切断面像や、第2成分の一部が分離した繊維が存在することで観察される、さらに断面積の小さな切断面像のいずれも観察されない。
図8においては、断面積の大きな、第2成分からなる樹脂成分の断面画像(これは通常、繊維として存在する)が観察されるのみである。
【0089】
更に、セパレータ材料は、極細繊維を含む場合には次のような特徴を示す。即ち、
図9および
図11に示す、異形断面複合繊維と分割型複合繊維を質量比で70:30の割合で混綿して製造し、極細繊維を発生させたセパレータ材料においては、その切断面において、第2成分が分離せずに本来の形状を維持している、またはこれが変形している切断面像、及び/または2成分本来の形状を残していない、さらに断面積の小さな切断面像が観察されることに加えて、熱接着していない極細繊維が少ないことが観察される。これは異形断面複合繊維において繊維間熱接着できる面積が広いため、異形断面複合繊維が極細繊維を捕らえやすくなり、異形断面複合繊維と極細繊維との熱接着が促進されたためと考えられる。異形断面複合繊維と極細繊維の熱接着が適度に促進されることで、セパレータ材料においては異形断面複合繊維と極細繊維が一体化され、その結果、セパレータ材料の機械的特性が高められていると考えられる。これに対し、
図10および
図13に示す、同心円構造の複合繊維と極細繊維を質量比で70:30の割合で混綿して製造したセパレータ材料では、その切断面において、第2成分本来の形状を残した切断面像や、第2成分の一部が分離した繊維が存在することで観察される、さらに断面積の小さな切断面像のいずれも観察されないだけでなく、熱接着していない極細繊維が多数存在することが観察される。このことから、熱接着性複合繊維と極細繊維の繊維間接着が、異形断面複合繊維を使用する本発明のセパレータ材料よりも促進されていないと考えられる。
これらのことから、本発明のセパレータ材料が示す機械的特性と、同心円構造の芯鞘型複合繊維を用いたセパレータ材料の機械的特性との差は、この繊維間の熱接着性、特に極細繊維との熱接着性にも起因して生じていると考えられる。
【0090】
本発明のセパレータ材料における前記異形断面複合繊維の含有量は、5質量%以上であることが好ましい。具体的には、本発明のセパレータ材料は、異形断面複合繊維のみで構成されてよい、すなわち、異形断面複合繊維の含有量は100質量%であってよい。あるいは、他の繊維を混合する場合は、異形断面複合繊維の含有量は5質量%以上95質量%以下であると好ましい。前記異形断面複合繊維の含有量が5質量%未満であると、セパレータ材料の構成繊維間が充分に熱接着されず、それにより充分な突き刺し強力や引張強力を得られないことがあるだけでなく、構成繊維間の空隙が多く残り、セパレータの性能が低下することがある。他の繊維、具体的には前記極細繊維を含有する場合は、異形断面複合繊維の含有量が95質量%を超えると、極細繊維と混綿しても極細繊維を混綿した効果が得られにくく、地合が均一で、緻密なセパレータ材料を得られなくなることがある。本発明のセパレータ材料において、前記異形断面複合繊維の含有量は20質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上80質量%以下であることが特に好ましく、40質量%以上75質量%以下であることが最も好ましい。
【0091】
本発明のセパレータ材料における前記極細繊維の含有量は、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。極細繊維の含有量が5質量%以上であると、セパレータ材料において、繊維間空隙により形成される不織布の平均孔径が小さく不織布の緻密性が維持されるので、セパレータ材料の耐ショート性が低下することもない。極細繊維の含有量が50質量%以下であると、極細繊維同士および極細繊維と他の繊維とが絡みついたファイバーボール現象を引き起こすことがないので、地合いが均一な不織布が得られる。また、異形断面複合繊維と併用することによるセパレータの耐突き刺し性と緻密性を両立することができる。本発明のセパレータ材料内部において、前記極細繊維の含有量は10質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上35質量%以下であることが特に好ましく、22質量%以上32質量%以下が最も好ましい。
【0092】
前記混合繊維は、セパレータ材料中に90質量%未満の割合で含まれていてもよい。すなわち前記異形断面複合繊維と前記極細繊維を合わせたものがセパレータ材料中に10質量%以上含まれていることが好ましい。極細繊維と異形断面複合繊維を合わせた含有量が10質量%未満となると、セパレータ材料の機械的特性が低下したり、通気度、保液性が低下したりして、電池特性が低下することがある。本発明のセパレータ材料には、前記異形断面複合繊維と前記極細繊維が合わせて20質量%以上含まれていることがより好ましく、30質量%以上含まれていることがさらに好ましく、前記極細繊維および/または極細繊維を発生し得る繊維(例えば、未分割の分割型複合繊維)、ならびに前記異形断面複合繊維が50質量%以上含まれていることが最も好ましい。
【0093】
