特許第5961171号(P5961171)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5961171毒素産生性クロストリディウム・ディフィシルの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961171
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】毒素産生性クロストリディウム・ディフィシルの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20160719BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160719BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20160719BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
   C12Q1/04
   C12Q1/06
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-531437(P2013-531437)
(86)(22)【出願日】2012年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2012072219
(87)【国際公開番号】WO2013031973
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-190706(P2011-190706)
(32)【優先日】2011年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 博之
(72)【発明者】
【氏名】牧野 博
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隆史
(72)【発明者】
【氏名】石川 英司
(72)【発明者】
【氏名】大石 憲司
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/061752(WO,A1)
【文献】 特表2010−537648(JP,A)
【文献】 特開2003−164282(JP,A)
【文献】 Journal of Microbiological Methods,2010年,Vol.83,p.59-65
【文献】 JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY,2003年,Vol.41, No.2,p.730-734
【文献】 日本細菌学雑誌,2008年,Vol.63, No.1,p.166,3-E-27/P43
【文献】 Journal of Applied Microbiology,2004年,Vol.97,p.1166-1177
【文献】 JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY,2011年,Vol.49, No.1,p.227-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
【請求項2】
請求項1記載のプライマーペアと共に使用されるオリゴヌクレオチドプローブであって、配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項3】
オリゴヌクレオチドの5'末端に蛍光物質が結合し、3'末端にクエンチャー物質が結合した請求項2記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項4】
請求項1記載のプライマーペアと請求項3記載のオリゴヌクレオチドプローブとを備えるリアルタイムPCR用のオリゴヌクレオチドセット。
【請求項5】
ヒト糞便から抽出したDNAを鋳型として、請求項4記載のオリゴヌクレオチドセットを用いてPCRを行う工程と、蛍光を測定することにより増幅産物を測定する工程とを含む、毒素産生性クロストリディウム・ディフィシル(C. difficile)の検出方法。
【請求項6】
さらに、以下の(i)のプライマーペアと(ii)のオリゴヌクレオチドプローブとを備えるリアルタイムPCR用のオリゴヌクレオチドセットを用いてPCRを行う工程を含む、請求項5記載の方法。
(i)配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
(ii)配列番号6に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブであって、当該オリゴヌクレオチドの5'末端に蛍光物質が結合し、3'末端にクエンチャー物質が結合したオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項7】
ヒト糞便から抽出したDNAを鋳型として、請求項4記載のオリゴヌクレオチドセット、並びに以下に示す(a)のプライマーペア又は(a)のプライマーペアと(b)のオリゴヌクレオチドプローブとを備えるリアルタイムPCR用のオリゴヌクレオチドセットを用いてPCRを行う工程と、蛍光を測定することにより増幅産物を測定する工程とを含む、ヒト糞便中のクロストリディウム・ディフィシル(C. difficile)における毒素産生性C. difficile及び/又は毒素非産生性C. difficileの存在比率の算出方法。
(a)配列番号7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
(b)配列番号9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブであって、当該オリゴヌクレオチドの5'末端に蛍光物質が結合し、3'末端にクエンチャー物質が結合したオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項8】
さらに、以下の(i)のプライマーペアと(ii)のオリゴヌクレオチドプローブとを備えるリアルタイムPCR用のオリゴヌクレオチドセットを用いてPCRを行う工程を含む、請求項7記載の方法。
(i)配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
(ii)配列番号6に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブであって、当該オリゴヌクレオチドの5'末端に蛍光物質が結合し、3'末端にクエンチャー物質が結合したオリゴヌクレオチドプローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒素産生性クロストリディウム・ディフィシル(Clostridium difficile)を検出するためのオリゴヌクレオチド及びそれを用いた毒素産生性クロストリディウム・ディフィシルの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウム・ディフィシル(C. difficile)は、ヒトに対して病原性である菌体外毒素を産生する芽胞形成グラム陽性桿菌である。本菌により引き起こされるC. difficile関連下痢症(CDAD)は、近年、大きな問題となっている(非特許文献1)。すなわち、抗生物質や抗がん剤等の過剰使用により正常な腸内細菌叢が損なわれ、その結果増殖したC. difficileが毒素TcdA及びTcdBを産生し、下痢等の症状を発症する。C. difficileは、感染した人の便中に出て、器物や手等を介して、人の口や粘膜に到達して感染することが知られている。
【0003】
C. difficileの病原性は主として、Large Clostridial Toxin (LCTs)ファミリーに属する2種類の毒素TcdA及びTcdBに起因するが、C. difficileの各菌株はこれらの毒素産生性の違いにより、TcdA産生TcdB産生型(A+B+)、TcdA非産生TcdB産生型(A-B+)、及び毒素非産生型(A-B-)に大別される。また、C.difficile の毒素産生系は、tcdA及びtcdBと、それらの調節因子をコードするtcdC, tcdR, tcdE から構成される病原性座位により成り立っているとされ、毒素の産生を負に制御するtcdC が欠損すると、毒素TcdA及びTcdB産生が亢進されることが報告されている。
【0004】
従って、毒素産生性C. difficile(A+B+及びA-B+)のみを選択的に検出することは、CDAD等のC. difficile感染症(Clostridium difficile infection:CDI)の診断において臨床上重要である。
【0005】
従来、毒素産生性C. difficileの検出については、毒素遺伝子tcdA及びtcdBを標的としたプライマーが幾つか報告されており、これらを用いて糞便抽出DNAから当該遺伝子を検出できることが報告されている(非特許文献2−4、特許文献1)。
しかしながら、C. difficileは健常なヒト腸内における菌数レベルが低いため、PCRを用いて糞便中の毒素産生株を検出するためには、より高い特異性及び検出感度の両方を有した検出系の構築が必要であり、この点で、未だ十分であるとは云えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−164282号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rupnik, M., M. H. Wilcox, and D. N. Gerding., Nat Rev Microbiol. 2009 7:526-36
【非特許文献2】Belanger, S. D., M. Boissinot, N. Clairoux, F. J. Picard, and M. G. Bergeron., J Clin Microbiol. 2003 41:730-4
【非特許文献3】Houser, B. A., A. L. Hattel, and B. M. Jayarao., Foodborne Pathog Dis. 2010 7:719-26.
