(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流体の半径方向速度(11)の測定が、前記流体内に予め放射されそして散乱された波のドップラー効果による周波数のずれの測定を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
前記方法が、予め計算された初期化条件を用いて、流体の力学的挙動モデルの方程式を解くことによって、対象ボリューム内の流体速度(10)を計算する段階をさらに含んでいることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
前記方法が、対象ボリューム内の流体の半径方向速度(11)の測定及び流体速度(10)の計算という事前順序の少なくとも1つをさらに含んでいること、及び対象ボリューム内の流体速度(10)の計算が流体の力学的挙動の動的モデルの使用、及び前記事前順序1つ又は複数の間に計算された流体速度(10)の使用を含んでいることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の開示】
【0019】
この目的は、対象ボリューム内の流体の流れを決定する方法であって、以下の段階:
− 対象ボリュームを通過する種々の空間的配向を有する少なくとも3つの測定軸に沿って分配された複数の測定点において、該測定点の近傍で前記流体の半径方向速度を遠隔測定する段階と、
− 対象ボリューム内の格子(maillage)に従って分配された複数の計算点における流体速度を計算する段階と、
を含み、
流体速度の計算が前記流体の力学的挙動(comportement mecanique)モデルを使用することを含むことを特徴とする、前記方法によって達成される。
【0020】
有利なことには、流体の半径方向速度の測定は前記流体内に予め放射されそして散乱された波のドップラー効果による周波数のずれの測定を含んでいることができる。
【0021】
半径方向速度の測定は、あらゆる形態の機器、とりわけ、モノスタティック型の機器(空間的に一つにされた(confondus)送信機と受信機とを備える)、バイスタティック型の機器(空間的に別々の送信機と受信機とを含む)又は1つのサイトに分配された幾つかの機器の組み合わせを用いて実施されることができる。
【0022】
本発明に係る方法は、もちろん、あらゆる種類の流体、とりわけ、液体又は気体における測定に適用可能であり、前記流体において半径方向速度の測定値を得ることができ、流体は力学的挙動モデルによって記述されることができる。
【0023】
本発明に係る方法は、とりわけ、対象ボリューム内の流体の挙動が従来技術の幾何学的モデルに必要な空間的均一性の仮定を満たさない場合に、複数の測定軸に従って行われる半径方向速度の測定から前記ボリューム内の流体の運動を、公知の幾何学的方法より正確に決定することを可能にする。
【0024】
この仮定は、例えば、以下のように記述されることができる:センサなどのようなリファレンスに対して実質的に等しい距離に位置する対象ボリュームの全ての点について、流体の局地的運動を表す速度ベクトルは実質的に同一である。この仮定は実際上あまり現実的ではないことがしばしば明らかになっている。
【0025】
流体の挙動モデルを用いることは、際立ってより複雑な挙動を記述することを可能にする。従って、とりわけ、複雑な及び/又は摂動を起こさせる(perturbes)環境において、流体の速度ベクトルの成分の測定は実質的に改善されることができる。
【0026】
有利なことに、本発明に係る方法は、該方法がボリューム内の風の速度ベクトルの3次元表示を直接に与えるという意味において、本質的に3次元である。さらに、対象ボリュームに対して的確に分配された空間的配向を有する測定軸に従って半径方向速度の測定が行われる限りは、流体の速度ベクトルの成分は、例えば、水平成分と垂直成分との区別なしに、全て同等の正確さで決定される。
【0027】
対象ボリュームは、計算点を連結する格子によって範囲を定められ又は規定されることができる。この格子は構造化された(structurees)(例えば、長方形又は曲線の断面のデカルト格子)又は構造化されていない格子の目を含んでいることができる。測定点は対象ボリューム内かつ前記格子内に含まれていることができる。
【0028】
