(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961234
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】抗菌消臭剤、抗菌消臭剤分散体及び抗菌消臭化学繊維材
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20160719BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
A61L9/01 B
D01F1/10
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-198692(P2014-198692)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-67520(P2016-67520A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2015年10月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514247768
【氏名又は名称】株式会社エルムジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(74)【代理人】
【識別番号】100148426
【弁理士】
【氏名又は名称】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】上埜 嘉文
【審査官】
松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−321267(JP,A)
【文献】
特開2003−160421(JP,A)
【文献】
特開平08−120524(JP,A)
【文献】
特開2006−274488(JP,A)
【文献】
特開2011−089040(JP,A)
【文献】
特開2011−010764(JP,A)
【文献】
特開2008−223182(JP,A)
【文献】
特開2001−049533(JP,A)
【文献】
特開2006−022451(JP,A)
【文献】
特開平10−088459(JP,A)
【文献】
特開2003−169852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00− 9/22
A61L 2/00− 2/28
A61L 11/00−12/14
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
C04B 38/00−38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物及び/又は天然鉱石の無機粒子10種以上を含み、
前記金属酸化物が、シリカ、アルミナ、チタニア及び酸化亜鉛から選択され、
前記天然鉱石が、トルマリン、ゼオライト、麦飯石、医王石、滑石、蛇紋石、苦灰石、緑泥石、方解石、菫青石、紅柱石及び珪線石から選択されること、
を特徴とする抗菌消臭剤。
【請求項2】
前記無機粒子の平均粒径が1μm以下であること、を特徴とする請求項1に記載の抗菌消臭剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗菌消臭剤と、水性エマルジョンと、を含み、前記無機粒子の含有量が2〜23重量%であること、を特徴とする抗菌消臭剤分散体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の抗菌消臭剤がフィラメント糸又はスパン糸に混練されていること、を特徴とする抗菌消臭化学繊維材。
【請求項5】
前記抗菌消臭剤の含有量が1〜23g/m2であること、を特徴とする請求項4に記載の抗菌消臭化学繊維材。
【請求項6】
前記フィラメント糸又は前記スパン糸が着色されていること、を特徴とする請求項4又は5に記載の抗菌消臭化学繊維材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌消臭剤、抗菌消臭剤分散体及び当該抗菌消臭剤を含有する抗菌消臭化学繊維材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境に関する快適化の要求が高まっており、抗菌及び脱臭等を目的とした組成物や製品が盛んに研究開発されている。
【0003】