次に、本発明のセパレータ材料の製造方法を、それを構成する不織布の製造方法に従って説明する。本発明のセパレータ材料の製造に際しては、まず、異形断面複合繊維、必要があれば繊度が0.5dtex以下の極細繊維および/または前記極細繊維を発生しうる繊維(海島型複合繊維や分割型複合繊維が含まれ、以下、単に極細繊維発生繊維とも称す)、さらに必要であれば前記混合繊維を用意する。用意した繊維した繊維を均一に混合して繊維ウェブを作製する。繊維ウェブは、公知の方法で作製することができ、繊維ウェブの作製方法として、例えば、カード法、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンボンド法、メルトブローン法などが挙げられる。湿式抄紙法は、均一な繊維ウェブが得られる点で好ましい。
【0094】
続いて、前記繊維ウェブを、前記異形断面複合繊維に含まれる第1成分の熱可塑性樹脂の紡糸後の融点をTm(℃)としたときTm−10℃以上、Tm+30℃以下の温度で熱処理することによって、第1成分の少なくとも一部によって、構成する繊維同士を熱接着させる。これにより、繊維が一体化された不織布が得られる。前記繊維ウェブや熱処理を行った後の不織布には、必要に応じて、繊維交絡処理を施してよく、また、極細繊維発生繊維からの極細繊維の発生が少なければ、繊維ウェブや湿式不織布に対し、分割処理(例えば高圧水流による分割処理)を行ってもよい。
【0095】
本発明のセパレータ材料は、前述のとおり、緻密性や均一性の点から湿式抄紙法により繊維ウェブを作製する不織布(以下、「湿式不織布」という)であることが好ましい。湿式不織布は、以下の方法で製造することができる。まず、前記異形断面複合繊維、必要があれば繊度が0.5dtex以下の極細繊維及び/または前記極細繊維発生繊維を混合し、さらに必要であれば前記混合繊維を混合し、これらの繊維が0.005〜0.6質量%の濃度になるよう水に均一に分散した水分散スラリーを調整する。このとき離解機を用いて極細繊維発生繊維の少なくとも一部を分割させて、極細繊維を発生させることができる。前記離解機としては、パルパー、チェスト、リファイナー等が挙げられる。なかでも、パルパーは、その撹拌時間、回転数を制御することによって前記極細繊維発生繊維からの極細繊維の発生を調整することができるため、好ましい。
【0096】
湿式抄紙段階における極細繊維が発生している割合(前記極細繊維発生繊維が分割型複合繊維であれば、分割型複合繊維の分割率)は、50%以上、95%以下であることが好ましい。極細繊維が発生している割合が50%未満であると、得られる湿式不織布全体の緻密性が損なわれることがあるだけでなく、後述する親水化処理において均一な処理が困難となることがある。極細繊維が発生している割合が湿式抄紙段階にて95%を超えると、ファイバーボールが発生しやすくなり、均一な湿式不織布が得られないことがある。次に、前記水分散スラリーを湿式抄紙して繊維ウェブを得る。この湿式抄紙法としては、従来公知の方法、例えば短網方式、円網方式、長網方式、又は長網・円網コンビネーション方式、短網・円網コンビネーション方式といった公知の抄紙方法を2以上組み合わせた湿式抄紙方式が挙げられ、これらのいずれか1つの方式により繊維ウェブを形成できる。
【0097】
次に、上述した各湿式抄紙法で得られた繊維ウェブには、熱処理が施されて、繊維ウェブの構成繊維間が熱接着される。このとき、少なくとも前記異形断面複合繊維に含まれる樹脂の一部によって構成する繊維同士が熱接着されて、熱接着不織布を与える。熱処理の条件は、繊維ウェブの目付、繊維ウェブの厚さ、及び湿式不織布に含まれる繊維を構成する樹脂の種類等に応じて適宜選択される。熱処理に用いる熱処理機としては、公知の熱処理機を用いることができ、特に限定されない。前記繊維ウェブの構成繊維間を熱接着しながら乾燥させることができる熱処理機が好ましく用いられ、例えば、シリンダードライヤー(ヤンキードライヤー)、熱風吹き付け加工機(エアスルー加工機)、熱ロール加工機、または熱エンボス加工機等を用いることができる。シリンダードライヤー(ヤンキードライヤー)を用いた熱加工機、もしくは熱風吹き付け加工機、あるいは両者を併用した熱処理機を用いることが好ましい。
【0098】
前記シリンダードライヤー(ヤンキードライヤー)を用いた熱加工機は、繊維ウェブを加熱ロールに接触させることにより熱接着処理を行うことができるため、不織布の厚さを所望の厚さに調整しながら同時に繊維同士を熱接着させることができる。また、そのような熱加工機により熱処理された不織布は、ある程度厚さが調整され(すなわち、繊維間の熱接着が促進され)たものであるため、更に後述するカレンダーロールを用いた厚さ調整を行う場合には、厚さ調整工程に2回付される。その結果、繊維間の熱接着がより進行し、不織布の機械的特性(例えば引張強力や突き刺し強力)が高くなりやすい。したがって、高い機械的特性が求められるセパレータは、シリンダードライヤーを用いた熱加工機で乾燥・熱処理を実施して製造することが好ましい。
【0099】
前記熱風吹き付け加工機(エアスルー加工機)は、抄紙直後の水を含む湿式抄紙ウェブ(湿紙)をネットコンベア上に載置し、湿式抄紙ウェブの上面から熱風を吹きつけて乾燥・熱処理を行う。そのため、他の熱加工機を使用する場合と比較して、この熱加工機を使用した場合には、不織布の厚さの調整を乾燥・熱処理と同時に行うことは難しい。しかし、この熱加工機は、湿式抄紙ウェブに対し、ほとんど圧力を加えることなく、乾燥・熱処理を行うので、得られる湿式不織布には繊維間空隙が多く残る。その結果、保液性や通気度が優れた不織布が得られる。そのため、高い保液性が求められる電池セパレータの製造においては、熱風吹き付け加工機を用いて乾燥・熱処理を行うことが好ましい。