【非特許文献4】Sloan, L. M., B. J. Duresko, D. R. Gustafson, and J. E. Rosenblatt., J Clin Microbiol. 2008 46:1996-2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、毒素産生性C. difficileを特異的且つ高感度で検出することを可能とするオリゴヌクレオチド、及びこれを用いた毒素産生性C. difficileの検出方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、20菌株のtcdA遺伝子配列、22菌株のtcdB遺伝子配列、更にはClostridium sordeliiの毒素遺伝子であるtcsL 、Clostridium novyiの毒素遺伝子であるtcnA、Clostridium perfringensの毒素遺伝子であるtcpLの塩基配列を併せてアライメントし、設計した特定のオリゴヌクレチドを用いてtcdA遺伝子及びtcdB遺伝子を増幅・測定することにより、毒素産生性のC. difficileを特異的且つ優れた感度で検出できることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の1)〜10)に係るものである。
1)配列番号1に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
2)配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ。
3)オリゴヌクレオチドの5’末端に蛍光物質が結合し、3’末端にクエンチャー物質が結合した上記2)のオリゴヌクレオチドプローブ。
4)上記1)のプライマーペアと上記3)のオリゴヌクレオチドプローブとを備えるリアルタイムPCR用のオリゴヌクレオチドセット。
5)配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
6)配列番号6に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ。
7)オリゴヌクレオチドの5’末端に蛍光物質が結合し、3’末端にクエンチャー物質が結合した上記6)オリゴヌクレオチドプローブ。
8)上記5)のプライマーペアと上記7)のオリゴヌクレオチドプローブとを備えるリアルタイムPCR用のオリゴヌクレオチドセット。
9)ヒト糞便から抽出したDNAを鋳型として、上記4)又は8)のオリゴヌクレオチドセットを用いてそれぞれPCRを行う工程と、蛍光を測定することにより増幅産物を測定する工程とを含む、毒素産生性C. difficileの検出方法。
10)ヒト糞便から抽出したDNAを鋳型として、上記4)及び/又は8)のオリゴヌクレオチドセット、並びに以下に示す(a)のプライマーペア又は(a)のプライマーペアと(b)のオリゴヌクレオチドプローブとを備えるリアルタイムPCR用のオリゴヌクレオチドセットを用いてそれぞれPCRを行う工程と、蛍光を測定することにより増幅産物を測定する工程とを含む、ヒト糞便中のC. difficileにおける毒素産生性C. difficile及び/又は毒素非産生性C. difficileの存在比率の算出方法。
(a)配列番号7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
(b)配列番号9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブであって、当該オリゴヌクレオチドの5’末端に蛍光物質が結合し、3’末端にクエンチャー物質が結合したオリゴヌクレオチドプローブ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオリゴヌクレオチド及び毒素産生性C. difficileの検出方法によれば、特異的且つ高感度で糞便中の毒素産生性C. difficileを検出することができる。したがって、本発明によれば、毒素産生性C. difficileの感染症の診断を簡易且つ正確に行うことが可能となり、また、健常成人の糞便中における毒素産生性C. difficile株の検出頻度を容易に調べることができる。また、併せてC. difficileの総菌数を測定することにより、糞便中のC. difficileについて、毒素産生性C. difficile或いは毒素非産生性C. difficileの存在比率を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】TaqMan PCR法における標的菌に対する反応性(A:tcdA-F/R/P、B:tcdB-F/R/P)
図2】TaqMan PCR法における糞便中の標的菌の検出感度(A:tcdA-F/R/P、B:tcdB-F/R/P)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のプライマーペアには、(1)tcdA遺伝子を増幅するためのプライマーペアと、(2)tcdB遺伝子を増幅するためのプライマーペアが含まれる。
【0014】
(1)tcdA遺伝子を増幅するためのプライマーペアは、配列番号1に示される塩基配列(5’-CAGTCGGATTGCAAGTAATTGACAAT-3’(tcdA-F))からなるオリゴヌクレオチドである第1のプライマーと、配列番号2に示される塩基配列(5’-AGTAGTATCTACTACCATTAACAGTCTGC-3’(tcdA-R))からなるオリゴヌクレオチドである第2のプライマーからなる。第1のプライマーは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)等の核酸増幅反応においてフォワードプライマーとして使用でき、第2のプライマーは、核酸増幅反応において第1のプライマーと組み合わせるリバースプライマーとして使用できる。
【0015】