本発明に係る方法は、対象ボリューム内の流体速度は測定軸が通過する実質的に平行な配向層(couches d'orientation)内で実質的に均一であるという仮定に基づく幾何学的モデルを用いた、半径方向速度の測定値からの計算点における流体速度の計算を含む、初期化条件(conditions d'initialisation)の計算の段階をさらに含んでおり、前記初期化条件の計算は以下:
− 対象ボリュームの外周に位置する計算点における流体の速度(又は速度ベクトル)に対する制約条件の計算を含む境界条件の計算、及び
− 対象ボリューム内に位置する計算点における流体速度の計算を含む初期条件の計算、
の少なくとも1つを含んでいることができる。
【0029】
対象ボリューム内で、そのZ軸が高度を規定するデカルト座標系(X,Y,Z)を定義すると、均一な層は、例えば、面(X,Y)に実質的に平行に配向されていることができる。
【0030】
本発明に係る方法は、対象ボリューム内又は対象ボリュームの外周に存在する物体表面のトポロジーを用いそして流体の拡張を制限して初期化条件を計算する段階であって、以下:
− 流体の外側に及び/又は前記物体表面の近傍に位置する対象ボリュームの計算点の決定、及び
− 前記の決定された計算点への速度(又は速度ベクトル)に対する制約条件の割り当て、
を含む段階をさらに含んでいることができる。
【0031】
この初期化条件は、存在して流体の流れに影響を与える表面の凹凸を考慮に入れることができる。物体表面は、例えば、そのトポロジーが事前に決定されているであろう対象ボリュームの基底に位置する地形の表面であることができる。次に、この初期化条件を適用可能とするために、前記表面の全体又は一部が含まれるように対象ボリューム及びその格子が定義される。
【0032】
本発明に係る方法は、予め計算された初期化条件を用いて、流体の力学的挙動モデルの方程式を解くことによって、対象ボリューム内の流体の速度(又は速度ベクトル)を計算する段階をさらに含んでいることができる。
【0033】
空間的均一性の仮定に基づいて、境界条件及び初期条件を含む初期化条件だけが計算される。それらは対象のボリューム内の流体速度の計算の出発点を構成し:
− 流体の力学的挙動モデルの方程式を解くことが対象ボリューム内で決定される解に至るように、境界条件は対象ボリュームの外周において流体速度について制約を設けることを可能にする;
− 同様に、決定される解に収束するように、初期条件は流体の力学的挙動モデルの方程式の反復法(methode iterative)による解法を初期化することを可能にする。
【0034】
本発明の枠内で、流体のあらゆる力学的挙動モデルを実行することができる。有利なことに、モデルの選択は、計算の複雑さを最適化するように、状況に応じて適合させることができる。
【0035】
実施形態によれば、流体の力学的挙動モデルは、流体が非圧縮性ニュートン流体を含んでおりその流れがナビエ・ストークス方程式によって実質的に記述されることができるという仮定を含んでいることができる。
【0036】
ナビエ・ストークス方程式は、通常の表示方法によれば、連続の式と運動量のバランス方程式とを含んでいることができる。
【0037】
実施形態によれば、流体の力学的挙動モデルは、流体の流れが定常であるという仮定を含んでいることができる。
【0038】
他の実施形態によれば、流体の力学的挙動モデルは、流体が完全流体を含んでおりその流れが流体のオイラー方程式によって実質的に記述されることができるという仮定を含んでいることができる。
【0039】
この場合、非圧縮性ニュートン流体と比較すると、粘性の影響及び熱勾配も無視される。
【0040】
ニュートン流体は、その粘性応力テンソルが歪みテンソルの一次関数である流体である。このモデルは、とりわけ空気及び水を含む、多くの通常の流体によく当てはまる。
【0041】
以下の変数が定義され、その単位はSI系で表される:
【0042】
そして、流れは、下記式:
で表されるように質量保存の方程式と運動量保存の方程式とを含む方程式の系によって記述されることができる。方程式の系(式1)は非定常(non stationnaire)非圧縮性流体に対するナビエ・ストークス方程式に対応する。
【0043】
例えば、考慮される流体が空気でありかつ対象ボリュームが大気の下層内に位置している場合に、流れが定常でありかつ
であると考えることができることがある。その場合に流体の流れを記述する方程式の系は、下記式:
となる。
【0044】
方程式の系(式2)は、定常非圧縮性流体の境界層の方程式に対応する。
【0045】
式2において粘性の影響を無視することを選択することができ、その場合には、下記式:
で表される、完全流体のオイラー方程式の表現が得られる。
【0046】
方程式の系(式3)は、定常非圧縮性非粘性流体の境界層の方程式に対応する。
【0047】
単純に流体を非圧縮性とみなすことができる場合に、質量保存の方程式によってのみ記述されるモデル:
を用いることもできる。
【0048】
上記式(式4)は定常非回転(non rotationnel)非圧縮性完全流体の流れを記述する。
【0049】
要約すると、これらの実施形態によれば、前記
(非圧縮性であるとみなされた)流体の流れは、流体の速度ベクトル
、流体の動粘性係数ν、流体の密度ρ、流体中で作用する物体力の合力
、及び流体の圧力pを用いて、下記式:
で表される方程式の系のいずれか1つによって記述されることができる。
【0050】
流体の力学的挙動モデルのこれらの偏導関数方程式は、対象ボリュームの計算点で有限差分法(methode des differences finies)によって数値的に解かれることができ、その方法において導関数は数値的解法に対し有限差分によって近似される。
【0051】
このようにして、方程式は、予め定義されて計算された初期条件及び境界条件を用いて、例えば、予測子修正子(prediction-correction)タイプの又は制約つきの最小値の探査(recherche de minima sous contrainte)(拡張ラグランジュ関数又は共役勾配)タイプの、反復法によって対象ボリュームの計算点において数値的に解かれることができる。
【0052】
力学的挙動モデルのこれらの方程式の解法は、条件付け行列(matrices de conditionnement)の使用を含んでいることができる。
【0053】
これらの条件付け行列は解の収束及び/又はアルゴリズムの安定性を改善し及び/又はエッジ効果(effets de bord)を低減することができる。
【0054】
流体の力学的挙動モデルの偏導関数方程式も同様に、有限体積、有限要素又はスペクトル法などの他の方法によって対象ボリュームの計算点において数値的に解かれることができる。
【0055】
他の実施形態によれば、流体の力学的挙動モデルは、流体が、その流れが対象ボリューム内で実質的に渦なしである完全流体(すなわち、その粘性が無視できる流体)を含んでいるという仮定を含んでいることができる。
【0056】
質量保存の法則によれば、流体の速度ベクトル
の発散はゼロである:
【0057】
さらに流れが渦なしであると仮定される場合、その結果として対象ボリューム内の流体の速度ベクトル
の回転はゼロであり、そしてそれゆえ流体を記述する速度ポテンシャルPが存在する。これは速度ポテンシャルにおける流れと呼ばれる。Pのラプラシアンはゼロでありそして速度ベクトル
はPの勾配である。
【0058】
このように、流体の速度ベクトル
及び速度ポテンシャルPを用いると、前記流体の流れは下記式:
で表される方程式の系によって記述されることができる。
【0059】
流体の力学的挙動モデルのこれらの方程式は、ラプラシアン行列の逆行列(inversion)によって対象ボリュームの計算点において数値的に解かれることができる。
【0060】
本発明に係る方法は以下の段階:
− 流体の力学的挙動モデルの方程式を解くことによって対象ボリューム内で予め計算された流体速度から新たな初期化条件を計算する段階、
− 前記新たな初期化条件を用いて、流体の力学的挙動モデルの方程式を解くことによって、対象ボリューム内の流体速度を計算する段階、
をさらに含んでいることができる。
【0061】
これらの段階は、先行する反復によって対象ボリューム内で得られた速度から計算される初期化条件を各反復において用いることによって、反復して繰り返されることができる。実際に、半径方向速度の測定値から最初の反復によって計算された初期化条件は、この時点で計算に必要な均一性の仮定によってバイアスされる。このように初期化条件は、次の反復の間に修正される。
【0062】
開示されたように本発明に係る方法の段階は以下:
− 測定軸に沿って半径方向速度を測定する段階と、及び
− 対象ボリューム内の速度ベクトルを計算する段階と、
からなる時系列に要約されることができる。
【0063】
このように、「動きのない(fige)」環境又は定常環境、すなわち、測定時間にわたって流体の移動速度の時間的変化が無視できる環境を仮定することによって、測定の瞬間における対象ボリューム内の速度ベクトルの表示が得られる。しかしながら、この仮定は、測定値の取得時間の間の定常状態、換言すれば、取得時間に環境がゆっくりと変化することを単に課するものであるので、あまり限定的なものではない。ところで、この取得時間は、連続的な測定の場合であってさえも、通常は数秒間に制限されることができる。