【0100】
熱処理の温度は、前記異形断面複合繊維に含まれる第1成分の紡糸後の融点をTm(℃)としたときTm−10℃以上Tm+30℃以下であることが好ましい。例えば前記異形断面複合繊維の第1成分がポリエチレン系樹脂であれば熱処理の温度は120℃以上160℃以下、好ましくは130℃以上150℃以下である。また、前記異形断面複合繊維の第1成分がエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂であれば、熱処理の温度は150℃以上190℃以下、好ましくは160℃以上180℃以下である。また、前記異形断面複合繊維の第1成分がポリプロピレン系樹脂であれば熱処理の温度は140℃以上180℃以下、好ましくは150℃以上170℃以下である。また、前記異形断面複合繊維の第1成分がエチレン−プロピレン共重合樹脂であれば熱処理の温度は120℃以上160℃以下、好ましくは130℃以上150℃以下である。
【0101】
前記熱処理されて得られる不織布、即ち、熱接着不織布は、少なくとも前記異形断面複合繊維に含まれる低融点の樹脂成分によって構成繊維間の少なくとも一部が熱接着していれば、目付、厚さ、平均孔径、引張強力などは特に限定されない。しかし、熱接着不織布の目付は、10g/m
2以上100g/m
2以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましい目付は、20g/m
2以上90g/m
2以下の範囲であり、特に好ましくは25g/m
2以上80g/m
2以下の範囲であり、最も好ましくは30g/m
2以上80g/m
2以下の範囲である。熱接着不織布の目付が10g/m
2未満であると、不織布に粗密が生じて、セパレータとして使用したときに短絡が生じることがある。熱接着不織布の目付が100g/m
2を越えると、セパレータの厚さも大きくなり、その分、電池内の正極および負極の量が少なくなることがある。
【0102】
前記熱接着不織布の厚さは、150μm以上350μm以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、200μm以上300μm以下の範囲内にあり、特に好ましくは230μm以上270μm以下の範囲内にある。熱接着不織布の厚さが150μm未満であると、地合いムラが生じることがあり、あるいはセパレータ材料の突き刺し強力が低下することがある。熱接着不織布の厚さが350μmより大きくなると、セパレータ厚さが大きくなるので電池内の正極および負極の量が少なくなる。
【0103】
また、前記熱接着不織布の比容積は、3.5cm
3/g以上、6.0cm
3/g以下の範囲内にあることが好ましい。熱接着不織布の比容積が3.5cm
3/g未満であると、熱接着不織布が緻密になりすぎるため、得られるセパレータ材料も緻密なものになる。その結果、セパレータ材料の電解液保持性が低下し、電池の内部抵抗が上昇することがあるほか、セパレータ材料の柔軟性が失われ、セパレータ材料としての工程性が低下することがある。一方、セパレータ材料の比容積が6.0cm
3/gを超えると、セパレータ材料の嵩が大きくなりすぎ、セパレータ材料の孔径を小さくすることが困難となる。その結果、微粉末短絡が発生しやすくなる傾向にある。本発明のセパレータ材料における比容積は、より好ましくは3.7cm
3/g以上、5.8cm
3/g以下であり、特に好ましくは4.0cm
3/g以上5.5cm
3/g以下であり、最も好ましくは4.2cm
3/g以上5.2cm
3/g以下である。
【0104】
次に、得られた熱接着不織布に対して、必要に応じて親水化処理を施すことができる。本発明のセパレータ材料に含まれる異形断面複合繊維や、極細繊維または極細繊維発生繊維がポリオレフィン系樹脂からなる場合、エチレン−ビニルアルコール系樹脂以外のポリオレフィン系樹脂は一般的に疎水性が強く、セパレータ材料に求められる親水性を示さないことが多い。そのため、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維を含む熱接着不織布を親水化処理することが好ましい。親水化処理は、セパレータ材料の製造において常套的に用いられている任意の方法を用いて実施してよい。親水化処理は、具体的には、フッ素雰囲気に晒す処理(以下、単にフッ素処理という)、ビニルモノマーのグラフト重合処理、スルホン化処理、オゾンガス処理、コロナ放電処理やプラズマ放電処理といった、各種放電処理、界面活性剤処理または親水性樹脂付与処理である。親水化処理は、繰り返し実施してよい。あるいは、2以上の親水化処理を組み合わせてよい。
【0105】
例えばコロナ放電処理は、熱接着不織布の両面にそれぞれ1〜20回繰り返し実施して、総放電量が0.05〜10kW・分/m
2の範囲内となるようにしてよい。フッ素処理としては、熱接着不織布を窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスで希釈したフッ素ガスと、酸素ガスや亜硫酸ガス(二酸化硫黄ガスとも称す)、二酸化炭素ガス等との混合ガスにさらすことによって、熱接着不織布表面に親水基を導入する方法が挙げられる。なお、熱接着不織布表面に対して亜硫酸ガスを接触、反応させた後、フッ素ガスを接触、反応させると、より効率的に恒久的な親水性を付与することができる。フッ素処理を行った場合には、処理後の熱接着不織布を水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液中で中和処理し、温水洗浄、乾燥させてもよい。