C. difficileの各菌株は、TcdA産生TcdB産生型(A+B+)、TcdA非産生TcdB産生型(A-B+)、及び毒素非産生型(A-B-)に大別されるが、tcdA毒素遺伝子の有無とTcdA毒素産生の有無は必ずしも一致しないことが明らかになっている。従来公知のtcdA遺伝子を増幅するためのプライマーを用いた場合では、A+B+型株のみならず、A-B+型株も検出されることが多く、当該方法ではTcdA毒素産生菌のみを検出することはできない(実施例2(3)参照)。これに対して、本発明の第1及び第2のプライマーからなるプライマーペアを用いた場合は、表3に示すとおりA+B+型株におけるtcdAのみが増幅され、A-B+型株におけるtcdAは増幅されない。すなわち、本発明のtcdA遺伝子を増幅するためのプライマーペアを用いた場合には、TcdA毒素産生性C. difficile、すなわちA+B+型株のみを確実に検出することができる(実施例2(2)及び(3)参照)。
【0016】
(2)tcdB遺伝子を増幅するためのプライマーペアは、配列番号4に示される塩基配列(5’- TACAAACAGGTGTATTTAGTACAGAAGATGGA-3’(tcdB-F))からなるプライマーである第3のプライマーと、配列番号5に示される塩基配列(5’- CACCTATTTGATTTAGMCCTTTAAAAGC-3’(tcdB-R))からなるプライマーである第4のプライマーからなる。第3のプライマーは、核酸増幅反応においてフォワードプライマーとして使用でき、第4のプライマーは、核酸増幅反応において第3のプライマーと組み合わせるリバースプライマーとして使用できる。
当該プライマーペアを用いることにより、tcdB遺伝子を確実に増幅することができ、TcdB毒素産生性C. difficile、すなわちA+B+型株及びA-B+型株を確実に検出することができる(表3)。
【0017】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブには、(1)tcdA遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブと、(2)tcdB遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブが含まれる。
(1)tcdA遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブは、配列番号3に示される塩基配列(5’−TTGAGATGATAGCAGTGTCAGGATTG− 3’(tcdA-P))からなるオリゴヌクレオチド(第1のプローブ)であり、上記第1及び第2のプライマーからなるプライマーペアによる増幅範囲に特異的に結合するものである。また、(2)tcdB遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブは、配列番号6に示される塩基配列(5’−TTTKCCAGTAAAATCAATTGCTTC− 3’(tcdB-P))からなるオリゴヌクレオチド(第2のプローブ)であり、上記第3及び第4のプライマーからなるプライマーペアによる増幅範囲に特異的に結合するものである。
【0018】
斯かるオリゴヌクレオチドプローブは、5’末端側をFAM (carboxyfluorescein) 、TET (tetrachlorocarboxyfluorescein)等の蛍光物質、3’末端をTAMRA (carboxytetramethylrhodamine) 、BHQ-1 (black hole quencher-1)等のクエンチャー物質で修飾することにより、例えばリアルタイムPCRを行うための、修飾オリゴヌクレオチド(所謂Taqmanプローブ)として使用できる。
【0019】
すなわち、修飾された第1のプローブは、上記第1及び第2のプライマーからなるプライマーペアと共に、tcdA遺伝子をリアルタイムPCRによって増幅・測定するためのオリゴヌクレオチドセットとして、修飾された第2のプローブは、上記第3及び第4のプライマーからなるプライマーペアと共に、tcdB遺伝子をリアルタイムPCRによって増幅・測定するためのオリゴヌクレオチドセットとして使用することができる。
【0020】
本発明のオリゴヌクレオチドは、上記配列番号1〜6に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの他、当該各塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドが包含される。すなわち、配列番号1及び配列番号2に示される塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア、配列番号3に示される塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、配列番号4及び配列番号5に示される塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア、配列番号6に示される塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブが包含される。
また、配列番号1〜6に示される塩基配列や当該塩基配列に対応する相補的配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列からなり、配列番号1〜6に示される塩基配列又はその相補的配列からなるオリゴヌクレオチドと其々プライマー又はプローブとして同等の機能を有するオリゴヌクレオチドは、本発明のオリゴヌクレオチドと同等に扱われる。
【0021】
本発明のオリゴヌクレオチドは、公知の化学合成法により容易に製造することができる。
【0022】
本発明の上記各プライマーペア、好ましくは上記各オリゴヌクレオチドプローブとを併せて用い、ヒト糞便から抽出したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、その増幅産物を測定することにより、TcdA毒素産生性C. difficile及びTcdB毒素産生性C. difficileをそれぞれ検出することができる。
ここで、当該検出には、C. difficileの有無の判定及びC. difficileの定量が包含される。尚、定量には菌数の定量が包含される。
【0023】