【0064】
経時的に対象ボリューム内の流体の挙動を記述するために、流体の力学的挙動の動的モデル、すなわち、変数の時間的変動を考慮に入れたモデルを実行することができる。そして、観察すべき現象の時間定数(constantes de temps)と適合する速度(cadences)に従って、経時的で周期的に測定及び計算の順序(sequences)が実行されることができる。そこで、流体速度を計算するための動的モデルの方程式の解法は、時間導関数を近似させるために、時間内の近接する順序のときに計算された速度を用いることが必要である。
【0065】
このように、本発明に係る方法は、対象ボリューム内の流体の半径方向速度の測定及び流体速度の計算という事前の順序少なくとも1つをさらに含んでいることができ、そして対象ボリューム内の流体速度の計算は、流体の力学的挙動の動的モデルの使用、及び前記事前順序1つ又は複数の間に計算される流体速度の使用を含んでいることができる。
【0066】
順序の時間的周期性は、測定によって規定されることに留意されたい。複数の順序又は全ての順序の測定値を取得すること、及び続いて測定によってカバーされた全時間期間にわたる対象ボリューム内の速度を計算することは、順序の規定における何らの変更もなく、全く同等である。
【0067】
本発明に係る方法は、測定軸に従って流体の半径方向速度を測定するのに適したあらゆるタイプの機器において、そしてとりわけ、以下:
− 測定を行うのに音波及び/又は電磁波を用い;
− 用いられる複数の又は全ての測定軸に従って連続的に、又は同時に測定を行い;
− 1つ又は複数の別個の送信機及び1つ又は複数の別個の受信機を有する、分散型(distribuee)アーキテクチャを備えた、機器において、実施されることができる。
【0068】
本発明に係る方法は、有利なことに、大気の低層内の風を測定するために実施されることができる。本発明に係る方法は、有利なことに、例えば、ライダ、レーダ又はソーダ型の装置において、実施されることができる。
【0069】
本発明の別の側面によれば、
前記の方法を用いて対象ボリューム内の流体の流れを決定するデバイスであって、以下:
− 対象ボリュームを通過する種々の空間的配向を有する少なくとも3つの測定軸に沿って分配された複数の測定点において、前記測定点の近傍で前記流体の半径方向速度を遠隔測定する手段と、
− 対象ボリューム内の格子に従って分配された複数の計算点において流体速度を計算する手段と、
を含み、流体速度を計算する前記手段が前記流体の力学的挙動モデルを実行するように配置されていることを特徴とする、前記デバイスが提供される。
【0070】
有利なことに、本発明に係るデバイスは以下のデバイス:ライダ、レーダ、ソーダのいずれか1つをさらに備えていることができる。
【0071】
本発明の他の利点及び特徴は、何ら限定的でない実行及び実施形態の詳細な説明及び以下の添付図面を読めば明らかになるであろう:
−
図1はライダのブロック図を示しており、
−
図2は流体の測定される半径方向速度と速度ベクトルとの関係を示しており、
−
図3は格子及び測定軸を備えた、対象ボリュームの全体図であり、
−
図4は断面X−Yに沿った、対象ボリュームの格子を示しており、
−
図5は本発明に係る方法を用いて所定の高度における風速を計算した結果の一例を示しており、
−
図6は、風杯型風速計、幾何学的再構成法を用いるライダ及び本発明に係る方法を実施するライダをそれぞれ用いて、高度に応じた風のプロファイルを計算した結果の一例を示しており、
−
図7は、風杯型風速計、幾何学的再構成法を用いるライダ及び本発明に係る方法を実施するライダをそれぞれ用いて、1つの位置において経時的に得られる風速の測定結果を示している。
【0072】
大気の下層内の風の測定に適用するための、大気ライダにおける本発明に係る方法の実施形態を説明する。
【0073】
何ら限定的でない特定の実施形態によれば、流体は空気であり、その流れは風を生じさせる。
【0074】
図1を参照するに、本発明は、例えば、前掲のA.Dolfi−Bouteyreらの文献、「1.5 μm all fiber pulsed lidar for wake vortex monitoring」に示されているような、モノスタティックな配置のライダ1において実施される。このライダは、以下:
− MOPFA(マスターオシレータパワーファイバーアンプ(Master Oscillator Power Fibre Amplifier))型のアーキテクチャに基づくパルスファイバーレーザを備え、1.5μmのオーダーの波長を有する直線偏光単色光パルスを放射する光源4と;
− その基部への角度が30°のオーダーである測定円錐(cone de mesure)8内に位置する測定軸3に沿って測定ビームを放射し、かつ400mより高い高度までエアロゾル、粒子又は汚染物質などの散乱中心7により大気中で後方散乱された光を集光することができる、コリメーション光学部品を備えた配向可能な(orientable)コリメータ2と;
− ヘテロダイン検出を行うように、後方散乱した光が光源4から生じたローカルオシレータのビームと混合される検出モジュール6と;
− 光源4によって生じた光をコリメータ2に、そしてコリメータ2によって集光された光を検出モジュール6に移すサーキュレータ5と、このサーキュレータは偏光ビームセパレータなどのような偏光光学素子及び波長板に基づいて形成されている;及び
− 測定値を処理するための、計算装置9と、
を備える。
【0075】
散乱中心7によるビームの後方散乱が起こる測定軸3に沿った距離は、光源4によって放射されそして後方散乱後に検出モジュール6によって検出される光パルスの往復時間を測定することにより得られる。
【0076】
散乱中心7の移動は、後方散乱波の周波数のドップラー効果によるずれを惹起するが、これはヘテロダイン検出によって測定される。
【0077】
図2を参照するに、後方散乱波の周波数のドップラー効果によるずれは、半径方向速度11、すなわち、速度ベクトル10によって表される散乱中心7の移動速度の測定軸3への投影、に比例する。
【0078】
距離及び半径方向速度11の計算は、高速フーリエ変換(FFT)によって、スペクトル領域において実行される。距離及び半径方向速度11に対して得られる解答は、それぞれ、数メートルのオーダー及び1秒当たり数メートルのオーダーである。測定軸3に沿った測定時間は1秒間のオーダーである。
【0079】
図3及び
図4を参照するに、本発明に係る方法の目的は、対象ボリューム内の、その速度ベクトル10によって表される風を計算することである。この対象ボリュームは立方メッシュに従って配置された計算点22及び23の格子20によって具体化される(materialise)。そのZ軸が高度を規定するデカルト座標系(X,Y,Z)が格子20に関連付けされる。
【0080】
本発明の方法に従って、計算点22において、流体(この場合は空気)の力学的挙動モデルの方程式を数値的に解くことにより、格子20の一組の計算点22における速度ベクトル10が計算される。この計算は初期化条件の定義を必要とするが、それは異なった配向を有する3つの測定軸3に従って行われる半径方向速度11の少なくとも3つの測定値から得ることができる。
【0081】
この実施形態によれば、例えば4つの基本となる方向に従って、配置された4つの測定軸3に従ってライダ1を用い、そして機器1の測定円錐8の境界に近接した傾きで測定が実施される。垂直軸に従った第5の測定が実施されることもできる。本発明に係る方法の実施に対して、これらの4つ又は5つの測定値を取得するのに必要な時間の間大気が定常であり又は動きがない、すなわち、対象ボリューム内の風の速度ベクトル10はこのデータ取得の時間の間に各点で実質的に定常であると仮定される。しかしながら、データ取得の全時間が実質的に10秒間よりかなり小さくできるので、この仮定はあまり制約的なものとならない。
【0082】
各測定軸3について、半径方向速度11の測定値は、概して等距離にある、所定の高度に対応する測定点21において平均化される。計算を単純化するために、格子20の、常数Zを有する平面(X,Y)に対応する高度が選択される。
【0083】
対象ボリュームの外周における、すなわち、格子20の外周に位置する計算点23における境界条件を計算するために、対象ボリューム全体に、所定の高度における風の空間的均一性の仮定に基づく典型的な幾何学的モデルが用いられる。
【0084】
デカルト座標系(X,Y,Z)で表される風の速度ベクトル10を
としよう。空間的均一性の仮定に従うと、高度Z=Z
hのあらゆる点でベクトル
は一定であると仮定され、それは下記式:
で表される。
【0085】
先に説明したように、ライダ1を用いて、添数k(k=1...K;K≧3)によって示される種々の配向を有するKの測定軸3に沿って測定が行われる。