【0106】
グラフト重合処理は、ビニルモノマーと重合開始剤とを含む溶液中に熱接着不織布を浸漬して加熱する方法、熱接着不織布にビニルモノマーを塗布した後に放射線を照射する方法等で実施してよい。さらに、ビニルモノマー溶液と熱接着不織布とを接触させる前に、紫外線照射、コロナ放電、プラズマ放電などにより、熱接着不織布表面を改質処理することが好ましい。不織布表面の改質処理は、効率的なグラフト重合を可能にする。
【0107】
スルホン化処理としては、濃硫酸を用いた処理、発煙硫酸を用いた処理、クロロスルホン酸を用いた処理、無水硫酸を用いた処理などが挙げられる。具体的には、スルホン化処理は、濃硫酸、発煙硫酸、三酸化イオウ、クロロ硫酸、又は塩化スルフリルからなる溶液中に、熱接着不織布を浸漬して熱接着不織布表面にスルホン酸基を導入する方法や、一酸化硫黄ガス、二酸化硫黄ガス或いは三酸化硫黄ガスなど各種硫黄酸化物ガス含有雰囲気中で熱接着不織布表面を放電処理に付して、熱接着不織布表面にスルホン酸基を導入する方法により実施してよい。スルホン化処理を行った場合には処理後の湿式不織布をアルカリ溶液中で中和処理し、温水洗浄、乾燥させてもよい。
【0108】
界面活性剤処理は、親水性能を有するアニオン系界面活性剤又はノニオン系界面活性剤の溶液中に熱接着不織布を浸漬し、あるいは塗布して付着させる方法等により実施してよい。
【0109】
なお、親水化処理は、上述したいかなる方法で実施してよく、また、二種以上の方法を組み合わせてもよい。また、親水化処理は、後述する厚さ調整工程の前に行ってもよく、厚さ調整工程の後に行ってもよい。厚さ調整工程後に親水化処理を実施すると、熱接着不織布内部に付着させる成分や、熱接着不織布表面の炭素原子と反応させる成分(例えばフッ素ガスや亜硫酸ガス、発煙硫酸、硫黄酸化物ガスなど)が浸透しにくくなることがあるので、親水化処理は厚さ調整工程の前に実施することが好ましい。
【0110】
本発明のセパレータ材料の製造方法においては、得られた前記熱接着不織布に対して熱カレンダーロールを用いて、少なくとも1回の厚さ調整工程を実施して、不織布のセパレータ材料に適する厚さに調整する。厚さ調整工程においては、40℃より高く、熱接着不織布の構成繊維を形成する樹脂のうち、融点が最も低い樹脂が溶融する温度より10℃以上低い温度の1対のプレス機(熱カレンダーロール)を用いることが好ましい。また、厚さ調整工程においては、前記不織布を厚さが50μm以上300μm以下となるようにプレスすることが好ましい。かかる処理を施すことにより、熱接着不織布を所望の厚さに調整できるとともに、熱接着不織布中に極細繊維が充分に発生していない場合に、極細繊維発生繊維からの極細繊維の発生を促進して、セパレータ材料中の極細繊維の割合をさらに高めることができる。1対のプレス機としては、ロール型、平板型プレス機などが挙げられるが、生産性を考慮すると平ロール型のカレンダー加工機を用いることが好ましい。
【0111】
より好ましい加工温度の下限は、45℃より高い温度である。より好ましい加工温度の上限は、不織布を構成する繊維を形成する樹脂のうち、融点が最も低い樹脂が溶融する温度より30℃以上低い温度である。さらにより好ましい加工温度の下限は、50℃より高い温度である。さらにより好ましい加工温度の上限は、不織布を構成する繊維を形成する樹脂のうち、融点が最も低い樹脂が溶融する温度より40℃以上低い温度である。加工温度が低すぎると、不織布の幅方向で厚さ斑が生じたり、加工後に不織布の厚さが復元する(厚さ回復)現象を引き起こしたりすることがある。加工温度が前記好ましい上限(熱接着不織布の構成繊維を形成する樹脂のうち、融点が最も低い樹脂が溶融する温度より10℃低い温度)を超えると、不織布表面の繊維間空隙が閉塞され、電解液及びガス通過性を低下させることがある。また、加工温度が前記好ましい上限より高いと、親水化処理を行った後に厚さ調整工程を実施する場合において、厚さ調整工程の温度により、親水化処理で付与された親水基が劣化して、熱接着不織布の親水性が減衰することがある。
【0112】
前記厚さ調整工程において、プレス処理における線圧は、150N/cm以上1500N/cm以下であることが好ましい。より好ましい線圧の下限は、200N/cmである。さらに好ましい線圧の下限は、300N/cmである。より好ましい線圧の上限は、1000N/cmである。さらに好ましい線圧の上限は、800N/cmである。線圧が150N/cm未満であると、厚さ調整工程が不安定になることがあり、線圧が1500N/cmを超えると、不織布表面がフィルム化し易い傾向となり、ガス及び電解液通過性に支障をきたすことがある。
【0113】
本発明のセパレータ材料は、下記の物性値を満たすことが好ましい。下記の物性値がそれぞれの範囲を満たすセパレータ材料は緻密性および地合の均一性に優れる。また、下記の物性値がそれぞれの範囲を満たすセパレータ材料は、突き刺し強力が高く、適度に変形する。よって、下記の物性値がそれぞれの範囲を満たすセパレータ材料は、各種アルカリ二次電池のセパレータとして使用したときに、異物と接触して圧力を受けても、異物を貫通させにくく、高い耐ショート性能を示す。
【0114】