本発明の上記各プライマーペア、好ましくは上記各オリゴヌクレオチドプローブとを併せて用いることにより、糞便中におけるTcdA毒素産生性C. difficile及びTcdB毒素産生性C. difficileの菌数を測定することができるが、これらと、C. difficile特異的なプライマーやプローブを組み合わせ、C. difficileの総菌数を併せて測定することで、糞便中(腸内)におけるC. difficileの内訳、すなわちC. difficileの総菌数(A+B+型、A-B+型及びA-B-型の菌数の総和)に対する、毒素産生性C. difficile(A+B+型の菌数、A-B+型の菌数又はA+B+型及びA-B+型の菌数の総和)、又は毒素非産生性C. difficile(A-B-型の菌数)の存在比率を算出することができる。
斯かるC. difficileに特異的なプライマー、プローブとしては、以下に示す(a)のプライマーペア又は(a)のプライマーペアと(b)のオリゴヌクレオチドプローブとを備えるリアルタイムPCR用のオリゴヌクレオチドセットが挙げられる。
(a)配列番号7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーペア、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるプライマーペア。
(b)配列番号9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、又は当該塩基配列に対応する相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブであって、当該オリゴヌクレオチドの5’末端に蛍光物質が結合し、3’末端にクエンチャー物質が結合したオリゴヌクレオチドプローブ。
【0024】
ここで、(a)のプライマーペアは、配列番号7に示される塩基配列(5'−GCAAGTTGAGCGATTTACTTCGGT−3'(CD16SrRNA-F))からなるオリゴヌクレオチドである第5のプライマーと、配列番号8に示される塩基配列(5'−GTACTGGCTCACCTTTGATATTYAAGAG−3'(CD16SrRNA-R))からなるオリゴヌクレオチドである第6のプライマーからなる。第5のプライマーは、核酸増幅反応においてフォワードプライマーとして使用でき、第6のプライマーは、核酸増幅反応において第5のプライマーと組み合わせるリバースプライマーとして使用できる。
(b)のオリゴヌクレオチドプローブは、配列番号9に示される塩基配列(5'−TGCCTCTCAAATATATTATCCCGTATTAG−3'(CD16SrRNA-P))からなるオリゴヌクレオチド(第3のプローブ)であり、上記第5及び第6のプライマーからなるプライマーペアによる増幅範囲に特異的に結合するものである。斯かるオリゴヌクレオチドプローブは、5’末端側をFAM、TET等の蛍光物質、3’末端をTAMRA、BHQ-1等のクエンチャー物質で修飾することにより、例えばリアルタイムPCRを行うための、修飾オリゴヌクレオチド(所謂Taqmanプローブ)として使用できる。
なお、配列番号7〜9に示される塩基配列や当該塩基配列に対応する相補的配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列からなり、配列番号7〜9に示される塩基配列又はその相補的配列からなるオリゴヌクレオチドと其々プライマー又はプローブとして同等の機能を有するオリゴヌクレオチドは、上記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドと同等に扱われる。
【0025】
微生物の存在又は存在量等を調べる被検体としては、例えば、結膜ぬぐい液、歯石、歯垢、喀痰、咽頭ぬぐい液、唾液、鼻汁、肺胞洗浄液、胸水、胃液、胃洗浄液、尿、子宮頸管粘液、膣分泌物、皮膚病巣、糞便、血液、腹水、組織、髄液、関節液、患部ぬぐい液などの生態由来試料、食品、医薬品、化粧品、食品・医薬品・化粧品の中間処理物、微生物培養液、植物、土壌、活性汚泥、排水のような微生物を含有する可能性のある対象が挙げられる。被検体由来の試料としては、被検体の微生物の存在又は存在量を反映しうる試料であれば特に限定されず、例えば、被検体に含まれるヌクレオチドを含む混合物やDNAを含む混合物が挙げられるが、PCR法に用いるという観点からは、被検体に含まれるDNAを含む混合物が好ましい。
【0026】
ヒト糞便からのDNAの抽出は、従来のゲノムDNAの調製の場合と同様の手法により行うことができるが、例えば、被検体の全部又は一部から、必要に応じて、抽出・分離・精製方法により前処理を行ったのち、適宜公知の方法により取得することができる。必要に応じて、ろ過、遠心分離、クロマトグラフィー等の公知の方法による前処理を行ったのち、例えば、「ガラスビーズ等の存在下で撹拌する物理的破砕法」、「CTAB法」、「フェノールクロロホルム法(PC法)」、「磁気ビーズ法」、「シリカカラム法」等の汎用法、あるいはこれらを組み合わせた手法を用いた抽出により得ることができ、また、市販のキットを用いて行うこともできる。
PCRによる高い検出感度を得るためには、高濃度なDNAを取得することが望ましく、一方で、糞便からの核酸抽出液中にはPCRを阻害する物質が混在するため、これら阻害物質を可能な限り除去した高純度なDNAを取得することが望ましい。この目的のため、特に、高濃度かつ高純度のDNAが抽出できるFastDNA SPIN Kit for Feces (MP Biomedicals)を用いることが好ましい。
【0027】
核酸増幅法としては、特に限定されないが、PCR法の原理を利用した公知の方法を挙げることができる。例えば、PCR法、LAMP(Loop-mediated isothermal AMPlification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等を挙げることができる。
【0028】