ここで、一般家庭における臭気は、トイレ、冷蔵庫、生ごみ、靴箱等から発する臭気、人やペットの体臭など多岐にわたるが、トリメチルアミン、メチルメルカプタン、アンモニア、及び硫化水素が4大悪臭とされている。これらの臭気成分は人に不快感を与え、かつ成分によっては健康上有害な影響を与えることから、種々の脱臭剤や脱臭機器が提案されており、一般家庭においては活性炭を主剤とした脱臭剤が広い用途に用いられている(例えば、特許文献1:特開2001−321426号公報)。
【0004】
また、脱臭機能付き寝具や衣料品も種々提案されており、紳士物の下着及び寝たきりの高齢者や長期入院患者を対象にした寝具等に幅広く利用されている。ここで、特許文献2(特開2002−266235号公報)では、珪酸アルミニウムの粉末と、酸化チタン含有セラミックスの粉末と、遠赤外線放射性鉱石の粉末と、アクリル酸樹脂とを、水を介して繊維製品に含浸させた脱臭機能付き繊維製品が提案されている。
【0005】
前記特許文献2に記載の繊維製品においては、各種臭気成分のうち酸性側に強い吸着力を有する珪酸アルミニウムとアルカリ性側に強い吸着力を有する酸化チタン含有セラミックスを用いたことで、広範囲の臭気ガスに対して高い吸着力を示すことから、繊維加工品としての寝具や衣類、その他の身装品の素材として利用することができ、身の回りにおける脱臭とともに、遠赤外線放射成分を含んでいることで人の健康維持にも寄与することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−321426号公報
【特許文献2】特開2002−266235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている脱臭剤及び上記特許文献2に記載されている繊維製品は一定の消臭効果を有するものの、4大悪臭であるトリメチルアミン、メチルメルカプタン、アンモニア、硫化水素に関する消臭力にばらつきがあり、特に硫化水素については消臭効果が不十分である。また、従来の脱臭剤は基本的に脱臭・消臭を目的としており、雑菌の抑制効果については殆ど検討されていない。
【0008】
更に、上記特許文献2に記載されている繊維製品においては、脱臭効果を有する珪酸アルミニウム及び酸化チタン含有セラミックスが繊維表面に付着しているのみであることから、洗濯等に伴って消臭効果が経時的に低下してしまうという問題がある。
【0009】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明は、種々の悪臭及び雑菌に対する顕著な抗菌消臭効果を有する抗菌消臭剤、抗菌消臭剤分散体及び経時的に抗菌消臭効果が低下しない抗菌消臭化学繊維材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決すべく、本発明者らは鋭意実験を繰り返して検討した結果、種々の悪臭及び雑菌に対して顕著な抗菌消臭効果を発揮させるためには、適当な金属酸化物及び天然鉱石を複数(特に10種以上)組み合わせた抗菌消臭剤を調整することが極めて効果的であり、経時的に抗菌消臭効果が低下しない抗菌消臭化学繊維材を得るためには、当該抗菌消臭剤をフィラメント糸又はスパン糸に混練することが極めて効果的であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、金属酸化物及び/又は天然鉱石の無機粒子10種以上を含むこと、を特徴とする抗菌消臭剤に関し、前記金属酸化物が、シリカ、アルミナ、チタニア及び酸化亜鉛から選択され、前記天然鉱石が、トルマリン、ゼオライト、麦飯石、医王石、滑石、蛇紋石、苦灰石、緑泥石、方解石、菫青石、紅柱石及び珪線石から選択されること、が好ましい。
【0012】
シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、トルマリン、ゼオライト、麦飯石、医王石、滑石、蛇紋石、苦灰石、緑泥石、方解石、菫青石、紅柱石、珪線石は、それぞれ異なる分子及び雑菌に対して有効な吸着・分解効果を有しており、これらの無機物質から10種類以上の物質を選択して水性エマルジョンに攪拌混合することで、種々の悪臭及び雑菌に対する顕著な抗菌消臭効果を有する抗菌消臭剤分散体を得ることができる。
【0013】