本発明のセパレータ材料の突き刺し強力は12N以上であると好ましい。セパレータ材料の突き刺し強力は金属バリ等の混入した金属異物や、二次電池を繰り返し使用した際に発生するデンドライトに起因する短絡防止性(耐ショート性)の程度を表す代用特性である。この値が大きいほど金属異物やデンドライトに起因する短絡が発生しにくいことを示す。セパレータ材料の突き刺し強力が12N未満であるとセパレータとして使用した際、金属異物やデンドライトに起因する短絡が発生しやすくなることがある。本発明のセパレータ材料のより好ましい突き刺し強力の下限は14N以上であり、特に好ましい下限は15.5N以上である。突き刺し強力の上限は特に限定されないが、セパレータ材料の生産性、取り扱い性を考慮すると30N以下であることが好ましく、27N以下であることがより好ましく、25N以下であることが特に好ましい。
【0115】
前記突き刺し強力は、下記の方法で測定された値を指す。まず、突き刺し強力を測定するセパレータ材料、あるいは熱接着不織布について、縦30mm、幅100mmの大きさに裁断したもの試料として用意する。この試料を、ハンディー圧縮試験機(カトーテック(株)製 KES−G5)の円筒状貫通孔(直径11mm)を有する支持体の上に置き、更にその上に縦46mm、横86mm、厚さ7mmのアルミ板の中央部に直径11mmの孔を有する押さえ板を、当該孔が支持体の円筒状貫通孔と一致するように載置する。次いで、高さ18.7mm、底面直径2.2mm、先端部形状が直径1mmの球形である円錐形状の針を、2mm/秒の速度で押さえ板の中央に垂直に突き刺した時の荷重と、前記円錐状の針によって試料が押され、変形した長さを測定し、測定した荷重のうち、前記円錐状の針が試料を貫通する直前の、荷重が最大となっている値をその試料の突き刺し強力(N)とする。突き刺し強力は、1枚のセパレータ材料、もしくは熱接着不織布から4枚試料を採取し、それぞれの試料について異なる15箇所で測定し、計60箇所で測定した値の平均値をその試料における突き刺し強力とする。
【0116】
本発明のセパレータ材料の厚さは50μm以上300μm以下であると好ましい。セパレータ材料の厚さが50μm未満であると、セパレータ材料の孔径、特に最大孔径が大きくなる傾向にあり、微粉末短絡防止性及びデンドライト短絡防止性が低下することがある。一方、セパレータ材料の厚さが300μmを超えると、電解液通過性が悪くなり、電池の内部抵抗が上昇することがある。また、厚さの大きいセパレータ材料の使用は電池容積当たりの電極板数を減少させるため、電池性能も劣る傾向にある。本発明のセパレータ材料における厚さは、より好ましくは70μm以上200μm以下であり、特に好ましくは100μm以上150μm以下であり、最も好ましくは105μm以上140μm以下である。
【0117】
本発明のセパレータ材料の目付は、10g/m
2以上100g/m
2以下の範囲内にあることが好ましい。セパレータ材料の目付が前記範囲を外れると、本発明のセパレータ材料の厚さや孔径が所定の範囲を満たさなくなることがある。本発明のセパレータ材料の目付は、より好ましくは20g/m
2以上90g/m
2以下であり、特に好ましくは25g/m
2以上80g/m
2以下であり、最も好ましくは30g/m
2以上80g/m
2以下である。
【0118】
本発明のセパレータ材料の比容積は1.5cm
3/g以上3.5cm
3/gの範囲内にあると好ましい。セパレータ材料の比容積が1.5cm
3/g未満であると、セパレータ材料が緻密になりすぎて電解液の保持性(保液率)が低下し、その結果電池の内部抵抗が上昇することがある。一方、セパレータ材料の比容積が3.5cm
3/gを超えると、セパレータ材料の嵩が大きくなりすぎ、セパレータの孔径を小さくすることが困難となり、その結果、微粉末短絡が発生しやすくなる傾向にある。本発明のセパレータ材料の比容積は、2.0cm
3/g以上3.0cm
3/g以下であることがより好ましく、2.2cm
3/g以上2.7cm
3/g以下であることが特に好ましく、2.3cm
3/g以上2.5cm
3/g以下であることが最も好ましい。
【0119】
本発明のセパレータ材料の平均孔径は3μm以上15μm以下の範囲内であることが好ましい。平均孔径が3μm以上15μm以下の範囲内にあると、微粉末短絡防止性及びデンドライト短絡防止性に優れたセパレータ材料を得ることができる。平均孔径が3μm未満であると、電解液保持性が低下し、電池の内部抵抗が大きくなる傾向にある。一方、平均孔径が15μmを超えると、微粉末短絡、及びデンドライト短絡が発生する傾向にある。前記平均孔径は、3.5μm以上12μm以下であることがより好ましく、3.5μm以上10μm以下であることが特に好ましい。
【0120】
本発明のセパレータ材料は、少なくとも1方向(例えばMD方向(機械方向、縦方向とも称す)、CD方向(幅方向、横方向とも称す))において、70N/5cm以上の引張強力を有することが好ましい。少なくとも1方向の引張強力は、100N/5cm以上であってもよく、130N/5cm以上であってもよい。引張強力の上限は特に限定されず、例えば、引張強力は350N/5cm以下であってよい。セパレータ材料の少なくとも1方向の引張強力が70N/5cm未満であると、他の機械的特性である突き刺し強力も低下する場合がある。また、セパレータ材料の少なくとも1方向の引張強力が70N/5cm未満であると、セパレータ材料の生産時や電池の製造時にセパレータ材料の取り扱い性、生産性が低下する場合がある。
【実施例】