また、核酸増幅反応後の増幅産物の検出には、増幅産物を特異的に認識することができる公知の手段を用いることができる。例えば、増幅反応の過程で取り込まれるdNTPに、放射性同位体、蛍光物質、発光物質等の標識体を作用させ、この標識体を検出することができる。標識したdNTPを取り込んだ増幅産物を観察する方法としては、上述した標識体を検出するための当技術分野で公知の方法であればいずれの方法でもよい。例えば、標識体として放射性同位体を用いた場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ−カウンター等により計測することができる。また標識体として蛍光を用いた場合には、その蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダー等を用いて検出することができる。
【0029】
本発明においては、核酸増幅法として、PCRの増幅量をリアルタイムでモニターし解析するリアルタタイムPCRを用いるのが迅速性と定量性の点から好ましい。また、リアルタイムPCRとしては、当技術分野で通常用いられる方法、例えばTaqManプローブ法、インターカレーター法及びサイクリングプローブ法等が挙げられるが、本発明においては、TaqManプローブ法を用いるのが特に好ましい。
【0030】
TaqManプローブ法は、5'末端を蛍光物質(FAM等)で、3'末端をクエンチャー物質(TAMRA等)で修飾したオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)をPCR反応系に加える方法である。
本発明においては、上記のごとく、修飾された第1のプローブと第2のプローブがTaqManプローブとして使用でき、これはPCR反応のアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャー物質が存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。伸長反応ステップのときに、Taq DNAポリメラーゼのもつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型にハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光物質がプローブから遊離し、クエンチャー物質による抑制が解除されて蛍光を発する。
【0031】
PCRの条件は、特に限定されず、PCR装置毎に最適条件を定めればよいが、例えば、以下の条件が挙げられる。
1)2本鎖DNAの1本鎖DNAへの熱変性:通常93〜95℃程度で、通常10秒間〜1分間程度加熱する。
2)アニーリング:通常50〜60℃程度で、通常10秒間〜1分間程度加熱する。
3)DNA伸長反応:通常70〜74℃程度で、通常30秒間〜5分間程度加熱する。
ここで、アニーリングとDNA伸長反応は分けずに同時に行うことも可能である。
上記1)〜3)の反応を、通常30〜50サイクル程度行うことにより、目的のtcdA遺伝子及びtcdB遺伝子を検出可能な程度に増幅することができる。
【0032】
また、上記Taqmanプローブの反応液中の濃度は、感度の点から、100〜1000nM程度が好ましい。
【0033】
また、二本鎖DNAに結合することで蛍光を発する試薬(蛍光インターカレーター)をPCR反応系に加えるインターカレーター法を用いる場合は、蛍光インターカレーターとして、例えば、SYBR GreenI、SYBR GreenII、SYBR Gold、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、ピコグリーン等の公知の試薬の存在下でPCRを行い、標的配列の増幅に伴って増加する蛍光強度を測定すればよい。
【0034】
リアルタタイムPCRは、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化したリアルタイムPCR専用の装置、例えば、ABI PRISM 7900HT sequence detection system (Applied Biosystems)を用いて行うことができる。
【0035】
DNA量の測定は、まず、濃度既知の標準DNA溶液を段階希釈したものをPCRに供試し、この初発のDNA量を横軸に、それを鋳型としたPCRの増幅産物量が一定量に到達するときのサイクル数(threshold cycle;Ct値)を縦軸にプロットし、検量線を作成する。未知濃度の試料についても、同じ条件下で反応を行い、Ct値を求め、この値と検量線から、試料中の目的のDNA量を求めることにより行うことができる。
【0036】
また、菌数の定量は、検量線作成用に供試したDNA量に相当する菌数値を算出することにより、DNA量の測定と同様の手順で行うことができる。まず、標準DNA溶液の調製に用いる菌株の純培養菌液中の菌数を測定し、これら既知菌数からDNAの抽出を実施することにより、抽出後のDNA溶液(標準DNA溶液)に含まれるDNA量に相当する菌数値を得ることができる。従って、PCRに供試した初発のDNA量に相当する菌数値を算出することができるため、横軸を菌数値に換算した検量線を作成することで、未知濃度の試料中に含まれる目的微生物の菌数値を同様に算出することができる。
【0037】
斯くして、「目的微生物のDNA量」または「目的微生物の(DNA量に相当する)菌数」が既知の標準DNA溶液と、未知濃度のDNA試料を用いて、PCRを行い、一定のPCR増幅産物量に達したときの「PCRサイクル数」(Ct値)の対比を行えば、濃度未知試料中の「目的微生物のDNA量」または「目的微生物の菌数」を求めることができる。なお、斯かる対比においては、PCRの鋳型とする「目的微生物の菌数」と、「Ct値」との相関関係を示す検量線を用いることが、簡便性の点から好ましい。斯かる検量線は、目的微生物の菌数を横軸に、Ct値を縦軸にプロットして作成されるのが通常である。検量線作成の際に用いる微生物は、基準株等の公知菌株を用いてもよい。
また、被検体中における目的微生物DNA量は、例えば、目的微生物DNAに特異的にハイブリダイズしうる核酸断片と被検体試料とのハイブリダイズ効率の知得によっても、求めることができる。
【0038】
斯くして、本発明の方法によれば、TcdA毒素産生性C. difficile及びTcdB毒素産生性C. difficileを特異的に検出でき(実施例2)、また糞便1g当たり103個以上のC. difficileが存在していればそのDNAを検出することができ(実施例3)、高感度な検出が可能である。