例えば、臭いの基となる10種類の分子が存在する場合、当該分子の幾つかは対応する無機物質に接触した時点で吸着・分解される。次に、残りの分子及び分解された分子は対応する別の無機物質に接触した時点で吸着・分解され、これを繰り返すことで臭いを感じない程度にまで当初存在していた分子が消失する。いわば、本発明は、複数の無機物質による連続吸着・分解(触媒)効果を利用するものとも言える。ここで、少なくとも10種類以上の効果的な無機粒子が共存することで、生活環境で問題となる悪臭を網羅的に吸着・分解することができる。
【0014】
本発明の抗菌消臭剤は、前記無機粒子の平均粒径が1μm以下であること、が好ましい。平均粒径を1μm以下とすることで無機粒子の表面積を十分に確保することができ、臭いの基となる分子及び雑菌を効率的に吸着・分解等することができる。
【0015】
また、本発明の抗菌消臭剤分散体は、前記無機粒子の含有量が2〜23重量%であること、が好ましい。無機粒子の含有量を2重量%以上とすることで、臭いの基となる分子及び雑菌を吸着・分解等するために十分な量の無機粒子を分散させることができ、無機粒子の含有量を23重量%以下とすることで、抗菌消臭剤を塗布等する場合の取扱いが容易になる。
【0016】
本発明は、本発明の抗菌消臭剤がフィラメント糸又はスパン糸に混練されていること、を特徴とする抗菌消臭化学繊維材も提供する。抗菌消臭剤をフィラメント糸又はスパン糸に混練することで、抗菌消臭剤の脱離等による抗菌消臭特性の経時的な低下を抑制することができる。
【0017】
本発明の抗菌消臭化学繊維材においては前記消臭抗菌剤(無機粒子)の含有量が1〜23g/m
2であること、が好ましい。消臭抗菌剤の含有量を1g/m
2以上とすることで、4大悪臭であるトリメチルアミン、メチルメルカプタン、アンモニア、硫化水素等の悪臭に対して最大効率の消臭効果を発揮することができ、23g/m
2以下とすることで、化学繊維材が本来有する特性(強度、柔軟性及び肌触り等)を維持することができる。
【0018】
本発明の抗菌消臭化学繊維材においては、前記フィラメント糸又は前記スパン糸が着色されていてもよい。抗菌消臭剤が化学繊維材の表面に付着しているのみの場合、着色工程における抗菌消臭剤の脱離等によって抗菌消臭効果が大幅に低下してしまう。これに対し、本発明の抗菌消臭化学繊維材では抗菌消臭剤がフィラメント糸又はスパン糸に混練されていることから、着色工程における当該抗菌消臭剤の脱離等を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、種々の悪臭及び雑菌に対する顕著な抗菌消臭効果を有する抗菌消臭剤、抗菌消臭分散体及び経時的に抗菌消臭効果が低下しない抗菌消臭化学繊維材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の抗菌消臭化学繊維材の概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における抗菌消臭化学繊維材フィラメント糸の外観写真である。
【
図3】本発明の一実施形態における抗菌消臭化学繊維材フィラメント糸の断面写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の抗菌消臭剤、抗菌消臭剤分散体及び当該抗菌消臭剤を含有する抗菌消臭化学繊維材の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0022】
(1)抗菌消臭剤及び抗菌消臭剤分散体
本発明の抗菌消臭剤は、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、トルマリン、ゼオライト、麦飯石、医王石、滑石、蛇紋石、苦灰石、緑泥石、方解石、菫青石、紅柱石、珪線石の群から選ばれる10種類以上の無機粒子を含み、本発明の抗菌消臭剤分散体は、前記抗菌消臭剤と、水性エマルジョンと、を含む。
【0023】
シリカ(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、チタニア(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)は金属酸化物であり、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の製造方法で得られた粉末を用いることができる。
【0024】
トルマリン(ケイ酸塩鉱物の一種)、ゼオライト(アルミノケイ酸塩のなかで結晶構造中に比較的大きな空隙を持つものの総称)、麦飯石(花崗斑岩又は石英斑岩の一種)、医王石(斜方輝石を主とした安山岩)、滑石(ケイ酸塩鉱物の一種)、蛇紋石(ケイ酸塩鉱物の一種)、苦灰石(炭酸塩鉱物の一種)、緑泥石(ケイ酸塩鉱物の一種)、方解石(炭酸塩鉱物の一種)、菫青石(ケイ酸塩鉱物の一種)、紅柱石(アルミニウムのケイ酸塩)、珪線石(アルミニウムのケイ酸塩)は天然鉱石であり、各地で採掘されるものを適宜用いることができる。