【0121】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、用いる繊維の各種物性、得られた熱接着不織布やセパレータ材料の各種物性は以下の方法により測定した。
【0122】
[単繊維繊度]
JIS L 1013に準じて測定した。
【0123】
[単繊維強度・単繊維伸度]
JIS L 1015に準じ、引張試験機を用いて、試料のつかみ間隔を20mmとし、繊維が切断したときの荷重値を単繊維強度とし、切断したときの伸びを単繊維伸度とした。
【0124】
[厚さ]
熱接着不織布及びセパレータ材料の厚さを、マイクロメータ((株)ミツトヨ 製 マイクロメータ MDC−25MJ)を用い、JIS B 7502に準じ、3枚の試料のそれぞれ異なる10箇所で、荷重が175kPaになるようにして厚さを測定し、計30箇所の平均値を求め、試料の厚さとした。
【0125】
[引張試験]
JIS L 1096 6.12.1 A法(ストリップ法)に準じ、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重を測定し、引張強力とし、切断時の伸びを伸度(%/5cm)とした。
【0126】
[孔径分布(最大孔径・最小孔径・平均孔径)]
パームポロメータ(Porous Materials INC.製)を使用し、ASTM F 316 86に準じ、バブルポイント法によって測定した。
【0127】
[通気度]
フラジール型試験機を用いて、JIS L 1096に準じて測定した。
【0128】
[突き刺し強力]
先に説明した方法に従って測定した。
【0129】
[保液率]
測定するセパレータ材料を、ホームベース形状の五角形(長辺15cm、長辺から延びる横の2辺12cm、尖る2辺8cm)に切断して試験片とした。この試験片の水分平衡状態の重量(W)を1mgまで測定する。次に比重1.30の水酸化カリウム水溶液(以下KOH溶液とも称す)中に試験片を浸漬し、KOH溶液を1時間吸収させたのち液中から引き上げて、長さが15cmの辺を上にして吊し、10分間放置した後、試験片の重量(W
1)を測定した。下記式1から保液率を算出した。
保液率(%)=100×(W
1−W)/W・・・式1
【0130】
[吸液高さ]
測定するセパレータ材料から、幅×長さが25×250mmの試験片を、その長さ方向がセパレータの縦(MD)方向と一致するように3枚採取し、水分平衡状態にした。次に、試験片を20℃に保った比重1.30のKOH溶液を入れた水槽上の一定の高さに支えた水平棒にピンでとめた。試験片の下端を一線に揃えて水平棒を下ろし、試験片の下端が5mmだけ液に浸かるように垂直に立て、毛細管現象によりKOH溶液が上昇した高さを30分後に測定し、3枚の試験片についての平均値を算出した。
【0131】
[繊維ウェブの構成繊維]
実施例、及び比較例のセパレータ材料を製造するのに際し、下記に示す繊維を用いた。
【0132】
[分割型複合繊維]
分割型複合繊維1:一方の樹脂成分がエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂からなり、もう一方の樹脂成分がポリプロピレンからなる断面形状が
図14(a)に示す中空16分割型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:50/50(体積比)
溶融紡糸の際の中空率:12%
延伸処理:乾式延伸。延伸倍率3.5倍。
繊度:1.1dtex、繊維長:3mm。
【0133】
[異形断面複合繊維]
異形断面複合繊維1(4葉芯鞘):第2成分がポリプロピレン、第1成分が高密度ポリエチレンからなり、第2成分と第1成分が、
図1に示す断面形状になるように配置された4葉異形断面の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:60/40(第2/第1、体積比、以下同様)
延伸処理:表面温度が110℃の金属熱ロールを用いた乾式延伸。延伸倍率3.4倍。
繊度:0.8dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:5.61cN/dtex、伸度:44.4%。
【0134】
異形断面複合繊維2(4葉芯鞘先端PE):第2成分がポリプロピレン、第1成分が高密度ポリエチレンからなり、
図3に示すように、各凸部の先端部分のみに第1成分である高密度ポリエチレンが配置された4葉異形断面の複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:60/40(第2/第1)
延伸処理:表面温度が110℃の金属熱ロールを用いた乾式延伸。延伸倍率3.4倍。
繊度:0.8dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:4.56cN/dtex、伸度:88.7%。
【0135】
異形断面複合繊維3(8葉芯鞘):第2成分がポリプロピレン、第1成分が高密度ポリエチレンからなり、第2成分と第1成分が、
図2に示す断面形状になるように配置された8葉異形断面の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:60/40(第2/第1)
延伸処理:表面温度が110℃の金属熱ロールを用いた乾式延伸。延伸倍率3.4倍。
繊度:1.7dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:5.63cN/dtex、伸度:37.1%。
【0136】