さらに、C. difficileに特異的なプライマーセット、オリゴヌクレオチドプローブを組み合わせて使用し、C. difficileの総菌数を測定することで、糞便中(腸内)におけるC. difficileの内訳(総菌数に対する毒素産生性及び毒素非産生性C. difficileの存在比率)を正確に把握することができ、C. difficile感染症の診断、臨床研究等に貢献できる。
【実施例】
【0039】
実施例1 毒素産生性C. difficileの検出
[I]材料及び方法
(A)使用菌株及び培養条件
C. difficile DSM 1296TはDeutsche Sammlung von Mikroorganizmen und Zellkulturen GmbH (DSMZ,Germany)から、ATCC 43255、43596、43598、700057はAmerican Type Culture Collection (USA)から、NTCT 13307、13366はHealth Protection Agency (UK)から、CCUG20309、37780、37785はCulture Collection University of Goteborg (Sweden)からそれぞれ購入した。C. difficile以外のClostridium属菌種はすべて、DSMZから購入した。
すべての菌株は、1% グルコース添加変法GAM培地(日水製薬)を用い、嫌気条件下、37 ℃で24時間培養した。菌液中の菌数測定は、DAPI染色法により行った。
【0040】
(B)TaqMan PCR反応
ABI7900HTシステムを用いて、TaqMan PCRを行った。PCRにはTakara ExTaq Hot Start Version (Takara)及びAmpdirect plus (shimadzu)を用いた。反応液組成は2×Ampdirect plus、プライマーF/R 0.2 μM、TaqManプローブ 0.2 μM、Rox Reference Dye、ExTaq DNA polymerase 0.4 Units及び鋳型DNA溶液5 μLであり、total 20 μLとした。95℃, 30秒でTaq酵素を活性化した後、95℃, 5秒、56℃,50秒を50サイクル行った。
【0041】
(C)DNA抽出用糞便サンプルの調製
RNAlaterを用いて調製した10%糞便懸濁液(w/v) 2 mL (200 mg糞便を含む)を遠心分離し、上清1 mLを除去した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))1 mLを添加してvortexで撹拌した後、遠心分離した全上清をデカンテーションで除去した。PBS(-) 1 mLを添加してvortexで撹拌した後、遠心分離した全上清を除去した。得られた糞便ペレットはDNA抽出に用いるまで、-80℃で保存した。
【0042】
(D)DNAの抽出
培養菌液からのDNA抽出は、松木らの方法( Matsuki, T., K. Watanabe, J. Fujimoto, Y. Kado, T. Takada, K. Matsumoto,and R. Tanaka. 2004. Quantitative PCR with 16S rRNA-gene-targeted species-specific primers for analysis of human intestinal bifidobacteria. Appl.Environ. Microbiol. 70:167-173)に従い行った。
糞便ペレットからのDNA抽出は、FastDNA SPIN Kit for Feces (MP Biomedicals)を用いた。抽出法の詳細を以下に示す。
【0043】
200 mg糞便ペレット入り2.0 mL tubeに、Lysing Matrix E 、Sodium phosphate buffer 825 μL及びPre-lysis solution 275 μLを添加して、vortexで10-15 s撹拌した。14,000×gで5 min遠心分離した上清を除去し、Sodium phosphate buffer 978 μL及びMT buffer 122 μLを添加して撹拌した。FastPrep level 6.0で45 s激しく振とうし、14,000×gで15 min遠心分離した。上清を新しい2.0 mL tubeに回収し、Protein precipitate solution 250 μLを添加して、激しく振とうして混和した。4 ℃で10 min静置した後、14,000×gで2 min遠心分離した上清を15 mL tubeに回収した。Binding matrix solution 1 mLを添加して穏やかに混和した後、室温で5 minインキュベートした。14,000×gで2 min遠心分離した上清を除去した後、Wash buffer-1を1 mL添加し、ピペッティングによりペレットを穏やかに再懸濁させた。懸濁液約600 μLをSPIN filter tubeに移し、14,000×gで1 min遠心分離したフロースルーを除去した。残りの懸濁液を再度SPIN filter tubeに移し、14,000×gで1 min遠心分離したフロースルーを除去した。Wash buffer-2を0.5 mL添加し、フィルター上のマトリックスをピペッティングにより穏やかに再懸濁させた後、14,000×gで2 min遠心分離したフロースルーを除去した。再度、14,000×gで2 min遠心分離し、フィルターを新しい1.9 mL catch tubeに移した。TES 100 μLを添加し、軽くタッピングしてマトリックスを懸濁させ、14,000×gで2 min遠心分離したフロースルーを回収した。
【0044】
[II]プライマー及びプローブの設計