図2の慣習(conventions)によれば、添数kの測定軸3の配向を規定する角度はφ
k及びθ
kと表示される。
【0086】
測定値から、測定軸3に沿って位置する測定点21における半径方向速度が計算される。測定軸kに沿って位置する高度Z=Z
hの測定点における半径方向速度を表すのにW
khを用いると、次式:
(k=1...K)が与えられる。
【0087】
このように、3つの未知数(V
xh,V
yh,V
zh)を持ったK方程式の系が得られ、これは最小二乗法の考え方で解かれて
を得ることができる。
【0088】
次いで、値
は高度Z=Z
hに位置する格子20の全ての外周点23に割り当てられ、そしてこの操作が直接に又は
の計算値間の補間によってあらゆる高度Zに対して実施される。
【0089】
このように、格子20の外周に位置する全ての点23に対して境界条件が規定される。
【0090】
次の段階は、測定値から規定される境界条件を考慮に入れて、計算点22において選択された流体の力学的挙動モデルの方程式を解くことからなる。これらの方程式の解法は、選択された方程式に適合した数値法によって実施される。
【0091】
経験が示すところによれば、大気の運動の分析に向けられたこの実施形態において、空気を、その流れが対象ボリューム内で渦なしである完全流体(すなわち、その粘性が無視できる流体)とみなすことによって満足な結果が得られる。この選択は、その解法が単純化される数値モデルに導くという利点を有しており、このことは必要な資源及び計算時間の点から重要な利点を与える。
【0092】
このモデルに従って、先に示したように、流体(空気)を記述する速度ポテンシャルPが存在し、そしてその流れ(風)は下記式:
で表される方程式の系によって記述されることができる。
【0093】
この系は、境界条件を考慮に入れながら、計算点22におけるラプラシアン行列の逆行列によって数値的に解かれる。
【0094】
このように、対象ボリュームの計算点22における風の速度ベクトル
が得られる。可能な最良の正確さの条件下で高度に応じて風のプロファイルを決定するために、ライダ1の垂直方向の、すなわち、高度Zの軸に沿った及びその近傍の
の値が用いられる。
【0095】
図5は、所定の高度Z
hにおける風速の計算結果の一例を示す。面30は、境界条件31から計算された、平面(X,Y,Z=Z
h)内の風の速度ベクトル10の水平成分の振幅を表している。
【0096】
図6は、高度Zに応じた風速の計算結果(垂直プロファイル)の一例を表している。測定は、基準の2つの風杯型風速計を用いて(点40)、均一性の仮定を用いた幾何学的再構成モデルを実行するライダを用いて(曲線41)及び完全流体のモデルに基づいた本発明に係る方法を実施するライダを用いて(曲線42)それぞれ行われる。風杯型風速計(40)の結果に対して、より至近の結果は本発明に係る方法を用いたライダ(42)によって得られる。
【0097】
図7は、起伏の多い地形について行われた測定手順の間に得られた16時間の風速測定の結果を表している。測定はそれぞれ、高度約80メートルにおいて、基準の風杯型風速計を用いて(曲線50)、均一性の仮定を用いた幾何学的再構成モデルを実行するライダを用いて(曲線51)及び完全流体のモデルに基づいた本発明に係る方法を実施するライダを用いて(曲線52)行われる。
【0098】
風杯型風速計に対するライダの相対誤差は、風を計算するのに幾何学的モデルを用いると約6%であり、本発明に係る方法と完全流体モデルとを用いると約2%である。
【0099】
流体の力学的挙動モデルの方程式が反復法によって解かれる変形によれば、対象ボリューム内の高度Z=Z
hに位置する格子20の点22における境界条件を規定するために予め計算された値
を割り当てることによっても初期条件が規定され、そしてこの操作があらゆる高度Zに対して、直接に又は
の計算値間の補間によって実施される。
【0100】
別の変形によれば、地形のトポロジーの予備知識が追加の境界条件として用いられて計算の正確さを改善する。この場合に、対象領域が地形の凹凸を含むように広げられ、そして、例えば、風の速度ベクトル
が地形の表面に正接する(tangentiel)ような追加の境界条件が、地形の表面に位置する格子20の点23に適用される。
【0101】
もちろん、本発明はここまで述べてきた例に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなくこれらの例に対して多くの調整を行うことができる。