【0025】
無機粒子の平均粒径は1μm以下であること、が好ましい。平均粒径を1μm以下とすることで無機粒子の表面積を十分に確保することができ、臭いの基となる分子及び雑菌を効率的に吸着・分解等することができる。平均粒径の調整方法は特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の方法を用いることができる。例えば、粉砕した無機粒子を各種篩で分別することで、平均粒径を1μm以下とすることができる。
【0026】
ここで、無機粒子の平均粒径は、動的光散乱法、小角X線散乱法、広角X線回折法等を用いて測定することができる。
【0027】
本発明の抗菌消臭剤分散体における無機粒子の含有量は2〜23重量%であること、が好ましい。無機粒子の含有量を2重量%以上とすることで、臭いの基となる分子及び雑菌を吸着・分解等するために十分な量の無機粒子を分散させることができ、無機粒子の含有量を23重量%以下とすることで、抗菌消臭剤分散体を塗布等する場合の取扱いが容易になる。
【0028】
水性エマルジョンは本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の水性エマルジョンを用いることができ、例えば、水系アクリル樹脂である株式会社村山化学研究所製のバインダーELM−S等を用いることができる。
【0029】
本発明の抗菌消臭剤分散体は、上記無機粒子を上記水性エマルジョンに攪拌混合することで得ることができる。10種類以上の無機粒子が水性エマルジョンに均等分散されることで、最大効率の相乗消臭機能を引き出すことが可能となり、トリメチルアミン、メチルメルカプタン、アンモニアのみならず、硫化水素に対しても顕著な消臭効果を得ることができる。本発明の抗菌消臭剤においては、複数種の無機物質で臭いの基となる分子及び雑菌が10種類以上の無機粒子によって連続吸着・分解されることによって、種々の悪臭及び雑菌に対する顕著な抗菌消臭効果が発現される。
【0030】
本発明の抗菌消臭剤及び抗菌消臭剤分散体は周囲の明暗に影響されず、酸化還元作用を介して悪臭の基となる分子の吸着及び分解を長期間維持することができる。加えて、抗菌作用も備えるという格別な効果を奏する。
【0031】
更に、本発明の抗菌消臭剤及び抗菌消臭剤分散体によれば、抗菌消臭剤を使用用途に適応する各種水性エマルジョンと組み合わせることで、当該抗菌消臭剤の有効成分を各種基材に容易に付着及び/又は含有させることが可能となり、その結果として、極めて汎用性のある抗菌消臭剤を安価かつ簡単に市場に普及させることができる。
【0032】
本発明の抗菌消臭剤は繊維材、樹脂材、不織布、紙製造の紙透き行程時の紙材等に好適に付着及び/又は含有させることができる。
【0033】
(2)抗菌消臭化学繊維材
本発明の抗菌消臭化学繊維材は、本発明の抗菌消臭剤がフィラメント糸又はスパン糸に混練されていること、を特徴とする。
図1に、本発明の抗菌消臭化学繊維材がフィラメント糸から構成されている場合について、抗菌消臭化学繊維材の概略断面図を示す。抗菌消臭化学繊維材1は複数のフィラメント糸2から構成されており、フィラメント糸2の内部に抗菌消臭剤の有効成分である無機粒子凝集体4が分散されている。ここで、無機粒子凝集体4はフィラメント糸2の内部及び表面に存在している。
【0034】
無機粒子凝集体4は平均粒径が1μm以下である10種類以上の無機粒子から構成されている。ここで、一つの無機粒子凝集体4が10種類以上の無機粒子を全て含んでいる必要はなく、抗菌消臭化学繊維材1全体として略均一に10種類以上の無機粒子が練り込まれていればよい。
【0035】
10種類以上の無機粒子がフィラメント糸2に混練されていることで、当該無機粒子の脱離等による抗菌消臭特性の経時的な低下を抑制することができる。
【0036】
抗菌消臭化学繊維材1においては消臭抗菌剤(無機粒子凝集体4)の含有量が1〜23g/m
2であること、が好ましい。消臭抗菌剤(無機粒子凝集体4)の含有量を1g/m
2以上とすることで、4大悪臭であるトリメチルアミン、メチルメルカプタン、アンモニア、硫化水素等の悪臭に対して最大効率の消臭効果を発揮することができ、23g/m
2以下とすることで、抗菌消臭化学繊維材1が本来有する特性(強度、柔軟性及び肌触り等)を維持することができる。