C. difficileの毒素遺伝子tcdA及びtcdBを標的とし、それぞれに特異的なプライマー及びプローブを以下の手順で設計した。データベースから取得した20菌株のtcdA遺伝子配列(*1)及び22菌株のtcdB遺伝子配列(*2)を用いて、Clustal Xによる相同性検索(アライメント)を行った。TcdA及びTcdBはLarge Clostridial Toxin (LCTs)に分類され、一部の Clostridium属細菌が産生するLCTsと高い相同性を有する。そのため、対照としてClostridium sordeliiのtcsL [X82638] 、Clostridium novyiのtcnA [Z48636]、Clostridium perfringensのtcpL [AB262081]の遺伝子配列を併せてアライメントに用いた。アライメントの結果、標的毒素遺伝子とその他の遺伝子の相同性が高く、また、tcdA及びtcdBは両者の塩基配列間で約60%の相同性があったことから、プライマー作成用ソフトウェアではtcdA及びtcdB各々の標的毒素遺伝子に対する特異的な塩基配列を見出すことはできなかった。そこで、アライメント結果を目視により確認し、試行錯誤のうえ、標的遺伝子に特異的であり、かつ、菌株間で保存性が高いと思われる領域を選択して、プライマー及びプローブを設計した(表1)。
【0045】
*1 tcdA遺伝子のGenBank accession no. :M30307, NC_009089, NC_013316, NC_013315, AJ011301, NZ_ADVM01000023, NZ_ABHF02000018, NZ_ABHE02000016, NZ_ABFD02000006, NZ_ABHD02000008, NZ_ABHG02000011, NZ_ABKK02000013, NZ_AAML04000007, NZ_ABKL02000008, FN668941, FN668375, FN665652, FN665653, FN665654, Y12616, AJ132669
【0046】
*2 tcdB遺伝子のGenBank accession no. :M30307, Z23277, AJ011301, NC_009089, NC_013316, NC_013315, AF217292, NZ_ABHF02000018, NZ_ADVM01000023, NZ_ADNX01000011, NZ_ABHE02000016, NZ_ABHD02000008, NZ_ABFD02000006, NZ_ABKL02000008, NZ_ABKK02000013, NZ_ABHG02000011, NZ_AAML04000007, FN668941, FN668375, FN665652, FN665653, FN665654
【0047】
【表1】
【0048】
[III]プライマー及びプローブの特異性
(1)C. difficile菌株の毒素産生性の確認
イムノクロマト法を利用した毒素検出キットKeul-o-test Clostridium difficile Complete (BioGenTechnologies)を用いて、C. difficile 10菌株の毒素産生性を調べた。
BHI液体培地を用いて、各菌株を嫌気条件下、37 ℃で4日間培養した。培養上清をキットのプロトコールに従い供試し、TcdA及びTcdBの毒素産生を特異的なバンドの有無により判定した。その結果、下記表2に示すとおり、いずれも毒素産生性を示すことが確認された。
【0049】
【表2】
【0050】
(2)TaqMan PCR法における特異性(1)
C. difficile 10菌株(A+B+型5菌株、A-B+型2菌株、A-B-型3菌株)、Clostridium属10菌種、及び腸内菌12菌種を用いて、本発明のプライマー及びプローブセット(tcdA-F/R/P及びtcdB-F/R/P)の特異性を調べた。純培養菌体から抽出したDNA溶液を用い、反応当たり105個相当量を供試して、前記(B)の条件でTaqMan PCRを行い、増幅シグナルの有無を確認した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3より、DSM 1296T株ではtcdAとtcdBの両方の増幅シグナルが検出され、毒素産生性と一致した。同様に、その他の菌株においても、毒素産生性に一致した増幅シグナルが確認された。一方、非標的菌株においてはシグナルが全く検出されず、プライマーダイマーのシグナルも全く認められなかった。
【0053】
(3)プライマー及びプローブの特異性(2)
前記特許文献1に記載のプライマーセット(J)のうち、tcdAを増幅するためのプライマー(配列39/40)と本願発明の上記プライマーtcdA-F/R/Pとの特異性を比較した。
すなわち、C. difficile 10菌株(A+B+型5菌株、A-B+型2菌株、A-B-型3菌株)に対する、特許文献1のプライマーセット(配列39/40)の反応性を調べた。純培養菌体から抽出したDNA溶液を用い、反応当たり105個相当量をPCRに供試した。PCRにはHotStartTaq DNA polymerase(株式会社キアゲン)を用い、反応液組成は10×PCR buffer、プライマーF/R 0.4 μM、dNTP 0.25 mM each、Rox Reference Dye、SYBR Green I、Taq DNA polymerase 0.25 Units及び鋳型DNA溶液 5 μLであり、total 20 μLとした。94℃で20秒、50℃で30秒、74℃で40秒を45サイクルの反応条件でPCRを行い、得られたCt値が、標準菌株(DSM 1296T)のCt値±3.3の範囲内であれば"+"、45以上であれば"-"と判定した。
上記(2)で得られたtcdA-F/R/Pの反応性についても、同一の判定基準で評価した。これらの結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
特許文献1のプライマーセット(J)(配列39/40)については、A+B+株に加えて、A-B+株でも増幅が認められたのに対し、本発明のtcdA-F/R/PではA-B+株では増幅せず、A+B+株のみを確実に増幅できることが示された。
【0056】
次に、標的菌株間で反応性に差異がないことを確認するために、各標的菌株の検量線をそれぞれ作成し比較した。その結果、いずれも供試した標的菌株をCt値2以内(菌数に換算して4倍以内)の差異で検出可能であった(図1)。これらの結果から、本発明の方法は標的の毒素を産生する菌株のみを特異的、かつ正確に検出できることが示された。
【0057】
実施例2 毒素産生性C. difficileの検出(添加回収試験)