異形断面複合繊維4(4葉芯鞘):第2成分がポリプロピレン、第1成分が高密度ポリエチレンからなり、第2成分と第1成分が、
図1に示す断面形状になるように配置された4葉異形断面の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:60/40(第2/第1)
延伸処理:表面温度が110℃の金属熱ロールを用いた乾式延伸。延伸倍率2.8倍。
繊度:1.7dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:3.56cN/dtex、伸度:137.2%。
【0137】
異形断面複合繊維5(4葉芯鞘):第2成分がポリプロピレン、第1成分が高密度ポリエチレンからなり、第2成分と第1成分が、
図1に示す断面形状になるように配置された4葉異形断面の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:60/40(第2/第1)
延伸処理:表面温度が110℃の金属熱ロールを用いた乾式延伸。延伸倍率1.5倍。
繊度:1.7dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:2.12cN/dtex、伸度:279.3%。
【0138】
異形断面複合繊維6(8葉芯鞘):第2成分がポリプロピレン、第1成分が高密度ポリエチレンからなり、第2成分と第1成分が、
図2に示す断面形状になるように配置された8葉異形断面の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:60/40(第2/第1)
延伸処理:表面温度が110℃の金属熱ロールを用いた乾式延伸。延伸倍率2倍。
繊度:1.7dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:2.65cN/dtex、伸度:205.0%。
【0139】
異形断面複合繊維7(4葉芯鞘):第2成分がポリプロピレン、第1成分が高密度ポリエチレンからなり、第2成分と第1成分が、
図1に示す断面形状になるように配置された4葉断面の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:50/50(第2/第1)
延伸処理:表面温度が110℃の金属熱ロールを用いた乾式延伸。延伸倍率3.4倍。
繊度:0.8dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:4.65cN/dtex、伸度:62.6%。
【0140】
異形断面複合繊維8(4葉芯鞘):第2成分がポリプロピレン、第1成分が高密度ポリエチレンからなり、第2成分と第1成分が、
図1に示す断面形状になるように配置された4葉断面の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:70/30(第2/第1)
延伸処理:表面温度が110℃の金属熱ロールを用いた乾式延伸。延伸倍率3.4倍。
繊度:0.8dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:5.27cN/dtex、伸度:46.6%。
【0141】
[芯鞘型複合繊維]
芯鞘型複合繊維1:芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンからなる、同心円状の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:7/3(芯/鞘)
繊度:0.8dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:5.31cN/dtex、伸度:47.7%。
【0142】
芯鞘型複合繊維2:芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンからなる、同心円状の芯鞘型複合繊維。
溶融紡糸の際の複合比:5/5(芯/鞘)
繊度:0.8dtex、繊維長:5mm、単繊維強度:3.85cN/dtex、伸度:65.6.%。
【0143】
[実施例1〜11、比較例1〜7]
異形断面複合繊維、極細繊維を発生しうる分割型複合繊維、芯鞘型複合繊維の物性や混合率を変更した湿式不織布を実施例1〜11、比較例1〜7として作製した。表1、2に示す混合率になるように繊維を計量し、繊維濃度が0.01質量%になるように水分散スラリーを調製した。調製したスラリーを、家庭用ミキサーを用いて毎分2000回転で1分間攪拌し、前記分割型複合繊維を各樹脂成分に分割させて極細繊維を発生させると同時に各構成繊維が均一に分散したスラリーとした。得られたスラリーを湿式抄紙し、目付が約53g/m
2の繊維ウェブを作製した。繊維ウェブを、搬送用支持体で搬送し、140℃に加熱したシリンダードライヤー(ヤンキードライヤー)を用いて、45秒間、ウェブに加熱処理を施して、繊維ウェブを乾燥させると同時に、含まれている異形断面複合繊維および/または芯鞘型複合繊維の高密度ポリエチレンによって繊維同士を接着させて、熱接着不織布を得た。
【0144】
次に、前記熱接着不織布に、温度60℃、線圧約320N/cmの条件で熱ロールを用いた厚さ加工を行い、約120μmに厚さを調整し、セパレータ材料を作製した。この実施例1〜11、比較例1〜7の熱接着不織布について、セパレータ材料への適応性を評価するため、目付、厚さ、突き刺し強力、引張強力の各項目を測定した。各項目を測定した結果を表1、表2に示す。表1および表2において、原紙物性とは、厚さ加工を実施する前の熱接着不織布の物性を示す。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