【0037】
抗菌消臭化学繊維材1においては、フィラメント糸2が着色されていてもよい。無機粒子凝集体4がフィラメント糸2の表面のみに付着している場合、着色工程における無機粒子凝集体4の脱離等によって抗菌消臭効果が大幅に低下してしまう。これに対し、抗菌消臭化学繊維材1では無機粒子凝集体4がフィラメント糸2の内部に混練されていることから、着色工程における無機粒子凝集体4の脱離等を効果的に抑制することができる。
【0038】
フィラメント糸2には、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の化学繊維を用いることができ、例えば、アクリル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維等を好適に用いることができる。
【0039】
10種類以上の無機粒子をフィラメント糸2に混練する方法は特に制限されないが、例えば、本発明の抗菌消臭剤とフィラメント糸2の原料(紡糸原液)とをビーズミル等で混合し、適宜粘度調整を行った後に紡糸すればよい。ただし、本発明の抗菌消臭剤と紡糸原液の混合の際には、均質に混合攪拌できるように、各種の分散剤を適宜用いればよい。
【0040】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0041】
以下において、上述した抗菌消臭剤、抗菌消臭剤分散体及び抗菌消臭化学繊維材について、実施例を用いて更に具体的に説明する。
【0042】
(1)抗菌消臭剤及び抗菌消臭剤分散体
それぞれ1μm以下の平均粒径に調整した10種類の無機粒子(シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、トルマリン、ゼオライト、麦飯石、医王石、滑石、蛇紋石)を、略同率の重量混合比で混合して、本発明の抗菌消臭剤を得た。次に、汎用水性エマルジョン(株式会社村山化学研究所製のバインダーELM−S)と攪拌混合し、本発明の抗菌消臭剤分散体を得た。無機粒子の含有量は10重量%とし、得られた抗菌消臭剤分散体を20%に希釈して繊維で形成された面状基材に18g/m
2で塗布・乾燥させた。
【0043】
[評価試験]
社団法人繊維評価技術協議会、消臭加工繊維製品認証基準、機器分析実施マニュアル(検知管法)に基づき、アンモニア、硫化水素、トリメチルアミン、メチルメルカプタンに関する抗菌消臭剤の消臭効果を評価した。アンモニア、硫化水素、トリメチルアミン、メチルメルカプタンの初期濃度をそれぞれ100ppm(10×10cm)、4ppm(10×10cm)、28ppm(10×10cm)、8ppm(10×10cm)とし、抗菌消臭剤を塗布・乾燥させた面状基材を配置した状態における2時間経過後の各濃度を計測した(試験場所:財団法人日本紡績検査協会、大阪事業所)。計測した濃度から減少率(%)を求め、結果を表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
アンモニア、硫化水素、トリメチルアミンについては略完全に消臭され、メチルメルカプタンについても約半分の濃度となっている。当該結果より、本発明の抗菌消臭剤が4大悪臭に対して顕著な消臭効果を有することが分かる。
【0046】
本発明の抗菌消臭剤を塗布・乾燥させる基材を100cm
2の人工芝生にした以外は上記方法と同じ方法で、アンモニアに対する抗菌消臭剤の消臭効果を評価した(試験場所:一般財団法人日本繊維製品品質技術センター,神戸試験センター)。得られた減少率は86%であり、本発明の抗菌消臭剤は人工芝生に対しても効果的であることが確認された。
【0047】
本発明の抗菌消臭剤に関し、JIS L 1902(ハロー法)に準拠して抗菌性試験を行った(試験場所:財団法人化学物質評価研究機構,大阪事業所)。上述と同じ方法で得られた抗菌消臭剤を20%に希釈して繊維で形成された面状基材に18g/m
2で塗布・乾燥させ、試料とした。なお、供試菌は白癬菌(Trichophyton mentagrophytes NBRC 6202)であり、白い斑点のある面を測定面とした。
【0048】
白癬菌を36℃で24時間培養し、試料周囲に発育阻止帯(ハロー)が形成されるか否かを観察したところ、試料周囲には幅が1.0mmの発育阻止帯が形成された。当該結果は、白癬菌が死滅を嫌い、試料(抗菌消臭剤)に寄りつかないことを示しており、本発明の抗菌消臭剤は良好な抗菌性を有していることが確認された。
【0049】