糞便中の毒素産生性C. difficileの検出下限値を検証するため、内在性のC. difficileが検出されない3名の糞便サンプルを用いて、添加回収試験を実施した。
あらかじめ内在性のC. difficileが存在しないことを確認した健常成人3名の糞便サンプルを選択し、TcdA及びTcdBの両方を産生するC. difficile DSM 1296T株の純培養菌体を糞便中に1 g当たり108, 107, 106, 105, 104, 103個となるように添加した。なお、添加菌数はDAPIカウントの測定菌数に基づき調整した。
前記(C)及び(D)の方法に従ってDNA抽出を行い、抽出DNA原液及び2倍希釈液5 μLをそれぞれ用いて、前記(B)の条件でTaqMan PCRを行った。検量線作成用のスタンダードとして、PBS(-) 10 mL当たり108個(糞便1 g当たり108個に対応)となるように添加し、糞便サンプルと同様に抽出した。抽出したスタンダードDNAを105倍まで10倍系列希釈した計6ポイントのDNA溶液5 μL をPCRに供試して検量線を作成し、糞便添加サンプルの菌数算出に用いた。
その結果、tcdA-F/R/P及びtcdB-F/R/Pいずれに関しても、糞便1 g当たり103個を検出可能であった(図2)。斯様に本発明の方法によれば、細菌DNAを標的として高感度な検出が可能であり、毒素産生性C. difficileを特異的かつ高感度(検出下限値:糞便1 gあたり103個)に定量することが可能である。
【0058】
実施例3 腸内に内在菌として棲息する菌株の検出
[I]材料及び方法
(1)CD16SrRNA-F/R/Pの作製
C.difficile総菌数を測定するためのプライマーセットCD16SrRNA-F及びCD16SrRNA-Rを作製し、さらにその増幅範囲に新たにプローブを設計したTaqManプローブCD16SrRNA-Pを設計した(表5)。
【0059】
【表5】
【0060】
(2)糞便DNAサンプル
日本の高齢者施設入居者及び職員102名から採取した糞便のうち、選択培養法によりC. difficileの分離が確認された16検体の糞便DNAを本解析に用いた。
【0061】
(3)選択培養法
凍結便を融解後、9倍容量の嫌気輸送培地に懸濁した。これを等量の98% エタノールと混和し、室温にて30分間インキュベートした。エタノール処理液0.1 mlをCycloserine cefoxin mannitol agar(CCMA)に塗抹し、本培地を37℃で24時間嫌気培養した。培地上に検出されたコロニーについて、性状及びグラム染色性からC. difficileと推定されるものの数を計測した。
【0062】
(4)DNA抽出法
2mLスクリューキャップチューブ中の検量線用菌液200μLまたは大便10倍希釈液に、0.3gのガラスビーズ(φ0.1mm), 300μLのTris-SDS溶液(250mLの200mM Tris-HCl, 80mM EDTA, pH 9.0と50mLの10% SDSを混合して調整する)、500μLのTris-EDTA buffer Saturated Phenolを加える。
サンプルの入ったチューブを振とう破砕機(FastPrep FP120)にセットする。パワーレベル5.0で30秒間激しく振とうし、菌体を破砕する。チューブを取り出し、15,000 rpmで5分間遠心分離する。
上清400μLを、新しい2mLスクリューキャップに移す。400μLのPhenol / Chloroform / Isoamyl alcohol (25:24:1)を加え、FastPrep FP120にセットする。パワーレベル4.0で45秒激しく振とうし、15,000 rpmで5分間遠心分離する。
新しい1.5mLチューブに250μLの上清を移す。25μLの3M酢酸Na (pH 5.4)を加えて混合する。
300μLのIsopropanolを加える。15,000 rpmで5分間遠心分離する。上清をデカンテーションで除く。500μLの70% Ethanol を加え、(撹拌しないでそのまま)再度、15,000 rpmで5分間遠心分離する。上清をデカンテーションで除く。
蓋を外して60℃のヒートブロックインキュベーターで約30分間加温しながら乾燥させる。Tris-EDTA bufferを加え、撹拌して均一に溶解させる。-30℃にて凍結保存する。
【0063】
(5)TaqMan PCR反応
実施例1[I](B)と同様の方法で行った。
【0064】
[II]結果
16検体のうち、8検体から毒素産生株が検出された(表6)。これら8検体のうち、7検体では、TapMan PCR法によるC. difficileの総菌数(CD16SrRNA-F/R/P)、TcdA産生性C. difficileの菌数(tcdA-F/R/P)、及びTcdB産生性C. difficileの菌数(tcdB-F/R/P)が同等であったことから、腸内にA+B+型の毒素産生株が優勢に存在していることがわかる。
毒素産生株が検出された8検体のうちの1検体(S-09)では、C. difficileの総菌数が毒素産生性C. difficileの菌数より対数値で1.5以上と大幅に高かったことから、毒素非産生性C. difficileが最優勢(腸内で最も優勢に存在する)であると判別できる他、最優勢でない毒素産生性C. difficileも検出できることがわかる。
すなわち、CD16SrRNA-F/R/P、tcdA-F/R/P及びtcdB-F/R/Pを組み合わせて使用することで、TaqMan PCR法により、C. difficileの総菌数(A+B+型、A-B+型及びA-B-型の菌数の総和)、TcdA産生性C. difficile(A+B+型)の菌数、及びTcdB産生性C. difficileの菌数(A+B+型及びA-B+型の菌数の総和)を測定することができるため、糞便中(腸内)におけるC. difficileの内訳(総菌数、総菌数に対する毒素産生性及び毒素非産生性C. difficileの比率)を正確に把握することができ、C. difficile感染症の診断、臨床研究等に貢献できる。
【0065】
【表6】
図2
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]