実施例1、2、4−6のセパレータ材料はいずれも、比較例1および2と比較して、高い突き刺し強力を示した。また、実施例3で用いた異形断面複合繊維は、その単繊維強度が比較例で用いた芯鞘型複合繊維のそれよりも相当に小さいにもかかわらず、実施例3のセパレータ材料は比較例2と同等の突き刺し強力を示した。これらのことは、熱接着性複合繊維の繊維断面形状がセパレータ材料の突き刺し強力に影響を与え、異形断面複合繊維が突き刺し強力の向上に寄与していることを示している。異形断面複合繊維を使用すると、熱接着面積が広くなるために、突き刺し強力が向上すると考えられる。
【0148】
実施例1と実施例5で使用した異形断面複合繊維の単繊維強度はほぼ同じであったが、実施例1のセパレータ材料はより高い突き刺し強力を示した。これは、実施例1で使用した異形断面複合繊維は、L
3/L
1が大きい、即ち第2成分の凸部の実質的長さが大きいために、異形断面複合繊維およびそれを含む繊維束の扁平化の度合いが大きくなったことによると考えられる。
【0149】
実施例1、2と実施例4で使用した異形断面複合繊維は、いずれも第2成分が4つの凸部を有する4葉形状であるが、実施例1および2のセパレータ材料の突き刺し強力が、実施例4のそれよりも高かった。これは、実施例4において、第1成分が凸部の先端にのみ位置したために、第1成分が熱処理の際に十分に広がらなかったことによると考えられる。
【0150】
実施例1、7、8で使用した異形断面複合繊維は、第1成分と第2成分の複合比がそれぞれ異なる繊維である。第1成分(鞘成分)の割合が最も大きい繊維を使用した実施例7のセパレータ材料は、最も高い引張強力を示した。これは、異形断面複合繊維の第1成分の量が多いために、繊維同士が強固に接合していることによると考えられる。しかし、実施例7のセパレータは、最も低い突き刺し強力を示した。これは、第2成分の量が少ないために、短繊維強度が小さいことによると考えられる。実施例8においては第2成分の割合が大きい異形断面複合繊維を使用したので、高い突き刺し強力が得られた。しかし、実施例8のセパレータ材料の引張強力は3つの実施例の中で最も低かった。これは、実施例8で使用した異形断面複合繊維の第1成分の割合が小さいことによると考えられる。
【0151】
分割型複合繊維と異形断面複合繊維とからなる実施例9〜11のセパレータ材料は、比較例3〜5のセパレータ材料とそれぞれ比較して、より大きい突き刺し強力を示した。また、実施例9〜11の比較において、異形断面複合繊維をより多く含むものが、より高い突き刺し強力を示す傾向にあった。これらのこともまた、異形断面複合繊維が突き刺し強力の向上に寄与していることを示している
【0152】
[実施例10A、比較例4A]
実施例10および比較例4で採用した繊維および混合率を変化させることなく、大型の湿式抄紙機を用いて、2種類の湿式不織布を作製した。繊維を計量し、繊維濃度が0.5質量%の濃度になるように水分散スラリーを調製した。調製したスラリーを撹拌して、前記分割型複合繊維を各樹脂成分に分割させて極細繊維を発生させると同時に各構成繊維が均一に分散したスラリーとした。得られたスラリーを大型の湿式抄紙機を用いて湿式抄紙し、目付が約60g/m
2の繊維ウェブを作製した。繊維ウェブを、搬送用支持体で搬送し、140℃に加熱したシリンダードライヤー(ヤンキードライヤー)を用いて湿式抄紙ウェブに加熱処理を施して、繊維ウェブを乾燥させると同時に、含まれている異形断面複合繊維および/または芯鞘型複合繊維のポリエチレンによって繊維同士を接着させて、熱接着不織布を得た。
【0153】
得られた熱接着不織布にフッ素処理を施して、親水性を付与した。具体的には、窒素ガスで希釈した、フッ素ガスと、酸素ガスと、二酸化硫黄ガスとを混合したガスに熱接着不織布を約200分間さらして、フッ素処理を実施した。
【0154】
次に、前記熱接着不織布に、温度60℃、線圧約500N/cmの条件で熱ロールを用いた厚さ加工を加工速度15m/分の条件で行い、熱接着不織布の厚さを約150μmに調整した。
【0155】
前記厚さ加工後の熱接着不織布に対し、親水性を更に高めるためにコロナ放電処理を熱接着不織布の両面に対し実施し、本発明のセパレータ材料を得た。コロナ放電処理は熱接着不織布の両面に対し、それぞれ4回ずつ、放電量1.0kW・分/m
2でコロナ放電処理を施した(総放電量8kW・分/m
2)。コロナ放電処理が終了した、実施例10A(実施例10と同じ繊維および混合比を採用)、比較例4A(比較例4と同じ繊維および混合比を採用)のセパレータ材料について、目付、厚さ、突き刺し強力、引張強力等を測定した。測定結果を表3に示す。
【0156】
【表3】
【0157】
大型の抄紙機を用いた場合でも、異形断面複合繊維を使用した実施例10Aは、円形断面の芯鞘型複合繊維を使用した比較例4Aと比較して、原紙の段階において、および親水化処理および厚さ加工の後において、高い引張強力および突き刺し強力を示した。また、実施例10Aは、比較例4Aと比較して、より高い保液性を示した。これは、鋭角を形成している凹部を有する異形断面複合繊維が、構成繊維間に微細な空隙を数多く形成し、その空隙に液体が保持されていることによると考えられる。