また、本発明の抗菌消臭剤に関し、JIS L 1902(ハロー法)に準拠して上記と同様に抗かび性試験を行った(試験場所:一般財団法人日本繊維製品品質技術センター,西部事業所)。なお、供試菌は白癬菌(Trichophyton mentagrophytes NBRC 32409)であり、試験胞子懸濁液濃度を1.4×10
6個/mLとし、平板培地としてポテト・デキストロース(PDA)寒天培地を用いた。
【0050】
白癬菌を25℃で2週間培養し、試料周囲に発育阻止帯(ハロー)が形成されるか否かを観察したところ、試料周囲には幅が0.8mmの発育阻止帯が形成された。当該結果は、白癬菌が死滅を嫌い、試料(抗菌消臭剤)に寄りつかないことを示しており、本発明の抗菌消臭剤は良好な抗かび性を有していることが確認された。
【0051】
(2)抗菌消臭化学繊維材
それぞれ1μm以下の平均粒径に調整した10種類の無機粒子(シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、トルマリン、ゼオライト、麦飯石、医王石、滑石、蛇紋石)を、略同率の重量混合比で混合し、本発明の抗菌消臭剤を得た。抗菌消臭剤の含有量が1.6重量%となるように、抗菌消臭剤と繊維原料とをビーズミルで混合し、分散剤を用い、粘度調整を行った後に紡糸原液と混合することで、本発明の実施例である抗菌消臭アクリル繊維を得た。また、ポリエステルは抗菌消臭剤16%マスターバッチから1.2重量%となるように希釈し抗菌消臭ポリエステル繊維材を得た。ナイロンは抗菌消臭剤12%マスターバッチから1.2重量%となるように希釈し抗菌消臭ナイロン繊維材を得た。抗菌消臭レーヨン繊維材は抗菌消臭剤を1.4重量%として耐薬性を付与した。
【0052】
得られた抗菌消臭アクリル繊維材を構成するフィラメント糸の外観写真及び断面拡大写真を
図2及び
図3にそれぞれ示す。外観写真においてフィラメント糸に欠陥等は存在せず、断面写真においてフィラメント糸の内部に分散された無機粒子凝集体(矢印で示した明るい色の領域)が確認できる。
【0053】
[評価試験]
得られた各種抗菌消臭化学繊維材につき、一般社団法人繊維評価技術協会のSEKマーク繊維製品認証基準(消臭性試験)に準拠して、アンモニアに対する消臭性を評価した(試験場所:富山県工業技術センター)。なお、評価は抗菌消臭化学繊維材及び抗菌消臭化学繊維材生地について行った。アンモニアの初期濃度を100ppmとし、ガス導入直後及び2時間経過後のアンモニア濃度を測定し、得られた結果を表2に示した。
【0054】
【表2】
【0055】
本発明の抗菌消臭化学繊維材は化学繊維の種類に関係なく、全て良好な消臭特性を有していることが分かる。また、生地にしても良好な消臭特性が維持されている。加えて、抗菌消臭特性を有さない一般的な繊維と混合して生地にした場合であっても、十分な消臭特性が認められる。
【0056】
抗菌消臭ポリエステル繊維材で構成された生地につき、抗菌性を評価した。黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)、肺炎かん菌(Klebsiella pneumoniae NBRC 13277)、大腸菌(Escherichia coli NBRC 3301)について殺菌活性値を測定し、結果を表3に示した。
【0057】
【表3】
【0058】
殺菌活性値は社団法人繊維評価技術協議会で定められている基準(接種直後の標準布の生菌数を18時間培養後の加工布の生菌数で除した値)であり、値が0以上で殺菌活性効果があるとされる。各種菌に対する殺菌活性値は3.0又は3.0以上であり、本発明の抗菌消臭ポリエステル繊維材は全ての菌種に対して明瞭な殺菌活性効果が認められる。
【0059】
繊維材は人体に対して接触刺激物質でないことが求められるため、本発明の抗菌消臭ポリエステル繊維材に関してパッチテストを行った。具体的には、白人25人、ヒスパニック系米国人4人、アジア人2人、アフリカ系米国人19人で構成される計50人の被験者(男性5人,女性45人)の皮膚に20×20mmの抗菌消臭ポリエステル繊維材生地を直接貼付け、48時間経過後の当該皮膚の状態を観察した。
【0060】
試験部位(皮膚)を熟練技術者が観察した結果、被験者全員について接触刺激の陽性反応は観察されず、本発明の抗菌消臭ポリエステル繊維材は皮膚に対して無刺激性物質であることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
1・・・抗菌消臭化学繊維材、
2・・・フィラメント糸、
4・・・無機粒子凝集体。